町は冒されている。
 町は微睡んでいる。
 町は浮かされている。
 異なる世界線より流入した法則が齎す都市伝説の跋扈は、人々の心と暮らしに深い爪痕と恐怖を与えた。
 だが同時に、彼らは鎌倉という都が発足して以来類を見ないほどに浮き足立ってこの渾沌を囃し立てている。
 それはある意味では、敬虔に願いを追い求め奔走する聖杯戦争の参加者を凌駕するほどの異常な様相に見えたろう。

 今、平成の鎌倉は魔都と化している。
 23の英霊が練り歩き好き勝手な色彩で営みを染め上げ、地獄絵図にも似た戯画的な魔窟を生み出し。
 それを目にして民は高揚し、表向きには恐怖しながらも内心では更なる狂気の現代神話が生まれることを望んでいるのだ。
 これを魔都と言わずして何という。
 化外のみならず、すべてのものが緩やかに狂い出し、都は夢見る微睡みの底に堕ちようとしている。
 その先にあるのがたとえ破滅であろうとも、彼らはきっと喜び勇んでそれを許容するに違いない。
 こうなったら面白い。こうならなければ嘘だろう。もっと面白い夢が見たい。
 痴れ事を、夢を描くことに何を厭うことがある。
 より華々しく、より美しくを求めることが我らの自由。

 彼らがそう思うのだから、彼らの中ではそうなのだ。
 真は人の数だけ膨れ上がる。
 俺の中ではそうなのだから、貴様の意見など知ったことではない。
 閉ざせ、塞げ、関わるな。俺の中のおまえは、俺の思い通りに動いていればそれでよいのだ。

 それは、この世ならざる場所より顕象した聖杯の遣いであろうとも例外ではない。


 屍食鬼が出た。
 今度は白昼堂々だ、いよいよ行政も見逃せないだろう。
 それより朝っぱらから市職員が惨殺されたって話もある。
 あのイカれた市長がどう動くのか見ものだ。
 カネの力でたかだかゾンビの数十体、簡単にぶち殺せちまうんじゃねえの?
 いやいや、それじゃあ面白くない。きっと敵は屍食鬼だけじゃないんだよ。
 例えばそうだ、こんなのはどうだろう?
 異界からやってきた騎士王の亡霊が突如現れ、好き勝手に殺し犯しを繰り返して此処を地獄に変えるんだ。
 そりゃあ面白い、だったら騎士王に叛く高慢ちきな成金の王様なんかが出てきたらもっと面白い。
 そしてそんな奴らでさえ常識の通用しない奴らがまだまだこの町には彷徨いていて――


 「―――――I am the born of my sword―――――」


 ・・・・・
 気色が悪い。
 熱に浮かされた群衆の様子に眉を顰めながら、やや躊躇った後、赤銅の彼は行動へと打って出た。
 背後に精製されたのは一振りの剣。
 様式は西洋のものだが、その刀身は薄ぼんやりとした輝きを帯び、普通の刀剣でないことを窺わせる。
 それはやがて青年の元を離れ、一つの直線にしか視えない速さでもって往来の中心へ襲来、炸裂する。
 悲鳴があがり、白光が小規模な起爆現象を引き起こした。

 民間人を進んで渦中に巻き込むのは、やはり後ろめたいものがある。
 しかし、己(おれ)はそうあると決めたのだ。
 彼女を助け出すためならばあらゆる手段を尽くし、あらゆる敵を殲滅し、聖杯の下へと辿り着くのだと。

 「軽薄な言動、おまけに慢心の滲んだ無防備な様。
  ……おまえみたいな輩を仕留めるなら、こうするのが一番早い」

 この狙撃の標的である女は、聖杯戦争のマスターであると見てまず間違いない。
 アサシンを配置しての監視によってそう調べはついていたし、だからこその白昼堂々、衆目に晒される覚悟での一射。
 威力は極力抑えたが、それでも人間一人を即死させるには十分な威力の筈だ。
 衛宮士郎は自分でもゾッとするほど酷薄に独りごちると、静かにその場を後にすべく踵を返す。
 長居は無用だ。
 それこそ自分達がしていたように、常に気を張って監視を巡らせている輩がいる可能性を危惧しなければならない。
 これは、"予選"の中で身に付けたノウハウでもある。

 「……ッ!?」

 だが、しかし。
 衛宮士郎は背後より迫る殺気を感知し、反射的に自らの身体を跳ね除ける。
 空気が焦げる音を奏でて、蒼白い光の束が、つい一瞬前まで士郎の身体が存在した地点を突き抜けていった。
 熱を浴びた家屋の屋根はべっとりと溶けており、その威力の程を物語っている。

 仕留め切れなかったのか、それとも残滓の如く生き残ったサーヴァントが報復に放った攻撃であったのか。
 それは定かではないが、すべきことは分かっている。
 一つは今すぐこの場を離れ、状況を立て直すこと。如何に士郎といえど、英霊を相手にするのは骨が折れる。
 そしてもう一つは――より確実に事を済ませる為に、止めの駄目押しをかけることだった。

 (殺れ――アサシン)

 その念が彼のサーヴァントである暗殺者へ届いた時、鎌倉の路地へ一陣の風が吹いた。
 流石に衆人環視のど真ん中でサーヴァント同士の戦闘を行うのはリスクが高すぎる。
 なるだけ人目につかない場所を選択して戦え、など、細かい指示をしたいのも山々だったが、彼はそうしなかった。
 あのアサシンが、そんなことも弁えていないとはとても思えない。
 彼女は自分のような俄仕立ての暗殺者とは訳が違う、正真正銘の"殺剣(ナイトレイド)"であるのだから。




 「やれやれ、だわね。人目も憚れない馬鹿がいるのはこの手の乱痴気騒ぎじゃ当然だけど、まさか此処まで愚かとは」

 衛宮士郎が標的とした女――麦野沈利のサーヴァント・ランサーは炸裂する剣を迎撃し、そう零した。
 とはいえ、その姿が好奇心旺盛な市民に記憶されたかどうかは極めて疑わしい。
 剣が炸裂するよりも早く彼女は攻撃を察知し、それを迎撃、後すぐに爆風が生じた。
 それだけの猶予があれば、彼女のマスターたる麦野は状況に応じた最適な判断を下すことが出来る。
 即ち、必要以上に自分達の存在が知れ渡らないように往来からは一先ず逃れるということ。
 ペナルティの発生どうこうを度外視しても、この情報化された世の中で都市伝説の一片として拡散されるのは分が悪い。
 何しろこの町は今、都市伝説と怪異の渦巻く温床として日本中から注視されている。
 ならば必然、民間人の目であれど情報が一度記憶されてしまえばそれは瞬く間に拡散され――
 ともすれば、インターネットを通じて他のマスターへ情報が渡らないとも限らない。
 このランサーは特に、それに注意しておく必要があった。彼女の弱点が知れ渡れば、一気に旗色が怪しくなる。

「いいや、よく考えられてるわよ。相手はプロではないにしろ、そこそこ手慣れた技術を持ってるのは確かね」
「あら、どうして?」
「人の目がある以上、襲われた側は場所を考えてまず移動しなきゃいけない。
 そうすれば当然、少なくとも先手は取れないわけよ。闘いにおける先手の重要さはあんたも知ってるでしょう?」

 まともな考えを持つマスターなら、人前で力を振るうことは避ける。
 そうなれば必然的に後手に回るのを余儀なくされ、闘いの主導権を握ることが可能になるわけだ。
 無論、一撃で仕留められればそれに越したこともない。
 一見掟破りを気取った馬鹿の蛮行のように見える襲撃だったが、闇社会の人間である麦野はその意図を正しく読み解いた。

「意外ね。貴女がそうやって敵を評価するようなことを言うなんて」
「評価? 冗談じゃない。ただ事実を言っただけ――現に」

 麦野は口許に笑みを浮かべ、その左手に蒼白の光を揺らめかせた。

「あんまりいけ好かねえもんだから、返しに一発ぶちかましてやった。コースはバッチリ、避けなきゃ当たったわね」
「……それはまた大胆なことで。貴女のアレが当たったとすれば心底ご愁傷様だけど」

 ランサー、レミリア・スカーレットとマスター、麦野沈利の関係性は極めて悪い。水と油、と言ってもいい。
 何しろ片や高貴な吸血鬼、片や粗暴な裏社会の殺戮者である。
 馬が合う理由は全くないし、こうしている今だとて互いに別な相方を見繕いたいと思っている始末だ。
 しかし、互いに互いの実力が優れていることはしっかりと把握し、その点では認めている。
 麦野沈利が持つ『原子崩し(メルトダウナー)』の威力は、サーヴァントにすらも通用するほどのものだ。
 仮にランサーがあれを浴びたとしても、相応の痛手になるのは間違いない。
 それほどの力なのだ。麦野が返し手に放ったという一発がもし直撃していたならば、まず相手の命はないだろう。

「でも、そうは問屋が卸さないみたいよ」

 皮肉るようなランサーの台詞を耳にするや否や、麦野は地面を蹴って大きく加速した。
 空を切る快音の後に小さな舌打ちが聞こえ、その方向へ一切の躊躇なく『原子崩し』の砲撃を打ち込む。
 それを苦もなく回避し、俊敏な動作で間合いを詰めにかかるのは黒髪の少女だった。
 クラスは恐らくアサシンであろうと推察できる。麦野も舌を打ち、蒼白の破壊光を縦横無尽に迸らせて行く手を阻んだ。
 しかし、麦野沈利の超能力は応用性において遅れを取る。
 もし、彼女の一つ上の順位とされる超能力者『超電磁砲』だったならば、アサシンを寄せ付けぬことも出来たろう。
 だが麦野にそれは出来ない。不利を悟るや否やバック宙の要領で麦野は後退。
 追おうとする少女には、『原子崩し』による射撃とランサーが放った無数の弾丸が浴びせかけられた。

「ランサー。此処なら十全に戦える?」
「ええ――まあ。問題はないわ」
「ならいい。暗殺者の小娘一人くらい、どうにか出来るわね?」
「誰に物を言ってるの」

 腹の底はともかくとして、互いに互いの実力は認めている。
 麦野沈利の火力ならば英霊一人を屠ることさえ難しくはないが、しかし彼女には英霊の攻撃に耐えるだけの耐久がない。
 それをカバーし得るのがレミリア・スカーレット。彼女の使役する槍の英霊だ。
 超能力者に匹敵する異能と上回る身体能力、駆使すれば如何に速度に優れた暗殺者であれ打倒することは難しい。
 別れの合図に軽口を叩き合い、麦野は駆けた。
 追おうとするアサシンを遮るように割り入ったランサーは、傲慢な嘲笑を浮かべて妖しく呟く。

「運命『ミゼラブルフェイト』」

 ――刹那。
 鎖の形をしたオーラが彼女を起点として出現し、アサシンを捉え、引き裂かんと迸った。
 一度は回避するアサシンだったが、それで逃がすほど運命の名を冠したスペルは甘くない。
 さながら意志を持った蛇のように、逃れ得ぬ運命を意味するかのように、それはアサシンをどこまでも追い立てる。
 その動きは迅速で、戦いを知る者の所作だ。
 彼女は強い。ランサーにはそれが分かる。だが、如何に強かれどもそれまで。
 運命の輪を抜け出せなければ、待つのは決定付けられた『死』のみである。

「――厄介な」

 吐き捨てるように呟かれたアサシンの台詞を、待っていたとばかりにランサーはほくそ笑んだ。
 嫌味の色を隠そうともしないその笑顔に、レミリア・スカーレットという英霊の本質がよく顕れている。
 鎖から逃げ惑うアサシンを追跡し、爪の斬撃を見舞ってくるランサーを観察し、アサシンはそんな感想を抱いた。
 同時に、こうも思う。この手の輩ならば、と。

 慢心。
 驕り。
 過信。
 過小評価。
 そういったものは全て、鉄火場に決して持ち込んではならない思考だ。
 どんな強者であれ、ほんの一縷の油断が栄華の終わりを運んでくることは歴史からも読み取れる。
 このサーヴァントは確かに強い。言うなれば器用なのだ。意識して操作せずとも維持し続けられる鎖の追跡もさることながら、それと並行して的確に相手を殺すための肉弾戦へ持ち込むことも可能。
 おまけに基本ステータスも、恐らくアサシンより上であろう。
 アサシンは敏捷に優れたサーヴァントだが、彼女はそれとほぼ互角の速度を発揮してきている。
 力ではあちらが上。技ならばまだしも、この様子では恐らく耐久力でも自分に勝ち目はない筈だ。

 キャスター。あるいは、アーチャーか。どちらでもいい。結果的には同じだ。

「ほら、どうしたの? 速いだけの小鼠が英霊を名乗ろうなんて烏滸がましいにも程があるわよ。
 加減してあげるから頑張ってみなさいな。地を這うばかりの下種な暗殺者さん?」

 けらけら笑って悪罵を叩くランサーと視線が交錯する。
 わざわざそれに応じているほどの余裕はない。悪罵を返す余裕もだ。
 そんな悠長な真似をしていては、自分に殆どの面で優るこの標的を打倒することは出来ない。

「――紅き血潮のサーヴァント」

 構えるのは宝具・桐一文字。
 今となっては懐かしい臣具だが、郷愁に浸る趣味もない。
 真紅の瞳を同じ色彩の眼差しで睥睨し、寄せ来る鎖を切り払う――ランサーの眦が細められた。
 鎖が切り割られ、それきり再構成される様子がないのである。
 さも、癒えぬ呪いを与えられたかのように。
 だがそれに注意を牽かれた瞬間こそ、このアサシンを相手取るにあたっては最悪の隙となるのだ。

 彼女の慢心と、自身の力を過信する余り、有り得ぬ筈の事態への驚きに意識を向けてしまったこと。

 その隙があれば、殺すための剣(ナイトレイド)には十分だ。

「葬る」

 傲岸なる者への吶喊一瞬。

 閃の軌跡が轟いた。




 まるで、戦略兵器のたぐいと戦っている気分だ。
 衛宮士郎は健脚で地面を蹴り、逃走しながら舌を打つ。
 そうしている間にも、不健康な蒼白の灼熱光が彼に風穴を穿たんと飛来する。
 髪の毛を数本持って行かれた時には本気で肝を冷やした。
 今はまだこちらの姿を、相手は方角の情報だけで狙っているから逃げることが叶っているが。
 もしも相手の視野に入ってしまった日には、ましてやそれに気付かなかった日には、衛宮士郎は即座に殺されるだろう。
 そう思わせるほどの威力、精度、速度。全てを揃えた射撃だ。
 そして、何よりも恐ろしいのは。

「ちッ――!」

 士郎の真横の建物に光線が着弾した。
 爆発が生じ、その余波に堪え切れず体勢を崩し地面を転がる。
 口の中を切ったようで、血混じりの唾を吐き捨てて士郎は壊れた建物の外壁を見、中で泣き声をあげる子供を視認した。
 一瞬だけ逡巡したが、かぶりを振って脳裏へよぎった甘さをかなぐり捨て、再び走り出す。

 間違いない。
 相手はこの手の荒事のプロだ。
 魔術師よりも手段を選ばず、そして命の重さに欠片の頓着もない。
 現にこれまで、敵は居住者のいる民家から工場などの施設まで、お構いなしに文字通りぶち抜いている。
 もう少し時間が経過すれば、白昼堂々のテロ事件ということで警察やマスコミが集い始めるだろう。
 聖杯戦争においては愚策も愚策の行いだが、相手を殺すという一点のみで考えれば百点満点の執念だ。
 一先ず、どうにかして追手を撒かなければ。
 士郎の投影魔術から繰り出す『壊れた幻想』の威力は抜群だが、しかしあのマスターのような貫通力は持ち合わせていないのだ。下手に迎撃を試みたところで、悪戯に被害を拡大させるだけに留まってしまう。

「よし……」

 路地に転がり込むようにして逃れると、見当違いの場所を光線が打ち抜いていくのが見えた。
 一つ頷いて、それから再び走り始める。
 投影魔術が使用できるという点で、自分はあの女に拮抗できるだけの力を持っていることになる。
 だが、この場所では駄目だ。
 場所を移すなりして、今度は少々被害が大きくなっても構わない。
 確実にあれを仕留め切るだけの一撃を――と。

 そこまで考えた所で、衛宮士郎は気付いた。
 自分の進路であった道に、ブラウンの髪を靡かせた一人の女が立っている。
 目を見開いた。それと同時に、即座に無数の剣を高速投影。通路を埋め尽くす勢いで放つ――が。

「テメェ、馬鹿かよ」

 腕の一振りと共に放たれた光の奔流を前に、贋作の宝具は呆気なくその形を失う。
 不味い。
 察するや否や士郎は路地から転がり出た。追撃の光が容赦なく襲ってくる。
 しかしやられてばかりではない。路地より続いて現れた女へと、投影した宝具の一つを鏃として射出した。
 絶世の名剣(デュランダル)。強度に優れたこれであれば、あの光を前にかき消されることもない。
 そう踏んでの行動だったが、衛宮士郎の失敗は――

 『麦野沈利』という女を見誤ったことであろう。

「ハッ」

 片腕――
 正確には失われたそれを補う為にあてがった、学園都市製の義手。      ・・・・・
 それを振り上げ、麦野沈利はあろうことか、弓にも優る勢いで撃ち放った名剣を掴み取ったのだ。
 瞬間、士郎の腹へハンマーで殴られたような衝撃が駆け抜けた。
 胃液を吐き出し、数メートルの距離をノーバウンドで飛ばされ、地面へ叩き付けられる。
 麦野の蹴りを浴びたのだと気付いたのは、追撃の光線が自分目掛け正確に飛来してきているのを視認した瞬間だった。

「づ、ッ…… ――I am the bone of my sword…………!!」

 生まれるのは花弁の盾。
 英霊の宝具とて受け止める障壁を前にしては、さしもの原子崩しも道を作れない。
 だが逆に言えば、人の身でありながら、クラスカードすら使わずにこれを抜かせたということになる。
 化物だ。魔術の領分とは思えない力を行使する辺り、それとも超能力者とでも形容するのが正しいのか。
 兎角、このままでは拙い。士郎は再び剣を高速投影し、それを一斉に起爆することで『壊れた幻想』を繰り出した。
 加え、それだけではない。駄目押しに、とある中華武将の使用した宝具『方天画戟』を投影し、叩き付ける。
 常人ならば三度は死ねる攻撃。しかし、殺し切れてはいないだろうと士郎は走りながら推測する。

 彼の肩口を、蒼白の光が掠めた。
 じゅう、という肉が焼ける音に顔が歪む。 
 足を止めることなく走り切り、角を曲がってどうにか敵手の視界からは外れることに成功した。
 とはいえ、諦めたわけではないだろう。きっとあの女は追ってくる。被害など顧みず、殺意を暴走させて迫り来る。
 勝つのは不可能ではない。裏を返せば、絶対に勝てるという保証はない。
 形だけのハリボテとはいえ、神造兵装すら複製する贋作者(フェイカー)であれど。いや、だからこそか。

 宝具も魔術も用いず、魔力の消耗という概念すらなく延々と破壊を続けられる砲台めいたあの女は相性が悪い。
 あれにもう少し冷静さが備わっていれば、きっともっと厄介なことになっていただろう。

 ――アサシン。

 彼女が、きっとこの戦いの鍵だ。
 どこかで聞こえた爆発音を背に、衛宮士郎は動乱の鎌倉市を駆け抜ける――


 そして、それを追跡者たる少女は追う。
 投影宝具の炸裂によって生まれた黒煙の底から姿を現し、服に付着した煤を払って、人間離れした脚力で地を蹴る。
 学園都市第四位の超能力者が今、あまりにも分かり易い脅威として、聖杯戦争を蹂躙し始めていた。




 馬鹿な。
 アサシンは瞠目し、笑うランサーを見つめていた。
 一斬必殺・村雨。
 命中さえすれば、たとえ彼女のような化外の民でさえ死に至らしめる帝具。
 これを用い、彼女はこれまで何人もの悪を葬ってきた。
 だからこそ確信があった。あの隙、間合い、状況。
 どの条件を重ね合わせても、負ける理由はどこにもない。殺った――と。

 しかし、刃がランサーを切り裂くことはなかった。
 ほんの偶然、吹いた強風が吸血鬼の体を揺らし。
 それによって的が外れ、村雨の刀身は彼女の衣服一枚を切り裂くに留まったのだ。

「残念だけれど――『運命』は、私に味方をしたようね」

 偶然? いや、違う。
 英霊の座より呼び出された暗殺者が、そんなつまらない理由で仕損じる筈がない。
 その疑心は、ランサーの口にした台詞によって確信へと変わった。
 運命。それはいつだとて理不尽に現れ、不可視の引力で人の道を決定づけるルールの一つ。
 このサーヴァントには、それを操る力がある。
 正確にはそうではないが、それをランサーが明かしていない以上、アサシンがそうであると信じ込んでしまうのは道理だ。
 ランサーは自らの力の弱点、あるいは真実などをべらべらと語り散らすほどの阿呆ではない。
 彼女は慢心も過信もするが、しかし決して、戦いの何たるかすら把握していない箱入りではないのだ。

「さあ。小鼠の分際で、支配する者の首を噛もうとした。その贖いをして貰いましょうか」

 形勢不利。
 判断し、飛び退く。
 だが、もう遅い。
 ランサーの宝具が、ここに解放される。



  スピア・ザ・グングニル
「『運命射抜く神槍』」



.
【B-1/路地裏/1日目 午前】

【ランサー(レミリア・スカーレット)@東方Project】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 麦野へ一存。
[思考・状況]
基本行動方針:飽きるまでは戦う
1:アサシンを殺す
2:麦野へ若干の辟易。ただし実力は認めている


【アサシン(アカメ)@アカメが斬る!】
[状態] 健康?
[装備] 『一斬必殺・村雨』
[道具] 『桐一文字(納刀中)』
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:勝利する
1:???


【B-1/1日目 午前】

【麦野沈利@とある魔術の禁書目録】
[令呪] 三画
[状態] 健康、殺意
[装備] 学園都市製の義手
[道具] なし
[所持金] 多め
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、浜面を殺す
1:舐めた野郎(衛宮士郎)を殺す
2:ランサーの心配はあまりしていない
3:殺されたら殺されたで、適当なマスターをぶち殺して契約する腹積もり


【衛宮士郎@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[令呪] 三画
[状態] 疲労(中)、魔力消費(小)
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 数万円程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利する。手段は選ばない。
1:女マスター(麦野沈利)への対処


※B-1エリアで麦野沈利による破壊活動が行われています。
※市民達の一部はもっとやれとか思っているかもしれませんが、麦野と士郎の顔が目撃されているかどうかは後の話に準拠します。

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007:天より来るもの 投下順 009:播磨外道
時系列順 010:穢れきった奇跡を背に

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000:封神演義 麦野沈利 013:暗殺の牙
ランサー(レミリア・スカーレット)
衛宮士郎
アサシン(アカメ)

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