イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが最初に感じたのは、凍えるような寒さだった。
 それはまるで、いつかの冬の日のようで、しかし決して似つかない。

「バーサーカー」

 親愛を込めて呼ぶ声に、応えるモノは何一つとしてなかった。
 ゴミ溜めもかくやといった様相を呈した薄暗い裏路地の中で、白い少女は地を這う。
 触れ合いを求めるように、か細い手が虚空へ伸ばされ――何を掴むこともできないまま、空を切った。
 それで、聡明な彼女は理解してしまう。同時に、思い出してしまう。

「そう」

 神話すら殺す宝物庫を持った、黄金のサーヴァント。
 釣瓶撃ちの要領で吐き出される剣を、槍を、杖を、弾を前に、イリヤスフィールの英雄は宝具(試練)を失った。
 やがて走った鎖は彼の身体を縛り上げ、……そこからは、思い出したくもない。

「――死んじゃったのね。私も、あなたも」

 そう言って、彼女の伸ばした手は地に落ちる。
 ここは何処なのだろう。新しい聖杯戦争の舞台、確か名前は……カマクラ、だったっけ。
 冬木の街とは、どんな風に違うんだろう。
 確かめたい思いに駆られるイリヤスフィールだったが、それは叶わない願いだった。
 今の時刻は午後七時を少し回ったところ、日が長くなってきたとはいえ、日が沈み始める時間帯だ。
 しかし、イリヤスフィールには昼夜の区別さえ付いてはいなかった。それどころか、季節も。
 永久的に日陰となっている路地裏の体感温度は夏とは思えないほど低く、彼女は冬とすら誤認していた。
 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの両目は――――閉ざされたままだ。

「さむい、さむいよ、バーサーカー」

 元の世界……冬木市の聖杯戦争で戦死したイリヤスフィールは、両目を潰されている。
 新たな聖杯戦争に招かれる際、彼女の傷はもちろん癒えているはずだったが、その視力は戻らないままだった。
 死の後遺症、聖杯の不具合、それとも彼女自身の心の問題なのか、それは分からない。
 ただ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが独りぼっちなことに変わりはなかった。
 ここには彼女を守る英雄はいない。それどころか、盲目で地を這う哀れな少女の存在を知る者さえいない。
 彼女は、ホムンクルスだ。始まりの御三家が一、アインツベルンの手で生み出された、最高傑作の少女人形。
 それでも、仕組み自体は人間と同じ。このまま光の射さない暗がりに居続ければ、いずれは死に至る。
 聖杯戦争など関係なく、誰にもその存在を知られることなく、孤独の中で死んでゆくのだろう。
 それはある意味で、彼女が本来辿るはずだった結末よりも救いがなく、少女にとっては残酷なものだった。

「シ、ロウ――――ぅ」

 蚊の鳴くような声。イリヤスフィールの桜色をした唇が、初めて名前らしい名前を紡ぐ。
 自分の兄であり、弟でもある不思議な少年。正義の味方を自称する彼。セイバーのマスター。
 当然ながら彼もまたここにはいない。都合のいい奇跡は、物語の篩からこぼれ落ちた敗者に決して微笑むことはないのだ。
 これはいったい、何の罰なのだろう。盲目のホムンクルスは唇を噛み、ぎゅっと拳を握り締める。
 握った拳の甲を、イリヤスフィールはもう片方の掌で包んだ。そうでもしないと、凍えてしまいそうだった。

「あ」

 指先に触れるものがある。
 イリヤスフィールはゆっくりと、ゆっくりとそれをなぞる。
 それは、彼女が鎌倉という町を舞台に繰り広げられる物語への参加資格を有している証明だった。

 それは、彼女が鎌倉という町を舞台に繰り広げられる物語への参加資格を有している証明だった。
 見えなくとも分かる三つの徴の名を、イリヤスフィールは知っている。
 彼女はすがるようにそれを握り締めた。見えない世界で唯一確かなのが、このたった三つの繋がりだったからだ。
 死ぬことは怖くない。そんなもの、自分の使命を自覚した時から常に覚悟してきた。
 仮に聖杯戦争を生き抜いて……自分に与えられた役割を果たせないまま、冬木に残留したとする。
 それでも、遠からぬ内に終わりはやって来ただろう。ホムンクルスというインチキの報いで、彼女は長く命を保てない。
 そんな彼女が、初めて心から生きたいと願っていた。もう一度あの聖杯戦争に帰るという未来(さき)がほしい。

「――――お願い」

 目は見えなかったが、イリヤスフィールには自分の片手に刻まれた徴が明滅するのが分かった。
 この身はアインツベルンのホムンクルス。一流の魔術師だって目じゃない。
 しかし、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンには光がない。
 盲目の人間は五感の一つが欠けている分その他の感覚が鋭敏になり、結果健常者よりも優れた力を持つという論説もあるが、生憎と彼女はそうではなかった。見えないだけで、そこにアドバンテージのようなものは何もない。

「来て」

 私のサーヴァントはバーサーカーだけ。それは今後、どんなことがあろうと絶対に変わらない。
 たとえどんな絶世の美男が忠節を尽くしたとしても、イリヤスフィールはそれを認められないだろう。
 だから、イメージするのは従者(サーヴァント)ではなく、英雄(ヒーロー)だ。
 あらゆる艱難辛苦を跳ね除けて、私をこの戦争に勝利させ、あるはずのない先をくれる英雄を。
 それだけを願って、イリヤスフィールはその銘を呼んだ。
 雪の妖精に似合わない暗がりの底で泥と土埃に塗れ、地へ這い蹲った惨めな姿で、乞うように。

「私を、助けて」

 そして。その呼応に応じるように……暗がりに沈む掃き溜めの路地裏に、顕現する一個の生命があった。



                 「――――ほう、これは。造り物の妖精か」



 現代風の装いに身を包んだその男は、興味深げに自らのマスターを見つめ、そう評した。
 そこに悪意や侮蔑のようなものは感じられない。単に興味本位のようだった。
 イリヤスフィールの目が仮に見えていたならば、彼女は瞠目したに違いない。

「その眼、見えぬのか。見た所潰れているわけでもないようだが……ふむ、これはおまえ自身の問題のようだな。妖精よ」

 だが見えずとも、雰囲気でこれがどういったタイプの英霊なのかを感じ取ることはできた。
 結論から言えば――なるほど、これは確かに従者(サーヴァント)じゃなく英雄(ヒーロー)だ。
 この男は誰かに跪いて機嫌を伺ったり、無償の奉仕精神を披露したりするタイプでは断じてない。
 声色の端々から滲む傲岸さがそれを証明していた。こいつはむしろ、他人を平伏させる質だろう。

「まあ、そう惑うでない。現界自体はとうに果たしていたのだが、この歪な聖杯戦争に少々個人的な興味があってな。散策がてらに今風の装いを揃えてきた。……もっとも、それで令呪を使わせたのは失策であったがな。
 この魔都は醜悪極まる。醜いからこその見所を加味しても釣りが来るほどに腐乱し、蛆が湧いている。本来であれば一時として留まりたくなどないし、義理もないが――――この聖杯戦争の深奥は、実に興味深い。さて。名を名乗るがいい、妖精」

 この英霊は、一体何を言っているんだろうか。
 そもそも現界してすぐに、マスターとの顔合わせも済ませない内に散策に出向くという時点で型破りも甚だしい。
 しかし彼はその莫迦らしい行動によって、何か確信めいたものを得ているようだった。
 聖杯戦争の深奥……イリヤスフィールはそんなものに興味はなかったが、そのワードはやけに引っかかる。

「…………イリヤスフィール。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
「そうか。なに、造花には造花の愛で方がある。それにマスターとしての性能は一級。申し分はない……良し。イリヤスフィールよ、貴様をこの我のマスターと認めよう。よく尽くすがいいぞ」
「……、なによ、それ。なんでマスターの私が、あなたに尽くすのよ」

 唖然としてしまうような発言に、思わずイリヤスフィールは苦笑交じりの突っ込みを入れる。
 すると英雄はそれを鼻で笑った。何を当たり前のことを言うのだと、小馬鹿にさえした調子でだ。

「我(オレ)は、王だ。王を統べる法など、この世の何処にある?」

 そう豪語する彼の見た目は、なるほど確かに王族のものだった。
 後ろ向きに逆立った黄金の頭髪はしかし下品さを感じさせず、真紅の双眸はピジョンブラッドのような美しさだ。
 今はジャケットを羽織っている彼だが、もしも本来の鎧に身を包めば、その姿は正しく伝説の王そのものになろう。
 そして――その見た目は、奇しくもイリヤスフィールにとっての因縁の敵と瓜二つだった。

 城のホムンクルスを殺し、彼女のバーサーカーを討ち、イリヤスフィール自身をも手にかけた英雄王、ギルガメッシュと。


「記憶することを許す。我の名は、英雄王ギルガメッシュ」


 少女の手を掴み、立ち上がらせれば、閉ざされたままの目を正面から見据えた。
 記憶することは許すが、この栄誉を忘却することは許さない。そんな傲慢さを隠そうともせず露わにし、彼は告げる。


「この世の全てを、背負う者だ」



【クラス】アーチャー
【真名】ギルガメッシュ@Fate/Prototype
【属性】混沌・善

【ステータス】
筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:A 幸運:B 宝具:A

【クラススキル】
対魔力:C
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

単独行動:A+
 マスター不在でも行動できる能力。

【保有スキル】
黄金律:A
 身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
 大富豪でもやっていける金ピカぶり。一生金には困らない。

カリスマ:A+
 大軍団を指揮・統率する才能。ここまでくると人望ではなく魔力、呪いの類である。

神性:B(A+)
 最大の神霊適正を持つのだが、ギルガメッシュ本人が神を嫌っているのでランクダウンしている。

【宝具】

奉る王律の鍵(バヴ=イル) 
ランク:E~A++ 種別:対人宝具 レンジ:-
人類の知恵の原典にしてあらゆる技術の雛形を収めた宝物庫の鍵であり、人類最古の王を示す証である刺青。
『stay night』のギルガメッシュの宝具『王の財宝』の原型であり、効果・解説は基本的に同じ。自身の宝物庫に貯蔵したあらゆる宝具の原典を自在に取り出したり、釣瓶撃ちよろしく乱射できる。
だが面制圧型の『王の財宝』と異なり、アーチャーを取り巻く形で財宝が円形に配置されるため、展開できる宝具の最大数で劣り、若干攻撃力が低い。

終末剣エンキ
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1~999 最大補足:1000人
アーチャーの主武装である双剣。セイバーの振るう最強の聖剣と互角に撃ち合えるほどに力を持った神造兵装。
「剣」ではあるが、柄は可動可能な構造になっており、変形させて「トンファー」、双剣の柄尻を繋ぎ合わせて「弓」として使うことが出来る。だがエンキの本質は単純な武器ではなく「水を呼ぶ剣」であり、最大の破壊力を発揮する際は弓型に変形させて使用する。発動から一日経つごとに破壊力を増し、7日を迎えた時、遥か上空・衛星軌道上で光る7本の矢がアーチャーの放った黄金に輝く矢に呼応して一つとなり、地に落ちる。
そして、ノアの大洪水の原型であり、かつて世界を滅ぼした大海嘯「ナピュシュティムの大波」を引き起こし、地上全てを洗い流す。なお、エンキはバビロニア神話の創造神・エアの原典である。

【weapon】
宝物庫より取り出される宝具の数々。

【人物背景】
真名は古代メソポタミア・シュメール王朝時代のウルクを治めた、人類最古の王・英雄王ギルガメッシュ。
聖杯戦争の仕組み自体は素晴らしいものとしているが、この鎌倉市に限っては醜悪さに呆れ果てている。
しかし、聖杯戦争の奥底に何かがあることを察知し、それを確かめるのを目的に動く。

【サーヴァントの願い】
「自分こそ最強の英霊である」ことを示す

【基本戦術、方針、運用法】 
ホムンクルスのイリヤがマスターなので、燃費の心配はもはや必要ない。


【マスター】
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night(UBW)
【マスターとしての願い】
未来(さき)を手に入れる

【能力・技能】 
非常に高い魔術の技能。

【人物背景】
アインツベルンの最高傑作とされるホムンクルスで、大英雄ヘラクレスのマスターだった少女。
慢心王な方のギルガメッシュに殺され戦死した後、今際の際に鎌倉への扉を開ける。
現在、盲目状態。アーチャーいわく、彼女自身の問題だというが……

【方針】
優勝狙い。


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