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「ユーナ、ユーナ! まったくどこいったんだい、あの子は」
 少し小太りの中年女性が、いつの間にか姿を消してしまった少女を必死に探していた。
「ごめんね、マリーおばさん。あたしは……」
 消えてしまった当の本人である少女――ユーナは、木の上に立ってその光景を悲しそうな顔で見つめていた。

 紺色のワンピースにクリーム色のポンチョを着た少女、ユーナ。きれいな茶色の肩まである髪を後ろで一つにまとめている。肩からは、中身がパンパンに詰まったショルダー式のかばんを下げて持ち歩いている。そこには、救急セットや用心の為に買った果物ナイフ、少ししかないお金、着替えなど生活に困らない程度の物が入っていた。それらの殆どがユーナを育てた一座の人や、優しい村の人からの貰い物である。
 ユーナはお転婆で、村中を元気に走り回る少女。歳はまだ十二になったばかり。意地っ張りで負けず嫌い。それなのに、ちょっと泣き虫な弱い一面を持っている。強くなりたいと心から思っている。
ユーナの両親はいない。物心がついたときから一人ぼっち。一人で泣きながらあるいている所を旅芸人に拾われ、育てられたのだ。だから、ユーナの素性を知る人は、誰一人としていない。
ユーナを妹のように、あるいは子供のように育ててくれた旅芸人の一座は、ユーナにいろんなことを教えた。踊りや楽器、人里離れた森の中で遊ぶ方法なども。
そこには、ユーナと同じぐらいの年頃の男の子がいて、二人仲良く駆け回って遊んでいた。ステージに上がることだってあった。ユーナが逃げ出さず、このまま幸せに一座の人たちと暮らしていたら、今頃、拍手喝采を浴びていただろう。
しかし、ユーナは一座の元を去らなければいけなくなってしまった――。
 以来、村を転々とするようになった。こんな生活を四年も続けている。一箇所に留まりたい。そう思うこともあった。でも、ユーナにとってそれは許されないことだ。
 
今回もまた、村を離れる時がきた。ユーナのことが村中に知れ渡る頃、村を離れなければいけない。それは――。
 ユーナの左手首に光る、シルバーの五センチの幅があるブレスレット。中央には、小さな赤く透き通った石が埋め込まれている。その両側には何かのマークが彫りこまれていた。そして、ブレスレットの裏側には、ユーナの名前が彫られている。
 このブレスレットは、ユーナが赤ん坊の頃から左手首にあった。外そうと思えば外れる隙間はある。しかし、ユーナにはなぜか外すことができなかった。今までに何度も試みたが、何かの力に邪魔され外すことができなかった。
これが、唯一のユーナの素性を現す物であり、ユーナに秘められた力でもあった。このブレスレットが秘めている力に、まだユーナは気づいていなかった。
昔、このスマティー国には、魔法が使えるという部族が存在した。その部族は魔法族と言われ、ありとあらゆる事に魔法を使って生活していた。しかし、中には魔法を悪用する者も現れ……。
 その部族は、魔法を奪われることとなったのだ。
 そもそも、魔法族が魔法を使うためには、ブレスレットが必要だっだ。そのブレスレットがなければ、普通の人とどこも変わらない。そして、取り外しが可能だった。
 それを知った、国の者がブレスレットを募集して、燃やしてしまった。もちろん、中には反対する者もいた。しかし、そういう者は、抵抗もできないままその場で暗殺された。やがて、魔法族は国中から迫害されるようになり……。
 魔法を使える者、魔法族事態いなくなったのだった。
 魔法族の中には、自分たちの血が消えてなくなることを恐れ、ブレスレットを隠し、隠れて暮らす者もいた。しかし、日が経つにつれ、魔法さえも必要なくなってしまった。
今では古もん書のなかにしかでてこない物となってしまった。そして、まれに隠されていたブレスレットが出てきて……骨董品となっている。
 その一族に伝わってきたユーナが持っている。まだ幼い少女が赤ん坊の頃から身につけて。
 ブレスレットの価値を知る者がそれを狙っていた。今では、珍しい品物になってしまったから。
 だがら、ユーナは逃げなくてはいけなかった。

 ユーナは、日が暮れるのを待った。
夜なら見つかることなく移動することができる。早くこの村を離れなければいけない。少しでも遠くに。
 ユーナは、ゆっくり木から下りると、昼間のうちに紙に書いたものを持ってマリーおばさんの家へと向かった。
 お世話になったマリーおばさんへの手紙をこっそり届ける為に。うる覚えの、決してきれいだとはいえない文字で書かれた手紙。
 村を出るとき、必ずこうしている。お世話になった人への感謝の気持ちと突然いなくなることへのごめんなさいという気持ちを。そして、心配しないでというユーナなりの優しさだった。
 明かりが灯る一軒の家。森からそんなに離れていない場所に一軒だけある家。そこがマリーおばさんの家だった。
 ユーナはこっそりと裏窓に近づいて窓の隙間から気づかれないように手紙を押し入れた。マリーおばさんが気づいてくれるように。
 そして、逃げるように走り去る。

「ユーナ?」
 思いつめた顔で、祈るように手を組み合わせていたマリーおばさんが物音のした裏窓へ。
 そこに挟まっている、二つに折られた紙を見つけ、不思議に思いながら開いてみる。そこに……。
 『マリーおばさんへ
   ごめんなさい。ありがとう
                ユーナ』
「ユーナ……」
 マリーおばさんの目に涙がみるみるうちに溜まっていく。そして、この手紙が今入れられたことに気づき、裏窓を押し開けた。
 しかし、ユーナの姿はそこにあるはずはなかった。

 ユーナは、走っていた。転びそうになりながら、後ろを何度も何度も振り返り。
「ハァハア……。くそー! なんで追いかけてくんのよ!」
 そう、マリーおばさんの家に行った後、たまたま通りかかった村人がユーナに気づいて負ってきたのだ。そいつは、前からユーナに目をつけていた。もちろん狙いは、ユーナのブレスレット。今では、村中にユーナが持っているブレスレットのことが知れ渡っていた。
「は、はやく逃げないと……。ぜったい捕まりたくない」
 ユーナは、森に向かって走っていた。いつも自分の庭のように駆け回っていた森なら、隠れる場所を知っている。あそこに逃げれば、逃げ切る自信がある。
 ユーナは必死になって走った。もうすぐ、森が見えてくる。
 あとちょっと……。
「あ!」
 焦りからか、足がもつれて転んでしまった。急いで起き上がる。もうそこまで敵が迫っている。子供の足では、転んでしまっただけで追いつかれてしまう。ユーナの目には、涙が浮かんでいた。
「まったく、なんてすばしっこいんだ。はぁはぁ。久しぶりにこんなに走ったよ。さぁ、いい子だから、左手にはめているブレ……」
 近寄ってくる男にとっさに近くにあった石を投げつけた。一瞬怯んだのを見て、ユーナは立ち上がり再び走り出した。今にも零れ落ちそうな涙を拭い、ありったけの力を振り絞って走った。
 なんで皆して、このブレスレットを狙うんだ? これはあたしの物なのに。
 あたしは何も悪くない。でも、逃げないと捕まる。捕まったらおしまいだ。
 ブレスレットが狙われないとこに行きたい。
 そうユーナは思っていた。ブレスレットが狙われるたびに……。
「まてー!」
 後ろからまだ追ってくる。しかし、森はもうユーナの目の前にきていた。
 どこかに隠れなきゃ。
 ユーナは、森の奥へと進みながら、隠れることができる場所を探した。
「あれ、こんな所に小屋なんて……」
 小さな小屋を見つけると、ユーナは足を止めた。知りつくしているはずの森。それまで見たことがない、古びた小屋が建っていた。小屋の屋根と壁は、緑色の苔で覆われていて、森の一部と化している。
「くそ! どこに行きやがった。暗くて何も見えん。仕方がない。引き上げるか」
 遠くのほうでユーナを追ってきた男の声がする。どうやら諦めたようだ。
 この真っ暗闇では、どこへも行くことができない。この辺で休むよりあの小屋のほうが寒さをしのげる。太陽が顔を出した頃、ここを離れなければ。
そう思ったユーナは、決心をして小屋のドアへと近づいた。ユーナの体力は、限界に近づいていた。もう、歩くこともできそうにない。
「よし!」
 ユーナはドアを思い切って開けた。思ったより軽いドアだった。すんなりとドアが開き、ユーナは小屋の中に一歩足を踏み入れた。

「んーん」
 ユーナは、よく寝たとばかりに大きく背伸びをした。ユーナは、小屋に入ったとたん眠ってしまった。その証拠に、床で寝転がっていたのだ。
「ん?」
 小屋とは思えないほどの広さと、部屋にある高価な家具に驚いて、目を何度もこすって見てみる。
「なにこれ? 夢?」
 見られない物に圧倒され、目を丸くするユーナ。
 入る前は、古びてボロボロの小屋だった。あの森と一体化になっていたくらいだ。それなのに、中はこんなにも広く、外装からは想像できない高価な物ばかり。
「どうなってんの?」
 ユーナは、この部屋に一つだけある窓から外を除いた。そこは、遊びなれた森ではなく、まったく知らない、見たことのない場所だった。
「もしかしてあたし……」
 ユーナは、自分が捕まってしまったのではないかと思った。
 そんなはずない。
 ユーナは自分の考えを払い落とすように、首を横に振った。そして決心をすると、ここから外へと出る為のドアを開けた。