相模湾、波もなく月を映す漆黒の海上に、光が爆ぜた。
 立ち昇る光は明るく、煌びやかで、天へ駆けのぼる御柱であるかのようにそそり立った。
 不可思議な、神秘的な光景だった。
 その光は巨大であるが故に明るかったが、しかし決して暖かなものではなかった。
 あまりにも強すぎるのだ。太陽は地上を暖める光なれど、地球のすぐ傍に来てしまえば星ごと燃えてしまうように。その光は人が慈愛の象徴と見上げるには余りにも強すぎた。
 事実、その光柱に触れた異形群は片端から溶けるように消却されていく。これは人を導くものではなく、対敵を滅ぼすためのものなのだ。

 そして光柱が細まるように収束した先、海面上に浮かぶ漆黒の戦艦の甲板で、二人の男が並び立っていた。

 一人は白衣を纏う学者然とした男。一見して印象に乏しく、ともすれば穏やかさにも似た表情は"虚無"。
 この男は渇いている。端的に潤いが足りない、朽木のような男だった。その心を満たす空虚さは、一体何に端を発するものであるのか。

 もう一人は軍服を着た男。白衣の男とは対照的に、確かな両の脚で地を踏みしめる力強さを感じさせた。その顔に浮かぶは、意志の燃焼。
 それはまるで先程の光柱の如く。滾る情熱は衰えることなく、世界を照らさんばかりに光り輝いている。

「さて、お前はこれをどう見る?」
「どうもこうもないだろう。馬鹿に理屈を付ける徒労など、流石に私でもしたくはない」

 溜息を吐くかのような口調に、軍服の男───甘粕正彦は僅かに苦笑めいた響きを漏らした。
 なるほど確かに、この現象に理屈をつけようとすること自体がナンセンスなのかもしれない。
 唐突に脈絡もなく、天を割り現出した異形の群体。あれが何であるかと問われても、見渡すべき視点の規模が度外れすぎているため何とも言えない。
 ただ一つ言えるのは、これを引き起こした下手人は救いようのない馬鹿であるということだけ。

「何らかの宝具であることは確かなのだろうけどね。君が英霊の座からの知識を得られず集合無意識にもアクセスできないとなると、正体を考察する意味もない。推測にいくら推測を重ねようと、結論は出ないのだから」
「だがある程度の定義は決めておいて損はあるまい。解法の透を使ってみたのだがな、どうもあれは神性に属する存在なのだそうだ」
「……神性? 確か君が言っていた、廃神の類かい?」

 甘粕のいた事象世界において、廃神と呼ばれる概念が存在する。
 妖、異形、化外。呼び名は様々あれど、共通するのは人の思念から生まれた災厄そのものであるということ。
 つまり彼の世界において、妖物や怪異というものは、全て人の夢から生まれた存在なのだ。そしてそれは神であっても例外ではない。

「いや、あれは廃神ではない。人の夢より顕象された紛い物ではなく、正真正銘の神格から生じたものだ。現行人類を根絶し新たに地上を統べるため蠢く、異形の新人類と形容しても良いかもしれん。
 いや全く恐れ入ったよ。こんなものが襲い来る世界というのも存在するのだな。その世界ではさぞや輝かしい勇者が誕生し、種の生存競争を勝ち抜くべく勇気と愛を胸に抱き戦ったのだろう。実に素晴らしい、俺も一度は目にしてみたいものだ」

 甘粕の口調にふざけや冗談の色はない。その全てを、彼は本気で言っていた。
 彼は賛美する。この異形を前に戦ったであろう異邦の勇者を、この事態を引き起こすまでに焦れた願いを持つ誰かを、そして未曾有の大災害に奮起するであろう無辜の民衆たちも。
 試練を前に意志を輝かせ、勇気を振り絞る人間の何と美しいことか。

 故に。

「故に、これだけの事を仕出かしたのだ。当然俺と戦う覚悟もあるのだろう?」

 そう信じるがため、甘粕は止まらない。
 聖杯に託す願いのため、世界を滅ぼし人々を殺戮してでも己が道を貫き通すその気概、実に見事。
 それだけの大業は生半な意志で実行できることではない。ならば当然、その過程において立ちふさがる俺と戦い捻じ伏せるだけの覚悟はあるはずだ。

 故に。
 故に、次に彼の取る行動は決まりきっていた。

「切なる願いと覚悟で殴られた、ならば俺も殴り返そう。そして願わくば、異形の神性統べる主よ。再び俺を殴り返すがいい。その交情こそ人の証、意志と意志のぶつかり合いこそが我が願い。
 そうだ、諦めなければ誰もが願いを叶えることができると信じているから! 俺に殺された程度で倒れるな。そして見せてくれ、その輝きが真に尊いのだという証明を! この俺を打ち倒すことで!」

 そして───甘粕の掲げた手のひらに魔力が収束していく。
 その光景を前に、今まで己は背景の一部だと言わんばかりに自らを主張しなかった白衣の男は、らしからぬことに戦慄の声を上げていた。

「いや、なんだそれは少し待て。甘粕、君は……」

 制止の手を伸ばそうとして、けれどその手は絶望的なまでに間に合わない。
 否、仮に届いたとして、それで彼を止めることなどできなかっただろう。
 何故なら甘粕は余りにも馬鹿すぎるから。一時の感情に従って全てをご破算にする"やらかし"を、彼はどうしようもなく止めることができない。
 そう、彼はやらかしたのだ。

 夢の形が紡がれる。精緻な造形を基本として、その物質が創形される。
 甘粕の頭上に顕れるは、円筒状の鉄塊。
 それは第二次世界大戦において生み出され、使用された悪魔の兵器。この日本国に消えない傷を刻み込んだ広島の炎。
 既知科学最強の力。一都市を滅ぼして余りある破壊の光。
 すなわち───



「リトルボォォォォイ!!!」



 最早何度目になるかも分からない滅亡が、鎌倉の街に降り注いだ。



【E-2/相良湾沖/1日目・禍時】

【トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA】
[令呪] 三画
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 不要
[思考・状況]
基本行動方針:この聖杯戦争を───
0:何やってんだこの莫迦
1:ならば私がすべきことは……


【ライダー(甘粕正彦)@相州戦神館學園 八命陣】
[状態] 魔力消費(大)
[装備] 軍刀
[道具] 『戦艦伊吹』
[所持金] 不要
[思考・状況]
基本行動方針:魔王として君臨する
0:星屑を召喚した者が尊すぎるから鎌倉滅ぼす。
1:さあ、来い。俺は何時誰の挑戦であろうと受けて立とう。
2:例えこの身が燃え尽きようともだ。


※現時刻を以て鎌倉の街に原爆が投下されます。





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077:きっと誰もが運命の敗残者 時系列順 083:乱舞Escalation

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ライダー(甘粕正彦)
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