「にゃーん!にゃーん!」
―明朝6時半。黒猫を模した目覚まし時計の部屋中に鳴り響く音。それによって
少女は目を覚ました。もう朝かと言わんばかりに毛布の温もりを乞うが、目覚
まし時計の音があまりにもうるさいので仕方なく止めるしかなかった。再び眠
りに入ろうとしたが、その直前に大事なことを思い出した。
「…はっ!」
掛け声と共に布団を蹴り、起き上がる。
「いけないっ!早く朝風呂に入らないと学校に間に合わないっ!」
寝巻きを脱ぎ、下着姿になりながら狭い部屋を駆け足で風呂場へ向かう。
「あっ!そうだ!歯磨きもしなくちゃ!あと薬も!あっ、あとそれから朝食に
シリアルのチョコクリスピーも!」
少女は目を覚ました。もう朝かと言わんばかりに毛布の温もりを乞うが、目覚
まし時計の音があまりにもうるさいので仕方なく止めるしかなかった。再び眠
りに入ろうとしたが、その直前に大事なことを思い出した。
「…はっ!」
掛け声と共に布団を蹴り、起き上がる。
「いけないっ!早く朝風呂に入らないと学校に間に合わないっ!」
寝巻きを脱ぎ、下着姿になりながら狭い部屋を駆け足で風呂場へ向かう。
「あっ!そうだ!歯磨きもしなくちゃ!あと薬も!あっ、あとそれから朝食に
シリアルのチョコクリスピーも!」
予鈴と共に、生徒たちがそれぞれの教室に集結する。ここは進宇宙記念国際学園。
進宇宙暦0001年に設立され、以来100年の伝統を持つ由緒正しい私立校である。
先ほどの少女は高等部に所属し、電子工学科を専攻している。
「やぁ、頃奈。そっちの調子はどうだ?」
クラスメートであり、親友である楠川煉滋(くすかわれんじ)が少女に話しかける。
「うーん、やっぱりVariable言語って使いづらい。柔軟性があるけどバグの多い
Variable言語より柔軟性はないけど安定性のあるfixed言語の方がウチは使いやすい
かなぁ…」
少女、宗谷頃奈(そうやころな)が返す。そして、今度は頃奈が訊いてみた。
「そっちの…何だっけ?…そうだ、MSパイロット科はどうなの?」
「おお!それそれ!それ待ってたよ頃奈ちゃーん!聞いてくれベイベー!」
嬉しそうに右手をマイクのように模り、左足を机の上に乗せ、まるでロックバンドの
ライブのように煉滋がはしゃぐ。何の事か今ひとつ検討もつかない頃奈。
「じ・つ・は・な…」
「?」
「皆さんご存知のEA-002 グワッシュに乗って模擬戦するんだ!授業用のMSは機能が
制限されすぎて飽き飽きしてたんだ、いよいよ本格的なMSに乗れるんだぜ!」
「おおっ!凄いよ、煉滋!いよいよ…こう…夢に一歩近づいたって感じで…!」
親友の前進に思わず頃奈はガッツポーズ。同時に歓喜の発言に後悔した。下を向き、
前髪で顔を隠し、黙り込む煉滋。
「あ…ゴメン……ね…気に障る事言ったかな…?」
頃奈がそっと気遣う。両者の沈黙は続いた。しばらくすると煉滋が前を向いた。
「…………」
「あ…」
「…引っかかったな?大丈夫大丈夫、頃奈は何も悪い事してないよ。そんな事より
もうすぐ始業ベル鳴るぜ、さっ!テキストの準備だ準備!」
釣りだった。しかし頃奈は気づいていた。煉滋が内心傷付いている事に。そして煉滋
を気遣う自分を気遣ってくれていることに。そんな錬磁を見て、頃奈は胸が苦しく
なった。
「…(傷付くのは俺だけでいい。頃奈は俺の親友だからこそ迷惑をかけたくない。
俺の夢は醜い夢。あの日の呪縛に囚われた愚かな夢。)…」
始業ベル開始直前に教室である噂が流れた。それは日を重ねるごとに学年で知らぬ者
はいなくなった。ただ二人を除いて。
進宇宙暦0001年に設立され、以来100年の伝統を持つ由緒正しい私立校である。
先ほどの少女は高等部に所属し、電子工学科を専攻している。
「やぁ、頃奈。そっちの調子はどうだ?」
クラスメートであり、親友である楠川煉滋(くすかわれんじ)が少女に話しかける。
「うーん、やっぱりVariable言語って使いづらい。柔軟性があるけどバグの多い
Variable言語より柔軟性はないけど安定性のあるfixed言語の方がウチは使いやすい
かなぁ…」
少女、宗谷頃奈(そうやころな)が返す。そして、今度は頃奈が訊いてみた。
「そっちの…何だっけ?…そうだ、MSパイロット科はどうなの?」
「おお!それそれ!それ待ってたよ頃奈ちゃーん!聞いてくれベイベー!」
嬉しそうに右手をマイクのように模り、左足を机の上に乗せ、まるでロックバンドの
ライブのように煉滋がはしゃぐ。何の事か今ひとつ検討もつかない頃奈。
「じ・つ・は・な…」
「?」
「皆さんご存知のEA-002 グワッシュに乗って模擬戦するんだ!授業用のMSは機能が
制限されすぎて飽き飽きしてたんだ、いよいよ本格的なMSに乗れるんだぜ!」
「おおっ!凄いよ、煉滋!いよいよ…こう…夢に一歩近づいたって感じで…!」
親友の前進に思わず頃奈はガッツポーズ。同時に歓喜の発言に後悔した。下を向き、
前髪で顔を隠し、黙り込む煉滋。
「あ…ゴメン……ね…気に障る事言ったかな…?」
頃奈がそっと気遣う。両者の沈黙は続いた。しばらくすると煉滋が前を向いた。
「…………」
「あ…」
「…引っかかったな?大丈夫大丈夫、頃奈は何も悪い事してないよ。そんな事より
もうすぐ始業ベル鳴るぜ、さっ!テキストの準備だ準備!」
釣りだった。しかし頃奈は気づいていた。煉滋が内心傷付いている事に。そして煉滋
を気遣う自分を気遣ってくれていることに。そんな錬磁を見て、頃奈は胸が苦しく
なった。
「…(傷付くのは俺だけでいい。頃奈は俺の親友だからこそ迷惑をかけたくない。
俺の夢は醜い夢。あの日の呪縛に囚われた愚かな夢。)…」
始業ベル開始直前に教室である噂が流れた。それは日を重ねるごとに学年で知らぬ者
はいなくなった。ただ二人を除いて。
「今日から授業用MSのSMS-005 プーリッツではなくS.A.E.S.社よりレンタルした
EA-002 グワッシュを使用して模擬戦するぞ。MS工学科の奴らは整備を怠るなよ!」
進宇宙記念国際学園のMS関係の学科は民間保安会社S.A.E.S.社(Space And Earth Security)
と連携を取り、次代のMSパイロットやMS整備士、MS設計士等の育成に力を入れている。
生徒達も真剣に講師の説明を聞き、各々が与えられた機体に愛着を持ち、授業に臨んだ。
EA-002 グワッシュを使用して模擬戦するぞ。MS工学科の奴らは整備を怠るなよ!」
進宇宙記念国際学園のMS関係の学科は民間保安会社S.A.E.S.社(Space And Earth Security)
と連携を取り、次代のMSパイロットやMS整備士、MS設計士等の育成に力を入れている。
生徒達も真剣に講師の説明を聞き、各々が与えられた機体に愛着を持ち、授業に臨んだ。
普通科。今日は体育の授業で校庭が活気にあふれている。その中で一人、際立った
活躍をする生徒が一人いた。バスケットボールを軽快にドリブルし、鮮やかなシュートを
決めた。
「やっぱ強いなぁ…グレンの奴。」
「へへっ!本業はサッカーだけど、スポーツマンはスポーツ万能なんだぜ!」
「勉強は小学生並みでダメダメだけどな。」
グレン・ベル。高等部普通科一年。頃奈や煉磁とは幼馴染でクラスメートにあたる。
進宇宙記念国際学園では授業時以外はどの学科でも同じクラスで過ごすシステムを
採用している。
「さぁ、どっからでもかかって来い!次はバレーか?野球か?それともサッカーか?」
自信満々なグレン。彼は極度の遊び好きであり、極度の勉強嫌い。勉強の時間を全て
サッカーに費やした事で学年全体に知られている。その姿を校舎の4階から眺めていた
頃奈。彼の元気な姿に頃奈は勇気を貰った。
「…よし、私もプログラムの開発を頑張らなきゃ!I☆BU☆KIさんに負けないために!」
活躍をする生徒が一人いた。バスケットボールを軽快にドリブルし、鮮やかなシュートを
決めた。
「やっぱ強いなぁ…グレンの奴。」
「へへっ!本業はサッカーだけど、スポーツマンはスポーツ万能なんだぜ!」
「勉強は小学生並みでダメダメだけどな。」
グレン・ベル。高等部普通科一年。頃奈や煉磁とは幼馴染でクラスメートにあたる。
進宇宙記念国際学園では授業時以外はどの学科でも同じクラスで過ごすシステムを
採用している。
「さぁ、どっからでもかかって来い!次はバレーか?野球か?それともサッカーか?」
自信満々なグレン。彼は極度の遊び好きであり、極度の勉強嫌い。勉強の時間を全て
サッカーに費やした事で学年全体に知られている。その姿を校舎の4階から眺めていた
頃奈。彼の元気な姿に頃奈は勇気を貰った。
「…よし、私もプログラムの開発を頑張らなきゃ!I☆BU☆KIさんに負けないために!」
「ちぇ…何だよ。ちょっとスポーツできるからって…授業サボってるくせに。」
「みんなと同じ事をしてない時点で外れてるよな。アイツは将来のこと考えてるのか?」
校庭の隅で5~6人が溜まってグレンの陰口を呟き合っていた。
「みんなと同じ事をしてない時点で外れてるよな。アイツは将来のこと考えてるのか?」
校庭の隅で5~6人が溜まってグレンの陰口を呟き合っていた。
「よっしゃ!敵機撃破!残るは45体!」
MS訓練場でグワッシュを軽快に駆る煉磁。
「うん、うん。やっぱり頃奈にチューンしてもらったOSは使いやすいな。」
「…(ただ、今はいいとして今後も頃奈にチューンしてもらうわけにはいかないな。)…」
煉滋は一年前までは手の付けようのない不良だったが、家族でアメリカ旅行へ行った時に
自爆テロに巻き込まれて以来、改心する。実技の成績は平凡。筆記の成績は悪いものの、
テロや紛争を防ぐために軍人になるのが夢である。
MS訓練場でグワッシュを軽快に駆る煉磁。
「うん、うん。やっぱり頃奈にチューンしてもらったOSは使いやすいな。」
「…(ただ、今はいいとして今後も頃奈にチューンしてもらうわけにはいかないな。)…」
煉滋は一年前までは手の付けようのない不良だったが、家族でアメリカ旅行へ行った時に
自爆テロに巻き込まれて以来、改心する。実技の成績は平凡。筆記の成績は悪いものの、
テロや紛争を防ぐために軍人になるのが夢である。
「ふぅ…もう夕方か…グレンと煉滋はどうしてるかなぁ…。」
頃奈は誰もいなくなった教室でメールを打っていた。使用プロトコルを宇宙用に切り替えて
メールの送信ボタンを押す。メールにはこう書かれていた。
「I☆BU☆KIさんへ、ご無沙汰してますころにゃんです。最近はコロニーサイドと地球サイド
の対立がよく2chの話題になってますが。仕事の依頼が来たんですね、羨ましいです。私は未だ
プログラムを開発中です。完成したらマイクロハードディスクと共にそちらに送りたいです。
I☆BU☆KIさんはコロニー暮らしですよね。今度、機会があったら会いませんか?」
頃奈は誰もいなくなった教室でメールを打っていた。使用プロトコルを宇宙用に切り替えて
メールの送信ボタンを押す。メールにはこう書かれていた。
「I☆BU☆KIさんへ、ご無沙汰してますころにゃんです。最近はコロニーサイドと地球サイド
の対立がよく2chの話題になってますが。仕事の依頼が来たんですね、羨ましいです。私は未だ
プログラムを開発中です。完成したらマイクロハードディスクと共にそちらに送りたいです。
I☆BU☆KIさんはコロニー暮らしですよね。今度、機会があったら会いませんか?」
「よぉ、頃奈。こんな所にいたか。」
煉滋。
「さて、帰るか、もう夕方だぜ。」
グレン。
「…うん!」
頃奈はPCをシャットダウンし、 誰もいない教室から二人のところへ去っていった。
煉滋。
「さて、帰るか、もう夕方だぜ。」
グレン。
「…うん!」
頃奈はPCをシャットダウンし、 誰もいない教室から二人のところへ去っていった。
同時刻、三人を遠くから見ているものがいた。
「…あれが宗谷大尉の娘さんか……」
「…あれが宗谷大尉の娘さんか……」