ゼロの使い魔0083サーヴァントメモリー-02 a

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『撤退!ウェールズ・フリート』 陥落したソロモンを後にし、ア・バオア・クーへと脱出すべくソロモンの海を艦隊が進む。 その中心に、巨艦が護られるようにして布陣されている。 その艦のみで1個艦隊に匹敵するとまで言われている、ドロス級大型輸送空母。その2番艦である『ドロワ』である。 ただ、今だ未完成状態で、本来の速度での航行は不可能であり、他の艦艇も損傷を受けていない艦艇は皆無で、追撃を受けるのは時間の問題だった。 「大尉!後方より敵艦隊!」 「やはり追撃に来たか。302隊出るぞ!1艦たりとも沈めさせるなよ!」 「「「了解!」」」 僅か7機のMSでの殿戦。敵艦隊との戦力比からすれば微々たるものだ。 だが、先頭を征く蒼く染められたMSと新兵器の存在。そして搭乗者の技量がそれを覆させていた。 『パーソナルカラー』。連邦でも無い事は無いが 主に公国軍において使用され、味方には士気を、敵には恐怖を与える事を目的としてエースパイロットに与えられる固有の塗装である。 効果はあるが、敵の的になり易いので、エースの中でも一部にしか与えられない物だ。 「沈めぇぇぇぇ!」 叫びと共に放たれる、光の矢。 ジオン公国軍、初となる携帯型ビーム兵器の試作第一号であり、その長さは自機よりも長く、『ドロワ』にすら船外に格納されていた程だ。 「敵は…たった7機なんだぞ…!悪夢だ…!あの蒼い機体は『ソロモンの悪夢』だ!」 「お見事です大尉。残存艦艇に損害はありません」 「潮時か。戻るぞ、カリウス。ドロワに合流する」 『ソロモンの悪夢』 ソロモン海戦と呼ばれる、ジオン宇宙攻撃軍残存兵力を追撃した連邦第三艦隊から、そう呼ばれ畏怖されたジオン公国軍トップエースの一人。 自らが率いる302哨戒中隊を率い、新鋭MSゲルググを駆り、巡洋艦5隻。戦艦3隻を轟沈せしめた英雄とも言える存在。 それが、MSもミノフスキー粒子も何も無い世界に来ていた。 「む…この時になってソロモンの夢を見るとはな…」 寝るつもりはなかったが、30分程寝ていたらしい。 ソロモンの夢を見たのは、この城の外に居る五万の敵兵力の存在が大きいだろう。 三百対五万。その比率はデラーズ・フリートと連邦軍よりも多いと言ってもいい。 廊下に出て、空を、いや宇宙を見上げる。 「星の屑成就の暁には二度と大地より宇宙を見上げることは無いと思っていたが…」 視線の先には二つの月。正直ラグランジュポイント(コロニーが集まる重力安定地帯)とかどうなっているのかと思ったが、まぁ巧くやっているのだろうと思う。 後ろで纏められていた髪を解き、窓枠に腰掛ける。星の屑第二段階の出撃前にもそうしていたように。 「無事でいればよいが…」 気掛かりなのは、ラ・ロシェールで襲撃された時に足止めを買って出た三人。 キュルケ、タバサ、ギーシュだ。 なにせ、星の屑実行中に、そのようにして足止めを買って出た者の中で生き残っているのは302哨戒中隊唯一の生き残りのカリウス軍曹だけだからである。 「思えば、数多くの同胞を失ったものだな…」 トリントン基地襲撃時にゲイリー少尉、アダムスキー少尉、ボブ中尉、コムサイのパイロットを失い キンバライド鉱山基地においては、HLV打ち上げの犠牲としてビッター少将以下、全てのMSが撃破された。 観艦式襲撃から最終段階からにしても、数多くの同胞が散り、自らの艦隊を任せていたグラードルはおろか、デラーズ閣下までもが斃れた。 そして、コロニーの北米大陸落下を見送った後に、月からの追撃艦隊に向け、それこそ星屑のように散っていった者達。 自身もその内の一人だったはずだが、現にこうしてここに居る。 デラーズ・フリートの戦力は壊滅に近いだろうが、作戦が無駄だったとは思わない。 カリウスを初めとした、アクシズ艦隊への脱出者が居る限りそれは無駄ではない。 「…ビスレィ二等兵は生きているのだろうかな」 ソロモン戦の後に、補充兵として配属された若き兵。学徒動員だったはずだが ア・バオア・クーにおいて彼の機体だけ異常を起こし、母艦である『ドロワ』に留まっていた。 その後に、『ドロワ』が沈められたと聞いてからは消息不明である。 そんな事を考えながら、今までの事を回想する。 意外だろうが、ここに来てからまず最初に懐いてきたのがギーシュ・ド・グラモンである。 香水を拾い、因縁染みた事を言われたのだが… ギーシュが軍人の家系と知るや否や生っ粋の軍人であるからには、思いっきり『修正』した。 「君も将校だろう!ただの兵でないのなら、己の行動に責任を持て!」 この後、身長195cmのガトーにより軍人としてあるべき姿としての説教が一時間続いたが、腐っても軍人の家系。 軍人共鳴が発動し終わる頃には、すっかり上官扱いでギーシュから『少佐』と呼ばれる事になる。 現在の服装もノイエ・ジールに予備として積んであったジオン軍服のため、余計に新米と上官に見てしまっているのも一役買っているだろう。 なお、マントは貴族のみが付けるという事なので外してある。まぁ、儀礼用の物なので特に気にはしなかったが。 翌日、中庭でギーシュがワルキューレと呼ばれる青銅のゴーレムを出し、直立不動の姿勢で立っている。 「7体のワルキューレか…3体を1小隊とし   2個小隊に分け残りを直衛に回す事だ。各小隊内で連携が取れるようになれれば、さらに伸びるようになる」 「はい、少佐!」 ジオン公国軍MS小隊編成であるが、MS3機をして1個小隊とする基本戦術。まずこれを教え込んだ。 各個7体に動かすより、統制が取れた1個小隊の方が強い時があるのだ。 が、ギーシュ本人はいいとしても、形の上では、貴族が平民に教えを請うているという形が他の貴族には気に入らないようで 「グラモン家も終わりだな。メイジが平民風情に教えを受けるとは!ま…ドット程度なのだから仕方あるまい」 そう言い放ったのは、ド・ロレーヌ。風系統の名門の家系であるらしく、ラインである。 「僕は確かにドットだが…グラモン家と少佐への侮辱は撤回してもらおう!」 「ならどうする?決闘でもするのか?」 「受けて立つ!」 相変わらずキザったらしく薔薇を加えポージングを取ったギーシュが決闘を受けたが、後ろから重みのある声に止められた。 「気迫は十分。が、獅子は無闇矢鱈に吼えたりはせぬものだ。放っておけ」 「…分かりました」 いかに魔法が使え、平民から恐れられているとはいえ、所詮子供。 数多くの死線を潜り抜けてきたガトーから見れば、圧倒的に足りない物がある。 だが、相手は、このような小物相手にするまでもない、という風に受け取ったのか杖を取り出している。 事実そのとおりなのだが。 「ふん!腰抜けに用は無い!僕は貴様に決闘を申し込む!」 唇の端を上げ、酷薄そうな笑みを浮かべているド・ロレーヌを軽く一瞥する。 似ているどころか、無能な連邦軍高官と同じ目をしている。 「よかろう」 「少佐無茶です!」 「要らぬ心配だ。魔法というものが、どのような物かは大方把握した」 止めようとしたギーシュも、その言葉から滲み出る自信に何も言えなくなる。 MSか生身。違いはあれど、戦場の場数の多さでは少なくとも、ここに居る誰よりも多い。 二人が10メイル程間を開け対峙する。 「君のような平民に名乗るいわれはないのだが、これも作法だ。ヴィリエ・ド・ラ・ロレーヌ、相手仕る。君も名乗りたまえ」 「貴様に名乗る名など持たん。戦う意味さえ解せぬ輩に!」 平時は冷静だが、いざ戦闘になると結構熱くなるタイプである。 特に未熟や無能な敵兵を前にすると、それは一層加速する。 かといって、必要以上に深追いせず、自らの状態を正確に把握できるのが、一般兵とエースパイロットの違いだ。 「この後に及んで…!平民かと思っていたが、手心は加えん!いざ!」 ド・ロレーヌが杖を持ち呪文を唱える。『ウィンド・ブレイク』。風の塊を相手にぶつける呪文だ。 「遅い!」 即座に銃を発砲。弾薬の補給が効かない以上、無駄弾は避けたいとこだが、この場合、今が使いどころだ。 銃弾が吸い込まれるようにして杖に命中し、衝撃で杖を手放す。 「戦場で立ち止まるとは、素人か。確か、ド・ロレーヌとか言ったな…私を敵にするには、貴様はまだ…未熟!」 侮蔑を含んだ声で言い放ったが、相手は何が起こったのか分からないでいる。 だが、杖を折られた以上、魔法を使うこともできない。 踵を返すとギーシュの元に戻ったが、ガトーにしてみれば『戦闘』と呼ぶに値しないものだ。 その場で動かずに居るなど、戦場では的にすぎない。 ただ、手は狙ったが、ブレも考えて腕にも当たるように撃ったはずだが、迷いも無く狙いが付けられた事は少々疑問に思わないでもなかったが。 それからしばらくすると、事件が起こる。 フーケなる盗賊が『巨人の杖』を盗み、その追撃の任に当たる事になる。 関係無い事だったが、生粋の軍人だ。与えられた任務というか仕事は何であろうとこなす。 サボタージュという言葉は一切浮かばないというところは、さすがである。 だが、現物を見て、さすがにたじろいだ。 追撃先に遺棄されるかのように放置されていたその杖は、最も良く知るMS。名機中の名機『ザク』が使う兵器。 H&L-SB25K 280mmバズーカ。通称『ザク・バズーカ』だったからだ。 それを確認するとフーケのゴーレムが現れたが ギーシュに半ば無理矢理MS大の腕を作らせ、ゴーレムを陽動し、ザク・バズーカのトリガーを引かせた。 対艦、対MS用の兵器だ。土のゴーレム如き粉砕するのはわけはない。 なお、この後都合よく現れたロングビルは、即捕縛した。 ルイズ達が人質に取られそうになった時は、撃ち殺さんばかりの勢いだったが、踏み止まる。 というか、ルイズ達が止めねば撃ち殺していた。 「少佐!もうフーケのHPはゼロです!」 「落ち着きなさいよ!捕まえなきゃいけないんだから…」 「ぬう…私とした事が感情に流されるとは…不覚…!」 「その、燃え上がるような情熱が素敵…」 なお、決闘後にそれを見ていたキュルケに言い寄られた事は割愛させて頂く。 潜伏当時、交際していたニナ・パープルトンを置き去りにしデラーズの元に馳せ参じたガトーである。 ほとんど相手にしなかったのだが、逆にそれが仇になっているのは、本人も知らない。 そして今現在に至り、アルビオン『ニューカッスル城』に来ている。 夜、アンリエッタが訪れてきて、ルイズに密命を与えに来て一悶着あった。 そこは、ガチ武人のガトー。敵ならともかく、この国の姫であるからには、自然に言葉使いが上官に対しての物のようになる。 命令自体は、情勢的に納得できるものだが、依頼のやり方に多少なりとも嫌悪感を覚えた。 ただ、もちろん、自分の立場を弁えているので何も言わなかったが。 ギーシュが雪崩れ込み、三人での任となったが、翌日には中途でキュルケとタバサ、そしてルイズの婚約者であるワルド子爵が合流する事になったが ワルドに関しては、かなり露骨な嫌悪感が先行する事になる。 理屈などではない。経験と本能で判断した。 「君がルイズの使い魔かい?人とは思わなかったな」 「は…子爵殿」 感情を押し殺しワルドを一瞥する。 メイジらしかぬ、目付きは鋭く逞しい体付きをしており、確かに隊長を名乗るだけの事はある。 もちろん、ガトーも、そこは負けてはいない。むしろ勝っている。 宇宙空間でのMSの機動戦闘には膨大なまでの負荷が掛かる。 AMBAC機動しかり、スラスターを全開にした急減加速。そのGに耐えうるだけのトレーニングは欠かすことはできはしない。 まして、観艦式襲撃からコロニー落着まで、二日近く一睡もせずに化物染みた機動力を誇るノイエ・ジールを自在に操っていたのだ。 伊達に超過酷トレーニング『デラーズ・ブートキャンプ』をやり遂げてはいない。 精神力もさることながら、隊長とはいえ、魔法などというもので戦う者に引けを取るはずは無かった。 「ぼくの婚約者がお世話になっているよ。ん?ぼくの顔に何か付いているのかな?」 ――何故、ここにいる。 「いえ…」 初対面であるが心中そう思わずにはいられない。 「どうした? アルビオンに行くのが怖いのかい? なあに! 何も心配することはないさ。   君は『土くれ』のフーケを捕まえたんだろう? その勇気があれば何だってできるさ!」 そう言い放ったワルドが、グリフォンを呼び先行したが、ガトーは既に殺意すら覚えていた。 「しょ、少佐、もう子爵達は出てしまいましたが」 その様子にビビったギーシュが恐る恐る聞いてきたが、生返事だ。 「行くか」 (少佐でも、やきもち焼くなんて事があるのか) 口に出せば修正されそうだったので言いはしないが、そんな生易しいものではない。 一度胆を嘗めた者だからこそ分かる。 ――シーマ・ガラハウ…何故貴様が、ここにいるのだ。 だからこそ、そう思わずにはいられない。 ワルドは、仇敵と同じ。腹の中に黒々とした物を持ち、栄光あるジオンに仇を成したシーマと似すぎていた。 「相棒は難儀な生き方してるね。堅っ苦しくねぇのか?」 どこからか声が聞こえ思考を中断したが人影は無い。 あるのは脇に置いた一本の剣だけだ。 「生き方に楽も難しいもあるまい。それを分からぬ貴様でもなかろうに」 視線を剣に向けながら真顔で答える。一般人が見たら、間違いなくフラナガン機関行きである。 が、聞こえてきた声は確かに剣からだ。 「それもそうだ。俺なんか、人間よりずっと生きてるんだからな」 インテリジェンスソード『デルフリンガー』 弾に限りがある以上、そうそう使えないので、護身用に買える値で買った物だが、中々興味深い。 剣技に関しては、宇宙攻撃軍に配属される前はギレン・ザビ親衛隊であったため、一通りだが訓練を受けている。 実際に使う事は無いが、儀礼用と言ったところだ。 もっとも、武器を持った時に光る、ガンダールヴの印のおかげで、ほぼ全ての武器の扱いに長けるようになったという妙な事態になっているのだが。 「このような物、如何ほどになろうものか」 左手のルーンを言ったが、基本的にあまり信頼していない。 MS戦においては信じられる物は、己の技量である事が大きかったからであるが。 「…なに見てるの?」 別の声が届くが、その声はよく知っている。 「いや…宇宙で散っていった同胞の事を思うとな」 このガッチガチの武人の主である、ルイズだ。 さすがに、ノイエ・ジールで、MS・艦隊戦を見た上 ザク・バズーカの破壊力を目にしたからには、別世界ないし、宇宙から来たと信じざるをえないでいた。 よく見ると、頬に涙が伝った跡がある。 「あんたの国でも戦争してたんでしょ…?」 「うむ」 「どうして…どうして死を選ぶの?わけ分かんない。姫様が逃げてって言ってるのに、どうしてウェールズ皇太子は死を選ぶの?」 「閣下にも、信じる大義があるのだろう。それは我々が口を出す事ではない」 「なにそれ。愛する人より大事な物があるっていうの?」 それを聞いて考える。自らも、エギーユ・デラーズの召集に応じて、ニナ・パープルトンを置き茨の園に向かった。 (カリウス…ニナを連れて無事にアクシズ艦隊にたどり着けたのだろうかな。そしてヤツは…) GP-03Dデンドロビウム。腐敗した連邦軍にの中にあって、ただ一人執拗に追いすがってきた兵士。 オーストラリアの大地で、ソロモンの海で、コロニーを護る宇宙で、蒼く輝く地球を後ろにと、幾度と無く剣を打ち合わせた宿敵とも言える若き士官。 (コウ・ウラキ…貴様は今、何をやっている) 決着を付けるため、脱出せずに残り、有線クローアームを利用し背後から組み付き、止めを刺す寸前だったのだが 連邦軍の味方艦隊をも巻き込んだ非道なソーラ・システムⅡの攻撃により水を差された。 あの時、先に稼動したのはノイエ・ジールだったが 反応炉を停止させ、残骸に紛れ漂うデンドロビウムを見た時、止めを刺す気は起こらなかった。 今現在、ニナと交際している相手という事もあるが 他から邪魔をされ、漂流している相手に止めを刺すなど、誇り高きジオン軍人。いや、一人のパイロットとしての矜持がそれを許さなかった。 「早く帰りたい…この国嫌い。誰も彼も自分の事しか考えてない。あの王子様も。残された人達の事なんてどうでもいいんだわ」 「閣下の気持ちは私にも分かんでもない。…私も同じような事をし姿を眩ました事があったのでな」 「あんたも…?なんでよ」 「宇宙市民の真の開放を掴み取るために、やらねばならぬ事があった。だからこそだ。相手に、全てを忘れて欲しかったのだ」 多くの物を捨て去ってきたが、後悔や自戒の念など微塵もない。 ただ、巻き込んでしまったという自責の念だけ巻き起こったが。 「知らないわよ…!好き勝手やって勝手に死んで!残された人はどうすればいいっていうのよ!」 「ぬ…」 こうなれば、落ち着かせるのに時間が掛かる。 ただ、この事に関してはそうしようとは思わなかったが。 「もういい!知らない!!」 踵を返し廊下を駆け出していったが、その背向け言葉を放つ。 「待て!」 「…なによ!」 何時になく真剣な声。いやまぁ、常に真剣なのだが、何時も以上なのでルイズが立ち止まり振り返る。 「一つ忠告しておこう。…ヤツを、ワルド子爵を信用するな」 「そんなの、あんたに関係無いじゃない!」 抜かった。ルイズの性格を考慮に入れていなかった。 今の状態では、言う事全てに反発する事は明白だったというのに。 止める間もなく、背を見送ると息を深く吐く。 滅び行く国に殉じようとする者達。 ア・バオア・クーで右腕を失った14Aの代わりにグワデンで09Rを無理矢理借り受けようとした時の自分と同じだ。 だからこそ、ウェールズ達の心情はよく分かる。 地球から見上げる宇宙と変わらぬ宇宙を見上げ、おもむろに立ち上がると、解いた銀色の髪が月光を受け金色に輝く。 そして、その目には迷いなど一切無い。確固たる信念を持っていた。 翌朝。 非戦闘員の脱出者が、マリー・ガーラント号とイーグル号に乗るため隠し港に殺到している中、ガトーはウェールズを探していた。 「ぬう…こうも人が多いとは」 人の流れに逆らい進むのは容易ではないが、それを掻き分け進んでいく。 「愛しているからこそ、引かねばならない事もある…か」 195cmのガトーといえど、150cmのデルフリンガーを腰に差すというのは無理があるので、09のヒート・サーベルのように背負っている。 「愛するが故に、知らぬふりをしなくてはならない時がある…ねぇ」 「無駄口を叩くな」 「分かったよ。でも、相棒はどうして「私はジオンの再興に身を託したのだ」置いて…。やっぱ難儀だね相棒は」 デルフリンガーの言おうとしている事は分かっていたので、途中で言葉を遮ったが。 「ここからトリステインに帰ったとして、娘っ子はワルドと結婚するんだろ?そうなったら、行く当てはあるのか?。元の世界に帰る方法を探すってのでもいいけど」 「当てなどあろうはずがなかろう。それに私は向こうでは戦死となっているはずだ。カリウスらならば…」 「当てが無いってんなら、傭兵でもやるかね?    今日はこっちの戦場、明日はあっちの戦場と渡り歩いて暴れまわるのさ。実入りは悪くねぇし、暴れ…」 無駄口を叩いたデルフリンガーの少しだけ出ていた刀身を完全に鞘に収める。 しばらくすると、また少しだけ刀身を出して話しかけてきた。 「傭兵は嫌かい?」 「ふん…そのような不逞の輩に成り果たとすれば、ギレン総帥、ドズル閣下、ビッター閣下、デラーズ閣下に申し訳が立たぬわ」 それだけではない。地球に、宇宙に散っていった数多くのジオンの戦士達の栄光を汚す事になる。 それ故に、三年間、海賊行為をしてきたシーマ艦隊は憤激の対象だった。 人の流れに逆らっていると、兵を見つけた。丁度良い。 「ウェールズ閣下を知らぬか?」 「では、式を始める   新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名においてこの者を敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか?」 ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。 「誓います」 ウェールズは頷き、今度はルイズに視線を移す。 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」 何をやっているかと言うと結婚式だ。 朝起きていきなり、ワルドに結婚式をやると言われ戸惑ってたが 残された者の事など気にしないようなウェールズやガトーの態度が落ち込ませ、半分眠ったような頭で、深く考えずにここまでやってきてしまっていた。 ここまで来て、ようやく結婚式をしているという実感が沸いて出てきたのだが、心の奥底に引っかかっているものがあった。 ワルドの事は嫌いでもない。むしろ、幼い頃から憧れていて、むしろ好いている方だ。 だが、迷いがある。痛痒いというか、軽い虫歯のようなものが残っている。 こうなってくると、一度気になりだしたら止まりはしない。それこそ治療するまで。 一つ忠告しておこう。…ヤツを、ワルド子爵を信用するな。 今までも、信用してない風だったし、何より、昨日は感情が高ぶっていたせいもあり、気にしないでいたが今は違う。 およそ、一切の冗談や世辞など言わないであろうはずの、ガトーが、何時もより重く、真剣な声でそう言った。 毎朝、ほぼ同じ時刻に起こされ、軍隊かと言わんばかりの規則正しすぎる生活に巻き込まれ あの、ギーシュですら『少佐』と呼ぶ程の軍人に辟易していた部分もあるが それでも、半ば無理矢理召喚されたというのに、『義』の一言で済ませて、よくやってくれているガトーを信頼するようにはなってきている。 確かめてみよう。 心中でそう決める。 ルイズが16年間生きてきた中で、小さいかもしれないが初めて持った信念かもしれない。 「新婦?」 「ルイズ?」 ウェールズの詔が続く中、ルイズが首を振り顔を上げたので 二人が怪訝な顔をして覗き込んできたのだが、何時になく真摯な表情をワルドに向ける。 「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」 「違う、違うの。ごめんなさい…わたし、あなたとは結婚できない」 ASSAULT WAVESが聞こえそうな急展開に、さしものウェールズも首を傾げた。 「新婦は、この結婚を望まぬのか?」 「そのとおりでございます。お二人には大変失礼を致すことになりますが…わたくしはこの結婚を望みません」 これがルイズにやれる、唯一の確かめる方法だ。 ワルドが本気で自分の事を愛してくれているなら、後で訳を話せば分かってくれる。 ガトーの言っている事が事実ならば… ワルドの顔に朱が差し、ウェールズは残念そうにワルドに告げた。 「子爵。誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続ける訳にはいかぬ」 それに構うことなく、ワルドがルイズの手を取る。 「緊張しているんだ。そうだろルイズ。君が、僕との結婚を拒む訳がない!」 「ごめんなさいワルド。確かに憧れてた、恋もしてたかもしれない。でも…」 そこまで言うと肩を掴まれ、その目がつりあがり、表情も何時もの優しげな顔ではなく、冷たいものに変わった。 「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる! そのために君が必要なんだ!僕には君が必要なんだ!君の『能力』が! 君の『力』が!」 ガトーの言っていた事は本当だった。ワルドが欲しがっていたのは、自身ではなく在りもしない魔法の才能。 それだけに悔しかったし、後悔もした。 「わたし、世界なんていらない!」 「ルイズ!いつか話した事を忘れたか!君は始祖ブリミルに劣らぬ優秀なメイジに成長するだろう!その才能に、君がまだ自分で気付いていないだけだ!」 泣きそうになりながら、そう叫んだが続くワルドの剣幕に恐怖し本気で震えた。 その禍々しさすら覚える物言いに。 「ウェールズ殿下なら、今頃、礼拝堂でワルド子爵とヴァリエール嬢の婚姻の媒酌をしている。    ワルド子爵が勇敢な殿下に是非ともと言って頼み込んできたらしい。目出度い事じゃないか」 「く…抜かったぁ!!」 短くそう叫ぶと、すぐさま礼拝堂に向かい駆け出す。 人の波を踏み越えるが、この際仕方無い。 「どうしたんだよ相棒?」 答えない。本気で答える暇が無いのだ。 ----

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