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本戦SSその6

「あ、あ……」

可憐塚みらい(かれんつか・みらい)は、ぶるぶると体を震わせながらがっくりと膝を突いた。
彼女の顔は、手は、四月に新調したばかりの制服は、要するに全身は返り血にまみれている。

「なに……なによこれ……」

みらいはその血まみれの手で顔を覆い、さめざめと涙を流した。
周囲にいくつもの死体が散乱する地獄絵図の中、膝をつき涙を流す黒髪の美少女。
その姿はどこか神秘的であり、一種の芸術作品的空気すらまとっていた。
だが。その感慨は次の瞬間に叩き壊される事となる。

「いや、いやよこんなの……どうして……」

みらいが地面についた膝から黒い霧が噴出する。
黒い霧がみらいの下半身を覆いつくし、メキメキと耳をふさぎたくなる異音を発し始める。
見よ、霧に覆われた部分がだんだんと巨大化し、みらいの上半身がそれに連れて持ち上げられていくではないか。
そして、みらいの上半身が20mほどの高さまで持ち上がられた時、霧が一気に収束する。

「あ……」

何たることか。そこに存在したのは、体長20m超のまごう事なき化け物。
昆虫のような5mほどの腹部からは無数の節足が生え、巨大な体躯を支えている。
さらにその上、人間の胴体を適当に模造したような大雑把な胴体からは、人間のものを不恰好にまねたような巨大な腕が二本伸び、所在無げにだらりと垂れ下がっている。
腕の生えている横からは動物の頭部が前方に一つ、後方に二つ…………吸血コウモリ、黒猫、ドブネズミ……がついており、がちがちと歯を鳴らしていた。
その上の部分にみらいの上半身が元のとおりの姿で生えていたが、その変わらなさは逆に他の部位の化け物具合を増強する手助けにしかなっていない。

何だこれは。
先ほど芸術作品的空気とか言っていた人間は首を括りたくなったに違いない。
これは、芸術は芸術でも、悪夢を描写して芸術と言い張る類の代物であった。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「「「シギャアアアアアアアッ!!」」」

みらいが、そして、みらいだった怪物の各部に備わった三つの頭部が、悲鳴と、咆哮をあげる。
それは、伝説の焼きそばパンをめぐる戦いが最終局面に入ったことを告げていた。


**********


如何にして、焼きそばパン争奪戦のさなかに、可憐塚みらいが巨大な怪物へと変じる事となったのか。
それを語りはじめるには、まずは時間を80分ほど遡らなければならない。

「雲水(うんすい)君っ。ちょっといいかな?」

三時限目と四時限目の間の短い休み時間(大抵の高校の例に漏れず、希望崎学園でも10分間である)に入った直後。
次の授業である数学Aの準備をしようとしていた霊能者 雲水(れいのうしゃ・うんすい)に、一人の少女が話しかけた。

「授業の準備はそんなにかからないでしょっ? すぐ済むからさっ」
「……フーロさん。そんなに焦らなくても、用事ならちゃんと付き合いますから」

おっとりした様子の雲水に対し、せかせかと話しかける少女は伊藤風露(いとう・ふうろ)。
五月の連休が明けた昨日(5月6日)、この希望崎学園に編入してきた変り種の女生徒だ。
実は、編入を装ってこの学園に潜入してきた『探偵』であり、現在は雲水の『探偵助手』を勤めているのだが、この事実は風露本人と雲水を除くとこの学園ではあと一人しか知らない。

「いいや焦るねっ。さすがに温厚なあたしといえど今回は焦りまくりだねっ。というわけでえいっ」
「あ、ちょっ」

突然手を取られどぎまぎする雲水。そんな雲水にかまわず、風露は先ほど『地の文』から知り得た情報を思い返す。
すなわち、「可憐塚みらいという名の少女が、焼きそばパン争奪戦のさなか、今から80分後に巨大な怪物に変ずる」という事実を。
そしてその情報は、触れた手を通じて彼女の能力を共有する雲水にも伝わった。

伊藤風露の能力『天・地・則(てん・ち・のり)』は、使用者に『地の文』を認識する能力を与える。
『地の文』とは、つまり今あなたが見ているこれのことだ。
風露が用いた手法は、その能力応用の一つ『手則文帳(クイックメモ・リーズ)』。
ある内容を思考し、その『思考した事実』を『地の文』に記録させることにより、『地の文』を閲覧できる相手にどんな方法よりも早く正確に情報を伝える事が出来る。
『事前同意を得ている、接触中の相手』にしか使えない使いにくさはあるものの、その伝達速度と秘匿性は他の追随を許さない。
他人に聞かれたくない(さすがに少女が突然怪物になるなどという話はショッキングに過ぎるだろう)話題を簡易的に伝達するにはうってつけの応用といえる。

「……確かなのですね、それは」

情報を認識し終えた雲水の声は、軽く震えていた。

「あたしも出来れば確かじゃないと思いたいけど、あいにくこいつは事実でしかないよ。タチ悪いねっ。ところで、あたしよく知らないんだけどみらいちゃんってどんな子?」
「確か1年A組にいる子です。かわいい子ですよ。うちのクラス(1年F組)からも数人告白に行って、全滅したとギョロ子さんに聞いたことがあります。魔人であるかどうかは分かりませんが……少なくとも“そういう”能力を持っていると聞いたことはないですね」
「とすると……外部的な要因によっての可能性が高いか」
「恐らく。気をつけて見ている必要がありますね」
「だね。柊(ひいらぎ)や相棒君にも気にするように伝えとくよっ。ところで雲水君っ」
「はい」
「いつまであたしの手を握ってるのかなっ。あたしはいいけどみんなの視線がすごいぜっ」
「……はっ」

雲水は、緊張のあまりぎゅっと握っていた風露の手を急いで離した。

「(あの堅物の雲水が女子の手を……)」「(何か話し込んでたわよね……)」「(そういえば編入生なのに妙に親しげ……まさか、恋人……?)」

周りの生徒達があらぬ思考を展開し始めたところで、折りよく4限開始のチャイムが校内放送から流れた。
慌てて皆が席に着き、勉学に集中し始める。
次にチャイムが鳴った時。それが戦争開始の合図である。


**********


余談だが、希望崎学園の現在のクラス分けはA~J、11~20の1学年20クラスである。
11から先はアルファベットで順番を認識しずらいという理由から、アルファベットと数字の混合となっているのだそうだ。
新校舎は4階建てだが生徒の教室に割り当てられているのは3階までで、同じ記号、番号のクラスが学年ごとに3段重なった形状が一直線に細長く広がっているという、設計担当者の適当さが垣間見える構造となっている。
閑話休題(まあそれはさておき)


*****


4限開始から数秒(昼休みまで50分)、3年17組。

「……」
「カレーパン君、携帯を見ていないで。授業だぞ」
「……すみません、狼瀬(ろうせ)さん」

携帯のメールを確認していたカレーパンは、同じクラスのクラス委員である狼瀬白子(ろうせ・はくこ)に注意されていた。

「何か大変な知らせか? 表情……いや、雰囲気が深刻そうだが」
「大変な知らせではありますが……大丈夫です。授業を受けるには支障はありません」
「そうか。何かあれば私や先生に言うんだぞ」
「はい」
「では、授業だな。私はこれで」
「……」

自らの席に去っていく白子の背をじっと見てから、カレーパンは一旦授業に集中することにした。


*****


4限開始から5分後(昼休みまで45分)、3年20組

「……(3限までの間で立てられた計画はこんなものか……精度面で不安はあるが、仕方ない)」

ノートに黒板を写す振りをして作戦を立てていた一之瀬進(いちのせ・すすむ)は、記述を一段落させてため息をついた。

「(俺の身体能力は魔人の中で決して高い方ではない。だからこそ、伝説の焼きそばパンを手に入れるにはそれなりの手管が必要になる。……そのための準備時間がなくなってしまったのは痛かったが、今更言っても仕方がない)」

再び気合を入れなおし、ノートに向かう進。

「(さあ、最終確認だ。伝説の焼きそばパンを手に入れるなら、本番は4限終了時点から……そこまでは作戦精査に当てられる!)」

彼のその認識が状況を変動させることを、今の彼はまだ知らない。


*****


4限開始から7分後(昼休みまで43分)、2年C組

「先生ー……体調が悪いのでー、保健室に行ってきますー」
「ん、ああ……確かに顔色が悪いな。大丈夫か、須楼望(すろうもう)。保険委員についていってもらうか?」
「いえー……一人で行けますのでー……」

須楼望 紫苑(すろうもう・しおん)はそういうと、よろよろふらふらと教室を出て行ってしまった。
彼女の親友である瀬佳 千恵(せか・ちえ)は、その様子を心配そうに眺める。

「(大丈夫かな紫苑……何か今日は朝会った時からすごく顔色悪かったけど)」

心配する千恵だが、ついていく事は出来なかった。
この時間に教室を抜け出して保健室に行くとなると授業のほとんどの時間を休んでしまうことになり、購買の使用条件を満たさない可能性があるのである。
伝説の焼きそばパンを狙うほどではないが購買部で昼食は購入したい勢の千恵にとっては、購買使用不可は避けなければならない事態である。
よって、紫苑には悪いがついていく事は出来ない。まあ、彼女も大丈夫と言っていたし……。

「(あれ……?)」

そこで、千恵はある事に気がついた。

「(紫苑、確か伝説の焼きそばパン買うみたいな事言ってなかったっけ……諦めたの……?)」

だが、その思考を保っていられたのも一瞬。
突如として彼女を、猛烈な感情の奔流が襲った。
それを言葉にするならば、「ゆったり」、そして「のんびり」。
そしてその感情は千恵の上に、強烈な眠気として顕現した。

「(のんびり、しよっか……うーん……紫苑……なんでかな……)」

周囲を見ればクラスメイト達はばたばたと眠りに落ちていき、教師すらも眠そうだ。
友人の行動の真意を問いながら、千恵の意識は眠りへと落ちていった。


*****


4限開始から47分後(昼休みまで3分)、1年20組

「これは……いった、い……」

メリー・ジョエルは迫り来る眠気に必死に抗っていた。
昼休みまで後数分。眠ってなんていられるはずがない。
なのに眠気は容赦なく襲ってくる。ついでに言うと「のんびりしたい」「ゆっくりしたい」という衝動も際限なく襲ってくる。
周囲に意識をやれば、さきほどまで焼きそばパン目当てで殺気立っていたはずの、クラスメイトの大半が眠りについている。
偶然、もしくは自然現象と考えるには明らかにおかしい。
何者かによる魔人能力による攻撃の可能性がある……!

「……むにゃ……」

だが、彼女に考えることが出来たのはそこまでだった。
授業中だったので、彼女自慢の『魔女の箒』『衛星』『綺羅星』はすべて教室のロッカー付近においてある。
それらの支援なくして、この攻撃を仕掛けてきている魔人を発見し、討つことはできない。
そしてメリーは……寝つきは良く、寝起きはめっぽう悪い娘であった。

「ぐぅ」

昼休み開始数分前にして、メリーは夢の世界の深くまでと落ちていく。
彼女がいつ目覚めるか、それは誰にもあずかり知らぬことであった。


*****


4限開始から49分後(昼休みまで1分)、2年19組前廊下

「ふうー……何とか一通り終わりましたー」

教師も含め全員が眠りに落ちている教室の前で、紫苑はハンカチで額の汗を拭っていた。
もちろん、先ほどから発生していた大量睡眠事件は彼女の仕業である。

紫苑の魔人能力『夢心地悠長空間(トロイメライ)』。
紫苑を中心とした空間を『のんびり空間』へと変えてしまう能力である。
射程は最大出力で紫苑から10m。その範囲内ではすべての存在の動きが鈍くなるのだ。
さらに、紫苑の思考の方向性によってのんびりさに指向性を持たせることも可能であり、例えば、「のんびりゆっくりごろごろ昼寝したい」と思えば、範囲内の人間は眠りに落ちるのである。
彼女は、この能力を展開したまま、授業時間一杯をかけて校舎のやや端から端までを移動し、A組と17組を除いた3学年54クラスの人間を眠りに落としてのけたのだ。
まさに悪魔の所業。普段の彼女からは考えられない積極性である。
彼女を変えたのはいったい何なのだろうか。

ふと、彼女が首筋に手をやった。
そこには、真新しい絆創膏が二つ、貼られている。
その絆創膏をなでる時、紫苑は彼女のものとは思えない恍惚とした表情を浮かべていた。

「これだけやればー……あの子はまたほめてくれるでしょうかー……。
また血を吸ってー……くれるでしょうかー……えへへー」

紫苑の脳裏によみがえるのは、5月の連休に出会った黒髪の美少女の面影。
初めて血を吸われた時はちょっとびっくりしたけれど、それ以上にとても気持ちよかった。
あの気持ちよさをもう一度味あわせてくれるなら、紫苑は何だってするだろう。
いや、何だっては大げさだが、体調が悪い振りをして授業を抜け出し、能力を全力で使うぐらいのことはするだろう。
だから紫苑は、そうした。それだけの話だ。

さあ、時間だ。昼休みのチャイムが鳴る。
黒髪の美少女、可憐塚みらいが伝説の焼きそばパンを手に入れられますように。


**********


昼休みのチャイムが鳴る。
伝説の焼きそばパン争奪レース開始の号砲の代わりに、チャイムが鳴り響く。
激しい戦いの幕開けだ。そしてそれは、少女を見舞う悲劇への秒読みの合図でもある。
可憐塚みらいが怪物に変ずるまで、あと30分。


**********


1年A組の教室で、最も早く動き始めたのは可憐塚みらいだった。
チャイムが鳴り終わると同時に、普段の美麗さと無邪気さからは想像もつかないすばやい動きで、教室の窓から飛び出していく。
さらにそれに焼きそばパンを狙う他の生徒達が続き、1年A組の教室からは誰もいなくなる。2人を除いて。
一人は、焼きそばパン争奪戦に参加することを端から諦めている数学教師、只野恭史(ただの・きょうし)。
もう一人は、A組の中で唯一スタートダッシュをかけなかった男子生徒、黒天真言(くろあめ・まこと)。

恭史は教室内を一瞥すると、そそくさと教室を出て行った。彼は愛妻家であり、焼きそばパンなどに関わっている暇はないのだ。今日も妻特製の愛妻キャラ弁当が、職員室で彼を待っているのである。
一方の真言はというと、教室に誰もいなくなったのを確認すると、くたびれたような笑みを浮かべた。

「あつらえたみたいに誰もいなくなったね。運がいい……いや、どうでもいいか。僕の魔人能力がこういうのだって、みんな知っているのだから」

一人つぶやくと、真言は懐から3枚の金貨を取り出した。その中から王の絵が刻まれた金貨を残し、残りを再びしまう。そして、絞めていたマフラーを緩め、胸骨のやや上に開いている穴を露出させた。

「Get(ルーカー)……」

真言はつぶやくと、コインを穴に押し込む。

「Midheaven(僕に救いを)」

次の瞬間、真言の体は無数の蝿の群れに変貌していた。


**********


「う゛あ゛ー、焼きそばパン焼きそばパンー」

一人の少女が、体育着にブルマにフルフェイスヘルメットという前衛的な格好でグラウンドから駆けてくる。
彼女の名は安出堂メアリ(あでどう・めあり)。彼女の所属する1年19組は4時間目にグラウンドでの体育を行っていたため、紫苑による睡眠の洗礼を受けずに済んだのだ。
が、常識的な生徒達が着替えのために教室に戻っていく中、メアリは一人購買部に直行していた。
こうすることで時間を節約できるという彼女なりの考えではあるのだが、埃っぽいわ汗臭いわで周囲は大迷惑である。
もっとも、他の人間を食い物程度にしか考えていない彼女にとって、そんなことは問題ですらないわけだが。

「う゛あ゛ー……あ?」


購買部が見えてくる辺り。メアリの足がぴたりと止まった。
彼女の視線の先に見えるもの。それは、購買部前で折り重なって倒れた13人の少年達。
メアリは知る由もなかったが、彼らが校則違反四天王、及びモヒカン十傑(直前入院した一人を除いて9人)である。
そして、彼らの山の前で両手をはたいている少女。彼女こそ、風紀委員二年、車口文華(くるまぐち・あやか)。
風紀委員内でのじゃんけんの結果、購買部の正面の守りを固める役となった少女であった。
状況から見て、4限をさぼって購買部に襲い掛かろうとした13人を、文華が撃退した、といったところだろう。
が。

「あのー、そこの人ー。あなたを倒せば伝説の焼きそばパンが買えるんですかー?」

メアリは端的に言ってバカであった。

「……はい? いえあの」
「先手必勝ー、とー!」

ホスト神拳奥義『オーナー、貰っていきます』!!
ホスト神拳随一の広範囲対応用奥義である。
強く踏み込みながら、両手をまるで誰かを掻き抱くように交差させるこの技を完全に防御することは至難の技だ。
文華はたまらず、後退して回避!

「あーもう、ダメじゃないですか避けちゃ!」
「いえ、私だって命は惜しいですし……ですが」

ぷんすかと怒るメアリに、文華はす、と目を細める。

「今日はなんだか曇り空ですから……あなたの相手をしてあげても、いいですよ」
「そうこなくっちゃ! おいしいものを食べる前に運動するのは気持ちいいですしね!」

こうして、メアリに少々の理解力があれば発生しなかったはずの不毛な戦いが幕を開けた。


**********


「えーっと、どこなら大丈夫かな……」

時間は少しさかのぼり、昼休み開始直後。
2年17組の教室から一人の少女が廊下に出てきていた。
「廊下を走ったら購買を使用できない」という制限がある今回の争奪戦では、廊下を利用する人間は珍しい。
この少女、名を天ノ川 浅葱(そらのかわ・あさぎ)という。
2年17組の学級委員長でありながら実は怪盗ミルキーウェイとして活動しているという、変り種の学級委員長だ。
そんな彼女が何をしているかというと、ミルキーウェイの変装をするための場所を探しているのだ。まさか教室で着替えて正体公開タイム! というわけにもいかない。
やはりこのような場合、王道はトイレということになるのだろうか。彼女もその結論に至ったようで、校舎の端にあるトイレを目指して移動を始めた。

「……あー……」
「え?」

と、移動していた浅葱に誰かが声をかける。
浅葱が声の方角を見ると、そこには一人の少女が立っていた。
ふわふわのロングヘアに眠そうな顔の少女。
須楼望紫苑であった。

「須楼望……さん? えーと、ごめんなさい、急いでるので」
「急いでるー……天ノ川さんもー、やっぱり焼きそばパンですかー?」
「え、ええと。まあ、そうです」
「……」
「す、須楼望さん……?」
「……だったらー……邪魔しないといけないですねー」
「!?」

特に何か変化があったわけではない。
それでも、浅葱は確かに、紫苑の周りに漂う空気感が変質したのを感じた。
浅葱は直感する。まずい。このまま彼女を放置しては取り返しのつかない事態が起こりうる……!

「っ……たぁぁぁぁっ!!」
「……『夢心地悠……(トロイメ……)』」
「……首筋の絆創膏斜め45度! せぇいっ!」
「ぁフんっ♪」

勝負は一瞬で決した。
一気に距離をつめた浅葱が紫苑に接触し、魔人能力『見抜く』を発動。
紫苑の弱点である『首筋の絆創膏』を見抜き、そこに打撃(一般女子魔人チョップ)を加えることで、紫苑の能力を発動させることなく即座に無力化したのだ。
あまりに弱点だったのか、紫苑は地面に倒れ、びくびくと痙攣している。

「だ、大丈夫かな……やられる前にやれの精神だったけど、須楼望さん具体的に何かしてきたわけじゃないし……ん?」

浅葱は目をむいた。チョップの衝撃で紫苑の首筋の絆創膏がはがれ、隠していたものがあらわになったのだ。

「何かの……噛み跡……?」

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