あれから一週間が経った。
聖はあの日から一週間ずっと牢獄の地下深く幽閉されていた。
ここに人が来る時は食事と三日に一回ぐらいの様子見だけだった。
ただ眼をつぶって聖は時の流れるままにしていた。
―――苦しみはあった。
でもこんな苦しみなんて生まれてから今までの自分への差別と冷たい視線に比べるとこんなものは苦しみにすらならない
―――憎しみはあった。
でもそんなのは、自分が生まれてきたときからすでにしょうがない事だと思っていた。
むしろ今まで生きてこれたことぐらい不思議なくらいだ。
今まで生かしてくれてむしろ宗主に感謝したいくらいだった。
むしろ今まで生きてこれたことぐらい不思議なくらいだ。
今まで生かしてくれてむしろ宗主に感謝したいくらいだった。
だから別に自分は死んでもよかった。
むしろ今すぐ殺されてもかまわなかった。
ギギギギ……
その時、牢獄の扉が鈍い金属音を立てながら開かれた。
プロローグ06,暴走と別れと旅立ち
「なんだ?親父か?」
聖からは侵入者の正体を見ることはできない
でも強力な、並の術者以上の天契能力者だとは解かった。
ちかも絶好調時の自分と同じレベルくらいの強力な力を持った。
でも、その人物は聖の想像を超えていた。
「……あ、あ……お前は…」
そこに居たのは儀式の時に生まれた鏡から生まれたオルタナティブの少女だった。
まさかの人物だったが、聖はどうせ親父の命令で自分を殺しに来たのだと思った。
「……何のようだ…親父の命令で俺を殺しに来たのか?……くくく、だったら一撃で殺してくれよ……くくく…」
聖は、自嘲の笑みを浮かべながら少女に向き合った。
少女はそんな聖を見ていたが、突然牢屋の柵の錠をはずして聖のそばに寄って来た。
そして聖の頬を触った。
予想外の少女の行動に聖はすこし驚いた。
「……ごめんね……」
「……?」
頬を触っていた少女が突然小さくしゃべった。
「ごめんね……私が生まれちゃって……聖がこんなめになったのは私の……灯のせいなんだね…」
少女は泣き始めてしまった。
同年代の少女に泣かれたのは初めてなので聖はうろたえてしまった。
「え?あ、いや~さ、俺は怒ってないからさ(うわ~ん!!!助けてくれ!!!)…大丈夫だよ」
優しく話しかけた。
「俺は別に怒ってないからよ……気にするな」
これは本当のことだ。
むしろこの灯と言う少女が生まれてきてくれて自分の代わりに出てきてくれてよかったと思った。
それより、一番思っていることを灯に聞いた。
「お前は……なんで俺を非難するような眼で見ないんだ?」
その言葉に灯は不思議そうな顔をした。
「なんで?なんで……私が聖を非難しなくちゃいけないの?」
「……」
「聖は私のお兄ちゃんなんだよ?どうしてたった一人のお兄ちゃんを非難しなくちゃいけないの?」
「……」
「私が生まれちゃって……聖の居場所を取っちゃって本当に……ごめんね」
涙ながらに灯は言った。
聖は灯の言葉を聞いて付き物が落ちたような気持ちになった。
「ありがとな」
鎖を鳴らしながら灯の長い髪をくしゃくしゃと撫で回した。
灯は泣き顔のまま聖の顔を見た。
「気づかせてくれてありがとう……この世は敵だけじゃないんだな……小夜もお前も、俺の味方だったんだな……」
この時、聖は自分を化物としてではなく暖かな視線で見てくれる人が居ることに気がついた。
でも―――
「でも、もう灯……お前はここにこない方がいい」
灯がびっくりしたような顔をした。
「親父もお前を探してると思うぜ。ああ見えても親父は不器用な奴だからよ……」
灯は何か戸惑った顔をしていたが、聖は笑った。
―――■△×△■――――
灯が去ってしばらくした後聖はある考えをしていた。
―――もう天宮に自分を暖かい眼で見てくれる人が居たんだな。
自分を化物としてではなく聖として……一人として見てくれる人が居てくれたことは聖の心を満たしてくれていた。
―――でも、俺が居てはそいつらに迷惑がかかる
聖は自分を孤独から救い出してくれた人たちが自分のようになるのが怖かった。
そのため、聖は一つある決心をした。
「使って見るか……最大出力の獄煉を……」
獄煉が封印されているは聖は体で感じ取っていた。
自分の奥底でどこか暴れたい、出たいという何かがあるのは解かる。
封印されている今の状況でも威力は十分だった。
でも、それを使うとどうなるかは自分には解からない。
この鎖の術を破るのには今現在の最大出力しかなかった。
「それじゃ……始めるか……」
聖は眼をつぶり詠唱を唱え始めた。
『……内なる闇に眠る真の闇よ―――我が血,肉,骨は共にある――』
その術は聖が独自に編み出した術であった。
ただ、自分の体が持つかが問題だった。
『――後塵の牙よ……―――』
そして、最後の言葉を紡いだ。
「奏でろ―――轟邪・獄煉……」
その言葉を紡いだとたん聖を縛っていた鎖が粉々に砕け散った。
そして、通常時以上の爆発的な規模の獄煉があふれ出てきた。
強力なエネルギー(最大出力)×爆発的な爆発
その強力な力の前に牢獄の結界は跡形も無くなった。
だが、その時、すでに聖の精神はもうろうとしていた。
(くそ……意識が……もうだめか……)
ついに意識を失った。
聖の意識が失ったのと同時に灯はふと嫌な予感に襲われていた。
―――聖
灯はすぐに聖の元に走った。
牢獄の所についたと同時に牢獄がバラバラに吹き飛んで中から何か黒い禍々しいものが飛び立っていった。
その獄煉は見間違えることは絶対ない聖の獄煉だった。
騒ぎを聞いて術者達が来たがすでに聖の姿は無く、残ったのは「聖」と無き叫ぶ灯と跡形も無く吹き飛んだ牢獄だった建物だけだった。
■△×△■
「ここは…何所だ…?」
聖は見知らぬ土地で眼を覚ました。
どうやらここは何処かの丘の上らしい。
「君、そんなところで何やってるの?」
突然声をかけられて聖は声の主を見た。
そこに居たのは茶髪の髪をしたタバコを吸った女性だった。
「ねえ、少年…親は?」
女性の言葉に聖は黙り込んだ。
しばらく時間がたって女性が聖に一言だけ言った。
「私と一緒に来る?」
「……え?」
聖は目の前の人の発言に目を丸くした。
始めてあった自分に一緒に来ないかなんて普通は言えないはずだ、でもこの女性は平然と言ってしまっている。
「君、妙な力を持ってるね……ちかも封印されているときたか…」
そして女性は自分の力に気がついていた。
ただの女性じゃない。
そう思うと自然と距離を取っていた。
「ねえ、君その力を自分で自由自在に使いこなせるようになりたい?」
女性は突如真剣な顔で聖に言った。
「今の君にはその力を極めるすべは無いと私は思うわ……
でも、私ならその力を使いこなせるようにできるわ……
だからあ、一緒に来ない?その力の使い方と使い道を教えてあげるよ」
聖は呆然としていた。
目の前の女性が言っていることは本当だろうか?
この力が本当に制御できるだろうか?
聖は女性の方に歩いた。
そしてその眼は強い決意の眼をしていた。
「それで、答えは?」
女性が聖に笑いながら聞いてきた。
「―――僕も連れて行ってください―――」
聖は女性にそういった。
女性はタバコを捨てるとそれを足でぐしゃぐしゃにすると言った。
「少年…私の名前は紅月 司乃…君は?」
聖は司乃の眼を見て言った。
自分の存在を誇るように
「天宮…いや、真宮 聖」