―――ある世界は滅びの淵に瀕していた。危機に陥った星は自らの法則を書き換え、新たなる時代へ向かってゆく。
 旧来のルールの上で生み出された生き物は、どれだけ発達した科学を駆使しても、新世界の環境には適合できない。
 早ければもう十世代ほどで、古い生態系は滅亡するだろう。

 それを否とし、立ち上がった者達がいた。
 世界が書き換わるというならば、全ての人類を新世界に適合できるカタチへと置き換えよう。
 その為には膨大な力が必要だ。―――世界に残された残り僅かなマナを全て使い、過去最大級の魔術を行使する。

 それを叶えられる存在がいた。彼らは彼女を自分達の手中に収め、来る時を待つ。
 平行世界から現れた、聖杯(かのじょ)の友人達という異分子こそありはしたが、関係はない。
 刃向かう全てをねじ伏せてでも―――聖杯(ミユ)を渡しはしない。正義の味方として、だから「彼女」は刃を執る。
 非道の謗りを受けようと、そんな言葉は私の耳には届かない。
 愚かなことだ。全人類の命運と一人の少女、どちらを選ぶかなど問うまでもない。
 我らは必ず世界を救う。どんな戯言を並べ立てようと、エインズワースの悲願は必ず遂げなくてはならないのだ。

 ―――それは、求める聖杯のカタチが変わったとしても、何も変わらないこと。


 ―――ある世界は滅びの淵に瀕していた。宇宙から飛来した“戦維”によって、星は覆い尽くされようとしていた。
 全ての原因はひとりの女だった。人は服に着られる為にあると豪語した彼女は、全世界を大混乱へ陥れる。
 服の形をした怪物が所構わず跋扈し、もはや安全な場所などどこにもない有様。

 しかしながら、彼女のユメは砕かれた。もとい、裁ち切られた。

 大いなる終末思想に仇を成したのは、皮肉にも彼女が生み出した二人の娘だった。
 ひとりは母親譲りの絶大なカリスマと戦闘能力を持って、人は服に着られる存在などではないと吼えた。
 ひとりは自らの素性を知り、苦悩し、しかしそれを乗り越えて、実の母へと刃を向けた。
 彼女の味方はひとりふたりと減っていき――最後に残ったのは、もう一人の娘だけだった。
 “戦維”の子宮で育てられた彼女は、母の思想に共鳴し、いびつに歪んだ心を持って育った。
 彼女たちは強かった。負けるはずなどないはずだった。
 だから最後まで、彼女たちは自分達が敗れた理由さえ分からなかった。

 一度は粉砕された娘が、再び立ち上がって牙を剥く。
 わけの分からないことを叫びながら、最高傑作であったはずの娘が何もかもを滅茶苦茶にしていく。
 ゴミと断じて見下した下等な学生たちが、潰しても潰しても懲りずに現れる。
 服を着ることを拒む愚かな猿達が、小癪な策を弄し邪魔をする。

 そして遂に―――最後の一張羅が裁ち切られ、生命戦維に終わらされることを望んだ二人は宇宙空間に散る。
 自ら心臓を抉り出して、元凶の母は消えていった。
 それを見届けながら、細切れになって散り消えるもう一人の"娘"。彼女は、今際の際にこう願う。

 ―――こんなの、間違ってる。
 ―――人は服に着られるのが正しいこと。
 ―――羅暁さまの夢を台無しにするなんて、どこまで使えないゴミどもなのよ。
 ―――嫌、こんな終わり方は許せない。

 もう一度……もう一度人の身体に戻れたなら、私が必ず遂げてみせるのに。

 怨念にも近い強さで紡がれた願望は、遠い世界の聖杯によって聞き届けられる。
 生命戦維が星を覆い、最愛の母が目指した“繭星”を今度こそ完成させるために。
 彼女は世界を滅ぼすべく、今度は化物としてではなく、英霊として人間の世界に顕現した。

 世界を護らんとする者と、世界を滅ぼさんとする者。
 決して相容れない主従が、鎌倉の聖杯戦争に降り立った。



     ◇    ◆




 「あははは、だっさーい! ねえねえ、どんな気持ちー? 高潔な騎士様が真っ向勝負で女の子に負けちゃうのってどんな気持ちなのー? ―――ちょっとぅ、無視しないでよー……って、ああっ……、消えちゃった。つまんない」

 最後まで無念の表情を崩さないまま、胸に大鋏を突き立てられた格好で、セイバーのサーヴァントが消滅する。
 鎧すら剥がされ、挙句ただの一度も報いることが出来ないまま死んでいくのは、さぞかし耐え難い屈辱だったのだろう。
 もっとも、そんな感情を介する彼女ではなかったが。
 突き刺す相手のいなくなった紫色の大鋏を拾い上げると、彼女は満面の笑顔で自身のマスターへ振り返る。

 「アンジェリカちゃん、終わったよ~! ボクの圧勝。英霊ってのも意外とチョロいんだね!」
 「……黙っていろ、下衆め。貴様の声を聞いていると虫酸が走るのだ、“セイバー”」

 アンジェリカ。そう呼ばれた縦セーターの女は、サーヴァント、セイバーの態度とは裏腹に強い不快感を露にしていた。
 それは決して一時的な機嫌の問題などではない。この二人の主従仲は、およそ最悪のものと言ってよかった。
 というよりも、アンジェリカの側が一方的に嫌悪を突きつけているのだったが。

 「ちぇーっ、つれないんだから……でも、そっちも終わったみたいね。うんうん、さすがボクのマスターだよ」
 「所詮は愚かな三流魔術師だ。分を弁え棄権するなりしていれば、ここで死ぬこともなかったろうに」

 セイバーが倒した英霊のマスターらしき壮年の男性は、頭から胴体にかけてを引き裂かれて死んでいる。
 魔術の心得は人並み程度にあったようだが……アンジェリカに言わせれば、この鎌倉に立つ資格もない雑魚であった。
 何せ、今アンジェリカが使える力―――クラスカードは、数ばかりで質の伴わない無銘の失敗作である。
 それすら凌げずにこうして屍を曝しているのだ。これを無様とせずして何とするのか。

 「そんなこと言っときながら、こんなに容赦なく殺しちゃうからおっかないよね。なんだかキミを見てると、知り合いのお嬢様を思い出しちゃう。……あ、もう敵って言った方がいいのかな。とにかく近いものを感じるよ」
 「貴様に褒められても嬉しいとは欠片も思わん。片付いたのならば疾く撤収するぞ」
 「そんなに嫌わないでほしいんだけどなあ。ボク傷付いちゃう! ―――と、まあ冗談はその辺りにして。そうだね。結構音も出ちゃってたし、ネズミが湧いてくる前にさっさと帰ろっか」

 よいしょ。
 セイバーはアンジェリカが討った敵マスターの死体を漁れば、躊躇なく革製の財布を抜き出し、中身をひっくり返して金品を強奪する。この聖杯戦争では、身分や手持ちの工面は一切なされない。
 だからこうして金策に励むのも重要なファクターであるのだが……

 「って、こういうのって普通マスターがやることなんだよ? いい加減プライドなんか捨てちゃいなよー」
 「悪いが、野盗の真似事をするつもりはない。貴様一人でやっていろ」

 すたすたと、セイバーを待つこともなくアンジェリカは帰途へつき始める。
 それを慌てて追うセイバー、という絵面はどこかコミカルであったが。
 彼女たちがこれまで、既に三騎ものサーヴァントを倒していると聞けば、途端に見え方も変貌しよう。

 「―――それにしても、ホントに因果だよねぇ。ボクとキミの目的はまるで真逆だ。
  これで住んでる世界が同じだったら、昼ドラも真っ青のドロッドロな修羅場展開が待ってたところだよ」

 アンジェリカが足を止める。
 セイバー……真名、針目縫。彼女の願いは、生命を持った繊維―――“生命戦維”で地球を覆うこと。
 そして最終的に星を炸裂させ、また新たなる星を求め無数の生命戦維を地球から羽ばたかせること。
 いくら主従関係が劣悪だとはいえ、そのくらいの話は聞いている。セイバーも、アンジェリカの願いを知っている。

 静かに、アンジェリカはセイバーのサーヴァントへと振り返った。

 表情は相変わらずの鉄仮面。だが、その瞳の奥に灯る感情は、心なしかいつもよりも激しいそれに見える。
 やがて彼女は、静かに口を開いた。
                ・・・
 「因果? 皮肉の間違いだろう、針目縫。生命戦維の化け物よ。
  ああ―――確かに貴様の言う通り、我らの住む世界が異なっていることは僥倖だったと言う他ないだろう。
  だがな、針目。これだけは覚えておけ」

 凛とした眼差しが、敵意に満ちる。
 このサーヴァントと、このマスターは決して相容れない。
 どれだけ非道を尽くそうと正義の味方(エインズワース)の彼女には―――

 「私は―――たとえ平行世界のコトであろうとも、おまえの存在が許せない」

 悪である、針目縫という化け物を認められない。
 こうしている今だって、胸の内には冷えた殺意が満ちている。

 「……やだなあ、もう! そんな怖い顔しないでよ。女の子が台無しだぞー?」

 絶対零度の空気に置かれようと、変わらずおちゃらけた調子を見せる針目縫、もとい、セイバー。
 敵意を向けられ続け居心地が悪いというのは確かにあったが、しかし彼女は自分を害せないとセイバーは知っている。
 世界を救い、人類を導く。アンジェリカの願いを叶えるには、聖杯の力が必要不可欠だ。
 そしてそれはこちらも同じ。どれだけ嫌い合っても、聖杯を求めるという利害が一致している限りは同胞である。

 「……けど、まあ」

 にこっ。―――セイバーはぞっとするほどの満面の笑みで微笑んだ。

 「お互い様だよね。ボクもキミのこと、虫酸が走るような愚か者にしか見えないし」

 そこから先、交わす言葉はない。
 ―――対極の目的に向けて、嫌悪を互いに抱きながら、セイバーとそのマスターは聖杯戦争に臨む。


【クラス】
セイバー

【真名】
針目縫@キルラキル

【ステータス】
筋力D 耐久A 敏捷B 魔力D 幸運C 宝具B

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

騎乗:D
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。

【保有スキル】
高次縫製師(グランクチュリエ):A
 服を縫い、仕立てるという技能において縫の右に出る者はいない。
 彼女が魔力を込めて縫った服は、生命戦維を編み込まずともCランク相当の対魔力性能を持つ。

神出鬼没:C
 過去決戦場に突然姿を現し、その場の支配者すらも狼狽させたという逸話から。
 サーヴァント、及びマスター同士の戦闘に乱入する際、Bランク相当の気配遮断スキルを獲得する。

【宝具】
『生命戦維の怪物(カヴァー・モンスター)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
針目縫という英霊の肉体そのもの。
彼女の身体は生命戦維で出来ており、そのため高い身体能力と再生能力を併せ持つ。
また、この宝具を応用することで自己の分身を生み出すことも可能。
生命戦維の彼女を傷つけたくば同ランク以上の宝具で攻撃するか、一撃で滅殺するだけの火力を用意する必要がある。

【weapon】
片太刀バサミ@キルラキル。生命戦維を裁つことができる。

【人物背景】
鬼龍院羅暁が、生命戦維の子宮で育てた娘。
お互いに反発し合ってしまうため神衣を着ることができず、高次縫製師として羅暁を後押しする。
纏流子の父親を殺し、片太刀バサミの片方を奪った張本人でもある。

【サーヴァントとしての願い】
羅暁さまの夢見た結末を、代わりに遂げる


【マスター】
アンジェリカ@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ

【マスターとしての願い】
全人類を新世界に適合できる生命体へと置き換え、世界を救う

【weapon】
無銘のクラスカードを多数。

【能力・技能】
魔術を会得している。

【人物背景】
聖杯、美遊・エーデルフェルトを用いて世界を救わんとしているエインズワース家の一員。
セイバー・針目縫には強い嫌悪感を抱いており、主従関係は非常に劣悪。

【方針】
敵は倒す。情けはかけない。


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