闇のように暗い路地裏に桃髪の少女が座り込んでいた。
少女は誰が見ても重篤と判断するほど傷つき、血に塗れ、左腕に至ってはへし折れ靭帯も損傷している有り様だった。
昨今浅野新市長の下行われている浮浪者狩りに駆り出されている市職員が彼女を見れば、連行より先に救急車を呼ぶことを優先するであろう。

されど、侮るなかれ。この少女こそは此度の聖杯戦争にて拳を以って敵を穿つ型破りの槍兵として現界を果たしたサーヴァント。
英霊であり勇者であるランサーがこの程度の傷で死に絶えることなどあるはずもない。
とはいえ、傷は傷。如何に負傷の度合いに応じて力を引き上げる特殊な技能があるといえどダメージをそのままにして行動するのは上手くない。
不死や蘇生といった類の異能を持たない身である以上、傷を度外視して行動し続ければいずれ耐久力の限度を超えて討ち滅ぼされるのは必定である。

そのためランサーは次の行動に移る前に傷の自然治癒を待つことにした。
霊体であるサーヴァントは大抵の場合魔力でダメージを回復する機能を持っている。
同時に現状を、引いては聖杯戦争という悪辣極まる催しを打ち破るためにどうするべきかを思案していた。

「せめて誰かと協力できたらいいんだけど……」

はっきりと言って、現状は完全なる詰みであることは認めるしかない。
それはマスターが人質となっている今も、そうではなかった先ほどまででも何ら変わりない苦境であった。

聖杯戦争は根幹として、マスターとサーヴァントの共闘を前提として成り立っている。
サーヴァントの役割については今更改めてここに記すまでもない。
サーヴァントより力も存在の格も遥かに劣るマスターにも、サーヴァントの現界を支える以外に適切に令呪を切り、与えられた透視能力で他のサーヴァントの性能を把握するという明確な役割が存在する。
敵対するサーヴァントの能力を知り、対策を講じることが聖杯戦争を勝ち残るための必須事項の一つであることは疑いようもない。
どれほど強大であれ、サーヴァント単体では相対した敵の実力を明確な数値として知ることは叶わないのだ。

ではここに、知性も理性もない白痴同然のマスターがいるとなればどうなるだろうか?
答えは一つだけ。孤立無援と化したサーヴァントが残るだけである。
聖杯への願いを抱くまっとうなサーヴァントであればそんなマスターなど早々に切り捨てて鞍替えを試みるに違いない。
しかし聖杯への願いを持たず、マスターを見捨てることもできないランサーは現界を果たしたその時から孤独な戦に身を投じる以外の選択肢がなかった。
本来マスターを通して手に入るはずの他のサーヴァントの情報は一切入手できず、マスターの透視能力に代わるスキルも持ち合わせず、お世辞にも策謀に秀でているわけでもない。
そんなサーヴァントが容易く詰みの状況に追い込まれることは必定と呼ぶ以外にあるまい。

だからこそランサーは考えてしまう。
志を同じくするマスターやサーヴァントと共に戦うことが出来ればどんなに良いだろうかと。
サーヴァントであろうと聖杯戦争に乗らず、マスターや民衆を守る者なら敵対する理由はないはずだ。
かつてのバーテックスとの過酷な戦いも勇者部の仲間がいたから乗り越えられた。
一人では出来ることはあまりに限られる。

無論、都合よくそんな相手が現れてくれるはずもない。
よしんば見つけられたとしても、手を取り合うことが出来たとしてもあの冷酷非道なライダーに知れれば即座にマスターは殺処分されてしまう。
街の監視に使われているライダー配下の極道の者たちに一切気取られることなく協力者を見つけ出すなどとてもではないが出来るとは思えない。

「…そろそろ、動き出さなくちゃ、ね」

霊基の内部はまだダメージが残っているが、行動に直接支障をきたす左腕はあらかた治癒できたし外装も取り繕えた。
もう少し回復に専念すべきかもしれないが、あまり時間を浪費してはどんどん聖杯戦争は進行してしまう。
取り返しのつかない事態になる前に、戦いを止めなければならない。
せめて鉄火場ではないまともな形で参加者と接触できそうな場所、ないし施設はどこかにないだろうか?

「そうだ、孤児院とか……!」

今まで思いつかなかった可能性が天啓の如く閃いた。
それは乱や如月といった若年のマスターとの出会いを経たからこそ生まれた発想だった。
考えてみれば自分のマスターもかなり若い。ゾンビ化しているのでわかりづらいが恐らく成人はしていないはず。
もしもう少し若い、幼いという形容ができるマスターが存在するとすれば彼らはどうやってこの街で生活するだろう?
一番手っ取り早いのは専門の福祉施設の世話になることだ。
そしてこの鎌倉には誂え向きに孤児院がある。予選期間中鎌倉の地理を把握するために偵察して回っていた時に見かけたことを覚えている。

巻き込まれた子供のマスターと、そういったマスターを保護する精神性のサーヴァントが孤児院にいる可能性は決して低くない。
無駄足に終わる可能性もあるが試さないよりは断然良いに決まっているのだ。
それに孤児院であればやくざ者が立ち入るのは難しいはず。つまりライダーの目を欺けるかもしれない。
絶望的としか言いようがない状況にあってもまだ希望はあるものだ。



「後は話を聞いてもらえるか、だね」

とはいえ、孤児院に目的の主従が本当にいたとして協力を取り付けるのが簡単でないことは理解できる。
本来ならこういった外部との交渉はマスターを中心として行うべきものだからだ。
マスターの顔が見えない、サーヴァント単体で交渉に赴いたとして果たして信用してもらえるものなのか。

それでも、諦めることはしない。信用されないなら話を聞いてもらえるまで粘り続けるだけだ。
どのみちこれ以上にランサーを取り巻く状況が悪化することがあるとも思えない。
自暴自棄になるわけではないが、試せる手は何でも試していくしかない。
暗闇に差した一筋の光明がどれほど遠かろうと勇者の足を止めるには足りない。
路地裏を出て、未だ陽の光が眩しい市街へと躍り出て足早に孤児院へと向かった。



実際のところは事態はまだいくらでも悪化する余地があった。だが勇者はその陥穽に気づかない。
確かに身寄りのない子供が集う孤児院ならマスターを発見できる可能性は十分あるだろう。
幼い子供を保護する、志を同じくするサーヴァントと出会える可能性もあるだろう。
―――だが勇者よ、考えてみるがいい。弱者を護らねばならないサーヴァントがどれほど警戒心が強いのか、生き馬の目を抜く聖杯戦争で複数のサーヴァントが一箇所に集うことがどれほど目立つことなのかを。
そして何よりもこれから目指す施設にどういった存在が集められているのかを。

ランサーはライダー、ドフラミンゴの監視網から逃れて他の陣営と交渉を図るために孤児院を目指している。
だが街に監視の網を張っているのがドフラミンゴだけであるはずがない。
アサシンやキャスターといったクラスの特性からして諜報に長けた面子の存在を失念していた。
つまり、もし孤児院で目的の参加者と出会い、交渉に成功し、かつドフラミンゴの目を逃れてもやはり悪目立ちする可能性は高いのである。

無論、それだけなら鎌倉のどこであろうと常に大なり小なり付きまとうリスクではある。
ではどこに問題があるかといえば、それは孤児院という場所そのものだ。
繰り返すが孤児院には身寄りも社会的基盤もない子供たちが集められている施設である。
そして気配遮断能力を持たないサーヴァントたちが特定の一箇所に集えばそれだけ他の者の耳目を集め、目立つ。
腕に覚えのある者、場を掻き回そうとする者、あるいは漁夫の利を得ようと考える者たちによって、激戦が起こり得る。

そうなった場合真っ先に犠牲となるのはランサーでも、その他のマスターやサーヴァントでもない―――何も知らない施設の子供たちと職員だ。
勇者として最も危惧すべき可能性に結城友奈はまだ気づかない。



【B-3/路地裏の行き当たり/一日目 午後】

【ランサー(結城友奈)@結城友奈は勇者である】
[状態]覚悟、ダメージ(中)、精神疲労(小)、左腕にダメージ(小)、腹部に貫通傷(外装のみ修復、現在回復中)
[装備]
[道具]
[所持金]少量
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの為に戦う
0:孤児院に向かい協力者を募ることを試みる
1:ライダーは信用できない。いずれ必ず、マスターを取り戻す。
2:マスターを止めたい。けれど、彼女の願いも叶えてあげたい。
3:敵サーヴァントを斃していく。しかしマスターは極力殺さず、できるだけみんなが助かることのできる方法を探っていきたい。
4:あの女の子の犠牲を無駄にはしない。二度とあんな悲しいことは起こさせない。
[備考]


※B-3/路地裏の行き当たりに如月の惨殺死体が安置されています。ゾンビ化の危険性は今のところありません。




     ▼  ▲




鎌倉市役所は未だかつてない喧騒に包まれていた。
その原因は何かと言えば、午前中から立て続けに発生している大規模な事件あるいは事故に他ならない。
湘南モノレール付近で発生した断続的な爆発事故から始まり、材木座海岸付近の港町の一角で起きた原因不明の事故。
どちらも夥しい数の死傷者を生み出していることが確認されており、調査が進めばさらにその数が増えていくであろうことは誰の目にも明白だった。
さらに悪いことに材木座海岸付近で起きた事故によって被害に遭った港町は通行が遮断され生き残った住民は孤立状態にある。

これだけでも十二分に災厄と呼べるが、正午を過ぎてからも凶報が止むことはなかった。
数日前から相良湾沖に駐留していた正体不明の戦艦による砲撃が稲村ケ崎の住宅街と付近の電鉄線を蹂躙し多くの被害が出た。
そのすぐ後には鎌倉駅東口方面にて大規模な火災と爆発事故が発生したとの報道も為された。
現在市役所はこれら事件・事故の情報や家族や友人・知人の安否を確認しようとする者、あるいは単純に避難してきた者たちでごった返していた。
職員たちは総出で市民への対応に当っており、通常の業務どころではなくなっていた。

「ですから、現在消防や警察と連携して対応に当たっておりまして……」
「ふざけるな!日頃どんな仕事してたらこんな事故ばかり起こるんだ!?
うちの息子が鎌倉駅で働いてるんだぞ!!安否はわからないのか!?」
「申し訳ございませんがそれは鉄道会社に方へ問い合わせていただかないことには……」

混沌の坩堝と化した市役所のエントランスを遠目に眺めながら市長・浅野學峯は自身の執務室へ足を運んだ。
非常事態ということもあり、普段のスーツ姿ではなく防災服を着用している。

「想定を越えているな……」

誰にも聴こえないような声で呟いた。
浅野は市長として鎌倉で続々と発生している事件や事故、あるいは災害について多くを知る立場にある。
同時に聖杯戦争のマスターでもある彼はそれらが聖杯戦争にまつわる事、より厳密に言えばサーヴァントによる破壊行為であることにも当然気づいていた。
聖杯戦争の本戦が開始したとなれば、これまで潜んでいた多くのマスターが活発に動き出すだろうことは予測できていた。

しかし本戦開始からまだ一日すら経っていないというのにこれほど大規模な破壊行為が行われるとはさしもの浅野といえど想像できなかった。
今ですら警察や消防が全力で対応しているもののまるで人手が足りていない状況だ。
このままサーヴァントによる破壊活動が続けば遠からず都市機能に甚大な支障をきたす可能性もある。

言うまでもなく、市長としての権力を用いて聖杯戦争を制する構えの浅野にとっては歓迎できない状況だ。
このまま大規模破壊が続けば浮浪者狩りに支障が出るばかりか治安そのものが悪化しかねない。
市長としての権限も秩序が大きく乱れては十全に発揮することは難しい。

「早急にマスターの所在を割り出し対処する必要がある……」

端末を起動しつつ、対処策を巡らせる。
魔術師ではない浅野は英霊の力や規模について決して詳しいわけではない。
それでも自身のサーヴァントであるバーサーカーが派遣した宝具たる疑似サーヴァントが戦闘を行った際に生じた破壊については公的書類を通じて知悉している。
疑似サーヴァント、式岸軋騎がこれまでに派遣された先は主にマスターが潜伏していた空き家や何らかの手段で元の住民に取って代わって住み着いた家屋だ。
そのいずれにおいても計上された被害規模は小さく、最大でも標的が滞在していた家屋一軒が倒壊した程度に収まっていた。

これを基準とするならば、今日の午前から鎌倉で頻発しているサーヴァントの仕業であろう数々の破壊は明らかに常軌を逸している。
英霊が持つ宝具には対軍宝具や対城宝具などといった広範囲を攻撃する類もあるという。
ならば頻発する大規模破壊もまた今日までを生き残ったサーヴァントがふんだんに宝具を使用した結果だろう。



(いや、それだけでは有り得ない)

―――などと安直に決めつけるほど浅野は愚かな男ではない。
いくら本戦が始まったからといって、いきなり多くの主従が情報の秘匿を投げ捨てて宝具を連発するはずがない。
勿論中には宝具によって生じた破壊もあるだろう。正体不明の戦艦などはその最たる例と言える。
しかし一方で通常攻撃やスキルのみによって鎌倉に甚大な被害を齎した、規格外の規模のサーヴァントが間違いなく存在するはずだ。
切り札ではなく捨て札によって巨大な破壊を為す―――想像するだに恐ろしい敵だ。

「こちらは既に切り札を切ってしまっているというのに……」

既に一画が欠けた自身の令呪を見やる。
正午より少し前のこと、突然携帯端末にバーサーカーからメールで連絡が入った。
曰く「廃校にぐっちゃんを向かわせたから魔力供給よろしく」。これまでもたまにあることではあった。
そういう場合は市役所に持ち込んだ栄養ドリンクを人知れず複数本飲んでいたものだが、今回の消耗はまるでレベルが違った。
恐らくは致命傷レベルのダメージを何度となく受けたのだろう。バーサーカーから要求された魔力量は職務中に気絶しかねないほどであった。
極力精神力を総動員して冷静さを保ちながらトイレの個室に駆け込み令呪で魔力供給を行うことで事なきを得たのだった。
幸いにして今のところは浅野に負担はかかっていない。令呪の効力がそれほど強力だったのだろう。

とはいえ状況は予断や楽観を許さないことは火を見るより明らか。
これからも同じような魔力消費を要求され続ければいずれ必ず自滅という名の敗北を喫する。
予選期間の頃以上に巧みに潜伏しているであろうマスターを炙り出すと同時に、負担を減らすために同盟も視野に入れたいところだ。
現状の最有力候補は辰宮百合香か。競争相手には違いないが彼女なら交渉の余地がある。
なおかつ公人の身分である浅野が問題なく会合できるマスターは現時点で彼女だけだ。
交渉の場を準備するべきか―――そう思いながら端末のメールソフトを起動、新着メールを確認した。



『魔力供給ご苦労様。令呪のおかげで余裕あるから孤児院にぐっちゃんを向かわせたよ』
「――――――」

バーサーカーから送られてきていた電子メールには完結な文章とともに二つの画像が添付されていた。
街に増設させた監視カメラの映像から切り取ったものに違いない。
一つ目の画像には孤児院から出た直後だと思しき辰宮百合香の姿があった。
浅野は直感的に百合香が聖杯戦争に関わる何事かを孤児院で行ったのだと断じた。
聖杯戦争が本格化した今、彼女が無意味な行動をするはずがない。

二つ目の画像には特異な衣装を着た桃色の髪の少女が移っていた。
もしやと思い意識を集中すると少女のステータスが読み取れた。実体化したままでいるとはよほど慌てていたのか。
このサーヴァントの周囲の建物、地形とわざわざこの画像を添付した意味を推理するとバーサーカーは「このサーヴァントのマスターが孤児院にいる」と言いたいのかもしれない。
いずれにせよ孤児院にマスターが存在する可能性を示すに足る状況証拠ではある。

「…………」

いや、そもそもが孤児院などという施設は最初から潰しておくべきだったのだ。
聖杯戦争に勝利することを前提にするならばああいった施設ほど浅野にとって手を出しにくいものはないのだから。

聖杯によって選ばれたマスターにこれと定められた基準はなく、無差別に選定されている。
性別、年齢、出身、思想、魔力資質その他の技能。全てが無作為であると推察していた。
であれば、未成年のマスターはもちろんのこと、それより幼い、小学生や未就学児がマスターとなる場合は当然にして想定し得る。
常識的に考えれば体力・知識などにおいてハンデを抱える子供のマスターは脅威にならない、と断じられよう。
しかし浅野はむしろ逆、幼いマスターにこそ注意と警戒を払うべきではないかと考える。



聖杯戦争では選ばれたマスターは何の身分も持たない、戸籍すらない浮浪者として鎌倉に放り出される。
このため多くのマスターは鎌倉の何処かに潜伏するか、戸籍や住居を偽造することを強いられる。浅野自身もバーサーカーの力を借りて身分を作り上げた。
聖杯戦争に端を発する治安の悪化と浮浪者の存在を公的に結びつけることで各マスターの基盤を脅かし炙り出すことが浅野の戦略だ。

だがこの戦略では決してカバーできない死角こそが幼い子供、もしくはそのように偽装したマスターなのである。
一度孤児院に保護されてしまえば、行政の方から戸籍の確認ができないからといって特定の子供を一日二日でいきなり放逐することは難しい。
出来たとしても治安が悪化している現状でそれをやってしまえば市長としての浅野の醜聞にもなり得る。

何より浅野が警戒するのはマスターが子供であった場合のサーヴァントの動きだ。
前述したように基本的に大人より子供の方が力も知恵も行動力も劣る。
そうであるが故に一時代を生き抜き名を残した英雄たるサーヴァントに依存する面はさぞ大きいことだろう。
見方を変えればサーヴァントがマスターの指示や方針に左右されることなく、存分に培った経験や技能を活かすことができる。これは無視すべきでない脅威だ。
またサーヴァントがキャスターや、陣地作成に等しい能力を持っている場合ただでさえ表立って攻め難い孤児院がまさしく鉄壁の要塞と化してしまう。

なればこそ、これを懸念するならばそれこそ予選期間のうちにバーサーカーに進言するなりして孤児院を力で叩き潰すべきだった。
浅野の直接のサーヴァントでもない式岸軋騎を派遣しておけば「怪人釘バット男が孤児院を破壊し子供たちを虐殺する痛ましい事件が起きた」ということにできた。
それこそマスターが存在するか否かなど関係ない。初手の段階で済ませておくべきだったのだ。
ただ純粋に、勝利のみを希求するのであれば。



「………これも私の弱さか」

浅野學峯は聖杯戦争のマスターであり鎌倉市の市長である。だがそうである前に一人の教育者でもある。
子供を教え導き、社会の荒波に呑み込まれることのない強い人間を育て上げることこそが自らの生き甲斐であり使命と自認している。
故にこそ、だろうか。マスターが在籍していても何らおかしくない孤児院から無意識のうちに目を逸らしていたのは。

聖杯戦争の舞台であるこの鎌倉が浅野が元いた世界とは異なるものであることは既に理解している。
バーサーカーのハッキング工作の一環で身分を偽造した際、自分の戸籍があらゆるデータベースを検索しても存在していなかったからこそ確信に至った。
されど、この世界は虚構ではない。この世界に住む人々には紛れもない血が通っている、確かにこの現実に在る人間なのだ。
故に浅野は元いた市民を直接的に殺傷する方針は可能な限り避けて通ってきた。
教育者としての在り方が彼らを無用に傷つけることを許さなかった。

けれど聖杯戦争を征するなら、それこそ無用の感傷と切り捨てるべきものなのだろう。
どれほどのアドバンテージを持とうが、弱さを抱えたまま熾烈な生存競争を生き残れるはずがない。理解していたつもりだ。
なのに何故今までこんな甘さに気づかなかったのか。勝利への執念が自分には足りていないのだろうか。

……そうかもしれない。浅野は心中でため息をついた。
自らの教育の正しさを遍く人々に理解させる。それは本来、聖杯戦争でなければ証明できないようなことではなかった。言うなれば達成すべき目標だ。
聖杯を手に入れて叶えるか?有り得ない、論外だ。願望器に頼った時点で自分では不可能だと認めたも同然、即ち敗北だ。
あるいはマッハ20の速さで動くあのタコを殺すことでも願うか?それも違う。あの生物は教師として教育という舞台で殺さなければ意味がない。
――――――ならば自らの教育方針の誤りで死なせてしまったあの生徒の蘇生を願うべきだろうか?

彼への贖罪をするならばそれこそが叶えるべき願いなのかもしれないが、何かが違うようにも思う。
確かに自分が間違った教育をしなければ彼は死ななかったかもしれない。遺族の無念と悲しみを想えば生き返らせるなり、過去の改竄なりするべきだ。
しかし、だからといって彼が死んだという事実をなかったことにして良いのか?過去の過ちをなかったことにして良いのか?

「全く、私もよくよく愚かな男だな。今の今までこんな根本的な事にさえ気づかなかったとは」

たった今理解した。この浅野學峯には何を犠牲にしてでも聖杯に懸けるべき願いがない。
無論そうであるからといって聖杯戦争に敗北するつもりなど微塵もないが、聖杯に対して傾ける熱量の差はいつか他のマスターに敗れる要素になるかもしれない。
実際孤児院への攻撃を無意識に忌避していたのも、明確な願いのなさの顕れだろう。
何でもいい。勝利するためにこそ、何か聖杯でなければ叶わない願いを見出す必要があるのかもしれない。


【C-2/鎌倉市役所/一日目 午後】

【浅野學峯@暗殺教室】
[令呪]二画
[状態]魔力消費(大)、疲労(中)
[装備]防災服
[道具]
[所持金]豊富
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利する。しかし聖杯に何を願うべきなのか―――?
1:ひとまずバーサーカー(玖渚友)の孤児院攻撃は黙認する。
2:同盟者を探す。現時点では辰宮百合香が最有力候補。
3:引き続き市長としての権限を使いマスターを追い詰める。
4:バーサーカー(玖渚友)への殺意。
[備考]
※傾城反魂香に嵌っています。百合香を聖杯戦争のマスターであり競争相手と認識していますが彼女を害する行動には出られません。



【C-3/高級マンション最上階/一日目 午後】

【バーサーカー(玖渚友)@戯言シリーズ】
[状態]健康 、魔力充実
[装備]
[道具]
[所持金]浅野に依存
[思考・状況]
基本行動方針:鎌倉と聖杯戦争の全てを破壊する
1:ぐっちゃん(式岸軋騎)、孤児院にいる奴らを全部壊せ
[備考]
バーサーカー(式岸軋騎)にB-1にある孤児院への攻撃を命じました。
孤児院に到着次第、最も近い位置にいるサーヴァントへ攻撃を開始します。


前の話 次の話
027:抽象風景 投下順 029:死、幕間から声がする(前編)
時系列順

BACK 登場キャラ NEXT
023;嘘つき勇者と壊れた■■ ランサー(結城友奈) 033:白紙の中に
000:封神演義 浅野學峯 033:白紙の中に
バーサーカー(玖渚友)

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