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プロローグ


【5月7日・一限目の数分前の希望崎事務室】
「あのー、体験入学って今やっとる?」
「ご案内します。どうぞこちらにお進み下さい」

彼にとって不幸だった事は三つあった。
一つはこの日が伝説の焼きそばパン入荷の日だった事。
もう一つは彼の肉体が中学生のそれにはとても見えなかった事。

希望崎学園の事務員は筋肉ムキムキマッチョハゲな少年を『外部からの刺客』だと
誤認し、それらの為に用意された部屋へと案内した。
希望崎学園高等部、最上階の端の方にある予備教室の一つ。
購買部からの直線距離が最も遠い教室に辿り着く。

「ではご健闘を」
「は?ってオイ、何やねんこれ」

事務員の別れ際の言葉に突っ込もうとした少年だったが、教室の中を見て
それどころではない事に気付く。
教室の中がおかしい。とても中学生に見えない屈強な男達が座る席が
足りない程集まっている。

成人してから魔人化するものも決して少なくは無い。
その為、希望崎の体験入学者には普通に大人も混じっている。
そして魔人化は突発的なものなので、希望崎学園は体験入学を予約無しで
年中行っている。パンフレットにはそう書いてあった。
だが、いくらなんでも多すぎるし偏りすぎている。

と、その時である。

キーンコーンカーンコーン

チャイムである。時間的に1限目の開始の合図だろう。
普通の学校ならこの後教師が入って来るので生徒達は着席し静かにしているのが
相場だが、大人達のとった行動は真逆だった。

「死ねオラァ!」
「お前が死ねやゴルア!」
「アナルパッケージホールド!」
「アーッ!」

少年が初めて体験する学校の風景は熱血硬派くにおくんだった。
鍛え抜いた50人近くの魔人達がパンチを繰り出し剣を呼び出し前立腺を刺激する。
魔人能力をフル活用した大乱闘だった。ここに来ている奴ら全員、
希望崎で学ばなくても戦闘魔人として食っていけそうやないかいと少年は思った。

「何を高みの見物しとんじゃテメー!」
「数が減るまで待とうたってそうはいかんざき!」
「うわあ、こっちにも来たで!」

異様な光景の連発にあっけにとられていた少年の方にも魔人が襲って来た。
だが、自分に危機が降りかかった事が逆に少年を冷静にさせた。

(ビートを刻め、そうすればお前に敵は無い)

父親代わりのレッサー禅僧の言葉が脳裏に響くと、脳内を戦闘用にスイッチする。

「よっしゃ、何かワカランがかかってこんかい!」

少年は不敵に笑い手足を振り回しながら乱戦に飛び込んでいく。

ポクポクチーン!

「あべし!」

ゴーン!

「ひでぶ!」

チーン!

「たわば!」

今や奇妙な光景を作り出しているのは少年の方だった。
戦闘のプロと思われる魔人数十人と密接した状況の中、一発も被弾せず、
一方的に攻撃を命中させ続けている。

「アナルパッケージホールド!」
「アーッ!」

少年から少し離れた所では肛門模様が顔いっぱいに描かれた白い覆面に
白いブリーフ姿のセックス魔人らしきマッチョがが次々とアナルへの攻撃と
プロレス技で敵を倒している。
少年の戦闘力が飛び抜けている事を教室内の全員が認識しターゲットを絞った時には
既に意識のある魔人は半分以下になっていた。セックス魔人も同じぐらい厄介に見えたが、
まだ少年の方が勝ち目が有りそうに見えたというかアナル掘られるのが嫌なので大人達は
消去法で少年を囲んで倒そうとする。

「南無南無南無南無南無南無」

ゴーンゴーンゴーン!

戦闘続行可能な魔人全員に囲まれても少年の優位は動かなかった。
音感で相手の動きを先読みし、32ビートのリズムでカウンターをぶちこむ。
そんな少年の背後にひっそりとセックス魔人(仮)が忍び寄る。

「アナルパッケージホールド!」
「くらうかボケェ!」

少年のキンタマの真下をセックス魔人のペニスが滑って行く。
音楽家としての一流レベルにある耳が背後からのアナルファックをも感知し、
アナルパッケージホールドを回避してみせたのだ。
少年は振り返りざまに必殺の頭突きの構え。
セックス魔人も姿勢を整え、正面からアナルを狙う必殺の構え。


「南無阿弥陀仏(さよならや)、喝!」


 アナル  パッケージ  ホールド
『アナルパッケージホールド(アナルパッケージホールド)』


ドゴォ!!!

セックス魔人っぽい変態はしゃがみ込んで頭突きを回避し、低空からの
アッパーカットで少年の顎を突き上げ、前のめりに倒れてきたところを容赦なく
心臓に膝蹴りして仕留めた。
この魔人の本当に恐ろしい所はセックスではなく運動能力の部分だった。

「なんでやねん・・・。これワイが勝つ流れとちゃうんか・・・。
お前アナルパッケージホールドってゆーたやんけ・・・普通に殴って来るなよ・・・」

少年の最大の不運、それがこれである。こんな初見殺しのエセセックス魔人に
当たってしまった事だ。少年がいかに先読み出来ようとも、アナルを模した覆面を
被りアナルパッケージホールドしか言わず、今迄アナル攻撃ばかりしていた魔人を
相手にしては「あ、こいつアナル攻撃から入って来るな」と思い込んで防御ミス
したのも仕方のない話であった。


まだ意識のある魔人も数人いたが、エセックス魔人が少年に勝ったのをを見て
心が折れたのかある者は気絶したふりをし、ある者は窓から逃げ出した。

「アナルパッケージホールド」
「アーッ」
「アナルパッケージホールド」
「ギャー」
「アナルパッケージホールド」
「げぇーっ」

エセックス魔人は気絶のふりをしている一人一人に念入れに肛門に対しての
サッカーボールキックでトドメを刺し、適当な椅子に座って一息。
もうお分かりだろう。この魔人、格下にはちゃんとアナル攻撃して変態を演じるが
近い実力の相手と認識すると普通の攻撃に切り替えるのだ。ずるい!

しばらくすると、廊下から複数人の足音がして扉が開き、
風紀委員の腕章をつけた正真正銘の高校生達が入って来た。
彼らはエセックス魔人に向かって感情の見えない顔で拍手し、告げる。

「おめでとうございます、ミスターアナルパッケージホールド。
これで貴方は4限目の終了後購買使用の権利を得ました」
「アナルパッケージホールド」

アナルパッケージホールドと呼ばれたエセックス魔人は風紀委員から体験入学者用の
名札を受け取り、それをブリーフのゴム部分に貼り付ける。

この日、伝説の焼きそばパン狙いで大量の体験入学者が殺到する事を予測していた
学園側は全国各地から来た刺客を50人毎に一つの予備教室に集め、多数の応募の為
本日の体験入学は教室毎に一人までの抽選とすると告げた。そうなれば当然こうなる。

え?読者が聞きたいのはそこじゃない?この名前もセリフも技名もぜーんぶ
アナルパッケージホールドで統一している変態もどきは何者かって事?
それを説明するには時間を一カ月程遡らなくてはならない。


【4月6日夜魔口パン社長室】

この日、夜魔口FCのカタパルト(味方選手をキックで発射し攻守に活躍するDF)
である片春人(かた はると)はチームオーナーである夜魔口パン社長に
呼び出されていた。

「よお、膝の具合は大丈夫か?」
「傷跡は残ってますが完治しています。いつでも試合に出られますよ」
「その事なんだがなあ、試合に出るのはもうちょっと先にして欲しいんだわ」
「えっ、でもオーナー、ウチの球団でカタパルト出来るの俺だけっすよ」
「別にお前が戦力外ってわけじゃねえんだわ。ただ、サッカーよりも
重要な仕事を任せたいんだ」

そう言って社長は引き出しから衣装らしきものを取り出し春人に渡す。
肛門が描かれた白い覆面、白いブリーフ、そして白い靴下の三点セットだ。

「何スかこれ?なんかワクワク動画の同人ゲーム系の手書き漫画とかで見かける
罪と書かれた袋被った奴の文字をアナルマークに置き換えた様なコスプレっすね
この格好でファン感謝祭に出ろと?」
「いや、お前に頼みたいのは強盗の仕事だ」
「・・・ちょっとシャレにならないッスね。つーか犯罪?」
「一応合法の部類ではあるぞ、流血沙汰は絶対避けられんが」
「どんな状況ッスかそれ!?」

社長は説明した。
来月の連休明けに希望崎学園の購買部に伝説の焼きそばパンが入荷されるだろう事、
そのパンにはあらゆる願いを叶える力があるという事、
希望崎の購買の惣菜パンは希望崎ブランドの他にぽぽフーズと夜魔口パンが
参入しており、焼きそばパンを入手した人物やその願い次第で購買の惣菜パン部門の
覇権が入れ替わるかも知れない事。

「焼きそばパン入荷をこんなに早く知る事が出来たのは社長の人脈だとして、
まあそこは問題無いっす。でも俺って膝の故障で年棒20%ダウンしたけど
それでも二億円プレイヤーっすよ?」
「ああ、そうだな。去年の契約更改一発サインは今でも覚えている」
「一つの学校の購買の収益ってどう考えても一億行かないでしょ?
何で鉄砲玉役が俺なんスか!?リスクとリターンが噛みあってない!」
「おめーは分かってねーなー」

社長はため息をついてから、伝説の焼きそばパン争奪戦の重要性を説明する。

「最初は中学生時代のサブイネンを参戦キャラとして書いていたけれど、
噛ませ役として用意したアナルパッケージホールドさんのキャラが立ちすぎて
それじゃあそっちメインにしようって事になったんだよ」
「社長、それメタの方の理由ッス」
「間違えた!」

テイク2。
社長は台本を机の上に置きため息をついてから、伝説の焼きそばパン争奪戦の
重要性を説明する。

「あの学校の購買部の売り上げ比率はな、そのまま希望崎・ぽぽ一族・夜魔口組の
パワーバランスに反映されてるんだよ」
「マジっすか!」
「マジだ。パンと裏稼業に関しては日本で誰よりも情報を握っている俺が三十年
かけて突き止めた真実だ。だから、お前に任せる任務は購買の売り上げ額という
見た目の数字の千倍以上の価値がある。お前のフィジカルは俺が動かせる魔人の中で
誰よりも強い。お前に頼むのが一番成功率が高いんだ」
「断れないッスか?」
「お前も家族は大事だろ?」

社長の脅しに近い説得を聞き春人は覚悟を決める。夜魔口組がバックにいる企業に
入社した時からこういう仕事が与えられる可能性がある事は覚悟していた。
サッカー引退後ぐらいに来ると思っていたイベントが前倒しになっただけだと
春人は自分を納得させた。

「・・・分かりました。社長が俺を信頼してくれるのならこの仕事受けるしか
ないッスね。でも、仕事が成功したら試合出して下さいよ?」
「ああ。あ、そうそう。言い忘れてたが、希望崎の敷地に入ってからは
アナルパッケージホールド以外喋るの禁止な。夜魔口の関係者が希望崎の学生の
不利益になる行動をしていた事が発覚すると本末転倒だから」
「まじっすかー!?」
「もし正体がバレたら、家族に会えないとこまでお前を飛ばす」
「栗子ー!ルシスー!ゴンベー!父ちゃんは頑張るッスよー!」

この後数週間に及ぶセックス魔人としての立ち振る舞いの特訓の末に、
所属不明の魔人アナルパッケージホールドはこの世に生まれた!
アナルパッケージホールドがセックス技で戦うのはサッカー選手のイメージから
少しでも遠くかつ見た目や名前と一致する戦術を選んだ苦肉の策なのだ!

行けアナルパッケージホールド!
必殺のアナルパッケージホールド(アナル攻撃とは限らない)で敵を討て!
頑張れアナルパッケージホールド!
正体を知られないように真の奥義カタパルトキックは本当のピンチまで封印だ!
暴れろアナルパッケージホールド!
妻と子供達には絶対見せられない姿で!