もう、何十年も前に廃園になったという植物園の廃墟。正確には、その温室の中だった。

 そこに、ぽかぽかとした陽気はない。夜だというのもあるが、それにしてもあんまり寒すぎる。

 見上げると、温室を覆うガラスがところどころ無残に割られていた。

 心ない誰かがやったんだろうか。注意を凝らすと、中にも品のない落書きが散見される。

 「あの子には、見せられないな」

 きっと、悲しんでしまう。

 僕とあの子が出会った場所ではないにしろ、それに似ているこんな場所を。
 どん臭く、要領が悪く、けれど誰より優しいあの子が見たなら、寂しそうな顔をするだろう。
 ボロボロの温室に残っていたベンチに腰を下ろして、苦笑した。

 いや、笑えていたかは……わからなかった。
 いま、どんな顔をしているのか。
 ただ、きっと、あまり明るい顔はしていないだろうなと思った。


 鎌倉。
 彼や彼女がいた街とは、違う街。
 それだけじゃなく、多分もっと大きなところでも、違う。

 それを証明するように、みなとの左手には、鮮やかな三つの煌星が浮き上がっていた。

 「悪いけど、この星はあんまり好きじゃないな」

 星に指を這わせて、言う。

 あたたかさは、ない。
 小さい頃、宇宙人と一緒に集めたものとも。
 いつでも扉の向こうからやって来た、彼女が昔くれた星とも、違う。

 つめたかった。
 ぞっとするくらい冷たくて、見つめていると怖くさえなってくる。
 しばらく触れてから……ああ、これは僕の体温なのだった。そう気付く。


 聖杯戦争。
 みなとが行き着いたのは、ひとつの『戦争』だった。
 物騒な名前の通り、そのシステムは残酷で、恐ろしいものだ。
 自分以外の参加者を、人も、それが従えるサーヴァントも、皆々倒していく。

 そして最後まで勝ち残った者だけが、最も輝かしい、杯の聖遺物に手を伸ばせるという。
 聖杯を手に入れたなら、あらゆる願いを叶えられる。
 どんな願いも。言葉通りの『奇跡』を使って、叶えてくれる。

 それを聞いた時から、みなとの心は決まっていた。
 どの道、ここまで来てしまってはもう後戻りはできないのだ。

 それに。聖杯でなくては叶えられないような願いにも、心当たりがある。

 「よかったね、宇宙人。きみの求める欠片は、僕にはもういらないものとなったみたいだ」

 そう言葉にしてみて、思ったよりも、ずしんときた。
 あの宇宙人と出会い、彼を手伝い、すべてを知り、欠片の力を知り。
 自分を呪い、七年過ごし、彼女と出会い、彼女たちと競り合って、彼女と真の意味で再会した。

 すべて、あいつから始まったんだ。あいつの宇宙船の部品だという小さな欠片から、始まったんだ。

 「僕は、あの世界から、消える。その為に、聖杯が必要だ」

 硝子越しの月に手を翳す。
 きっと、もうあの小うるさい魔法使いたちと会うことはないだろう。
 そして、扉が開かれることも、ないだろう。

 それでもいい。いや、それでいい。
 これから消える者に、繋がりなんてものは無用の長物なのだから。

 「だから、力を貸してくれるかい。ライダー」


 ライダー。
 その男は、まるで仁王を彷彿とさせる威圧感を放ち、軍服に隠されて尚分かる鋼の肉を兼ね備えた、魔人だった。
 肩に掛かった黒い帯は、彼こそが黒騎士(ニグレド)である事の証明に他ならない。
 未だ静寂を保っている廃墟と合致したかのような黒騎士は、しかし何の感情も見せずそこにただ立っているだけ。
 みなとが彼を呼ばなければ、永遠にそのままだったのではないかすら思わせる。

 されど見る者が見れば、幕引き(マキナ)の名を持つこの男がどれだけ凶悪なシロモノなのか、すぐに分かるだろう。

 彼は目立って行動する事をしなかった。
 他のサーヴァントとは打って変わって、特に目立った殺戮もせず此処に佇むのみ。
 その彼が、はじめて口を開く。

 「おまえがそれを望むならば、俺はおまえの拳となる。それが俺(サーヴァント)の役割だ」

 あくまで粛々と紡ぎ出された声に、温かみはない。
 みなとはそれを聞いて、そうか、と息をつく。

 「きみは、あの子とは別な意味で分からないな。願いを持たないサーヴァントなんて、異端だろう」
 「――――望むモノは、ある」

 鋼の腕が、動く。
 静かに持ち上げられ、そこで固まった。
 みなとへ向けられた視線。
 それは相変わらず冷たく、重いものだったが――瞳の奥には、確かな『願い』の色。


 この黒騎士が求めているのは、勝利の先にある栄光などでも、私利私欲を満たす為の〝もの〟でも断じてない。
 むしろそういったものとは無縁かつ誰にでも得られる代物であり、しかし幕引きの人形(マキナ)が求めるそれを聞き及んだものは誰しもがこの男を狂人だと否定する事間違いなしのものだ。

 「俺の望みは、終焉だ」

 即ちそれは、安息(死)。
 走り抜けた先に待っている結果(死)。

 一度全力で駆け抜け、終わりだと安堵したその先は――――しかし、次の始まりへの場所でしかなかった。
 そんなものは求めていない。そんなものはいらない。
 故にこの自らの名すら忘れた死せる英雄(エインフェリア)は、今一度全力を持って二度目の生を終わらせるべく、この場において英霊(サーヴァント)として呼ばれ、そのご都合主義(デウス・エクス・マキナ)と言うべき法則(ルール)を持つ拳を振るう。

 自らにとっての唯一たる終焉を得る為には、自分が納得できる戦いを越えた先でなければならない。
 本来ならばそれは、副首領たるメルクリウスの代替たる、超越する人の理(ツァラトゥストラ・ユーヴァーメンシュ)と闘った果てにあるべきだが、この地に居ない兄弟の事を想ったとて無意味でしかないだろう。
 ならば、他のサーヴァントに、自分が戦うに相応しい英雄に値せぬものを間引かせる。
 その為の、自らの目的に近づくための傍観であればと、黒騎士(ニグレド)は聖戦の徒となるのを認めたのだ。

 「そうか。でもそれは、僕の願いとは少し違う形の終わりみたいだね」

 消えたいという願い。
 死による安息を得たいという願い。
 二つの願いは似ているようで、しかし絶対的に異なっている。

 「でも、分かったよ。共に戦おう、ライダー。きみの願いを叶えるために。そして、僕の願いを叶えるために」

 鎌倉の空を見上げた。
 星空があった。

 世界は違っても、星の輝きは変わらないんだなあと思った。


【クラス】
ライダー
【真名】
ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン@Dies irae ~Amantes amentes~
【パラメーター】
筋力A 耐久A 敏捷C 魔力D 幸運E 宝具EX
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではライダーに傷をつけられない。

騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。  

鋼鉄の腕:A
機械の肉体。戦闘続行と勇猛のスキルを複合したような特性を持つスキル。
彼はその機械の肉体により、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。同時に精神干渉を無効化し、格闘ダメージを向上させる。

【宝具】
『機神・鋼化英雄(デウス・エクス・マキナ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン――マキナ卿の現在の肉体そのもの。
肉体および彼の魂そのものが常時形成状態にある聖遺物であり、その素体は彼が生前に搭乗していたティーゲル戦車。そのため彼の皮一枚下からは完全な機械である。
後述の宝具を使わない状態でも、彼の肉体による攻撃には彼自身の『渇望』の効果がある程度付与される。
その為対物・対魔を筆頭とした防御を悉く貫通することが可能。

『人世界・終焉変生(Midgardr Volsunga Saga)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1

彼自身の創造位階が宝具となったもの。
「唯一無二の終焉をもって自らの生を終わらせたい」 という渇望を具現化し、その腕に触れた歴史ある存在を問答無用で終わらせる幕引きの一撃。
己の存在を死そのものと化し、触れた者に死を与える。
誕生して一秒でも時間を経ていたものならば、物質・非物質を問わず、例え概念であろうともあらゆるものの歴史に強制的に幕を引き、破壊する。
この状態のマキナの拳が壊すのは生物も器物も知識も概念も等しく内包している時間、積み上げた物語という歩みと、その道である歴史そのもの。如何なるものであれ生誕より僅かでも時間が経過している限り、たとえコンマ百秒以下であっても、その歴史を粉砕する。ゆえに防御が絶対に不可能な文字通りの一撃必殺。曰く「幕引きの一撃」。

欠点は終焉の拳を当てなければならない、すなわち当たらなければただの風車にすぎないということ。
ただし終焉の拳は連発可能な上、彼は個としては極限の体術・経験値を有している。
そのため、単に自分より圧倒的に速い程度の相手では終焉の拳から逃れ切ることはできないだろう。
【weapon】
彼そのものである宝具、機神・鋼化英雄。

【人物背景】

聖槍十三騎士団黒円卓第七位・大隊長、ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン。
「黒騎士(ニグレド)」の称号を持つ黒円卓幹部格、近衛三騎士、大隊長の一人。
騎士団員には専ら「マキナ」あるいは「マキナ卿」と呼ばれる。
黒円卓結成の際、第七の席・天秤の座が埋まらなかったことからメルクリウスがラインハルトの「城」の内に存在した魂たちを殺し合わせて作り出された存在。
なお、生前の記憶はぼんやりとしか残っておらず、自分の名前すらも覚えていない。

【サーヴァントとしての願い】
安息(終焉)を得る為に、この拳を振るう。

【基本戦術、運用法、方針】
その近接戦闘においての無敵さを活かし、積極的へ前線に出ていくこと。
どんなサーヴァントであれ当たれば確殺できる宝具のこともあり、非常に性能は凶悪。


【マスター】
みなと@放課後のプレアデス
【マスターとしての願い】
元いた世界から消え去ること。
【weapon】
金色の杖。
【能力・技能】
自分で自分を呪うことで手に入れた、魔法の力。
超高速での飛行や魔方陣を使った戦闘が可能。主となるのは空中戦。
この鎌倉は彼のいた世界と違うからか少々魔法の性能に下方修正がなされている。
対象は主に飛行性能。数マッハでの飛行などは不可能になっている。
【人物背景】
星が好きな少年だったが、身体が弱く病院で入院していた。
ある日の夜エルナトと名付けた少年と出会い、壊れた宇宙船をなおすためにカケラ集めをする。彼の役に立ちたいと思ったみなとはカケラ集めに協力し、友達になる。夜のカケラ集めはずっと病院だったみなとにとって、未知の冒険だったようで楽しい時間だった。その途中に病室に迷い込んだすばるに遭い、魔法で宇宙を見せた。彼女と話しているうちに、弱い自分でも誰かを守ったり、役に立てると希望を持つようになる。しかしエンジンのカケラに遭遇し、すばるの願いのために捕まえようとした際、エルナトに与えられた魔力を使い切ってしまう。さらにエルナトと出会った時から昏睡状態になっていて魂の状態で行動していたこと、エルナトとのカケラ集めもすばるとの出会いも全てが幻だということを悟りショックを受ける。絶望を知ったみなとは未来へ向かっているエンジンのカケラを使って、過去からやり直そうと目論むも失敗。それ以来彼の魂は呪われた存在として宇宙を漂い、身体は「可能性のカケラ」の力で永遠に覚めないまま地球に残した。
【方針】
ライダーと共に、聖杯戦争をかちあがる。


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