目の前に広がるのは、どこか見覚えのある場所だった。おそらく浮上施設―――惑星ウォパル―――のどこか。見覚えはあるが、どこなのかは、記憶に靄がかかったかのように思い出せない。けど、自分はこの場所を確かに知っていると、そう感じていた。


 空は暗く、おそらく時間帯は夜といったところか。床に刻まれた装飾が光っており、視界は確保されている。


 だが、ふと目を向けた先には、水たまりとは思えない別の何かがあった。


 赤黒い、液体状のなにか―――そのそばに落ちている、人の腕らしきもの。誰のものかわからないソレは、確かにそこに存在している。


 酷い吐き気がした。自らの左腕が疼く。『いつの日か失い、亡き姉の腕を移植した』左腕が。


 私は歩き始めた。その通路の先へと、歩を進める。びちゃ、びちゃと、水たまりなのかを踏む音だけが辺りに響いていく。


 視界の端に、また見覚えのあるものが映る。誰だかわからない―――ヒトであることは理解るが―――死体。それも一人ではなく、何人も。ある死体は頭部がなく、またあるものは腹部から下を喪失しており、またある死体は、心臓があるであろう左胸にぽかりと穴をあけていた。


 ―――また、吐き気がした。確かに見覚えがあるのに、思い出すことができない。
必死に見ないようにし、先へ進む。先へ、先へ、先へ。


 少し歩いたその先に、なにか、誰かがいた。


 間違いなく、視界は確保されている。夜時間とはいえ、見落とすことはないはずだ。自分の右目が見落とすことがないのも、わかっていた。だからこそ、先ほどのすべての死体の状態を確認してしまったのだ。
 なのに、それでも、『それ』が『誰なのか』を認識できなかった。
 黒い霧を纏ったようなそれは、こちらをじっと見つめている。ような、気がする。


 恐怖を、覚えた。


 それが何なのか分からない。わからないという事実、それ自体に畏怖を覚えていた。今まで自身の目―――『義眼ガーロンド』が認識できないなんてことは、ありえなかったからだ。
 体が震える。その震えをぐっと抑え、私は喉から声を捻りだした。


 「―――"あなた"は、誰」


 返事はない。全くないが―――霧はこちらに歩みを進めてきた。
 直後、直感でまずい、逃げなきゃと感じた。早く距離を取らなきゃいけない、逃げなければ―――そう思ったとき、身体が全く動かなくなった。その場から一切動けない。
 足元を見る。つかまれていたりするわけではない。だが、逃げようとしても、足は動こうとしてくれない。
 動け、動けと必死に念じた。だが体は、無慈悲にも動こうとはしなかった。


 そして目の前に、なにかの気配を感じた。
 おそらく顔をあげれば、黒い霧はすぐ近くにいる。死を覚悟さえしてしまった―――その時、その気配のあるであろう場所のほうから声がした。


 「私は、私だよ。サーティーン。」

 「な―――――ッ」


声を聴いて咄嗟に顔をあげてしまう。その声は誰よりも聞いた声で、聞かなかった日などない声で。そこにいたのは―――


 「わた、し…」


 ―――かつての、私自身だった。