不況によって閉鎖された工場の中で、一人の男が座り込んでいた。
男は深いため息を吐き、神に懺悔するように項垂れ両手を合わせた。

「大丈夫か、マスター」

男しかいなかった空間に声が響いた。
同時に剣を携え軽装鎧を纏った青年が現れた。

「ああ、少し寝付けないだけさ」

「なら良いが……あまり気に病むな。あれは仕方のないことだった」

軽装鎧の青年、セイバーは主の苦悩の原因が昨日倒した主従にあると知っていた。
人当りの良い、優しい性格のセイバーのマスターは突然巻き込まれた聖杯戦争に消極的だった。
セイバーを召喚してすぐできるなら誰も殺さず家族の元に帰りたいと打ち明けられたことを昨日のことのように覚えている。
しかし結果として男の願いは叶わなかった。昨日バーサーカーとそのマスターの襲撃に遭った折、正当防衛に近い形でセイバーが彼らを屠ったから。

「彼らは我々に敵対的だったし、第一討ったのは私だ。貴方は罪悪感を感じる必要などない」

「…そう思えれば楽になれるんだろうね。でも僕が君のマスターである以上間接殺人には違いない。
それに彼らも僕と同じように理不尽に巻き込まれただけだったんじゃないのか?
帰れるものなら帰りたいと、そう思っていたのかもしれない」

セイバーのマスターは数代前に魔術回路が絶えた家系の出だった。
偶然にもセイバーとの契約を機に閉じていた回路が開きそれなりに魔力供給を行えるようになったわけだが。
一般人同然に育った男は良き勤め人であり善き夫であり親孝行な息子であった。
当然そんな男に人殺しの経験などあるはずもなく、男の脳裏には死んでいったマスターの怨みの声が過っていた。

「きっと僕は良い死に方はできないだろうね」

「何を言っているんだ。貴方は妻子や両親の元へ帰るんだろう?
どうしても奪った命を気に病むというのなら、せめて彼らの分も幸福に生きるべきだ」

「…そう、だな。ありがとう、確かに僕は死ぬわけにはいかない。
それにどこかには手を取り合えるマスターもいるかもしれない。きっとまだ希望はあるはずだ」


「その意気だ。今日はしっかり休んでおいた方が良い。
人避けの結界を張ってあるから誰かに見咎められる心配はない」

セイバーは剣術のみならず魔術にも心得のあるサーヴァントだった。
これまでにも危うい状況を魔術で切り抜けたことが何度かあった。
男もセイバーを信頼しているためもう一度寝袋に入り眠りにつこうとしていた。
明日には当面の住居も確保できる算段だった。



――――――I am the born of my sword



そう、明日を迎えることができさえすれば。

「マスター!!!」

剣の英霊の卓越した聴覚が異常を察知した。
何かが飛来することを察知したセイバーは戦士の直感に従い有無を言わさずマスターを抱え駆けだした。
正確なところはわからない。だがここに留まるのは間違いなく命取りだ―――!

瞬間、工場の屋根が破られ白い爆光が二人を照らした。

セイバーは間一髪のところでマスターと共に全壊した工場から逃げ果せた。
だが無事とは言い難い。マスターは重度の火傷を負った上に建物の破片が身体のあちこちに刺さっている。
セイバーをしてもマスターを完全に守り通すことは敵わなかったのだ。
そしてセイバー自身今の一撃で鎧の半分が壊れマスター同様深い火傷を負っていた。

「今のは…アーチャーの狙撃か?だとすればここに留まるわけには……」

マスターは瀕死の重傷を負っている。すぐにも魔術で応急処置を施す必要があるがまずは狙撃されない場所へ行く必要がある。
そう思ったせいだろうか、近距離への警戒が僅かとはいえ薄れていたのは。

「葬る」

「何っ!?」

未だ立ち込める煙の中から黒い影が迫り、寸でのところで影の振るった凶刃を受け止めた。
明らかなマスター狙い、間違えようもないサーヴァントの気配はアサシン以外に有り得ない。
瞬間、セイバーの脳裏に浮かんだのは同盟の二文字。複数のマスターが共謀して自分たちに狙いを定めたのか?

「セイバーのサーヴァント…葬る」

「できると思うか?」


だが目の前のアサシンがセイバーの事情を汲むはずもなく日本刀で斬りかかってくる。
暗殺者であることが信じがたいほど卓越した剣技、剣速に次第にセイバーが押されていく。
それも当然、今のセイバーは万全からは程遠い。
昨日の戦闘での消耗に狙撃で受けた負傷が重なり十全の力を発揮することができない。
しかしセイバーには時間がない。今すぐ襲撃者を退けマスターを救助しなければならない。

「ならばっ……!」

セイバーは賭けに出た。敢えてアサシンの斬撃を身体で受け返す刀で打ち倒す。
肉を切らせて骨を断つ捨て身の策を成すため一気に踏み込みアサシンの斬撃を防がずさらに迫る。

「………あ?」

アサシンを斬り伏せようとした時、セイバーの霊核たる心臓が破壊され地に倒れ伏した。
何故?アサシンから受けた傷は決して致命傷の類ではなかったはずなのに。

(まさか……宝具………)

手遅れになってようやく解答に辿り着いた。
アサシンが持つ刀には何らかの極めて強力な概念が宿っていたのだ。
無念の言葉を口にすることすら許されず、セイバーは聖杯戦争の舞台から永遠に消え去った。



ず、ず、ず、という音を立てながら男は地べたを這いずっていた。
自分が最早助からないことを半ば以上確信しながら、それでも生きるために。
わかっていた。間接的であっても人を殺めた自分は必ず報いを受ける時が来るだろうことは。
それでも、まだ生きたい。死ぬわけには、いかない。

「帰ら、なきゃ……かえ………」

這いずる男の視界にぼんやりと人影が二人分映った。
ああ、間違いようもない。あの二人はずっと会いたかった――――――

「何だ…そこに、いたのか……」

そう言い残し、男は事切れた。
元の世界へ戻ることなく、死の間際にたった一つの安らぎだけを得て。



爆発によって倒壊した工場から三キロメートルほど離れた高層マンションの屋上に黒塗りの弓を持った少年がいた。
元は赤銅だったのだろう頭髪は所々白くなり、肌も部分的に褐色化しておりさらにオッドアイという奇異な容姿だった。

『士郎、標的は仕留めた』

「わかった、じゃあ警察やマスターが来る前にこっちに合流してくれ」


少年、衛宮士郎は首尾良くセイバーを討ち取ったアサシンのサーヴァント、アカメと念話で交信してから一息ついた。
これでまた一人、倒すべきマスターを葬ったことになる。



アサシンの偵察によってあの主従が人気のない工場跡を根城にしていることは事前に知っていた。
その好機を逃すことなく士郎とアサシンは奇襲を仕掛けることにした。
士郎が投影魔術によって生み出した宝具、偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)で狙撃、着弾と同時に壊れた幻想で爆破することで敵を炙り出す。
即座にアサシンが強襲し、必要があれば引き続き士郎が援護射撃を行うという手筈だった。
実際は第二射の必要もなくアサシンが敵を討ち取ってくれたが。

「あと何人殺せば聖杯に手が届く?あと何人殺せば…今度こそ美遊を救うことができる?」

自分が今こうしている間にも最愛の妹が世界を救済するための生贄にされようとしているかもしれない。
何度浮かんだか知れない焦りの念を深呼吸をして封殺した。

「……落ち着け、未熟者。俺が死んだら、誰が美遊を―――」

そうだ。失敗は決して許されない。
聖杯。生きた聖杯である妹とは違う別世界の聖杯。
その力を以ってすれば美遊を犠牲にせずとも世界を救うことができ、エインズワースも美遊から手を引くだろう。
そのためならこの身は何度でも悪を為そう。この世全ての悪を背負うことになったとしても―――構わない。

「士郎、また妹のことを考えていたのか?」

「アサシンか。…参ったな、すっかりお見通しか」

気づくと気配遮断を解いたアサシンがすぐ傍にいた。
彼女は願いがないそうだが、妹を救いたいという士郎の願いに共感を示してくれている。
こんな自分に一人でも味方してくれる者がいるなど何と贅沢なことか。

「大丈夫だ、士郎は私とは違う。お前はまだ間に合う」

アサシン、アカメにもクロメという妹がいた。
最愛の存在だった彼女はしかし、いつしか心を病み殺すことでしか救えない状態にまでなってしまった。
聖杯に願って人生をやり直そうとは思わない。
死んだ者は決して蘇らない、かつての選択をやり直すことはできない。それがアカメの考えだから。
だからこそ、今を生きる誰かを自分にできる方法で支えるのだ。

「そうだな。きっとまだ間に合う。今日はもう帰ろう」

二人は以前仕留めたマスターが戸籍を偽造して借りたアパートの一室を乗っ取る形で鎌倉に根を下ろしていた。
投影した刀剣や骨董品を質に出すことで当座の活動資金も確保してある。

「士郎、肉が食べたい」

「わかったわかった、帰ってからな」

最後に今も火の手が上がっている工場跡地を見やった。
自分が為したことを、これから先何があっても忘れないように。


【マスター】
衛宮士郎@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ

【マスターとしての願い】
あらゆる手段を尽くして聖杯を手に入れ、美遊を運命から救う

【参戦時期】
牢獄でイリヤと会話してから子ギルの手引きで脱出するまでの間

【weapon】
投影魔術によって生み出した武装の数々

【能力・技能】
経緯は不明ながらアーチャー(英霊エミヤ)のクラスカードの力を引き出しており、その真髄までも理解し使いこなしている。
クラスカードの影響か人間離れした身体能力を手に入れている。

【無限の剣製】
衛宮士郎の内にある錬鉄の固有結界。
結界内には、あらゆる「剣を形成する要素」が満たされており、目視した刀剣を結界内に登録し複製、荒野に突き立つ無数の剣の一振りとして貯蔵する。
ただし、複製品の能力は本来のものよりランクが一つ落ちる。
刀剣に宿る「使い手の経験・記憶」ごと解析・複製しているため、初見の武器を複製してもオリジナルの英霊ほどではないがある程度扱いこなせる。
士郎が扱う投影、強化といった魔術は全てこの固有結界から零れ落ちたものである。
アカメと契約しているため外部からのバックアップなしでは魔力不足で固有結界の起動、展開はできなくなっている。
また起動に必要な魔力があっても肉体のコンディションが極端に悪いと本人曰く「身体が先に音を上げてしまう」ためやはり起動できない。

【人物背景】
本作に登場するヒロインの一人、美遊・エーデルフェルトの兄であり衛宮士郎という人間の可能性の一つ。
彼の行動指針は「妹を守り、幸せにすること」。そのためなら自身の命はもとより世界の命運を切り捨てることすら厭わない自称「最低の悪」。



【クラス】
アサシン

【真名】
アカメ@アカメが斬る!

【属性】
混沌・善

【ステータス】
筋力:D 耐久:D 敏捷:A 魔力:D 幸運:C 宝具:B

【クラススキル】
気配遮断:A+
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を絶てば発見することは不可能に近い。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。

【保有スキル】

精神耐性:B
精神干渉に対する抵抗力。
同ランク以下の精神干渉効果を完全に無効化する。

心眼・真:B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。


【宝具】
『一斬必殺・村雨』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大捕捉:1人
日本刀型の帝具であり、この刀で傷をつけられると傷口から呪毒が入り込み、心臓に到達すると死亡する。
アカメが英霊となり信仰を集めたことにより生前よりも必殺性が向上しており、呪毒が心臓へ到達するまでの時間がより短くなっている。
また斬りつけた相手が持つ呪い・毒への耐性や戦闘続行に関係する能力をBランク分削減する。
心臓さえあれば人間外の生物であろうと確実に死に至らしめるが心臓の無い者、あっても機能していない者には効果がない。
また全身鎧や機械など身体に直接傷をつけられない場合も効果がなく、そういった相手には普通の刀として使う他ない。
ちなみにこの刀の必殺の概念は所有者に対しても有効となっており、生前のアカメは村雨の手入れに細心の注意を払っていた。
常時解放型宝具としては非常に強力な効果を持つがその分融通が利かず、敵との相性に左右されやすい。

『桐一文字』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大捕捉:1人
アカメが帝国の暗殺者であった頃に使用していた日本刀型の臣具。
この刀で斬りつけられた箇所は桐一文字を破壊するか所有者であるアカメを滅ぼさない限り治癒不能となる。
武器としての性能や宿す概念など多くの面で村雨に劣るが知名度でも劣っている。
そのため村雨を使う時よりもアカメの真名を特定されにくいというメリットもある。
また強敵に対し桐一文字で傷をつけ弱体化させてから村雨で止めを刺すという運用も可能。

【人物背景】
暗殺集団・ナイトレイドに所属する黒髪赤眼の少女。
肉好きの大食らいで、野生児がかったところがある。
寡黙かつ無表情なためにとっつきづらいが、感情の薄い立ち居振る舞いは上辺だけのものであり仲間への想いは非常に強い。
幼少期に妹のクロメとともに帝国に売られ、帝都の養成機関で暗殺者として育てられた。
帝都に言われるままに仕事をこなす暗殺者として暗躍していたが、仕事をこなすごとに帝国の闇を徐々に知っていき、やがて標的だったナジェンダに説得されて帝国を離反した。
クロメにも一緒に離反しようと声を掛けたが否定され、袂を分かつこととなる。
最愛の妹を救済(ころ)してやりたいと思っているが、実際は妹と戦うことに心を痛めている。

【サーヴァントとしての願い】
マスターの願いを叶える


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