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グローバル企業の出現と成長は比較的新しいことである。1990年ごろを境とする東西冷戦構造の崩壊とともに、世界的に始まった規制緩和・撤廃と情報テクノロジー(IT)を中心とするミクロの技術革新の波が、グローバル企業の成長の加速させることになった。前者は、世界市場の拡大をもたらすことになり、後者は企業をして新しい成長機会を求める創造的破壊の戦略行動をとらせるように働いた。

つまり、グローバル企業とは、それまでの企業が国別市場を足場に世界市場に進出(多国籍化)してきたのに対し、規制緩和による世界市場の拡大とそれに伴う企業の海外進出や海外投資の自由化を一つの大きな外部環境の変化として捉え、情報テクノロジーの確信を使って新製品やサービスを開発したり、自社の事業活動の効率化のために情報ネットワークを構築したりして世界市場対応の成長経営を展開する戦略世界企業をいう。

(1) グローバル企業への発展段階
これには次のような段階があると考えられる。グローバル企業は多国籍企業が成長パワーを拡大して、狭い国別市場の壁を破壊して世界市場を創造する中で進化してきた形態として理解される。

① まず国内市場を対象に経営資源の蓄積と経営管理能力の拡充を目指して製品事業を展開する。
② つぎに、国内市場から生み出した余剰経営資源や経営管理能力を有効利用するために、海外市場に製品を輸出する。
③ さらに海外に営業所や生産拠点を築き、事業拠点を増やしながら国際経営管理能力を蓄積する。
④ 海外拠点(きょてん)が拡大し、相互に利害がと衝突(しょうとつ)しはじめる時点で、拠点間の利害調整のために地域統括本部を設置して、拠点活動をこのもとで統制する。
⑤ 地域統括本部は世界市場を数々所に分割したものであるから、やがて地域間の利害の調整が重要問題になってくる。このためには世界本部(本社)の統治能力を強化して、そのもとに地域統括本部への分権化を進め、かつグローバルな視点で地域間利害の統制に当たる。


グローバル企業と呼ばれるものは、⑤の段階まで到達した企業、広くはそれを目指す企業のことである。世界各地に現地法人をおいて、その上に地域本部をおき、さらにその上に世界本社をもつ多段階の組織形態に典型的な特徴が見られる。

このような成長過程をたどってグローバル企業になった典型的な企業には、GE、IBM、GM、フォード、ダイムラーベンツ、など20世紀に発展した米欧型巨大企業が多い。



参考文献:
宮川先生<経営戦略論>
戦略経営学ー競争力の経営学演習 林昇ー、高橋宏幸<著>




(2) 新グローバル企業
ところが、技術革新が20世紀後半から加速化する中で、新しいタイプのグローバル企業の誕生が注目されるようになった。1970年代の終わり頃までは業界の支配的企業の戦略は、スケールメリットを追求した垂直総合型巨大化であったが、その後は戦略的提携による新興のベンチャーの企業連合が、新グローバル企業として注目されるようになった。例えば、IBMだが、パソコンをオープンアーキテクチャー戦略で市場シェアを伸ばしたアップルは、IBMの独占的支配力を崩した。ここからコンピュータ・ビジネスの門戸は開放され、ハードやソフトの分野で専門化した新興企業が多数参入した。規模と知名度では卓越(たくえつ)していたが、創造性や快速製や柔軟性で劣った巨大な総合事業集団は、スペシャリスト集団としての新興のベンチャービジネスの戦略的提携に競争優位を奪われる事態が次々と発生した。

この競争優位の逆転を説明する有力なカギは、インタラクション・コストである。インタラクション・コストとは、経済学者の定義する「取引コスト」のように、企業間あるいは企業と顧客の間で正式に交換される財やサービスに関わるコストとは異なる概念である。取引コストに加えて、アイデアや情報を交換する際のコストを含んでいるからである。インタラクションという行為は、企業内、企業間、企業と顧客など、どこでも言われる。その形態もさまざまで、電話やネット、会議や打ち合わせといった日常業務でも起り得る。例えば、ある社内業務がそれをアウトソーシングした場合にかかるコストより高ければ、アウトソーシングしたほうがいい。つまり、インタラクション・コストとは、経済活動にともなう「摩擦コスト」のことである。企業組織の形や取引先との関係は、このインタラクション・コストによって決まることが多い。組織は、インタラクション・コストを全社的に最小化するようにデザインされるのである。
アップル、インテル、マイクロソフト、サン・マイクロシステムズなどは、専門特化した企業がインタラクション・コスト最小化を目指して協調・補完し合う企業間ネットワークを形成し、巨大企業と対等に競争できるようになった。かくて、巨大なグローバル企業でも内部組織をグローバル・レベルで専門化・分権化して競争優位の戦略の狙いは、グローバル・スタンダードの先取りにある。その先取りは、グローバルな規模で収穫(しゅうかく)逓増(ていぞう)の法則に従った利益を享受できるからである。なぜなら、自己陳営(ちんえい)技術のスタンダード化は、相手陳営を倒し、そのシェアを根こそぎ奪い、同時に低コストと低価格と高収益をもたらすからである。とくに先端技術開発は巨額な費用がかかるので、その回収にはスタンダードの先取りが企業生存のカギになる。80年代以後の米国が政府主導の企業連合を推し進めたのは、国家と企業の競争優位を先端ビジネス分野で同時達成できると判断したからである。欧米系ヘッジファンド(投機基金)やIMFは、グローバル・スタンダードの先取り戦略を推進するのに役立った。


(3) グローバル企業の戦略経営
90年代の規制緩和と技術革新は70年代までの重要戦略であった多国籍化戦略経営をグローバル戦略経営に転換させることになった。その競争優位は、グローバル・パラドックスと呼ばれる原理から生まれている。これは、世界経済が巨大化すればするほど、最端末のパーツ(部分)は強力にあるという仮説に基づいている。巨大化と最小化が共存する経営であるゆえにパラドックスと呼ばれる。具体的には、ABB(アセア・ブラウン・バベリ)の自律分散型ネットワーク経営、日本では京セラのアメーバ型経営などにその原理が現れている。

つまり、グローバル戦略経営の特徴は、分社化、並列化、脱構築化にある。これは多国籍企業の戦略経営が競争優位の条件としていた規模の経済の追求のための内部化、垂直化、構築化ではない。その反対に、範囲の経済あるいは連結の経済(多数のローカル企業の集合体による成長経済)を目指し、巨大化する世界経済に快速に対応するには、グローバルなネットワーク化と自立したパーツ(事業単位)の拡大とを並列的に進めるところに特徴がある。

このようにしてグローバル戦略経営には、強い総合力とそれに匹敵する強い分散力が動かなくてはならない。小さな本社と多くの分社化された事業単位(ビジネス・ユニット)の有機的ネットワークの構築(グローバル連結経営)が成功のカギを握る。「総合はそれに相応する分散を求める。ネットワークとは、総合と分散のグローバル・パラドックスの解決でなければならない」ということになる。このためグローバル戦略実現に有効な戦略管理会計の確立が不可欠になる。それは、戦略経営過程(目的と目標―戦略―実行―評価)に即した戦略支援の管理会計であり、株価や時価(市場)主義、モノ離れ会計(ブランドや人的資源などの非モノ的資源会計)、連結会計、カンパニー制や分社化の利益管理会計などを特色とする。

多国籍企業時代の戦略経営は、普遍主義経営による個別主義経営の破壊という特徴をもっていたが、かわってグローバル企業時代の戦略経営は、普遍主義と個別主義、グローバル化とローカル化といった過去のトレード・オフの関係を解消して、異質な単位間の結合を競争優位と考えるのである。それはシュンペーターのいう企業家精神のグローバルな形態と解釈することができる。