「若様」

 黒服は、恭しくその男へ傅いた。
 豪奢な椅子に身を委ね、度数の高い酒を呷る男は――無言で続きを促す。
 黒服は表面上こそ冷静沈着な鉄面皮を維持していたが、内心心臓が弾け飛びそうなほどの緊張に曝されていた。

 「七里ヶ浜駅にて、マスター一名の射殺に成功致しました。
  恐らく市内の高校へ通う女子高生と思われます。令呪も確認の上、回収されないよう潰してあります」
 「ご苦労」

 簡素な労いを男が述べると、それで漸く緊張が解けたのか、黒服はほっと胸を撫で下ろす。
 しかしそもそも、この場合に限って黒服の彼が叱責や反感を買う理由は皆無のはずだった。
 彼はふんぞり返る支配者から命を受け、それを実行し、見事成功させてのけた。
 部下の存在があったとはいえ、その部下達を率いたのは彼なのだから、褒められて然るべきである。
 では何故大の男が、両手の指ほども年齢が下であろう小僧へこれほど怯えていたのか。

 その答えは単純――この"支配者"が人間ではないということを、彼は知っていたから。そこに尽きる。


 鎌倉市内に拠点を構える暴力団組織、『元村組』。
 全国的な知名度はともあれ、地方だけに限定すれば子供でさえ聞き覚えがある程の任侠集団。
 法に反する行いはすれども、人道を踏み越える非道にまでは手を染めない。
 所謂仁義。地元警察との癒着も相俟って、滅多な事では崩れない盤石の土台を築き上げてきた――はずだった。
 それが崩されたのは、たった三日前。
 堂々正門より踏み入り、押し止めようとする配下を力で屈服させ、組を統べる頭を惨殺し。
 未だ人の温かみが残る椅子から屍と化した組長を放り投げれば、嘲笑を浮かべながら彼は其処へ腰を下ろす。

 『お前らの頭は死んだ――このおれが殺した。
  弱ェ奴は自分より強ェ奴にナワバリを奪われる……フッフッフ! お前達も知らねえ訳じゃねえだろう……ついでに、ナワバリを追われた奴らがその後どうなるかも、よくご存知なんじゃねェか!?』

 頭に血を昇らせ、銃を抜く者も居た。
 だが賢明な者、或いは裏の社会に入って長い者ほど、表情を強張らせ硬直することを余儀なくされた。
 彼らは理解したからだ。縄張りを追われた悪党が、その後どんな末路を辿るのか。
 組が崩壊したとなれば、警察は掌を返すだろう。
 如何に仁義に則ってきたとはいえ、恨みも山ほど買っている。おちおち道も歩けやしない。
 敗者の未来に待ち受けるのは、果ての視えない地獄なのだ。少なくとも、ことこの世界においては。

 『だが』

 奇妙な形のサングラス。その奥の眼光がギラリと輝く。
 背筋に怖気が走った。それは、これまで彼らの頂点に立っていた者が放つものとは比べ物にすらならない、凄味。
 どれほどの経験を積めば、――いったい何を経れば、ヒトはこうなれるのか。

 『おれも鬼じゃねェ――助けてやるよ』

 その言葉に、眉根が動く。
 果たして彼らの中に、その反応自体が既に"弱者"のそれであるのだと気付けた者はどれほど居ただろう。
 真実、皆無だった。所詮彼らが掲げた矜持や仁義など、圧倒的な力の前には屑ほどの価値もありはしなかった。
 男が全てを終わらせた後、部屋の中へ現れた"部外者"にさえ意識が及んでいない有様。
 その部外者を狙う事こそが、彼らに出来る最大にして、最も有効な対抗策であるなどと、考えもしない。
 一夜にして強者から弱者へ転がり落ち、未だ自分が転げたことにすら気付かない愚者達の心が、サングラスの男には手に取るように分かった。何てことはない。こういう手合いならば、本当に腐るほど見てきた。

 遅かれ早かれこいつらは破滅する。だが、どうせ破滅するというなら、存分に絞り尽くさなければ勿体ないだろう。

 それにちょうど……今は"手が足りない"状況なのだ。


 『お前達、おれの部下になれ』


 怒号と共に、誰かが発砲した。
 一人ではない。
 若人を中心に、少なくとも四丁の銃が火を噴いた。 
 月明かりのみが照らす室内が一瞬だけ火花で赤く照らされる。
 馬鹿なことを。――そう唇を噛んだのは、彼の"力"を一足先に見た者達だった。

 額。
 胸。
 そして、肩。
 一発余さず銃弾は男へ着弾した。
 だが、それから先に起こるべき現象がない。
 吹き出る血も、跳ね上がる顎も、飛び散る脳漿も、豪奢な椅子が倒れる音も、ない。

 『豆鉄砲で粋がるんじゃねェよ』

 からからと、軽い音を立てて男に触れた銃弾が落ちる。
 次に彼は、億劫そうに右手を上げた。
 月明かりに照らされて――掲げた手から、極細の"何か"が舞うのがわかった。

 それを視認したのが、若人たちの最期だった。
 響く破裂音。それは三度連続した。反響が終わるのを待たずに、歯向かった三人は地へ崩れ落ちた。
 脳漿をぶち撒けて、死んでいる。
 次に広がるのはどよめきだ。何故奴らを撃った。違う、オレは撃ってない。手が勝手に。
 混乱状態に陥る荒くれ者たちを沈静化させたのは、またしてもサングラスの彼だった。

 『フッフッ、もう分かったろう? 少なくとも、お前らじゃおれは絶対に殺せねェんだ。
  それでも仲間の仇を討たなきゃ気が済まねェってんなら止めはしねェが、どうするよ、おい?』

 もはや、誰一人反抗を示せる者などいなかった。
 この場にいる全員が、無粋なる支配者の前に心を掌握されてしまっていた。
 一度刻み込まれた恐怖と、折れた心は二度と元の形には戻らない。
 男はもう一度嘲笑し――それから、彼らと、自身の"相棒"となる少女へと高らかに謳う。


 『おれの名はライダーのサーヴァント、ドンキホーテ・ドフラミンゴ――万能の奇跡を手に入れる男だ』


 ライダー・ドフラミンゴは、自分を鬼ではないと言った。
 ああ、確かに彼は鬼などではない。
 鬼すら見下ろし、時に踏み潰し、支配する――その在り方たるや、まさに"天夜叉"。




 「にしてもつまらねェ世界だ。お前はどう思う、乱」
 「……別に。どうとも思わない」

 そして。
 報告に訪れた黒服を下がらせ、ライダーはマスターの少年へと話を振った。
 しかし返ってくる返答はごく簡潔な、会話を発展させる気がないものだ。
 嫌われたもんだ――いつも通りに笑いながら再び酒を呷るライダーを見て、少年は内心毒づく。

 そうだよ、嫌いだ。
 ボクは貴方が気に入らないんだ、ライダー。

 乱藤四郎。
 それが、ライダーを召喚したマスターの名前だった。
 マスターとはいっても、彼もまた人間ではない。
 人間の姿をしているのは確かだが……その存在は彼らより上の域にある。神の末席――付喪神。又の名を刀剣男士。
 事実、乱はマスターの身でありながらEランク相当の神聖スキルを有している。
 その彼が、何故聖杯戦争に招かれたのか。
 歴史修正主義者と戦闘し、歴史改変を阻止するのが目的であるはずの彼が、一体聖杯へ何を願うのか。

 言うまでもないだろう。
 乱藤四郎の願いは一つ。
 聖杯による、歴史改変である。


 「――にしてもお前も酔狂な奴だよ、乱。何だってよりにもよってお前が歴史改変を望む?」
 「…………」
 「フッフッ! 意地の悪い質問をしたな、謝るよ……お前みてェな目をした奴が何を考えてるかは大体解る」

 これだ。
 乱は、何よりもこのサーヴァントの、これが気に入らなかった。

 荒事や隠密に優れた現地人の部下を使い、マスターの暗殺を目論むまではまだいい。
 敵の英霊が偶々同行していなかったから良かったものの、もしも同伴していれば彼らは生きては帰れなかった。
 ――それも、まだいい。卑劣な策だとは思うが、利点もある。
 現に今回は首尾よく事が進行し、敵マスターを戦わずして討ち取ることが出来た。

 けれど。この"大海賊"が浮かべる、全てを見透かしたような笑みが気に入らない。
 天に立つ自分にとって、所詮お前達など底が知れた薄っぺらなものでしかないと見下されているようで、腹が立つ。
 いや、事実見下されているのだろう。ドフラミンゴは、そういう男だ。
 軽薄に笑い陽気とも取れる言動を見せておきながら、その内面は誰よりも冷めており、非情である。
 仮に仲違いするようなことがあれば、彼は躊躇なく自分にもあの糸を巻き付けるに違いない。令呪の行使に口を使用する必要がある以上、彼の糸ならばそれを防ぐことなど朝飯前だ。
 なにがマスターだ。これでは、ただ機嫌を取っているだけではないか。
 何よりも不甲斐ない自分に、乱は怒りを覚える。何もかも投げ出して、兄弟達の待つ本丸へ帰りたくなる。
 しかし、それは出来ない。嘲弄に、見下される屈辱に、耐え続けてでも叶えなくてはならない願いがあるから。

 「まして此処は聖杯戦争――聖杯を使ってでも叶えてェ望みとなりゃ絞られる」
 「…………」
 「なに、別に恥じることじゃねェさ。
  おれも……此処のボンクラどもなんざじゃ代用できねェ部下共を持ってる。
  仲間を大切に思うってのはいい心がけだ――まァ、その小奇麗な格好で惹かなきゃおっ勃ちもしねェ恋人だったのかもしれねェけどなァ! フッフッフッフッ!!」
 「…………黙れ」

 嘲りに、堪えられず声が漏れる。
 それは、乱の中の一線を踏み越えられたという証拠だった。


 「………………いち兄を、悪く言わないで」
 「フッ、冗談の通じねェ小僧だ」

 自分と同じ銘を持つ短刀を抜きかけて――寸でのところで、思い留まる。
 馬鹿か、ボクは。ここで短気を起こせば、全てがおじゃんだ。
 どんなことをしてでも、どんな苦しみに耐えてでも、聖杯を獲ってやると誓ったのに。

 (いち兄…………)

 部屋の片隅で膝を抱え、乱藤四郎は懐かしい名前を想う。
 もう戻らないその名前を取り戻すこと。それだけが、彼の願いだった。



【クラス】ライダー
【真名】ドンキホーテ・ドフラミンゴ@ONE PIECE
【属性】秩序・悪

【ステータス】
筋力:C+ 耐久:A 敏捷:C 魔力:D 幸運:C 宝具:B

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:B
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
 魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】
覇気使い:A
 覇王色と武装色、二色の『覇気』を高レベルで扱いこなすことが出来る。
 覇王の威圧にはまず耐性のないマスターでは耐えられず、武装の覇気は彼の身体能力を高める。

カリスマ:B
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。

神性:-
 元々は天竜人であったため、神性を保有していた。
 だが今では堕落し、欠片すらも持ち合わせてはいない。

【宝具】
 『傀儡悪魔の苦瓜(イトイトの実)』
 ランク:C 種別:対人 レンジ:- 最大補足:-
 食べた者へ人智を超えた能力を与えるとされる禁断の"悪魔の実"の一つ、イトイトの実。
 彼はこれを食したことで"糸人間"となっており、糸を自在に操り戦うことが出来る。
 糸の切れ味は非常に鋭く、巨人族の足を切断することすら容易く行えるのが特徴。更に応用の幅にも富み、空の雲へ糸をかけることで擬似的に空を進むことも可能。
 また、ライダーはこの悪魔の実を"覚醒"もさせており、周囲の建物や地面からも糸を生み出せる。
 しかし"悪魔の実"共通のリスクとして、ライダーは海に嫌われている。この為水に触れるとライダーは瞬時にこの宝具の恩恵を受けられなくなり、泳ぐことも出来なくなる。

 『絶望の鳥籠(ドレスローザ)』
 ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~1000 最大補足:100000人
 『傀儡悪魔の苦瓜』の応用系の一つだが、彼を象徴する悪夢として宝具へ昇華された。
 発動と同時に鳥カゴ状の糸を展開し、一定区域を脱出不可能の結界状態にする。
 宝具発動中は念話、その他あらゆる宝具・能力の効果でも鳥カゴの範囲外と伝達を図ることは出来ない。
 鳥カゴの範囲は時間の経過と共にどんどん狭まってゆき、当然収縮の道すがらに存在する物は全て切り裂かれる。

【weapon】
宝具の他に、短銃を所持している。

【人物背景】
 世界政府公認海賊王下七武海の一人で、"新世界"ドレスローザ王国の国王と、同国を拠点とするドンキホーテ海賊団(別名ドンキホーテファミリー)の船長を務める。
 だがその王位は正当な手段で獲得したものではなく、リク王家に罠を掛ける形で追い落とし手に入れたもの。
 偉大なる航路(特に"新世界”)に人身売買や武器密売といった犯罪シンジケートを所有しており、闇のブローカー"JOKER"として新世界の大物たちと取り引きをしている。
 更には自らの出自から、天竜人とも深いコネクションを持ち合わせており、これらから「王下七武海で最も危険な男」「新世界の闇を仕切る男」と言われており、海軍本部をして「悪のカリスマ」と呼ばれる。

【サーヴァントの願い】
 聖杯を手に入れる。使い方については慎重に吟味。


【マスター】
 乱藤四郎@刀剣乱舞
【マスターとしての願い】
 いち兄(一期一振)を蘇らせること。

【能力・技能】 
 刀剣男士としての戦闘能力。
 自分の写し身である短刀『乱藤四郎』を所持し、これが破壊されると連動して乱も死亡する。

【人物背景】
 粟田口の短刀の付喪神。
 過去に同じ本丸の太刀・一期一振を目の前で破壊されており、彼を再生させる願いで聖杯に招かれる。

【方針】
 どんな手段を使ってでも、勝つ。


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