▼  ▼  ▼



───神は死んだ。神は死んだままだ。そして我々が神を殺したのだ。



   ▼  ▼  ▼

 神さまは月曜に世界を創った。
 無すらなかった場所に無と有ができた。

 神さまは火曜に整頓と渾沌を極めた。
 自由と不自由が定義され、根本的な方向性が決まった。

 神さまは水曜に細々とした数値を弄った。
 細かく、面倒な作業は素晴らしい多様性を生み出した。

 神さまは木曜に時間が流れるのを許した。
 値は爆発的に広まって原初のスープが出来上がった。

 神さまは金曜に世の隅々を見た。
 那由多の時が過ぎ去って、世界は理想的な広がりを見せた。神さまはその世界を愛した。

 神さまは土曜に休んだ。
 空間が光と共に百億も過ぎ去った。


 そして、神さまは日曜に世界を捨てた。


 それは何度も寝物語に聞かされた御伽噺だ。そして、世界はまさしく御伽噺のような悪夢に包まれた。
 神さまは人間に別れを告げ、打ち捨てられた世界は乱れに乱れて、人は生と死の権利を奪われて。
 死者は死なず、生者は生まれず、百億の絶叫が木霊した。
 世界は不死者で溢れかえった。ゼンマイが壊れても永遠に動き続ける人食い玩具(ハンプニーハンバート)、かつて人だったはずの成れの果てが地上に跋扈する。
 それが、末世の姿だった。

「私には夢があります」

 少女は現の夢を見る。
 綺麗で、途方もなくて、だからこそ尊い夢。
 それは、アイ・アスティンにとっての、何にも代えがたい輝き。

「私は、世界を救いたいんです」

 それは世界を捨てた神への反逆か。
 天国も地獄もなくなって、神が世界を見捨てて、それでも世界を終わらせないという誓い。

 聴衆である少女の従僕は、それを顰めた顔で聞いていた。

 これが現実を知らない子供の戯言や、詐欺師の詭弁であったならどれほど良かったことかと思う。
 しかしそうではない。少女は確かに子供であるが、しかし残酷な世界の姿を知らされていた。
 生と死が入り乱れ、あらゆる道徳が無に帰した世界の有り様を突きつけられた。

 知ってなお、少女はその夢を抱いている。

「まだ方法は分かりません。けど、いつか絶対に私は世界を救います。神さまが見捨てた世界を、私が譲り受けます」

 少女は世界の何たるかを知り、悲しみがあるのを知り、死があるのを知り。
 それでも、少女は明日を夢見ることを諦めてはいない。

 だからこそ。
 セイバーと呼ばれた従僕が返す言葉は決まっていた。


「───正気じゃない。狂ってるよ、お前」


   ▼  ▼  ▼



 生い茂る緑が日の光に照らされている。
 早朝、人が滅多に訪れない山中にて。新緑の静謐を破る音を断続的に響かせながら、二人の人間が存在した。

 一人は少女だ。現代の日本ではまず見られない、どこか遠き異国の服を纏う少女。
 少女は小さな腕に銀色のショベルを抱き、一心不乱に土を掘り返していた。ザクザク、ザクザク。年の割に妙に手慣れた様子で人間大の穴を掘り続ける。額に汗を浮かべながらも決して手を休めることはない。

 もう一人は男だ。まだ青年と言ってもいい。男はセイバーと呼ばれる、少女の従僕であった。
 恐ろしく整った顔立ちの男だった。年若い彼は木に背中を預け、何をするでもなく腕を組んでいる。
 少女の傍で、男は瞼を細める。透き通った色の瞳で、彼は突き抜けるような蒼の空を見つめていた。
 彼は視線を動かさず、しかし僅かに唇開いて、気のない風に呟いた。

「なあ。それ、本当に埋めるのか」

 問われたのは少女だ。ザクッ、と一際大きい音と共にショベルを土に突き刺して、ふぅと汗を一拭き。そうして、少女は男に振り返り答える。

「はい。私は墓守ですから」
「そうか。いや、ならそれでいいんだ。邪魔して悪かったな」

 それきり会話は途絶えた。元よりこの問答に確固たる意味はなく、男は何の気なしに尋ねただけなのだから、それは当然の帰結だった。
 そこに残されたのは、変わらず空を見つめる男と土を掘る少女。そして、硬質の刃が地面に突き立つ音だけだった。


 ◇ ◇ ◇


 人の近寄らない山間部、そこに彼らが赴いたのは、サーヴァント同士の闘争の気配があるとセイバーが言ったためだ。
 普段を過ごしていた公園を離れ、道なりに山の中へと分け入る。ハイキングコースから少し外れた奥のほう、路肩に放置されたバイクを横目に突き進む。

 しかし、できるだけ急いできたつもりだったが、彼らが着いた時には全てが終わっていた。
 そこには破壊の痕跡だけがあった。争っていたのは都合二騎のサーヴァントか、互いのマスターは既に冷たい骸を晒していて。消え損なっていた一騎のサーヴァントがポツンと一人佇んでいた。
 黒い槍と鎧を持ったそのサーヴァントは、こちらの姿を確認すると消えかかった体を厭うこともせず、問答の余地もなく襲ってきた。「死ね」という怨嗟の声と、聞く人をそれだけで殺せてしまうような雄たけびを上げて。真っ直ぐに、掻き消えるような速度で少女に槍を突き立てんと迫る。
 けれど。

「お前が死ね」

 そんな短い言葉と共に、槍持つ鎧のサーヴァントはセイバーに斬り捨てられた。本当は怖がるべきかもしれないけど、あまりにもあっさりと終わりすぎて驚いたり怖がったりする暇もなかった。

 そうして、今度こそ二人以外の誰もがいなくなった。



「……よし、これで終わりです」

 日が山向こうへ沈みかけたころ、アイは誰に言うでもなく声を上げる。
 アイが飛び出たそこには、都合4つの穴が掘られていた。人間がすっぽりと入ってしまいそうな、大きな穴。
 それは、アイが用意した彼らの墓穴だった。

「時間がないので簡単にしか掘れませんでしたが……それでも、せめて安らかに眠ってください」

 アイは倒れる二人分の死体を運び、言う。死体を墓穴に収め、掘り返した土を再び被せた。それは、墓守としてのせめてもの手向けだった。
 彼らを埋めるのに、そう時間はかからなかった。大柄な男と若い女の死体は子供には重たすぎるが、墓守のアイにとっては苦でもない。サーヴァントは死体も所持品も残らないから何も埋めることができなかったが、それは気持ちの問題と言えるだろう。この形ばかりの埋葬は、死後の安息を願うものであるが故に。
 二人のマスターと二騎のサーヴァントを埋葬して、アイは膝をつき静かに祈りを捧げる。抜けるような青空の下、木々のざわめきだけが反響していた。
 そうして、葬儀は終わった。

「……もういいのか?」

 長い沈黙の末にセイバーが聞く。風も少し弱まり、葉の擦れあう音も小さくなっていた。
 アイは立ち上がり、土を払ってショベルを担ぎ、毅然とした表情で答える。

「はい。私にできることは全部終わりました。
 行きましょう、セイバーさん」

 了解、とだけ答えるセイバーと二人で、先ほど来た道を引き返す。獣道を抜け車道に出ると、そこには変わらずバイクが放置されていた。
 恐らく死亡したどちらかのマスターの所有物か。何も言わないアイとは裏腹にセイバーは遠慮なく近寄ると、ハンドルに手をかける。

「……セイバーさん、もしかして盗むつもりですか?」
「ここに置いてても仕方ないだろ。どうせあいつらにはもう必要ないもんだ」

 不満そうに眉根を寄せるアイに対し、セイバーはどこまでも淡々としていた。いつの間にくすねたやら右手にバイクの鍵と思わしきものを携えて、エンジンに無造作に突き刺す。
 果たしてそれはピタリと嵌った。やっぱあいつらのだったか、などと嘯くセイバーを後目に、アイは変わらず不満そうな顔を向ける。

「……別に好きで盗んでるわけじゃないぞ。ただお前、ここじゃ戸籍も金もない孤児だろ。使えるもんは全部使っていかないと聖杯だなんだの前にぶっ倒れかねないわけだし」

 微妙に目を逸らすセイバーに、アイは何か諦めたような溜息をつく。

「その言い分だと鍵の他にも色々盗んでるみたいですね。セイバーさんはもう少し良識のある人だと思ってました」

 でもまあ仕方ないです、などと嘯きながらバイクに跨るセイバーの後ろに座ると、アイは無言で腰に手を回した。

「ところでセイバーさん。あの人たちは、聖杯に何を願うつもりだったんでしょうか」
「……さあな。世界平和でも願うつもりだったりしてな」

 あの人たちとは先ほどのマスターか。死んだのだから今さら知ることなどできはしないと、セイバーはあくまで冗談めかした口調で答える。
 それに、アイはどこまでも真面目に言葉を返した。

「そうかもしれませんね。なら私は、彼らの願いを受け継ぎます」

 皮肉ではなかった。アイは心底から言い放つ。それを聞いたセイバーは端正な顔を歪に顰めた。

「なので、私はあの人たちの正統な後継者と言えるかもしれませんね」
「……好きなように思えよ。お前の考えにはついてけねえ」

 アイが融通を聞かせてくれたのだということはセイバーにも分かっていた。会話が終わると同時にギアを入れアクセルを回す。
 小さな排気音と共に、夕暮れの山道を一台のバイクが駆けて行った。


   ▼  ▼  ▼


 アイがこの街にやってきてから、もう何日もの時間が過ぎようとしていた。
 気付いた時には、既にアイはこの見知らぬ街を知覚していた。右も左も分からず、見たこともない大勢の人に囲まれて。
 それでも、なぜ自分がここに来てしまったかは自ずと理解することができる。

 ───私が、願ってしまったから、ですね。

 偽りの村の秘密の中で育てられ、贈り物と溺愛の中に深く溺れ、不明と未熟の中で時を重ね。
 そうして仮初の墓守となり、最後には一人の男の手で全てが壊されて。
 真実を追い求めた果てに、たった一人の父親をこの手で埋葬して。
 そして、願ったのだ。

 ───私は、忘れません。

 父を、母を。夕暮れに染まる村を、優しい人々の声を。
 それらを全部背負って墓守になるのだと、彼女は願ったから。


 そうして。
 そうして、アイはここにいた。
 三方を山に囲まれ、一方が海に面した古都。生まれて以来一度も目にしたことのないような大都市に、アイは願いを以て招かれた。

「海がとても綺麗ですねー」

 前髪を風に揺らし、沈む夕日を目に焼き付ける。
 アイがいたのは海沿いの道路だ。延々と続く浜に沿った道路をセイバーの駆るバイクに乗って走る。
 金が入ったから今夜からは素泊まりの宿くらいには泊まれるだろ、とはセイバーの言だ。流石にいつまでも公園暮らしは駄目だろうと部屋の空いている宿を探しているのは、彼なりに気を使った結果である。

「危ないからあんま余所見すんなよ。そもそも海なんてそんな珍しいもんでもないだろ」
「そんなことないですよ。私の育った村は谷間にありましたから、ここに来るまで見たことなかったんです」

 ふわぁと尚も感嘆の声を上げるアイに、セイバーは「へえ」とだけ答えた。
 が、どうにもアイにはそれが気に食わなかったらしい。彼女としてはこの感動を分かち合いたかったようだが、セイバーにとっては真実見飽きたものなので今さら感動の念など覚えるはずもなかった。

「ちょっと素っ気なさすぎじゃないですかセイバーさん。少しくらい私の話も真剣に聞いてください。まるで私のお父様みたいです」
「俺はお前の父親じゃないからな。そういうのは門外漢だ」

 むすっと膨れるのが背中越しにも伝わった。ああこれは面倒だなと、セイバーは嫌々ながらもマスターの少女に問いかけた。

「……分かった分かった。少しはお前の話も聞いてやるから。で、お前の親父の話だっけ?」
「違います。でもまあ、お父様の話もしたいのでそれでもいいです」

 アイの機嫌は多少治ったようだ。むふーと鼻息が荒くなっているのが気配で分かる。

「何の因果か聖杯戦争というものに巻き込まれてしまったわけですが、実のところ暴力というものには少々慣れていたんです。流石に戦争なんてしたことはないですけど、暴力を交渉手段だと思ってた人と一緒にいたことがあるので。ちょっとなら耐えられます」
「ふーん」
「ちなみにその人がお父様です」

 どうしようもないな。喉元まで出かかった言葉を引っ込めた。振り返ってみれば俺や香澄の親父も碌でもない奴らだったし、どこもそういうものなのかもしれない。

「で、そんな親父にお前は育てられたわけか」
「いいえ、そうではありません。私を育ててくれたのはお母様と村のみなさんです」

 それは先ほど話題に挙がった谷間の村か。海を見たことがないと言っていたし、どうやら生粋の田舎娘ということらしい。

「とても優しい人たちでした。もうその村はありませんけど、私はずっと忘れないようにしなければなりません」
「……そうか」
「ちなみにその村を壊滅させたのもお父様です」

 本当に碌でもないなお前の親父。

「ところで、セイバーさんって私のお父様とよく似てるんですよね」
「おい」

 とうとう突っ込んでしまった。自分が人でなしなのは重々承知しているが、それでも面と向かって言われると心に来る。

「見た目と年が合ってなくて、綺麗なお顔なのに口は悪くて、変なところで不器用で。
 意固地で、中々本当の感情を見せてくれなくて。あと口より先に手が出たり、ガラが悪かったり」

 追い打ちかよ、というか途中からただの悪口になってないかお前。
 そう言い返そうとして。

「……私のこと、邪見にしてでも止めようとしてくれたり。生者と死者とか、現実と幻想とかをきっちり分けて考えてたり。死んでも生きてる人を絶対に認めてないところとか。とてもよく似ています」

 動かそうとした口が、ピタリと止まる。

「だから分かるんです。セイバーさんの願いって、死んじゃうこと……ですよね」
「……」

 今度こそ無言になる。それは意図してのものではなく、心底言葉を返せなかった故に。
 セイバーは日常を愛している。普通を、平穏を、そして人間を。だからこそ、彼は死者の生を許さない。

 アイは思い返す。
 初めてセイバーを召喚した時、彼が自嘲の笑みを零したことをアイは知っていた。それはかつて見た苦い笑顔によく似ていて、故にアイは直感したのだ。


 ───この人は、お父様と同じだ。


 だからこそ、セイバーがこうして自分と共にいるということ自体が、彼にとってどれほど屈辱的なものなのか痛いほどに理解できた。生死人に成り果てた己自身を、彼は最も憎んでいるはずで。
 それは、夢を通じてセイバーの人生を垣間見たことで、より大きな確信となった。
 死を想え、愛に狂うな、失ったものは戻らない───そんな凶念で地獄(グラズヘイム)を遠ざけた彼が、どうしても白髪の父の姿と重なってしまう。

「セイバーさんは生き返りたくなんかなくて、でも私が来ちゃったから無理やり起こされて。
 私、誰かを助けたいって思ってたのに。でも、ここに来てからセイバーさんに助けられてばかりで。
 ───私はもう、救われる側(・・・・・)じゃなかったはずなのに!」

 知らぬ間に声を荒げてしまう。セイバーの背に頭を打ち付け、泣きはらすかのように目を瞑って。
 それはセイバーを召喚した日からずっと続いていた感情だ。誰かを救うと決意した自分が、しかし誰より自分の傍に在るはずのサーヴァントに屈辱を強制しているという事実。それがずっと、心のどこかで暗く濁っていた。

「そうかよ」

 返答は冷たいものだった。セイバーが言ったのはそれだけで、そこには何の感情も含まれていないように感じた。

「で、言いたいことはそれだけか?」
「……はい」

 会話が途切れる。アイは黙してそれ以上は何も言おうとせず、セイバーは相変わらずの仏頂面だ。
 前方はちょうど赤信号で、バイクの速度が緩み徐々に静止状態へと移行する。

 そんな中、セイバーが半身だけ振り返り。
 ―――軽く肘鉄を頭に食らった。

「つぅ~~~~~!?」
「この馬鹿が。お前はどこまで周りしか見てないんだ」

 肘の一撃をお見舞いすると、セイバーはさっさと前へと向き直った。後ろで悶絶しているアイのことはお構いなしだ。

「俺は生きてる奴のことしか勘定に入れない。だから死んでる俺のことなんざ二の次三の次でしかないし、正直今はどうでもいい。
 まあ、なんだ。つまりあれだ、お前が悔やむ必要なんてどこにもないんだ」
「……セイバーさん?」

 ぽけっとした声が聞こえる。言葉の意味を理解しているのかどうか、どうにも怪しいものだとセイバーは思った。
 アイに言った言葉は偽らざる本心だった。自分と違いまだ生きている少女のことを、セイバーは最優先事項として思考している。
 本来ならば死人の自分が蘇ったところで、即座に首を掻き切るなりして土に還るつもりではあった。しかしこの聖杯戦争においては、自分のような死者がいなければ魔術師でもないアイのようなマスターはまず生きて帰れない。
 それをみすみす看過することは、流石のセイバーにもできなくて。

「俺のことは気にするな。だからお前は、まず自分が助かることだけを考えてろ」

 故にこそ、アイにはまず何より自分を第一として考えて欲しいと告げる。そのようにしなければ、きっと全てが半端な片手落ちになってしまうから。

 前方の信号が青になる。アクセルを回し緩やかに走り出したところで、背後の少女の笑い声が聞こえてきた。


「……えへへ」
「なんだよ、いきなり気色悪い声出して」
「なんだかいつもよりセイバーさんが優しいです。えへへー」

 にやにやと、くすくすと、そんなふうに笑っているのが背中越しにもよく分かる。
 ……見えてはいないけど。なんとなく、むかつく笑顔だと思った。

「……飛ばすぞ。しっかり掴まってろよ」
「へ? なんですかいきな───わわわわ!」

 突如としてバイクの速度が急上昇した。今までの安全運転から2倍ほどの速度まで加減なしでの急加速。当然法定速度などぶっちぎっている。

「ななななな、なにするんですか! セイバーさんは馬鹿なんですか! 馬鹿ですよね! いきなり酷すぎるんじゃないですか!?」
「時間食ったから急いでんだよ。つーか喋るな、舌噛むだろ」
「いやーーー!」

 カーブに差し掛かり角の深いバンクを披露、同時に地面スレスレまで体が近づいたアイが絶叫を上げる。

「きゃーー! きゃーー! ぎゃーーー!」
「……おかしいな、俺は司狼に乗せてもらった時結構面白かったんだが」
「あなたと一緒にしないでください! それよりほんとに危な───」
「危ないわけないだろ。こちとら騎乗スキル持ちだ」
「それって確か申し訳程度でしたよね!?」

 バイクはなおも走り続ける。鎌倉の街に、少女の悲鳴が木霊した。


   ▼  ▼  ▼


 この少女は危うい、それは召喚されてすぐに悟った。
 サーヴァントとマスターは夢を通じて互いの記憶を一部だけ追体験することがあるというが、彼らはまさしくそれを経験していた。だからこそ、それは大きな確信となってセイバーの胸に去来する。

 ───人を救うあいつは、そんな自分は救われちゃ駄目だと本気で考えていやがる。

 パスを通じて垣間見たのは、少女のどうしようもない渇望だ。
 世界を救う者が世界に救われてはならない。何という歪な在り方か。
 それは、まるで呪いだ。
 だからセイバーは言ったのだ。お前の願いは狂っていると。
 その言葉を受けてもなお、アイは笑顔のままだった。

『壊れていても、狂っていても、それが私の夢なんです』
『諦めるまで、諦めません』

 その先に待つのは地獄だ。そのことをセイバーはよく知っている。
 夢破れて諦めるか、悪意持つ他者に食い物にされるか、道半ばで死ぬか。それだけならばまだいい。決して幸福ではないが、まだ人として救いがある。
 けれど、その渇望を極限まで高め、仮に願いが叶って(・・・)しまったら。

 そこには人としての幸福も救済もありはしない。神という名の化け物に成り果てる未来だけが待っている。

 アイの願いとはまさしくそれだ。人ではなく神にでもならなければ、到底叶わないような願い。それを心底に美しいなどと、セイバーにはとても思えなかった。
 人は決して幻想になれない。生きる場所の何を飲み、何を喰らおうと足りない。けれどそれで良し。そう思えない生物は、そもそも生まれてくること自体が過ちなのだから。

 ───だが、それでも。

 それでも。
 例え諦めることを諦め、百億の憎悪に貫かれても。願わくば、人として真っ当な一生を、と。
 物言わぬ死者であるはずの彼は、ただそれだけのために仮初の生の中で無様を晒すのだった。


【クラス】
セイバー

【真名】
藤井蓮@Dies Irae-Amantes amentes-

【ステータス】
筋力C 耐久B+ 敏捷A 魔力A+ 幸運D 宝具A+

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。

騎乗:E
騎乗の才能。大抵の乗り物なら何とか乗りこなせる。
セイバーは騎乗に関する逸話が皆無であるため最低限のランクとなっている。

【保有スキル】
エイヴィヒカイト:A
永劫破壊とも呼ばれる、人の魂を糧に強大な力を得る超人錬成法。セイバーはそのエイヴィヒカイトにより魔人となっている。
本来ならばこの存在を殺せるのは聖遺物の攻撃のみだが聖杯戦争では宝具となっており、彼を殺すには宝具の一撃が必要となる。
また、喰らった魂の数と質に比例した命の再生能力と肉体強化の効果があるが制限されており、魔力消費を伴う超再生・魔力放出としてスキルに反映された。
Aランクに達すると己の渇望で世界を創造する域となっている。

戦闘続行:B
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

仕切り直し:B
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。
黄金の獣が支配する牙城から逃げおおせた逸話が昇華したもの。

神殺し:EX
神性スキルを持つ者に対し、有利に行動できる戦闘スキル。
戦闘中におけるあらゆる判定で有利となり、攻撃が命中した場合に追加のダメージを与える。このスキルは相手の神性ランクが高いほど効力を増す。
覇道の神格たる水銀の蛇を滅殺した逸話が昇華したもの。

【宝具】
『戦雷の聖剣(スルーズ・ワルキューレ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
エイヴィヒカイトの第二位階「形成」に届いた者にしか具現化出来ない。神話の戦乙女の剣を模した細身の宝剣であり、フリードリヒ三世の宝物として厳重に保管されていたため、信仰によって聖遺物の領域へ達した。

『超越する人の理(ツァラトゥストラ・ユーヴァーメンシュ)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1
水銀の蛇により用意された神の代行者であり、エイヴィヒカイトの唯一にして真の後継者。セイバー自身が生きた聖遺物であり、彼の肉体そのものが宝具となっている。
セイバーは自身の創造主によりあらゆる聖遺物を行使できる権能が付与されている。故にセイバーはこの宝具のランク以下のあらゆる宝具を手にした場合には十全に扱うことが可能となっている。ただし、サーヴァントそのものが宝具であったり、実体が存在しない宝具に関してはその限りではない。

『死想清浄・諧謔(アインファウスト・スケルツォ)』
ランク:A+ 種別:結界宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000
エイヴィヒカイトの第三位階、自身の渇望の具現たる「創造」能力。
元となった渇望は「死者の生を認めない」。発現した能力は「死者・不死者などの【生者ではない存在】を消滅・弱体化させること」。ここでの死者には当然サーヴァントそのものも該当する。
レンジ内に存在するあらゆる死者に適用され、ステータスやスキルの効力が低下し継続ダメージを受ける。低下の度合いやダメージ量は例えば死徒のように死者としての属性が強いほど増していく。
ただし、この宝具を使用するセイバー自身もまた彼の忌避する生ける死者であるため、この宝具の展開中は常に肉体が自壊していく。また死者の生を否定するという法則故にこの宝具の範囲内で死亡した場合はあらゆる蘇生手段が無効化される。
この宝具は逆に言えば真っ当な生者に対しては何の効果も発揮しない。多くのマスターや、生きたままサーヴァントになったような例外存在には無害と言えるだろう。

【weapon】
戦雷の聖剣(スルーズ・ワルキューレ)

【人物背景】
Dies Iraeの主人公。その実態は人間ではなく、とある超越者によって創造された「生きた聖遺物」。
基本的には争いや揉め事を厄介がる平和主義者だが、彼の場合は常軌を逸しており何も変わらない日常を永遠に過ごしたいというちょっと頭がおかしい思想を持つ。
「失ったものはもう二度と戻らない」「失って戻ってくるものに価値はない」など独特の価値観を持ち、それは宝具たる創造の発現にも関わっている。
今回の彼は螢ルート終了後から参戦。神格となってメルクリウスを殺害した逸話こそ持つものの、状態としては神格となる前で固定されている。
ちなみにこのルートだと剣技の腕前は櫻井戒と同等レベルまで上達しているらしい。

【サーヴァントとしての願い】
彼は死者の願いを聞き入れない。そしてそれは、当然ながら自分自身にも適用される。
同時に彼は生者のことのみを考える。故に、アイを元の世界に送り返すまでは無様を晒すつもりでいる。



【マスター】
アイ・アスティン@神さまのいない日曜日

【マスターとしての願い】
善も悪も関係なく、彼女は世界とそこに生きる人々を救いたいと願う。その方法はまだわからないが、それでもやり遂げると誓っている。
彼女は未だ、自身の助けを必要としない人々がいることや、自身の考える救いが万人にとっての救いにはなり得ないことを知らない。

【weapon】
  • ショベル
墓守である母親の形見。これ自体は紋のついた銀製のショベルでしかないが、墓守に使われ続けたことにより「埋葬」に特化した概念武装となっている。

【能力・技能】
墓守と人間のハーフであるため、銃弾を見切るなど身体能力は非常に高い。ただし戦いの心得は皆無であるため達人にはフルボッコにされる。
その特殊な出自故にある程度の魔力を保有する。
また、生きた死者を「埋葬」することにより完全に死なせることが可能。

【人物背景】
人間の父と墓守の母から生まれたハーフの少女。生者と死者・人と化け物などの境目というものを認識せず、相手が何者であろうとも平然と付き合える。
元々は死者の村であるネクロポリスで暮らしていたが、ある日突然その日常は破壊され、否応なく世界の真実を突きつけられる。
その果てに死者を否定した父を自らの手で埋葬し、彼女は自分の夢を持った。天国を作り上げた母と、地獄を遠ざけた父を継ぎ、世界を救うという途方もない夢を。

―――彼女の夢は呪いであり、同時に狂気にも等しい。仮に生まれる世界が違っていれば。その渇望を神域にまで押し上げることも可能であったかもしれない。

基本的には年齢相応の少女だが、周りを嘘で囲まれて育ってきたがために虚偽に対しては非常に敏感。
年齢は12歳。原作1巻が終わった直後からの参戦。

【方針】
自身の夢に従い、聖杯のために他者を殺すつもりはない。基本的に脱出狙いだが、できるならば聖杯戦争に関わる人たちを助けたい。



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