「殺しなさい、アサシン」

 透き通った声が凛と告げるや否や、あわや乱戦の相を呈していた鉄火場は即座に終幕を果たした。
 最初に、セイバーのマスターである少年の額に……砂粒程の大きさの赤い点が生じ。
 次に、ライダーを従えた妙齢の女性の首筋が、赤い絵具を撒き散らすスプリンクラーに変わる。
 何が起きたのか、皆目解らない――彼らに跪いた英霊達の思考は、敢えなく空白に塗り潰された。
 そして、それこそが彼らにとって最大の過ちだった。

 音もなく接近を果たした青年の魔手が、騎士の鎧の継ぎ目を縫い、胴を一突きで抉り抜く。
 そのまま抉じ開けるようにして体内を破壊し、心臓……もとい、霊核の根幹をぐしゃりと握り潰した。
 漸く事の重大さを理解したライダーは、己がマスターを殺された事実へ憤激し、宝具を解き放ち突貫に打って出る。

 が。
 彼の行く末を阻んだのは、今しがた惨殺されたセイバーの剣であった。
 核を砕かれた英霊が取り落とした剣を拾い上げ、青年がライダー目掛け投擲したのだ。
 当然、ライダーはそれを払い除ける。剣士の誇りすら侮辱する敵手の遣り口へ怒りを燃やしつつ、再度討つべき怨敵を見据えた時、既にそこへ彼の姿はない。
            ・・
 「貴方は、私から注意を一瞬逸らした」

 響く、死神の声。
 後ろか――目を見開き振り返った時、ライダーの頭部は、青年の細腕に磨り潰されていた。
 斯くして、今宵の鎌倉伝説は一旦幕を閉じる。
 白き少女と黒衣の暗殺者による、圧倒的な蹂躙劇という結末で。

 散らばる屍。
 砂粒で頭を射抜かれた少年は、何が起きたのかすら分からないといった表情のまま絶命しており。
 首を裂かれた美女もまた、同じ表情で地面を朱く朱く、都市伝説らしいセンセーショナルさで塗りたくっている。

 ――英霊といえど、この程度か。
 この程度なら、幾らでも殺れる……アサシンのサーヴァントは、自らの血に濡れた利き腕を見、心の内で呟いた。


 「驚いたわ。優れた殺し屋だってことは知っていたけど、まさかこれほどなんてね」


 まさに無双と呼ぶ他ない大活躍を見せ、本選への道を阻む外敵を瞬殺した自分のサーヴァントへと――彼を従えるマスターの少女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは惜しみない賞賛を送る。
 普通、アサシンのサーヴァントは聖杯戦争に於いて些かスペックで見劣りするものだ。
 彼女とて、もしもクラスの選択が自在に出来るならば……少なくとも、アサシンやキャスターのクラスは選ばなかった。しかし、自身へあてがわれたのは暗殺者。黒髪と黒衣が特徴的な、甘いマスクの青年であった。
 無防備を晒す敵マスターを躊躇なく初撃から狙い、何の防備も用意していなければ先程の二人よろしく確実にそこで命の芽を摘み取る。仮に防いだとしても、数多の搦手を自在に駆使し――これまで十騎もの英霊を討ち取ってきた。

 その手腕たるや、まさに『死神』のもの。
 首を薙ぎ切る一閃を避けようと、安堵した頃には一周を回り切った大鎌が再び襲い来る。
 彼ほど暗殺者という言葉を体現した英霊など、数えるほどしか居はすまい。

 「このくらいは朝飯前ですよ、イリヤスフィール。それに――私がこれまで、一度として苦戦することなく勝ち延びられているのは、単に相性の問題でもある」
 「相性?」
 「そう、相性です。この私を倒そうと思うなら、私の力では壊せない耐久力を持ってくればいい」


 指を一本立て、教え子へ教授するようにアサシンは語る。
 彼の強さとは、即ち一撃必殺の類だ。
 人間程度ならば砂粒一つで射殺する。
 サーヴァントであれども、鍛えた技巧を駆使して容易く扼殺できる。
 しかし。しかしだ。そんな彼の技も、己の手で貫けない相手へは通じない。

 「真に優れた殺し屋は萬へ通ずる。
  自慢ではないが、私はそれを地で行く暗殺者であると自負している。
  但し、私が極めたのはあくまで人殺しの為の技術だ。英霊や怪物を殺すには、それこそ彼らお得意の聖剣や摩訶不思議な光の矢でも持ってきた方がずっと手っ取り早いでしょう。
  ――その代わり、『死神』の鎌から逃れられる『人間』はこの世にいない」

 例え魔術の道を極め、万全の結界の中へ閉じ籠られようとも。
 そんなもの、言ってしまえば単なる強化ガラスの壁と何ら違わない。押し破り、脱出へ繋げることなど……こう言えば魔術師であるイリヤスフィールは気を悪くするかもしれないが、朝飯前である。

 「ええ、そうでしょうね。貴方の力は十分見せてもらったわ」

 彼ならば、勝てる。
 この鎌倉へ集ったマスター全員を殺し、聖杯を手に入れることができる。
 痛ましい闘いの痕跡へ背を向け、イリヤスフィールは自らの拠点へと戻るべく歩き始めた。

 「勝ちましょう、アサシン。聖杯を手に入れるのよ」
 「……勿論、そのつもりです。願いを叶える杯の力――ただ見送るには惜しすぎる」

 片や、ひとつの悲願のため。
 片や、過ぎたる好奇心で。
 ――白い少女と黒い死神は、鎌倉の大地を朱く染める――


【クラス】アサシン
【真名】『死神』@暗殺教室
【属性】秩序・悪

【ステータス】
 筋力:D 耐久:D 敏捷:A+ 魔力:E+ 幸運:D 宝具:B


【クラススキル】
 気配遮断:A-
 サーヴァントとしての気配を絶つ。
 完全に気配を絶てば、探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
 但し、彼自身の『奥の手』である宝具を使用した場合、このスキルはEランク相当にまで減退する。

【保有スキル】
 専科百般:A
 萬に通ずる殺し屋の能力。
 戦術、学術、隠密術、狩猟術、話術、医術、武術、馬術、
 その他総数32種類に及ぶ専業スキルについて、彼自身の宝具によるブーストも含めてBランク以上の才能を発揮できる。

 対英雄:D
 時に国家要人すら仕留めてきた逸話の具現。
 英雄に値する人物へ攻撃を仕掛ける場合、初撃に限りその耐久値を1ランクダウンさせる。

 破壊工作:A
 戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力をそぎ落とす才能。
 トラップの達人。
 ランクAならば、相手が進軍してくる前に六割近い兵力を戦闘不能に追いこむ事も可能。
 ただし、このスキルが高ければ高いほど、英雄としての霊格は低下していく。



【宝具】
 『優れた殺し屋は萬に通ず』
 ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~30 最大補足:1~50人
 凡そあらゆる技能技術を会得し、殺し屋の世界では最強とまで呼ばれた伝説が宝具化したもの。
 斬殺、射殺、毒殺、扼殺、撲殺、殴殺、謀殺――彼はあらゆる殺し方を極めた暗殺者であるため、様々な武芸を達人の域で使用することが出来る。この宝具によって「専科百般」「破壊工作」のスキルも間接的に強化されている。

 『悪情淀みし破壊の胤(アンチマター・アースキャンサー)』
 ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~40 最大補足:1~50人
 生前、彼がある機関によって実験動物とされる事で手に入れた、人智を超えた破壊の力。
 この状態になったアサシンの気配遮断スキルは大きく低下し、全身から反物質の触手が出現する。この触手の殺傷能力は極めて高く、彼の弱点である耐久力の高い敵へも一定の効果を見込むことができる。
 宝具使用時、アサシンはBランク相当の狂化スキルを獲得するが、理性を完全に失う事はない。
 ただ狂化の影響で周囲へ目を配る力は目に見えて減退しており――或いはこの宝具を使用している間こそが、最強の殺し屋にとって最大の隙なのかもしれない。

【weapon】
 色々。

【人物背景】
 世界最強と称された伝説の殺し屋。
 無法地帯のスラム街で生まれ育ち、幼い頃から世界の縮図を悟り殺し屋の道へ走る。
 依頼を受ければ誰でも殺し、稼業を熟す為にあらゆる技術を身に付けてきたが、ある時育てた弟子からの裏切りを受けて、研究機関に捕縛され、モルモットとして反物質を植え付けられることになる。
 その後彼は狂乱と喪失の末、『教師』として生きることになるのだが……今回の彼は『殺せんせー』ではなく『死神』として召喚された為、そこに善性らしいものは存在していない。

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯の獲得。


【マスター】
 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night

【マスターとしての願い】
 聖杯の獲得。

【weapon】
 無し。

【能力・技能】
 優れた魔術の腕前。
 理論を無視し結果のみを現出することが出来る為、そのレベルは最早一流の魔術師に匹敵して余りある。

【人物背景】
 「最高傑作」と謳われる、アインツベルンのホムンクルス。
 第四次聖杯戦争開始に先立ち、アイリスフィール・フォン・アインツベルンの卵子と衛宮切嗣の精子を用いて作り出された。なお、ホムンクルスでありながら、その過程でアイリスフィールの母胎から「出産」されることで生を受けている。
 生まれながらに「聖杯の器」となることが宿命づけられており、母親の胎内にいる間から様々な呪的処理を為されている。しかし反作用として、発育不全・短命などのハンデも背負っている。

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