なんてことない、授業の合間に机を囲んでの会話だった。



曰く、満月の夜に、荏柄天神社の境内で踊る金色の妖精がいる。
妖精に魅了された者は、ここではない別の世界に連れていかれてしまう。



ある日、隣の机からそんな噂を耳にした。
知ってる、と私は呟く。
妖精を目撃したどころか、そいつに激突されていきなり押し倒されて、ひどい迷惑をこうむったのだから。
幽霊の正体見たり、何とかってヤツ?
きっと噂を発祥させたのは幼なじみのあの子で、噂の正体は桜の季節に転校してきたアイツだろう。



曰く、花雪の唄をうたう御伽の国の姫が、夜ごとにこの町を徘徊して花を降らせている。



次に聞こえてきたのは、そんな噂だった。
尾ひれがついてるし、と私は呟く。
学校のみんなは、昨日と同じ毎日に退屈しているらしい。
あの子みたいに、非日常めいたことに飢えている人は少なくないんだなと思った。

だけど、そいつがこの町――鎌倉での日常を激変させたのは、本当のことだった。

アイツがしたことと言えば、『よさこい』っていう踊りに半強制で勧誘してきたり。
私とずっと一緒だったあの子をがっちりと独り占めして、あの子と一緒にいない時間が増えたり。
休みの日もアイツが楽しいと思ったことにグイグイと付き合わされて、いつの間にか私も輪の中に入っている扱いになってたり。
悪くはなかった。
悪くはなかったけど、なんだか。
『もしかして、私よりあの子たちの方がよっぽど楽しそうに青春してない?』と思ってしまうことがあって、
そのたびにココロがぐしゃぐしゃと乱されたり。
『みんなが羨むような青春を全力でエンジョイしている』はずの私が、ぐらぐらと揺さぶられていって――その上、『あんなこと』があって。

だから、それが私の『聖杯にかける望み』ってヤツだったのだとしたら。

――ヒトを羨んだりしたから、バチが当たったのかも。

ともかく、私の周りはそんな風に慌ただしかったから、どんどん数を増やしていく都市伝説を聞いても心ここにあらずで。

曰く、早朝の空を半鳥半馬の生物に騎乗して駆け抜ける、天使のような美少女がいた。

曰く、切り落としへと続くハイキングコースで、甲冑の鎧武者と天女のような装束を纏った女性が双方ともに血みどろで相対していた。

曰く、町のそこかしこに、怪しげな儀式を執り行ったような魔法陣が残されているのを、学園の子が何人も見た。

いやいや、鎌倉ってどんだけ心霊スポットなのよ。そりゃあ昔は武将とかいっぱいいたのは知ってるけど。
ここに至って、ようやく私は奇妙だと気づいた。
気づいた時には、もう変わってしまっていた。
青春なんて、日常なんて、粉々になって跡形もなくなった。

通学路から見える、きらきらした湘南の海も。
海を遮るようにして走る江ノ島行きの路面電車――通称『江ノ電』とすれ違う時のガタンガタンという音も。
強い日差しを和らげてくれる涼しい海風の匂いに、もうすぐ花火とお祭りの季節かなと暦を数えてしまうのも。
14年の人生をずっと過ごしてきた、同じ町だったはずなのに。

ある日のある夜、ある放課後を境に、私はまるで異界にいた。

『もう誰も集まらないバンドのスタジオ』へと、気まぐれで足を向けたのが良くなかったのか。
ただ、虚しくぼんやりとしていたら、とっくに陽が沈んでいたのだから。

右手の甲に、薔薇の花の刺青をしたような赤いアザが浮かび上がったのが最初の異変で。

なんの変哲も無かったはずの帰り道が、初めて見る町へと変わってしまった。
それも、ただの『初めて見る町』じゃない。
知っているのに、知らない町だ。
右手を見ればごくごく見慣れた湘南の海があるのに、
左手を見れば、見覚えのない武家屋敷然とした日本家屋や、その逆の雰囲気をまとうお化け屋敷じみた洋館が当たり前のようにそびえて、並んでいる。
知らない建物を、知らない景色をパッチワークでツギハギしたように張り付けた、偽物の通学路。
この通りを内陸へとこう歩けば若宮大路に出るし、そこから鎌倉駅までは十分もかからないとか、そういう地理感覚なら分かってしまう。
『ここは鎌倉だ』ということなら土地勘で理解できるのに、
目に映るもの全ては『ここは異邦の土地なんだ!』と主張してくる。
ここは、どこ?
そう叫んで、走った。
これでもし、私の家まで――両親や弟まで消えてしまっていたら、どうしようかと。
そんな帰り道を、駆け抜けて。

――その途上で、巨大な槍を携えたバケモノに殺されかけた。

こうして私は、思い知らされる。
私の描いていた、『輝いてる青春の日々』だとか『日常』だとか『常識』だとか『理性』だとか『鎌倉という町』だとかの全ては、この夜に、瓦解した。

いや、『理性』ならば蒸発した。


□  □  □  □  □


不幸中の幸いと言うべきか。
むしろ、知らない街で殺し合いをすることになりました……なんて最悪の状況の中ではかなりラッキーな目を引いた方かもしれないけれど。

彼女を襲撃し、そして撃破されたサーヴァント(撃破といっても、ライダーご自慢の槍の『宝具』とやらがラッキーヒットしたおかげらしい)を召喚した年若い女魔術師は、
皮肉にも『アマチュアバンドのドラマー』というご身分でこの町を訪れていた。
どうやら、この町で観光振興の一環として開催されるイベントに、外部からの代演ヘルパーとして急きょ参加することになりました……と、そういう根回しを用意しての参戦だったけれど
――緒戦でサーヴァントを撃破されるや、とたんに気がくじけて元の世界に逃げ帰りました。
と、これらはその魔術師が戦闘の余波で手荷物(個人情報たくさん)を落っことしていった結果として分かったこと。
あとはその手荷物をそっくり貰い受けて、その魔術師が予約していたホテルに、そいつの名前を使ってチェックイン。
いきなり身ひとつで身分証明もできない町に放り出された女学生の行動としては、かなり上出来な方だったと自負したい。
未練があったバンド活動にまた参加することができて嬉しいか、と聞かれたらまったく全然そんなことはなかったけれど、おかげで最低限の社会的な居場所だけは、どうにか、こうにか。

そんなこんながあって、十四年の人生でも最大級の目まぐるい一晩を経験した少女A(14)。
――本名は、笹目ヤヤ。


小町通りは、鎌倉にとっての原宿だった。
クレープの露店と言わず、色とりどりのお団子を売る店だとか、チョココロッケのようなご当地甘味を売るお店まで、甘いものには事欠かない。
髪をきれいに染めた東京の女子高生たちの代わりのように、一日レンタルの着物を来た旅行者たち(外国人にもかなりの人気アリ)が行き来している。
中には時代劇に出てきそうな『茶屋』を再現したレトロな『甘味処』もしっくりと違和感なく存在するわけで。

「あー、葛きりうまうま。店員さーん。お団子のみたらしと小倉ホイップと、あと四色のやつを追加で――」
「すみません今の取り消しで! ……なんでアンタが無断で注文してるわけ? 有り得ないんだけど!」
「えー、いーじゃない。昨日は戦ったりマスターに説明したりで頑張ったんだからさー。魔力ほきゅー魔力ほきゅうー」
「とっくに私より食べてる時点で、もう回復するためじゃなくて食べたいだけじゃないの?」
「あ、ばれた?(テヘペロ」
「アンタが着てる可愛い着物、今すぐ返品しに行ってもいいのよ?
確か半日でキャンセルすれば、いくらかお金戻ってくるはずだし」
「うわあああごめんなさい! マスターの言うこと聞きます! これホント!」
「まったく……お金だって別にたくさんあるわけじゃないんだからね?
それより、アンタも真面目に経路を考えなさいよ。
元はと言えば外に出ようって言い出したの、アンタじゃない」
「えっ、ボクに任せちゃっていいのかい、マスター?」
「何よ、その不穏な言葉は」
「何しろ思慮分別に欠けているという点では右に出る者がいないからね、このライダーことアストルフォは」

甘味処の隅っこの席をがったんと立ち上がり、ムギーっとサーヴァントの両ほほをつねり、左右に引っ張っる。
痛がっているようには見えないけれど、喋りにくいことがライダーには苦行となったように見えた。

「アンタが昨日、私に説明したことをそのまま言うわ。
う、か、つ、に、真、名、を……喋るな」
「ふぁい……マフハー」

ぱっと手を放すと、ライダーのサーヴァントは頬をさすりながら椅子に腰かけた。
それは桜の花びらをぱっと散らした着物を着た――桃色の髪の『少女』。
黙っていれば、桜の精のように可憐で絵になる容姿のはずだ。

ちょっと待てちょっと待て、頼むから待て、と。
今朝からずっと、笹目ヤヤの脳内は、『付いていけない』と連呼しているのだが。

ここは、一歩を間違えれば死ぬ戦場のはずなのだが。
右も左も分からない異邦の土地で、どこで命を狙われるかも分からないのに。
なのにどうして甘味処でマップを広げて旅行者のごとく踏破コースを考えているかというと、
すべて外国からの観光者気分で女物のレンタル着物を着て嬉しそうにしているライダーのサーヴァントのせいなのだろう。

ちなみに、着物はヤヤがレンタルして、ライダーにはトイレの個室の中で霊体化を解いて着替えさせた。
(常識には疎いサーヴァントのくせに、着付けは一発で成功させた)
ちなみに、レンタルするまでには
「ダメ」
「どうして?」
「マニアっぽい」
「どーして?」
「普通の服にしなさい」
「えー、オリエンタルでコケティッシュなのがいいー」
「ダメ。こういうのはコケティッシュじゃなくてコスプレって言うの」
「あっほら周りの金髪さんも同じの着てるよ? 普通だよ?」
「よそはよそ、ウチはウチ!」
以下略。
というやり取りがあった。

最終的にヤヤが折れたのは『その代わり、普段は絶対にマスターのそばにいること。勝手に霊体化を解いて実体でフラフラ遊びに行ったり、はぐれたりしないこと』と約束させたからだった。
そう約束しなければ、そういう行動をしてしまう駄目サーヴァントだということを、ちょっと外出しただけで充分に思い知らされた。

命を救けてもらったことは確かだけれど、それでも言いたい。
なんでよりによってこんな『バカ』を守護霊で引き当てたんだろう。
相性で言ったら、うるさいコスプレ外人なんてあのハナ・N・フォーテーンスタンドにぴったりだし、イメージカラーがピンクなのは幼なじみの関谷なるの方だ。

「だいたい、ね。アンタ『マスターの知ってる町とどう違うのか見た方がいいと思う』とかもっともらしいこと言ったじゃない?
あれも、ただ観光して遊びたかっただけなんじゃないの? 少しは私の気持ちとか都合ってものを考えてよ」
「えー。でもほら、戦地を視察しておくのは基本でもあるし」

ヤヤの分の葛きりにも手をのばし、手を叩かれて阻止され、にへらと笑う。

「マスターもね、めちゃくちゃ大変な時だからこそ、まずは肩の力を抜く時間が大事かなーって」

え、と声が漏れる。
まさか、この生き物がヤヤのことを案じていたなんて思わなかった。

「それにホラ、人生、したいことした方が楽しいと思うよ?」

それは、どこかで聞いた言葉と、どこかで浮かべた笑顔。
不覚にも、ライダーを見ていて、ちくんと胸が痛んだ。
ただ、そうやってどきりとしたことを、この『バカ』には悟られたくなかったから。
つーんと目をそらし、テーブルからナプキンを数枚つかむ。

「まったく……アンタ、見た目はそんなでも、私よりずっと年上なんでしょ?
子どもみたいに食べかすくっつけて言っても説得力ないのよ」
「んー、ありがとう。マスター、面倒見いいね」

町はおかしな偽物だし、マスターのヤヤはかっこつけてるだけの小心者だ。
けど、少なくともコイツに裏表はない。
今はそう、思っておくことにする。

「さぁ、食べたら次の遊び――じゃなくて、戦地視察にレッツゴー!」
「ちょっ……こら、だから裏道を通りなさいってば! っていうか霊体化! 
ただでさえアンタは目立つんだから――」

ライダーに手を引かれ、走らされる。
『アイツ』に手を引かれて走っていたなるも、こんな気持ちだったのかな、と。
呑気にそんなことを想ってしまうのだった。


【クラス】
ライダー
【真名】
アストルフォ@Fate Apocrypha
【パラメーター】
筋力D耐久D敏捷A魔力B幸運A+宝具C
【属性】
 混沌・善 
【性別】
???
【クラススキル】
対魔力:A
A以下の魔術はすべてキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではアストルフォに傷をつけられない。
宝具である「本」によってランクが大きく向上しており、通常はDランクである。

騎乗:A+ 騎乗の才能。獣であるならば幻獣・神獣のものまで乗りこなせる。
ただし、竜種は該当しない。

【保有スキル】

理性蒸発:D
理性が蒸発しており、あらゆる秘密を堪えることができない。
味方側の真名や弱点をうっかり喋る、大切なものを忘れるなど
最早呪いの類。このスキルは「直感」も兼ねており、戦闘時は
自身にとって最適な展開をある程度感じ取ることが可能。

怪力:C-
筋力を1ランクアップさせることが可能。
ただし、このスキルが発動している場合は1ターンごとにダメージを負う。

単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能

【宝具】

恐慌呼起こせし魔笛(ラ・ブラック・ルナ)
 ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:100人
竜の咆哮や神馬の嘶きにも似た魔音を発する角笛。
レンジ内に存在するものに、爆音の衝撃を叩きつける。
対象のHPがダメージ以下だった場合、塵になって四散する。
善の魔女・ロゲスティラがアストルフォに与え、ハルピュイアの大群を追い払うのに使用された。
通常時は腰に下げられるサイズだが、使用時はアストルフォを囲うほどの大きさになる。

触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア)
 ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:2~4 最大捕捉:1人
騎士アルガリアの馬上槍。金の穂先を持つ。
殺傷能力こそ低いものの、傷をつけただけで相手の足を霊体化、
または転倒させることが可能。
この転倒から復帰するためにはLUC判定が必要なため、失敗すれば
バットステータス「転倒」が残り続ける。ただし、1ターンごとにLUCの上方修正があるため、成功はしやすくなる。

魔術万能攻略書(ルナ・ブレイクマニュアル)
 ランク:C 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
さる魔女から譲り受けた、全ての魔術を打ち破る手段が記載されている書物。
所有しているだけで、自動的にAランク以下の魔術をキャンセルすることが可能。
固有結界か、それに極めて近い大魔術となるとその限りではないが、その場合も真名を開放して、
書を読み解くことで打破する可能性をつかめる。
……が、アストルフォはその真名を完全に忘却している。
魔術万能攻略書も適当につけた名である。
また、ステータスの一部が落書きされて読み取れなくなっているのも、この宝具の効果らしい。
ステータス確認も一種の魔術のようなものであるため、少しだけなら干渉できるとのこと

この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)
 ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:2~50 最大捕捉:100人
上半身がグリフォン、下半身が馬という本来「有り得ない」存在の幻獣。
神代の獣であるグリフォンよりランクは劣るものの、その突進による粉砕攻撃はAランクの物理攻撃に匹敵する。
かなりの速度で飛行することが可能らしく、ライダーによれば、「びゅーん」って感じ。
飛ぶだけなら魔力消費も大したことはないらしい。
「ある場面」において絶大な効果を発揮するらしく、能力の一部が伏せられている。

【weapon】
剣・チェインメイル・角笛
【人物背景】
フランク国王に仕える武勇に秀でた12人の配下『シャルルマーニュ十二勇士』の騎士(パラディン)の一人。
設定ではイングランド王の子にしてリナルドの従弟となっていたので、恐らくオットーに嫁いだ母親がシャルルマーニュの親族であると云われている。
この世に並ぶもの無き美形ながら、「理性が蒸発している」と例えられるほどのお調子者。
冒険好きのトラブルメーカーで、どこにでも顔を出し、トラブルに巻き込まれ時には巻き起こす。
悪事を働くという概念がなく好き放題暴れまわるが、最悪の事態には踏み込まないというお得な性格。

ちなみに、性別は男。
自らのステータスに落書きをして性別を読み取れなくしているが、性別は男。(大事なことなので二回言いました)

【サーヴァントとしての願い】
特になし、しいて言えば二度目の生を楽しみたい。



【マスター】
 笹目ヤヤ@ハナヤマタ
【マスターとしての願い】
 日常を取り戻したい。

【能力・技能】 
 文武両道の中学生。
元アマチュアバンドのドラム担当で、作詞作曲も手掛けていたことがある。

【人物背景】
 由比ヶ浜学園の二年生。
才色兼備、文武両道の完璧な自分であり続けるために日々精進する努力家。
幼なじみである関谷なるにはめっぽう甘いが素直になれないこともある、いわゆるツンデレ。
留学生であるハナ・N・フォンテーンスタンドと関谷なるが設立したよさこい部に勧誘されたことで、それまで続けていたバンド活動とよさこいとの間で揺れ動くようになる。
アニメ7話でバンド活動が解散し、居場所をなくしたように感じていた時期から『現実の鎌倉』へと召喚された。

ちなみに、ライダーの性別が男だと気づいてない。

【方針】
 殺人はしたくないから、倒すとしたらサーヴァント……でも、ライダーはサーヴァントとしては弱そう……どうしよう。


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