忘れられた世界の狭間

プロローグ05,放たれた光

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その日、天宮に謎の集団が門の前に来ていた。


「水の一族でございます。天の一族の者に呼ばれて参りました」






         プロローグ05,放たれた光






 「親父が俺に部屋に来いだと?」


 聖は小夜に源三が自分を呼んでいることを聞いた。 


 親父である源三が自分を呼ぶ理由は聖には一つしか考えることは出来なかった。



 ―――とうとう俺を殺すつもりか?―――




 自然と聖の顔に笑みが浮かんだ。


 「ありがとな小夜、俺はこれから親父の部屋に行って来る」


 小夜は「行ってらっしゃいませ」と言うと頭を下げた。


 後ろを向きながら手を振る聖は父である源三の部屋に向かった。










 源三の部屋は布団と本棚と机以外何も無かった。それは、不要な物は要らないと言う常に硬い源三の心の現われであり、逆に考えればさびしさも見ることが出来た。


 そんな部屋で父子は向かい合わせに対面していた。


 聖はただ目を閉じていた。


 聖は源三を憎んでいる訳ではない。

 でも憎んでないと言えば嘘である。
 つまりは源三が自分をどう思っていおうがどうでも良いと思っており、自分がこれからどうなろうが別にかまわないと思っていた。


 一方の源三は、考え込んでいた。

 普段の無愛想な表情からは読み取れないが実は聖のことは大切に思っていた。
 でも、それは異端である聖を愛することは今までの自分の生き方を否定することであり、一族全体を裏切ると言うことになる。

 そのため聖を愛することが出来ず、聖を今のように隔離したりして厳しいように接してしまい今に至ってしまった。

 それと、先代宗主からの命令のことであった。




 「聖、今から私の後について来い…これは命令だ」

 突然の沈黙を源三は破った。

 部屋を出て行く源三の後を無言でその後ろを歩いて行く。


 廊下を歩くだけで庭に居た子供や大人達が聖のこと恐怖の視線で見る。

 聖はそんな視線はなれっこでもう気にしないようにして歩いた。



 源三がつれて来たのは、天宮の中央にある本堂であった。

 聖はそこに入ると同時に激しい吐き気と頭痛に襲われた。



 歯をきつく閉めてかろうじてその痛みを抑えてつけて源三の後ろを歩いた。


「……親父……俺をこんな所によんで何のつもだ?……あ、いや……」

 もう一度あたりを見回して不敵な笑みを浮かべた。


 「いや……親父達かな…」


 真っ暗で漆黒に近い本堂の中に居る術者の姿は普通の目では見えないはずだが、力は弱まっているが闇の力を持っている聖には闇の中の術者の姿は丸見えだった。


 (くそ……頭がいてー……早めにケリつけなくちゃやばいかもな)


 強がっているが少しずつ本堂の結界の力は確実に聖の体を蝕んでいた。


 普通の術者程度なら獄煉で殺すことなんて歩くことよりも簡単にできた。

 しかし、今は結界によって体の力が弱まっているし、さらに目の前には現在天宮最強の術者である父である源三が居るのだ、これ以上力が弱まると普通の術者にも勝てなくなるかもしれない。

      分家        源三
 そのため、雑魚は後回しにして最強の敵に常に意識を集中した。


――――だが、聖は天宮全体を甘く見たためその選択を間違えてしまったのだ。



「「「『我らに盾突く闇よ、天照より遣わされたその力により御の宮に弱めたまえよ』」」」

 聖の意識が源三に向いたのを確認したのと同時に術者達が祝詞を唱え始めた。

 それと同時に聖は今まで以上の苦しみと痛みが全身を襲った。

 「うあああ!!!!!!」


 あまりの激痛で流石の聖も床に膝を突いて頭を抑えた。


 その後すぐに頭を鈍器のような物で殴られた気がしたがそれを確認するまもなく聖の意識は途切れた。





 「聖?」

 小夜はふと聖の声がして気がして辺りを見回した。

 「小夜ちゃん?」

 「どうしたの小夜?」 

 鞘と小夜が突然立ち止まった小夜を見て不思議そうな顔をした。

 「あ、何でも無いわ、大丈夫」

 言葉ではそう言っていたが小夜の心には胸騒ぎがしていた。

 (聖……何も無ければいいけど……)








 「く……あ……うう、くっそう」

 一体気絶してからどの位の時間がたったのだろうか聖は不快な感じと共に目を覚ました。

 両腕は天井から鎖で吊るされて、両足も固定されて身動きが取れない状態だった。
 力を込めたが、獄煉はおろか気さえも使うことができなかった。

 「ちっ……絶望的だな……こりゃ……」


 聖は無駄な行動を取るのをやめ、今の自分の陥っている状態を確認した。





――まず、手足はおろか体すら動かせなくて、使えるのは手の指くらい

 まだこれはどうでも良い、所詮は聖にしては手も足も道具としか見ていないからどうなろうがかまわなかった。





……問題は次からだ

――気闘術はおろか、聖の最大の武器である獄煉が使えない

 聖はこの頃小夜に気闘術を教わって少し使えるようになってきたぐらいで、聖の……いや天宮最強の力である獄煉が使えないことは聖には致命的なことだった。




――辺りは闇一色にそまっており唯一自分を縛っている鎖と固定具、そして地面と天井の木の材質と木目ぐらいしか確認できない


 今の状況がわからないため、何も動くことができない、それに気を断っているのだろう。一切の物の気配がしない、そのためただ時が過ぎるのを待つことが今できる状況だった。



 それからさらに時間はたった。



 暗闇と時間の流れのせいで聖はだいぶ衰弱していた。


 「……気分はどうだ聖?」

 突然辺りにほのかな光が生まれ、目の前から声が聞こえた。


 首を上げるとそこには見たことも無い術者達と源三、そして天宮の術者達が居た。


 「……最悪だな」


 今襲撃されれば何も抵抗できない。でも、それをしてこないことは何かやるんだと思った。


 「…ではお願いします」

 「うむ」

 見知らぬ術者達が突如動き出した。


 聖の周りが魔方陣と鏡が置かれて、魔方陣の周りには術者達が印を結んでいた。

 そして、数10分が過ぎて儀式の準備が終わった。


 「……では儀式を開始する」

 聖の周りの魔方陣が光りだした。

 術者は全員が一斉に手に印を組んだ。


 「一は二、二は三、無限、零、闇と光は二つで一つで相互の力は均等、今よりその力を分け裂き砕きたまえ、かの御鏡より命ずる……我が目の前の存在の力を2つに裂きたまえ」


 聖の体を囲っている鏡が白銀に輝き、徐々に正面の鏡だけに光が集中していった。


 次の瞬間、鏡が粉々に砕けて光がだんだん弱くなっていった。

 そして、光の中から人影が生まれた。


 「おお、これは……」

 「これが最強の光使い……」

 「顔は化物に似ているが」

 術者達が騒いでいる。

 聖は光に目をやられていたがだんだん慣れてきて人影の正体を確認した。


 そこにいたのは髪の長い少女だった。

 少女は肌は真っ白で雪みたいで、眼は聖の赤い眼の魔に対して真っ青の浄の気配の漂う眼、顔は聖とほぼ瓜二つだった。

 聖と少女はお互いを見合った。


―――相互の対極の力のせいだろうか?



―――同じような格好、同じような顔のせいなのか?



 術者達が見守るなか長い時間互いを見ていた。

 そして時間が経ち、徐々に少女の顔が笑顔になって行った。


 聖は逃げようとしたが縛られている自分には何もできない

 目の前に少女が立った。

 その手には光り輝く光の太刀が生まれた。

 少女はそれを横凪に掃った。




 ジャラン………


 次の瞬間、聖を縛っていた鎖がバラバラに切れた。


 それには聖も術者も皆が唖然としていた。


 聖は手足が急に自由になったが体制を整えて立ち上がった。


 「お兄ちゃ~ん!!!」

 顔を上げようとしたらいきなり少女が自分に抱きついてきた。

 持ちこたえようとしたが抑えきれなくなりその場に倒れこんだ。

 「うあ、や、やめろ……く……」

 聖は少女の拘束から逃れようとした。

 すると少女は身軽に聖の体からどいた。

 「いってー……おい、親父こいつ一体なんなんだ?」

 倒れた衝撃で頭を地面にぶつけたためか、頭を抑えながら源三に聞いた。


 「こいつはもう一人のお前だ」

 「は?」

 聖には源三が言った言葉の意味が解からなかった。


 「おい、こっちに来い」

 源三が少女に言った。

 長い髪を揺らしながら少女が源三の方に向いた。

 「私がお前の父親だ」

 少女は聖の方に助けを求めるような顔をした。

 「……お前がもう一人の俺なら確かにそいつは父親だ」

 聖は少女に笑いかけた。

 悲しそうな顔をしたが少女は少しずつ源三の近くに寄った。



 じーっと少女を源三は見ていたが、いきなり手を振り上げた。


 少女は身構えるが、次の瞬間ありえないことが起こった。



 ポン


 源三が少女の頭にやさしく頭を撫でた。

 少女は源三の顔を見上げ「おとうさん?」と言うと糸が切れた人形のように倒れてしまった。


 源三は少女を抱き上げて外を出て行った。




 辺りは闇に包まれて、月明かりが2人を照らしていた。

 源三は少女の寝顔を見た。


 聖も獄煉さえなければこの子のようになっているのだろうか……


 歩きながらそう思った。

     聖
 これから息子は地下に監禁されることになる。


 だが自分には何もできない


 聖と目の前の少女……どちらも自分の子だ。



 だが、すでには遅すぎた。


 不器用な自分のせいで聖を傷つけてしまった。




 それぞれが思いをめぐらせながら全ての始まりの運命の歯車は動き出した。


 役者はそろった……では物語を始めよう。




















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