港。
 魚釣りを楽しむ釣り人たちを見下ろす形で、レーベレヒト・マースは高台に腰を下ろしていた。
 嗅ぎ慣れた潮風の香りが鼻孔を擽る感覚に、レーベはくしゃみを一つする。
 此処も、百年前には空襲の被害を受けたらしい。
 今の牧歌的な風景からは想像もできない事実だが、あの戦火がこの小さな島国を満遍なく襲ったことはレーベも当然知っている。
 勇ましく出陣していった兵たちの内、一体何名が生きて終戦を迎えられたのだろうか。
 第二次世界大戦――悪夢のような大戦争が終わり、世界が夜明けを迎える瞬間を。
 一体どれだけの人間が、そして艦(ふね)が、それを見ることが出来たのだろうか。

 艦娘。
 レーベの生まれた世界には、そういう兵器が存在した。
 普通の女学生を武装させ、人の領分を超えた力を与えて戦場へと送り出すシステム。
 海の平穏を脅かす深海棲艦と交戦する為に生み出された彼女達は日々海へ出、ある日は輝かしい戦果を挙げて母港へ帰り着き、またある日は無念の撤退を余儀なくされ――時には二度と帰らない娘もいる。
 前世の顛末と、同じように。

 艦娘達のベースとなっているのは、かの第二次世界大戦にて製造され大海原を駆け巡った軍艦達だ。
 必然、その力をコンバートして做られた彼女達は、自らの前世とも呼ぶべき軍艦の記憶を引き継いでいる。
 人によって継承の度合いはまちまちであるが、己の最期の瞬間ならば、誰もが鮮明に記憶していると言っていいだろう。
 Z1型駆逐艦、レーベレヒト・マースもそうだった。
 あの凄惨な戦火を思い出し、眠れない夜を過ごしたことも一度や二度ではない。

 ヴィーキンガー作戦。
 それが、レーベレヒト・マースが轟沈した作戦の名だ。
 友軍機からの誤爆を受け、敢えなく沈んでいく時の景色を覚えている。
 無尽に広がる海原の真ん中、予想できる筈のない友軍の誤爆――それは最悪の結果を招き、Z1型駆逐艦一番艦へ搭乗していた乗組員の内、286名もの命が失われた。
 戦場において、生命の価値は平等に無価値である。
 一度でも銃を取り、血風の舞う闘争のフィールドへ立った者ならば誰もが自ずと理解する普遍の真理。
 ――されど。それに納得できる否かは別問題だった。

 レーベの小さな手は、いつしか握り拳を作っていた。
 眼下でのんびりと休日を謳歌している釣り人達。
 彼らのように平和な日常を過ごす権利は、あの大戦で死んでいった人々にも本来約束されていた筈なのだ。
 そしてそれは、自分や仲間達も同じ。
 艦娘として闘うようになってからも、仲間が轟沈したのは一度二度ではない。
 今までも――そしてこれからも……争いが起こる度、必ず誰かが死んでいく。
 地球という星に生きるちっぽけな生命体の一つでしかないレーベに、それを止めることは出来ない。

 (けど……今は違う)

 レーベは握りしめた拳へ視線を落とす。
 そこには、三画の真っ赤な文様が顕れていた。

 艦娘のそれを遥か上回って余りある交戦能力を保有する超常生命体・サーヴァント。
 そして三度限りではあるが、それを有無を言わさず従わせることの出来る力。
 名を令呪。言わずもがな、この文様を持つレーベもまた、願望器を巡る闘争に身を投ずる挑戦者の一人だ。

 どのようにして、この『艦娘の存在しない世界』にやって来たのかははっきりしない。
 最後に覚えているのは、深海棲艦との交戦中に目眩に似た感覚に襲われ、意識が暗転した所までだ。
 目が覚めた時、自分はどこにでもあるような普通の女学院の教室で授業を受けていた。
 その日常に違和感を覚え、艦娘として戦っていた記憶を思い出し――サーヴァントと対面したのが昨日の出来事だ。
 情けないとは思う。仲間に申し訳ないとも思う。
 でも、全て忘れ去って浸かりきってしまいたいと思うくらい、平穏な日常というものは幸福に満ち溢れていた。

 この日々を――
 この日々を、全ての人が享受できる世界だったらいいのに。
 全てを思い出したレーベは、心の底からそう願った。
 もう、止まることは出来なかった。
 二度と大戦の過ちを繰り返させないこと。
 そして、誰もが優しく穏やかな日常を満喫できる世界を作ること。
 二つの叶うはずのない願いを叶えてみせる為に、レーベレヒト・マースは聖杯戦争に参戦することを決めた。

 潮風になびく髪をかき上げながら、レーベは小さくアーチャー、と呟いた。
 同時。彼女の傍らに、つい先刻までは確実に姿のなかった奇抜な出で立ちの青年が姿を現す。

 「――呼んだかよ、ガキ」

 天めがけて逆立ったモヒカン頭は、静かな港の雰囲気に全くといっていいほど合致していない。
 両耳にそれぞれあしらってあるボルトとナットもさることながら、髑髏の腕章を巻いている辺りが最悪だ。
 その姿を他人が目撃したなら、まず十人中十人がお近付きになりたがらないに違いない。
 そこらのゴロツキと何ら変わらない見た目をしているのに、何故かその佇まいには凄みが付き纏う。
 だが当然といえば当然だろう。
 彼はアーチャーのサーヴァント。
 『見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)』が有する主力戦闘部隊『星十字騎士団(シュテルンリッター)』の一員にして、『B』の聖文字(シュリフト)を与えられた滅却師(クインシー)……それが彼。

 バズビー。それが、その真名だった。
 不機嫌そうな様子から察するに、一介の小娘ごときに使役されている事実へ納得がいっていないのかもしれない。
 気持ちはわかる。彼ほどの使い手にしてみれば、レーベ達の戦場なんてものはほんの児戯にもならないだろう。
 だからこそ、更に苛烈化することが予想される聖杯戦争を勝ち抜くためには、彼の助力は必要不可欠なものだ。
 令呪で無理矢理言うことを聞かせることはなるだけしたくない。
 早い内に円満な関係を築いておきたいのだが、それはまだまだ難しそうかな……と、レーベは内心苦笑する。

 「覚悟、決まったよ。ボクは聖杯戦争を勝ち抜く。――そこに、迷いはもうない」

 立ち上がり、美しく照り輝く水面を眺めながらレーベは宣言する。
 愚かな願いと切って捨てられるかもしれない。
 それでも、レーベは夢を見たかった。
 その夢を現実にするためなら、命だって懸けられるほどに、真っ直ぐに渇望していた。

 「ハン、そうかよ。なら精々足引っ張らねえようにするこった」
 「あまり馬鹿にしないでほしいな。アーチャー程じゃないにしろ、ボクだって結構やれるんだよ」

 何も、アーチャーへ頼り切るわけじゃない。
 艦娘としての武装は引き継いでいるし、海の上じゃなくたってそこな相手には遅れを取らない自負がある。
 彼がサーヴァントと闘うなら、自分は敵のマスターと闘うことが出来る。
 自分も、そしてもちろん彼も、無力などではない。
 聖杯を狙えるだけの力は充分に備わっている。

 「――言っとくがよ、俺はてめえなんざに服従する気はさらさらねえ。てめえとの契約に甘んじてやってるのも、マスターってのがいねえとロクに戦えねえとかいう気の乗らねえ縛りがあるからだ。そこんところ、履き違えるんじゃねえぞ」

 アーチャーは奔放な人物だ。そして、戦闘狂のケがある。

 加え、レーベのまだ与り知らぬ、とある過去を持つ身だ。

 そんな彼にとっては、この聖杯戦争というシステムはあまりにも窮屈なものなのだろう。


 マスターを狙われることも阻止しなければならない、場合によってはマスターの命令へ無理矢理従わされる。
 思う存分力を振るえない――趣向はともかく、縛りがありすぎる。
 そういったニュアンスの不満を燃え上がらせているんだろうなと、レーベは推測した。

 「…………了解だよ、アーチャー」

 本来、立場逆だと思うんだけどなあ。
 そんなつぶやきは、声に出すこともなくしまっておいた。


【CLASS】アーチャー
【真名】バズビー@BLEACH

【パラメーター】
筋力:C 耐久:B 敏捷:C 魔力:A 幸運:B 宝具:A

【属性】
 秩序・悪

【クラススキル】
 対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

 単独行動:B
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。


【保有スキル】
 血装(ブルート):A
 星十字騎士団の全員が持つ戦闘術のひとつで、自らの血管に霊子を流し込むことで攻防双方の能力を飛躍的に上昇させる、いわゆる身体能力強化術。
 攻撃用血装「動血装(ブルート・アルテリエ)」と防御用血装「静血装(ブルート・ヴェーネ)」を戦況に応じて切り替え、攻撃に転じれば絶大な力を発揮し、防御に転じれば頑強な皮膚へと硬質化することができる。

 戦闘続行:A
 『陛下』に切り捨てられる筈の未来を回避した逸話から齎されたスキル。
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

【宝具】
『The Heat ― 灼熱 ―』
 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:50人
 ユーハバッハから賜った固有能力『聖文字(シュリフト)』が宝具化したもの。その実態はユーハバッハの吸収能力の効率を上げるためのもので、授けられた者の早死が確定する。
 指先から容易く人体を貫き、氷の頑健な鉄壁すらあっさりと貫通する威力の火炎を放射する『バーナーフィンガー』を主力の技として用い、これは使用する指の本数によって形状が変質するという性質を有している。1であれば指1本で、2であれば指2本で使用するといった具合で、「2」までは威力が上昇する程度の差異しか存在しないが、位階が3へ上昇すると灼熱の溶岩の放出、現状確認されている最大本数の4では巨大な炎の刀を出現させ、それに乗せて炎の放出を行う。


【weapon】
 宝具並びに滅却師としての能力。

【人物背景】
 星十字騎士団所属の炎使いの滅却師(クインシー)。ユーハバッハから「H」の聖文字(シュリフト)を授かった。尸魂界への侵攻時は吉良イヅルを殺害・山本元柳斎重國に対しエス・ノトやナナナ・ナジャークープと共に奇襲を仕掛けるも逆に強烈な火炎を喰らい一蹴される。しかし本人曰く「自身の能力で流刃若火を打ち消し」、2人と共に何とか生存していた。
 再侵攻においては日番谷冬獅郎、松本乱菊と激突。二人の新戦術をものともせずに自慢の能力で追い詰めるが、卍解を取り戻した日番谷に蒼都が敗北したため撤退する。
 他の騎士団メンバーに対する仲間意識は薄く、手柄を横取りしようとして仲間に向かって攻撃する場面も。但しハッシュヴァルトに対しては一人だけ「ユーゴー」と愛称で呼び、彼の実力の高さを認めており、副官である彼を差し置いて石田がユーハバッハの後継者に選ばれた時は荒れていた。


【サーヴァントとしての願い】
 聖杯により力を得、ユーハバッハを討つ。

【基本戦術、方針、運用法】
 非常に火力・突破力の高い宝具を持つため、これを惜しげもなく使って敵サーヴァントと交戦する。
 魔力燃費も良く、マスターのレーベも戦闘に優れている為、基本的に穴と呼べる穴が存在しない強みを持つ。



【マスター】
 レーベレヒト・マース@艦隊これくしょん
【マスターとしての願い】
 第二次大戦の起きなかった、平和な世界の実現。

【weapon】
 12.7cm単装砲5門と四連装魚雷発射管2基。

【能力・技能】 
 “艦娘”としての高い交戦能力。程度は一流の魔術師に少々劣る程度とする。

【人物背景】
 ヒトラー政権の誕生とヴェルサイユ条約の破棄により再軍備を進めたドイツ海軍が、第一次世界大戦後に初めて建造した「Z1型駆逐艦」の1番艦。1934年に起工したことから、「1934型」とも呼ばれる。Z1型の「Z」とは、ドイツ語の駆逐艦"Zerst□rer(ツェルシュテラー)"の頭文字から。艦名はドイツ帝国海軍少将レーベレヒト・マースに因む。
 砲火力自体は同時期に建造された白露型と同じであるが、実はかなり無茶な設計である。というのも、日本の白露型駆逐艦が連装砲塔を採用して省スペースで多くの砲を搭載したのに対し、Z1型は単装砲だったため、装備重量がかさんでしまった。結果、かなりのトップヘビーとなり、安定性を確保するために日米英の駆逐艦の1.5倍程度の排水量になった。ロンドン条約に縛られていなかったドイツだからこの解決法が可能になったのである。
 2月22日ヴィーキンガー作戦に参加するが、作戦中に友軍機に誤爆され爆弾が命中しその後爆発、沈没。乗員286名が死亡。

【方針】
 アーチャーと共に敵を倒していく。

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