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プロローグ


「お前らみんなサンキューーーッ! 『The Hell SparkS』でしたアッ!!」

オーディエンスの歓声を背中に浴びながら、この俺、煉(REN)率いる『ヘルスパ』が舞台袖にはける。
手応えは上々だった。自分たちに出来る、最高のパフォーマンスが演れた自信もある。

だが、油断はできない。
なにせ、今日の対バン相手は、あの『Boo! Do! Wasp!!』だ。
この巣鴨で、俺たちと人気を二分するインディーズバンド。相手にとって不足はねえ。

大型連休の最後を飾る『5月5日』という『時』ッ!
巣鴨最大のライブハウス『落葉(RAKU-YOU)』という『場所』ッ!
そして最大のライバルである『Boo! Do! Wasp!!』という『相手』ッ!!

全部、最高だ! 最高の条件だ!
俺たちが刻んでやる……この地球のロック史に、新たなるページを!!



「……なあ、なんかトラブってんのかな?」

ふと、ベースの羅愚(RAGG)が呟き、ステージのほうを顎でしゃくる。
見れば、確かにメンバーが出てくる様子がなかった。
機材のトラブルか、それともモメてんのかは知らねえが……この聖戦にケチつけてもらっちゃあ困るぜ?

――その時、ドサドサと、重い物体がいくつも落下したような音がステージから響いた。
やっと来たのかと安堵しかけたが、次いで、観客だろうか、女性の鋭い悲鳴もあがった。

「なんだなんだ……!」

俺たちは誘い出されるようにステージへと走った。
さっきまで俺たちが演っていた……流した汗だって、まだ蒸発しきっちゃいないそのステージには、


『Boo! Do! Wasp!!』のメンバーが、血まみれで転がっていた――!!


「こ、これは……まさか」

ギターの琉韻(RUIN)が戦慄く。
俺の頭にも、おそらく同じ『名前』が浮かんでいた。

この連休、各地のライブハウスに突如乱入してはゲリラライブを敢行しているという、
イカれたロックバンドの名を……!

「お、おい……炉輝(ROTTEL)がいねえ!」

ドラムの炉輝は、俺たちと一緒に袖に引っ込んだ後、そういえば姿が見えなかった。
便所に行ってるだけとかならいいが、この状況じゃ、悪い想像が働いちまうってもんだ……
と、ポタリと俺の頬に滴か何かが落ちた。反射的に拭えば、手の甲には赤い痕……血(BLOOD)!


俺たちは仰ぎ、そして見つけた……照明に磔にされた、炉輝の姿を――!!


「ファック! いい加減出て来やがれッ! クソッタレの『ゴッヴァル』どもがーーーッ!!」

俺の叫びを待ってましたとばかりに、そいつらはやってきた。
反対側の舞台袖から、ゆっくりと、己の所業を誇示するかのように。

「皆様ファッキンごきげんよう! 略してファキげんよう! 『God Wind Valkyrie』でーーす!!」

そいつは、イカれたように爽やかな笑顔を浮かべている。
学校制服をアレンジしたような鮮やかな衣装はまさしくガールズバンドのものには違いなかったが、
ところどころ、返り血と思しき赤い染みが疎らに付着し、握ったマイクロフォンからも血が滴っている。

「あ、こちらの血、そこの『ブードゥー』さんの頭蓋骨をカチ割ったときに付いた血です!
 これがホントのガイコツマイクってね! ギャハハハ!」

俺たちも観客も、ドン引きだった。後ろを歩くメンバーふたりすらクスリとも笑っていない。
だが、この女は自分のMCがめちゃくちゃ面白いと信じ切っている。脳みそがスカスカなんだと思う。
『God Wind Valkyrie』のメインボーカル・KIKKAは、そういう女だった。

「ねっ、ねっ、KIKKA☆」

その背から、ベースを吊った少女がひょっこり顔を出し、計算しつくされた角度で上目遣いをする。
『God Wind Valkyrie』のベーシスト・TIARAだ。

「TIARAの音も聴いてよっ☆ スラップ奏法、うまくなったんだよっ☆」

そう言って二重の目をパチパチしばたたく。こいつは狂人の癖にアイプチなんかしてやがるのだ。
すかさず、もうひとりのメンバーが舌打ちをした。明らかに聞こえよがしに、強く。

「あはっ☆ MEGU、どうかしたっ?☆」
「……わたしのほうが、上手く演れるから」

髪にはブルーのメッシュを入れ、手首に包帯が巻かれているのが見える。
見た目通りのイタいサブカルクソ女、それが『God Wind Valkyrie』のドラムス・MEGU。

「えーっ、なにそれー?☆ MEGUから先に、音楽性の違いで解散させたげよっか?☆」
「やってみれば?」

ビッチとオタクは犬猿の仲になりがちだと言うが、どうやら本当のようで、侮蔑的視線を交わしている。
「おいおい、仲良くしろよ~」とリーダーのKIKKAも口だけで適当に諌めている。
実際は楽しんでいるのだろう。

だが、今こそ好機だ。俺が後ろに控える羅愚と琉韻に目配せすると、ふたりも頷いた。

「――行くぞお前らアッ! やっちまえーーッ!!」
「炉輝の仇だーーッ!!」
「ウオオオオーーッ!!」

俺たちは一斉に飛び出す! このクソアマどもをぶちのめしてやるんだ!
走りながら、それぞれライブ衣装に潜ませた、護身用アーミーナイフに手を伸ばす!

「ファックイエー!」
「ウギャアアーッ!」

先行していた俺の顔面にベースがめり込む! ファックオフ、ベーシストTIARAのカウンターだ!
やつのキレキレのスラップ奏法を受け、俺は鼻血を噴き出しながらステージから転げ落ちた!

「ファックイエー!」
「ウギャアアーッ!」

次に餌食になったのは羅愚のやつだ!
MEGUのドラムスティックが羅愚の目を打ち、うずくまらせ、その頭蓋骨でエイトビートを刻みだす!

「ファックイエー!」
「ウギャアアーッ!」

そして琉韻、あいつは血塗れのガイコツマイクを手にしたKIKKAに襲われていた!
KIKKAは何の楽器も弾けねえカスだが近接戦闘だけは異常に強く、一瞬でマウントを奪い琉韻を
マイクでボコボコに殴っている!

「く、クソが……!」

俺は呻いた。マジにクソッタレな状況だった。
TIARAはもう俺のことなど眼中にないのか、MEGUの獲物(羅愚のことだ)を横取りしようと、
羅愚のケツをベースでフルスイングする。しかも、よりにもよって原辰則のフォームだ。反吐が出る。

対するMEGUはTIARAを牽制するためにクラッシュシンバルを投擲したが、ノーコンすぎて狙いを
大きく外し、頭上で虫の息していた炉輝の股間に刺さった。
やめてやれ! 炉輝には同棲中のメンヘラの彼女がいるんだ!

「クソに塗れた世界にー、中指フンフフーン!」

琉韻の顔面を、月面にクソをぶちまけたような有様に変えながら、KIKKAが歌っている。
ナンバーは、やつらのオリジナル曲のひとつ『アイム・ゴッド』だ。
もはや、殴ってるうちに気分が乗ってきて歌ってるのか、それとも殴りながら歌うことを
ライブと呼ぶと誤解してるのかも定かじゃねえ。

心の底から夢だと思いたかったが、ステージから落ちるときにぶつけた後頭部はズキズキ痛むし、
鼻から流れ出る血も生暖かくて鉄臭かった。
夢じゃねえ。なら仕方ねえ。ノープランでもやるしかねえ。
俺は『ヘルスパ』のリーダーだ。これ以上俺たちのライブをメチャクチャにされてたまるか。

立ち上がろうとした俺の視界の端を、小さな影が横切った。

「――な、なにやってんの!」

ステージ上の蛮族どもも一旦手を止め、突然の闖入者を見た。
女だった。差し迫った表情を浮かべ肩で息をするそいつは、『ゴッヴァル』のクソどもと揃いの衣装に
身を包み、胸にギターを掻き抱いている。

「……なんだ、MACHIじゃん」
「あはっ☆ おっそーい☆」
「もうライブ、始まってんぞ!」

蛮族どもに親しげに話しかけられるのも、当然だった。
その女はMACHI――『God Wind Valkyrie』のギタリストだ。すなわち、こいつらの仲間である。
だがこいつは、抗議の視線でもってステージ上を睨んでいた。

「私、反対したよね!? なのに、こんな……信じらんない!」

どうやら、マジに仲間割れしているくさかった。
MACHIは肩をぶるぶると震わせていて、対する他のメンバーどもはどこかばつの悪そうな顔をしている。

俺は今度こそ立ち上がった。打開策が見えてきたからだ。
MACHIに同調し『ゴッヴァル』のクソどもにはご帰宅願い、今度こそ俺たちのライブを取り戻すんだ。
殴られた恨みを晴らすだとか、仲間のかたき討ちだとかは、この際いい。
とにかく一刻も早くこいつらに消えてほしかった。

「……この子の言うとおりだ」

俺はMACHIの傍らに並び、彼女の震える肩にポンと手を乗せる。
MACHIは火が出るように顔を赤らめ、ギターをきゅっと握った。

「お前たち、」
「ファックイエー!」
「ウギャアアーッ!」

握られたギターは逆袈裟の軌道を描いて振り上げられ、俺の顎を軽々粉砕した。
俺は、訳も分からずひっくり返って、顎を押さえてのたうちまわるしかない。

「サノバビッチ! いっ、イカ臭い手で触んないでください!」

ハアハアと息遣い荒く、MACHIは赤らめた顔のまま叫んだ。
そして俺たちのやりとりを見下ろして笑っている『ゴッヴァル』メンバーどもを振り返り、
こぶしをブンブン振って抗議する。

「……だから言ったじゃない! 私!
 こんなチンカスどもを血祭りにあげたって、ファッキン時間の無駄だからやめようって!」

俺の頭は、この世に救いはねえのかとホワイトアウトしかけていたが、
今にして思えば、あの蛮族どもとバンドを組んでる時点で同類なのは当たり前だったのだろう。
尤も、

「……実際、ナントカとかいうギターのやつも音合わせ程度で瞬殺できるクソザコ野郎だったし……
 磔にした後、上から降りてくる方がまだ大変だったよ……っ」

こいつが一番のクソだと、今まさに訂正してやるところではあるが。
言ってる最中に感極まったのか、涙をポロリと零したかと思えば、

「ファックイエー!」
「ウギャアアーッ!」

またも俺をギターで殴打した。
殴られた顔面と凶器となったギターの双方から、バキッと嫌な音が鳴った気がした。

「ふええ……クソッタレだよお……!
 せっかくのゴールデンウィークなのに……なんでこんなファッキンシットなことに……」

こっちのセリフ極まりなかったが、しかし、そこで口を挟んだのはやつらのリーダーKIKKAだった。

「MACHI! 対バン相手が誰かなんて関係ねえ……ウチらはウチらのライブをするだけだろうが!」
「KIKKA……」

次いで、残りのメンバーもMACHIに声をかける。

「そうそうっ☆ もっと明るく、テンションあげてこーよっ☆」
「ギターの調子が悪いと、全体が悪くなるんだからさ……しっかりしてよね」
「TIARA……MEGU……!」

ぐすっ。MACHIは鼻をすすり、ゴシゴシと目元を拭った。

「……アバズレビッチども、クソくらえっ……!」

呟いた顔は、雨上りの空のような快晴の笑みだった。
他のメンバーも、同じような笑顔を浮かべた。
俺は眩暈がした。

「――行くぞッ! ここからが、本当の『ゴッヴァル』だ!」

MACHIがステージに上がり、それぞれ定位置につくと、KIKKAが号令をかけた。
メンバー全員が、力強く頷く。
MEGUがスティックを打ち鳴らし、『God Wind Valkyrie』の演奏が始まった。

さて、やつらのライブは、あまりにも酷かった。
羅愚たちを殴りすぎたのかTIARAのベースは弦が死ぬほど緩み、お得意のスラップ奏法も形無しだった。
MEGUのドラムセットに至っては、投擲に使われたシンバルやTIARAの襲撃を防いだバスドラムなどが
紛失しており、代わりにあろうことか引き摺ってきた『ブードゥー』を叩いたり蹴ったりする所為で、
リズムキープもクソもなかった。

「今こそフフフフーン! フフフフ運命ー!」

KIKKAの歌詞うろ覚えも熾烈を極め、ほとんど大部分をフンフン言って乗り切っていた。
もっと言えば、この女はそもそも音痴であり、フンフン言ってる方がマシだった。
声量だけはあったが、それだってクソを上塗りしてるに過ぎないかった。

「未来を切り拓くのはー! ボクらの暴力ー!」

MACHIは、よくよく聴けばクソだった詞を熱唱しながら、右手のピックを激しく踊らせている。
その鬼気迫る演奏で膝がギターのバックにガツガツ当たり、俺は自分をしこたまぶん殴ってくれた
こいつのギターが、出来るだけ凄惨に破壊されることを祈った。

うちのメンバーや『ブードゥー』が死屍累々なステージから、地獄のような騒音が響き渡っている。
いつの間にか、賢明なオーディエンスどもはライブハウスから逃げ出したようで、
今この空間で意識を保っているのは、『ゴッヴァル』以外には俺だけだった。

そんな巣鴨の大叫喚地獄で、『ゴッヴァル』の四人は心から気持ち良さそうに演奏していた。

「……ああっ!」

続く二曲目の大サビで、とうとうMACHIのギターがぶっ壊れた。
ボディーとネックでボッキリと折れ、さながらギターの首チョンパだった。ざまあみやがれ。
MACHIは瞳に大粒の涙を溜めると、折れたギターをフレイルのように振り回し、

「ファックイエー!!」
「ウギャアアーッ!!」

明らかな腹いせで俺をぶん殴った。
その一撃で、俺もファッキンめでたく意識を手放した。死ね。





「アッハッハッハッハ! 今日のライブも大成功だったなー!」

地獄のライブの後。
ライブハウスから駅への途上にある公園で、『God Wind Valkyrie』はささやかな打ち上げをしていた。
意外にもこのグループは機材の消耗が早く、他のバンドから楽器を快く譲り受けたこともあるが、
普段の練習においても構わず消費してゆくので、自然、それ以外に遣う財源は削られてしまうのだった。

「これで4ハコ制覇も終わりだねっ☆ んん~っ、達成感っ!☆」
「……。……どうしたの、MACHI?」

満足げに炭酸飲料を傾け、コンビニで適当に買ってきたお菓子やパンを食べているメンバーの中で、
MACHIだけが沈んだ表情だった。
確かに両親の生命保険の最後の一滴で買ったおニューのギターは購入後数時間で残骸と化したが、
それでこんなに落ち込むものだろうか? メンバーは心配そうに顔を覗き込む。

「私……みんなに酷いこと言っちゃった……」

MACHIはぽつぽつと語りだす。

「私、焦ってた。巣鴨とかカスいとこじゃなくて、早く渋谷に攻め込まなきゃって。
 ……こんな下痢みたいな音じゃ、駅出た瞬間にミンチになってファッキン犬畜生の餌になってたよね」

恥ずかしげに顔を赤く染めながら、取り繕うように笑う。
KIKKAは、そんなMACHIの背中を雑に叩いた。

「ま、あたしら若いんだ! まだまだこれからさ。なっ!」
「……ありがと、KIKKA。ふふ、ド下手が感染るから触んないでよ。ファック」

爽やかな笑い声が一同を包む。『ゴッヴァル』は、改めて絆を確かなものとした。
ここで、MACHIは一旦席を立った。また涙が込み上げてきてしまったため、顔を洗いたかったのだ。

「よーっし、じゃあ久しぶりに新曲でも作っか!」
「……いいね。わたし、詞のイメージが、」
「あーっ☆ TIARA、イイ感じのメロディあるんだよねっ☆ ねっ、KIKKA、こっち先聴いてよっ☆」
「遮んなクソビッチ」
「ええーっ、MEGUったら酷いっ☆ アコースティックにしちゃうぞーっ☆」

公園のトイレへと歩むMACHIの背中に、TIARAとMEGUのじゃれ合う声と、KIKKAの笑い声が聞こえる。
すっかり、いつもどおりだ。自然と笑みがこぼれた。

私たちのバンドは、まだ未熟だ。
でもそれは、言い換えれば、これからもっと上手くなれるということだ。

「私たちなら……『God Wind Valkyrie』なら、さらなる高みへ行ける。だから、もっと頑張ろうっ!」

ぱちんっ! 両手で頬を叩き、気合を入れ直す。
明日から、また猛練習だ! ファックイエー!


――だが。
そんな、MACHIの淡い願いは、脆くも崩れ去ることになるのだった。


MACHIがトイレを出ると、メンバーの様子がおかしいことが遠目にも分かった。
地面に突っ伏していたり、変な動きでもがいていたり。新しいパフォーマンスでも考案中なのだろうか?
万が一にも、ケンカだったら止めないと――MACHIは小走りで戻る。

「……ファック……!?」

思わず、MACHIは呟いていた。

立ち尽くすMACHIの足元には、MEGUが倒れていた。
隈の深い目をカッと見開いた、苦悶に満ちた表情で事切れていた。
周りの地面には引っ掻いた跡がいくつも残り、MEGUの爪の間にも砂が詰まっている。

「オボッ……ゴ……!」
「ッ……☆ カッ……☆」

KIKKAとTIARAは、まだ生きていた。
ふたりは現在進行形で喉を押さえたり胸を叩いたり、もがき苦しんでいる。

「き、KIKKA! TIARA! どうしたのっ!?」

無我夢中で叫びながら、MACHIは近かったTIARAをまず抱き起した。
TIARAは震える指先をなんとか動かして傍に落ちていたゴミを示し、そして、ぷつりと力を失った。
もう一度名前を呼ぼうとして、MACHIはかぶりを振る。その瞳から、涙の粒が散った。

「っ……! これ、は……!?」

MACHIは、TIARAが最期の力を振り絞って残したメッセージの正体を見た。
そこにあったのは、焼きそばパンの包装だった。3人分、あった。

すべてを理解した。
MEGUとTIARAは食べようとした焼きそばパンが喉に詰まって死んだ。
……つまり、

焼きそばパンに殺されたのだ……!!

「KIKKAっ!」

最後のメンバーまで失うわけにはいかない――MACHIはKIKKAの元へ駆け寄った。
KIKKAは音痴だが声量は図抜けており、それのおかげか辛うじて死を免れていた。
悶え苦しむKIKKAの手を握ると、MACHIはもう片方の手に意識を集中した。

(……お父さんとお母さんをぶっ殺しちゃってから、ずっと封印してたこのチカラ)

2年前、MACHIは些細な諍いから魔人に覚醒し、両親を殺害してしまった。
魔人覚醒に伴う犯罪行為は不問に処されるのがほとんどだが、本人の意識においても
不問に出来るかというと、そう簡単な話ではない。
MACHIは一時、誰もいない家に引きこもり、ほとんど死んでいるのと同然の生活を送っていた。
あるいは、死を望んでいたのかもしれない。両親の待つ場所へ行くことを。

そんなMACHIを救ったのが、ロックであり、『God Wind Valkyrie』だった。
それまで交友関係のなかった3人が彼女を訪ね、バンドに誘ったのだ。
最初は乞われるがまま亡霊じみて参加していたMACHIだったが、次第にロックの世界にのめり込み、
どっぷり浸かってゆき、今はロックが生き甲斐になっていた。
彼女は、ロックに、『God Wind Valkyrie』に生かされていた。

だから、今こそ。
呪われたこのチカラで、大切な仲間を救うのだ。

「KIKKA、ちょっとガマンしてね――今、助けるから!」
「ンーッ!! ンンンーーッ!!」

MACHIはKIKKAの口を大きく広げ、そこに腕を突っ込んだ。
生理学的反応が腕を押し戻そうとするが、構わず突き進む。KIKKAを救うために。

「っ……あっ!」

やがてMACHIの指先は、KIKKAの喉に巣食う焼きそばパンに触れた。
今だ!!

「『KILLER★KILLER』ッ!!」

怨敵を確実に殺害する、MACHIの魔人能力『KILLER★KILLER』。
このチカラで、クソムカつくファッキン焼きそばパン野郎をぶっ殺してやれ!

「木っ端微塵になって消え失せやがってよ! 『ナンバー:爆殺』ッ!!」

能力を行使した刹那、焼きそばパンは粉々に爆死した。
その余波でKIKKAの首から胸にかけても爆散し、支えを失った首がごろんと転がった。

「き……KIKKAーーーッ!!」

MACHIの悲鳴が夜の公園にこだまする。
そして少女は、またひとりぼっちになった。





連休明けの5月6日、MACHIは通っている希望崎学園を休んだ。
二度目の大きな喪失を前に、心が完全に折れてしまったのだろうか?

「キミから差したー……確かなヒカリー……」

否。
少女は淡々と、復讐の牙を研いでいた。

「眩しくてー、でもー……見つめ続けたー……」

MACHIが密かに温めていた新曲。タイトルも、まだついていない。
『ゴッヴァル』とはカラーが違うかな、とか、やっぱり照れくさいな、とか逡巡しているうちに、
結局行先を亡くした、哀れな言の葉たちだった。

「My precious stars……woo……」

その詞を口ずさみながら、新たな包装を破る。
取り出した焼きそばパンを握り目を閉じる。やがて、それは黒ずんで腐り落ちた。

「……ファックイエー」

焼きそばパンの残骸を捨てる。
能力の全容は大体理解できた。本当なら、もっと早くそうするべきだったのに。
もっと早く過去と向き合っていれば……いや、これ以上は仕方ないことか。

「クソッタレの焼きそばパンども……この手でぶち殺してやる……」

明日、希望崎学園に入荷するという伝説の焼きそばパン。
食べた者に御利益をもたらすという噂だが、クソくらえだった。
伝説の焼きそばパンの首級。それだけが、唯一の鎮魂ロックだ。

あらゆる苦痛を与えて、伝説の焼きそばパンをぶっ殺す。
さあ、ロックンロールの始まりだ。ファックイエー!!