ぼく、ルカ・ミルダが召喚した英霊は少し変わっていた……と思う。
もちろんぼくだって聖杯戦争については詳しくない。
ぼくだって一応はそうした異能――“天術”は使えるけれど、どうも根本となっているシステムがこの戦争では違うようだった。
そもそも“天術”のことだってぼくは詳しくない。
いきなり異能者――“前世”の力なんてものを得て、訳も分からずアルカ教団に追われ、その最中にここに来てしまっただけだ。

だから何も分かりはしない。
でも彼は変わっていると思う。
彼はぼくと同じくらいの年齢の少年で、でもぼくよりはずっと頼りになりそうではあった。
けれど、ぼくの召喚した――ぼくを守るべき英霊は開口一番にこう言ったのだ。

「思い、出せない」

と。
彼は、そう自らの名前を思い出せなかったのだ。
最初はぼくが信用されていないのかと思った。ぼくがあまりに頼りなさそうだから、隠したのかと思った。
けれど、話しているうちに、どうやら本当に“思い出せない”のだということが分かった。

この戦争において真名の秘匿の重要性は分かっていたけれど、それ以前の問題だった。
何もかも彼は思い出せないでいた。自分の名前も、どうやって戦っていたのかも、どう宝具を使うのかも。
セイバー、というだけあって剣は持っていたが、その銘すら思い出せないのだという。
システムの障害なのか、それともぼくのせいなのか、それは分からなかったけど困ったなことになったな、とは思った。

けれどそれでも、ぼくたちは頑張った。
慎重に慎重に立ち回って戦闘を回避して、また時にはセイバーも思い出せないなりに戦ってくれてぼくを守ってくれた。

だからぼくは彼に何の不満も抱いていはいなかった。
寧ろ感謝していた。ぼくの下に来てくれたのが彼でよかった、と。
英霊というから最初はどんな怖い人かと思った。
夢で見た“前世”のぼく――アスラのような人なのかと、ぼくはちょっぴり恐れていた。

でも彼は優しかった。
ぼくの召喚に応じてくれた彼は、同じくらいの年齢で、同じように学校通っていて話も弾んだ。
主従としてはどうかと思うけれど、友達みたいな関係になれた。
それでいて、強かった。
ひとたび戦いになれば恐れることなく敵の前に立ち、彼は戦ってくれた。
その背中を見ていると、ぼくもいつかはあんなふうになりたい、と思ってしまった。

それでも、何度かの戦いを経ても彼は思い出せなかった。
当然話してみたこともある。何か思い出したことはなかったかって。

「……駄目なんだ。どうにもまだ俺は自分が誰なのか思い出せないんだ。
 ごめんな、ルカ。マスターとして、サーヴァントの名前が分からないなんて不安だろうに」

そのたびに彼は申し訳なさそうな顔をして、ぼくにそう言った。
ぼくは彼に不満なんてなかった。ただそうして語る彼の横顔が、とてもつらそうなことが悲しかった。
自分の名前が誰か思い出せない。
それは自分が誰なのかわからない――ということと同じなのだと思う。

その感覚はぼくにも分かった。
“前世”の記憶を夢に見て、それがなんなのか分かっていなかった時、ぼくという存在が不完全なような気がして、苦しかった。
サーヴァントにとっての真名は、たぶんぼくにとっての“前世”と同じ――自分自身なのだ。


「妹がいた気がするんだ」

ある日、彼がおぼろげな記憶を語ってくれたことがあった。

「綺麗で、かわいくて、他の何より大切な妹が。
 彼女を守るために俺は戦ってきた気がする。光の剣を携えて、戦場を駆けていた――」

その口調は真剣な思慕が感じられ、同時にその愛情の対象を思い出せないことに対するつらさも感じられた。
けれど同時に彼はこうも語るのだ。

「……魔女と肩を並べて戦っていた気もする。
 俺は闇を総べる冥王として、あの娘と一緒に戦っていた。そんな記憶が……」
「冥王? でもさっきは」
「ああ、光と闇。全く違うものが、俺の中に引っかかっているんだ。
 全く違うはずなのに、どちらもそれは俺で、思い出せない彼女たちは同じくらい掛け替えがなくて――」

どうにも彼には二つの物語(ストーリー)があるような、そんな風だった。 
ぼくも聖杯戦争と並行して色々な文献に当たってみたけど、でも真名は浮かび上がらなかった。

「ごめんな」

調べるたび、セイバーはぼくに謝ってくれた。
ぼくはそのたびに「ううん」と笑い返した。するとセイバーはこういってくれたのだ。

「ルカは――優しいんだな」

と。

「……そんなこと、ないよ。
 ぼくは頼りなくて、自分に自信がないから、せめてこういうことしか……」
「違うさ。ルカは俺のことを本当に心配してくれてるだろ?
 サーヴァントの性能とか、聖杯戦争の動向とか、そういうことじゃなく、俺が“思い出せない”ことを本当に心配してくれている。
 過去は大事だ。俺は彼女たちのことを絶対に思い出さなきゃなって思ってる。
 でも目の前のルカとの今を、俺にとっての現世も同じくらい大切に思うことができた。
 俺は――ルカがマスターで本当によかったって、そう思ってるよ」


そう言って彼は笑った。ぼくもつられて笑った。
今度は誤魔化す為の顔じゃない。心の底から彼と会えてよかったと、そう思うことができた。
彼と一緒にいると胸があたたかくなった。

思い出せなくても彼は強くて、かっこよかった。
だからぼくにとって彼は間違いなく英霊で、唯一無二の友達だったんだ――

――そうして、これまでの戦いを思い出しながら、ぼくは死のうとしていた。

ぼくたちは今追い詰められている。
他の主従に狙われ、追い詰められ、セイバーは今ぼくの目の前で膝をついている。
判断ミスだった。ぼくが逃げるタイミングを間違えて、こうなってしまった。

「…………」

路地裏、誰も来ない街の片隅で、ランサーが無言で槍を向けている。
セイバーは戦いの末に息も絶え絶えで、一突き受ければ死んでしまうだろう。

ぼくはその姿を黙って見ていることしかできなかった。
無力感が胸に渦巻いている。敵が怖かった。息がつまりそうだった。
けれど、それ以上にぼくは自分のことが許せなかった。

これはぼくのせいだ。
セイバーは悪くない。
思い出せなくとも、彼は十分に強かった。
ぼくが、ぼくなんかが彼を呼んでしまったから。
視界がまっくらになる。もう何も、こんな現世なんて見たくないと思った。
ぼくがしてきたことは何だったんだろう――


“俺はただ、より良い世界を創りたかった”


どこかから声が聞こえてきた。
ぼくはその声を知っている。夢で何度も聞き、その声と共に戦った。
アスラ。
天と地の戦いを制した大英雄。
ぼくの“前世”。
ぼくなんかには恐れ多い名前。

――ぼくはただ必要とされて嬉しかった。

浮かび上がってきたアスラの言葉にぼくは答える。

――アスラの力とか、聖杯戦争のマスターとか、たとえぼくの力じゃなくとも絆ができてうれしかったんだ。セイバーと会って、戦えたことが……
――でもぼくは敗けてしまった。ぼくのせいで、ぼくじゃなければセイバーは助かったのに

ごめんなさい。その思いを乗せながら、心の底から言葉を絞り出す。
アスラの力を横取りしたこと。
セイバーをああしてしまったこと。
ぼくが現世に生まれたこと。
全部が全部、申し訳ないことのように思えた。

“だがルカ。お前は俺が失ったものを取り戻してくれた”

アスラが失ったもの?
ぼくにはその言葉の真意がわからなかった。

“絆”

それを見越すように、アスラは言ってくれた。

“俺の絆の結末は裏切りだった。
 共に戦場を駆けた友にも、誰よりも愛した者にも、俺は裏切られ命を落とした。
 しかしお前は違う筈だ。
 お前には絆があるだろう。この現世で培った、唯一無二の力が”

アスラはそこで少し声色を変えて、

“過去は大事だ。俺は彼女たちのことを絶対に思い出さなきゃなって思ってる。
 でも目の前のルカとの今を、俺にとっての現世も同じくらい大切に思うことができた。
 俺は――ルカがマスターで本当によかったって、そう思ってるよ”

全く似ていない、似合っていない、声真似だった。
けれどその言葉が誰のものか、すぐに思い出すことができた。
忘れない。忘れるはずがない。
だって彼は僕にとって――

“今お前の頭に浮かんだ者の名前を呼べばいい。
 それこそが――お前が紡ぎ、取り戻してくれた絆だ”

その言葉を聞いた時、ぼくの中で何かが弾けた。
そして視界が開けた。くらやみに沈んでいたぼくの意識が、どん、と背中を押されるようにして現実へと帰ってきた。

「……バー」

そしてぼくは呼んだ。
その名前を。
ぼくが、アスラでないルカ・ミルダが得た、かけがえのない友の名前を――

「セイバァァァァァァァァァァァァァァァァ」

“天術”の力が溢れてくる
バチバチと音を立てそれは現世に身を結ぶ。
繋がりが唸りを上げ、友への想いを伝えてくれる。

そして、そして、そして――

――思い出して、兄様

その時、ルカに一人の姫が見えた。
つややかな桃色の髪を持ち、セイバーに寄り添うように立つ一人の姫。

――そうよ、だってあなたは……

そしてもう一人魔女がいた。
黒衣に身を包み、艶然と微笑み、それでいてセイバーの手を硬く握る魔女。

ぼくは直感する。
これは夢だ。ぼくがアスラの夢を見たように、セイバーも今、夢<前世>を見ている。
それがぼくらのパスを通じて流れ込んでいる。

ああ、分かった。
彼女らこそ、セイバーの――


「――思い、出した」

何物よりも強く、何物よりも気高く、何物よりも優しく、彼はその“名”を纏う。
光が舞い、闇が差し込み、セイバーの髪が刃のように逆立つ。

「――俺は剣聖フラガ」

その手には聖なる剣。

「――俺は冥王シュウ・サウラ」

身に纏うは漆黒のマント。

「そして、今は――」

そこで彼は――ぼくを見た。
マントをはためかせ、彼は振り返る。

――その時ぼくは思わず泣きそうになった。

その背中はどこまでも遠くて、かっこよくて、でも彼は彼なのだ。
彼は、今の彼は――思い出し真の英霊となった彼は、けれど確かにぼくの友だった。
共に戦い、共に泣き、共に笑った――唯一無二の友。

「――灰村諸葉!」

そうして彼は――思い出した!

二つの前世。
たった一つの現世。
かの英霊はこそエンシェントドラゴン<最も古き英霊>!

「綴る!」

思い出した彼は毅然と言い放つ。
その指を虚空へと向け――

“冥界に煉獄あり 地上に燎原あり 炎は平等なりて善悪混沌一切合財を焼尽し 浄化しむる激しき慈悲なり”

――彼は猛然とした勢いで文字を書き始めた。
虚空に指が走る。走る。走る。走る。走って、走って、走って――綴る!

“全ての者よ 死して髑髏(しゃれこうべ)と還るべし 之は果たして此岸なるや 彼岸なるや 焦土と化した故郷の ”

そして同時に彼は詠唱する。
聞き取れないほどの速さで猛然とその文言を読み上げる。
そのたびに虚空に火花が散り、文字が力強く明滅する。

“なお荒涼たるこの皮肉よ 見渡す限りの果てなき絶望”

りん、と音がした。
剣は凛然と輝きを灯し、ばさばさとマントが舞う。

――その瞬間、ぼくには見えた。

セイバーと共に立つ二人の女性を。
何時か夢見た、遥かなる前世がそこにいる。

「俺は――俺から奪っていくすべての者を許さない!」

その全てを乗せ、セイバーは光を振るう。
迷いなき勇気と共に、彼はその力を解放する。
その姿、その光、その闇、全ての夢が収束していき――


【ヴリトラ】


――――二つの夢<前世>が一つになった。










【ランサー 脱落】



【クラス】
セイバー
【真名】
灰村諸葉@聖剣使いの禁呪詠唱

【パラメータ】
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力E 幸運A 宝具A++

【属性】
中立・中庸

【クラス別スキル】
対魔力:A Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。

騎乗:E 申し訳程度のクラス別補正である

【保有スキル】
魔力放出 A
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。いわば魔力によるジェット噴射。

魅了 B
魅力。対峙した女性は彼に対する強烈な恋愛感情を懐いてしまう。

源祖の業 A+++
アンセスタルアーツ。前世の力を引き出す技。
後述の宝具の影響により本来なら両方使えないはずの『光技』と『闇術』を使用することができる。
また、両方を掛け合わせた独自の術理『太極』を使用することができる。

【宝具】
『聖剣の守護者<フラガ>』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
英霊モロハの前世。魂に焼きついた記憶の欠片。
かつて彼は剣聖フラガと呼ばれ、光技を使用し暴虐の限りを尽くす皇帝と戦ったという。
その前世を“思い出す”ことによって発動。(任意発動はできない)
筋力、耐久、敏捷が2ランク、魔力が1ランク上昇、またAランク相当の“源祖の業”スキルが発動する。

『冥府の王<シュウ・サウラ>』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
英霊モロハの前世。魂に焼きついた記憶の欠片。
かつて彼は冥王シュウ・サウラとして闇術を使い世界を相手に戦っていたという。
その前世を“思い出す”ことによって発動。(任意発動はできない)
魔力が3ランク上昇し、またAランク相当の“源祖の業”スキルが発動する。

『エンシェントドラゴン<<最も古き英霊>>』
ランク:A+++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
二つの前世を一つになる――
全く異なる二つの前世を見に宿した救世主のあり方そのもの。
二つの前世を“思い出す”ことによって発動する。(任意発動はできない)
『聖剣の守護者<フラガ>』と『冥府の王<シュウ・サウラ>』が同時に発動する。
パラメーター上昇効果は重複し、“源祖の業”スキルがA+++相当となる。

【Weapon】
固有秘法
<<摩訶鉢特摩地獄(コキュートス)>>
<<世界喰らいの蛇(ウロボロス)>>。
固有秘宝
<<聖剣サラティガ>>。

【人物背景】
『聖剣使いの禁呪詠唱』の主人公で二つの前世の記憶を持つ少年。
ただし本人には断片的な記憶(主に戦闘中の記憶)しかなく、これを思い出すことで強くなる。
両親は諸葉が7歳の時に事故で他界しており、叔母夫婦の家で世話になっている。
経済的に裕福ではなかったにもかかわらず自分を引き取ってくれた叔母夫婦には感謝しており、経済的負担をかけたくないため授業料免除と就職を目的に亜鐘学園に入学する。
石動迅からの勧誘で実戦部隊に入隊。その際、実戦部隊に入隊するメリットとして奨学金と言う名目で給与が出ることを聞かされ二つ返事で入隊を決めている。
その境遇のためか『物を粗末にする人』には怒りを露にする。『もったいない』と言われると、自分の意見を曲げてしまう。
九頭大蛇の姿をした『異端者』を倒した後は、学生でありながら世界に六人しかいないランクSの実力を持っていたが、そのことを隠していた。
しかしランクSのエドワードと戦った後、エドワードの策略で勝手にSランクに認定される。要因としてエドワードを倒す際に禁呪を使用した事も含まれる。
合宿先で出現した要塞級異端者を倒したことで六頭会議で正式にS級に決定される。
しかし、学生であること、目覚めたてであることを考慮に卒業までは学生扱いにされているが事件が発生する度に駆り出されている。
ロシア支部によって暗殺されそうになるが、そのやり口に怒りを覚えロシア支部相手に一人で戦うことを決意する。
前世で恋人同士だったサツキと静乃にそれなりに好意は持っているが、恋愛感情であるかは表明していない。


【マスター】
ルカ・ミルダ

【マスターとしての願い】
???

【weapon】
何も持っていない。あれば剣は使える。

【能力・技能】
“天術”
天界の住人アスラとしての力を使う。

【人物背景】
『テイルズオブイノセンス』の主人公。
王都レグヌムに暮らす、裕福な商家の跡取り息子。成績優秀な優等生だが、運動神経や喧嘩の方はさっぱり。
性格は引っ込み思案で自分に自信が無く、他人に流されがちである。
父親の跡を継ぐことになっているが、本人は医者になりたいと思っている。母親の作るチーズスープが好物。
前世はセンサスの将軍アスラ。覚醒は遅かったものの、幼い頃から前世の夢を見ており、夢の中の自分であるアスラの剣術と威風堂々とした態度にずっと憧れを抱いていた。

|