蒼白の光条があらゆるものを蹂躙していく。
街も、建造物も。当然、人間も。全てが溶けて消えていく。
誰が信じよう。その途方もない破壊を撒き散らしているのがたった一人の人間などと。

そしてその破壊の標的とされながら未だに生を繋いでいる人間がいようなどとは。




     ▼  ▲




このままではジリ貧だ。衛宮士郎はそう思考する。
名前も知らない女マスターの戦闘力、そして何よりも破滅的に過ぎる異能はサーヴァントであっても直撃は許されないほどの破格の武器だ。
もっとも宝具を大量に生産して使い捨てにしている自分が言えた話でもあるまいが。

現状、こちらの攻撃は大した成果を上げていない。
とはいえある程度の手の内と引き換えにあちらの攻撃の性質も把握できてきた。
まずあの光は全身から出せるものの基本的に直線的な攻撃しかできず、軌道変更はできない。
それができるならたかだかコーナーを曲がった程度でこちらを捉えられなくなるわけがない。
次に連射性能は致命的に低いわけではないが高くもない。
衛宮士郎の身体性能を考慮すれば一発を防げば次の発射までに距離を詰めることは可能。
また先ほど接近戦を挑んだ際、あの女はわざわざ自分を蹴り飛ばしてから光を放った。
つまりあの光の異能は近接戦闘に応用できる代物ではないことがわかる。
というより、使用者でさえ迂闊に触れられないほど危険な物質なのであろうと推測できる。

総じて、破壊力と発射速度に秀でる反面細かな取り回しに難を抱える能力であると考えられる。
未だ不透明なのはどの程度まで出力を高められるのか、そしてどの程度応用の利く能力なのか、という二点だ。
あれほど修羅場慣れしたマスターがまさか自らの能力の欠点を熟知していないなどということはあるまい。

「全部の手の内を見せてないのはこっちも同じなんだけ、ど……!」

迸る光条をステップで回避。やはり追って来たか。
あれではこちらがどれほど遠くに逃げようとも追撃と破壊を止めようとはしないだろう。
当てずっぽうに放った一発が命中しただけでこちらは跡形もなく消し飛ぶのだ、理不尽にも程がある。
となれば、やはり再度の激突は避けられるものではない。
この局面ではまだ温存しておきたかったが、そうも言っていられない相手と状況だ。

「投影、開始(トレース・オン)」

この手に顕れたのは白と黒、陰陽の双剣。
干将・莫邪。数多の名剣、宝剣を再現する衛宮士郎にとって最も手に馴染む主武装(メインウェポン)。
実を言えばこれまでの攻防で投影、使用した宝具はその全てがフェイク。

ワンポイントで効果を発揮することこそあれ衛宮士郎本来の戦い方に合致しきるものではない。
先ほど生み出した花弁の盾ですらその真価の数分の一も発揮していない。事実真名の解放はしていないのだから。

「気が狂ったかよ、テメェ」

駆ける。怒りと殺意を彩った顔をしたマスターへ正面から挑みかかる。
光条、原子崩し(メルトダウナー)が放たれ次の瞬間には衛宮士郎の存在を抹消する。

―――だが、そのようなことは百も承知。

「ふっ……!」

干将・莫邪を交差させ、万力を込めて光を切り裂かんとばかりに迫る蒼白の光を防ぐ。
砕け散る贋作。だがそれと引き換えにして衛宮士郎は真正面から、足を止めず、防具にも頼らずして原子崩しを破った。
女マスター、麦野沈利の眼が驚愕に見開かれる。何故先ほどまでより素人目にも格が落ちるとわかる剣で防がれるのか、理解できない。

秘密は干将・莫邪が持つ二つの特性にこそある。
一つは純粋な頑強さ。格上の宝具との打ち合いにも耐え抜く頑健さ、信頼性の高さだ。
そしてもう一つ、この双剣は二つ揃えで装備することによって対魔術・対物理防御をサーヴァントの能力に換算して一ランク分引き上げる概念を持つ。
守りに長けるこの性質こそ衛宮士郎の先にある英霊がこの双剣を愛用した所以に他ならない。



原子崩し(メルトダウナー)は防がれ、干将・莫邪は砕け散った。
さしもの麦野も瞬時には次弾を発射することはできず、士郎もまた無手。
この攻防は互いに手詰まり。数秒の後には白紙に戻る。

―――されど贋作者(フェイカー)の手には、既にその先が在る。

「凍結、解除(フリーズアウト)……!」

再び、双剣が両の手に握られる。
衛宮士郎にとって最も相性の良いこの剣は他の宝具と比較しても尚早く投影できる。
踏み込み、麦野沈利へと肉薄する。麦野もまた選択を迫られる。
恐らくあの双剣こそが眼前のいけ好かない男が最も信頼する武装であり本命。
であれば接近戦はこちらに不利。先のような義手と自らの身体能力を駆使したカウンターは既に一度見せた。
当然にして次はこちらの性能を把握した上で、こちらにとっては未知の攻撃が来る。取る手は一つしかない。

横薙ぎに振るわれる一閃。常人ならば胴体が泣き別れになるであろうが麦野は超人的な反応速度で辛うじてバックステップし回避。
さらに原子崩しをジェット噴射の要領で放射し高速移動。徹底的に距離を離した。

「今ので駄目か…!」

必殺の意図での奇襲。まさかそれがかすりすらもしないとは。
相手の手の内をまた一つ暴いたもののつくづく化け物だと思い知らされる。
これでは自分が“彼女の剣”を投影し使ったとて到底命中は望めまい。

まさしくサーヴァント級の反則存在。確実を期するならそれこそ彼女が必要だ。



「…思ってたよりは厄介な相手みたいね」

麦野は一瞬とはいえ自分に肉薄してみせた男―――恐らく魔術師―――に対する評価を改めた。
そこそこ強力な異能に自分には及ばずとも高い身体能力。そこらの能力者では相手にさえなりはすまい。
だが、真に警戒すべきはそんな表面的な事柄ではない、と思い知った。
あの眼だ。隙あらばこちらを喰らい尽くさんとする鷹の如き眼、戦術眼こそがあの男の真価であろう。
まことに業腹ではあるが、慢心は捨てなければならないらしい。
仮令こちらに九十九パーセントの勝機があろうとあれは残された一の機会を必ず手繰り寄せる。



「っ!?」

睨み合いになる中、士郎の眼球に光の槍らしきものに捉えられたアサシンの姿が映った。
レイラインを通してサーヴァントの置かれた危機的状況が士郎にも伝わったのだ。
あるいは強い絆、連帯感によって繋がっているからこその奇跡なのだろうか。
アサシン、彼女こそこの戦いの行方を左右すると睨んでいたが敵のサーヴァントの方が一歩上を行っていたというのか。
迷っている暇はない。今ここで令呪を切らなければ確実にアサシンは殺される。

「来い!アサシン!!」

赤く輝き弾け飛んだ令呪の一画と共に士郎の従者が現れた。
それを見た麦野は一切の迷いなく原子崩しを一直線上に並んだ士郎とアサシンに向けて放った。
先手を取ってサーヴァントを呼ばれた以上、動かれる前にマスターごと蒸発させるに限る。
どのみちアサシンはマスターを庇う他ないのだから、麦野にとっては何の損もない。

だがアサシンとてサーヴァントの一柱であり、手にした帝具・村雨は切れ味のみならず頑強さにも秀でた業物。
麦野ですら戦慄するほどの反応速度で村雨を振るい原子崩しの砲撃を断ち切った。

(ランサー!)
(状況はわかっているわよ。けれどこの私を呼びつけようだなんて思わないことね。
私が行くのではないわ。むしろ、あなたがそこから動くのよ)
(…何だと?)

ランサーが放った『運命射抜く神槍(スピア・ザ・グングニル)』は令呪による回避によって外されてしまった。
しかしその程度でこのレミリア・スカーレットから逃れられたと思われては困る。
こちらは未だアサシン主従をその射程に収めている。追撃は先ほどよりも容易いほどだ。



「士郎!まだ終わっていない、来るぞ!!」

切迫したアサシンの声一つで衛宮士郎は状況を把握した。
強化された視力によってランサーが原子崩しによって廃墟同然となった区域を更地にせんが如き弾幕を準備しているのを捉えた。
威力よりも手数と範囲を重視した、こちらを絶対に攻撃範囲外へと逃がさない構え。
自らのマスターさえ巻き込むことを辞さないとは、何たる暴挙か。



「あんの女(アマ)ァ……!!」

ランサーのマスターたる麦野もまた従者の意図を察し敵に対してよりも激しい怒りを燃やす。
マスターたる己をも巻き込む勢いで撃たれようとしている飽和射撃は、なるほど少しは麦野に配慮されたものではあるのだろう。
少なくとも今から全力疾走で逃げるか、許される最大出力での盾を展開すれば比較的弾幕の範囲の外側にいる麦野は助かる。
だが、逆に言えば宝具の使用に加え弾幕を張る分の魔力を容赦なく吸い上げられている中で全力を出さなければ逃げられもしないし防ぐこともできないのだ。
わかっていたことではあるし、麦野もまたランサーをそういった目で見ていることを否定はしないが。
ランサーは明らかにこの麦野沈利を代替の利く消耗品か何かとしか見ていない。

「チッ……!」

舌打ち一つ、即座に爆撃同然の被害を齎すであろう弾幕から、急速に生命力を吸われる身体に鞭打ち離脱を図る。
電子の盾で防いでやってもいいのだが、それで視界が遮られ状況が見えなくなるのはうまくない。



一方で、衛宮士郎とアサシンは既に王手(チェックメイト)を掛けられていた。
逃げ場なき飽和射撃。アサシンの俊敏さなら離脱は可能であろうがマスターを抱えながらではそれも無理な話だ。
それを理解しているからこそランサーは既に勝ちを確信している。やはり運命は自分に味方するのだと嗤う。
どんなに下手に転ぼうともランサーは絶対に損をしない圧倒的優勢。



―――だが知るがいい驕り高ぶる吸血鬼よ。
彼の者“達”が有するスキルは心眼・真。窮地を凌ぎ活路を見出す人の技。
圧倒的劣勢、絶対の窮地においてこそ彼“等”はその本領を見せるのだ。



「―――――I am the born of my sword(身体は剣で出来ている)」

投影による頭痛に堪えながら、衛宮士郎は狼狽することなく冷静に活路を見た。
この手に用意するのは先ほどはごく一部しか展開しなかった花弁の盾。
トロイア戦争において使われたとされる、彼が持てる宝具の中で最強の防御宝具である。

「―――――熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

真名解放。今こそ宝具が持つ本当の力が発揮され、七枚の花弁の如き大盾がその姿を現した。
通らない、通らない、通らない。ランサーの撃ち出した爆撃もかくやというほどの弾幕が悉く防がれる。
威力よりも範囲と手数に重きを置いたことが災いし、放った弾幕は一枚たりとも花弁を突破できない。

「何ですって……!?」

当然、その光景を見せつけられたランサーの心中は穏やかではいられない。
弾幕の濃い中心で受ければ麦野の電子の盾ですら受け止めきれないほどの苛烈な攻撃がサーヴァントですらない魔術師によって防がれる。
猛烈な殺意が湧いてくる。理解できてしまうからだ、一枚だけで城塞に比類するほどの花弁の盾は自らの宝具でさえも防ぎ得ると。


単純な個人戦力という点において衛宮士郎はレミリア・スカーレットの足元にすら及びはしない。
しかしこの世は全て相性。レミリアが得意とする弾幕はあらゆる投擲物に対して無敵を誇るという概念を帯びるアイアスに対しては絶望的に相性が悪い。
『運命射抜く神槍(スピア・ザ・グングニル)』ですらその相性差を覆すには一歩足りない。
この事実はランサーの心を激しく掻き乱した。

―――そう、故にランサーは致命となる見落としをした。




     ▼  ▲




果たして麦野沈利はランサーの攻撃範囲からの離脱に成功した。
激しい轟音と着弾によって生じる粉塵によって視界は悪いがランサーのことだ、上手くやっただろう―――とは確信しなかった。

(もしかしたら、あるいはって程度の可能性だけど)

アサシンと交戦していたランサーとは違い、麦野は士郎が出した盾を一度目にしている。
あんなものでランサーの苛烈な攻撃を防げるとは思わないが、万が一を警戒するに越したことはない。
もっともわざわざランサーに知らせてやる義理などどこにもないが。

(けどもしあの野郎がランサーの弾幕を防げるとしたら―――奴らはどう動く?)

そんな思考をした時、強烈なまでの悪寒が走った。
咄嗟に、背後に電子の盾を展開しつつ飛び退く。思考したが故の行動ではない、完全な直感だ。
俄仕立ての盾は容易く切断され、その勢いのまま刀が麦野の背中を掠め血が飛散した。
あろうことか、アサシンが主人を置いて麦野の背を狙ってきていたのだ。

愕然とする、確かにマスターがランサーの攻撃を防ぎアサシンがマスター殺しを目論むことは有り得るものと思っていた。
あのアサシンの速さを以ってすれば弾幕の範囲から離脱し気配を殺して自分を狙うことも不可能ではあるまい、と。
だが、そうだとしても即決に過ぎる。動きに淀みというものがなさすぎる。



衛宮士郎とアサシン・アカメ。
極めて珍しいことに、彼等は全く同一のスキルを全く同一のランクで保有していた。
この事実は元より強固な二人の連携をよりスムーズなものにしていた。
必要最低限の声掛け、念話、意思疎通のみで互いが互いに為すべきことを理解し動くことができる。
単純な性能において彼らは麦野沈利とランサーに及ばない。及ばないが一つの陣営(チーム)として見た場合、衛宮士郎とアサシンは麦野たちを圧倒する。

その理由は士郎たちの連携が上手いということもあるが、何より麦野とランサーの不和が大きかった。
彼女らの戦い方は完全に個と個の力を相手にぶつけるだけの、個人戦力頼みのゴリ押しに過ぎなかった。
互いに互いを嫌悪し合う二人には連携と呼べるほどのものはなく、それどころかこの僅かな間にすら相互不和に端を発するミスを何度も犯していた。


まずランサーは自らの力を過信し、麦野を軽んじるあまり即時にマスターの下へ駆けつけられない状況を自ら生み出した。
さらに麦野から魔力を吸い上げたことが原因で麦野の動きのキレが僅かに鈍りアサシンの奇襲を回避しきれず傷を負わされた。
麦野もランサーへの嫌悪から衛宮士郎が持つ盾の宝具の存在をわざと知らせなかった。
一つ一つは些細なミスであっても、積み重なればその代償を命で支払う羽目になる―――否、正確にはなった、と言うべきか。



「がっ―――!!?」

掠り傷を受けただけの筈の麦野が血反吐を吐き、地に倒れ這い蹲る。
アサシンの奇襲を完璧でこそないが掠り傷一つで躱してみせた、戦力的にはサーヴァントにも匹敵する少女。
されどアサシンの持つ帝具を前にしては掠り傷一つですらも文字通りの意味で命取りだった。
一斬必殺・村雨。この刀によって傷つけられた者は心臓を破壊する呪毒により死に至る。

(な……ん、で…だ………)

さらに、数多の標的をこの刀で斬った逸話からアカメが操る村雨の呪毒は彼女の生前にも増して強化されている。
あと二秒思考時間があれば真相に辿り着けたであろうが、強化された村雨の呪毒をまともに浴びた麦野の瞳には最期の瞬間まで理解の色が宿ることはなかった。



「なっ……!?沈利!?」

マスターの絶命によるレイラインの途絶は即座にランサーに伝わった。
ここに至り、ようやくランサーはアサシンが近くにいないことに気がついた。
自信を持っていた弾幕を魔術師によって防がれたことで怒り心頭になり、視野狭窄に陥っていたのだ。

「やってくれたわね……!」

嵌められた。王手を掛けていたつもりが、気づけばマスターを殺され自分が窮地に追いやられている。
生命線たるマスターを失えば単独行動のスキルすらも持たないランサーの力はたちまちのうちに数分の一未満にまで劣化する。
これでは到底、否、一切あのアサシンに対抗することは不可能だ。
血が出んばかりに歯噛みしながら、次のマスターを見つける望みにかけて逃走する他なかった。



(アサシン、上手くやってくれたみたいだな)
(ああ、ただ士郎。ランサーへの追撃はするだけ無駄だ。
あのサーヴァントは運命か因果律を改変する宝具かスキルを持っている。
下手に追撃すれば逆にこちらが痛手を受けるかもしれない)
(そうか……)

士郎とアサシンは合流するまでの時間も惜しいとばかりに念話を行っていた。
ランサーにとどめを刺さず逃がせばもしかすると再契約を許してしまうかもしれない。
そうなれば他のマスターに自分達の手の内の“一端”を知られることになるだろう。


もっともそうなったとしても、士郎とアサシンには取り得る手段、戦術は他にいくらでもある。
士郎が持つ千を越える武具も然ることながら、何となればアサシンに状況に応じて有効な宝具を使わせることもできる。
アカメは元より自分の武器に対して過度の誇りや拘りなどは持ち合わせていない。
達人は得物を選ばない、という言葉があるように大抵の武器は十分に扱えるし何なら素手でもある程度までは戦えるのだ。
村雨を警戒された場合に備えての対策も既に数十パターンにも渡って用意している。

しかしアサシン自身が味わったランサーの因果律を操る能力を考えれば追撃は悪手に転びかねない。
それならば他の陣営が弱体化したランサーを討ち取ってくれることに期待する方が良いだろう。
確率的に考えれば他のマスターと再契約するより前に他のサーヴァントに捕捉される可能性の方が遥かに高いのだから。
そう考えているうちに二人は合流し速やかに更地同然になった区域から離脱することにした。
これ以上この場所に留まっていても良いことは何一つない。

それにしても手強い主従だった、と士郎は思う。
理解も覚悟もしていたことだが、彼女らは明らかに自分達よりも格上の存在だった。
今回は相手のミスや慢心を突くことで勝ちを収められたがそうでなければ骸を晒しているのは自分達だったに違いない。
勝って兜の緒を締めよ、という言葉があるがまさにその通り。さらに気を引き締めなくては。

【B-1/路地裏(跡地)/1日目 午前】
【衛宮士郎@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[令呪] 二画
[状態] 疲労(中)、魔力消費(中)
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 数万円程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利する。手段は選ばない。
1:慎重に離脱し、一度休息を摂る

【アサシン(アカメ)@アカメが斬る!】
[状態] 健康
[装備] 『一斬必殺・村雨』
[道具] 『桐一文字(納刀中)』
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:勝利する
1:他の陣営に警戒しつつこの場を離れる



     ▼  ▲




ランサーは少しでも魔力消費を抑えるために霊体化しながら逃走していた。
今あのアサシン主従から追撃を受ければ拙いことになる。
宝具は当然だが運命操作のスキルすらマスターを失い著しく劣化した身ではまともに発動しない。
早急に次のマスターを見繕わなければ半日も経たずにこの身は消え去ってしまう。
聖杯への願いなどないがあの二人はこの手で消し去らねば気が済まない。

(覚えていなさい鼠ども。このままじゃ絶対に終わらせない……!)



けれど、ランサーは今こそ、もう少しだけ熟考するべきだった。
たった今、自分たちがどれほど大規模な破壊行為を行ったのか。
それが他の参加者にとって如何に目印になりやすかったか。そして誰かが戦闘を覗き見ていた可能性を。
そこに思い至っていれば今しばらくの延命も可能だったかもしれないというのに。



「――――――妄想心音(ザバーニーヤ)」



響く声、鋭い殺気、何よりも高まる魔力の波動。
何時の間にそこにいたのか、髑髏の仮面を着けたあからさまにアサシンと思しきサーヴァントが宝具を発動していた。
しまった、とランサーが気づいた時にはもう遅い。慌てて実体化を図るが徹底的に無駄、完全無欠に手遅れだ。

サーヴァントの霊体化は気配を抑え魔力消費も最低限度に抑える利便性の高い状態だ。
しかし、この霊体化状態も決して万能ではないしましてや無敵では有り得ない。
サーヴァントは仮初の肉体を実体化させてこそ現世に干渉することができる。
逆に霊体化したままでは純物理的な干渉を受けない代わりに霊的な干渉には全くの無力となる。
あらゆるスキル、宝具が意味を為さない無防備状態。それが霊体化の無視してはならない一側面なのである。

シャイターンの右腕が今まさに実体化を果たそうとしている途中のランサーに触れ、脈打つ心臓がその手に顕れる。
これこそレミリア・スカーレットの心臓。その二重存在(コピー)。
ランサーが完全な実体化を果たした瞬間、アサシンは迷わず右手に力を込め疑似心臓を握りつぶした。



「ア、ガハッ………!!」
「マスターが敗れたと見るや慌てて霊体となって逃げだすとは不用心なサーヴァントよな。
この聖杯戦争にアサシンが一騎しか残っていないなどと何時から錯覚していた?」



マスターの喪失に加え、サーヴァントの核を完膚なきまでに破壊された。
さらに今は太陽の出ている時間帯。これだけの条件が揃っては吸血鬼としての生命力と生き汚さを持つレミリアと言えど死を免れない。


アサシンが一騎、ハサン・サッバーハ。彼は衛宮士郎と麦野沈利、そしてアカメとレミリアの戦闘の一部始終を観察していたのだ。
そして麦野が死にランサーが逃げ出すや迷わず勝者の尻馬に乗り死に体のサーヴァントにとどめを刺す機会を伺うことにした。
仮令ランサーが霊体化しようともサーヴァントとしての気配を完全に断つことはできない。
加えハサンは諜報にかけてはアカメすらも上回る技能を有する。追跡は実に容易なことだった。
そうして宝具で以って仕留めるに十分な空間とポジションを確保し万全を期して呪殺したのだ。

末期の言葉を紡ぐことすらできないまま消滅していくランサーを見ながらハサンが思うのはランサーのマスターを斬った同業のサーヴァントのことだ。
見ただけで必殺の力を帯びているとわかる宝具の刀剣。あれこそは彼女の半身(シンボル)なのであろう。
あの少女は自分とは違い、名のある個人として歴史に足跡を残した暗殺者の英雄であったに相違ない。

「貴様がどのような願いで現界したかは知らぬが、私の悲願などはわからぬのだろうな」

認めよう。自分は彼女を羨んでいる、嫉妬すらしている。
とはいえ暗殺者のサーヴァントとしての本分を誤るわけにはいかない。
英霊未満のこの身ではあのアサシンを相手取ることすら至難の業。マスターを狙ってこその暗殺者。
今回自分がサーヴァントにとどめを刺したのはたまたま機会に恵まれたに過ぎない。
たった今完全な消滅を確認したあのランサーでさえ正面から戦えば自分など瞬殺できるほどの規模のサーヴァントなのだから。

「さて、由紀殿の様子を見に戻らねばな。何事も起こっていなければ良いのだが」


【麦野沈利@とある魔術の禁書目録 死亡】
【ランサー(レミリア・スカーレット)@東方Project 消滅】


【B-2/森林/1日目 午前】
【アサシン(ハサン・サッバーハ)@Fate/stay night】
[状態] 健康 、魔力消費(小)
[装備]
[道具] ダーク
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:由紀を守りつつ優勝を狙う
1:一度廃校に戻り由紀の様子を見る
2:アサシン(アカメ)に対して羨望と嫉妬
※B-1で起こった麦野たちによる大規模破壊と戦闘の一部始終を目撃しました。

※B-1エリアが壊滅的損害を受けました。


前の話 次の話
012:熱病加速都市 投下順 014:王の帰還
時系列順

BACK 登場キャラ NEXT
008:メルトダウン・ラヴァーズ 衛宮士郎 027:抽象風景
アサシン(アカメ)
麦野沈利 GAME OVER
ランサー(レミリア・スカーレット)
000:封神演義 アサシン(ハサン・サッバーハ) 018:狂乱する戦場(前編)

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