宵闇の中、青い髪の少女が一人立ち尽くしている。
 その手には細く鋭い剣がある。使い慣れた、しかし本当は一度も触れたことなどあるはずがない……レイピア。
 手に持った質感は現実か、あるいは非現実なのか。
 刀身に薄く指を滑らせると、指先に血の赤い珠が滲む。
 触れれば斬れる。刃物であるならば当たり前の、それはただの事実確認だった。

「…………っ」

 声もなく、深く息を吸う。
 強い風が長い髪を揺らしていく。その只中にあって、決意だけは揺らいでいない。
 覚悟なら既に済ませた。
 少女は、ただの少女ではない。
 青い髪、長く尖った耳、薄い水色に輝く四枚の羽、妖精の如き美貌。
 真実、少女は妖精であった。少なくとも、その姿を模しているときは。
 妖精の名は『アスナ』――本名、結城明日奈。
 世を震撼させたデスゲーム『ソードアート・オンライン』の生還者にして、同ゲームを終結させた英雄である黒の剣士、『キリト』――桐ヶ谷和人の、恋人である。

 『ソードアート・オンライン』とは、人間の脳とハードを直接接続することで意識を丸ごと仮想空間に投影する、いわゆるフルダイブ型のVR-MMOだ。
 既存のゲームを有無を言わさず過去の遺物へ追い込むほどに圧倒的な臨場感を見せつけたVRMMOは、世界を熱狂させた。
 そして天才ゲームデザイナーにして量子物理学者である『茅場晶彦』により、『ソードアート・オンライン』は生誕した。
 茅場が熱望した「真の異世界」。その雛形として。
 サービス開始当日にログインしていた一万人のプレイヤーは、意識を電脳空間に取り込まれ、ログアウトできなくなった。
 そして、電脳世界で命を落とした者は、現実世界でも脳を焼き切られる。他でもない、自らが装着したVRマシンによって。
 結論を言えば、『SAO事件』は未曾有の大惨事となった。
 ゲームが終了するまでに落命した者は四千人を数える。
 その中にはアスナやキリトの友人も多く含まれ、あろうことか茅場晶彦本人の名もあった。
 大規模サイバーテロとも言える事件の主犯がゲームクリアと同時に死亡。社会に消えることのない痛みを残して、デスゲームは終了した。

 アスナとキリトは現実世界に帰還したが、事件で受けた傷は決して軽くはない。
 都合二年にも渡る仮想空間への監禁は、その後の人生を左右するには十分すぎる時間だった。
 学生は本来望んでいた進路から外れることを余儀なくされ、政府の配慮により新設された高等専修学校に通うようになる。
 殺人歴があったり精神的に不安定な者はカウンセリングを義務付けられ、社会人だった者の多くは失職あるいは転職を余儀なくされた。
 生還した者にも未だ色濃くSAO事件の影響は残っている。
 中でも特にキリトは、SAOと茅場晶彦に端を欲する事件と縁があった。
 SAOの直接の後継たる『アルヴヘイム・オンライン』で発生した『ALO事件』、あるいは『ガンゲイル・オンライン』で発生した連続変死事件、通称『死銃(デス・ガン)事件』を解決した。
 出会いもあった。ユウキ――紺野木綿季。重病を患い、VRMMOの世界の中でしか自由に動きない少女。
 ユウキはアスナの腕の中で息を引き取った。別れは耐え難いものであったが、それでも出会えた喜びを否定することはできない。
 いくつもの陰謀に巻き込まれ、しかし決して屈することなく、二人は前に進んできた。
 そして穏やかな日々が訪れた。命の危険を感じることのない、友人たちに囲まれた、騒がしくも心躍る日々。


 しかし、ある日。
 キリト――桐ヶ谷和人が、襲撃された。
 犯人は、SAOで殺人ギルドとして名を馳せた『ラフィン・コフィン』のメンバー。そして、『死銃事件』の実行犯。
 彼によって毒を撃ち込まれた和人は昏倒し、救急車で搬送された。今もICUで懸命な治療が続けられているはずだ。

 しかし明日奈は今、そんな和人の傍にはいない。
 明日奈――アスナは、ALOでの己の似姿、アバターとなって、この鎌倉の街にいる。
 生死の境にいる桐ヶ谷和人を救いたい。
 その強い願いが聖杯に届き、認められ、そして召喚された。
 アスナはこの場で自分がやるべきことを知り、そして理解した。
 聖杯を手にすることが出来れば、桐ヶ谷和人の命を救うことができるのだ、と。
 もちろん、そんな必要はないかもしれない。
 ただ待っていれば、優秀な医師たちが和人を治療してくれるかもしれない……かもしれない、だ。その結果は確実なものではない。
 手術が成功する確率は1%か、あるいは99%か。どちらにせよ、どちらにも転びかねない曖昧な数字だ。
 その曖昧さに、和人の命が懸かっている。
 だが、ここには。その1%を、100%にすることができる力がある。
 聖杯という奇跡なら、それが可能なのだ。

 これがただの夢だとは思わなかった。
 切った指先に走る痛みは本物だし、今の自分はALOでのアバターそのものだ。聖杯が召喚するときにアスナの意識を読み取り、戦うための姿へと再構成したのだろう。
 何より……アスナは背後を意識する。そこにはアスナのサーヴァントがいる。物言わず、ただアスナの命令を待つ寡黙なサーヴァントが。
 置物のように無言を保つサーヴァントだが、しかし放たれる存在感は圧倒的だ。
 この圧力を前にしては、とても夢だなどとは思えない。夢だったならばまだマシだったのだろうか。

「……うん。よし、やれる。やらなきゃ」

 言葉にすることで、覚悟を確かなものへと変える。
 聖杯を得る。聖杯戦争を戦う。他のマスターを、殺す。
 普段なら眉を顰め絶対に認めないであろうその選択を、アスナ/結城明日奈は、肯定する。
 他に方法はあるかも知れない。しかしこれが確実な手段ということに変わりはない。
 ならば……やれる。やれるはずだ。
 モンスターやNPCなどではない、生きている人間と殺し合った経験は、アスナにだってある。
 あのときは、キリトがアスナを助けてくれた。
 アスナを殺そうとしたクラディールを、キリトが倒した……殺した。
 アスナを守るために、キリトは人を殺したのだ。

「だから、今度は私の番……だよね」

 無論、あれは正当防衛である。
 明確な殺意を持って襲いかかってきたクラディールに対し、キリトとアスナは自衛しただけだ。だが結果としてクラディールは死んだ。
 SAO終了時に生存していたプレイヤーはみな意識を取り戻したが、その中にクラディール――そのプレイヤーは、含まれていない。
 アスナの前では一度だってそんな素振りを見せたことはないが、その事実は今もキリトの胸に棘となって残っている。
 その刺を、今度は自らの意志で抱え込む。誰にも言い訳できない、れっきとした殺人を犯す。
 アスナが手を汚せば、キリトはきっと悲しむ。そんな方法で救われたと知っても、決して喜びはしないだろう。
 しかしそれは、キリトが生きていてこそだ。
 彼が死んでしまえば何の意味もない……そんな世界で生きていく意味を、アスナは見出すことができない。
 故に。


「お待たせしました、セイバーさん。行きましょう」
「……決意は固まったのか、乙女よ」

 アスナの呼びかけに答えるサーヴァント。
 重く威厳に満ちた言葉に振り返ると、そこには一人の騎士がいた。
 漆黒の鎧に身を包んだ大柄な騎士。
 形容するならば、キリトと同じ『黒の剣士』。しかし受ける印象は天と地ほども違う。
 細身で俊敏な剣技を身上とするキリトとは対照的に、重厚な装甲を纏い岩をも砕く一撃を放つ重戦士。
 しかし鈍重というわけでもない。彼がその気になれば、アスナが全力で逃げたとしても瞬きの間に追いつかれてしまう、それだけの脚力もある。
 記憶にある例では茅場晶彦――ヒースクリフに近い。しかし彼よりももっと苛烈で、力強い。そう確信させるだけの威風がある。

「はい。私は、聖杯が欲しい。それだけの理由がある……だから、戦います」
「承知した。ならば私は、そなたの剣となろう」

 欲しかったのは、アスナが戦うか戦わないか、その決意だけだとでも言うように。
 セイバーは一切の理由を問うことなく、アスナの剣となって戦うと宣言する。

「い、いいんですか? 私は願いが何なのかだって、まだ何もあなたに説明してないのに」
「マスターの願いがどうであろうと、私の知るところではない。
 そなたが私を必要とするのならば、私はただ、そなたの剣となってそなたの道を切り開くのみである」
「でも、セイバーさんだって願いがあるからサーヴァントになったんじゃないんですか?」
「この身にもはや願いなどない。私は満たされて生を終え、剣を置いたのだ。
 何の因果か、こうしてまた現世へと舞い戻ることになったが……それでも変わらぬ。求めることなどありはしない」

 言い切って、セイバーは剣を抜く。
 抜き放たれた大剣は、目も眩むほどの輝きを放つ。夜を切り裂き朝をもたらす曙光そのもの。

「だが、そなたが戦う力を……願いを叶えるために戦い、そのための剣を欲するというのなら、私は今一度剣を執ろう。
 ただ一介の剣士となって、そなたの願いを叶えるために尽力しよう」

 セイバーはゆっくりと膝をつく。それでようやく目線が対等になる。
 剣の刀身を自らに向け、柄をアスナへと示す。

「掴むがいい、乙女よ。私という剣を欲するのならば」

 アスナはごくり、と唾を飲み込む。
 差し出された剣、それを執るということは本当の意味で戦いを始めるということ。
 もう、後戻りはできない。
 アスナはゆっくりと……しかし、決然とした意志とともに、セイバーの剣を握り締めた。

「……わかりました、セイバーさん。どうか私の剣となって、私に勝利を……聖杯を!」
「心得た。今よりそなたが、この私……漆黒の騎士の、剣の主である」

 黒の剣士が、アスナの隣に並び立つ。
 それが親しみ慣れた『彼』でないことを寂しく思い、しかしその『彼』を取り戻すための戦いなのだと、アスナは固く目を閉じた。
 この目を開いたとき、戦いは始まるのだ。


【クラス】
 セイバー
【真名】
 漆黒の騎士@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡
【パラメーター】
 筋力:B++ 耐久:A+ 敏捷:B 魔力:C 幸運:C 宝具:EX
【属性】
 混沌・善
【クラススキル】
 対魔力:B…魔術発動における詠唱が三小節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法を以ってしても、傷つけるのは難しい。
 騎乗:-…重厚な装甲を纏う鎧騎士(ジェネラル)であるため、騎乗スキルは所持していない。
【保有スキル】
 再生:C…致命傷を受けない限り、いかなる傷を受けようと自動的に修復される。治癒速度こそ凄まじいが、特殊な呪いなどで受けた傷を癒す効果はない。
 心眼(真):B…修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
 『月光』
  種別:対人魔剣
  最大捕捉:1人
   女神の祝福を受けし神剣エタルドと、漆黒の騎士が幾多の戦場で磨き上げた剣技が合わさることで生まれる必殺の「魔剣」。
   瞬間的に自分の筋力を3倍にまで引き上げ、同時に攻撃対象の耐久を2ランクダウンさせて斬撃を放つ。
   宝具の域には至らない純粋な「剣技」であるため、対象が魔術・宝具で防御した場合は耐久低下がキャンセルされる。
【宝具】
『神剣エタルド』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~3 最大捕捉:1人
 女神アスタルテの祝福を受けた大剣。漆黒の騎士を無敵足らしめる、象徴が内の一つ。
 いかなる激戦であろうとも決して破損しない不壊の特性を持つ。
 剣風を解放し、飛び道具のように離れた敵を斬る事も可能。
 これは使用回数に制限はなく物理攻撃として扱われ、セイバー自身の筋力の影響を直接受ける。
『女神の祝福を受けた鎧』
ランク:B 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
 女神アスタルテの祝福を受けた鎧。漆黒の騎士を無敵足らしめる、象徴が内の一つ。
 デインの狂王アシュナードが装備している『敵の攻撃を無力化する鎧』と同等のものであるとされる。
 その鎧に与えられた祝福により、ランクB以下の全ての攻撃を無効化する。
 ただしハンマーなど鈍器での攻撃には効果を発揮しない。
『しっこくハウス(身の程をわきまえよ)』
ランク:EX 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
 本来はユーザーの間に流れたネタに過ぎなかった漆黒の騎士の逸話が、演じた声優と公式絵師の眼に留まりイラスト化されたことで宝具に昇華したもの。
 建物から扉を開いて外に出るとき、EXランクの気配遮断効果を発生させ、敵に探知されず先制攻撃が成功する権利を得る。
 傭兵アイクと彼が率いる傭兵団が港町トハで敵軍と交戦しているとき、何の変哲もない民家から突如漆黒の騎士が現れた。
 予想だにしない難敵の出現に傭兵団は大いに動揺し、その圧倒的な武威を前に勝利することは叶わなかったとされる。
 このときの漆黒の騎士は「民家の前を自軍で塞いでも強引に押しのけて出現する」という、プレイヤーが妨害できないシステム処理をされている。
 この因果逆転の処理により、真名解放すると「扉から出て敵に攻撃を加えた」という結果を作ってから「扉を開いて外に出る」という原因を作る。
 ただし「扉を開いて外に出る」という原因が成立し得ない環境(野原や河川などの開けた土地、扉そのものが破壊された場合など)では発動できない。
【weapon】
 神剣エタルド
【人物背景】
 TVゲーム「ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡」に登場する人物。
 テリウス大陸東部に位置する「デイン王国」の将軍にして、中でも特に強力とされる四人の将軍=「四駿」最強の騎士。
 漆黒の鎧に身を包み、女神の加護を受けた神剣エタルドとともに幾多の戦場を駆け抜けた。
 彼の願いは剣技の師を超えることであったが、その決着は不本意な形で終わることになる。
 その後、師の息子が成長し、父の剣技を受け継いで漆黒の騎士と激突。
 漆黒の騎士は敗れたものの、師とその息子、二人の偉大な戦士と戦えた己の人生には確かに意味があったのだと、満足して逝った。
 正体は「ベグニオン帝国」からデイン王国に送り込まれた間者。本名はゼルギウス。


【マスター】
 結城明日奈@ソードアート・オンライン
【マスターの願い】
 桐ヶ谷和人=キリトの回復。
【weapon】
 レイピア
 クレスト・オブ・ユグドラシル(レジェンダリークラスの杖)
【能力・技能】
 ALOのアバターでの参加。種族は回復魔法と水中活動に長け、水属性魔法が得意な水妖精族ウンディーネ。
 身体能力の上昇、飛行などの基礎能力に加え、SAO由来の剣技(ソードスキル)、ALO由来の魔法を使用可能。
【人物背景】
 ライトノベル「ソードアート・オンライン」のヒロイン。主人公である桐ヶ谷和人=キリトの恋人。
 天才科学者「茅場晶彦」によるデスゲーム「ソードアート・オンライン」の被害者であり、生還者。
 人柄はいたって真面目かつ温厚であるが、恋人であるキリトのこととなるとやや歯止めが効かなくなる一面もある。
 SAO、その後継たるALOなどのフルダイブ型ゲームのスキルは非情に優秀。SAO時代には「閃光」の二つ名を持ち、俊敏性と正確さに定評のある超一流のプレイヤー。
 ALOではパーティの支援・回復を受け持つヒーラーでありながら、機を見て細剣を手に前線へ飛び込んでいく勇猛さを見せる。ついたあだ名は「バーサクヒーラー」。
 現実世界では家族や親族との間に溝を感じていたが、SAOやALOを通して出会えた仲間に支えられて和解する。

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