冷静に考えれば、二十一世紀と言うのは凄い時代になったものだと、新宿警察署のベテラン刑事、田山彦一は夢想する。
テクノロジーの発達や、生活水準の向上が、と言う意味ではない。刑事の観点から考える凄い時代と言うのは、物騒さ、と言う意味でだ。

 マスメディアは凶悪な犯罪だけをピックアップして、現代がさもいやな時代なったと言うイメージを大衆に抱かせる様な報道を行い、
人々の不安を煽り立てるが、田山には解っている。年々殺人や放火などの、万人が想像する様な凶悪な犯罪は、低下傾向にある事を。
だが、物騒さと言う種は消えていない。日本はアメリカなどと違い銃火器の所持には非常にうるさい国であるが、その一方で刃物に関してはルーズな面がある。
今日日百円ショップに行けばなまくらの包丁など幾らでも買える時代だ。人を殺せる凶器など、この国には幾らでも転がっている。それが銃か刃物か、という違いでしかない。

 刃物による殺しは、ポピュラーな殺人方法である。刃物が手に入りやすい日本に限った話ではない、海の向こうの諸外国でもそれは同じだ。
聞いた事があるが、銃社会と言うイメージが広く浸透したアメリカにおいてですら、五分に一人は刃物で傷つけられたり殺されたりしているという。
刑事生活二十五年。刃物による殺人は田山も多く見て来たが、ガイシャは圧倒的に刺されて殺されている事の方が多い。
この理由はシンプルで、市販の包丁やナイフで人を斬ると言うのは、とんでもなく難しい行為なのだ。先ずガイシャは死なず、下手をすれば反撃すら喰らってしまう。
次に、これは経験則であるが、人を刃物で刺すと言う行為は、所謂、「ついカッとなってやった」時に行う事が多い。
突発的な感情の爆発が起こり、そして、偶然近くに刃物があった時。人は、斬るよりも刺す行為を選択する。
そして何よりも重大な事は、人は本能的に、刃物は斬る事よりも刺した方が致死率が高くなる事を理解しているのだ。
だから、刃物沙汰の事件と言うのは、斬るよりも突いて行う事の方が多い。経験則から言って、そう言う物だと田山は認識していた。

 ――……だけどよぉ――

 この事件は、異常だ。その事を、長年培われ、磨き上げられて来た刑事のカンが告げている。

 ガヤガヤと野次馬が煩い、<新宿>は荒木町荒木公園だった。
黄色地に黒い文字でKEEP OUTと言う立ち入り禁止のテープを張り巡らせ、彼らの侵入を、新宿警察の一員達は防いでいた。
逸った無鉄砲者が中に入り込んだとしても、直にその意気軒昂とした気分はぶち壊され、その場で嘔吐してしまうだろう程の惨状が、その中で広がっていた。

 ――嘗てこの国で、井の頭公園バラバラ殺人事件と言う日本の近現代の犯罪史でも稀なる猟奇殺人が起った事がある。
バラバラ殺人と言う名前の通り、被害者は斬られて殺されたのが当然の事。刃物で刺すのではなく斬って使う事で相手を殺した殺人事件も、少なくない事は田山も知っている。
この事件では、遺体は二十七個の断片にされた状態で、半透明のビニール袋に詰め込まれ、池の周囲に設置されたゴミ箱に小分けにされて捨てられていた。
殺人事件と言うものは、推理小説の様には行かない。犯行手順がシンプルであればある程警察も犯人を突き止めやすいが、逆に変に複雑であればある程でも、
犯人の特定は容易である。そのバラバラ事件の特異な所は、バラバラにされた全てのパーツが、ほぼ二十数cmの長さで綺麗に切断され、それだけでなく、
太さまでもが肉を削ぎ、筋肉を削るなどして揃えられていたのである。また遺体は実に丁寧に洗われ、血管から絞りだすようにして血抜きされていた。
これだけ面倒な手順を踏めば、当然犯行の特定も容易い――と思われがちだが、現実は違った。この事件は結局誰の犯行なのか、と言う決定的な証拠を見つける事無く。
悔しい事だが、警視庁の未解決事件の目録に加え入れられてしまった。時効は、二千九年の四月。最早犯人に罪を追及する事は出来ない。

 その事件と荒木町の公園に広がるこの惨事は、よく似ていると田山は考えた。
田山は、最早この国の警察ではほぼ伝説になったと言っても過言ではない、井の頭の公園のあの事件は担当した事がない。
した事がないが、似ていると思ったのだ。これも、刑事のカンである。

「どう思う、遠野」

 田山は隣に佇んでいる相棒の刑事に思う所を問うてみた。
刑事歴は七年程。ようやく刑事としてマシになって来たが、彼からすればまだまだ半人前。
カンは鋭い所があるので、此処を磨き、経験を積めば、良い刑事(デカ)になるだろうと見抜いていた。

「どう思うも何も……これは、異常としか……」

「……俺も、それ以外の言葉が見当たらん」

 言って二人は、目線の先数mの地面の上に転がっている物を見て、言葉を漏らす。
刑事経験を積んで来た二人ですら、正直な話、直視するのも嫌なものだった。

 それは、率直に言えばバラバラにされた死体であった。
先程引き合いに出した井の頭のバラバラ殺人は、胴体と頭が見つかっていない状態なのだが、荒木公園に転がっている死体は、全パーツ揃っている。
問題は、そのバラバラ振りであった。荒木公園のこの死体は、鑑識によれば二百五十七に分割されていると言うのだ。
そんなバカな、と思われるが二人の視界に広がっている、肉塊の堆積を見れば、鑑識の言っている事が嘘ではない事が解る。
だがもっと異常なのが、その切断面である。見るが良い、その滑らかさを。鮮やかさを!! 
剣豪が名刀で斬ったとしか思えない程、見事な斬り口だった。遠目から見ても、その見事さが窺える程だ。
適当な肉塊と肉塊の切断面を触れ合せればくっ付いてしまう程、平らな面。筋繊維の一本一本、神経系や骨の粗密すら確認出来る程、美しい面。
ジャック・ザ・リッパーも、このような切断面を求めて、娼婦を切り裂いたのではと夢想せずにはいられなかった。

 この場にいる刑事や鑑識の誰もが、この死体を見て性別を一目で判別が出来なかった。
大体身体の一部分を見れば、彼らは性別と言うものが何となく解る。だが、今回は余りにもパーツが細かく分けられている為、一目では解らないのだ。
殺された人物が果たして誰なのか。DNA鑑定の結果が、待たれる所だ。

「俺から言える事は、犯人は、この公園で人知れず、ホトケを切り刻んだって事だな」

「こ、此処でですか!? だって……」

 遠野の言いたい事は解っている。そもそも人間を殺した後でバラバラにすると言う事は、とんでもない程の大作業である。
先ず以て、人間の身体をバラバラにすると言う事自体が難しいと言うのに、これに加えて大量の血が出る為、これを洗い流すのに大量の水が必要となる。
どちらも、一般家屋ではまず行えない事だ。それを、家屋よりも更に条件の悪い、しかも何時誰が見てるかすら解らない公園のど真ん中でやるのだ。遠野がありえないような表情を浮かべるのも、無理からぬ事だった。

「俺だって信じたくねぇよ。見ろよ、あの大量の血液を吸った地面をよ」

 遠野も気付いたらしい。死体が転がっている砂地の地面、其処に吸われた大量の血液を。
その死体の周囲数mはどす黒い赤色で染まっており、その部分だけ色水を染み込ませたような雰囲気になっている。
恐らくは、体中の全ての血液が溢れ出ているのだろう。此処で全ての血を流し尽した……と言う事は、だ。
『別所で被害者を寸断し、この公園に遺棄した』、と言う線は完全に消滅した事を意味する。何故なら別所で人をバラバラにしたのならば、其処で血液が流れるのだから、この公園に人体の血液の総量が流れ出る事は、ありえないのだ。

「ですが、この公園で此処まで人をバラすなんて……」

「解ってる。それ自体が、ありえない事なんだ」

 結局、問題の根本は解決していない。
どのようにして、犯人は一人の人間を、公園で此処までバラバラに出来たのか? 目撃者の情報を募っているが、誰も異常を感知していなかったと言う。
そしてそもそも、どうやってあんな斬り口を再現出来たのか? 今の司法解剖の技術は凄まじい。どんな銃で撃ち殺されたのか、どんな刃物で斬られ刺されたのか?
その程度の情報など、簡単に識別出来る。今では田山も、ある程度までならどんな凶器で殺されたのか、判別出来る。
だが今回のそれは、明らかに包丁でもなければ刀剣類の類でもなく、況してや電機や油圧の力で動く業務用カッターの類でもない。
もっと別種の……いやそもそも、『刃物』ですらないのかも知れない。ありえない話なのだが……どうにも自らの刑事のカンを否定出来ない。

「――悪魔が殺ったのかも知れねぇな……」

 らしくない事を呟き、田山は死体の周りを再びうろつき回り始めた。
犯行現場を舐めるように観察し、事件を推理すると言う方式を見つけ、それを続ける事、二十年。
この公園に着いてから三時間以上観察を続けているが、異常性の欠片もないのであった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「ベリアル、と言う堕天使の事をご存知?」

 怜悧と言う言葉がこれ以上と無いほどに似つかわしい、女性の声だった。
性欲だけを募らせた童貞男が聞けば、自分が理想とする所の美女を連想してしまうような、美しい声であった、が。
その声には今、限りない侮蔑の色が込められていた。マゾの気質のある男は、それだけで射精すらしてしまいかねない程だ。

「神秘学はどうも教わっていなくてね」

 女性の声に対してそう返事をしたのは、二十を過ぎて数年と言った年の頃の男の声だった。
そう、その声は、ただの人の声である、筈なのだ。なのに、何だ。この天上の楽師が爪弾いた琴を思わせるような、美しい声は。
性別の垣根を超え、人の心を蕩かすような、艶やかな声は。例え同性であろうとも、この声を聞けば皆こう思うだろう。先程の女性の声よりも、この男の声は美しい、何時までも聞いていたい、と。

「ソロモン王が使役したとされる七十二の魔神の一人よ。その容姿は天使達の住まう天界にあって最も美しく、その不埒な性格の強さたるや世界全土を見渡しても比類がなかったそうよ」

「ふむ、面白い存在だね。で、僕に対してそう切り出した訳はなんだい?」

「皮肉を理解する程の教養もないのかしら。貴方がまさにそうだって言っているのよ」

 軽蔑を隠しもせず、女性が言った。
青一色のスーツを着用した、プラチナブロンドの大人びた女性である。
声は、体をよく表していた。清楚さの中に知性と艶美さを内包した、非常に美麗な顔立ちをしており、身体つきの方も、その顔の良さによくあっている。
出るところは出、くびれる所はくびれて。美の神が、女性美と言うものの基準を全人類の中から一人定めなければならない局面に当たった場合、先ず間違いなく選ばれるのは、彼女だったろう。

 ――だが男性の方は、その女性の美など鼻で笑ってしまう程の『美』の持ち主であった。
女性が人類の美の基準点とするのならば、その男は宛ら、天上楽土の世界の美の基準と言うべきなのだろう。
その男には女性美も男性美も関係ない。およそ万物全ての『美』の規矩と言われても、誰もが納得する所であろう。

 彼は、黒いインバネスコートを着用していた。コートの中のシャツからスラックス、靴や手袋に至るまで、全てが黒。黒一色である。
黒とは、目立つ色であると言うのは服飾の世界での常識である。そして、黒は、身に着けた人物の姿形を兎に角引き立たせる。良い意味でも、悪い意味でも。
黒は服飾の業界ではポピュラーな色であり、そして、着こなしがとても難しい色なのだ。それをこの男は、我が身の一部とでも言わんばかりなまでに、着こなしている。
この色はきっと、神がこの男の為だけに態々造り出した色なのだと言われても納得が行く程、黒と彼とは合致していた。

「つい先程の事を言っているのかい? 僕はただ、敵を排除しただけなんだが。キミのサーヴァントとして、ね」

「嬲り殺した事については、どう弁解するつもりなのかしら?」

 非難がましい――事実非難している――目つきで、『アサシン』のサーヴァントとして呼び出されたインバネスの男を睨みつけ。
彼のマスターである、『マーガレット』は問い質しに来た。彼女は、アサシンの顔を睨みつけている。信じ難い話である。
大人の男ですら、余りの美しさに頬に朱がさす程の美貌の持ち主であるアサシンを、異性の彼女が真っ向から見据えているのだ。
女性であれば魂すらも煮溶かしてしまう程の美に対して、真っ向から食って掛かる、マーガレットの胆力の凄まじさよ。「ほう」、とアサシンが嘆息を漏らしたのは、そんなマーガレットの肝っ玉を、賞賛したからなのか。

「敗者は勝者に蹂躙される。……それの何処がおかしいのかな?」

 ニコリ、とアサシンはマーガレットに微笑みかけながらそう言った。
まともな神経の持ち主であれば、心臓麻痺すら起こしかねない程の、圧倒的な美の奔流がマーガレットを襲う。
クッ、と彼女が目を伏せる。アサシンの言っている事が一理あると言う事もそうだったが、その美に、彼女の精神が耐え切れなかったからだ。

 事の発端は荒木町のとある公園での事に遡る。つい十分程前の話だ。
何て事はない。<魔震>に見舞われた<新宿>の散策をしている途中に、敵のサーヴァントに出会ったのだ。
逃走の姿勢を、マーガレットは見せようとしていた。セオリー通りであればアサシンは、気配遮断で姿を隠し、マスターを暗殺するクラス。
つまり、直接戦闘には向かないのだ。姿を眩ませ、逃げ出そうとした時である。このアサシンは、自分に任せて欲しいと言って、敵のバーサーカーの前へと堂々と進んで行った。

――誰が信じられようか、と言う現象が、二つ起った。
先ず一つ。敵の主従が共に、星の放つ幽玄な光だけを集めて形作らせたようなアサシンの美貌に怯んだのだ。
敵のマスター――しかも女性――が怯むのは、理解出来る。だが、理性を奪われ戦闘力を極限まで高められたバーサーカーが。
美醜など理解出来る筈もないバーサーカーが、美に驚いたのだ。次に驚くべき現象が起ったのはその直後。
バーサーカーが茫然となってから、ゼロカンマ一秒経ったか否か、と言う短い時間だったであろうか。
バーサーカーの身体が、何百もの肉片となり細切れにされたのである。しかも、身に纏っていた鎧や、宝具と思しき武器ごと、だ!!
霊核すらバラバラにされたであろうバーサーカーが、その時点で即死したであろう事はマーガレットも想像が出来る。
残るはマスターの処遇である。契約者の鍵を破壊し、令呪の発現されている部位を切断するだけで済まし、命だけは助けようかとマーガレットが考えていた時だった。
未だアサシンの美貌に恍惚としていた相手マスターの衣服が、千々に吹っ飛んだのである。
夜気に晒される、張りのある二十代半ばの女性の裸体。桜色の乳首も、縮れた毛の密集した股間部も、全てが露になる。
生まれたままの姿を晒されているにも拘らず、相手のマスターは恥じらう事すらしない。いや、忘れていたと言うべきか。アサシンの美は、羞恥の心をも忘却の彼方に吹き飛ばす。

 そして其処から起ったのは、月と星とマーガレットだけしか観客のいない、アサシンによる残虐な公開処刑であった。
敵のマスターの乳首が斬り落とされる。漸く其処で痛みに気付いたのか、彼女もハッとした表情を浮かべるが、アサシンが微笑みかけるのを見ると、
凍り付いた様に動かなくなる。次に斬り落とされたのは、クリトリスであった。痛みを感じる前に、今度は両方の乳房が斬り落とされる。
其処から先は、瞬く間の出来事だった。臀部の肉を斬り落とされ、耳も、鼻も、唇も、足も、膝も、肘も、肩も、胴体も。
流れるように彼女の身体から別れて行き、地面へと落下して行く。数秒経つ頃には、敵のマスターは二百を超す分断された肉の堆積になっていた。
最後まで、何か言葉を発する事も出来なかった。圧倒的な美とは、モルヒネ以上の麻酔効果を人に与えるものなのか、と。思わずにはいられなかった。

 ――終わったよ、マスター――

 全てが終わった後で、にこやかな笑みを浮かべ、アサシンはマーガレットの方に向き直った。
そうして、現在に至る。あの後すぐに荒木町の公園から場所を移し、とあるビルの屋上にまで二人は移動した。目撃者の目から逃れる為である。

 マーガレットは、このアサシンの行った事に対して、心底反吐が出る思いであった。
命令無視であろうとも、一思いに殺すのであれば、戦いの常として、仕方がないと割り切る事も出来よう。
だが、このアサシンが行った事は、自らの嗜虐心を満たす為だけに行った嬲り殺しだ。
こんな物、如何に暗殺者のクラスで召喚された男とはいえ、英霊と呼ばれる程の者がやって良い行為の筈がない。自らの美を用い、嬉々として女性を嬲り殺しにするこのベリアルのような男に、マーガレットは心の底からの嫌悪を隠していなかった。

 月と、都会特有の疎らな星々が、二人を見下ろしている――いや、違うか。
月と星とが見ているのは、アサシンだけである。マーガレットにはきっと、目もくれまい。
遥か何百光年先で輝く天体すらも魅了するその男は、あるかなしかの微笑みを浮かべ、マーガレットの事を注視している。
自分ですらも、あの魔技で切り刻むのではないかと、思わずにはいられない彼女。何を思ったか、アサシンは突如口を開き、言葉を紡ぎ始めた。

「嘗てね、この街には、世界の全てがあった」

 マーガレットから目線を外し、アサシンはフェンスの方へと向かって行く。
網目状のフェンス越しには、深夜一時の、夜の帳の降りた<新宿>の風景が広がっていた

「暴力があった、富があった、魔法使いがいた、吸血鬼がいた、殺し屋がいた、化物や魔物もいた、そして。自由が、あった」

 フェンスに手をかけ、アサシンは言葉を続ける。アサシンが手を触れた物は、例え少し錆びついたフェンスですらが、魅力的なものに見えてならない。
本物の美を持つものは、触れた物にすら、その美の一かけらを付与する事が出来るのだ。

「全ての命に価値がない街だった。例えヤクザや魔法使いだってある時は殺され、年端のいかない子供だって、ある時は殺人鬼に変貌する。
性風俗も乱れていたな。自分の身体を熊にする薬なんてのが流通していてね、熊に変身した男が、その獣のペニスで女を犯す事だってあったさ。まさにソドムだ。
拳銃や裏ルートから流れ込んで来た各国の軍隊の装備が流通してるから、暴力沙汰なんて当たり前。治安維持の為の法律なんて実質あってなきが如く。
だがそれ故に、平等だった街。どんな障害を身体に持っていようが、どんなに醜かろうが、どんな経歴を持っていようが、生きる自由が誰にもあった街。
それが、“魔界都市<新宿>”なんだ。僕が支配するに相応しい街だったんだ」

 ――「なのに、何だこの街は?」

「<新宿>が<新宿>たる所以が、全て失われているじゃないか。暴力も富も、魔法使いも吸血鬼も殺し屋も、妖物も全ていない。
僕が<新宿>を支配しようと思い立った全てが、此処にはない。あるのはただ、魔界都市になり損ねたスティグマの、<亀裂>があるだけ」

「……何が言いたいのかしら、アサシン」

 腕を組みながら、マーガレットが聞いた。言われてアサシンが、夜空に輝く黄金の月を見上げだす。
アサシンの目線を真に受ける月。今にも月と星とが恥じらいで、黄色からルビーのような紅色に変わり出しても、おかしくはない。

「折角聖杯戦争とやらにサーヴァントと言う身分に呼び出されて見れば、こんな<新宿>だ。不愉快以外の何物でもない。だからこそ、だ」

 マーガレットの方に身体を向け、アサシンは更に口を開く。心なしか、星月の光が寂しそうに褪せたような気がした。  

「僕がこの街を魔界都市に変えて見せよう。この世の悪徳の坩堝。生まれも育ちも関係なく人が死ぬ街。それ故に誰もが平等だった街に」

 アサシンがそう告げた瞬間、マーガレットが左手の甲をアサシンへと見せつけるように構えた!!
細い糸のような曲線と直線が、人間の頭を模した球体に巻き付いているトライバル・タトゥーが彼女の手の甲に刻まれていた。それは、令呪だ!!

「僕に自害を命令するのかい、マスター?」

「……貴方は、呼び出されてはならない存在だと言う事を骨の髄まで思い知らされたわ」

 世界が羨む美貌の中に、途方もない邪悪を宿した男。これを、ベリアルと呼ばずして、何と呼ぶ。

「だから、僕を殺すのかい。まあそれも良いかも知れないね。マスターの願いは叶う事はないだろうが」

「私が聖杯を欲する様な存在だとでも?」

「君の願いは、聖杯を手にする、と言う所にないのではないのかい?」

 マーガレットの瞳が、一瞬大きく見開かれた。その様子を、アサシンは面白そうに眺める。

「心配しないでくれ。ただちに魔界都市にこの街を変貌させる気はない。いや、事と次第によっては魔界都市にしないかも知れないな。マスターと僕は相容れない存在なのかも知れないが、当面の目的は合致してる」

 スッ、と。アルカイックスマイルを突如アサシンは消し、真顔になり始めた。
心根の弱い者は、それだけで脊髄が凍結しかねない程の凄味に、その顔つきは溢れていた。
本物の美は、人を恍惚とさせるだけではないし、茫然とさせるだけでもない。完成された美には、人は恐怖と死をも連想する。

「僕は魔界都市を侮辱したこの聖杯戦争の主催者を葬りたいんだ。僕が命を懸けてまで手に入れると値した街を此処まで貶められる才能を、僕は称賛したい。
そして、賞賛しながら、我が妖糸の技で斬り刻む。……君も、同じ事を考えているのだろう、マスター?」

「……」

 答えない。

「心配しないで良い。君はとても優秀なマスターだ。今の所僕も君を裏切るつもりはないし、僕も志半ばで死ぬつもりもない」

 インバネスを気障ったらしくはためかせながら、再びアサシンはマーガレットに背を向ける。
最早彼は月に興味を示していない。闇に眠る荒木町の商店街を、無感動に見つめるだけだ。

「――僕の幼馴染がいるだろうからね」

「……幼馴染?」

 マーガレットが疑問気にそう口にするが、今度はアサシンの方が返事をしない。
瞑目しながら、彼は思いを馳せていた。生前の魔界都市での出来事。其処で起った、壮絶な戦いの一部始終を。

 その男は、アサシンが生まれる一時間前にこの世に生まれた男だった。
その美貌は、アサシンが誇るそれに匹敵、いや、それを上回るかも知れぬ程。彼と同じで、黒の良く似合う男だった。背格好も良く似ている。
そして、何の悪戯か――彼も、アサシンと同じ『技』を使った。目に見えぬ、細さ1/1000ミクロンの特殊チタン製の糸を操る妖糸の技。
宿命も何も知らなかった子供の頃は、親子間の軋轢など誰が知るかと言わんばかりに、仲よく遊んだ事もある。しかし、逃れられないからこそ宿命なのだ。
それから十五年後、再び出会った時には互いは敵だった。自らの父である男が追い求めた、魔界都市を手中に収められる『封印』を、アサシンと、彼の幼馴染も求めようとした。

 そして、今まさに『封印』が手に入ろうと言う局面で、嘗ての友とアサシンは戦った。
繰り出される、目で見る事も存在を感知する事も出来ない程細い糸の応酬。大地が割れ、建物が斬り刻まれ。
指一本を少し動かすだけで。百千の細い殺意が相手に殺到する、魔人の戦い。そしてその戦いに、アサシンは敗れた。
首を斬り落とされた感覚は、今でも思い出せる。思いの外痛くもないし、死ぬと言う事は呆気のないものだとも、今際の際に思い知らされた。

 魔界都市、ひいては、世界の王になり損ねた男は、『魔界都市になり損ねた』、<新宿>のデッドコピーの街に今君臨している。
根拠もなければ理屈もない妄想に聞こえるかも知れないが、アサシンは確信していた。あの戦いに敗れた自分がこの街にいると言う事は。
――魔界都市の象徴の一つである、あの白亜の大病院と同じ名前の建物が信濃町にあると言う事は。結論、アサシンの幼馴染であり、友人、そして宿敵もこの街にいるのだ。
出来損ないの魔界都市は、微かに残った魔都の力を振り絞り、魔界医師と、自分。そして、あのせんべい屋の男をこの街に引き寄せたのだ。

 首もとで左の人差し指をクイクイと動かすアサシン。フッ、と笑みをこぼし、彼は口を開いた。

「首に糸は巻き付いていない」

 安心したと言った風に、アサシンが言った。

「今回は僕が勝たせて貰うとしようか。――せつら」

 世界の王になり損ねた男は、静かにそう呟いた。
彼の名は、『浪蘭幻十』。一時は<新宿>をその手に収めかけた魔王。目的の為ならば手段を選ばない外道。秋せつらと同じ技をこの世でただ一人操れる、双魔の片割れ。






【クラス】

アサシン

【真名】

浪蘭幻十@魔界都市ブルース 魔王伝

【ステータス】

筋力C+ 耐久C 敏捷B++ 魔力B 幸運D 宝具A

【属性】

混沌・悪

【クラススキル】

気配遮断:B++
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。完全に気配を絶てば探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
アサシンの場合は使う武器の都合上、Bランク以上の直感や感知に類するスキルがない限り、気配遮断のランクは落ちない。

【保有スキル】

妖糸:A++
細さ1/1000ミクロン、人間の目には映らない程細い特殊加工チタンの糸を操る技量。
ランクA++は歴史を紐解いたとしても、数人も発見できるか否かと言う程の腕前の持ち主。

美貌:A+++
美しさ。アサシンの美貌は神秘に根差したそれでなく、持って生まれた天然の美貌である。それ故に精神力を保証するスキルでしか防御出来ない。
性別問わず、Aランク以下の精神耐性の持ち主は、顔を直視するだけで茫然としたり、怯んでしまったりする。常時発動している天然の精神攻撃とほぼ同義。
ランク以上の精神耐性の持ち主でも、確率如何では、その限りではない。またあまりにも美しい為に、如何なる変身能力や摸倣能力を以ってしても、
その美しさが再現出来ない為、アサシンに変身したり摸倣する事は不可能。人間に近い精神構造を持つ存在になら等しく作用する。

悪逆の性根:A
後述する宝具によって長年培われた、魔界都市の住民に相応しい精神性と物事に対する考え方。
目的の達成の為なら一切躊躇をせず、女子供であろうと容赦もしない人間性。同ランクの精神耐性と信仰の加護の複合スキル。

【宝具】

『教育機関(浪蘭棺)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
生前、やむにやまれぬ事情により、幼少の頃から十五年間もの間、起きずにずっと睡眠を強要され続けたアサシン。
その睡眠中のアサシンに『教育』を行って来た棺が、宝具となったもの。棺の表面には、黄金の山羊の頭の紋章(クレスト)と、
その角に、顎髭の下で結ばれたマンドラゴラの蔓が纏わっていると言う意匠が凝らされている。棺の内部には霊的作用を豊富に含んだ土が敷き詰められ、更にその中にはアサシンの父である浪蘭廟璃の切断された首が入っている。

 所謂睡眠学習の要領でアサシンに諸々の知識を授ける宝具であり、生前はこの宝具を以て魔界都市<新宿>の様々な知識及び一般的な座学などを頭に叩き込んでいた。
だが、此度の聖杯戦争に際しては、開催場所が魔界都市<新宿>ではない為、土地柄の情報は一切期待は出来ない。
この宝具が持つ真の効果はそれではなく、修行の必要なく、眠りながらにして『アサシンの妖糸スキルの数値を際限なく上昇させて行く』と言う事。
宝具の中に安置された父・浪蘭廟璃の首による『教育』による、戦闘技能の向上こそがこの宝具の真価。
破壊しようにも棺の表面に塗られた特殊な体液により、異様なまでの頑丈さを発揮しており、Aランク以上の宝具の直撃でやっと破壊出来るかと言う程。
アサシンにとっては掛け替えのない『我が家』であり、唯一の安息の場所でもある宝具。

【weapon】

妖糸:
アサシンが操る、細さ1/1000ミクロン、つまり1ナノmと言う驚異的な細さを誇る、人間の目には絶対捉えられない糸。
材質はチタンであるが、魔界都市の特殊な技術で作られており、非常に強固。その強固さたるや、銃弾や戦車砲の直撃で千切れないばかりか、
摂氏数十万度のレーザーですら焼き切る事が敵わない程。これだけの強度を持ちながら、風にしなったり、たわんだりする程の柔軟性を持つ。
アサシンはこれをもって、主に以下のような技を操る事が出来る。

切断:妖糸を操り、相手を切断する。妖糸のスキルランク以下の防御スキルや宝具を無効化する。
糸砦:妖糸を張り巡らせ、不可視のトラップの結界を構成させる。無造作にそのトラップに突っ込もうものなら、体中をバラバラにされる。
糸鎧:妖糸を身体に纏わせ、不可視の防御壁を構成する。妖糸のスキルランクより低い筋力や宝具の攻撃を無効化する。他人にも可能。
糸の監視:妖糸を広範囲に張り巡らせ、其処を通った存在を察知する。妖糸スキルランクと同等の気配察知に等しい効果を発揮する。
人形遣い:妖糸を相手の体内に潜り込ませ、相手の意思はそのままに、アサシンの自由に身体を動かせる技。サーヴァントレベルなら抵抗可能。また、死人も動かせる。
糸縛り:糸を相手の身体に巻き付かせ、捕縛する。無理に抵抗すると身体が斬れる。
糸探り:不可視の糸を伸ばし、糸の手応えで空間の歪み、空気成分、間取り、家具調度の位置から、男女の性別、姿形、感情まで把握する。

妖糸は指先に乗る程度の大きさの糸球で、2万km、つまり地球を一周しておつりがくる程の長さを賄う事が出来、
アサシンはこの大きさの糸球をコートのポケットや裏地など様々な所に隠している。アサシンから妖糸を取り上げる事は、ほぼ不可能。

【人物背景】

嘗て“魔界都市<新宿>”で生を授かったとされる男。この世のものとは思えない人外の美と、卓越した妖糸の技の持ち主。
自分よりも一時間先に生まれたせつらとは子供の頃は友達同士だったが、ある時已むに已まれぬ事情により、父である浪蘭廟璃の首が納められた棺の中で、
十五年の時を過ごす事になる。そして復活した浪蘭幻十は、父が追い求めた『封印』を求め、秋せつらと戦うが――

【サーヴァントとしての願い】

聖杯戦争の主催者の殺害。恐らく呼ばれているだろうせつらとの決着。そして、受肉。

【基本戦術、方針、運用法】




【マスター】

マーガレット@PERSONA4

【マスターとしての願い】

???

【weapon】

ペルソナカード:
弾丸以上の速度で射出したり、縁の部分で切断したり出来る。マーガレットが使えば、下手な宝具とでも打ち合える程。

ペルソナ辞典:
妹は縁や表紙の部分で殴ったりしていた。恐らくマーガレットも、同じ事は出来るだろう。

【能力・技能】

ペルソナ能力:
心の中にいるもう1人の自分、或いは、困難に立ち向かう心の鎧、とも言われる特殊な能力。
この能力の入手経路は様々で、特殊な儀式を行う、ペルソナを扱える素養が必要、自分自身の心の影を受け入れる、と言ったものがあるが、
超常存在ないし上位存在から意図的に与えられる、と言う経緯でペルソナを手に入れた人物も、少ないながらに存在する。
だがマーガレットに限らず、彼らベルベットルームの住人は、如何なる経緯でペルソナ能力に覚醒したのかは、一切不明。
彼らのペルソナ能力を操る才能は、同じような世界観の並行世界を含めて考えても最高クラスのそれであり、彼ら自身が下手をすればサーヴァントとして招かれかねない程。
以下のペルソナを使用可能
愚者:ロキ
皇帝:オベロン
皇帝:オオクニヌシ
剛毅:ジークフリード
塔クー・フーリン
塔:ヨシツネ
審判:アルダー
星:ルシフェル

総じて、所謂『イケメン』のペルソナを扱う事で知られており、この事から面食いと言う噂が立っている。

【人物背景】

ベルベットルームの住民。力を管理する者。長い鼻の老人に仕える女。

【方針】

???



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マーガレット 全ての人の魂の夜想曲
アサシン(浪蘭幻十)