───夢を。
 ───夢を、見ていた。

 自分自身の夢を。
 自分ではない誰かの夢を。

「あー! みーくんやっほー!」

 ゆき先輩は今日も元気いっぱいだ。
 小さな体でぶんぶんと大きく手を振って、顔には満面の笑みを浮かべている。
 人は彼女をバカっぽいとか、子供っぽいとか言うかもしれないけれど。でも、いつだとて笑顔を絶やさない彼女の在り方は酷く眩しいものに他ならない。

「こんにちは、美紀さん」
「おーす。今日も一日頑張ってこーぜ」

 そのちょっと後ろから、くるみさんとりーさんがゆっくりとついてきた。
 ゆき先輩と同級生とはとても思えないほど大人びた……いや、どちらかというとゆき先輩が子供すぎるだけなのだろうが、ともかく落ち着いた雰囲気をした人がりーさんだ。
 くるみさんは愛用のシャベルを、周りの人の危険にならないように担いでいる。元気の良さで言えばゆき先輩ほどではないが、その声は明朗で自然と好感を持てるものだった。

 ゆき先輩、くるみさん、りーさん、そして自分。この四人が学園生活部のメンバーだ。

「はい。こんにちは、みなさん」

 だから、自分も笑顔を浮かべよう。
 あまり得意ではないけれど、でも彼女たちに相応しいのは満面の笑みだから。

 そうして、【直樹美紀】という少女は、三人の下へと駆け寄るのだ。

 それは幸福だ。かつてあった日常を謳歌して、失った全てがそこにある。
 それは希望だ。いつかまた、この景色を取り戻すのだという希望。

 そこには誰もがいた。誰一人として死んでなどいなかった。
 そう、全ては悪夢だったのだ。だって世界はこんなにも幸せなんだから。


 人並みの、けれど何より大切な家族は変わらずに家で出迎えてくれる。
 親友の圭は、相変わらずのお調子者で苦笑するばかりだ。
 その誰もが、学園生活部のみんなと一緒に笑いかけてくれる。
 その光景に、自分は何故だか涙が止まらないのだ。
 どうして自分は、これほど愛おしい宝物を失ってしまったなんて夢を見たのだろう(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
 ありえない夢想、文字通りの悪夢だ。パンデミック?馬鹿な、そんなものがあって堪るもんか。くだらない空想なんて捨て去って、今はこの幸せな日常を過ごそうと思う。

 クラスメイトはいつも通りに教室にいて、ゆき先輩の紹介で知り合っためぐねえ……佐倉先生とも打ち解けた。未来に抱く不安なんて、どこにもない。
 そうだ、今日は授業が終わったらみんなで一緒に出掛けよう。
 いつもならゆき先輩が提案してみんなが苦笑いしながらも乗っかるのが定番だが、たまには私から誘っても罰は当たらないはずだ。
 気が付けば、私はみんなからたくさんのものを貰っていた。楽しいこと、暖かいこと、そして希望。だから、うん。今度は私がみんなにあげる番だよね。
 そうして提案してみたら、くるみさんとりーさんはなんだか驚いたような表情をして、ゆき先輩は太陽みたいな笑顔で抱きついてくる。
 私はそんなゆき先輩を表面上は押しのけながら、けれど嫌な気持ちなんて微塵も抱かない。

 青い空。広い海。降り注ぐ太陽。
 なんて美しく素晴らしい日々だろう。

 この世界は今、何一つ陰りのない祝福に包まれていた。
 人々は例外なく笑いさんざめき、童心にかえったような嬌声があちこちから聞こえてくる。不幸な人なんて誰もいない。
 ああ、それは、誰もが笑い合える理想郷で。
 この日常に終わってほしくないと、強く強く思ったのだ。





   ▼  ▼  ▼





 なんと哀れな、救ってやろう。報われてくれ愛しいきみよ。俺はお前の幸せを、いつも変わらず願っている。





   ▼  ▼  ▼





 目が覚めると見慣れない天井があった。荒れ放題に荒れて、そこかしこの硝子が割れた、明らかな廃墟の中。
 暖かな日差しは温室の硝子に反射して、目覚めたての目には少しばかり眩しかった。
 自分の置かれている状況が分からない。美紀はのろのろと上体を起こし、辺りを見回し、そしてようやく、自分が着の身着のままで眠りについていたことを思いだす。

「あっ……」

 急速に記憶が回復していく。夢見心地の微睡んだ目は徐々に光を取り戻し、霧がかかったような思考も次第にクリアになっていく。
 何故自分がここにいるのか、今自分は何をしているのか。それらの全てが頭に蘇る。

 ここは地獄だ。最初に思い出したのは、まずそれだった。
 鎌倉市、聖杯戦争の舞台。願いを叶える代わりに自分たちで殺しあえと、恩寵に縋るべく足掻く者たちによる狂気の宴。
 美紀もまたその一人。何故かいきなり決まった浮浪者狩り政策の手から逃れるべく、どこまでも逃げ回った末にたどり着いたこの場所で眠りについたのが昨夜の話だ。
 全部、全部思い出した。これこそが現実なのだ。
 夢に描いた理想郷など、この世界の何処にもない。

「……なんで」

 知れず、目尻から一筋の涙が零れ落ちた。
 現実は変わりなくそこにあって、少女を掴んで離さない。
 夢は所詮夢。そんなことは分かっているけど。
 それでも、割り切れない心は確かに存在する。

「なんで、私達だけこんなことになっちゃうんでしょうね、先輩……」

 鎌倉の街を訪れてから、片時も休むことなく積もり重なってきた心の重圧。それがほんの少しだけ漏れ出す。
 かつて暖かな陽だまりがあった。共に笑い合える親友がいた。人並みに自分を愛してくれた両親がいた。
 それを突然奪われて、何もかもが崩れ去って、果てには見知らぬ世界で殺し合い。頼れる者は物言わぬ己が従僕しかなく、言葉を交わせる相手もいない。

 元の場所よりは平和だった。徘徊する死者はおらず、人は皆各々の営みを続け、血も死体もどこにもない。
 けれど、ここがかつてと変わらない地獄であることに変わりはなく、たかが一介の女子高生が耐えられるものではないのだ。
 だが、それでも。

「……でも、待っててください。私がきっと、みなさんのことを助けますから」

 それでも、譲れない願いが胸にある。
 この想いがある限り、自分は進むことをやめてはならないのだと。
 そう、無理やりに言い聞かせて。

「───やあ、おはよう。随分と遅かったね」

 横合いから、声が聞こえた。

 びくり、と体が硬直して、次の瞬間には勢いよく振り返る。顔には焦燥の色が浮かんでいた。

「そんなに慌てなくてもいい。僕はきみと話がしたいんだ」

 振り返った先にいたのは、男の子だった。
 それは非現実的なまでに、整った顔立ちをした少年だった。緋色の髪は艶やかに朝日を反射して、中世的な顔は男女それぞれの長所を良いとこどりしたような均整を保っている。
 温室の縁に立つ彼は、ひどく穏やかな表情のまま、こちらを見つめていた。その所作は彼が持つ幻想的な雰囲気を見た目以上に引き上げて、まるでここが現実ではなく先に見た夢の延長線であるかのように錯覚させる。
 だからこそ、分かる。彼が普通の、この世界に住まう人間ではないということを、直感的に悟る。

「だから───ねえ、きみは誰?」

 少女は相対する。直樹美紀という一女子高生ではなく、バーサーカーのマスターとして。
 幾多の感情に強張る美紀とは違い、少年の顔はどこまでも柔らかいままだった。



【D-2/廃植物園/1日目 午前】

【直樹美紀@がっこうぐらし!】
[令呪]三画
[状態]健康、連日の逃亡生活でちょっと疲れが出てる。
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]無いに等しい
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、世界を救う。
0:少年に対処。
1:サーヴァントやマスターを倒すことには躊躇しない。
2:浮浪者狩りから何とかして逃れたいが、無闇矢鱈に人を殺したくはない。
[備考]

【バーサーカー(アンガ・ファンダージ)@ファンタシースターオンライン2 】
[状態]健康、霊体化
[装備]
[道具]
[所持金]マスターに依拠
[思考・状況]
基本行動方針:?????
1:?????
[備考]


【みなと@放課後のプレアデス】
[令呪]三画
[状態]健康
[装備]金色の杖
[道具]
[所持金]不明(詳細は後続の書き手に任せます)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の奇跡を用い、自らの存在を世界から消し去る。
0:この少女と少し話してみる。牙を剥くのであれば容赦はしない。
1:聖杯を得るために戦う。
[備考]

【ライダー(ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン)@Dies Irae】
[状態]健康、霊体化
[装備]機神・鋼化英雄
[道具]
[所持金]マスターに依拠
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得を目指す。
1:終焉のために拳を振るう。
[備考]


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000:封神演義 直樹美紀 015:機神英雄
バーサーカー(アンガ・ファンダージ)
みなと
ライダー(ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン)

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