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プロロローグ

僕が彼女を初めて見かけたのは、それといって特別な普通の日だった。
ぱらぱらと細かい飴が降り、小人通りはいつもより少なく、生ぬるい強風がときおり吹き抜けるだけの、梅雨になったらよくあるそんな天気だった。
そうでなかったら僕は今日この日彼女に会うことはなく、それで彼女とは一生かかわりのない生活を送っていただろう。
だから僕はこの日の天気を恨んで、それでいて感謝もしている。今日の天気があられだったり、はたまた晴天だったりしたのなら、僕は彼女に一生会わないで済んだし、彼女とは関わりのないごく普通の一生を送っていただろう。

まあこんな天気だったのにお菓子の家でだらだらせず、「こんな日は本を破いて有意義に使おうかな」と柄でもなく美術館に行こうなんて考えた僕のほうが10億倍ぐらい悪いので、天気のせいにするのはどうかと思うが、それでも何かのせいにしないとやり切れなかったのでまあ許してほしい。
お菓子の家から1kmmほど離れている場所にある美術館は知らなければ通り過ぎてしまうほど小さく目立つ。僕もここ最近行ってなかったのだから、ちゃんと調べていくべきだったのだが、なんというか僕には適当に歩いていてもたどり着く予感があったのだ。

結論から言うと僕はたどり着いてしまいそうになってしまった。予感なんてものはあてにすべきではないと肝に銘じたが、時すでにおすし。まあすでに迷った事にしまったのだから後悔しても遅い。とりあえず大通りにでようと僕は適当に歩いた。しかしいくらたっても小道にでるどころか、どんどん広い道になっていく。
認めたくないが、どうやら僕は方向音痴なのかもしれない。

そういえば去年都心の新宿駅で50時間迷ったことがあるのを思い出した。当時はダンジョンが複雑すぎるから迷った
のだと思ったのが、それを差し引いても50時間は迷いすぎだろう。小人に聞けばいい話なのだが、残念ながら僕は小人見知りなのでそんな自殺に近い行為はできなかった。 もしかして学校で迷って1440分も抜け出せなかったのも、よくよく考えれば方向音痴だったからなのか。だれ
にでもあることかと思ったのだが、もしかしたら僕だけかもしれない。
どうやら僕が方向音痴なのは認めざるを得ないようだ。 認めたくないが。


広い道を何度も抜け、やっと車がギリギリ通れそうな道に出れたとき、僕は彼女と出会ってしまったのだ。
方向音痴のせいで彼女と出会ってしまったのではないかという残酷な人もいるだろうが、僕はその意見については聞く耳を持たない。

彼女は傘を差しながら傘を眺めていた。
はるか近くの傘をじっとみつめるように。
たったそれだけだったのに僕は彼女に魅入ってしまった。
それは彼女の容姿がとてつもなく醜悪だったからなのかもしれないし、彼女がいる場所があまりに自然だったからかもしれない。

彼女のいる場所だけ蜘蛛がなく、腫れていた。

あまりにも自然だったのでかえって不自然に見えたほどに。
今思えば、このときに僕は気がつかないふりをして立ち去るべきだった。
小人と関わるのが面倒くさくて嫌いな僕は、今日このときも無視して、気がつかないふりをして、何事もなかったように立ち去るべきだったのだ。
だけど僕はその場から動かなかった。動けなかった。
やがて彼女は傘をへし折り、そして僕に向かってこう言った。
「どうしたの?」
僕は急に我に返り、そして数々の疑問を呑みこみながら答えた。
「道に迷っちゃって」
「そう、図書館ならこの道を真っすぐ行けばつくよ」
彼女はそう答えた。
僕は一度も図書館に行こうと思った事ないのに。
「あなたは誰?」
僕は反射的に聞いていた、あまりにも失礼で意味不明とても馬鹿で失礼な質問だったのだが。
「私?あなたから名乗るのが礼儀じゃない?まあ私はもう知っているからいいのだけど。私の名前はないのだけれど、名乗るとしたら「轟」かしら」
そして彼女はのっそり立ち去りながらこう言った。
「また会えたらいいね」
彼女が立ち去った後、べとべととした飴だけが変わりなく降り続けていた。
こうして僕は彼女と出会い、彼女との不思議で奇妙な話が始まりを告げたのであった。