それは弧を描く新月が浮かぶ夜のこと。
 矢来銀座の一角にあるクラブ「CRETACEOUS」。会員制の洒落た店内の更に奥に、その男の姿はあった。
 一言で言えば、どうにも堅気とは思えない風貌の男だ。皺なく仕立てた白いスーツに身を包み、前髪をオールバックに掻き上げた外見はすわヤクザかマフィアかといった具合だが、しかし荒々しい見た目とは裏腹に纏う雰囲気は市井の民の如く穏やかなものだった。
 穏やかとはいえ射抜くように鋭い双眸からは彼なりのプロフェッショナルさが見て取れる。姿勢や動きに乱れはなく、クラブの雰囲気に呑まれることもない度胸も兼ね備える姿は、幾多の場数を乗り越えてきたことの証左とも言えるだろう。
 つまるところ、この男は一流の仕事人であるということだ。
 しかも担うのは普通の仕事ではない。この世のものではない悪魔を従え狩るデビルサマナー。それが男の生業だった。

「ようこそ、葛葉キョウジ。今日は、あなたにお願いがあるの」
「分かってる。いつものアレだろ、マダム銀子?」

 ニヒルに含み笑いを返す男に相対するのは、マダム銀子と呼ばれた妙齢の女性だ。
 紫地に狐の柄の和服を嫌味なく着こなし、大袈裟に洒落た髪型も不自然に映らない。その名に恥じず、マダムと呼ばれるに相応しい女性である。
 クラブのママである彼女は、しかし単なる経営者では断じてない。彼女は裏の世界に通じ、キョウジがデビルサマナーであることを知る数少ない人間でもあった。

「ええ、そう。いつものアレ。あなたにばかり頼むのは心苦しいけれど、この仕事をこなせるのはあなたしかいないわ。
 探偵じゃなく、デビルサマナーとしてのあなたにお願いするの」
「OK、詳細を聞かせてもらおうか」

 三方を観賞用の巨大な水槽に囲まれた部屋に二人の声が反響する。静かに水が流れる音に混じり、それは不思議な響きを湛えていた。
 キョウジの乞われたマダムは、これよ、と呟き、幾枚かの書類をキョウジへと手渡す。

「事の始まりは一週間前。あるサマナーが行方不明になったの。仕事に行くと言ってそれっきり。
 幸いと言っていいのかは分からないけど、そのサマナーは失踪から三日目に見つかったわ」
「ただし死体で、かい?」

 ご明察。マダムは含みを込めた笑みを返し話を続けた。

「問題はそこからでね。そのサマナー、どうやら悪魔に殺されたようなの。サマナー稼業をやっている以上それ自体は珍しくもないんだけど、でも状況が明らかにおかしいわ。
 そのサマナーが仕事と言って向かった場所には悪魔も異界も存在しなかった。それにそのサマナー、あなたほどじゃないにしろ結構な凄腕だったのよ。それが、今まで悪魔も異界化もなかったような場所で、突然殺されるなんてとても考えられない」
「そこで俺の出番ってわけか」

 ぱしっ、とキョウジは膝を叩き書類をテーブルに放り投げる。内容は既に頭に叩き込んである。ならば早急に事に当たるまでだ。

「あなたに頼みたいのはサマナーが失踪した場所の調査、並びに危険の排除よ。悪魔や異界があったなら早急に解決してちょうだい。
 それと、一応これも渡しておくわね」

 席を立とうとするキョウジに、マダムは制するように声をかける。その手には、青い何かが握られていた。

「これは……鍵か?」
「件のサマナーが握っていたものよ。一応こっちでも調べたけど、詳しいことは分からなかったわ。
 ただ、これが何かの役に立つかもしれないし、あなたに持っていてほしいの」

 それは青い鍵だった。澄んだ海のような色合いのそれは、果たして死体が握っていたなどという物騒な事柄とは無縁に思えるほど綺麗に映る。
 キョウジはそれをしげしげと眺め、しかし次の瞬間には無造作に胸ポケットにしまい、マダムに答えた。

「受け取ったぜマダム。確かに、これが文字通り何かの"鍵"になるかもしれねえしな。
 任せろ、依頼は絶対に完遂するぜ」

 そして颯爽と扉を開き、キョウジはクラブを後にする。
 悪魔に異界に人死に、何とも因果な商売だと自覚するも、しかし自分が選らんだ道故に迷いはない。
 事務所で待機していたレイに依頼内容を説明し、武器一式を揃えるとすぐさまに出立する。
 目指すは東京―――欲望入り乱れる魔都新宿。





   ▼  ▼  ▼






「……なんて恰好つけたはいいけどなぁ」

 そうして、キョウジは現在事務所の机に足を投げて不貞腐れていた。
 窓から見える景色は昨日までと変わらない、いつもの矢来銀座だった。グラサンをかけた巨漢が営む不動産や草臥れた爺が経営する骨董品屋やいかにもな雰囲気を漂わせるホテルが存在する、いつもの商店街。
 その一角、葛葉探偵事務所と銘打たれた寂れた事務所にキョウジはいた。

「いざ新宿に来たと思えば、どっか別の新宿に飛ばされました……ね。
 しかもお誂え向きに俺の事務所まで再現してやがる。おちょくるのもいい加減にしろってんだ」
「まあそう腐るなよマスター。アンタだって一応は覚悟して来たんだろ?」

 このまま不貞寝でも決め込もうかとすら思えるキョウジに答えるのは、相棒のレイではなく若い男の声だった。
 一言で言えば、全身を赤で染めつくした男だ。赤い髪に赤い瞳、纏う服まで赤尽くしと徹底されている。前髪の一房だけが青に染まっていることを除けば、赤こそがこの男を象徴する色であると言えるだろう。
 改造された赤服を着崩すその男は、純日本人のキョウジとは違い西洋人の風貌をしていた。年は若く、まだ20代も前半か。ともすればキョウジよりもずっと年下に見えるこの青年が、その実見た目通りの年齢ではないのだということをキョウジは知っていた。

「分かってる分かってる、だが愚痴くらい言わせてくれよ。確かに俺は依頼を受けてここに来たし、戦闘だって折込済みだけどな。聖杯戦争なんてもんはこれっぽっちも知らなかったんだ。
 ったく、あのサマナーもこれに巻き込まれて死んだってわけか?」
「ま、マスターの境遇には同情するぜ。それにしたって現状は一切変わらねえけどな。で、アンタこれから一体どうするつもりだよ?」

 青年の問いに、キョウジは一転して真面目な表情に変わる。聖杯、それは万能の願望器。自分が巻き込まれた聖杯戦争とは、すなわちその恩寵を授かる者を選別するためのものだ。
 望む望まないに関わらず、鍵を持って新宿に立ち入った時点で彼らは聖杯戦争のシステムに組み込まれる。否応はなく、運命は定まり、逃げることは叶わず、ただ最後の生き残りを目指して殺し合うのみ。

 確かに、あらゆる願いがかなう聖遺物が手に入るというなら試練はあって当然だ。いや、数十人を殺し生き残るだけならば試練としては秤にかけるまでもなく軽いものかもしれない。多くの人間が多大な犠牲を払っても得たいと望むものなのだから、当然と言えば当然である。
 そして当然、キョウジにも叶えたい願いの一つや二つは存在する。それは例えば、もう戻ることのできない「自分」の体だったり。
 植物状態となった自分の体に縋りつく父と母を覚えている。それを後ろから眺め、自分はここにいるのだと告げることも許されない遣り切れなさを覚えている。叶うのならば元の生活に戻りたいと願ったのは一度や二度ではなく、その思いは今も心に燻り続けているけれど。

「どうするもこうするもない。俺は依頼を完遂して矢来に戻る。それだけだ」

 しかし、キョウジの返答は聖杯に真っ向から逆らうものだった。
 即答、そこには何の迷いもない。流石にこの答えは想像していなかったのか、赤い青年は「へえ」と驚きの表情を形作っていた。

「そもそもの話だけどな。訳も分からず連れてこられて、それで他のマスターを殺せば何でも願いが叶いますなんて、どう考えてもおかしいだろ。筋道が通っていない、具体的な原理も分からない。
 そんな甘言に惑わされて破滅した人間を、俺は何人も知っている」

 それは言うなれば悪魔の勧誘だ。
 奴らは言葉巧みに人に付けこみ、甘い言葉で地獄へと誘う。例え契約で雁字搦めに縛ったとしても、隙あらば召喚主を殺そうとしてくるのが悪魔という存在だ。
 だからこそ悪魔を扱うサマナーには何時如何なる時でも冷静に物を考えられる頭が求められるし、一瞬でも油断しない強い精神が重要となる。
 故にこそ、キョウジはすぐにこの儀式を見限った。下手な誘いに乗るほど、自分は愚かではない。

「そういうわけで聖杯なんてもんは糞食らえだ。んなペテン紛いの代物、鉛玉ぶち込むのが相応ってもんだろ」

 半ば投げやりなキョウジの言に、しかし青年は苦笑しながらも好意的な笑みを返す。
 ああ良かった助かった、まるでそんなことでも言いたそうな顔で、青年はキョウジに言葉を返した。

「マスターの言いたいことは分かった。けどまあ、そう言ってくれて助かったぜ。正直俺は勝ち残れるほど強いサーヴァントじゃねえし、優勝目指して頑張ろうとか言われても困るしな」
「……お前、なんか願いとかないのか。サーヴァントなんだろ?」
「生前ならいくらでもあったんだがな、生憎死んでまで叶えるような大層な願いは持ってねえんだ」

 それは例えば借金だとか、生活苦だとか、あとは払っても払っても舞い込んでくる火の粉だったりとか。生前ならばいくらでも変えたいものはあった。
 けれど死んでしまえばそれらは一切関係がない。今更変える必要もないことを願ったところで意味などありはしないのだから。
 そして何より、赤い青年はそんなくだらないことで誰かを殺すような人間では決してないのだ。

「そうか、ならそれを幸運と受け取ることにする。なら目指すは聖杯の調査と異変の根絶だ。協力してもらうぞライダー」
「お互い聖杯なんざいらねえって分かったんだ、協力は惜しまねえつもりだぜマスター。死なない程度に無理せず頑張ろうぜ」

 あくまで目的は依頼の完遂。
 デビルサマナーと異端なる空賊は、傍から見ればそんなつまらないもののために、死地へと身を投じるのだった。






【クラス】
ライダー

【真名】
ヴァーミリオン・CD・ヘイズ@ウィザーズ・ブレイン

【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷C 魔力E 幸運E+ 宝具E

【属性】
中立・善

【クラススキル】
対魔力:E
無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

騎乗:A(E-)
乗り物を乗りこなす騎乗の才能。
機械系の乗り物に対して高い適正を持つが、生物に対する騎乗適正は最低ランク。

【保有スキル】
I-ブレイン:EX
大脳に先天的に保有する生体量子コンピュータ。本来ならば演算により物理法則すら捻じ曲げることが可能であるが、ライダーの場合は記憶領域の大半を演算素子に浸食されたことにより情報制御を一切行使できない。
そのため固有の能力を持たないが代わりに演算能力は通常の魔法士の数千倍にも相当し、ほぼ正確な未来予測すら可能とする。A+++ランクの高速思考・見切り・直感のスキルを内包する。
なおこのランクは超越性を示すものではなく、あくまで通常のI-ブレインの規格を逸脱した存在であることを指している。

異端なる空賊:B
異端にして最後の空賊。ライダーの在り方を象徴するスキル。ライダーはその身ひとつで幾多の地獄を潜り抜けてきた。
同ランクの仕切り直し・破壊工作・戦闘続行を兼ね備える特殊スキル。

貧困率:B
人生においてどれだけ金銭と無縁かと言うスキル。ランクBであるならば、日々の暮らしすら危ういレベル。
依頼の報酬を取り逃すのみならず、莫大な借金を背負う羽目になることも珍しくない。

破砕の領域:A
空気分子の動きを予測し、そこに音を加えることでバタフライ効果により30センチの空気分子による論理回路を形成。それに触れた相手を情報解体する。
有体に言ってしまえば、空気を用いて直径30センチの球形空間内に存在する物質を原子分解するスキル。
指や靴を鳴らすことによりほぼ無制限に連発が可能だが、生体には若干効きが悪い。

【宝具】
『赫色の人喰い鳩(Hunter Pigeon)』
ランク:E 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:300
ライダーが所有する飛行艦艇。150m級高速機動艦。
巡航速度時速17000km、最高速度は時速50000km。主砲の荷電粒子砲の他に両脇に巨大なスピーカーがセットされている。また高度なステルス機能を有しているため非戦闘時には気配遮断を得る。
慣性の法則を無視した動きができ、ミリ単位の制動・急停止・急加速が可能。この宝具の使用時には破砕の領域の効果領域が直径30mにまで広がる。ちなみに内部には高性能AI「ハリー」が搭載されている。
発動にはランクに見合わない膨大な魔力の消費を必要とし、十全に扱うのならば令呪による補助が必須となるだろう。

『虚無の領域(Void sphere)』
ランク:EX 種別:対城宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000
破砕の領域の強化型。形成した論理回路が更に大きな論理回路を形成し、その連鎖で極限まで巨大化した論理回路が周囲を巻き込んで自壊することにより、範囲内におけるあらゆる存在を原子単位まで分解する。破砕の領域が通じない物体でも問答無用。
範囲はライダーが数センチ単位で自由に決定することができ、その効果範囲はハンター・ピジョンの補助を含めると最大で直径10kmにまで及ぶ。ただし範囲が巨大になればなるほど加速度的に魔力消費量は跳ね上がるし、例え数センチ程度の大きさでもハンター・ピジョン以上の莫大な魔力消費を必要とする。
使用後は一定時間貧困率以外のスキルと全ての宝具が使用不可能となる。

【wepon】
拳銃・無銘
電磁射出式の拳銃。

なお右目は義眼であり、中には神経毒や通信素子などが入っている。

【人物背景】
フリーの便利屋「人食い鳩」として活動する世界最後の空賊。世界に三機しかない雲上航行艦の持ち主でもある。
クールでニヒルぶってはいるが、その実熱血漢のお人よし。そのためか貧乏くじを引くことが多く損な役回りばかり負わされている。
元々は軍によって生み出された先天性魔法士であったが、演算素子の肥大化により魔法を使うことができず「失敗作」の烙印を押される。
実験体として他のシティに売り渡されそうになっていたところ、「HunterPigeon」を名乗る空賊に助けられた。
その後空賊たちと家族として一緒に暮らすが、シティの軍に攻撃を受けて全員殺され、彼一人だけが父親役の空賊に逃がされる形で生存。以降はフリーの便利屋として活動することになる。

【サーヴァントとしての願い】
流石に死んでから願うほどの大層なものは持っていない。非道さえしないならば、マスターの好きなようにやらせる。




【マスター】
葛葉キョウジ@真・女神転生デビルサマナー

【マスターとしての願い】
新宿の異変の調査、及びそこに存在する危険の排除。

【weapon】
  • 草薙の剣
日本神話に名高い霊剣。マグネタイトを以て受肉した悪魔すら容易く切り裂く。結構神秘。

  • デザートイーグル
イスラエル・ミリタリー・インダストリーズ社(IMI)とマグナムリサーチ社が生産している自動拳銃。大口径マグナム自動拳銃の中でも知名度の高い代物。
悪魔すら貫く銃だが、銃弾自体は大量生産品であるためサーヴァントには通用しない。

  • GUMP
銃型のハンディ・コンピュータ。これ一つで悪魔召喚・通訳・アナライズ・オートマッピングをこなせる便利な代物。

【能力・技能】
銃や剣を用いた戦闘に長け、探偵としての技能を兼ね備える。

  • 悪魔召喚
霊的技術と科学技術の融合した悪魔使役の機械であるGUMPを用いて悪魔を召喚する。
最大では5体の悪魔を同時に使役可能だが、同時運用数が増えるにつれて魔力の消費は莫大なものとなる。
今回のキョウジは、以下の悪魔を召喚できる。

妖精・ピクシー
妖魔・アガシオン
妖鳥・バー
夜魔・キキーモラ
聖獣・ヤツフサ
妖鬼・ベルセルク
龍王・ヤマタノオロチ
霊鳥・ガルーダ
英雄・カンテイセイクン
鬼神・マリシテン

ピクシーからヤツフサまでは少量の魔力消費で召喚可能。ベルセルク以降は下になるにつれて魔力消費量が格段に増えていく。

【人物背景】
フリーの凄腕デビルサマナー、葛葉キョウジ……の肉体に無理やり憑依させられた無関係の人間。
元々は単なる一般人であったが、悪魔絡みの事件に巻き込まれたことで本物の葛葉キョウジに目を付けられ、魂を移し替えられた。
その後はなし崩し的にデビルサマナー業を営み、一連の事件にけりをつけた後も変わらずデビルサマナーとして活動している。
続編のソウルハッカーズでは当代最強のデビルサマナーと目されているらしきことを示唆されている。
なお葛葉ライドウシリーズには初代葛葉狂死なる人物が登場するが、ぶっちゃけこの作品が発売された当時に葛葉一族の設定なんてなかったので関連性は不明である。

【方針】
障害を排除しつつ聖杯戦争を調査する。特にサーヴァントは召喚主や無辜の住民に被害を加える可能性が高いためできる限り倒しておきたいが、無理はしない方針で。