Doll-Device Archive No.04 コロニー ナンバー・トゥエンティナイン
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デブリの密集宙域を突き進む輸送船。
ぶつかるデブリに、船体は大きな揺れを伴っていた。
「くっ……これで、船はもつのでしょうか」
サブコントロール席に座るクランの顔が曇る。
「祈るしかあるまい。いざとなれば、人型に乗り込んで逃げればいい」
操縦桿を握りながら、ギデオンが言い放つ。
ギデオンの計画。
紫藤兄妹の乗っていた作業艇をオートパイロットで、輸送船とは別の方向へ発進させる。
作業艇はデブリが少ない宙域へ。そして輸送船はデブリの密集宙域へ。
通常なら、密集した宙域などに突っ込ませる馬鹿はいない。そう考える。
部隊を分けるにしても、密集宙域に向かう機体は少ないと狙った。
「クレイジー……だわ」
サブコントロール席につくミランダが、冷や汗を流しながら呟いた。
最大速度でデブリの中を進行する。
デブリは輸送船に衝突し、揺れは酷くなるばかり。
しかし致命傷になるような被害が出ないのは、ギデオンの操縦の賜物だろう。
(デブリ宙域の航行経験3回……伊達ではないということね)
経験のなせる技。
未経験の自分ではこうはいかないだろうと、クランは素直に感心した。
「間もなく、デブリ帯抜けます」
宙域図を映したモニターを見ながら、ミランダが報告する。
しばらくすると、揺れが収まっていった。
輸送船はデブリ宙域を脱出したのだ。
「独立派の機体、来ます!」
焦りが混じった口調でクランが言う。
「ドルダ、発進だ!」
待っていたとばかりに、ギデオンが声を上げた。
ぶつかるデブリに、船体は大きな揺れを伴っていた。
「くっ……これで、船はもつのでしょうか」
サブコントロール席に座るクランの顔が曇る。
「祈るしかあるまい。いざとなれば、人型に乗り込んで逃げればいい」
操縦桿を握りながら、ギデオンが言い放つ。
ギデオンの計画。
紫藤兄妹の乗っていた作業艇をオートパイロットで、輸送船とは別の方向へ発進させる。
作業艇はデブリが少ない宙域へ。そして輸送船はデブリの密集宙域へ。
通常なら、密集した宙域などに突っ込ませる馬鹿はいない。そう考える。
部隊を分けるにしても、密集宙域に向かう機体は少ないと狙った。
「クレイジー……だわ」
サブコントロール席につくミランダが、冷や汗を流しながら呟いた。
最大速度でデブリの中を進行する。
デブリは輸送船に衝突し、揺れは酷くなるばかり。
しかし致命傷になるような被害が出ないのは、ギデオンの操縦の賜物だろう。
(デブリ宙域の航行経験3回……伊達ではないということね)
経験のなせる技。
未経験の自分ではこうはいかないだろうと、クランは素直に感心した。
「間もなく、デブリ帯抜けます」
宙域図を映したモニターを見ながら、ミランダが報告する。
しばらくすると、揺れが収まっていった。
輸送船はデブリ宙域を脱出したのだ。
「独立派の機体、来ます!」
焦りが混じった口調でクランが言う。
「ドルダ、発進だ!」
待っていたとばかりに、ギデオンが声を上げた。
格納庫では、ヴァイス達が発進準備を進めていた。
「すまねぇ。お前に頼っちまって」
「うぅん。わたし、みんなを守るよ。お姉ちゃんの、大事な仲間だもん」
ヴァイスにそう言うと、シンシアは小さく笑って、ドルダのコックピットハッチを閉じた。
「怪我したら、モモが手当てしてあげますからね~!」
「戻るぞ。エアロックが開く。シオンもすまねぇな。手伝ってくれてよ」
ヴァイスとモモとシオンは、格納庫を出る。
「俺は別に。でも、俺と年が変わらない、あんな子を……」
言い辛そうに、シオンは口篭もらせた。
ヴァイスもモモも、その事に関しては表情を暗くさせる。
「あの子は……違うんだ」
そして、ヴァイスはろくに言葉も紡げず、そう返した。
3人と壁一枚を挟んだ向こう。格納庫のエアロックが開く。
シンシアはまたズキズキと頭を刺激する鈍痛に耐えながら、ドルダを輸送船から発進させた。
ドルダに乗ると、頭痛が走る。
この機体に自分の無くした記憶に関する鍵があるのか。
「私は、なんなの」
凍てつくほど冷たく、シンシアは呟く。
だが、そんな自分にハッとする。
こんな冷たいような言い方、皆やクランがいる前ではしなかったのに。
シンシアは首を振り、モニターを見据える。
「…………来た」
思考の中に直接、機体が接近してくることが伝えられる。
これがドルダの能力なのは、或いは自分にそのような力があるのか。また別の何かか。
わからないまま、シンシアは戦いを始める。
「やはり戦う気か。良いねぇ。喧嘩っ早くて」
そんなシンシアとドルダに対して、マイケルとディランの駆る2機のローズが迫る。
「一度手を合わせただけだけど、模擬戦で僕を敗かせたニコラス・スウィフト君を唸らせたモビルスーツ。
実に興味があるね。いや、羨望に近いかもしれない。その力があれば、生きることがもっと楽になるよ」
戦うことが生きること。
生きる目的。
そう考えるマイケルにとっては、ドルダという機体は魅力的なのかもしれない。
「ディラン、相手はビームが効かないから、気を付けるようにね」
『了解』
速度を上げ、ドルダに一気に近付く。
「さぁ始めようか。生きるための戦いを!」
2機はレイピアを抜き、ドルダに攻撃を仕掛ける。
「速い!」
レイピアによる攻撃も、機体の動きも。
シンシアは間一髪でそれを避け、間合いを取ろうと後退した。
「駄目だねぇ! 敵に後ろを見せちゃ!」
嬉しそうに、マイケルが言った。
そのまま接近し、ドルダの背部に蹴りの一撃を加える。
一瞬の激しい揺れに襲われるドルダ。
「あくっ……なに!? ろくな攻撃を与えず、こちらを挑発してるの!?」
直ぐ様向き合い、マニピュレーターからビームを発生させ固定する。
そして、マイケルのローズに斬りかかった。
「おっと危ない! ビームを固定するとはね。聞いていた通りこちらを凌駕する技術力だ!」
相手の行動を見ながら、余裕をもって機体を動かす。
飄々とした口調は、実力を伴ってのもの。
戦うことを生きる糧とし、それを楽しみとした男の、
何度も死線を掻い潜った経験からくるものであった。
「ディラン、そろそろアレを使うよ」
『わかった』
ドルダから距離を取る2機。
ローズの肩部のハードポイントに付けられた空のウェポンラックが開く。
否、正確には空、であった。
ビームライフルとレイピア。これが標準装備であるローズ。
後々追加される武装のため、各所にハードポイントが設置されているのである。
そんなハードポイントに付けられたウェポンラックの中には……
「あぁぁぁ!!」
ドルダに何かがぶつかっていく。
一度ではなく、何度も連続して機体に衝突した。
「うっ、これは……デブリ?」
ドルダの周りに散らばる、機械や何かの装甲と思われる物の残骸。小型のデブリだった。
それが、ドルダに命中していく。
「君達がデブリを利用したように、僕達もデブリを利用させてもらったよ」
ビームが効かない相手。
接近すれば固定した剣状のビームに攻撃される。
そして一時でも攻撃する間を与えれば、
「この……いたぶってえええ!!」
腹部のビーム発射口が開く。
「広域ビームが来るぞ! 奴の後ろに回るんだ!」
いち早くそれを察し、マイケルは声を上げた。
「くっ……!」
その指示に反応し、ディランは機体を旋回される。
直後、ドルダの腹部からビームが放たれた。
辺りのデブリが薙ぎ払われていく。
その圧倒的な破壊力に、ドルダに背後に回り込んだマイケルもディランも圧巻される。
「これは……喰らってたらオダブツかな」
『隊長、相手は疲弊している。一気に畳みかける』
ディランのローズが、再びレイピアを抜いた。
「待つんだ!」
マイケルの焦った声。
それに反応したディランは機体を制止させる。
ディランのローズの目の前を、ビームの一閃が掠めた。
「これは、輸送船からか!」
ディランはカメラを遠方に位置する輸送船に向ける。
「なんとか……撃てたぜ……」
全身に汗をかきながら、ヴァイスが呟いた。
開いた格納庫のハッチから乗り出したローズが、ビームライフルを構えている。
「奴等め……!」
『ディラン。やめるんだ』
「何故だ隊長!?」
『僕が止めなきゃ。君は死んでた』
「!!」
マイケルの言葉に、ディランは絶句する。
「火星調査隊の諸君。今日は素直に敗けを認めよう」
苦笑して、マイケルは言った。
そして、2機のローズは宙域を離脱していった。
「撤退、したのか?」
離れていく2機のローズを見ながら、ギデオンが言う。
「シンシア、聞こえる? 独立派はいなくなったわ。帰ってきて」
クランはドルダに通信を送った。
だが、返事がない。
回線は繋がっている。声は届いているはずだが。
「シンシア? どうかしたの?」
『ハァ……ハァ……』
「シン……シア?」
『ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……』
荒く呼吸を繰り返す少女の吐息。
クランの顔から、血の気が退いた。
(私はシンシアに……重荷を……)
胸の辺りの服をぎゅっと掴んで、クランは唇を噛んだ。
「ヴァイス。操縦が慣れない内に申し訳ないけれど、シンシアを回収してあげて」
『どうした?』
「お願い……!」
強く、切羽詰まった言い方で、クランは懇願した。
そんなクランにヴァイスはそれ以上何も言えず、黙って機体を発進させた。
ギデオンもミランダもかける言葉を探し、結局何も言えずクランの様子を見守るだけであった。
「すまねぇ。お前に頼っちまって」
「うぅん。わたし、みんなを守るよ。お姉ちゃんの、大事な仲間だもん」
ヴァイスにそう言うと、シンシアは小さく笑って、ドルダのコックピットハッチを閉じた。
「怪我したら、モモが手当てしてあげますからね~!」
「戻るぞ。エアロックが開く。シオンもすまねぇな。手伝ってくれてよ」
ヴァイスとモモとシオンは、格納庫を出る。
「俺は別に。でも、俺と年が変わらない、あんな子を……」
言い辛そうに、シオンは口篭もらせた。
ヴァイスもモモも、その事に関しては表情を暗くさせる。
「あの子は……違うんだ」
そして、ヴァイスはろくに言葉も紡げず、そう返した。
3人と壁一枚を挟んだ向こう。格納庫のエアロックが開く。
シンシアはまたズキズキと頭を刺激する鈍痛に耐えながら、ドルダを輸送船から発進させた。
ドルダに乗ると、頭痛が走る。
この機体に自分の無くした記憶に関する鍵があるのか。
「私は、なんなの」
凍てつくほど冷たく、シンシアは呟く。
だが、そんな自分にハッとする。
こんな冷たいような言い方、皆やクランがいる前ではしなかったのに。
シンシアは首を振り、モニターを見据える。
「…………来た」
思考の中に直接、機体が接近してくることが伝えられる。
これがドルダの能力なのは、或いは自分にそのような力があるのか。また別の何かか。
わからないまま、シンシアは戦いを始める。
「やはり戦う気か。良いねぇ。喧嘩っ早くて」
そんなシンシアとドルダに対して、マイケルとディランの駆る2機のローズが迫る。
「一度手を合わせただけだけど、模擬戦で僕を敗かせたニコラス・スウィフト君を唸らせたモビルスーツ。
実に興味があるね。いや、羨望に近いかもしれない。その力があれば、生きることがもっと楽になるよ」
戦うことが生きること。
生きる目的。
そう考えるマイケルにとっては、ドルダという機体は魅力的なのかもしれない。
「ディラン、相手はビームが効かないから、気を付けるようにね」
『了解』
速度を上げ、ドルダに一気に近付く。
「さぁ始めようか。生きるための戦いを!」
2機はレイピアを抜き、ドルダに攻撃を仕掛ける。
「速い!」
レイピアによる攻撃も、機体の動きも。
シンシアは間一髪でそれを避け、間合いを取ろうと後退した。
「駄目だねぇ! 敵に後ろを見せちゃ!」
嬉しそうに、マイケルが言った。
そのまま接近し、ドルダの背部に蹴りの一撃を加える。
一瞬の激しい揺れに襲われるドルダ。
「あくっ……なに!? ろくな攻撃を与えず、こちらを挑発してるの!?」
直ぐ様向き合い、マニピュレーターからビームを発生させ固定する。
そして、マイケルのローズに斬りかかった。
「おっと危ない! ビームを固定するとはね。聞いていた通りこちらを凌駕する技術力だ!」
相手の行動を見ながら、余裕をもって機体を動かす。
飄々とした口調は、実力を伴ってのもの。
戦うことを生きる糧とし、それを楽しみとした男の、
何度も死線を掻い潜った経験からくるものであった。
「ディラン、そろそろアレを使うよ」
『わかった』
ドルダから距離を取る2機。
ローズの肩部のハードポイントに付けられた空のウェポンラックが開く。
否、正確には空、であった。
ビームライフルとレイピア。これが標準装備であるローズ。
後々追加される武装のため、各所にハードポイントが設置されているのである。
そんなハードポイントに付けられたウェポンラックの中には……
「あぁぁぁ!!」
ドルダに何かがぶつかっていく。
一度ではなく、何度も連続して機体に衝突した。
「うっ、これは……デブリ?」
ドルダの周りに散らばる、機械や何かの装甲と思われる物の残骸。小型のデブリだった。
それが、ドルダに命中していく。
「君達がデブリを利用したように、僕達もデブリを利用させてもらったよ」
ビームが効かない相手。
接近すれば固定した剣状のビームに攻撃される。
そして一時でも攻撃する間を与えれば、
「この……いたぶってえええ!!」
腹部のビーム発射口が開く。
「広域ビームが来るぞ! 奴の後ろに回るんだ!」
いち早くそれを察し、マイケルは声を上げた。
「くっ……!」
その指示に反応し、ディランは機体を旋回される。
直後、ドルダの腹部からビームが放たれた。
辺りのデブリが薙ぎ払われていく。
その圧倒的な破壊力に、ドルダに背後に回り込んだマイケルもディランも圧巻される。
「これは……喰らってたらオダブツかな」
『隊長、相手は疲弊している。一気に畳みかける』
ディランのローズが、再びレイピアを抜いた。
「待つんだ!」
マイケルの焦った声。
それに反応したディランは機体を制止させる。
ディランのローズの目の前を、ビームの一閃が掠めた。
「これは、輸送船からか!」
ディランはカメラを遠方に位置する輸送船に向ける。
「なんとか……撃てたぜ……」
全身に汗をかきながら、ヴァイスが呟いた。
開いた格納庫のハッチから乗り出したローズが、ビームライフルを構えている。
「奴等め……!」
『ディラン。やめるんだ』
「何故だ隊長!?」
『僕が止めなきゃ。君は死んでた』
「!!」
マイケルの言葉に、ディランは絶句する。
「火星調査隊の諸君。今日は素直に敗けを認めよう」
苦笑して、マイケルは言った。
そして、2機のローズは宙域を離脱していった。
「撤退、したのか?」
離れていく2機のローズを見ながら、ギデオンが言う。
「シンシア、聞こえる? 独立派はいなくなったわ。帰ってきて」
クランはドルダに通信を送った。
だが、返事がない。
回線は繋がっている。声は届いているはずだが。
「シンシア? どうかしたの?」
『ハァ……ハァ……』
「シン……シア?」
『ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……』
荒く呼吸を繰り返す少女の吐息。
クランの顔から、血の気が退いた。
(私はシンシアに……重荷を……)
胸の辺りの服をぎゅっと掴んで、クランは唇を噛んだ。
「ヴァイス。操縦が慣れない内に申し訳ないけれど、シンシアを回収してあげて」
『どうした?』
「お願い……!」
強く、切羽詰まった言い方で、クランは懇願した。
そんなクランにヴァイスはそれ以上何も言えず、黙って機体を発進させた。
ギデオンもミランダもかける言葉を探し、結局何も言えずクランの様子を見守るだけであった。
それから数時間後。
ドルダを回収した輸送船は、当初の目的通り第29コロニーに向かっていた。
「第29コロニー、見えました」
ミランダが言う。
「燃料ギリギリでしたね……」
ほっと一息ついて、微笑んでクランはギデオンを見た。
「救難信号を出せ。コロニーのほとんどが制圧されたという。一難去ってまた一難とならなければいいが」
気丈な口調だったが、不安を含むその言葉に、クランもミランダも少しばかり気が張った。
いくらドルダという強大な力を持っていても、自分達はその使い方をわかってはいない。
追撃から逃げられたが、マイケルの『所詮は一般人』という考えは、ある意味正しかったといえる。
救難信号に気付いてか、コロニーから数機のローズが出てきた。
「誘導信号を受信しました。コロニーへの収容を了解したと」
「良かった。独立の強硬派といっても、好戦的な人ばかりじゃないのね」
「まだわからんよ」
ギデオンの瞳は未だに、気丈の中に不安が混じっていた。
ローズの誘導により、輸送船がコロニー港へと着船する。
「こちらが火星から脱出してきた公社の火星調査隊であると報告したところ、離船するようにと通達が着ました」
ミランダがギデオンに顔を向ける。
ギデオンは瞼を伏せ、静かに息を吐いた。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
重苦しく、そう呟く。
ギデオンは船内スピーカーのスイッチを入れた。
「皆、聞いてくれ。コロニーに到着した。船を降りるので集まってくれ」
子供達には冷静に。
微塵の不安も感じさせてはいけないと、ギデオンは思った。
そしてこれからは、その不安さえ捨てなければならない。
(私には16回の隊長職の自負と、プライドがある)
ギデオンはクランとミランダと共に、操縦室を出た。
通路には、ギデオンの放送を聞いたヴァイス達が待っていた。
あれから落ち着いたシンシアは、一目散にクランに抱き付く。
命からがらコロニーを脱出してきた紫藤兄妹は、また同じような状況に二人寄り添って離れない。
(この船に乗る全員、生還させるのが私の仕事だ!)
襲ってくる者、追ってくる者。それから何としてでも逃げ、生き延びねばならない。
これは降りかかる災害。調査の延長。
任務はまだ、終わっていない。
隊を任された己だけは、完全な安全が訪れるまで、気は抜けないのだ。
ギデオンはパネルを操作し、輸送船の乗降口を開く。
その途端、開いたそこから一斉に、ライフルを構えた者達が押し寄せてくる。
ヘルガが恐怖に「ひっ」と小さく悲鳴を上げた。
突き付けられる銃口に、クラン達調査隊の者は手を上げて無抵抗なのを示すしかない。
クラン達は互いを見て、何が起こっているのか確認しようとしていた。
ライフルを構え、その銃口を向けるのは、火星独立派の者とは到底思えない。
何故なら、彼等は地球圏連合軍の制服を身に纏っていたのだから。
ドルダを回収した輸送船は、当初の目的通り第29コロニーに向かっていた。
「第29コロニー、見えました」
ミランダが言う。
「燃料ギリギリでしたね……」
ほっと一息ついて、微笑んでクランはギデオンを見た。
「救難信号を出せ。コロニーのほとんどが制圧されたという。一難去ってまた一難とならなければいいが」
気丈な口調だったが、不安を含むその言葉に、クランもミランダも少しばかり気が張った。
いくらドルダという強大な力を持っていても、自分達はその使い方をわかってはいない。
追撃から逃げられたが、マイケルの『所詮は一般人』という考えは、ある意味正しかったといえる。
救難信号に気付いてか、コロニーから数機のローズが出てきた。
「誘導信号を受信しました。コロニーへの収容を了解したと」
「良かった。独立の強硬派といっても、好戦的な人ばかりじゃないのね」
「まだわからんよ」
ギデオンの瞳は未だに、気丈の中に不安が混じっていた。
ローズの誘導により、輸送船がコロニー港へと着船する。
「こちらが火星から脱出してきた公社の火星調査隊であると報告したところ、離船するようにと通達が着ました」
ミランダがギデオンに顔を向ける。
ギデオンは瞼を伏せ、静かに息を吐いた。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
重苦しく、そう呟く。
ギデオンは船内スピーカーのスイッチを入れた。
「皆、聞いてくれ。コロニーに到着した。船を降りるので集まってくれ」
子供達には冷静に。
微塵の不安も感じさせてはいけないと、ギデオンは思った。
そしてこれからは、その不安さえ捨てなければならない。
(私には16回の隊長職の自負と、プライドがある)
ギデオンはクランとミランダと共に、操縦室を出た。
通路には、ギデオンの放送を聞いたヴァイス達が待っていた。
あれから落ち着いたシンシアは、一目散にクランに抱き付く。
命からがらコロニーを脱出してきた紫藤兄妹は、また同じような状況に二人寄り添って離れない。
(この船に乗る全員、生還させるのが私の仕事だ!)
襲ってくる者、追ってくる者。それから何としてでも逃げ、生き延びねばならない。
これは降りかかる災害。調査の延長。
任務はまだ、終わっていない。
隊を任された己だけは、完全な安全が訪れるまで、気は抜けないのだ。
ギデオンはパネルを操作し、輸送船の乗降口を開く。
その途端、開いたそこから一斉に、ライフルを構えた者達が押し寄せてくる。
ヘルガが恐怖に「ひっ」と小さく悲鳴を上げた。
突き付けられる銃口に、クラン達調査隊の者は手を上げて無抵抗なのを示すしかない。
クラン達は互いを見て、何が起こっているのか確認しようとしていた。
ライフルを構え、その銃口を向けるのは、火星独立派の者とは到底思えない。
何故なら、彼等は地球圏連合軍の制服を身に纏っていたのだから。
(ここでCM。アイキャッチはホールドアップする調査隊の面々。)
(CM終わり。アイキャッチは眼光鋭い謎の眼鏡美女。)
地球圏連合軍の制式ライフルを突き付けられたまま、クラン達は輸送船を降ろされた。
降り立ったコロニー港のエントランスでは、複数の兵士に取り囲まれ守られている女性士官の姿があった。
「貴様等が、救難信号を出した公社の調査隊とやらか」
眼鏡をかけたきつい目元。
口調も厳つく、他者を寄せ付けようとはしない。
「そうですが、貴殿は」
ギデオンが冷静に返す。
「私は地球圏連合軍火星方面駐留軍司令代理、メリリヴェイル・ルシェッタ大佐だ」
高圧的な態度。蔑むような眼差し。
自分の信じるもの以外、全てを拒絶しているような、そんな深い色の瞳。
彼女、メリリヴェイルに、ギデオンやクラン達調査隊は気圧され、子供達は怯えていた。
「貴様等の身元が証明されるまで、拘束させてもらう」
「待って下さい。せめて子供達だけは……」
「聞く耳を持たん!!」
ギデオンの訴えが一蹴される。
「子供達だけでは、だと? その子供達が敵のスパイではない確証がどこにある」
キッとギデオンを睨んで、低い声で言った。
その言葉は凶器と変わらない。
「そんなことあるかよ! 俺とヘルガは奴等から必死で逃げてきたんだぞ!!」
激昂したシオンの声が、エントランスに響き渡った。
反発を生むのは、当然であった。
無抵抗な弱者を一方的に責めるようなやり方に、調査隊や子供達は皆、メリリヴェイルに快い印象は持たなかった。
怒りに満ちたシオンの視線にも、メリリヴェイルは動じることはない。
静かに懐から拳銃を取り出し、シオンに向けた。
「貴様等の意見は聞かんと言った」
メリリヴェイルの行動に、ヴァイスがシオンの前に出る。
ヘルガは、シオンの腕を掴んだ。先程よりも強く寄り添う。
クランもシンシアを庇うように抱き締めた。
「私は、今ここで貴様等全員を射殺できる権限を有している」
そう一言告げ、銃をしまう。
「身の潔白を証明したいというなら、我々に従ってもらおう」
それ以上の反論は、意味がないとギデオンは理解した。
言うことを聞かなければ、自分の、部下達の身に危険が迫る。
調査隊とシンシア、難民の紫藤兄妹は、地球圏連合軍に拘束された。
降り立ったコロニー港のエントランスでは、複数の兵士に取り囲まれ守られている女性士官の姿があった。
「貴様等が、救難信号を出した公社の調査隊とやらか」
眼鏡をかけたきつい目元。
口調も厳つく、他者を寄せ付けようとはしない。
「そうですが、貴殿は」
ギデオンが冷静に返す。
「私は地球圏連合軍火星方面駐留軍司令代理、メリリヴェイル・ルシェッタ大佐だ」
高圧的な態度。蔑むような眼差し。
自分の信じるもの以外、全てを拒絶しているような、そんな深い色の瞳。
彼女、メリリヴェイルに、ギデオンやクラン達調査隊は気圧され、子供達は怯えていた。
「貴様等の身元が証明されるまで、拘束させてもらう」
「待って下さい。せめて子供達だけは……」
「聞く耳を持たん!!」
ギデオンの訴えが一蹴される。
「子供達だけでは、だと? その子供達が敵のスパイではない確証がどこにある」
キッとギデオンを睨んで、低い声で言った。
その言葉は凶器と変わらない。
「そんなことあるかよ! 俺とヘルガは奴等から必死で逃げてきたんだぞ!!」
激昂したシオンの声が、エントランスに響き渡った。
反発を生むのは、当然であった。
無抵抗な弱者を一方的に責めるようなやり方に、調査隊や子供達は皆、メリリヴェイルに快い印象は持たなかった。
怒りに満ちたシオンの視線にも、メリリヴェイルは動じることはない。
静かに懐から拳銃を取り出し、シオンに向けた。
「貴様等の意見は聞かんと言った」
メリリヴェイルの行動に、ヴァイスがシオンの前に出る。
ヘルガは、シオンの腕を掴んだ。先程よりも強く寄り添う。
クランもシンシアを庇うように抱き締めた。
「私は、今ここで貴様等全員を射殺できる権限を有している」
そう一言告げ、銃をしまう。
「身の潔白を証明したいというなら、我々に従ってもらおう」
それ以上の反論は、意味がないとギデオンは理解した。
言うことを聞かなければ、自分の、部下達の身に危険が迫る。
調査隊とシンシア、難民の紫藤兄妹は、地球圏連合軍に拘束された。
数時間に渡る事情聴取。
時間が経つにつれ、ギデオンとクラン以外の者は別室に移動させられた。
恐らくは訊き出せる情報がないと判断されたのだろうと、ギデオンもクランも考えた。
そして、遂にこの二人にも、解放の時が近付いていた。
部屋に、メリリヴェイルと数名の士官が入ってくる。
「今までの無礼を詫びよう。火星調査隊の方々」
メリリヴェイルはギデオン達と対峙するように、向かい側の席に腰をかける。
相変わらず高圧的な物言いだが、その口振りからして二人は安心する。
「火星開発公社と連絡を取ったところ、君達の身元がここに証明された」
メリリヴェイルの部下が二人に書類を差し出す。
「シオン・シドー並びヘルガ・シドーも市民登録から確認が取れた」
「良かった……」
クランの口から、思わず安堵の言葉が漏れる。
「いや、まだ良くはない。クラン・リザレクター・ナギサカ副隊長」
メリリヴェイルの突き刺すような視線が、クランを襲う。
「シンシア・ナギサカ。彼女については別だ」
「あ、あの子はっ……」
「全火星コロニーの市民登録名簿に、そのような名前はなかった」
凍てつく視線に耐えられなくなったクランの目が泳ぐ。
じんわりと滲んでくる汗。
心なしか、鼓動も速まっていく気がする。
「公社から資料を取り寄せ、貴殿の過去を調べさせてもらった。
……貴殿の家族は、テロリズム・イヤーで死亡しているな」
「デタラメですッ!!」
焦るクランが、勢い良く席を立つ。
イスが床に転がり、大きな音を立てた。
「シンシアは、あの子は、唯一無二の私の妹です!」
それはまるで、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
そんなクランに、メリリヴェイルは不敵に、小さな笑みを浮かべた。
「まぁ、いい。土産の4機の代わりに、このことは不問としよう」
「4機?」
「そうだ。火星独立強硬派、今では火星コロニー義勇軍と名乗っている者達の人型兵器。
モビルスーツ、ローズ。そして見慣れぬもう1機のモビルスーツは我々が管理する」
聞き慣れない単語に頭を整理しながら、クランとギデオンはメリリヴェイルの言葉に耳を疑った。
確かに、輸送船に積まれていた独立派、火星コロニー義勇軍の機体は、地球圏連合軍に渡すべきであろう。
火星コロニーのほとんどを制圧したという義勇軍からコロニーを奪い返し、
ローズを自軍の機体として運用しているのだから、宝の持ち腐れにしておくのは勿体ない。
だが、ドルダは別だ。
「報告書も見せましたし、取り調べの時もお話したはずです。
あれはその火星コロニー義勇軍のモビルスーツではありません!」
ドルダを渡してはいけないと、そう直感的に思った。
あれはシンシアの、記憶を失った少女の鍵となる存在だ。
それに、あの強大な力は、地球圏連合軍にも火星コロニー義勇軍にも、渡してはいけないと思った。
「火星の地下建造物から発見されたあの機体は、火星での調査結果の生きた証拠に変わりありません」
「過去に我々の地球人類とは別の歴史が存在した、と?」
メリリヴェイルの目は、何も信じてはいなかった。
「私達はそれを地球の公社本部に持ち帰り、そしてこの計画に資金投資をした全ての国に知らせる義務があります」
ドルダがいなくなれば、シンシアは苦しまずにすむのかもしれない。
だが、記憶をなくした少女のために、ドルダは必要な存在だ。
(私は、シンシアを、あの子を……どちらも守りたい)
一度目も二度目の戦いも乗り越えたドルダなら、苦しむことはあっても、きっと死ぬことはないだろう。
それが、シンシアを守ることに繋がるのなら。
「詭弁だ! それを決めるのは貴様等ではない!」
机を叩き、メリリヴェイルは立ち上がって声を荒げた。
クランの曲げられない瞳。メリリヴェイルの折れない瞳。それがぶつかりあう。
「ドルダ。この機体は我々が頂戴しますよ」
クランとメリリヴェイルの対立に割って入る一声。
室内にいた者全員が、一斉にその声がした方向を見る。
「失礼。白熱していたようだから勝手に入らせてもらった。
俺はカナン・ラヴホールド。公社が寄越した彼等の身元引取人です」
軽く頭を下げ、落ち着いた低い声でそう告げる。
「頂戴するは、どういうことだ……!?」
「公社(うち)のお得意さんが興味を示したみたいなんですよ。
そのお得意さん、火星駐留軍にも結構な援助をしているそうで……」
「軍を脅すのか……!」
「公社は地球側。つまりあなた方の味方ですよ。司令代理殿」
自信に満ち満ちたカナンの発言。
動揺を見せたメリリヴェイルは、机についた手をゆっくりと後ろに持っていく。
「良いだろう。勝手にするがいい」
「助かります。では、マクドガル隊長、ナギサカ副隊長、参りましょう」
「あ、あぁ……」
「えぇ……」
突然の助け舟。
流されるまま、ギデオンとクランはカナンの元に行く。
そして、部屋を出た。
「お姉ちゃん!」
すると、直ぐ様シンシアがクランに抱き付いてきた。
シンシアが来た方向をクランとギデオンが見ると、ヴァイス達も通路にたむろしていた。
ヴァイス達もギデオン達に近寄ってくる。
「君達も無事で何よりだ」
「子供達はみんな寝てましたよ。モモも」
「モモは起きてましたよぉ!」
「どうだか」
膨れっ面で言い返すモモに、ヴァイスはニヤリと笑って見せた。
クランは腕の中にいるシンシアに顔を向ける。
「シンシアも寝ちゃった?」
「うん。色んなことあったから。でもクランに会えるって言われたからさっきまで待ってたの!」
「そう。でもこれから、しばらくはゆっくりできるはずよ。二人でいられる時間も多くなるわ」
クランが笑うと、シンシアも明るい笑みを返した。
あの数々な困難を乗り越えて、また揃うことができた。
クランもシンシアも、ヴァイスもモモも、少し距離を置いたミランダも、
シオンとヘルガも、皆嬉しそうに笑顔を浮かべている。
「ナギサカ君、すまなかったな。あの場面に加勢できないで」
「いえ、私も少し熱くなりすぎたかもしれません」
「私は、女性同士の言い争いが、どうも苦手でな」
「あら、奥様と不倫相手が鉢合わせなされたとか?」
図星だったのか、ギデオンは沈黙してしまった。
一斉に、ヴァイス達の笑い声が辺りを包む。
苦笑していたが、ギデオンは心に満ちる充実感に、彼等と同じように笑顔を見せた。
そんな中、ヴァイス達に追い付くように、後ろから一人の女性がやってくる。
その女性は、カナンの隣に立った。
「改めて挨拶を。俺はカナン・ラヴホールド。火星開発公社火星コロニー支部人事課所属です」
「同じく、部下のヴァニラ・ヴァニニですわ」
軽い口調で言うカナンと、丁寧に頭を下げるヴァニラ。
調査隊と同じ、火星開発公社の役員。
「ヴァニニというと、火星開発事業におけるオブザーバーのヴァニナ・ヴァニニ女史の関係者か?」
ギデオンが疑問を口にする。
「姉ですわ。姉は女性器名称と似た自身の名にとてもコンプレックスを持っておりますの。
もし会った際はファーストネームでは呼ばないでやってくださいましね……ふふっ」
ヴァニラは首を傾げつつ、茶目っ気のある笑顔でそう言った。
挨拶もそこそこに、カナンは歩き始める。
それに続くヴァニラ、ギデオン達も追った。
「公社の施設だが、あんた達に部屋を用意した。今日はゆっくり疲れを取ってくれ」
カナンは小気味良く言い、顔をギデオン達に向けた。
「明日、会ってもらわなくちゃならないからな。あんた達とあの機体を、軍から解放した人に」
時間が経つにつれ、ギデオンとクラン以外の者は別室に移動させられた。
恐らくは訊き出せる情報がないと判断されたのだろうと、ギデオンもクランも考えた。
そして、遂にこの二人にも、解放の時が近付いていた。
部屋に、メリリヴェイルと数名の士官が入ってくる。
「今までの無礼を詫びよう。火星調査隊の方々」
メリリヴェイルはギデオン達と対峙するように、向かい側の席に腰をかける。
相変わらず高圧的な物言いだが、その口振りからして二人は安心する。
「火星開発公社と連絡を取ったところ、君達の身元がここに証明された」
メリリヴェイルの部下が二人に書類を差し出す。
「シオン・シドー並びヘルガ・シドーも市民登録から確認が取れた」
「良かった……」
クランの口から、思わず安堵の言葉が漏れる。
「いや、まだ良くはない。クラン・リザレクター・ナギサカ副隊長」
メリリヴェイルの突き刺すような視線が、クランを襲う。
「シンシア・ナギサカ。彼女については別だ」
「あ、あの子はっ……」
「全火星コロニーの市民登録名簿に、そのような名前はなかった」
凍てつく視線に耐えられなくなったクランの目が泳ぐ。
じんわりと滲んでくる汗。
心なしか、鼓動も速まっていく気がする。
「公社から資料を取り寄せ、貴殿の過去を調べさせてもらった。
……貴殿の家族は、テロリズム・イヤーで死亡しているな」
「デタラメですッ!!」
焦るクランが、勢い良く席を立つ。
イスが床に転がり、大きな音を立てた。
「シンシアは、あの子は、唯一無二の私の妹です!」
それはまるで、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
そんなクランに、メリリヴェイルは不敵に、小さな笑みを浮かべた。
「まぁ、いい。土産の4機の代わりに、このことは不問としよう」
「4機?」
「そうだ。火星独立強硬派、今では火星コロニー義勇軍と名乗っている者達の人型兵器。
モビルスーツ、ローズ。そして見慣れぬもう1機のモビルスーツは我々が管理する」
聞き慣れない単語に頭を整理しながら、クランとギデオンはメリリヴェイルの言葉に耳を疑った。
確かに、輸送船に積まれていた独立派、火星コロニー義勇軍の機体は、地球圏連合軍に渡すべきであろう。
火星コロニーのほとんどを制圧したという義勇軍からコロニーを奪い返し、
ローズを自軍の機体として運用しているのだから、宝の持ち腐れにしておくのは勿体ない。
だが、ドルダは別だ。
「報告書も見せましたし、取り調べの時もお話したはずです。
あれはその火星コロニー義勇軍のモビルスーツではありません!」
ドルダを渡してはいけないと、そう直感的に思った。
あれはシンシアの、記憶を失った少女の鍵となる存在だ。
それに、あの強大な力は、地球圏連合軍にも火星コロニー義勇軍にも、渡してはいけないと思った。
「火星の地下建造物から発見されたあの機体は、火星での調査結果の生きた証拠に変わりありません」
「過去に我々の地球人類とは別の歴史が存在した、と?」
メリリヴェイルの目は、何も信じてはいなかった。
「私達はそれを地球の公社本部に持ち帰り、そしてこの計画に資金投資をした全ての国に知らせる義務があります」
ドルダがいなくなれば、シンシアは苦しまずにすむのかもしれない。
だが、記憶をなくした少女のために、ドルダは必要な存在だ。
(私は、シンシアを、あの子を……どちらも守りたい)
一度目も二度目の戦いも乗り越えたドルダなら、苦しむことはあっても、きっと死ぬことはないだろう。
それが、シンシアを守ることに繋がるのなら。
「詭弁だ! それを決めるのは貴様等ではない!」
机を叩き、メリリヴェイルは立ち上がって声を荒げた。
クランの曲げられない瞳。メリリヴェイルの折れない瞳。それがぶつかりあう。
「ドルダ。この機体は我々が頂戴しますよ」
クランとメリリヴェイルの対立に割って入る一声。
室内にいた者全員が、一斉にその声がした方向を見る。
「失礼。白熱していたようだから勝手に入らせてもらった。
俺はカナン・ラヴホールド。公社が寄越した彼等の身元引取人です」
軽く頭を下げ、落ち着いた低い声でそう告げる。
「頂戴するは、どういうことだ……!?」
「公社(うち)のお得意さんが興味を示したみたいなんですよ。
そのお得意さん、火星駐留軍にも結構な援助をしているそうで……」
「軍を脅すのか……!」
「公社は地球側。つまりあなた方の味方ですよ。司令代理殿」
自信に満ち満ちたカナンの発言。
動揺を見せたメリリヴェイルは、机についた手をゆっくりと後ろに持っていく。
「良いだろう。勝手にするがいい」
「助かります。では、マクドガル隊長、ナギサカ副隊長、参りましょう」
「あ、あぁ……」
「えぇ……」
突然の助け舟。
流されるまま、ギデオンとクランはカナンの元に行く。
そして、部屋を出た。
「お姉ちゃん!」
すると、直ぐ様シンシアがクランに抱き付いてきた。
シンシアが来た方向をクランとギデオンが見ると、ヴァイス達も通路にたむろしていた。
ヴァイス達もギデオン達に近寄ってくる。
「君達も無事で何よりだ」
「子供達はみんな寝てましたよ。モモも」
「モモは起きてましたよぉ!」
「どうだか」
膨れっ面で言い返すモモに、ヴァイスはニヤリと笑って見せた。
クランは腕の中にいるシンシアに顔を向ける。
「シンシアも寝ちゃった?」
「うん。色んなことあったから。でもクランに会えるって言われたからさっきまで待ってたの!」
「そう。でもこれから、しばらくはゆっくりできるはずよ。二人でいられる時間も多くなるわ」
クランが笑うと、シンシアも明るい笑みを返した。
あの数々な困難を乗り越えて、また揃うことができた。
クランもシンシアも、ヴァイスもモモも、少し距離を置いたミランダも、
シオンとヘルガも、皆嬉しそうに笑顔を浮かべている。
「ナギサカ君、すまなかったな。あの場面に加勢できないで」
「いえ、私も少し熱くなりすぎたかもしれません」
「私は、女性同士の言い争いが、どうも苦手でな」
「あら、奥様と不倫相手が鉢合わせなされたとか?」
図星だったのか、ギデオンは沈黙してしまった。
一斉に、ヴァイス達の笑い声が辺りを包む。
苦笑していたが、ギデオンは心に満ちる充実感に、彼等と同じように笑顔を見せた。
そんな中、ヴァイス達に追い付くように、後ろから一人の女性がやってくる。
その女性は、カナンの隣に立った。
「改めて挨拶を。俺はカナン・ラヴホールド。火星開発公社火星コロニー支部人事課所属です」
「同じく、部下のヴァニラ・ヴァニニですわ」
軽い口調で言うカナンと、丁寧に頭を下げるヴァニラ。
調査隊と同じ、火星開発公社の役員。
「ヴァニニというと、火星開発事業におけるオブザーバーのヴァニナ・ヴァニニ女史の関係者か?」
ギデオンが疑問を口にする。
「姉ですわ。姉は女性器名称と似た自身の名にとてもコンプレックスを持っておりますの。
もし会った際はファーストネームでは呼ばないでやってくださいましね……ふふっ」
ヴァニラは首を傾げつつ、茶目っ気のある笑顔でそう言った。
挨拶もそこそこに、カナンは歩き始める。
それに続くヴァニラ、ギデオン達も追った。
「公社の施設だが、あんた達に部屋を用意した。今日はゆっくり疲れを取ってくれ」
カナンは小気味良く言い、顔をギデオン達に向けた。
「明日、会ってもらわなくちゃならないからな。あんた達とあの機体を、軍から解放した人に」
ギデオン達は、公社の用意した保養施設に案内される。
カナンとヴァニラは玄関で別れ、コロニー内の支部に帰っていった。
「きゃーん! 久々のシャワータイムぅ!」
モモが嬉々として叫んだ。
女性陣は、真っ先にシャワー室を訪れていた。
「火星適応訓練のせいで、ここ最近はこうやってゆっくりとシャワーを浴びることもしてなかったわね……」
胸に温かいシャワーの水滴を当てながら、クランは体を火照らせていく。
「命の洗濯……ふう」
ミランダも満悦と言った感じで呟いた。
「ヘルガちゃんもそんな離れたところ使わないで、私の隣、使いなさい?」
端の個室で静かにシャワーを浴びていたヘルガに、クランが優しく声をかける。
「でも……」
「じゃあ私がそっちに行くわね」
クランはシャワーを止め、ヘルガのいる個室に向かった。
個室にクランが入ると、ヘルガは恥ずかしそうに顔を紅潮させて慌て始める。
そして、鎖骨辺りを手で覆い、隠した。
「そこ、どうかした?」
「いえ……別に……」
クランに訊かれ、慌てていたヘルガは急に落ち着いて、肌から手を離した。
クランは、「あっ……」と小さく驚きの声を上げる。
そこには塞がってはいるが、一目で銃で撃たれたとわかる、生々しい傷痕があった。
「もう完治はしています。テロリズム・イヤーの時に……」
「そう……」
「私の元々の家族は、ドイツに住んでたんです。右隣の家は、ESEANUの軍の偉い人で、その家の子とは仲良しだったんです」
ヘルガは、遠い目をしながら言った。
「ある日の夜、その隣の家で銃声がしました。気付いた私達一家は、窓から隣の家を見た」
「……」
「その家の人達と、仲良しだった子が、撃ち殺されてるところでした」
淡々と、ヘルガは話していく。
過去を語るヘルガの瞳は、深い深い闇を映していた。
「お父さんは警察に連絡しようと電話機へ走り、お母さんは私を抱き締めながら震えてた。
でもテロリスト達は気付いて、私達の家にもやってきた。お父さんは撃たれて、お母さんも……」
涙が浮かぶ。
「崩れゆくお母さんの隣で、私もテロリストの一人に撃たれた。
でも、撃たれどころが良かったおかげで、こうして……」
撃たれた箇所を押さえて、ヘルガは震える。
ヘルガは必死に、全てを話そうとしていた。
クランは真剣な表情で、黙ってクランの話を聞き続けた。
「助かった後、テロリストはその軍の偉い人の反対勢力で、私達は巻き込まれたと教えてもらいました」
「そして、シオン君やシオン君のお父さんの元に引き取られたのね」
「はい。父子家庭で、男しかいない二人だけの家族の中に私が飛び込んだ」
ヘルガは涙を拭い、なんとか笑顔を作ろうとした。
「初めはお互い四苦八苦してたけど……でも今は、お兄ちゃんもお父さんも、本当の家族だから」
「なら、心配ね。連れ去られたお義父さん」
「はい……」
作った笑顔も、消えていく。
クランはそんなヘルガの手をそっと掴み、自分の左手に、重ねた。
ヘルガにゆっくりと、自分の手を握らせる。
「! クランさん、これ……」
「私も同じだから。だから、絶対に独りで、抱え込まないでね」
クランはとても穏やかな表情をして、ヘルガに言う。
ヘルガは唖然としていたが、クランの言葉を受け止めて、ゆっくりと頷いた。
シャワールーム内はシャワーの水音に包まれている。
響くその音は、どんな会話も、打ち消すだろう。
一通り体を洗い終えたモモは、各自の個室を抜き足で覗きながら歩いていた。
そして、
「えいっ!」
「きゃあ!」
シンシアの声がシャワールームに響いた。
「どうしたのシンシア!? ……って、モモちゃん?」
「むむむ……これは」
「お姉ちゃん、助けてぇ!」
クランが個室に飛び込むと、モモがシンシアの胸を揉んでいたのだ。
「年はあんまり変わらなそうなのに、これは卑怯です!」
「大きい……」
モモは悔しさに声を上げ、クランと共に個室を覗き込んだヘルガは羨ましそうに呟いた。
「クッ……負けたッ」
ミランダも唇を噛んだ。
「ミランダさんまで……もう、シンシアの胸は見せ物じゃないのよ!」
「クランさんは貧乳の悩みがわからないからそういうことが言えるんですよぉ!」
「どうでもいいから手をどけてぇ!!」
シンシアが絶叫する。
束の間の平和。なのかもしれない。
火星圏では、今も尚火星コロニー義勇軍の侵攻と、駐留軍の抵抗が続いている。
戦渦の中に、彼女達はまだ身を置いているのだ。
火星で発見された謎の機体と記憶を失った少女、そしてそれに関わる者達の困難は、続く。
カナンとヴァニラは玄関で別れ、コロニー内の支部に帰っていった。
「きゃーん! 久々のシャワータイムぅ!」
モモが嬉々として叫んだ。
女性陣は、真っ先にシャワー室を訪れていた。
「火星適応訓練のせいで、ここ最近はこうやってゆっくりとシャワーを浴びることもしてなかったわね……」
胸に温かいシャワーの水滴を当てながら、クランは体を火照らせていく。
「命の洗濯……ふう」
ミランダも満悦と言った感じで呟いた。
「ヘルガちゃんもそんな離れたところ使わないで、私の隣、使いなさい?」
端の個室で静かにシャワーを浴びていたヘルガに、クランが優しく声をかける。
「でも……」
「じゃあ私がそっちに行くわね」
クランはシャワーを止め、ヘルガのいる個室に向かった。
個室にクランが入ると、ヘルガは恥ずかしそうに顔を紅潮させて慌て始める。
そして、鎖骨辺りを手で覆い、隠した。
「そこ、どうかした?」
「いえ……別に……」
クランに訊かれ、慌てていたヘルガは急に落ち着いて、肌から手を離した。
クランは、「あっ……」と小さく驚きの声を上げる。
そこには塞がってはいるが、一目で銃で撃たれたとわかる、生々しい傷痕があった。
「もう完治はしています。テロリズム・イヤーの時に……」
「そう……」
「私の元々の家族は、ドイツに住んでたんです。右隣の家は、ESEANUの軍の偉い人で、その家の子とは仲良しだったんです」
ヘルガは、遠い目をしながら言った。
「ある日の夜、その隣の家で銃声がしました。気付いた私達一家は、窓から隣の家を見た」
「……」
「その家の人達と、仲良しだった子が、撃ち殺されてるところでした」
淡々と、ヘルガは話していく。
過去を語るヘルガの瞳は、深い深い闇を映していた。
「お父さんは警察に連絡しようと電話機へ走り、お母さんは私を抱き締めながら震えてた。
でもテロリスト達は気付いて、私達の家にもやってきた。お父さんは撃たれて、お母さんも……」
涙が浮かぶ。
「崩れゆくお母さんの隣で、私もテロリストの一人に撃たれた。
でも、撃たれどころが良かったおかげで、こうして……」
撃たれた箇所を押さえて、ヘルガは震える。
ヘルガは必死に、全てを話そうとしていた。
クランは真剣な表情で、黙ってクランの話を聞き続けた。
「助かった後、テロリストはその軍の偉い人の反対勢力で、私達は巻き込まれたと教えてもらいました」
「そして、シオン君やシオン君のお父さんの元に引き取られたのね」
「はい。父子家庭で、男しかいない二人だけの家族の中に私が飛び込んだ」
ヘルガは涙を拭い、なんとか笑顔を作ろうとした。
「初めはお互い四苦八苦してたけど……でも今は、お兄ちゃんもお父さんも、本当の家族だから」
「なら、心配ね。連れ去られたお義父さん」
「はい……」
作った笑顔も、消えていく。
クランはそんなヘルガの手をそっと掴み、自分の左手に、重ねた。
ヘルガにゆっくりと、自分の手を握らせる。
「! クランさん、これ……」
「私も同じだから。だから、絶対に独りで、抱え込まないでね」
クランはとても穏やかな表情をして、ヘルガに言う。
ヘルガは唖然としていたが、クランの言葉を受け止めて、ゆっくりと頷いた。
シャワールーム内はシャワーの水音に包まれている。
響くその音は、どんな会話も、打ち消すだろう。
一通り体を洗い終えたモモは、各自の個室を抜き足で覗きながら歩いていた。
そして、
「えいっ!」
「きゃあ!」
シンシアの声がシャワールームに響いた。
「どうしたのシンシア!? ……って、モモちゃん?」
「むむむ……これは」
「お姉ちゃん、助けてぇ!」
クランが個室に飛び込むと、モモがシンシアの胸を揉んでいたのだ。
「年はあんまり変わらなそうなのに、これは卑怯です!」
「大きい……」
モモは悔しさに声を上げ、クランと共に個室を覗き込んだヘルガは羨ましそうに呟いた。
「クッ……負けたッ」
ミランダも唇を噛んだ。
「ミランダさんまで……もう、シンシアの胸は見せ物じゃないのよ!」
「クランさんは貧乳の悩みがわからないからそういうことが言えるんですよぉ!」
「どうでもいいから手をどけてぇ!!」
シンシアが絶叫する。
束の間の平和。なのかもしれない。
火星圏では、今も尚火星コロニー義勇軍の侵攻と、駐留軍の抵抗が続いている。
戦渦の中に、彼女達はまだ身を置いているのだ。
火星で発見された謎の機体と記憶を失った少女、そしてそれに関わる者達の困難は、続く。
To Be Continued...