ひらりひらりと蝶が舞う。
黄金色の蝶が舞う。
現実を蝕む蝶が舞う。
それは終わりなき惨劇の象徴。
道理の通らない幻想の侵蝕を知らせる一つの法則性(ルール)。

閉ざされた島にて君臨し続けた幻想描写の担い手は、都市伝説の渦巻く鎌倉へと幽閉されていた。


  ●  ◯


廃屋敷の薔薇庭園には奇妙な噂がある。
美しく芳しい香りが漂っているのに、どうしてか誰も近寄らない不思議な庭。
持ち主がいるのかどうかすら定かではない、けれど美しいからというそれだけの理由でほったらかしになっている。
そして、不思議はやがて怪奇へ繋がり、やがて幻想を作り出すのだ。

―――― 薔薇の庭には魔女が棲む ――――

新月の晩に黄金の蝶々を見た。
浮揚する杭に追い回され這々の体で逃げ帰った。
二本の足で歩行する山羊が、迷い込んだ野良犬の肉を食い漁っていた。
煙管を片手で弄ぶ美しい女と、傍らで無邪気に微笑む人形のような少女を見た。

火のないところに煙は立たない。
ましてやここは現在進行形で魔境と化しつつある土地。
神秘を否定する人間犯人説(アンチファンタジー)が薄れた領域は、言わずもがな魔女の独壇場だ。
薔薇庭園には魔女が“い”る。変幻自在に飛び回る七本の杭と血に飢えた黒山羊を従えて、黄金の蝶が舞う庭で、少女の幽霊と共に他人が迷い込むのをじっと待っている。
噂はまことしやかに広まっていき、今や薔薇庭園へと近寄る者は誰もいなくなっていた。


そして、無人の館にて、今日も魔女と少女の夜会が始まる。


結論から言えば、魔女伝説は紛れもない現実のものだった。
黄金の魔女は実在する。だが彼女たちの目的は、決められた行動ルーチンに従い続ける木偶を喰らうことではない。
彼らを利用するつもりがないわけでもないが、魂食いに訴えるつもりはなかったし、まだその段階ではなかった。
都市伝説の中では魔女の友人として語られた童子の利き腕には、少女らしからぬ禍々しい刺青が見て取れる。
三画の刻印。全知の魔女に引導を渡すことさえ可能とする、掟破りの絶対命令権だ。
しかし、この戦争が終了するまで……あるいは、彼女たちの聖戦が半ばで終わってしまうまで、彼女がそれを使うことはないだろう。何故なら少女にとって、聖杯戦争とはひとつの“ゆめ”に過ぎないのだから。

いつだって、魔女と出会うのは幼い子供と相場が決まっている。
現実に汚染されていない少女だけが、魔女の箱庭へ迷い込んで尚、彼女達と敵対せずに済むのだ。
汚れた欲望を持たない少女だけが、魔女の奇跡を正しい形で使うことができるのだ。
聖杯戦争の舞台となるこの鎌倉市も、そのセオリー通りに少女と魔女とを引きあわせた。
夢見るような瞳で茶会を楽しむのは、ひとりの偶像(アイドル)。
聖杯の手引きによって鎌倉へ足を踏み入れた彼女を出迎えたのは、黄金を司る無限の魔女であった。
無限の惨劇を作り出す、六軒島の魔女(キャスター)。肩書、右代宮家当主顧問錬金術師。真名を、ベアトリーチェ。

ベアトリーチェは、煙管から煙を吐きながらくつくつと嗤う。
悪辣だ。やはりニンゲンとは、時に魔女を凌駕する醜悪さを発揮する。
途中下車のできない殺し合い。そして、それを実際に実行してしまうほどの狂気にも似た情念。
黄金の魔女をして驚嘆する。驚嘆はやがて感嘆に代わり、面白い、と彼女を笑ませるに到った。

最早孤島密室(クローズド・サークル)の域を飛び越えた、ゲーム盤とでも称すべき人外魔境。
この盤面で互いに潰し合い、最後まで残った一組だけが、魔女の魔法でも生み出せない財宝を手に入れることができる。
聖杯の輝きに比べれば、金塊の光沢など足下にも及びはすまい。

無限の魔女たる者、勝負(チェス)を挑まれたならば自ら降りることはしない。
たとえ自分自身が一つの駒となって戦わねばならない状況だとしても、チェックメイトの時まで勝負は分からない。
だから密室殺人の長たるベアトリーチェもまた、この聖杯戦争を勝ち抜くことを高らかに宣言した。
彼女の旧知である“原初の魔女”を彷彿とさせる無邪気な少女へと、至高の輝きをプレゼントするということも。

至高の輝き。
遊佐こずえというアイドルにとってのそれは、たったひとつ。
聖杯戦争の何たるかも、そもそもこれが殺し合いだということも理解していない幼い彼女ではあるが、どんなお願いでも叶えてくれると言われた時、どう答えるかは決まっていた。
――――いちばんになりたい――――
そうすれば、プロデューサーはきっと喜んでくれる。
パフェを食べに連れて行ってくれるかもしれないし、うんと褒めてくれるだろう。
ママだって、凄いねって抱きしめてくれるはず。


「るしふぁー……おふく、きせてー」

《わかりました、こずえ様。このルシファーめにお任せください!》

《むー。ルシ姉ばっかりずるいー》

《そうよそうよ。たまに私達に譲ってくれてもいいんじゃなーい?》

《ちょっと、五月蠅いわよ! こずえ様のお着替え担当は私でしょ!》

薔薇庭園を見下ろす廃屋敷の中で、同じ格好をした少女たちが戯れている。
主の着替えを誰が手伝うかで言い争う姿は微笑ましいが、その内面に秘めるのは残虐な気性だ。
煉獄の七姉妹。ベアトリーチェが持つ宝具の一形態にして、彼女の《家具》たち。

「むー……けんか、だめー……」
《う…………》
《ほら、ルシ姉が大人げなくムキになるから!》
「こういうときはー……じゃんけんで、きめるのー……」

山羊の執事が紅茶を注ぎ、七姉妹がアイドルの少女を飾り立てる。
そんな様子を見守るキャスターがふうと煙を吐くと、それは綿菓子に変わって机へ落ちた。
ここは幻想の城。無粋なミステリーの入り込めない、虚実と愛に満ちた世界。
そしてこれは、こずえ自身が願った世界でもある。
ありがちな少女の空想が現実化した、どこまでも楽しみに満ちた魔法の城……
だからこの景色はある意味で、彼女が遣った《魔法》の賜物でもあった。

「愛がなければ、魔法は視えない」

キャスターは、呟く。魔女という存在に、もっとも大切なものを。

「こずえよ。そなたが願う限り、妾はそなたのための黄金の魔女であり続ける」
「……? どうしたの、きゃすたー……?」
「ふ、何でもない。……そうだ。なあ、こずえ。そなた、歌が得意なのであったな?」


こずえはキャスターという友人に、自分のことを沢山話した。
アイドルをしていること。プロデューサーとの出会い。そして、一番のアイドルになりたいことも。
彼女は、この鎌倉で願うということの意味をまるで理解していない。
だが、それでいいとキャスターは思った。
夢見る少女はいつだとて、気まぐれに願って奇跡に微笑んでいればいい。それが、正しい魔法のあり方だ。

「ひとつ、聞かせてみてはくれないか? 皆も賑やかな方が喜ぶだろうしな」
《あー! 私も聞きたいです!》
《こずえ様、アイドルしてらしたんですもんね! ほらルシ姉、いつまでも拗ねてないでさっさと座る!》
《な――だ、誰が拗ねてるもんですか!》

こうして今日も、幻の夜は更けていく。
それを嘘偽りのものと糾弾するものがいたとして、それはお門違いだ。
少なくとも遊佐こずえという少女にとって、この魔法のような時間は、紛れもない現実のものなのだから。


【クラス】キャスター
【真名】ベアトリーチェ@うみねこのなく頃に
【属性】混沌・中庸

【ステータス】
筋力:E 耐久:D 敏捷:C 魔力:A 幸運:E 宝具:A

【クラススキル】
道具作成:C
 魔術的な道具を作成する技能。

陣地作成:A+
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 クローズドサークルの中は、すべて彼女の領域だ。

【保有スキル】
黄金律:A
 身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
 そもそもからして黄金の魔女。金など無限に生み出せる。

密室殺人:A
 扉に対し、高度の魔術的施錠を施すことが可能。
 強引に密室を作り出し、そこで他人を殺すことで、密室殺人が成立する。

情報抹消:E
 対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から、彼女の能力・真名・外見特徴などの情報が消失する。
 湾曲され、本来のあり方と異なった形で伝えられる魔女の宿命。
 ランクが低いため、完全な消失ではなく記憶が薄れる程度。

【宝具】
『黄金の魔法(レジェンド・オブ・ザ・ゴールデンウィッチ)』
ランク:A 種別:対人/対軍 レンジ:1~300 最大補足:18人
ベアトリーチェが使用する、魔術師のものとは違った形での魔術体系。曰く、魔法。
Aランク宝具に相応しい高威力攻撃から、はたまたちょっとした手品程度のものまで、その形は様々。

『茶会に喚ばれし魔女の傀儡(ターン・オブ・ザ・ゴールデンウィッチ)』
ランク:D 種別:対人 レンジ:1~30 最大補足:18人
ベアトリーチェが所有する、『家具』。
召喚にあたって彼女が持ち込んだ家具だけが、この聖杯戦争では召喚可能である。
したがって改めて別の家具と契約し召喚するなど、そういう芸当は不可能。
召喚可能なのは『煉獄の七姉妹』『ロノウェ』『山羊頭の家具』。

『不偽の赤色(あかきしんじつ)』
ランク:E 種別:対人 レンジ:- 最大補足:-
真実のみを語る、赤き文字。
この宝具を使って語られた言葉は、全てが真実。
ミステリーをファンタジーで塗り潰す為の、理詰めの宝具でもある。

【weapon】
なし

【人物背景】
無限を生きる黄金の魔女。
ゲーム盤が移り変わる狭間の時間より呼ばれ、小さな友人と出会う。

【サーヴァントの願い】
急を要する願いはない。
だが、聖杯に興味はあるので手中には収めたい。


【マスター】
遊佐こずえ@アイドルマスターシンデレラガールズ

【マスターとしての願い】
いちばんになりたい

【能力・技能】
戦闘能力、特殊能力共に皆無。
アイドルとしての経験から、歌って踊れる程度。

【人物背景】
11歳という若さでアイドルとして活躍している少女。
一番のアイドルになってプロデューサーやママを喜ばせたい、という願いを聖杯に聞き届けられた。
聖杯戦争についてはまったく理解していない。

|