剣のぶつかり合う音と、魔力の弾丸が地を食い荒らす暴力的な音声とが絶え間なく夜闇に連続していた。
 廃屋の屋根上に陣を敷いて、自らの宝具を構えた魔女がマナの結合体を砲門から吐き出す。
 その度小型の爆弾すら凌駕する衝撃と閃光が炸裂し、夜の静けさを引き裂いていく。
 彼女は非常に優秀な英霊だった。鎌倉に参じたキャスタークラスの中でも、攻撃性なら上位に部類されるだろう。
 一撃一撃の破壊力と連射性、おまけに魔力炉を別口で持ち合わせるため燃費概念も無いに等しい。
 それこそ、対魔力スキルの高いサーヴァントでない限りは圧倒さえできるだろう実力の持ち主――しかし。今魔女の顔貌は焦燥に歪み、玉のような脂汗を浮かせている。戦場を俯瞰する眼球は血走ってすらいた。

 「づッ……貴様、本当に弓兵かッ!?」

 そして、それは彼女だけではない。
 彼女の同盟相手であり――今夜の戦端で前線を担当している、黄金の甲冑を纏った長髪の騎士。
 絢爛豪華な細剣を振るい、彼は目下最大の敵である弓手の英霊を斬り伏せるべく悪戦苦闘していた。
 ――そう。

 「問い返そう」

 今宵の敵は、紛れもないアーチャーのサーヴァントであるはずなのだ。
 にも関わらず、これはどういったことだ。
 セイバーの剣は全てアーチャーが担う宝具ですらない剣に受け止められ、キャスターの魔力弾も軽々いなされている。
 アーチャーどころか、セイバークラスでさえそうそういない程の身動きで……彼女は二騎の英霊を圧倒していた。

 「――貴様こそ、本当に騎士なのかよ。これで英雄を名乗るとは、我らも舐められたものだな」

 軽蔑を込めて放たれた落胆の言葉と共に、セイバーのそれより数段鋭く、速い突きが彼の胴を深く抉った。
 呻いた隙を逃さず振るわれる剣が、彼の左顔面へ一本の刀傷を生み出す。
 堪らず後退するセイバー。それに対し、アーチャーが追ってくる気配はない。

 「……キャスター! "聖剣"を解放する、一気に仕留めるぞッ!!」

 叫ぶセイバーに、キャスターが同意のサインを返す。
 このアーチャーに、常識のたぐいは通じない。
 白兵戦に持ち込んでこれだけの手傷を負わされたのだ――これ以上戦闘を続けるのは間違いなく自殺行為だ。
 とはいえ、セイバーも騎士である。
 面と向かい騎士としての才能を否定され、屈辱的に感じる想いも勿論あった。
 それで血が昇っていなかったといえば嘘になる。
 だからこそ――虎の子の対城宝具を抜き放ち、あのアーチャーを完膚なきまでに打ち破ってやろう――そう思った。

 腰に携えた黄金の柄に両手を合わせ、一息に閃光の迸る一刀を引き抜く。
 これはかの聖剣・エクスカリバーと同じ銘を冠した破魔の聖剣だ。
 生み出すのは浄化の波濤であり、それでいて単純な破壊力でも凡百のサーヴァントとは一線を画す。
 戦略兵器と同等の殲滅性能を誇ると称される、サーヴァントという存在の絶大性を象徴するような一閃。
 赤髪の火傷顔(フライフェイス)を目掛け解き放たれる閃光の波動。
 それはまっすぐに、並居る全てを巻き込みながら――アーチャーを焼き尽くすべく迸った。
 ドーム状に炸裂した黄金は、忌まわしき赤騎士を飲み込み、撹拌し―― 

 「なんだ、それは」

 黄金の騎士が放った対城宝具――かの"聖剣"を彷彿とさせる光の波濤が過ぎ去った跡。
 木々の一本として残さず破壊され、生物など生き延びられる筈もない焼け野原と化した"そこ"より。
 軍靴の音が響いてくる。
 馬鹿な。あり得ない。口にするべき月並みな台詞など幾らでもあるのに、誰もが言葉を失っていた。

 「忌まわしい。その程度で黄金を嘯くかよ、雑魚どもが」 

 今までとただ一つ違うのは、アーチャーの表情には……明確に不愉快と示すような、怒りの色が滲んでいること。
 キャスターが魔弾を放つ。――当たらない。掠りすらしない。首を、体を、ただ逸らすだけで回避される。

 「理解した。貴様らに価値はない」

 故に、諸共滅びるがいい。
 死神の宣告と共に――アーチャーの背後に、巨大な魔方陣が顕現した。
 それはキャスターが持つそれよりも遥かに大きく、質が高い。

 彼女はアーチャーでありながら、セイバーを上回る剣技、キャスターを凌駕する魔力量を持っている。

 そして、先ほどセイバーが見せた奥の手、聖剣の波濤。
 不敬にも彼女が信奉する"黄金"を騙った一撃など――彼女にとっては、通常攻撃の一発にも劣るものでしかない。
 魔方陣より溢れ出す灼熱。それは第二次大戦下に生まれた、世界最大の"列車砲"に渦巻く灼熱の業火。
 それはやがて、濁流の如き勢いで砲門より溢れ出し、騎士と魔術師の主従を一瞬の内に飲み込んだ。
 宝具も、予め用意してあった術式も、一つ余さずその火炎で焼き尽くし。
 過ぎ去った跡。二騎の哀れなサーヴァントたちが生存していられる道理など、どこにもありはしなかった。

 「つくづく、下らん。そしてそれ故に度し難い。
  単に面白可笑しいだけの活劇を以って英雄譚を騙り、その実持つ力は凡百にも劣る愚図共。
  世界へ召し上げられた英雄の集う饗宴と聞き、少しは期待したが――暇潰しにもならん」

 ドス黒く焼け付いた鎧の残骸を一瞥し、アーチャーは真に焼け野原と化した戦場を後にする。
 これにて、彼女が屠ってきた主従は十の大台に乗った。
 だがそのいずれも、活動位階の炎すら防ぐことが出来ずに散っている。
 聖槍十三騎士団黒円卓第九位。冠する魔銘は魔操砲兵(ザミエル)。
 黄金の獣に忠誠を誓いし赤騎士、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグは、主の少女が待つ邸へと足を向ける。


 ――その方角から漂う、噎せ返るほどの百合の香りに……隠すこともなく嫌悪感を示しながら。



 ■


 大理石が敷き詰められた豪奢な床を湛えた令嬢の私室。
 アーチャーのマスター、辰宮百合香はそこに用意された座椅子に座り、二人の"来客"と向かい合っていた。
 彼らは聖杯戦争の参加者。今しがた、赤騎士が焼き払ったセイバーとキャスターのマスター達である。
 しかし、その眼に敵意のようなものは全く存在しない。
 むしろ――敬意にも似た好意、善意で満たされていた。

 「それでは、貴方がたは――敗れ去って尚、わたくしに協力してくれるというのですね?」

 二人は確かに頷く。
 彼らは優秀な魔術師だ。
 聖杯を求めて別な世界より鎌倉を訪れ、そして聖杯を巡る戦いに敗れた。
 この"予選期間"中に敗走したマスターは、現界の核であるサーヴァントを失っても消滅することがない。
 しかしだ。自尊心の高い魔術師であったはずの彼らが、こうもすんなりと彼女に従い。
 そして、無償の善意をもってサポートすることを断言するというのは……聊かばかり不自然である。

 「ではその好意、ありがたく受け取らせていただきましょう」

 気品に満ちた微笑みで、百合香は二人へ感謝を示す。
 そんな表情を向けられた魔術師たちは、誇らしい思いに満ちたまま邸を去っていった。

 この邸は、百合香が半ば乗っ取ったものである。
 もともとこの鎌倉に在住していた富豪の家に入り込み、養子のような形で受け入れられた彼女。
 それから程なくして、邸の住人達は彼女をこそ主と崇め始める。
 邸の長であるはずの家主たちも、それに憤るでもなく寧ろ同意し、この家を明け渡す発言をして居を移した。
 可愛いなどという言葉では表現できない浮世離れした美貌と気品ある佇まい――無論、彼らの心を変えたのはそれだけではない。もっと反則じみた道理が、そこには存在している。

 「……あら。戻られたのですか、アーチャーさん」
 「取るに足らん相手だ。見てくれだけを突き詰めた英雄の紛い物共……手こずる道理もない」

 壁に身を凭れさせ、紫煙を燻らす火傷顔の女傑。
 彼女こそは百合香のサーヴァント、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグである。
 だが。彼女の主を見つめる視線には――敵意よりも尚冷たい、軽蔑の色合いがありありと滲み出ていた。

 「相変わらず手厳しいですね。そんなにも気に入りませんか、わたくしが?」
 「ああ、気に入らんよ。私も色々な女を見てきたが、お前ほどの屑はそういない。
  正直な所、貴様が私の契約者でなければ即座に焼き殺している所だ。売女よりも尚醜い、腐乱した百合の花めが」

 アーチャーは色恋だ何だと宣って回る女が嫌いだ。
 唾棄すべき屑と軽蔑し、気味の悪いものと思ってすらいる。
 その彼女をして――辰宮百合香は規格が違うと、屑の枠にすら当て嵌められないとの評を下さざるを得なかった。
 近付く者を皆惚れ落とさせる傾城の香。それだけならばいざ知らず、本人の有する複雑怪奇した精神性。
 全てが気に入らない。まるで逆鱗を逆撫でされるようなものを、アーチャーはこの少女から感じ取っていた。

 「直に聖杯戦争は次の段階へ移行するだろう。
  貴様は黙って安楽椅子に座り、戦争の終結を待っているがいい」
 「ええ。頼りにしていますよ、魔操砲兵(ザミエル)」

 戦火の主は鼻を鳴らし、青薔薇の君がおわす空間より消え去った。
 その炎は――聖杯戦争が"本戦"へ移るまでの間に、あとどれだけのサーヴァントを焼き尽くすのか。


【クラス】
 アーチャー

【真名】
 エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ@Dies irae

【パラメータ】
 筋力B 耐久C 敏捷C 魔力A+ 幸運B 宝具EX

【属性】
 秩序・悪

【クラス別スキル】
 対魔力:A
 Aランク以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではアーチャーに傷をつけられない。

 単独行動:C
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。

【保有スキル】
 軍略:A
 一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
 自らの対軍宝具や対城宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具、対城宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。

 忠節の騎士:A
 彼女は魂までも黄金――ラインハルト・ハイドリヒに平伏している。
 あらゆる宝具、スキルをもってしても、決して彼女の精神性に介入できない。

 魂喰の魔徒:B
 数万以上もの魂を喰らっていることから、マスターに消費させる分の魔力を自分で補うことが出来る。
 列車砲の火力に反し、サーヴァントとしての燃費は反則的に良い。

【宝具】

『極大火砲・狩猟の魔王(デア・フライシュッツェ・ザミエル)』
 ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:1000人
 第二次世界大戦でマジノ要塞攻略のために建造された80cm列車砲の二号機。
 その運用には砲の制御のみで1400人、砲の護衛や整備などのバックアップを含めると4000人以上もの人員を必要としたとされる文字通り『最大』の聖遺物。
 あまりの巨大さ故ほとんど形成されず、基本空中の魔法陣から炎熱の砲弾を発射する活動位階の能力が使用される。
 ただし戦略兵器として造られた来歴に違わず、活動位階でもその火力は格上の相手を容易く死傷させるほどに強力。

『焦熱世界・激痛の剣(ムスペルヘイム・レーヴァテイン)』
 (旧)ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:常時拡大 最大捕捉:常時拡大
 彼女自身の創造位階が宝具となったもの。
 極大火砲・狩猟の魔王から発射された砲火の、その爆心地からの逃走を果たしたとしても、対象に着弾するまで爆心が永遠に燃え広がり続ける。やがて地上に逃げ場は消え焼き尽くされる他ない、実質的な『絶対必中』の宝具。
 だがこれはあくまでも戦争用に枷をはめた形成と創造の中間の技であり、本命ではない。

 (新)ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:∞
 逃げ場の一切ない砲身状の結界に対象を封じ込め、内部を一分の隙間もなく焼き尽くす絶対必中の攻撃を放つ。
 絶対に逃げられず、絶対に命中し、総てを焼き尽くす炎が凝縮した世界。
 これこそ絶対に逃げられないということ、絶対に当たるということ、その究極系。逃げ場など最初から何処にも存在しない世界を展開する、真の絶対必中の技。
 火力も最大で核弾頭クラスのものを持続することが可能であり、格下相手がこれに対処することはまず不可能。
 彼女にとって勇敢な騎士との決闘こそが誉れであるため、彼女が騎士と認めた相手にしか真の創造は使用しない。

【weapon】
 剣。


【人物背景】
 聖槍十三騎士団黒円卓第九位・大隊長、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ=ザミエル・ツェンタウァ。
 ポニーテールにまとめた赤い髪と左半身を縦に走る酷い火傷の跡が特徴の、見た目通りの炎のような苛烈さと軍人然とした任務に対する氷のような冷徹さの二面性を持った女傑。
 「煙が好き」と語る愛煙家で、戦闘中であっても葉巻を燻らせている。
 「赤騎士(ルベド)」の称号を持つ三騎士の一角で、その称号に恥じない能力を持った英雄である。

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯をハイドリヒ卿へ献上する。

【運用方法】
 魔力消費を本人が代用してくれるので戦力的には申し分なく、優秀。
 しかし人格面に多大な問題があり、マスターである辰宮百合香との関係性は最悪。
 アーチャーは百合香を色惚けした屑としか見做していないし、百合香もアーチャーを終始軽んじている。


【マスター】
 辰宮百合香

【出典】
 相州戦神館學園 八命陣

【マスターとしての願い】
 特になし。だが、この異界で野垂れ死ぬつもりはない。

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 『傾城反魂香』
 洗脳されたことにすら気づかせない程の高度な精神支配を施す。
 香が展開された空間に侵入した存在は、人間であれば無条件で百合香に好意を抱き、全幅の信頼を置くようになる。
 あらゆるものを嘲弄する存在が彼女の前では口を慎み、狂乱した龍神は香りに釣られ狙いを動かす。
 その強力さは折り紙つきで、一度影響下におかれた存在は百合香に対し一切の負の感情を抱かなくなる。
 百合香の言動に対して全く疑問を持たなくなってしまうため、自力での洗脳解除は非常に困難。
 時間経過に応じて効果がなくなる、あるいは薄くなるようだが、それも予め定期的な接触を約束することで防げてしまう。
 数十キロ先の遠方に存在する人間に対しても、配下の人間を介することである程度効果を及ぼす射程距離、
 洗脳が解けて能力を理解し警戒していたとしても一切意味はなく、その影響を欠片でも受けてしまえば今までのことを忘れ、百合香に対しての好意が復活してしまうという性質。
 この夢が効かない条件とはただひとつ、「既に百合香に惚れていること」のみ。
 わざわざ好意を抱かせるまでもなく、既に相手が惚れているのだから、その延長線としての洗脳も効果を発揮しない。能力が効かない人間には、この夢は百合の花の香りとして認識され、能力の影響が強い場所ほど強い香りとして認識される。

 本作ではサーヴァントに対しても平常通りに作用。
 ただしBランク以上の対魔力スキルで違和感を抱き、Aランク以上ならば香に対抗できる。
 狂化しているバーサーカーも完全ではないにしろ香を無効化できるが、「狂っているものの意思疎通が可能」「理性を持つ」タイプのバーサーカーならば、この夢からは逃れられない。

【人物背景】
 貴族院辰宮男爵の令嬢にして、夢界の六凶が一角「貴族院辰宮」の首領を務める少女。
 名家に生まれ、美貌を持ち、ありとあらゆる人間に頭を垂れられてきた彼女だが、あまりにも恵まれすぎた環境に置かれたせいで、あらゆるものに価値を感じられないという価値不信に陥っている。
 彼女は自分をそんな境遇から連れ出してくれる「王子様」を求めている。
 他人からの好意を信じられないくせに、誰かありのままの自分を見てと訴えている。
 まず嫌われなければその相手を信じられないくせに、自分を嫌うその人に救ってほしいと訴えている。
 自分からは何もしないくせに、何故何もしてくれないのかと不満に思っている。
 その条件を唯一満たしたのは、戦真館の悌の犬士で――

 とてもめんどくさい女。(要約)

【方針】
 生存優先。


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