――――綺麗な月の光が、始まりへと沈みゆく。


 ◆

第四次聖杯戦争における、『聖杯の器』という役割を持って生み出されたホムンクルス。
冬の聖女ユスティーツァの後継機。
究極のホムンクルスのプロトタイプ。
この世に仮初めの生を受ける前から、あらゆる改造を加えられ調整された、人間の紛い物。
それが、アイリスフィール・フォン・アインツベルンという人物の全てだった。
腕の立つ魔術師と同じかそれ以上の力を宿していながら、やはりその機能は所詮贋物のそれでしかない。
寿命は人間よりもはるかに短く。
聖杯戦争の為だけに製造され――聖杯の降臨と共に消費される、ただそれだけの存在。

……そう、思っていた。
あの日、自分の伴侶となる男と出会うまでは。
アイリスフィールは追憶する。
誰よりも優しいが故に、誰よりも世界に絶望していた彼。

彼との出会いが、自分の運命を変えた。
いや、本質的にはきっと、何も変わってなどいなかったのだろう。
事実アイリスフィール・フォン・アインツベルンは、予定通りに聖杯の器として生涯を全うした。
信じる夫の夢が遂げられるのを信じて、仮初めの生を終えた。

衛宮切嗣――アイリスフィールの夫であるその男は、かつて世界の救済という望みを持って聖杯戦争へと参じた。
切嗣は最優と呼ばれるセイバーのサーヴァントの中でも、紛れもなく最強のカードであろう騎士の王を召喚。
しかし、英雄という存在を疎む彼と気高き騎士王の道は決して相容れるものではなかった。
セイバーは切嗣を外道と断じ、切嗣もまたセイバーの言葉へ耳を傾けず、奇策謀術・卑怯卑劣を尽くして戦い続けた。
そんな彼らの聖杯戦争が果たして如何なる結末に終わったのか、アイリスフィールは知らない。
だが、今の自分がどういう状況に置かれているかは確りと理解していた。

右手の甲に刻みつけられた、三画の令呪。
これの存在が意味する所を、アイリスフィールはよく知っている。
人智を超えた存在・サーヴァントに対してマスターが行使できる、たった三度の絶対命令権限。
そしてこれが顕れているということは即ち――聖杯戦争の参加者として、正式に選ばれたことを意味していた。
もっとも、『これ』が正式な聖杯戦争であるかどうかは、甚だ疑わしいものがあったが。

一度確かに生命活動を終えた筈の自分が、まるで何事もなかったように黄泉返りを果たしている事実。
何か裏がある。そう察するのに時間はかからなかった。
しかし、察せたからと言って対抗策が存在するわけでもない。 
アイリスフィールに出来ることは、自身のサーヴァントと一緒に聖杯戦争を戦い抜くことのみだった。

「それにしても――可愛らしい英霊さんとは随分縁があるみたいね」
「う……からかわないでよ、マスター」

苦笑気味にアイリスフィールが呟くと、彼女の隣に侍っていた少女が照れたように唇を尖らせる。
その姿がますます英雄らしくなくて、またアイリスフィールは思わず笑ってしまった。
この、ともすれば以前の騎士王よりもずっと英雄らしからぬ人物が、彼女のサーヴァント。
奇しくもクラスは前と同じセイバー。
ステータスは流石にやや見劣りしているが、それでも歴戦の英傑達と鉾を交えるには充分な域に達している。

だが、初めに彼女と話した時――正しくはその出自を聞いた時。
アイリスフィールはひどく驚かされたのを覚えている。
なんと彼女が生きていた時代は2026年……自分にとって未来の時代から召喚された英霊だという。
アルヴヘイム・オンラインなるゲームで名を馳せたことくらいしか、召喚される心当たりはないと語った彼女。
その話を耳にして、アイリスフィールは今回の聖杯戦争がやはり異常なのだと再実感した。
ゲームで名を挙げて聖杯に選ばれたサーヴァントなど、掟破りもいいところだろう。

「けれどセイバー、貴女は本当にいいの?」
「何が?」
「聖杯は要らない……って話よ」
「ああ、うん。――いいんだ。ボクはもう、十分幸せになったからね」

そう言って、セイバーはどこか儚げに微笑んでみせる。
彼女は最初に言った。
ボクに、聖杯に託す願い事はない。
だから聖杯の力は、全部マスターが使って構わない……と。

「心残りというか、こうすればよかった、ってコトがないわけじゃないけど。
でも……聖杯を使ってそれを遂げるのは、ちょっとズルいと思うから。
だから、ボクは聖杯はいらない。マスターの願い事を叶えるために使ってほしい。
――もちろん召喚されたからにはちゃんと戦うから、そこは安心してね?」

「ふふ、言われなくてもわかってるわ……――ねえ、セイバー」 

「?」

「貴女――幸せだったのね。とっても」

聖杯戦争に参加する英霊のほとんどは、報われないままその生涯を終えた者ばかりだ。
だから、この少女のように幸せそうに笑える存在は稀有である。
心残りも後悔も人並みにある。それでも、聖杯を使うまでもなく、彼女の人生は完成されているのだ。
嫌味や皮肉の調は全くない、心からその人生を祝福し労う台詞。
それを聞いて一瞬、セイバーのサーヴァントはきょとんとした表情を浮かべたが……すぐに、柔和な笑顔を浮かべる。
そして――本当に幸せそうな表情で、答えを口にした。

「うんっ。――――ボクは、幸せだったよ。とっても!」

【絶剣】――ここに再臨。
アルヴヘイムを抜け出て、闇の満つる鎌倉を剣士が駆ける。


【クラス】セイバー
【真名】ユウキ@ソードアート・オンライン

【人物背景】
「マザーズ・ロザリオ」編におけるヒロイン。一人称は「ボク」。
ALO(アルヴヘイム・オンライン)において「絶剣(ぜっけん)」と呼ばれ圧倒的な強さを誇るプレイヤーで、二刀を使わなかったとはいえキリトを2度倒した唯一の人物。現実では15歳の少女。種族はインプで、使用武器は極細の片手直剣。その圧倒的戦闘力はアスナらに「SAO生還者」ではと疑問を持たれたほど。
出生時に輸血用血液製剤からHIVに感染し、15年間闘病を続けてきた。
両親と双子の姉はAIDSによりすでに他界しており、天涯孤独の身。薬の服用を続けながら通学し、小学校においては常にトップクラスの成績を維持し続けたが、HIVキャリアであることがリークされ転校を余儀なくされた。

その後AIDSの発症により入院、医療用VRマシンであるメディキュボイドの被験者になり、それ以来3年間を仮想世界で過ごしてきた。ALOでの異常なまでの戦闘力は、長期間の医療目的ダイブに由来している。
「スリーピング・ナイツ」のメンバーで、姉の死後リーダーを引き継ぐ。
自身が作ったOSSを賭けて辻デュエルをしていた際、キリトを破ったことに興味を持って対戦を挑んできたアスナと出会いその強さを認め、最後の思い出作りのためのボス攻略戦の助っ人を依頼した。
ボス攻略を果たした後、アスナに姉の面影を重ねて見てしまい、ALOから姿を消す。
病院を訪ねてきたアスナに「学校に行きたい」という願いを吐露し、和人らが作った視聴覚双方向通信プローブを利用してアスナと共に学校へと通う。キリトに対しては自分の出自を見破ったためか微妙に訝しんでいたが、プローブを提供されたためか打ち解けており、明日奈が理解できないレベルの討論を交わしている。
その一方で「スリーピング・ナイツ」のみによるアインクラッド第29層攻略に貢献し、統一デュエル・トーナメントでは決勝戦で再びキリトを破り優勝。
アスナたちと京都旅行を楽しんだが、2026年3月末に容体が急変、駆けつけたアスナに自身が編み出した11連撃のOSS「マザーズ・ロザリオ」を託して遂に力尽き、最期は「スリーピング・ナイツ」や彼女と接した多くのプレイヤーに看守られながら、アスナの腕の中で静かに息を引き取った。
彼女の葬儀には明日奈をはじめ、100人を超えるALOプレイヤーが参列した。


【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷A+ 魔力B 幸運C 宝具B

【属性】
秩序・善

【クラススキル】

対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:E
騎乗の才能。大抵の乗り物なら何とか乗りこなせる。

【保有スキル】

直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を』感じ取る』能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。

瞬間判断:A
戦闘時、瞬間的な判断によって先制判定に補正を獲得する。
『直感』スキルと組み合わせることで、感じ取った最適な展開をそのまま手繰り寄せる戦い方が可能。

ソードスキル:A
アルヴヘイム・オンラインのゲーム内で使用できる技能の総称。
サーヴァントとして召喚されたユウキは、かつてのゲーム内のようにこれを使用できる。

【宝具】

『刹那引き裂く十一連撃(マザーズ・ロザリオ)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大捕捉:1人
『アルヴヘイム・オンライン』で《絶剣》と称されたユウキが編み出した片手剣のオリジナル・ソードスキル。
十字を描くように神速の十連続突きを放ち、フィニッシュとして十字の交差点に一番強烈な十一撃目の突きを放つ。
オリジナル・ソードスキルとしては前人未到の十一連撃技であり、歴戦の戦士であるアスナをしても防ぎきれなかった。


【weapon】

【サーヴァントとしての願い】
サーヴァント一個人としての願いはない。
自分は既に報われたまま生涯を終えた為、アイリスフィールへ聖杯を献上するために戦う。

【基本戦術、方針、運用法】
本人の気質上、卑怯卑劣な方策や不意討ちによる戦果は期待できない。
正々堂々の真っ向勝負を行うのが最もこのサーヴァントがポテンシャルを発揮できる戦い方といえる。


【マスター】アイリスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/Zero
【マスターとしての願い】切嗣の願いと同じく、恒久的世界平和。
【weapon】なし
【能力・技能】ホムンクルスとしての優れた魔術。

【人物背景】
アインツベルンの手により第四次聖杯降霊儀式の聖杯の「器」として錬成されたホムンクルス。「冬の聖女」ユスティーツァの後継機にあたり、また究極のホムンクルスの母胎となるべく設計されたプロトタイプでもある。
精霊に近い存在である上、誕生前から様々な調整を加えられており、魔術師としての能力は高い。
切嗣がアインツベルンに入るのとほぼ同時期に練成された。切嗣を夫として迎え、一児を儲ける。
聖杯戦争では切嗣の代理でセイバーとともに冬木市に入り、表向きのマスターとして囮役となる。

【方針】セイバーと共に聖杯戦争を勝ち進む――が、今回の聖杯戦争にどこか異質なものを感じてもいる。

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