<魔震>の影響で国防の中枢を担う施設の地位を目黒駐屯地に譲ったとは言え、此処市ヶ谷駐屯地は今でも、国防の多くを担う施設として健在だった。
国家の要人が当たり前のように出入りする施設、しかもその要人の殆どが国家防衛を担当する者達なのだ。建造物の強固さは、一介のビルや家屋とは一線を画する。
最新鋭の耐震技術や耐火技術を取り入れて建設された施設である為に、駐屯地内の建物の殆どは、あの悪魔的な<魔震>の中にあって、外観が殆ど無傷の状態だった。
しかし、被害がなかった訳ではない。建物の中にいた防衛省の官僚達は物に押し潰されたり、階段から転げ落ちたりして、大けがを負ったり、死亡したり、
と言う被害が非常に多かった。無論それは、駐屯地内を見回っていた警備員や、其処にいた自衛隊員達も同様だ。

 <魔震>から既に二十年以上が経過した。駐屯地内の庁舎の被害は他の建物に比べて軽微だった為に、改築と修理は比較的早く済んだ。
無論この時に、当時の建築技術の最先端を行く耐震・耐火構造を徹底された事は言うまでもない。新宿区だけを襲った地震、通称<魔震>。
普通ならば、そんなバカなで一蹴されるような出来事が、実際に起ってしまったのだ。市ヶ谷駐屯地の改築を皮切りに、都内の自衛隊基地の全てが、
同じような処置を自らの所の基地に施した事は、至極当然の判断であった。

 市ヶ谷駐屯地は、<魔震>以前とは比較にならない程堅牢な基地となった。
先述の通り建物自体の強固性は勿論の事、其処を通っているインフラや設備、警備体制等々、<魔震>以前の市ヶ谷駐屯地の欠点と目されていた箇所が、
全て洗い浚い改良され、比喩抜きで、要塞のような防衛力を誇るに至った。……筈なのだ。

 その男は、市ヶ谷駐屯地の正門へと続いている、外堀通りを悠々と歩いていた。
人目を引かずにはいられない男である。<新宿>の都会を歩くには、その男は、天蓋から降り注いで来た隕石の如く、浮き過ぎていた。
道行く人々が、老若男女の区別なく、その男に目線を注ぐ。男の余りの異質性に、思わず目線を向けてしまうのだ。
そして、直に目線を逸らしてしまう。男が無意識の内に放つ、凶獣の如き殺意と覇気に耐えられないと言った風に。
しかし、そんなやりとりには慣れきっていると言った風に、男は威風堂々と、昼の<新宿>を肩で風切って歩いて行く。

 彼は、身体から香る獣臭と野性味を、隠そうともしない男だった。ライオンの鬣のような怒髪をオールバックにした、中年の男性。
だが、身に纏っている安物の黒いカンフー着の下で収縮している、筋肉を見よ。世界中の男がブラボーと称賛せずにはいられない程逞しい肉が、
黒の衣服の下に潜んでいる事が子供にも分かるであろう。皮膚の張り、搭載されている筋肉、背格好。誰が見たって、二十代の脂の乗った若者の身体つきである。

 男が立ち止まった。そして、ある方向に身体を向ける。
防衛省、と言う文字の刻まれた看板が、男の視界に入った。市ヶ谷駐屯地の内部へと続く正門前である。
先程述べたように、国防の中枢を担うと言う大役自体は、目黒駐屯地に譲られている。しかし、此処<新宿>の市ヶ谷駐屯地は、全てを譲ったと言う訳ではない。
当たり前だが、国防を担当する施設は、多ければ多いに越した事はないのだ。実の所目黒と市ヶ谷では、施設の数もインフラの質も、大差がない。
市ヶ谷もまた、目黒と同じで国防を担う最重要施設の一つ、いわばツートップの一つである。つまり今も市ヶ谷駐屯地は<魔震>前の如く、
防衛省の官僚達が日々職務を遂行する、国家にとって欠かす事の出来ない最重要施設として君臨しているのである。

 その施設の方に、男が堂々と歩いて行った。
まずもって、防衛省の敷居を潜るに相応しくない男である事は明らかである。
入口を警備している警備員に呼び止められ、要件を確認される事が――なかった。
制服を身に纏った屈強そうな警備員は、カンフー着の男――範馬勇次郎の姿を見るや、冷や汗を流しながら、彼の事をスルー。
市ヶ谷駐屯地の中に入る事を許してしまった。それが当たり前なのだと言った風に、勇次郎は駐屯地の中を我が物顔で歩いて行く。向かう先は、庁舎C棟。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「また外をうろついていたのですか、勇次郎」

 眼鏡をかけ、マントを羽織った、如何にも、中世の世界から飛び出して来た魔道士然とした、美形の男だった。
顔以外に肌の露出はなく、厚手の布地で拵えられた服装。部屋の中は大して空調も効いていないと言うに、随分と厚着の男である。
そんな男が、部屋に入室して来た勇次郎を見るや、呆れた声音でそんな事を言って来たのだ。

「座して待つのは性に合わねぇ」

 ポケットに手を入れた状態で勇次郎が言った。悠々と、此方に向かって来る勇次郎。
普段の勇次郎は、常在戦場と言う概念が服を着て歩いているような男である。目線は常に一方向に定めさせ、フラフラする事などありえないのだが……。
今回ばかりは、事情が違う。部屋の中にあるもの全てが、勇次郎にとっては初めて目にするガジェットばかりであるからだ。

「手筈は整ったのかい」

 眼鏡の男の前に立ち止まり、勇次郎が問うた。

「この部屋だけに限って言えば、ですが。もっと万全の状態を期したいところですね」

 眼鏡の男――範馬勇次郎に従うキャスターのサーヴァント、『レザード・ヴァレス』は、言って辺りを見回しす。実に満足気な感情が眼鏡の奥で光っている。
およそ、勇次郎には想像もつかないような装置が広い部屋内に所狭しと配置されていた。
巨大な円筒状のガラスの中に、透明で粘度の高い液体に浸らされた成人の男性。ゴウンゴウンと言う音を立てる、工場によく設置されている蒸留装置のような大掛かりな機械。
オカルトの類になど興味も示さない勇次郎には、このキャスターが設置した代物らが何を意味するものなのか、見当もつかない。
一つだけ解る事があるとすれば、この部屋内にある全てのものは、既存の科学機器とは違う理論で構築され、全く違う運用法を行わねば活用すら出来ないと言う事だ。

「さしあたって此処を主だった工房としたいところですね。後は、この建物自体が倒壊しても、此処だけは無傷で済ませられる程強固にするべく、魔術を重ねがける事。
そして、此処と同じ様な工房を、市ヶ谷駐屯地の至る所に設営したい所ですね。そして、この作業と並行して、駐屯地の内部に、不死者を警備役としてバラまきます。これを以て初めて、私の工房作成は終了と言った所でしょうか」

「面倒くせぇ奴だ」

 さぞつまらなそうな調子で零す勇次郎を見て、レザードの眉がピクリと動いた。

「これがキャスターの戦い方の定石……と、貴方にはウンザリする程言ってきましたか」

「定石云々はこれ以上聞きたくはねぇな」

「私の願望成就もかかっておりますのでね。何度でも、口にしますよ。勇次郎、貴方のやっている事は正気の沙汰ではない」

「その話も何回目だ、レザード」

 今にも床に唾吐きかねない程の装いで、勇次郎が言葉を返した。

「お前にキャスターが籠城するにあたってこれ以上とない場所を提供してやったんだぜ。少しぐらい俺のわがままも認めて欲しいもんだがな」

「この市ヶ谷駐屯地を提供して下さった事は、感謝してもしきれませんよ。ただ、それで貴方がサーヴァントと交戦し、死んでしまっては籠城の価値がなくなります」

 霊地ではないものの、レザードが駐屯地と言う極めて優れた拠点を手に入れられた訳は、ひとえに勇次郎による所が大きい。と言うより、彼の手腕が全てだった。

 地上最強の生物、と言う呼称に相応しく、範馬勇次郎と言う男は、人間と言う枠の限界を超越した身体能力及び戦闘能力を持つ。
彼はその力を、戦場と言う場所にぶつけた。銃火器の携帯は勿論、ナイフ一本身に帯びる事すら許さない。
完全な徒手空拳で、彼は傭兵として、世界中の様々な戦場や内紛地を駆け抜けた。このような行為を続ける内に、ついたあだ名が地上最強の生物、或いはオーガだ。
本人はただ欲望を満たす為に行っていた行為だったが、金や名誉、コネと言うものが勝手について来た。
殆どが彼の振るう国家の軍事力に匹敵する暴力を恐れての、歩み寄り、ではあるが、繋がりである事には変わりない。
世界中のVIPや官僚、国家首脳と裏でコネクションを持っている、法の外に君臨する男の一人。それこそが、範馬勇次郎――現代に生きる鬼なのである。

 元居た世界でのそんな立場が、此処<新宿>でも反映されていた。
この世界における範馬勇次郎の立ち位置は、結論から先に言えば元の世界と大して変わらないと言っても良い。
拳一つで戦場を駆け抜けた生きる伝説、全世界の軍人の憧れの的。そして、国家の威信を揺らがしかねない、地上最強の暴力を一個人で有する者。
それがこの世界での勇次郎だ。が故に国家首脳にも融通が利く程のコネを有している。ましてや国防関係ともなれば、当然のように繋がりを持つ。
勇次郎はその繋がりを利用した。防衛省の官僚にアポを取って置き、市ヶ谷駐屯地内部へと入り込むや否や、彼はレザードの霊体化を解き、
この優れたキャスターの卓越した魔術を以て、たちどころに駐屯地内の官僚や警備員、自衛隊員を洗脳。すぐに自分の陣地に昇華させてしまった……こう言う訳である。

 市ヶ谷駐屯地は<新宿>全体を見渡しても、これ以上と無い程、キャスターが陣地作成を行うのに適した場所である。
広さや建物自体の強固さもそうだが、此処を警備する自衛隊員や警備隊員の質も素晴らしい。レザードは魔術に精通したサーヴァント、強化手段はどうとでもなる。
現時点において、範馬勇次郎とキャスター・レザードは、間違いなく<新宿>に馳せ集った聖杯戦争参加者の中で、最も優れた拠点を手に入れた主従である。

 ――であるのに、レザードから憂いの念が消えない訳。それは、マスターである範馬勇次郎と言う男の性情が原因であった。
世辞抜きに、勇次郎と言う男は、強い。恐らくレザードが生み出す不死者達ですら、勇次郎には勝てないかも知れない。
つまりこれは、彼を魔術的な手段で強化させ、道具作成で作製したアイテムの数々を装備させれば、サーヴァントと戦えるだけでなく、
素の近接戦闘能力が極端に貧弱なレザードを護る盾としての役割も期待出来ると言う事を意味する。そう、マスターが強いと言う事は、本来ならば非常に宜しい事だ。

 レザードの卓越した魔術の技量で、勇次郎を強化する。そして勇次郎が強化された状態でサーヴァントと交戦する。
レザードの殴り合いの貧弱さを勇次郎が補い、神秘性を帯びていないと言う理由でサーヴァントを殴れないと言う揺るがない事実をレザードが補う。
一見すれば、これ以上と無いベストパートナーであろう。しかし、この主従には唯一にして最大の欠点があった。両者の聖杯戦争に対する、スタンスである。

 結論から先に言えば、勇次郎は自らのその強さに自信を抱き過ぎていた。
全人類の想念の具現体、過去の、そして未来の英霊・猛将・大悪党の具現にも等しいサーヴァントと戦える程、自分は強いのだと思い込んでいた。
元々勇次郎はそう言う男だ。自分が地球上で最強の生物と信じて疑わず、そして、自分と互角の存在を何よりも求める喧嘩狂い。
聖杯戦争とは端的に言えば英霊どうしの戦い、神話や伝説の再現に等しい戦いなのだ。勇次郎がこれに燃えない訳がない。
そう、勇次郎はレザードに断りもせず、一人で<新宿>をうろつき、サーヴァントを探す事が多いのである。レザードの心配事の全ては、此処に集約される。

 レザードはキャスターとしての戦い方に忠実に従いたいのである。
陣地作成で拠点を作り、其処で道具作成でアイテムを生みだし、不死者達を創造させ、使い魔を利用して他陣営の動向を探る。
着実に駒と道具を生み出して、勝利を盤石にして行きたいのである。慎重派と言う訳ではないのだが、キャスターのクラスで王手を打つのならば、これが確実だとレザードは考えていた。

 これに対し勇次郎は、自らサーヴァントのもとに赴き、彼らを自らの力で下したいのである。
勇次郎は闘争を世界の誰よりも好む男だった。世界に名を轟かせた偉人や猛将、果ては御伽噺の中でしか語られない存在と戦える。
強者との戦闘をSEX以上のコミュニケーション手段とし、末期にはアフガンやベトナムの戦場すらも退屈と称していた勇次郎が、この聖杯戦争に燃えない筈がなかった。
いつだったか、自分の腕力をヘラクレスのようだと褒めた大統領がいた事を勇次郎は思い出す。
此処ではそのヘラクレスが、実在の存在になるかもしれないのだ。イメージトレーニングで、カマキリや恐竜と戦うのとはわけが違う。それが楽しみで楽しみで、子供のように、その時が来るのをワクワクして過ごしているのだ。

 だが、運命の神と言うものは何時だって意地の悪い事をする
勇次郎は全く、聖杯戦争の参加者に出会えない。東京都全域が聖杯戦争の舞台であると言うのならいざ知らず、<新宿>と言う狭い街の中で、遭えないのだ。
彼のフラストレーションはたまる一方だ。上等な料理があると解っていながら、其処まで辿り着けない。果たしてこれ程の苦しさがあろうか。
勇次郎にとっては、ない。ボヤボヤしていたら、どんどんサーヴァントが脱落していき、喰える餌にありつけなくなってしまうのだ。
レザードとしてはそれが一番の展開なのだろうが、勇次郎としては全く違う。二人の考え方は、一見してもすぐにわかる程の、水と油。正反対のものなのだった。

「とっとと作業を終わらせろ阿呆が。待ちくたびれてたまんねぇよ、俺は」

「……お前はそんなに、戦う事が好きか」

 ――底冷えするような、レザードの声音だった。地の底から這い出てくるような、低い声。
一見すれば優男風の顔立ちで、体格も筋量も、特筆するべき所はない。であるのに、何故、彼はこんな、息苦しくなるような威圧感を声に込められるのか。
その声には、殺意だけではない。並々ならぬ執念と、ある女性に対する信仰。これらが綯交ぜになっていると言う事を、勇次郎は果たして、気付けたかどうか。

「この世で一番のコミュニケーションだ」

 威圧感を醸すレザードもレザードなら、それを受け流す勇次郎も勇次郎だ。
彼はキャスターのサーヴァントが放出する冷たい怒気に対して、臆した様子も見せはしない。虚勢ではない。範馬勇次郎には、恐怖と言うネジが初めから嵌められていないのだ。

「俺は聖杯なんて言うものには興味がねぇ」

 出し抜けに、勇次郎がそんな事を口にし始めた。

「願う事なんざありやしねぇよ。俺にとっては、強い奴を喰らう事が願いだ。俺の願いは、聖杯戦争に呼び出された時点で叶ってる。
こんな面白い催し、楽しみで楽しみでしょうがねぇよ。早く、サーヴァントって奴がどんなものなのか知りてぇんだ」

 其処で言葉を切った勇次郎が、鋭い目つきでレザードを睨み始めた。
両者の間の空間が、歪み始める。汗がにじむ程の熱気を孕み、陽炎の如く空間を歪ませる殺意を放出する勇次郎と、ブリザードの様に凍て付いた、重い殺意を放射するレザード。
二人の気魄がぶつかり合い、弾け、工房の中をグルグルと高速で循環して行く。

「テメェは聖杯にかける願いってもんがあるんだろう、レザード」

「譲れない願いが、ね」

「俺は聖杯はテメェにくれてやるし、この事でお前を出しぬくなんて事はしねぇよ。そんな物はテメェの好きにしろ。
だが、市ヶ谷駐屯地を提供して、聖杯すらもタダでやるんだ。俺のサポートをするのが、此処までしてやった俺に対する仁義ってもんじゃねぇのか?」

「それで貴様が滅びれば、私の願いも水泡に帰すだろうが、馬鹿めが」

「そうしねぇようにマスターを支えるのがサーヴァントなんだろう? 優秀なキャスター様なんだ、俺を支えてくれよ」

 勇次郎の口の両端が、吊り上った。口が耳まで、刃で切り裂かれたような笑みであった。
そんな彼の狂笑の相を数秒程、鋭い目つきで睨んでいたレザードだったが、呆れた様な溜息を一つ吐いてから、錆びて軋んだ扉のようにゆっくりと、その唇を開き始めた。

「……出来得る限りの事はして見せますよ。とは言え、私のサポート出来る範囲の事を逸脱は、しないで下さい」

「良い返事だぜ、レザード」

「……少し休息を挟む。何処ぞへ消えろ、勇次郎」

 不機嫌そうにそう告げるレザードに対し、勇次郎は肩を竦め、言われた通り工房から退室。
何処へ向う、と聞きそびれたが、問題はなかった。勇次郎に手渡した、サーヴァントを殴れるようになる程度の神秘を纏わせる小物には、<新宿>内の何処にいて何をしているのか。
リアルタイムで把握できるような魔術的な仕組みを施してある。危機に陥っているとわかったのならば、移送方陣でその位置まで空間転移すれば問題はない。

 全く頭のおかしい男だと、レザードとしては思わざるを得ない。常軌を逸した戦闘狂。我欲を満たす為だけに戦場を駆け抜けたと言う事実。
この世界に愚神オーディンがいようものなら、真っ先にヴァルキュリアに命を下し勇次郎の魂は神の所持物となり、その日の内にエインフェリアになっている事だろう。
無駄に弁も立ち、頭もキレる、そして何よりも性格が気に入らない。レザードにとっては不愉快の権化のような存在だ。
だが、強い。この一点だけは認めざるを得ない。腹ただしい事だが、この一点がある限り、勇次郎を裏切って他のマスターに鞍替え……と言う訳には、中々行かなかった。

 恐らく、あの男に匹敵する強さを誇るマスターは、聖杯戦争の中でもそうそう存在するまい。
不死者にして思い通りに動く傀儡にしようかとも思ったが、この男の強さの源泉は、自らの圧倒的な強さに裏打ちされたエゴイズム(自我)であるとも、レザードは気付いていた。
不死者にすると言う事は、その存在を術者の操り人形にすると言う事と同義。勇次郎の長所を殺してしまう危険性がある。
それは避けたい。この男の腕力はそれだけの利用価値があった。その強みを潰す様な愚作は、犯したくない。

 キャスターと言うのはその時点で不利を背負わせられているに等しいクラスである。
三騎士相手には対魔力のせいで思うように力を揮う事が出来ず、折角築き上げた工房も、相手から侵入して来なければ、意味がないのだ。
待ちには強いが、攻め手には欠ける。それが、キャスターと言うクラスだ。故にこのクラスは他クラス以上に、マスターとの緊密な付き合いと綿密な作戦が不可欠なのだ。
そのマスターがアレでは……レザードの胃も、痛くなろうと言う物だ。

 だが、それでも。レザードは聖杯戦争を諦めない。
彼は勇次郎のように、聖杯戦争に参加した時点で願いが叶ったと言う訳ではない。漸く、スタートラインに立てた、と言う所なのだ。
レザードは、この戦いに生き残り、聖杯戦争に勝利する必要がある。そして、今度こそ我が物とするのだ。
レザードがありとあらゆる知謀をめぐらせても、遂には創造主に等しい権能を手に入れても、振り向かせる事も出来なかった、初恋の相手。
彼が求めてやまない、至上の美を誇る戦乙女、レナス・ヴァルキュリア。自らの浅はかな行動で世界から消えてしまった彼女を、聖杯の奇跡で蘇らせたい。
そうして今度は、自分の手で、彼女の心を自らのものとするのである。それが、レザードの願いなのだから。

「レナス……愛しい人よ……」

 虚空を見上げ、呆然とレザードは呟く。

「……あの愚かなマスターも、貴女を我が物とする為の試練であると言うのであれば……私は、耐える事が出来ますよ……」

 瞳を閉じ、瞼の裏の暗黒に、あのプラチナのように輝く銀色の髪の凛々しい美女の事を思い浮かべるレザード
思い出を頼りに描くレナスの偶像は、彼に何も言葉を掛けてはくれない。ただ、彼女との思い出と、その中で彼女が見せた仕草を彼はなぞるだけ。
あの美しい戦乙女を我が物に出来る可能性があるのならば、レザードは一度は見限った神の奇蹟とやらも、今一度信じてみる気になれるのだった。






【クラス】

キャスター

【真名】

レザード・ヴァレス@ヴァルキリープロファイル

【ステータス】

筋力E 耐久E 敏捷D 魔力A+ 幸運A 宝具A+++

【属性】

混沌・悪

【クラススキル】

陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。“工房”の形成が可能。

道具作成:A+
魔術的な道具を作成する技能。
錬金術、屍霊術を初めとする様々な魔術を極め、物質を構成する原子の配列変換を高いレベルで行えるキャスターは、
時間及び材料さえ揃えば、グールパウダーやエリクサー、ホムンクルス、果ては賢者の石の作成すら可能とする。

【保有スキル】

錬金術:A+
賢者の石の作成を目的とした魔術体系。キャスターは過去に賢者の石の作成に成功している為、ランクは最高クラスである。

屍霊術:A
ネクロマンシー技術。死体や悪霊、幽鬼等のアンデッドや魂、霊魂に関する知識やそれらを扱う技術に長けているかどうか。
キャスターは高いレベルの屍霊術を操り、種々様々な不死者の作成が可能である。

信仰の加護(偽):A
一つの宗教観に殉じた者のみが持つスキル。加護とはいうが、最高存在からの恩恵はない。
自己の精神を強く保証し、自らの信ずる理念において、様々な非人道的かつ残虐な所業を行う事が出来る。
キャスターの信仰の対象とは、彼のいた世界における最高神であるオーディンでもなければ豊穣の女神であるフレイでもなく、
彼らの手足として働く戦乙女ヴァルキュリアであった。但し彼の場合はヴァルキュリアを信仰の対象と言うよりは、愛情の対象としてみていたようだが。

使い魔使役:B
優れた魔術師として使い魔を使役する事が出来る。
キャスターの場合は主に実在する動物を使い魔にする事を好み、元いた世界では鳥や猫を操っていた。

【宝具】

『万象記憶せし知識の魔石(賢者の石)』
ランク:A+++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
錬金術師のみならず、キャスターのいた世界であるならばあらゆる者が求めたと言う究極物質。
見た目はただの石にしか見えないが、その実、世界が創世される以前をも含めた、ありとあらゆる知識の集積体。
魔法にも等しい効能を持つ失伝魔法(ロストミスティック)をも網羅している。
だがこの宝具から知識を抽出する作業は非常に難しく、求めている知識は簡単には引き出す事は出来ない。キャスターに曰く、百億ページもある辞書のようなもの。
解析にさえ成功すれば、人の身でありながら神々しか知らない知識を知る事は元より、魔力量が許せば本来ならば神霊しか扱えない失伝魔法をも行使が出来る。
聖杯戦争に関しては、解読に時間をかければ他の参加者の情報及び、サーヴァントの真名や来歴、所持スキルや宝具と言った情報すらも手中に収められる。
また莫大な魔力を有する魔力炉としての効果も備えており、キャスターが操る魔術の効能を底上げする効果も持つ。
そして最終手段として、賢者の石が内包するその魔力を全て犠牲、つまり宝具を破棄する事で、並行世界からの干渉や五つの魔法、神霊級の奇跡や魔術をも一時的に無効化させる
生前キャスターはその効果を使用する事で、四宝・ドラゴンオーブが放つ、世界を焼け落とす終末の炎・ラグナロクをも無傷で乗り切った。

【weapon】

聖杖ユニコーンズ・ホーン:
ユニコーンの角を原子配列変換する事で作成出来る杖。
魔法(魔術)を遥かに超える規模・威力を誇る『大魔法』の発動を可能とする触媒。
大魔術の発動には膨大な魔力を必要とする為、その魔力に耐え切れず自壊してしまう杖が多いのだが、この杖にはそう言った心配が存在しない。

魔法及び大魔法:
元いた世界の、戦闘用の魔法(魔術)の殆どを極めている。
大抵の魔法は一工程で発動可能だが、大魔法クラスとなると、二小節の詠唱を必要とする。
使用する大魔法にはこだわりがあるらしく、天空から隕石を飛来させ、落下させるメテオスウォームの使用を好む。
どちらも短い詠唱で発動可能だが威力は高く、魔法レベルならBランク以下、大魔法レベルになるとAランク以下の対魔力でも容易くダメージを通す。

【人物背景】

男は優れた魔術師だった。錬金術も、魔術も、ネクロマンスも、何でも出来た。だが、協調性がなかった。そして、頗る残虐な思想の持ち主だった。
師匠から魔術学院を破門された。身を縛る要素がなくなりかえって好都合になった彼は、一人で研究を進めた。
その最中に、美しい戦乙女の姿を見てしまった。惚れた。彼女を自分のものにしようと八方手を尽くした。エルフを殺し、師匠も殺した。
しかし、手に入らなかった。彼女を手に入れる為に、彼は時を超えた。紆余曲折を経て、手に入れる事は一時的ながらできた。
だが惚れた戦乙女の横槍のせいで、指の間から水が零れ落ちるように彼女は離れて行った。逆上した彼は、戦乙女の一人とそのエインフェリア達に襲い掛かった。敗れた。
今わの際に、彼は悟った。神の力であろうとも、命と魂を御す事は出来ないと。そして、神は自分が期待していた程万能ではないと言う事を。

【サーヴァントとしての願い】

レナスを復活させ、今度こそ彼女を自分のものとする




【マスター】

範馬勇次郎@バキシリーズ

【マスターとしての願い】

ない。だが聖杯戦争がもし楽しければ、別の何処かで開催している聖杯戦争に参加したい。

【weapon】

身体:
勇次郎は重火器やナイフなどと言った、一般的な意味での武器を持たない。
しかし勇次郎の肉体は、それらよりも遥かに危険であり、ある者は勇次郎の姿を見て、巨大空母一隻分以上の戦力だと錯覚した程。
m単位の厚さのコンクリート塀や鉄板を破壊する腕力や、銃弾すらも見切れる程の反射神経など、地上最強の生物と揶揄されるに相応しい身体能力を持つ。

【能力・技能】

勇次郎はその圧倒的な身体能力をいかんなく発揮させ、思うがままに暴力を振るう戦法を好む所とする。
打撃の要となる背筋が鬼の顔の様に見える事から、通称「鬼の貌」と呼ばれる天然のヒッティングマッスルを持ち、その筋肉に裏付けされた力で、思い切り殴る、蹴る。
それが勇次郎の戦い方である。ただ、勇次郎自体は世界中のありとあらゆる格闘技及びその技の数々に精通しており、その気になれば一度見ただけで、
その格闘技の体系の中で最高級の技とされるものをトレース、自分のものとして使う事が出来る。
但し勇次郎は格闘技における技術を不純物と断言し、純粋な力こそを至上としている為、その技を使う事は滅多にない。
また解剖学や人体に精通し、数々の戦場を渡り歩いた為か、『相手の身体的な弱点を自動的に発見する』と言うスキルも持つ。
本人すら気付かないような些細な弱点(未発見の虫歯・癌なども)でさえ無意識的に発見出来、 その診断能力はベテランの医師すら上回ると言う。

人の身でありながら、Aランク相当の勇猛や心眼(真)、天性の肉体にカリスマ(偽)、反骨の相、無窮の武錬などに相当するスキルを持ち、
彼自体がサーヴァントとして呼び出される可能性すらある存在。キャスターによる強化なしでも下手なサーヴァントに肉薄するその身体能力は、マスターとしてはまさに破格と言う他ない。

【人物背景】

地上最強の生物、鬼(オーガ)と作中で呼ばれている男。主人公である範馬刃牙の父親であり、また彼の目標でもある存在。
自らの戦闘欲求を満たす為に数々の戦場を拳一つで渡り歩き、そして武勲を上げ続けて来た規格外の生命体。
最近息子の刃牙と史上最大の親子喧嘩/茶番を楽しんだが、それ以降は恐ろしく暇な日常を過ごしていた。

『範馬刃牙』に於いて、刃牙との最後の戦いの後、退屈な日常を送っていた時からの参戦。

【方針】

サーヴァント達と殴り合いたい、本気を出して戦いたい。但し、サーヴァントであるレザードの意向も汲んでやらないとつまらない結果を招いてしまうので、当分は彼の言い分も呑んでやる。