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高上 夢路

ステータス(レーティング:B)

  • キャラクター名:高上 夢路
  • よみ:たかがみ ゆめじ
  • 性別:女性
  • 体型:華奢
  • 学年:高等部1年
  • 部活:スクールアイドル部
  • 委員:-
  • 武器:大麻
  • 初期ステータス
    • 攻撃力:1 防御力:1 体力:5 精神:3 FS(憑力):20
    • 移動力:2
  • アビリティ
    • 『普通』

特殊能力『八百万神の生き偶像(アイドルエイトミリオンズ)』(発動率:100%)

効果:特殊能力コピー即発動
範囲:MAP全体
対象:敵味方1人
非消費制約1:コピー対象のキャラクターは死亡していなければならない(死体消費されていても能力の対象になる)

※GK転校生の能力はコピーできない。
※コピーした能力の対象は(その能力が)発動するターンの行動提出時に選択する。

要約:そのラウンド中死亡したキャラクターの能力をコピーし、発動する

能力原理
自身を寄り代として死した魔人のシスマを顕現させ、能力を使うことができる巫術の奥義。
術を使う前にはライブパフォーマンスを行い、トランス状態になる。

キャラクター説明

身長:145cm 体重:ないしょ
血液型:O
生年月日:1998年9月30日
出身地:神奈川県川崎市
趣味:アイドルアニメを見ること、他のアイドルのライブに行くこと
好きな食べ物:にんにくラーメン
将来の夢:いつまでもファンの皆に元気をあげる人でいること
(妃芽園スポーツ6月号掲載の特集記事より抜粋)


最近全国の中学高校で人気のスクールアイドルの1人で中等部時代から活動している。
肩に届くくらいの髪は鮮やかな金色だが毛先が紫がかったピンクという独特なカラーリングで、ツインテールにしていることが多い。
大きな青い瞳で口も大きい。声も大きい。胸は小さい。
常に元気いっぱいのダンスと歌で中等部時代から評判が高く、学園内はもとよりネット上でも人気を集めている。

中等部3年の春休み、実家に帰省中に事故に遭ったとの噂も流れたが4月には無事寮に戻り、アイドル活動を再開。
ますますパフォーマンスに磨きを見せ、秋に開催されるスクールアイドルの祭典・愛活(ラブライブ)フェスでも優勝候補の一角と目される。


本名:工藤ふさゑ
身長:145cm(背すじを伸ばすと155cm) 体重:35kg
生年月日:1911年6月2日
出身地:青森県むつ市
趣味:夫の霊を降ろしての自慰行為
好きな食べ物;ふじりんごジュース
将来の夢:できるだけ死なないこと


恐山で1000年に1人と謳われた伝説のイタコ。
幼少期から際立った霊感を見せ、70歳を超えて以降、その巫術は憑依させた霊の生前の魔人能力をコピーしたり当人の肉体へと自らを変異させたりという域に達する。

夫が死んで20年が経ち、同居していた息子も亡くなったため、神奈川県に住む孫夫婦のもとで暮らすこととなった。
曾孫に当たる一人娘、夢路とも打ち解け、彼女からアイドルの話を聞かされ一緒にアイドルアニメを見るなどして穏やかな晩年を過ごしていたが、夢路は交通事故で世を去ってしまう。
孫夫婦が深い悲しみに暮れる中、ふさゑが夢路の霊を呼び出し、最期に未練はないかと尋ねると、彼女は果たせなかったアイドルとしての夢を語るのだった。

現在の高上夢路はふさゑが彼女の霊を降ろすことで変身した姿であり、愛活(ラブライブ)で優勝するまでという約束で夢路はふさゑの体を借り、ふさゑは夢路を演じている。

エピソード

『ユメに命を吹き込むよ…』
「ユメちゃーん!!」「愛してるー」「最高ーッ!!」

 イントロに続いての夢路の歌声に、満員の客席からまばらに歓声があがる。
『Dream bless』。
『アルカイックハート』『ミチシルベ』『Landscape』……数多くの人気曲から大舞台に選んだこの曲は、アイドル・高上夢路のデビューソングでもあった。
 スクールアイドルの甲子園とも言われる国内最大級のライブイベント・愛活(ラブライブ)フェスティバル——そのステージに今、夢路は立っていた。
 トレードマークのツインテールを揺らし、歌とダンスを披露する。

『街に溢れてる 人の数だけ光るユメ
 それぞれを 自分で抱きしめてて』

 左手で胸を抱き、右手ですっと客席を指しつつその場でターン。自分を囲うように客席を埋める5万5千人全てに、その指先は向けられる。
 学校でやるライブとは動員数が二桁違う。もとからの自分のファンなんてきっと半分もいないだろうし、この後も幾多の強豪スクールアイドルが控えているのだ。
 緊張しない、怖くないと言えばウソになる。

——それでも、同じだわ。

 怖いと言うならいつだってライブは怖かった。時には逃げ出したい気持ちを押し隠してステージに立った。
 けれど自分はここにいる。ここまで歩いてきたのだ。
 今は自分だけのステージ。全てのお客さんを魅了してみせる。
 それが高上夢路の見てきた夢。

——来てくれてありがとう、みんな。

 歌う前に言ったことを、心中で改めてつぶやく。

——それと、ごめんね。

 夢路には一つ、言わねばならないことがあった。



「夢だが……」

 工藤ふさゑが目を覚ますと、頭上にはいつもの白い天井。
 妃芽園学園高等部学生寮、自室のベッドの中。そして股を濡らす冷たい感触。
 自分のオムツを替えるところからふさゑの1日は始まる。
 体を起こし、ペリペリとテープを剥がし、お尻拭きで陰部を清める。皺くちゃの手の動きは緩慢だが淀みがない。なにしろオムツをするようになって20年、毎朝の習慣なのだ。そこいらの介護福祉士より上手いと自負している。
  脱いだオムツは小さく折り畳んでベッド下の脱臭フィルター付き汚物入れに。履き替えたのは新しいオムツ……ではなく、青と白のストライプ柄の下着。
  骨と皮に痩せ細り、老人斑の浮き出た脚を通していく。これもまた毎朝のことだった。
  もっともこちらはここ数ヶ月のことなのだが。

「ユメ? 起きてる?」

 コンコン、と軽いノックに続いて聞き慣れた友人の声が名を呼んだ。

「起きてるわ。でも、着替えるから先に食堂へ行っていて」

 ふさゑのしわがれ声とはちがう、澄んだ少女の声がそれに答える。答えたのはふさゑであってふさゑではない。
 すでに()()が来ている。ふさゑの口を借りて答えたのだ。

『いい? おばあちゃん』
「来へえ」

 脳内に響く曾孫の声に頷くと、ふさゑはすっくと立ち上がり、直後、その体が光を放つ。
 窓を閉めた部屋にひゅうと風が吹き抜け、ベッド脇に下げた神楽鈴がシャラシャラと鳴った。

 柳田国男の薫陶を受けた民俗学者・折口信夫によれば恐山のイタコの歴史は古代、邪馬台国の女王・卑弥呼が誇った巫術に端を発するという。
 自身の治世が続くことを快く思わない勢力が台頭し、身に危険が及ぶことを神通力で予知した彼女は死を装い、遠く本州の北端まで逃げ延びた。
 以後、その地に脈々と受け継がれた卑弥呼由来の巫術はアイヌ文化との交流の中で現在に近い形へと確立され、その術を行使する巫女はいつしかイタコと呼ばれるようになった。
  そして、その極みに達した者は、自らに降ろした霊に合わせてその肉体すらも変異させるという。
  恐山の長い歴史でも十人もいないとされるが、その一人がふさゑだった。

 ふさゑの折れ曲がった背すじがピンと伸びたかと思うと、枯れた肌には少女のハリとツヤが戻り、白髪もまばらな頭皮からは目に鮮やかな金髪が瞬く間に肩まで伸びる。
 萎びて垂れ下がっていた乳房はあるかなしかの微かな膨らみへ。縞パンの内側、膣内では処女膜が再生する。
 昭和の大女優・原節子は「永遠の処女」と言われたが、アイドル・高上夢路もそうだった。ちなみにふさゑは原節子より10歳上である。

 変異が終わると同時、風が止む。
 時間にしてほんの数瞬。そこには縞パン1枚の小柄な少女・高上夢路の姿があった。


「……あ、おはよう。待っていてくれたの?」
「うん、行こ。ユメ」

 制服に着替えて廊下に出ると、そこにいた友人ににっこり笑って挨拶する。つられて彼女も笑顔になった。笑顔はアイドルの基本——『少年ハリウッド』でも言っていた。
 その後、朝食を摂り学校へ向かう途中も、夢路はすれ違う一人一人に笑顔で挨拶。みんなも同じく笑顔を返してくれる。
 愛孫(まなまご)へと向けられる笑顔。そのたびにふさゑは、心のどこかがちくりとするのを感じていた。


 ふさゑが高上夢路となった経緯(いきさつ)は約半年前、夫が死んでから一緒に暮らしてきた末の息子・敏文が亡くなったことに遡る。
 102歳ともなれば子どもも高齢だ。塩分過多な食文化と冬の寒さから高い脳卒中の発生率を誇り、平均寿命全国ワーストの青森県民なら、子どもが先に逝ってしまうのもしかたのないことだった。
 一人になったふさゑに一緒に暮らさないかと声をかけてきたのが神奈川県に住む孫の路彦(みちひこ)夫婦。
  長年のイタコ生活で貯めた金もあるのでいいホームにでも入ろうかと思っていたふさゑだが、彼らの強い勧めに折れることとなる。
  夫や子どもたちの墓は青森に残して来てしまったが、口寄せすればいつでも会えるので寂しくはなかった。

「ひいおばあちゃん? はじめまして! 高上夢路です」

 路彦に手を引かれて降りた新横浜駅。
  改札前で待っていた路彦の妻の隣には小柄な——腰の曲がった自分と同じくらいだ——
  女の子がいて、挨拶と共にぺこりと頭を下げた。
「夢路。実は赤ちゃんの頃に会ってるんだよ」
「えっ? そうだったの? ごめんなさい、おばあちゃん」
 路彦に指摘され、あわてた風にまた頭を下げられるが、ふさゑも正直今まで忘れていたのでとがめる気にはならない。それより、天真爛漫な笑みから八の字眉の申し訳無さそうな表情へ、コロコロ変化する彼女の顔を眺めていた。
 大きな碧い瞳に小さな鼻。金色の髪を2つに結い、ふわふわしたスカートを履いている。
可愛い(めごい)顔してらなあ』というのが第一印象だった。

「おばあちゃん、私、アイドルをしているの」
「なんだが?」

 路彦の運転する車内で、隣に座った夢路が言う。
  路彦によればアイドルとは歌手の一種——夢路は「アイドルは歌手だけじゃないわ」と抗議した——らしいが、ふさゑは最近のことはよぐわがんねと思った。
  路彦が挙げたおニャン子クラブも光GENJIもチェッカーズもふさゑには最近のことだった。

「オメエ歌っこ歌うんだが?」
「歌だけじゃないの。ダンスもMCもするわ」
「わいは」

 夢路は好きなものの話になると早口になるタイプらしく、自分がスクールアイドルという学校を拠点に活動するアイドルであること、学園の音楽ホールを借りてライブを開催していること、CDも出しているしネットに動画も配信していることなどまくし立てるように語ってくれた。
 正直何が何やらわからない。
 家に着くと、夢路は自分のためにライブなるものを見せてくれた。

 地下の防音室——もとは路彦が趣味の楽器演奏のために作ったのだという——でのソロライブ。
 観客はふさゑと、少し離れて両親。
 スピーカーからはふさゑがはじめて聴くアップテンポな音楽が流れだす。

——若い(わげ)者が聴いてるみてんだ曲だな……。

 スーパーなどに行くと有線で流れている、ふさゑには縁のない音楽。なるほど、曾孫もこういったものを好むのか。演歌も聞かない身にはやはりわからない。
 流れだして3、4秒、夢路がすっと息を吸う。瞬間、場の空気が変わったのをふさゑの鋭敏な感覚は捉えていた。

——なんだがこれ……。

 始まった歌と踊りを呆けたように眺める。

『知らない空 知らない人 知らない景色
 見知らぬものばかり 瞳に映ってる』

 右手をかざし、遠くを眺めるようにこちらへ視線を投げる。
 それに射抜かれたような感覚をふさゑは味わっていた。

 ふさゑも長生きしているから、芸事を見た生で見た経験も少なくない。
 地元津軽の民謡に舞踊。名人・高橋竹山の津軽三味線を聴いたこともある。
 イタコの巫術もその修業過程では楽器を用いるなど、芸能的な要素も含んでいる。そもそも芸という営み自体、神事から派生する形で生まれたという話もあった。

 ジャンルがちがうので彼らと夢路、どちらが熟達しているのかわからない。熟練度で言えば、若い夢路は荒削りなところも多いのかも知れない。
  ただ、彼女がパフォーマンスを始めた途端に、明らかに存在感が異質なものへと変化したのがふさゑにはわかった。
 目の前の夢路は夢路なのに、別な何者へと変わっているかのような。

『見知らぬもの 見に行こうよ
 見慣れた未知 探しだすよ
 未知に満ちたセカイにも 道は切り開けるから』

——イタコ(オラだぢ)みてだな……。

 口寄せによって別人の魂がその体に降りている、その時の気配の変化に似ていた。
 もちろん霊的な力が実際に働いているわけではない。
 しかし神がかり……というべきか、高上夢路の不思議な空気を纏ったパフォーマンスに、ふさゑはただじいっと魅入っていた。

 歌が終わった後もふさゑはしばらくそのままで、我に返ったのは尿が漏れてオムツを濡らした時だった。

「夢路は魔人だが?」

 何の根拠もなく尋ねていた。両親はぎょっとし、夢路も少しおどろいた風に目を見開いて、くすりと笑って首を横に振る。

「いいえ……多分ちがうわ。私、ただのアイドルよ」
「アイドル……」

 またそれか、とふさゑは思った。

  1.偶像。
  2. 崇拝される人物。
  3.多くの人から憧れの対象となる人物。熱狂的なファンを持つ人。「——歌手」

 ルーペを手に辞書を引くとそのように書かれていた。なるほど、夢路を指すアイドルとは恐らく3の意味だろう。
 偶像——神仏を象り、信仰の対象となる像。
  神を祀ってもその姿を見ることは叶わない人間が作った、神威だけでも現世に留めおくための似姿。
 ふさゑにとっては身近な存在だ。霊山として知られる恐山は古くに菩提寺が建立され、山中各所で大小の仏像を見ることができる。
  それに、目に見えぬ存在を顕現させるという意味では、自分たちイタコも生きた偶像と言えるかも知れない。

——イタコとアイドルは同じなんだが……!?

 一瞬そんな考えもよぎるが、それはないと頭を振る。あくまでものの喩えだ。アイドルは崇拝じみた好意を集めこそすれ、神を模しているわけではないのだろう。
 ただ、やはりあの時の夢路は自分たちに似て思えた。

 その後も、夢路はよくふさゑにアイドルの話をしてくれた。
 基本的にすることのないふさゑは夢路が歌や踊りの練習をするのを眺めたり、彼女とアイドルアニメを見たりして過ごした。
  夢路以外にも多くの学校にスクールアイドルがいるらしく、夢路はパソコンで彼女らがネットに挙げている動画を見せてくれた。
 秋に開催されたという高校生スクールアイドルの祭典・愛活(ラブライブ)のライブ映像も。
  そこに出場しているアイドルたちは夢路曰く「今の私よりずっとすごい人たち」らしい。魔人能力だろう。炎を纏ったりマスコットらしき謎の生物を召喚したりと超常的なパフォーマンスを行う者も多い。
  しかし、目の前で見たからかも知れないが、ふさゑはこの曾孫が一番輝いていると思った。

「私もね、来年は高校生だから次の愛活(ラブライブ)には絶対出るの」
「夢路だば優勝だべ」

 そう言うと夢路は「褒めすぎよ」と笑う。本戦出場だけでも倍率30倍という難関らしい。けれど、当人も「出られれば御の字」なんて考えてはいないのだろう。瞳は燃えていた。

「今よりもっともっとたくさんの人を、私はアイドルとして笑顔にしたい。それが、私の夢」
「夢」

 それが、彼女の眩しさの理由なのだろうか。
 たしかに、アイドルというのは「恋」以上に「夢」についてよく歌うようだ。
 年若い少年少女が夢を歌うのは様になる。しかし、自分には若いころから夢などなかったのでは——、一世紀超の人生を振り返って思う。

 もともと霊的素養があったために——それ故に周囲から浮いていたために——、国民小学を卒業すると親にイタコの修行へ出された。口寄せをはじめ、修行で磨かれた霊感は色々と重宝したが、イタコとして大成しようと夢見てはいなかった。
 結婚し、今ではたくさんの孫に曾孫までいる。別に誇らしくはなかったが、イタコとしても有名になった。
  不幸な人生でもなかったはずだが、夢を見たこともなくこのまま死ぬのだろうかと思うと、急にずいぶんさびしいものに見えてくる。

「おばあちゃんにも、きっと夢はあるわ」
「ババは年だはんで、そっだものねえよ。明日死んでもおがしくねんだ」
「わからないわよ、そんなこと」

 夢路は眉を吊り上げ、ぐっと拳を握る。

「私だって明日死ぬかも知れない。それでも夢はあるわ。おばあちゃんだって何か夢を持てば、きっと生き生きして、もっともっと長生きできるかも」

「ね」と夢路は言う。
  これ以上長生きしたくもなかったが、しかし、この孫のアイカツ——夢路曰くアイドルとしての芸能活動全般のことだという——を眺めていられるなら、それはいいことかも知れない。

 夢路は地元の老人ホームでもライブを開いていた。
  ふさゑもくっついて行くと、自分の子どもくらいの年なのにヘルパーさんに車椅子を押してもらっている入居者が大勢いた。
  認知症が進んでいるのか、言葉をほとんど発しない者も多かったが、夢路が歌いだすと手を叩いて喜んでいた。自分も一緒に手を叩いた。今まで見たこの手のもので一番楽しいと思った。

  そうして過ごす時間はすぐに過ぎ去り、冬休みも終わりということで夢路は学校の寮へ戻らねばならなくなった。

「心配しないで、おばあちゃん。電話もするし、週に一度は動画をあげるから、パパに言えば見られるわ」

 駅での別れ際、皺くちゃの手を握って夢路は言う。

「ババは死んでも魂さなって見に行ぐはんで、心配すな」
「もう……、またそういうこと言う」

 夢路が口を尖らせて、すぐくすりと笑う。ふさゑもそんなことを言いながら、次会う時までできるだけ生きていようと思っていた。できれば来年秋、夢路が愛活(ラブライブ)で優勝するまでは。

「それじゃあ、春休みにね」
「へばな」

 二人は笑顔で別れる。
 それが、生きた夢路を見た最期になった。


 修了式の日、寮から実家へと戻る途中で夢路は事故に遭い、亡くなった。遺体と対面した孫夫婦はその場で泣き崩れ「駅まで迎えに行っていれば」と何度も繰り返している。

「……」

 ふさゑは曾孫の死を知らされてからずっと呆けたように黙り込んでいる。

 死を悲しいと思ったことはあまりない。息子が死んだ時も涙は出なかった。幼いころから死後の世界を見てきたためか、死ぬということの重さをあまり実感したことがなかった。
 しかし、夢路には生きて叶えたい夢があった。
 そのことに触れると、ふさゑも胸にぽっかり穴が空いたように感じる。

「夢路……」

 名を呼んだ。死後間もないなら霊はそのあたりにいるはずだ。仰々しい儀式を行わずとも簡単に呼び寄せられる。
 すぐさま、ふさゑの視界に夢路の姿が浮かび上がった。

「おばあちゃん」

 口を開き、ふさゑにだけ聞こえる声で名を呼ぶ。

「私……死んだのね?」

 こくりと頷く。死んだばかりの霊は自分は生きていると訴えることも多いが、落ち着いていた。
 ふさゑは夢路に尋ねる。

「お父さんとお母さんさ、言うことねが? ババの体ば貸すはんで話っこしろ」

 口寄せを頼みに来る者の多くが、死者ともう一度話したいと望む。夢路はしばし押し黙った。
  何を言うかまとまらないのだろうか。大丈夫、いくらでも話せばいい。それとも会えば未練がつのる、と15歳の子どもには殊勝すぎる迷いがあるのか。

「おばあちゃん、私……」
「なんだ?」

 一度口を開いても、夢路はまた逡巡するように目を泳がせ、そして。

「私——」



「……また夢だが」

 目を覚ますと白い天井。
 下半身は裸でベッドに仰向け、股間と右手の指は愛液で濡れている。先ほどまで自慰に耽っていたのだ。イッた直後に眠気に襲われ、寝てしまったようだ。小便を漏らさなかったことに少々安堵する。

 さっきまで見ていたのは、自分が高上夢路となった日の夢。

『私、まだアイドルやりたいっ……!』

 打ち明けた夢路は直後、「ご、ごめんなさい! 忘れて」と首を振るが、ふさゑは「へばやるが」と答えていた。
 ふさゑの口寄せは自身の肉体すら変異させる。それを以ってすれば、生前の高上夢路をほぼ完璧に再現可能なはずだ。

「オメエがババの体で構わねんだば、いくらでも貸してける」
「でも、おばあちゃん……!」
「『夢』なんだべ? やらねんだが」

 ふさゑの問いかけに、夢路はまた黙り込んでしまう。5分、10分……どれくらい過ぎただろうか。やがて彼女はこくりと頷いた。

 夢路が死んだことは家族の間だけの秘密となり、今年秋の愛活(ラブライブ)フェスティバルに出場し、優勝するまで——優勝できなくてもそこで潔くあきらめる、と夢路の方から期限を付けてきた——ふさゑの体でアイカツを続けることとなった。
 今日も夕方まで授業を受け、その後はフィジカルトレーニングにダンス、歌の練習をみっちりと行っていた。ふさゑの体を借りた当初は違和感があり調子の出ないところもあったようだが、最近は歌もダンスも生前以上にキレを増している。
 そして肉体を共有する日々の中、ふさゑは夢路が常に失敗への不安を抱えていること、しかしステージに立ちライブが始まるとそれ以上の高揚感、ファンを笑顔にできる達成感を覚えていることまで伝わってくるのだった。
 日常生活でもふさゑの影響を受けているのか、「なんか仕草がババ臭くなった」と友人に言われて慌てることはあったが、基本的には問題ない。
 秋のフェスに向け、全ては順調に進んでいる。
 けれど。

「なしてあった夢見たんだべな……」

 そう呟くが、わかっていた。自分は迷っている。あの時の自分はどうかしていたのではないだろうか、と。

お父さん(とちゃ)、まだいるが?」
『いるじゃ』

 自慰のために降ろしていた夫・喜助の霊に呼びかける。

「オラ、どせばいいど思う?」
『何がだ』
「夢路だっで嘘吐いででいいべが?」
『何言っちゃあ。今さらだべ』
「だばっで夢路の「ファン」ど友だぢの子どもたち(わらはんど)騙してらんだ。……それに、夢路さもよぐねんでねが」

 口寄せにおいて、霊にあまり長時間体を貸すのは好ましくないとされている。一度は失った生身の感覚に長く浸れば生への執着を再燃させることになる、と。
 それに、やはりこれは偽物に過ぎないとふさゑは思う。生きて積み上げた彼女のアイカツを、当人ではない自分を土台に続ける、それは高上夢路自身を貶めることになりはしないだろうか、とも。
 現役のイタコだった頃はそこまで潔癖な職業倫理を持ってはいなかった。相手が身内だからか、長く共にい過ぎたためにこんなことを思ってしまうのか。

『だはんで今さらだ』

 そのあたりの自分の葛藤を、喜助はばっさりと言い捨ててしまう。それはそうだし、こんなことを言うのは甘えでしかないかも知れないのだが、とない歯で唇を噛む。
  夫はあまり物を言わない男だった。そういうところが心地いいと思ったこともあれば、冷たいと思ったこともあった。
  ふさゑが黙ると『ただな』と言う。おどろいて顔をあげたふさゑに、喜助は続ける。

()はオメエが夢路といる時みてんだ顔見だことねがった』
「……」
『いい顔してら』
「……お父さん(とちゃ)
『だはんで、好きさせばいいびょん』

 夫の言葉にふさゑは目を丸くする。

「オラもお父さん(とちゃ)が生きてだ頃はそっだこと言われだことねがったよ」
(わげ)がったはんでな』

 高橋喜助。享年86歳。
 今度こそ喜助は黙ってしまい、そのまましばしの沈黙が流れる。やがてふさゑが口を開いた。

お父さん(とちゃ)
『なんだ?』
「ありがど」
『そった格好で言うなじゃ』

 ぶっきらぼうに答えて、喜助はその場からふっと消える。
  照れているのだろうか。生前よりずいぶん可愛げがある気がして、ふさゑは笑い、尿を漏らした。



「ねえ、おばあちゃん」
『なんだが』
 ホールでの定例ライブ、その待ち時間に夢路は尋ねる。
 高上夢路がふだんの声と老婆のようなしわがれ声で会話するように独り言を言う。ファンには見せられない姿だ。

「迷っていない? 私とアイカツしててもいいのか、って」
『今さらだべ、そっだこと』

 喜助に言われたように答えた。

「そうだけど……でも、迷ってたでしょう? 実際」

 夢路に言い当てられる。伊達に肉体を共有してはいない。

『そんだな。迷ってだな』
「今は……平気?」
『オラは、な』

 夫の言葉を受け、改めて考えた。
  自分はやはり、高上夢路が好きだ。彼女のアイカツが好きだ。もっと、一番近くで見ていたい。
 夢を叶えて引退する瞬間まで、彼女を守りたい。

「今は夢路がラブライブで優勝すんのがババの夢だ」
『…………ありがとう』

 かすかに声を震わせて、夢路は答えた。直後、時間を知らせるアラームが鳴り、控室を出てステージへ向かう。

『夢路は平気なんだが』
「私?」

 その道すがら——距離にして50mもないが——ふさゑは尋ねる。それが一番、ふさゑには気になることだった。

『オメエは嘘吐いでるってやましくねえが?』
「私は平気。だって、私——」



「ユメちゃーんっ!!」「夢路ーッ!」「高上先輩ーッ!」

 ステージに立つと眼前に満員の観客。よく見知った顔だ。顔馴染みにも、はじめての客にも、高上夢路のライブは同じように幕を開ける。

「みんな、来てくれてありがとうっ! 今日も、素敵な夢、一緒に見ましょう?
 最初のナンバーは——『Dream Bless』」

 歓声をあげる全ての観客に向けて、夢路は歌う。

『街に溢れてる 人の数だけ光るユメ
 それぞれを自分で抱きしめてて』

——私ね、最初から「ウソつき」だったの。
——ウソつき……なんでだ?

『「ホンモノのない時代」わかった風に人は言う
 だけどそんなの最初からウソ

 だって 何がホンモノと言うの
 きっと 誰もそれを知らないわ』

——私ね、小さいころから音楽とかバレエとか習ってて。お稽古は楽しかったんだけど、でも、本番になるとなんだかあがっちゃって全然できなくなる、弱い子だった。
——そんだんだが……。

 意外と言えば意外だった。
  これまで見てきた限り、アイドルというものは他の芸事に比べてもいっそう気丈でなければ務まらないのではないか……そんなふさゑの疑問は伝わったのだろう。夢路は答えるように言葉を紡ぐ。

——けどね、アイドルとしての私は、本当とはちがう、強い自分なの。堂々として不安に負けない女の子。私が作ったウソの自分が、アイドルの高上夢路。
——……。

 はじめてライブを見た日に抱いた疑問に答えが出た気がした。
  自分でない自分。理想という虚像——それを呼び出すから、きっと偶像(アイドル)
 イタコとアイドルは同じ——あの日抱いた考えが思い違いではないとふさゑは確信していた。

『だから信じて…』

——今の私は、前とちょっとちがうけれど、でも……高上夢路は変わらない。ステージでだけ、本物になるウソ。ウソだけど、ホントウ。だから、歌える。踊れる。

『ユメに命を吹き込むよ
 ツクリモノにも ニセモノだって リアルは宿るの』

——だからおばあちゃんが体を貸すの嫌じゃなきゃ、もう少し、ウソにつきあって……。
——つきあう、でねえ。
——え?
——オラもウソつきだ。オラも、高上夢路だ。

『信じるそれが始まりね
ホンモノの在り処 たった一つよ あなたのココロに』

 紡ぐ歌声、舞う体の指先まで、高上夢路の全てで主張する。これは本物と。

『それがココロの役目』

——そうね、おばあちゃんも、ね。
——ああ。


「ありがとうーっ!!」「次も見に来るよーっ!」

 アンコールまで含めて全ての曲を歌い終えると、カーテンがゆっくりと降りていく。見えなくなる最後まで、夢路は手を振っていた。
 いつも通りだが、ふさゑの胸にもこれまでより固い決意が宿っていた。愛活(ラブライブ)で優勝し、引退する時まで高上夢路であり続けると。

「『ふつうのおばあちゃんに戻ります』……って。引退と、死んじゃったことはみんなに謝らなきゃいけないわね」
『んだな』

 くすくす笑ってステージを後にする。その途中、そう言えば、と口を開いた。

『夢路』
「なあに?」

 さっきのやり取りで、彼女の言葉で一つだけ、ちがうと思ったことがあった。

『ババは見でだ。オメエは本当に強い子だ』
「……ありがとう」



 愛活(ラブライブ)への参加申し込みを出して以降、夢路はますますレッスンに熱を入れるようになった。

「デモテープの審査だって厳しいらしいわ。もう送っちゃったけど、すっごくドキドキする」

 2人きりの時には少し気弱なことも言う。

『高上夢路だば大丈夫だ』
「……うん」

 単に気休めで言ったわけではない。
 一つは、夢路のがんばりをいつも間近で見てきたから。もう一つは先日見た、愛活(ラブライブ)のステージに立つ夢。
 占術を修めたわけではないが、霊感に優れた者は予知夢を見ることがある。
  ふさゑも戦争中、空襲の夢を見てその日青森市に出かけるのをやめ、難を逃れたことがあった。
 予知夢のことは語らなかったが、夢路にも伝わるところはあったのだろう。安堵しているのがわかる。

「ねえ、おばあちゃん」
『なんだが』
「優勝して、私が成仏? したら、その後はどうする?」
『……』

 一瞬、頭が真っ白になる。
 たしかに、どうするのだろうか。
 いつ死んでも構わないとずっと思ってきたからか、今ある「夢」が叶ってしまったらどうするか、考えたことがなった。
  死ぬまで、特に何をするでもなくぼんやり過ごすのだろうか。

『……何かするべ』

 しばし考え、そう答えた。

『アイドルのライブさ行っだり、ホームさ遊びに行っだり。アイドルの歌っことか踊り、ババでもできるべが?』
「……きっとできるわ。おばあちゃんだもの」

 夢路はうれしそうに笑って言う。

『夢路はババが何せばよろこぶ?』
「それは自分で考えなきゃ。おばあちゃんが楽しそうなら、私一番いいわ。それを、ずっと見守ってる」
『ずっとだが』
「うん、ずっと」

 自分は、あとどれくらい生きられるだろう。5年? 10年? これまでの人生に比べれば、多分そう長くはない。
 それでも、できるだけ長く生きていたい——そう思っていられるなら、きっと悪くないはずだ。
「余生」ではない。これからだ、と。

 とりあえず今は、愛活(ラブライブ)に向けてがんばろう。
  帰ったらライブ映像を見て反復練習——夢への道のりは短くて長い。



 ふさゑが夢路に予知夢のことを明かさなかったのは、未来を知らせるのはその好悪に関わらずよいこととは限らないからでもあるし、予知自体があやふやだからでもあった。


 どれだけリアリティがある夢でも全く見当外れに終わったこともあるし、それに空襲の件を除けば、人生で幾度かあった重大事のほとんどを、ふさゑは予知できていないのだ。
 結婚すること、最初の子どもは流産になること、夫が癌で死ぬこと。
  最近では、夢路の死も。

 だから当然、後に妃芽園学園で勃発するハルマゲドンに身を投じることになるなど、この時には知る由もなかった。