0:


                              「――消えろ、消えろ、短いろうそく。
                                人生は歩き回る影、憐れな役者だ。
                                 出番の時だけ舞台の上で、見栄を切ったり喚いたり。
                                  それが終われば、消えるだけ」
                                            ――『マクベス』

1:


 魔界都市<新宿>。
 この都市がそう呼ばれるようになってから、――あるいは、そう呼ばれなくなってから――、それなりに、長い月日が経った。
 瓦礫は撤去され、如何わしい、――言い換えれば、非現実的な――、存在は姿を消した。
 もはや<新宿>が<新宿>であった名残など、<亀裂>以外には、――少なくとも、表面的には――、消えてしまったと言ってもいい。

 しかしそれでも、<魔震>の残した傷跡は、深く残っている。
 それは新宿区を切り取るように刻まれた<亀裂>にのみならず。
 <魔震>、そして<新宿>に殺された、生命を弔う慰霊碑や墓地が、今の新宿には目立つ。
 これらは復興した新宿区には、けして珍しいものではない。
 幾つも存在するそれらの内の一つ。比較的人通りの少ない地区に置かれた慰霊の墓碑には、ここ最近、ある噂が流れていた。

 曰く、夜にその慰霊碑に近付いてはならない。
 夜の鬼に連れ去られ、慰霊碑の下の地の底で、生贄に捧げられてしまうのだと。

    ◆


 時を同じくして、新宿に流れる噂があった。
 近頃新宿の骨董商や故買屋に流れている、独特の意匠を持った骨董品・美術品。
 あるいは最近若者達の間で流行の、異界の、魔法を以て栄えた帝国の物語。

 それらに触れた者は。夜、夢の中で、無人の都を見るという。
 天に浮かぶ、幻の帝都を。

2:


 復興された新宿区、その繁華街の一角に位置する高級ホテル。
 その最上階、スイートルームの一つに、一人の男がいた。
 茶色のスーツ、そしてそれに近い色のサングラス。
 ともすれば滑稽な印象を与えかねない服装だが、それをある程度自然に見せているのは、男の立ち振る舞いのなせる業か。

「素晴らしい」

 一人掛けのソファに座して、優雅な姿勢で、ワインを口に含みながら。
 男は、一人呟く。

「まったく素晴らしい。このような世界が存在するとは……いや、このような事態に行き会えるとは、と言ったところか」

 窓の外、高層からの夜景を、まるで宝石でも見るかのように眺めながら。
 男は、口元を愉快げに歪ませる。

「私が元いた世界とは文化の水準が違いすぎるな。私の国で一番の都でも、この都市とは比べ物になるまい」

 未曽有の災害である<魔震>から復興した新宿の調査に、――ある意味では、『調査』などという目的に人を送り込めるのが<新宿>の復興の最大の証拠であろうが――、外国から送られてきた政府機関のエージェント。
 それが新宿における、男の身分だった。
 だが、男の言う『私の国』とは、彼を新宿に送り込んだ、――ということになっている――、国のことではない。
 いや、そもそも、この次元に存在する国ですらない。

 そう、男はこの世界の人間ではない。
 "契約者の鍵"によってこの新宿に導かれた、聖杯戦争の参加者の一人だ。

 名を、ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタという。

 かつて彼の世界において、天空から全地上を支配し、その科学力で栄華を極め――しかし墜ちた空中都市、『ラピュタ』の王族の末裔、であった。
 それが何故、異界の新宿で聖杯戦争になど参加しているのか。理由は至極にして単純なことだ。

 数日前。
 家に残された資料を頼りにラピュタ探索を続けていたムスカは、ふとした拍子に、資料の中に埋もれていた"鍵"を見出した。

 瑠璃に似た色のその鍵に魅入られ、手に取ったその瞬間。ムスカは、この異界へと招かれていたのだ。
 聖杯戦争。その知識を手に入れた瞬間、ムスカはこの事件を好機である、と認識した。

「ラピュタのみならず、このように発展した世界を支配するチャンスを手に入れられるとは。つくづく私はツイているな」

 敗北すれば死ぬ。無論それは理解している。
 傲慢な気性を持つムスカであれど、召喚されたサーヴァントが弱小のモノであれば怯むこともあっただろう。
 ……だが。ムスカの元に召喚されたサーヴァントは。まさしく、神の領域に手を届かせた存在だった。


「キャスター」

 言葉と同時に。部屋の隅、照明の届かぬ闇の中に、白いヒトガタが浮かび上がる。

 無論、何もなかった場所に、いきなり人間が現れるなど、有り得ない。
 故にそのヒトガタも、超常の存在、――サーヴァントに、他ならなかった。

 白い男だった。
 肌は白く、長い髪も白く、纏う装束もまた白。
 唯一、瞳のみが赤い。

 白子(アルビノ)の男。
 本来ならば儚さや、あるいは虚弱さを感じさせるその特徴は、しかし。
 このサーヴァントの神秘性を、――あるいは不気味さを――、際立たせるだけの結果に終わっていた。
 こうしているだけでも、ムスカの肌にも、その威圧、そして風格を感じる。

 ……そう。彼のサーヴァントは、これも"王"だった。

「計画に滞りはない。魂喰いも、陣地の構築も、『アルケア』の想念を民衆に植え付ける事も。仔細なく進んでいる」
「結構だ。流石はアルケアの王。君のようなサーヴァントを引けて、私は非常に運が良かった」

 一つの帝国を1000年以上に渡って支配し、そして、人々の想念の中に空を浮く城を作り上げた王。
 それがムスカのサーヴァント、キャスター――『タイタス一世』、だった。

 そしてムスカは、これを天からの配剤だと、そう理解した。
 王。天空に浮かぶ城。これほどまでにラピュタとその王を想起させるサーヴァントがムスカの下に現れたのは、果たして偶然だろうか?

 ――必然だ。これこそが、私が王となるための天啓なのだ!

 彼がそうのぼせ上ったとして、不思議ではなかった。

 使い魔を用いて、キャスターは"陣地"である墓所に毎夜罪の無い人間を何人も引きずりこみ、魂を喰らっている。
 街に流通し、人々の間を流れるキャスターの作った美術品や物語は、人々の想念を糧とし、魔力を啜っている。
 だが、それに何の問題があろう。民衆とは、王に搾取され、王を維持するための存在なのだ。
 ムスカが王となるために、民衆はその礎とならなければならない。

 ……ラピュタ、いや、のみならず、異世界すらも統治する王となった自らを夢想し、ムスカは含み笑いを浮かべる。
 そのムスカの姿を見つめながら、キャスターも、また人知れずの笑みを浮かべていた。

 彼は気が付かない。如何な意気が投合したとしても、――いや、投合したからこそ――、サーヴァントが、ただの道具に終わる筈がないという事を。


    ◆


                              一人目の王様が死んだので

                              二人目の王様は嘆き悲しみ

                              三人目の王様は墓を立て

                              四人目の王様はそれを蹴飛ばす

                              五人目の王様は花を植えたが

                              六人目の王様は何をする?

                                      ――『冠を持つ神の手』






【クラス】キャスター
【真名】タイタス一世(影)@Ruina -廃都の物語-
【パラメーター】
筋力B 耐久C 敏捷C 魔力A+ 幸運B 宝具A+
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
陣地作成:A(EX)
 魔術師としての"工房"の機能を兼ね備える"墓所"を作成可能。
 そして宝具『廃都物語』によって、人々の想念の中に陣地を築く。
道具作成:A
 素材(素材が現世に存在しない場合、それは魔力で賄われる)を消費する事により、武器や防具、あるいは薬品類を作成可能。
 あるいは、宝具『廃都物語』の為に必要な美術品や史書、戯書の類を作成する事もできる。
【保有スキル】
魔術:A
 神々から盗み取った魔術。
 多彩な魔術を得意とする。
カリスマ:A-
 軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。
 大河の女神アークフィアの加護を受け、自らの帝国を千年以上支配した。
 Aランクはおおよそ人間として獲得しうる最高峰の人望といえる。
 ――が、"この"タイタスのカリスマは劣化し、効果が著しく安定しない。
魔物作成:B
 自らの工房を利用して、"夜種"と呼ばれる怪物、そして魔法生物の作成が可能。
 ただし作成と維持には魔力を比例して消費する。
異種殺し:A
 ドワーフ、エルフ、巨人、そして竜。この四つの「古き種族」を殺戮し、地下に封じ自らの帝国の柱とした逸話の具現。
 人間以外の種族(人間との混血は対象外)と対峙した際、対魔力などの魔術に対する加護を無効化する。相手が魔術に対する加護を所持していない場合は、魔術の効果を1ランク上昇させる。
精神耐性:B
 精神攻撃などに対する耐性。数千の時を生きたタイタスは、既に人の持つ精神構造を逸脱している。
 Bランクまでの精神に干渉するスキル・宝具を無効化する。Aランクのものに対しても、抵抗率を上昇させる。
【宝具】
『蘇りの時、来たれり(リザレクション・オーバーロード)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
 キャスターそのもの、――というより、キャスターを構成する要素――、が宝具と化している。

 キャスターは、ただ剣や魔術で打ち滅ぼしたのみでは消滅しない。
 実体としての肉体を破壊されても、霊体として現界を続けることが可能である。(無論マスターを殺害され、魔力の供給を受けられなくなれば、じきに魔力が枯渇し消滅する)
 霊体の状態では現世に対しその言葉を届ける以外の介入はできないが、現世の肉を持つ人間に『憑依する』ことで、現世への干渉が可能となる。
 人間に憑依している間は憑依された人間の意識はほぼキャスターに乗っ取られた状態となり、更にサーヴァントのパラメータでいうと『筋力B、魔力A』までその人間の能力が強化される。(ただし耐久力は憑依された元の人間そのままであり、サーヴァントの一撃を受ければ容易く致命傷となるだろう)
 また、憑依された人間を殺害しても、キャスターが消滅することはない。
 ただし憑依する人間には条件があり、『何らかの特別な血統か才能、あるいは豊富な魔力』を持つ人間でなければそもそも憑りつくことすらできない。

 このキャスターの本体は、その魂を稲妻の術式で構成(プログラム)された巨人である。
 その力は絶大であり、天球を支配する結界すら生み出す。ただし魔力の消費も絶望的に悪く、例え令呪の援護があろうと平常時には真の姿を現す事は不可能。
 『廃都物語』が万全に作用し、アルケアの帝都アーガデウムの幻が天空に現れた時、キャスターは真の姿を現すことが可能となるだろう。
 ただし、この本体の核を破壊された時、真にキャスターは消滅する。

『我が呪わし我が血脈(カース・オブ・タイタス)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:14人
 自らの陣地である"墓所"から、タイタス二世~十五世までの14代に渡るタイタスを召喚する事ができる。
 この"十四代のタイタス"はキャスターに魂を呪縛されており、忠実に従う傀儡として操られる運命にある。
 ただし"狂化"のスキルを持つタイタス二世、"精神汚染"のスキルを持つタイタス十世は、キャスターの命令を受け付けない。
 十四代のタイタスは倒された場合も再召喚が可能だが、魔力消費はその度にひたすら嵩んでいく。

『廃都物語』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:- 最大補足:-
 人々の『アルケア帝国』への想念を利用し、民衆から魔力を搾取する。
 具体的には、キャスターの作った美術品などを所持している人間や、『アルケア帝国』に関連する物語を聞いた人間から、夢を通じて魔力を回収する。
 一人から得られる魔力は一定であり、対象者が多ければ多いほど、キャスターが得られる魔力総量は増加する。
 この宝具によって得られる魔力量が最大限となり、人々の想念と噂がアルケアを作り上げた時、空にはアルケアの帝都・アーガデウムの幻が浮かび上がる。
 この幻は幻でありながら現実世界に干渉するだけの実像を持っており、もう一つのキャスターの陣地となる。

【weapon】
『ルーンの剣』
 ルーンの刻まれた剣。
 剣としては宝具の業物には劣るが、魔法の発動媒体である焦点具としても使用可能。

【人物背景】
『最初のタイタスは王の子として生まれ、羊飼いの長の家に育ち、のちに帝国を築いた。
 彼の下で人は知恵を得て、他の種族より優れた。その治世は百四十四年に及んだ。』


「――失われる今、はじめて知った。」「世界よ、私はお前を愛していた!」

【サーヴァントとしての願い】
 全ての並行世界に、タイタスという存在を刻む。

【基本戦術、方針、運用法】
 多彩かつ強力な魔術、数と質を両方補う事が可能な使い魔、陣地作成と道具作成にも隙がない。
 オーソドックスなタイプのキャスターとしては、絶大な力を持つ。
 だがその反面として、非常に燃費が悪い。十四のタイタスなんて全部召喚してたら間違いなく魔力が即枯渇する。
 そのため宝具『廃都物語』で魔力を回収しながら戦略を進める必要がある。

 肉体が破壊された場合、霊体として他人に憑依しての行動も可能。
 なお、現状での憑依の第一候補はマスターであるムスカである。




【マスター】ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ@天空の城ラピュタ
【マスターとしての願い】世界の王となる。
【weapon】
 38口径のエンフィールド・リボルバー。
 6発装填式で、弾薬もそれなりの量を持ち込んでいる。

 また、立場上、あるいはキャスターの作成した美術品などを売り払った対価として、金貨を相当量所持している。

【能力・技能】
 かつてラピュタを統治していた王家の末裔(ただし分家)であり、飛行石を用いてラピュタを制御することができる。
 無論これ自体は聖杯戦争では役に立たないが、一度神秘に触れた家系である故か、保有している魔力は一般人よりも多い。

 特務部隊に所属している大佐であり、階級に見合って能力は高い。
 代々受け継いできたラピュタについての知識のみならず、旧約聖書やラテン語の教養も持ち、射撃の腕はかなりのもののようだ。

【人物背景】
 政府の特務部隊に属する軍人。階級は大佐。
 その正体はラピュタ王家の末裔。ただし、おそらくは傍流、あるいは分家筋だと思われる。
 一族に受け継がれていたラピュタの古文書の伝承を参考に、ラピュタを追っていた。



時系列順


投下順



Character name Next→
ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ 全ての人の魂の夜想曲
キャスター(タイタス一世{影})