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 夕焼けは彼岸の色。かの地において、それは死を暗喩する。










   ▼  ▼  ▼





 ……小鳥の囀りが遠くで聞こえた。
 柔らかな風が頬を撫でる感触に、すばるは目を開けた。

「ようやく目が覚めたのかい、すばる」

 一面の草が揺れる緑の平原。隣に座っていた少年が呆れたように薄く笑う。あの黒いローブ姿ではなく、白を基調にした穏やかな色彩の服装。長い髪を無造作に背中に流した彼はおもむろに立ち上がり。

「まったく。君があまりにも気持ち良さそうに眠ってるから、結局起こせなかったじゃないか。思ってたより時間も経ってしまったし、貸し一つだからね」

 そう言って手を差し伸べる少年に掴まり、立ち上がる。
 頭上には、どこまでも澄み切った青空。
 鳥の群れが緩やかな弧を描き、風の向かうほうへ消えていく。

「どうしたんだい、すばる?」

 不思議そうに問う少年を見上げ、少し迷ってから口を開く。
 いったい何が起こったのか、わたしたちはどうなったのか、という問い。
 少年はますます不思議そうに首を傾げ、小さく笑って。

「僕たちがどうなった、か。
 帰ってこれたんだよ。すばる、君と僕の二人で」

 そう言って少年が示す方向に視線を向け、目を見開く。
 降り注ぐ太陽の光に照らされて輝く、とても見慣れた街並み。
 すばるの生まれ育った街。学校へと続く道に、大きな看板が目印のスーパーマーケット。天体観測をする時によく行く神社や、他にも色々。
 平穏な街の風景がそこにはあった。行き交う小さな点の一つ一つは人影。それぞれの日常を謳歌する表情は笑顔に彩られ、にぎやかな声はここまで届いてくるようだった。

「僕がこうしてここにいられるのは、全部君のおかげなんだ」

 独り言のような声。
 視線を向けると、少年ははにかむような響きを湛えてすばるを見ていた。

「僕一人だったら、きっとこうはなっていなかっただろう。生きる意志を失くした僕を、それでも掴みあげてくれたのは君だ。
 感謝している。本当に、心から」

 そう少年は視線を逸らし、なんだか恥ずかしいな、と呟く。
 その姿に小さく笑う。少年は頬を赤くしてそっぽを向き。

「ねえ、すばる」

 名前を呼び、空を見上げて。

「君は今、幸せかい?」

 そうだね、と頷く。

「それは良かった」

 少年もまた、口許に笑みを浮かべる。

「僕は幸せだ。色々なことがあったけど、今、本当に幸せだ。
 ……僕の見る世界は変わった。君が変えてくれた」

 そう言って、少年は左手をそっと差し伸べ。

「だからどうか笑ってほしい。君の生み出してくれた世界は、こんなにも輝いているんだから」

 ありがとう、と少年の手を取り、共に空を見上げる。
 青い空が頭上に広がり。
 緑の草原が見渡す限りに開かれて。
 そして、大切な人が傍にいれば。
 それだけで、すばるの見る世界は美しかった。

 すばるは目を閉じ、心の中で祈る。
 こんな幸せが広がって、みんなが笑顔になって。




 そんな未来が本当にあったならば。
 どれだけ良かったのだろう、と。




 ───世界が、一瞬で黒く塗りつぶされた。





   ▼  ▼  ▼





 アイが戦場から逃げ帰った時には、時刻は既に18時を越えていた。

 誰もいない公園のベンチに腰かける。辺りは物音一つなく、先の破壊的な喧騒など無かったように静まり返っていた。日は未だ沈みつつある途上だが、空は夕焼けを通り越して黒い夜へと移りつつある。アイは空の色を瞳に映して、ほぅと軽く息を吐いた。
 こうしていると村で暮らしていた時のことを思い出す。かつてのアイは、毎日毎日日が沈むまで、ショベルで土を掘り返しひたすらに墓を作っていた。体を包む心地のいい疲労感と、何かをやり遂げた誇らしい達成感。幼い日のアイは、繰り返す日常の中で確かな充足を味わっていた。それがどうにも、今の状況と重なっているように思えた。

 かつてと今で違うことは、そこには達成感も充足感もないということ。
 かつてと今で同じことは、結局自分は何をもできなかったということ。

「……本当に、ちっぽけですね、私は」
「何言ってんだ、突然」

 かけられた声に思わずびくりと反応してしまう。振り返って見れば、そこには席を外していたはずのセイバーの姿。
 若干呆れたような様子で、彼は何かを差し出してきた。

「ほら、適当にだけど買ってきたから食っとけ。昼からずっと動きっぱなしで碌に休むこともできなかっただろ、お前」
「あ……はい、ありがとうございます」

 おずおずと受け取って、膝の上に置いた手に視線を落とす。透明な袋に入った、これは多分パンなのだろう。アイが知ってるそれよりもずっと柔らかかったけど、うん、きっとそうだ。
 切れ込みから袋を裂いて取り出し、一口齧る。練り込まれたバターの香りが鼻孔をくすぐる。胃袋が空っぽ同然のこの状態なら間違いなく美味しいはずなのに、味なんてさっぱり分からない。
 初めて食べるたくさんの具が入ったパンも、おにぎりという不思議な食べ物も、まるで土の塊を食べているかのよう。
 煩雑に並べられた食糧を、ミルクで無理やり飲み下していく。
 無言の時間が、少しの間続いた。

「あの……」
「なんだ?」
「すばるさん、まだ起きないみたいで……」
「ああ、そのことか」

 ベンチに座るアイの横には、すばるが仰向けに横たわっていた。
 身動きの一つもなく、その瞼は閉じられたまま。あれからずっと眠り続けていて、起きる気配は全くない。
 無理やり起こそう、とは思わなかった。
 セイバーもまた、そんなアイの気持ちを知ってか知らずか、アイの好きなようにさせていた。

「大して時間も経ってないんだから焦る必要もないだろ」
「それはそうですけど、心配なんです。セイバーさんみたいに、万が一ってこともありますから」

 言ってアイはセイバーのほうをじっと見遣る。
 何だか責められてるような気がして、セイバーは罅の残る右半身を隠すように姿勢を正した。

「……鈍痛は残ってるが、その程度だ。俺は大丈夫だよ」
「セイバーさんの大丈夫は信用できないんです」

 返す言葉もなかった。
 ともあれ無事なことを納得したのだろう。アイは両ひざをつき、未だベンチで眠ったままのすばるへと慈しむようにその手を差し伸べた。その手は祈りであるかのように、厳かに組まれて。
 それが眠り続ける彼女への祈りか、犠牲となった誰かへの鎮魂なのかはセイバーには分からなかった。
 ただ、そうしたアイの姿は純粋に綺麗だと思った。
 綺麗であると同時に、どこか痛ましくもあった。藤井蓮は知っている。祈りはどこにも届かない。神に縋っても良いことなど何一つとしてないのだと。
 それは誰よりアイが一番知っているはずだ。神さまなんてどこにもいない。祈れば叶う奇跡など、彼女の半生に一つ足りとてなかったのだから。
 けれど、少女は祈る。アイ・アスティンというちっぽけな一人の少女は祈る。
 それは神や運命といった超越的なものに訴えかけるものではない。アイとアイの向き合う者が持つ心に訴えかけた、それは少女だけの祈りであるからだ。

「……ねえ、セイバーさん」
「なんだよ」
「アーチャーさんは、救われたんでしょうか」

 だから。
 そんな少女の問いかけを、セイバーははぐらかすこともできずに。

「……さあな」

 そんな、当たり障りのない答えしか返すことができなかった。

「そんなことをいくら考えても、全部徒労だよ。死んだ奴はもう何も言わないし、何を考えてたのかだって分からないわけだしな」

 結局のところ、セイバーにとってはその結論が全てだった。失ってしまったものは、常に思い出の中だけで輝き続ける。現実に帰ってくることは決してない。
 そうですね、とアイ。二人は隣り合うように座って、誰ともなしに空を見上げる。
 再びの沈黙が、二人の間に流れた。

「あれからですね、私も少し考えてみたんですよ」

 ふと、アイがそんなことを言った。セイバーは特に思い当たる節もなかったので、怪訝な顔をした。

「世界の話です。視点の話、と言い換えることもできますけど」
「ああ、あれか」

 人の見る世界は個々人の視点によって姿を変える、というやつだ。確かにそんな話をしたような覚えがある。

「あれからずっと考えてました。世界は私の想像以上に大きくて複雑で、そんなとんでもないものをどうやったら救うことができるのか」

 そこでアイは一旦切って、大きく息を吸い、意を決したように。


「私は多分、"みんな"を助けたかったんだと思います」


 そんなことを、言った。

「……」
「私の世界は"みんな"で出来ています。私の世界やこの街で出会った皆さんや、他にもいっぱい、みんなの世界がひしめき合って、響き合って、ずっとずっと続いていくかのような。
 そんな世界が、私は好きです。私はそれを、手助けしていきたいって、そう思いました」

 セイバーは無言のままだった。アイは正面だけを見据えて、重く、言葉を続けた。

「でも、みんなの世界は、私のものじゃなく皆さんそれぞれのもので。私が救う、なんてことはそもそもできないんです」

 アイは悲しげだった。せっかく答えを一つ見つけたというのに、悲しそうだった。

「だから私は、どうか皆さんが自分の世界を見捨てないようにって、そう願いました。それ以外なら、私はいかなる害悪からでも世界(みんな)を守ります。けど……でもそのひと本人が、自分の世界を壊すのを、私は止めることができません。その人が『もういいんだ』って諦めたものを、私はどうしたって救うことができないんです。
 だってその人の世界を救えるのは、その人だけなのですから」
「……」

 何も答えない。セイバーは黙ったままだ。

「ですから、セイバーさん。アーチャーさんは、救われたんでしょうか。
 あの人は最後まで、自分自身のことを諦めないでいてくれたんでしょうか」
「……」

 問いには答えず、数瞬の間が空く。
 セイバーは呆れたように、あるいは不貞腐れたように、億劫な所作で頭をかきながら言った。

「なんていうか」

 残念そうな、視線を向ける。
 セイバーの表情を彩るのは、どのような感情であったのか。傍目からも、本人すらも、判然としなかった。

「変なところで馬鹿真面目だよな、お前。みんなのためとか、結局世界全体のことから何も変わっちゃいない」
「なんですか、それ。私は真剣に……!」
「じゃあ聞くけどな」

 そこでセイバーは体ごとアイへと向き直り。

「みんなのためにってお前はそう言うけど、それって一体誰なんだ?」
「え?」

 身も蓋もない疑問を突き付けられた。
 "みんな"とは誰かという、そんな子供でもしないような、簡単なもの。

「それは、だからみんなはみんなで……」
「だから誰だよ。具体的に言えよ。顔も名前も知らない、どこかにいるはずのお前の助けを求めてる誰か?
 いねえよ、そんな都合のいい奴は」

 顔も知らない人々、不特定多数の弱者、救済を求めて喘ぐどこかの誰か。
 そんなものを救い上げるというアイの理想は確かに尊いだろうが、そんな"誰か"はどこにもいない。
 そもそもアイのことを知りもしない大多数の人間が、アイに助けを求めるなんてできるわけがないのだ。アイの言うことは前提から破綻している。

「助けたいって言うんならちゃんと名前を口にしろよ。大切だって叫んでやれよ。お前のために頑張ってると、面と向かって自慢してやれ。話はまずそこからだろうが」
「何を、言ってるんですか」

 声が無意識に震えだす。何故ならそれは、アイにとっては夢の根本を否定されたに等しいことだったから。

「それってつまり、自分の周りの人だけ見てろってことじゃないですか」
「ああそうだよ。さっきからそう言ってるだろ」
「そんなこと認められません! そんな自分勝手な、私の大事な人だけを贔屓にするなんてこと!」
「なんで?」
「なんでって!」

 信じられない質問だった。そんなことは答えるまでも、いや考えるまでもない自明の理だった。
 世界(みんな)を救う自分は、そんな狭いところで足踏みしていることなど許されない。
 自分の大切な人を守り、自分とその周りだけが幸せになるなどということが。
 許される、わけが。

「だったら、お前が誰かを助けたいってのと同じように、お前を助けたい誰かがいたらどうするんだよ」
「……え?」

 予想もしていなかった、と言わんばかりにぽかんと開けられる口。
 そんなアイに構うことなく、セイバーは言葉を続ける。

「お前のことが大切で、お前のことを助けたくて、お前のために頑張ってる奴がいたらどうする?
 お前を救うことがそいつの救いだとしたらどうする?
 友人なり家族なり、お前の幸せだけを願ってる奴を、お前はどうするつもりなんだ?」
「そ、そんな人、いるわけ……」

 いるわけがない。
 そう言おうとしたアイの口は、しかし音を紡ぐことはなかった。

「いるだろ、お前にだって、もう」
「……」
「旅の連れが、いるんだろ?」
「……」

 アイは、口をつぐんだ。
 ユリーやスカーのことが、思い出された。

「そいつらはお前と世界、どっちが大切なんだろうな」
「……」
「ユリーって奴や、スカーとかいう墓守。お前の父親に、母親に、同じ村で暮らした47人の人間たち。生きてる奴らも死んでる奴らも、お前を幸せにしたいって連中はそんなにたくさんいるのに、お前はそいつら全員見捨てて、"みんな"なんてもんのところに行くんだな」

 アイは、何も答えなかった。

「お互い、不幸者だ」

 セイバーは言い、背もたれに体重を預けた。
 沈黙が場を満たした。先程までの、会話がなくとも気まずくなどなかったそれとは違った。互いに黙り込んで、居心地の悪い空気が二人の間を流れた。

 そのまま一分、二分と時間が過ぎていった。巣に帰る鳥の鳴き声だけが聞こえてくる。身じろぎの一つさえ、アイは取れなかった。

「そういえば」

 不意に、前を向いたままのセイバーが口を開き。

「さっきの質問、アーチャーが救われたかどうかってやつだけどな。
 何度聞かれても同じだよ。分からないとしか、俺は言えない」

 その結論を曲げるつもりはセイバーにはなかった。
 死んだ者は何も言わない。人の思考を外から覗くことはできない。そこを無視して、他人の考えを知った風に語る趣味を、彼は持たないから。
 けれど。

「けどさ、あいつは最後に笑ってたよ。
 すばるを身を挺して守って、それでも笑って消えていった」

 あの瞬間に垣間見たそれだけは、決して変えることのない真実だった。
 アーチャーは、あの真名も分からぬ少女は、己が主を守って死んだ。そのことを誇るように、良かったと言うように、笑って逝ったのだ。
 顔も知らない誰かではなく、大切な一人のために。

「そう、ですか。アーチャーさんは、笑えたんですね」

 知らず、アイの口元にも安堵したかのような笑みが浮かんだ。アーチャーが死んでしまったことに変わりはないけど、それでも一抹の救いがあったのだと信じることができたから。

「嬉しい、なんて言えないですけど。でもアーチャーさんがせめて満足して逝けたなら……良かったです、本当に」
「ああ、良かったなアイ。自慢してもいいぞ」
「いや、なんでそこで私が出てくるんですか」
「分からないか?」
「分からないです」

 本当に分からないといった風情のアイに、セイバーはさも当然といった口調で。

「すばるは、アーチャーの遺した希望だ。すばるが生きているのは、アイ、お前がいたからだ」

 不出来な子供を褒めてやるかのように。

「お前が助けたんだ」

 そんなことを、言った。

「……それは違いますよ、セイバーさん。すばるさんを助けたのはアーチャーさんで、戦ったのはセイバーさんです。私なんて、何もできて……」
「あのな」

 呆れたように言う。

「確かに、実際に戦ったのは俺だ。自画自賛なんてするつもりはないけど、俺がいなかったらアーチャーどころかすばるも死んでただろうしな。
 けど俺があの戦場に行ったのは、お前がそうしようって行ったからだぞ」
「それは……」
「言っておくが、俺一人だったら絶対行かなかったからな。薄情と言われようとそれが事実だ。俺はアーチャーを信用していなかったわけだし」
「ちょ、初耳なんですけど」
「そりゃまあ、言ってなかったしな」

 なんて自分勝手な、とアイは思った。
 けれど、だからこそ過去の選択は、自分の意思があってこそだと思うことができて。

「なあ、アイ。お前はあの時、なんでアーチャーのところに行こうとした?
 自分が死ぬかもしれないのに銃弾から庇ってまで、すばるのことを助けようとした?」
「……そんなの、決まってます」

 アイは、決然と言った。

「すばるさんとアーチャーさんを、助けたかったからです」

 それを聞いたセイバーは───
 笑った、ようにも見えた。

「……はは」
「む、なんで笑うんですか」
「いや悪い。だってさ、言えたじゃんか。"誰か"の名前」

 言われて、アイはようやく気付く。
 その言葉は不意打ちめいて、思わず驚いた表情になってしまう。けどすぐにそれも沈んで、絞り出すように呟く。

「けど、私はアーチャーさんを……」
「助けられなかった、か?」
「そうです、そうですよ。私の力が足りなかったばかりに。死んでしまっては、どうにもならないのに」
「そうだな。あいつは死んだし、本当に救われてたのかだって分からない。
 けど、お前は助けることができたんだ。誰かじゃなくて、すばるのことを」

 救いたいと思う、誰か。
 顔も知らないどこか遠くの人間じゃない。アイが出会って、向き合って、親しくなった大切な人。
 アイが確かに、その手で助けることのできた、初めての一人。

「忘れるな。死なれちまった悲しさを。そしてお前の手の中にある確かな温もりを。
 いつかお前が、親しい人と向き合うために。本当の意味でそいつを救えるように」

 言われ、アイは自分の手と、握るすばるの手を見下ろした。
 眠るすばるの手のひらは、それでも確かに暖かかった。

「でも、私は……」

 アイは、ぎゅっと目を瞑り。

「それでも私は、一人でも多くの誰かを……一つでも多くの幸せを、助けたいんです」

 振り絞るように、あの日の誓いを口にした。
 その瞬間。

 ───瞼が、開いた





   ▼  ▼  ▼





 夢からの覚醒は唐突だった。
 夕闇の中、ベンチの上に横たわる自分の姿に、すばるは唐突に気が付いた。

 頭は、何か靄がかかったようにはっきりとしない。
 全身がだるくて、妙に寒気もした。訳もなく体が震え、痛みもないのに酷く悪寒が走る。

 アイが驚き、次いで何かを言っている。心配そうな顔、多分、自分を気遣ってくれている?
 けど聞こえない。それだけの余裕がなくて、耳は音を拾ってくれない。周囲がしんと静まり返ったように感じられる。
 胸が締め付けられるような感触を覚えた。

「ずるいよ、みなとくん……」

 声が漏れる。
 無意識に漏らした声。それだけは、不思議と音として耳に捉えることができた。

「最期にあんなこと言って……そんなんじゃわたし、もう何も言えないよ……。
 まだ生きてって、死んじゃダメだって、そんなこと言われたら……もうずっと、みなとくんに会えないじゃない。同じところになんか行けないじゃない……」

 頬を一つ、雫が落ちる。
 見開かれた眼窩を伝い、大粒の涙がこぼれる。それはひたすらに、すばるの頬を濡らして。

「いつも勝手だよ、みなとくんは……。
 大事なことは何も言ってくれないし、みなとくん一人だけでずっと抱え込んで……わたし、まだお礼だって言えてないのに。
 本当はずっと、みなとくんに感謝してた。みなとくんのことを頼りにしてた……こんなわたしの傍にいてくれてありがとうって、これからも一緒にいようねって……わたしずっと、そう言おうと思ってて……」

 言葉が途切れる。
 すばるは泣き濡れた顔のまま、戦慄く両手を見下ろし。

「……ああ、そっか」

 ようやく気が付いたと、目尻を大きく歪ませて。

「わたしは……みなとくんに、恋してたんだ」

 響き渡る、慟哭の声。
 ただ見守るアイと蓮の前、すばるはひたすらに嗚咽を漏らし、夜半の風を震わせた。



【C-3/北部/一日目・夕方】

【すばる@放課後のプレアデス】
[令呪] 三画
[状態] サーヴァント喪失、深い悲しみ
[装備] ドライブシャフト
[道具] 折り紙の星
[所持金] 子どものお小遣い程度。
[思考・状況]
基本行動方針: 聖杯戦争から脱出し、みんなと“彼”のところへ帰る……そのつもりだった。
0:……
[備考]
C-2/廃校の校庭で起こった戦闘をほとんど確認できていません。
D-2/廃植物園の存在を確認しました。
ドライブシャフトによる変身衣装が黒に変化しました。
使役するサーヴァントを失いました。再度別のサーヴァントと契約しない限り半日ほどの猶予を置いて消滅します。



【アイ・アスティン@神さまのいない日曜日】
[令呪] 三画
[状態] 疲労(中)、魔力消費(中)、右手にちょっとした内出血
[装備] 銀製ショベル
[道具] 現代の服(元の衣服は鞄に収納済み)
[所持金] 寂しい(他主従から奪った分はほとんど使用済み)
[思考・状況]
基本行動方針:脱出の方法を探りつつ、できれば他の人たちも助けたい。
1:"みんな"を助けたかった。多分、そういうことなんだと思う。
2:ゆきの捜索をしたいところだが……
3:生き残り、絶対に夢を叶える。 例え誰を埋めようと。
4:ゆきを"救い"たい。彼女を欺瞞に包まれたかつての自分のようにはしない。
5:ゆき、すばるとは仲良くしたい。アーチャー(東郷美森)とは、仲良くなれたのだろうか……?
[備考]
『幸福』の姿を確認していません。
ランサー(結城友奈)と20時に鶴岡八幡宮で落ち合う約束をしました。


【セイバー(藤井蓮)@Dies Irae】
[状態] 右半身を中心に諧謔による身体破壊(修復中)、疲労(中)、魔力消費(中)、霊体化
[装備] 戦雷の聖剣
[道具] なし
[所持金] マスターに同じく
[思考・状況]
基本行動方針:アイを"救う"。世界を救う化け物になど、させない。
1:聖杯を手にする以外で世界を脱する方法があるなら探りたい。
2:悪戯に殺す趣味はないが、襲ってくるなら容赦はしない。
3:少女のサーヴァント(『幸福』)に強い警戒心と嫌悪感。
4:ゆきの使役するアサシンを強く警戒。
5:市街地と海岸で起きた爆発にはなるべく近寄らない。
6:ヤクザ連中とその元締めのサーヴァントへの対処。ランサーの誘いに乗る……?
[備考]
鎌倉市街から稲村ヶ崎(D-1)に移動しようと考えていました。バイクのガソリンはそこまで片道移動したら尽きるくらいしかありません。現在はC-2廃校の校門跡に停めています。
少女のサーヴァント(『幸福』)を確認しました。
すばる、丈倉由紀、直樹美紀をマスターと認識しました。
アーチャー(東郷美森)、バーサーカー(アンガ・ファンダージ)、バーサーカー(式岸軋騎)を確認しました。
アサシン(ハサン・サッバーハ)と一時交戦しました。その正体についてはある程度の予測はついてますが確信には至っていません。
C-3とD-1で起きた破壊音を遠方より確認しました。
ライダー(ドンキホーテ・ドフラミンゴ)を無差別殺人を繰り返すヤクザと関係があると推測しています。
ライダー(ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン)及びアサシン(アカメ)と交戦しました。



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051:盤上舞踏 投下順 053:盲目の生贄は都市の中
044:深蒼/真相 時系列順 054:夢より怪、来たる

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045:あの日見た星の下で -what a shining stars- アイ・アスティン 0:[[]]
セイバー(藤井蓮) 0:[[]]
すばる 0:[[]]

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