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プロローグ


 ある朝の事、時間は六時半。
 目覚まし時計が鳴り始め、須楼望 紫苑は夢から覚める。

「ふぁああああ……
 おはようございます……」
 ……はあー……まだ六時半ですねぇ……
 ふ あ あ あ あ あ あ あ あ あ … …」

 彼女の一日の始まりは、大きなあくびをすることから始まる。
 口を小さく開け、手で押さえながらも長いあくびをし続けてから30分が経過した。

「あ あ あ あ ……
 あら……?……もう……七時ですね……
 このままじゃ……遅刻してしまいます……」

 のそのそとベッドから起き上がるともたもたと服を着替える。
 ここでようやく目覚まし時計がまだ動いている事に気付き止める。
 服を着替え、朝ご飯を食べる。この間も何度もぼんやりしては両親に急かされる。
 そうして家を出るころには既に八時。
 急げばギリギリ遅刻せずに済む時間まで差し迫ってしまう。

「はあ……今日もいい天気……」

 紫苑はぼんやりと空を見上げた。
 気持ちのいい青空が広がっている。
 暖かな日差しが優しく照らしてくる。
 心地よい風が頬を撫でる。
 雲がゆっくりと形を変えてふわふわと浮かんで

「こらっ」
「ひゃあ」

 紫苑は魂を引っ張られて自分の体に戻されたような感覚を覚えた。
 つまりそれは、今までは魂が自分の体から離れてふわふわとどこかを漂っているような感覚だったということに他ならないわけである。

「またこんなところでぼーっとしてる」

 黒髪を尻尾のように束ねた少女は紫苑の腕を引っ張るとぐいとそのまま前に押し出し学校の方へと歩かせた。

「大丈夫ですよぉ千恵さん……自分で歩けますよぉ……」
「放っておいたらまた止まるでしょあんた!」

 このような経緯を経て、紫苑はようやく学校へと辿り着くのである。



 なんとか授業もひと段落した昼休み。
 紫苑は先程の少女、瀬佳 千恵と共に学食へ向かっていた。

「とにかく、あなたはちょっとぼんやりが過ぎるわよ、こないだだってテスト中にのんびりしすぎて追試うけたんでしょ?」
「ついつい、外の木が揺れているのが気になってしまって……」
「あきれた」

 幸い紫苑は記憶力は非常に良いので勉強に関して苦労したことはない。
 だが何事においても時間制限というものは存在する。

「あんた、そのぼんやり治さないとそろそろ本当に生きていけなくなるわよ!」
「はあ……」
「はあ、じゃなくて……まあ、もういいわよ、それよりお腹すいたわね」

 するとふと、千恵が傍にある張り紙に気がつく。
【5月7日 昼休み  伝説の焼きそばパン 入荷予定】

「へえ、伝説のやきそばパンだってさ」
「伝説のやきそばパン?」
「食べると願いが叶ったりするって噂よ、数年に一個しかでないすごいやきそばパンなんですって」
「そうなんですか……」
「そうだ、あんたこれ食べたらそのぼんやりもちょっとは治るんじゃないの!」
「そうでしょうか……」

 千恵はやたらと食いついているが、紫苑はそこまで興味がわいていなかった。

「でもまあ、あんたがこれを手に入れるなんて事自体が無理よね」
「はあ、そうでしょうか」
「そうよ、これ相当な競争率になるし、もはややきそばパン争奪戦どころかやきそばパンレースになるわね
 あんたみたいなとろいのが手に入れられたらねえ、そりゃ奇跡よ奇跡」
「むう」

 紫苑は動きこそ鈍いが割と普通の女子高生だ。
 あんまり失礼なことを言われると怒る事もある。
 やきそばパン自体にあまり興味はない。
 だが、無理だの奇跡だの言われたままで黙ってもいたくない。
 このやきそばパンを手に入れて千恵に思いっきり自慢してやりたくなった。

「じゃあ、このやきそばパンを手に入れたら、私がそんなにぼんやりしてないって認めてくれますね」
「……いや、例え手に入れられたとしてもあんたがぼんやりしてることは揺るがないと思うわ」
「むうう」

 じゃあ、手に入れて見せようじゃないですか。
 紫苑はそう決意したのであった。