「だぁぁッ!」
「はぁっ!!」

 一度、二度と、剣戟が繰り広げられる。剣がぶつかり合うたびに、甲高い音が辺りに鳴り響く。十分離れている私のところにまで、ぴりぴいとした空気の振動が伝わってくるほどだ。
 観客も、横にいるアイアスも、その様子を黙って見つめていた。いや、『いるしかなかった』、というべきか。
 この武闘会場は既に、二人の闘気に飲まれている。それはそうだろう、宇宙を滅びの運命から救ったアークスの大英雄、守護騎士の悠さん。相対するはダークファルスと化し一度はアークスに敵対、六亡均衡全員を同時に相手取りながら、事実勝っている東雲。もはや決勝カードにも近いこの戦いは、あろうことか初戦から始まってしまった。
 手加減などない、この試合で完全に力を出し尽くすかのようなフォトンの放出量。肌で感じられる、二人の殺意、覇気。
 後ろを見てみると、ほかの出場者達が青ざめているのがわかる。自身の武器を落として、『もうだめだ』とつぶやいている選手までいる。…まぁ気持ちは分かるよ。さすがにこんな戦いを目の前で見せられたら、この後勝ち上がるであろうどちらかにすら勝てるとは思えない。

 「…おい、フェル」

 先ほどまで黙っていたアイアスが、唐突に口を開く。視線は、武闘会場の真ん中に向けたまま。

 「ん、なぁに?アイアス」
 「お前から見て、どっちが勝ち残ると予想する?」

 口から出たのは、アイアスらしからぬ『勝敗の予想』だった。普段のアイアスなら、間違いなく自分の中で結論がでるはずなんだけど。
 そもアイアスは、私たちイーリアスの名を持つ者の中で一番の戦闘特化だ。そのアイアスが私に予想を聞いてくるってことは…

 「アイアスにしては珍しく、勝敗の予想が確定しないんだ?珍しいこともあるものだね」

 少し茶化したように言うと、くすっとアイアスが笑った。

 「ここまでの戦闘になると簡単に予想はできんさ。…ただ、そうだな。ちゃんとした状況分析だけはできているぞ」
 「へぇ?…まぁでも、まず教えてくれない?アイアスの予想を、さ。」
 「まぁ、構いはしないが…。」

 そういうとアイアスは、また視線を二人に向ける。その先では、ちょうど東雲が何振り目かの無銘剣を生成し斬りかかっているところだった。

 「…まず相性だが、単純にこれは東雲が不利だろう」
 「東雲が…。その、根拠としては?」
 「単純な話だ。東雲の保有する『剣薙の陣』。あれを主軸に回す限り、東雲は負ける。」
 「『剣薙の陣』…、東雲がイメージをし続けるほど、周囲にフォトンが存在すれば無限に剣は生み出される、っていうものだよね」

 アイアスが口にした『剣薙の陣』―――東雲をダークファルスたらしめる、規格外の異能。自身が心象に思い描く剣を現実に在るものとして再現し、それを繰る。周囲にフォトンさえあれば、東雲がイメージを絶やさない限り無限にも剣を生成し続けられる反則級の異能だ。

 「そうだ。それに東雲の第二の権能…『天上への外門』を開放すれば、一種の砲台すら作り出すことができる。」
 「ふむ…って、あれ?でもそれって、悠さんのほうが不利なんじゃ…」

 正直なところ、『剣薙の陣』は悠さんが太刀打ちできるような異能じゃない。無限にも到達する剣の砲台、そんなものに正面だって戦えるのは一体何故なのか…。

 「東雲が結月に勝てない理由は、結月自身の異能だ。」
 「悠さんの?それって…あっ」

 言いかけて思い出した。そうだ、彼女がもつ異能―――

 「―――『時間逆行』と『フォトンの強制解体』…。」

 それは、アークスの英雄と呼ばれ、守護騎士の階級を与えられるに相応しい異能。過去の改変をも可能な『時間逆行』―――フォトンで形成された物質に対して絶対といえる有効性をもつ、『強制解体』。つまりそれは、

 「東雲の『剣薙の陣』で生成される無限の剣は、フォトンにより構成されている―――つまり、結月には全くと言っていいほど通用しない。」
 「そっか…せっかくの弾も、解体されちゃどうしようもないって事ね。…でも」

 言いかけると、言葉をさえぎってアイアスが言葉を続ける。

 「ただ、あの強制解体にも欠点はある―――わかるな?」
 「?うん、一度戦った時に理解してるよ。あくまで『自身から触れた物しか解体できない』ってことでしょう?」

 そう、あの『強制解体』は自身から触れに行かなければ発動しない。だからこそ、的確に剣を視認し弾かなきゃいけない。けど、悠さんが相対しているのは無限もの砲台―――それすべてをどうやって弾いているのか。私はそこがわからなかった。

 「…お前が疑問に思っていることはわかる。ただ、これは東雲と近接範囲で戦ったことのあるやつじゃなきゃわからない」
 「それって、どういう…?」
 「以前、東雲とあの脳筋キャストが戦っていたのを覚えているか?」
 「脳筋キャスト…あぁ、エレナさん?」

 ふと知人のあの姿を思い出す。かわいい顔してすごいインファイターだったなぁと、今更ながらに感じた。

 「あいつと東雲が戦った時は、東雲が『王権復興』を発動させるまで防戦一方だった。何故だと思う?」
 「えっ…えーと、エレナさんのほうが攻撃は早かった…とか?」

 言い出して、それはないと頭の中で結論がでていた。確かにエレナさんの攻撃は早いけど、一撃一撃が重くなるように振っているためか、東雲の二刀流と比べるといささか遅い。しかも東雲は術式の影響で風の加護すら受けている為、速度負けというのはないだろうし。そうなると威力くらいしか思い当たらないのだけど。

 「そうではないな。確かにあれは速いが、オレでも術式を使わずに対処できる速さだ。だとすると、なんだと思う」
 「じゃあ、威力とか?」

 アイアスがはぁ、とため息をつく。何故だろう、少し傷ついた。

 「威力でもない。単純な威力ならお前も高い部類だったろうが。あれの弱点はレンジ…相手との距離だ。」
 「距離…ごめん、わかりやすく解説を…」
 「…まぁいいか。『天上への外門』で打ち出す物質、剣に射角があるのは知っているだろう」
 「えっ知らない…」

 またため息をつかれた。仕方ないでしょう、知らないものは知らないんだ。

 「…とにかくだ、その射角の限界、一番自身の近くに打ち出せる場所が、東雲のもつ『無銘』の剣先が届かない範囲なんだよ。つまりはどういうことか、ここまで言えばわかるな?」
 「つまりは、その射角限界…『無銘』のリーチの中でひたすら張り付かれたら、無限の砲台も意味をなさない、ってこと?」

 やっとアイアスがため息をつかず、頷いてくれた。少し安心してる。

 「エレナはあの時、ひたすらあの『無銘』のリーチ内でたたき続けた。ほとんどすべての剣戟を防ぎ、最低限のダメージで済むように立ち回り、『天上への外門』という手札をきれないように動いていた。そして事実、やつは東雲に奥の手まで出させたんだ。」

next...?