あの〈災害〉がまるで嘘だったかのように、今宵も〈新宿〉には煌々と灯がともる。
街路を行き交う人の流れは途切れず、街は眠る気配を見せない。
今も〈新宿〉を囲う〈亀裂〉さえなければ、この街がかつて再起不能になりかねないほどの大打撃を受けた街だという事実すら皆が忘れてしまっていたことだろう。

だが――あの〈魔震〉の影響は、確かにこの〈新宿〉に残っている。
歪みとも、膿とも、魔そのものとも言えるそれは、少しずつこの地に蓄積し続け――今まさに一つのカタチとして、結実しようとしていた。
〈新宿〉にて繰り広げられる新たな聖杯伝説。灯りに誘われる蟲のように、一人また一人と魔界都市に集う魔術師(マスター)たち。
その中の一人の物語は、〈新宿〉のまばゆいネオンライトすら届かない、薄暗い路地裏にて始まる。

 ◆ ◆ ◆

ぴちゃ、ぴちゃと雨だれの音がする。
夕立ちが降ったのはもう数刻も前のことだというのに、なんでこんな音がするのだろう――と、音がする方を見てみれば、古ぼけて、ところどころ曲がってしまっている雨どいから、水が滴っていた。
あまりのぼろぼろさに、排水という本来の機能すらまともに果たせなくなってしまったのだということを容易に察することが出来る。
中に何かが詰まっているのか、樋には排水しきれない雨水が溜まっているようだ。
ひび割れた部分からじわりと漏れ出した水がぴちゃりぴちゃりと地面に落ちている音が、男の耳に届いていたのだ。

男――年の頃は三十路をいくらか越えたあたりだろうか。痩せぎすの身体に、くたびれた灰色のスーツ。
不潔とまでは言わないが、こざっぱりという形容からは遠く離れた風体の男は、ポケットから煙草とライターを取り出すと、慣れた手つきで火を着け、口にくわえた。
紫煙をくゆらせながら、待ち人が未だに来ないという苛立ちを右足を小刻みに震わすという形で表現する。

男の足下には既に十数本の吸い殻が落ちていた。待ち合わせた時間から、もう数十分は過ぎている。
苛立ちが完全に怒りに変わり、それでもなお待ち人が来ないことに――男は、不安を覚え始めた。
男が小脇に抱えた鞄の中には、数キロの白い粉末が入っている。言うまでもなく、法に触れるたぐいの物だ。

(遅い……遅すぎる。どうしたってんだ。まさか、サツにでも嗅ぎ付けられたか……?)

先ほどから何度も連絡を試みるも、まったく繋がらない。
もしや既に身柄の拘束でもされているのかもしれないと思うと、男は居ても立ってもいられない気持ちになった。
ここには言い逃れできない確実な証拠がある。ここは一旦出直すべきか……? と、男は思索する。

そのとき。「あ、」と男が声を漏らした。焦りのあまり、くわえていた煙草を落としてしまったのだ。
落ちた煙草は風に吹かれ、まだまだ終わる気配のない雨だれのすぐそばまでころころと転がった。
ちくしょう、まだ半分も吸っていなかったのに――と、男は憎々しげに己の手を離れてしまった煙草を見つめた。

そして、気づく。真っ白な煙草に――色が滲み始めたことに。
煙草は、薄紅色に染まっていた。ぽつん、ぽつんと雨だれが落ちるたびに、その色は濃くなっていく。
男の頭の中で、いくつかの思考が同時に浮かんだ。

(それはつまり、水が赤かったということか――?)
(赤……赤といえば、血の色……)
(……なんでだ。なんでアイツは、ここに来ない――?)

ぞわり、と背中を冷たいものが這う。
このままここにいれば、よくないことが起きるという、謎の確信が浮かんでくる。
今すぐにこの場を離れなければならないと、男は走り始めた。
だが、そんな男の目の前に――少女が一人、現れた。

薄暗い路地には絶望的なまでに似合わないセーラー服。
頭の後ろで一つ結びにされた、色素の薄い髪。
美しい顔に刻まれた、深い傷痕。
現実離れしたアンバランスで構成された少女が、そこにはいた。

少女の異様さに気圧され、男は立ち止まる。男は、次の瞬間にはその選択を後悔していた。
あんな細身の少女一人、突き飛ばすなりなんなりして強引に逃げ出せばよかったのだ。
ここで立ち止まることのほうが、遙かにヤバい事態に繋がる。それは理解しているはずなのに、一度止まった足は、もう動いてくれない。

狼狽する男を後目に、少女が口を開く。

「おい、おっさん。アンタは――悪いヤツか?」

男は、沈黙を貫いた。客観的に見たとき、自分が悪人に分類される人間だということは男もよく分かっている。
だが、「はい。私は悪人です」と正直に言ったところで、この異常な状況が好転するとも思えなかった。
だからといって、いつものように口先八丁デタラメを並べて善人ですよと嘘をつくのも、正解ではないだろう。
故に男は沈黙を選んだ。否、選ばざるを得なかった――何も選ばなかったがために。

少女は、くんくんと鼻をならした。
そして、美しい顔に似つかわしくない、口の端をつり上げる凶暴な笑みを浮かべる。

「あァ……『臭う』ぜ。これは……この街のにおいだ。
 泥の中に血と悪意をトッピングして腐らせたような……そんなにおいをプンプンさせてるアンタが、善人なワケねーよなぁ?
『許可』するぜ、バーサーカー。コイツを――喰い殺せッ!」

少女の声を聞いた男は、その言葉の意味を理解するよりも早く、脱兎の如く駆け出した。
走れ、走れ、走れ! 今すぐにここから逃げ出せ! ただそれだけを考えて、男は少女とは逆のほうへと走る。
もう何年も全力を出していなかった男の身体は、すぐに悲鳴を上げ始めた。
だがそれでも、男は走るペースを緩めない。
早く逃げなければ大変なことになる――恐怖という至極シンプルな感情に支配され、男は走り続ける。

しかし。走る男の目の前に――またもや少女は現れた。
セーラー服とポニーテール。シルエットは完全に先ほどの少女のそれだ。
だが、よく見てみれば、今度の少女の顔面には傷痕がなかった。
まるで人形のように美しい造形も、先に出会った少女のそれとは微妙に異なっている。

「なんだ……なんなんだ、お前らはッ!」

そんな台詞が、男の口をつく。当然の疑問に、対する少女は答えない。

あぁ、と、男は絶望した。
男は、〈新宿〉の商売人としては、手堅かったのだ。
ボロボロになる中毒者たちを見ながら、それでも薬を売り続けたけれど、自分は一度も手を付けなかった。
だから――男は、目の前に現れた異形を、たちの悪いバッドトリップがもたらした幻覚だと思いこむことが、出来なかった。

それは、二本の角を持っていた。猛牛のように太い尖角の先から、噴炎が立ち昇っている。
それは、牛の頭を持っていた。開いた顎の中には鋭い牙。そして聞く者全てを恐怖させる咆哮。
それは、人の身体を持っていた。何処からか伸びた鎖に拘束されながら、それでも有り余る暴力性を秘めていた。

少女に寄り添うように突如現れた牛頭人身の巨人。
その存在を一言で言い表すことが出来る単語が、男の語彙の中にあった。

「あ……悪魔……!」

怪物が、地面の中にどぷりと沈む。
もはや男は、逃げ出そうとすることさえ放棄していた。
暴牛の顎が己の身体を呑み込む寸前まで――男はただ恐怖に震えていた。

 ◆ ◆ ◆

ぐちょぐちょと咀嚼音が響く。べっ、と吐き出された肉塊が、壁にはりついた。
少女は牛の頭を撫でながら、吐き出すだなんてそんなに不味かったのかと怪物へと囁く。
その様子を、“傷有り”の少女――番場真夜は見つめていた。
今はセーラー服に隠れていて外から確認することは出来ないが、真夜の胸元には紋様が刻まれている。
聖杯戦争のマスターである証し――令呪だ。
しかし、本来ならば三画が刻まれているはずのそれは、既に一画しか残ってはいなかった。

「そこらへんにしといてくれよ、バーサーカー。そろそろ――オレは寝る時間だ」

もう間もなく、夜が明ける。真夜の時間は、そこで終わりだ。そこから先は真昼の時間になる。
番場真夜と番場真昼は、俗に言う二重人格者である。夜は真夜が、日中は真昼の人格が表に現れることになっている。

真昼は、真夜と記憶を共有していない。真夜は真昼の記憶を覗き見ることもあるが、その逆はほとんどない。
だから真昼は、自分が聖杯戦争のマスターであるということすら理解していないだろう。
それでいい、と真夜は思っている。真昼に争いごとは似合わない。厄介ごとや汚れ仕事は、全部真夜がやればいい。

番場真夜は、主人格である真昼を守るために後天的に生まれた人格――言うなれば、番場真昼の影である。
影である真夜が願うのは、真昼の幸せだった。
聖杯が願望器として真昼の幸せを叶えてくれるのならば。
真昼を守るという役目を終えた真夜が、真昼の中から消えることになろうともかまわない。

そのためなら何だってやってやろうと、真夜は決めていた。
今宵の殺戮劇も、その一環だ。〈新宿〉に住む人間たちの魂を喰わせることで、僅かでも魔力を確保する。
人命を奪い、裁定者に危険視されるリスクを侵し、それだけの労力を払って得られるのはほんの一握りの魔力。
それでも躊躇はなかった。元々、生きるために暗殺を生業にしていた身だ。

何より――〈新宿〉には、ひどく気に入らないにおいが蔓延していた。
ずっとこの街で生きていれば、慣れきってしまって感じることすらないだろうかすかなにおい。
だが余所者としてこの街に流れ着いた真夜にとって、そのにおいは鼻についた。
自らの私利私欲のために、弱者を食い物にしようとする――かつて真昼を襲った悪意と同種のそれが、この街の根深いところに存在している。
そういうものの上に成り立っている〈新宿〉ならば、どうなってしまってもかまわないと真夜は考えていた。

気づけば周囲は明るくなり始めていた。
完全に夜が明ける前の、世界が青く染まるこの時間が真夜は意外と好きだった。
真昼と交代する瞬間が、自分と真昼の距離が一番近くなる瞬間でもあると感じるからだ。

「あとは頼むぜ、バーサーカー。そのために奥の手の令呪ちゃんを二つも使ったんだからな」

真夜はバーサーカーを召喚した直後に令呪二画をもって二つの命を下した。
曰く、『番場真昼を危険に近づけるな』『番場真昼は何があろうとも守れ』。
日中は真夜が表に出ることが出来ない。真昼を守れるのはバーサーカーだけだ。
番場真昼に与えられた役割(ロール)をこなし、平凡な生活を過ごしている限りそうそう他の主従に目を付けられることもないだろうが、突発的な戦闘に巻き込まれる可能性はゼロではない。
万全を期すために切り札である令呪を二画も消費したわけだが――それでも不安はあった。
少なからず狂化の影響を受け、意志疎通が困難になっているバーサーカーが、本当に自分の命令を遵守するだろうか――と。
何よりも、このバーサーカーは――

「――っく」

意識が遠のく。今度こそ本当に、時間が来たらしい。
抗いがたい眠気に襲われて、番場真夜は番場真昼にバトンを渡した。

 ◆ ◆ ◆

番場真夜に召喚されたバーサーカーは、マスターと同様に『影』として生まれた存在だった。

その真名は――シャドウラビリス。

彼女の願いは、ただ一つ――『本体』であるラビリスを含む全ての存在を壊し、自らが『本物』になること。

『主』の幸せを願うマスターと、『主』に成り代わろうとするサーヴァント。
よく似ているようで正反対の二人が〈新宿〉にて果たす【役割】とは――はたして、如何なるものになるのだろうか。






【クラス】

バーサーカー

【真名】
シャドウラビリス@ペルソナ4 ジ・アルティメット イン マヨナカアリーナ

【ステータス】
筋力C(A) 耐久C(B) 敏捷C(C) 魔力D(C) 幸運D(D) 宝具B

※括弧内はアステリオスを考慮した数値

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
狂化:D
筋力と耐久が上昇するが、言語機能が単純化し、複雑な思考を長時間続けることが困難になる。

【保有スキル】
ペルソナ(シャドウ):C
心の中にいる「もう一人の自分」、困難を乗り越えるための心の鎧「ペルソナ」を召喚する能力。
シャドウであるバーサーカーは本来ペルソナを召喚することは不可能なはずだが、
己の中の過剰な攻撃性がペルソナに酷似した「力の形」と発現したことから便宜上「ペルソナ」スキルとして扱う。

陣地作成:-
幻惑:-
本来ならば「己の支配下にある空間」において「言動・認識を歪める」能力を所持しているが、狂化の影響を受け使用不能。

【宝具】

『迷宮より解き放たれし牛鬼(アステリオス)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-30 最大捕捉:5
バーサーカーの内面が異形の怪物として現れた「力の形」であり、バーサーカーの一部と呼べる存在である。
牛頭人身の怪物であり、「地面から湧き出る」ように常に半身を地面に潜らせている。
地面の中を自在に移動し、本体であるバーサーカーと連携した多彩な攻撃手段を持つ。下はその一例。
  • 『テーラの噴煙』角から火焔を噴出し、対象を炎に包む。
  • 『地獄の業火』口からビームのような鋭さを持った炎を吐き出す。さらに着弾点に業火を舞い上げる。
  • 『ティタノマキア』黒炎をあたり一面に撒き散らし、戦場を黒に染める。攻撃範囲は非常に広い。

元はギリシャ神話に名前を残す怪物である。
アステリオスという名に聞き覚えがなくとも、クレタ島の迷宮「ラビュリントス」に巣食う怪物「ミノタウルス」といえば分かる者も多いのではないだろうか。


『迷宮に引きずり込みし怪物(ゲート・オブ・ラビュリントス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
「一度勝利したサーヴァント」を相手にしたときのみ発動可能な宝具である。
相手の霊核を掴み、迷宮「ラビュリントス」を再現した空間に引きずり込む。
擬似的な固有結界とも言える「ラビュリントス」においてアステリオスの猛攻は絶対である。
ほぼ全てのサーヴァントが為す術もなく霊核を破壊されることになるだろう。
欠点は多大過ぎる魔力消費量。令呪複数画に相当する魔力がなければ「ラビュリントス」の作成すらままならない。

【weapon】
スラッシュアックス:
バーサーカーの身の丈を超える、機械式の巨大な斧。変形させて背部に装着することで、推進器のように使うことも出来る。

チェーンナックル:
ロケットパンチ。チェーン式なので撃ったあとちゃんと戻ってくるぞ。

【人物背景】
「P3」「P4」のその後の物語として作られた「P4U」のプレイヤーキャラクターにして実質的なラスボス。
同じくP4Uの登場人物である機械の乙女「対シャドウ特別制圧兵装五式」ラビリスが生み出した影。

ラビリスが対シャドウ特別制圧兵装としての日々を送っていた中で強いられていた「仲間殺し」に対する罪悪感と、
「兵器ではない、人並みの人間の生活を送ってみたい」という逃避願望、そして「仲間殺し」という彼女に課せられた原罪の苦しみ・悲しみを「他者にも知ってほしい・味わわせたい」という、三重の葛藤が顕在化したもの。
姿形はラビリスと瓜二つだが、影特有の特徴である「鈍い金色の瞳」が爛々と輝き、高慢で暴力的な言動そのままに破壊願望を隠そうともしない狂戦士然とした性格をしている。

今回の聖杯戦争ではバーサーカーとして召喚されたため、「暴走」の側面が強い「P4U」時点がベースとなっている。
続編である「P4U2」にも出演しているが把握の必要性は薄い。
各種動画サイトに対戦動画や初心者講座動画があるのでそれを視聴すれば戦闘スタイルの把握は問題ないはず。

【サーヴァントとしての願い】
全てを壊し、本物になる。

【運用方針】
狂化によってステータスが上昇したバーサーカーとアステリオスの連携は強力無比。
しかしその分魔力の消費も増加しているため、連戦、長期戦になるとジリ貧となる。
バーサーカー単体で戦うことで魔力の消費を抑えることができるが、単体のバーサーカーは平凡以下のサーヴァント。
戦機を見極め的確な戦力投入をしない限り終盤まで勝ち抜くことは難しいだろう。




【マスター】
番場真夜/真昼@悪魔のリドル

【マスターとしての願い】
真昼の幸せ。

【weapon】
巨大なハンマー

【能力・技能】
真夜が表に出ているとき(夜間)は限界を超えて怪力を発揮することが出来る。
巨大なハンマーを軽々と振り回し、周囲のものを手当たり次第に破壊することもお茶の子さいさい。
反面、持久力などは常人のそれであるようで、戦闘が長時間におよぶとすぐにフラフラになる。カワイイ。

【人物背景】
昼と夜で人格が入れ替わる二重人格の暗殺者。昼が真昼(まひる)、夜が真夜(しんや)。
幼少期の真昼がある男に監禁されたことが真夜誕生のきっかけとなる。
暗殺は全て真夜が担っている――が、暗殺に依存しているのはむしろ真昼のほう。
真夜は真昼の願いを叶えるために暗殺に勤しんでいる。
参戦時期は黒組参加時、予告票の提出寸前から。

【方針】
日中は真昼に【役割】の通りに動いてもらう。
真夜の時間になってから目立たない範囲で魂喰いを行いつつ、目についた他参加者を狩っていく。
魔力不足に陥るだろうことを危惧しているが、今のところ具体的な対策は思いついていない。



時系列順


投下順



Character name Next→
番場真夜 全ての人の魂の夜想曲
バーサーカー(シャドウラビリス)