1-334~337

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ルイズは考えていた。果たして何時からこんな事になったのだろうか? 目の前で椅子に座る一人の男。一目で解る上品なものであろう青い上着に白のパンツ。 足を組み、どこか遠くを見据えたその男はまさに優雅(エレガント)だった。 始まりはあの日。使い魔召喚の儀式の時。 毎度と言われた爆発。それが晴れた時、彼は現れた。 誰もが息を飲んだ。変わった服装、杖は持ってない。されどその男の纏う空気に。 名をトレーズ=クシュリナーダと言った。 聞けば別の世界からやって来たと言う。ルイズは初め信じることが出来なかった。 しかし、それは少しずつ改められていった。 契約の時点でまず見せ付けられた。なんと上品な接吻であっただろうか。周りの女子は失神するか、「ゼロのルイズなんかと・・・・」と嘆いていた。 朝食になればその振舞いのエレガントな事か。特別に椅子に座らせてやったらその優雅な事優雅な事。 平民用の貧相な食事のはずが王公貴族の食す宮廷料理に見えた。それほどの隙のない振る舞いであった。 まわりが畏敬の感情を抱き、まともな食事を提供するようにルイズに言い、テーブル上の料理を食べ、またもやそのエレガントさに失神したものがいたとか。 皆の視線の中で程々に食事を終えると、彼は口を開いた。 「ミス・ヴァリエール。ここは貴族たる精神と魔法を学ぶ学院だったかね?」 その問いにそうだ。と答えると、次に出てきた言葉の数々は衝撃的な物だった。 「君は満足な食事も出来ず死していった餓死者を見たことがあるかね?」 いきなりこんな事を言うものだから有るわけがない。変な事を言うなと返してやった。周りから何をいわれるものか分かったものでない。 しかし彼は淡々と言葉をつむいでいった。 「彼らはまるで満腹で腹の膨れた悪魔の様な姿で死んでいくのだよ。しかもこの瞬間にも世界のどこかでその様な人間達が増えているだろう。」 その言葉に周りの人間も含め何を言うことも出来なかった。 「君達は平民平民と言うが、その平民達が君達の生活を支えているのを理解しているかね?」 そんな事、考えてもみなかった。 「まさにこの食事を作ったのは誰かね?このテーブルや棚に至るまでの調度品を作った職人達はどんな身分かね?作られたモノを卸し、販売してくれるのは誰かね?苦労して食物を生産し、収穫するのは誰かね?貴族達の家事一般を引き受けてくれるのは誰であろうか」 誰もが口を閉じ、うつむき、そして考える。 「この世界から平民が居なくなったら貴族達は生きて行けるのかね?」 頭を槌で殴られた様な気持ちだった。考えた事も無い、そして当たり前の事だった。 「それを朝からせっかく作られた食事を残し、この為に奪われた命達を冒涜する様な事は慎むべきだ」 「高貴な者というのはただ地位の高い者の事ではない。自分の周りの物事の本質を見つめ、慈しむ事の出来る者だと私は思う。無闇やたらな事はせず、何事もエレガントではなくてな」 その微笑と共に食堂内が湧いた。スタンディングオベーション。誰もが感激し、涙を流す者さえいた。なんという人格者なのだろうか。 平民の大切さと言うものなんて考えてもみなかった。しかし、彼の言葉は真実であり、誰もが自らを恥じた。そしてトレーズのエレガントさに惹かれていくのだ。 更に彼は、どんどんとその存在を周囲に見せ付けていく。 ギーシュが女がらみでメイドに八つ当たりしたときは苦言を呈し、決闘を挑まれればサーベルを抜き放ち一部の隙も無く勝利する。 誰かがルイズを侮辱すれば、そのエレガントな御言葉によって彼らを改心させていく。 大盗賊土くれのフーケが現れれば、その正体を直ぐ様看破し、難なく破壊の杖を取り返す。 舞踏会で踊れば誰もがそのエレガントな姿に見惚れ、その相手、ルイズを羨望の眼差しで見るのだった。 他にも沢山のエレガントなエピソードがあるのだが残念ながら割愛しよう。 彼は今、アルビオンの動乱の一件での活躍によりアンリエッタ王女に第二宰相として取り立てられていた。 初めはトレーズも断った。 「貴族という強者の視点では無く平民という弱者の視点で物事を見据えたいのです。アンリエッタ王女。私は敢えて敗者になりたいのです」 しかし、その言葉に心打たれた王女は、彼の世界の一国で「三顧の礼」と伝えられる故事も真っ青な程、トレーズの所へマザリーニと共に足を運んだ、 その熱意に応え、トレーズも申し出を承諾するのだった。 あれから二年も経った。アンリエッタから権力の全てを与えられたトレーズは、マザリーニと共に次々と国を改革していった。 先ずは平民と貴族の差を埋めるため、議会を制定し平民を国政に参加させることから始めた。 当然の事ながら多くの貴族は大反対した。 しかし、アンリエッタ王女、そして、トレーズに会い、その心に感銘を受けた女王の天の声によりそれは実現した。 次第に憲法をはじめ、細かい法律を次々定めていったトリステインは立憲君主国として生まれ変わり、打ち出されるトレーズの政策により、瞬く間に戦争の傷を癒していった。 また、かつて初めてアルビオンに行った際に救出した、ウェールズ・テューダー王子をアルビオン奪還戦後、トレーズが宰相として就任した際には暫くの間客人として手厚くもてなし、トリステインの国力が回復したのを待ってアルビオンを彼の下に戻せるよう尽力した。 また、アンリエッタとウェールズの想いを知っていた彼は、政略結婚・同盟締結の名目で彼らの想いを成就させ、それがトレーズを慕う者をさらに増やす要因ともなった。 今や、トリステインはかつてでは考えられない程の国威を誇っていた。 平民と貴族の差が縮まり、それによって腐敗した貴族が淘汰されて国は浄化され、平民は貴族を力あるものとして敬い、そしてまた貴族も、平民を国を根底から支える存在として敬った。やっと皆が対等になれたのだった。 ルイズが見せた伝説の虚無の力がらみでゴタゴタもあるが超大国として成長したトリステイン、そしてトレーズの前では、ガリアのジョゼフ王と言えど簡単に手を出せるものでは無かった。 目の前のトレーズが立ち上がる。いつの間にか使い魔としてのルーンがその手から消えていた彼であったが、第二のトリステインの王と言われる今でも「私は君に召喚されたのだから」と自分を気にかけてくれる。 彼の前では恋愛感情抜きにどこか暖かい気持ちになれる。ヴァリエール家の三女として生まれ、其れ故のコンプレックスを抱く事など馬鹿らしく思えてくる。 窓口に立ったトレーズと共に外を見る。発展し続け、あらゆる国の人間が集まる王都・トリスタニアの街並み。 そして王宮の敷地内に立つ巨人。 『トールギスⅡ』 タルブの村でトレーズを慕う者が共に飛ばされてきたという代物。その者というのがよく知るメイド・シエスタの祖父であり、その巨人が、かつてトレーズが駆った、魔法の無い世界で作られたという戦争の道具。 それが今、トリステインの守り神として立っていることを彼はどう思うのだろう?遠くを見るその瞳に、何が見えているのかは解らない。だが、少なくともそこには『人の未来』と言うものが見えていると信じたい。ルイズはそう思った。 「トレーズ様、ルイズ様。お飲み物が入りましたよ」 風通しの為に開けておいた入り口からシエスタがポットとカップを持って顔を覗かせる。 「今日は東方から来た『珈琲』って飲み物らしいですがいかがでしょうか?」 その言葉に一瞬目を見開いたトレーズは 「頂くとしよう」 そう言ってテーブルにつく。ルイズもあとを追うようにつく。 穏やかな時間が流れていた・・・・・ トレーズ=クシュリナーダに関する話は幾らでも見付かる事だろう。だが、彼に直接会った者達は、余計な事は言わずただ一言のみ口にした。 「彼は全てにおいて『エレガント』だった」と・・・・・・・ ----

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