歩く。
 ――歩く。
 ――――歩く。
 ――――――歩く。
 ――――――――歩く。


 夢を見ていた。

 あの日の夢だ。
 あの日。皆の日常が終わった日。
 生ける死者が歩きまわり、腐った体で呻く姿は地獄絵図。
 起こるはずがないと高を括っていた「非常事態」が、すべてをめちゃくちゃにしていった。

 あの日から、何もかもがおかしくなった。
 いや、おかしくならないはずがなかった。
 いくらしっかりしているとはいえ、年頃の女の子たち。
 気丈に振る舞ってはいるけれど、無理をしているのはあまりにも明らかで。
 その極めつけとも呼べる変化が、ある娘に起きた時に――私は、初めて私の罪を自覚した。

 もしもやり直せるならば。
 そう思い、私は今日もあてのない旅路を往く。
 その時だった、眩しい光が私の視界を照らしたのは。
 私はその光へ吸い寄せられるように歩く――不思議とその光は温かくて、居心地がよい。
 まるで陽だまりの中に包まれているようだった。
 心があたたかくなって、いつまでもこうしていたいと思わせる――それはまるでいつかの日のように。


 そうして私は思い出す。


 私は、それを守るためだけに生きているのだと。
 だから足を引きずって、私はそこへと歩き出す。

 叶えよう、この願いを。


 そうして私は辿り着く。
 すべての願いが叶えられる■■に。
 あの子たちを助けるため―――ただそれだけの願いを胸に。

 あの子たちに、あるはずだった日常をあげること。
 それを叶えるためだけに、私は生きている。





 鎌倉市を中心に渦巻く、無数の都市伝説。
 夜の高徳院で剣を携えた鎧武者を見た。
 八幡宮の屋根上より光の矢が舞い、遥か先を歩く人間を撃ち抜いた。
 黄金の輝きを放つ槍を担った、西洋風の騎士に遭遇した。
 早朝の空を天馬を駆って駆け抜ける、天使のような美少女の姿を捉えた写真がある。
 廃墟と成り果てた屋敷で、得体の知れない土の化物と、陣に座ってそれを生み出す魔女へ行き遭った。
 髑髏の面を被った黒子に触れられた男が、たったそれだけで息絶えた。
 天すら震わす嘶きをあげる怪物が夜な夜な現れ、それと出会った者は生きては帰れない。

 そんな仰々しいものに比べれば、あくまでそれはちっぽけな怪談話でしかなかった。
 町を徘徊する屍食鬼に出逢ってはならない。
 <彼女>に咬まれた者は、<彼女>と同じ存在になる。
 ここが鎌倉でなければ、誰もが嘘っぱちと一笑に伏したろう。


 だがそれでも、そういう話が流布されているということは事実なのだ。
 そして今、鎌倉は聖杯戦争の舞台となっている。となれば後は、論ずる必要もないだろう。
 桃髪の屍食鬼が、ゆらゆらと揺蕩うように歩いていた。
 髪の毛は輝きを失って、皮膚は腐乱しところどころが膿んだように泡を吐いている。


「―――マスター!」


 悲痛な声で、彼女を主と呼ぶ声がした。
 その声に、彷徨う彼女はいびつな動きで振り返る。
 ぎ、ぎ、ぎ、ぎ。
 人を超えて英霊となった彼女の契約者も、その壮絶な姿に思わず息を呑んだ。

「マスター……」

 サーヴァント――ランサーは、共に戦う彼女の名前すら知らない。
 そもそも、彼女は言葉を喋ることも、介することもできないのだ。
 彼女に、自分が聖杯戦争の参加者なのだという自覚があるのかどうか。
 そこからして、既に怪しくさえあった。しかし、そんなことはランサーには関係ない。
 マスターを守り戦うサーヴァントとして召喚された以上は、マスターがどんな人物だろうと守ってみせる。
 そう心に決めていた。だが……そんな彼女の考えは、いささか甘すぎた。

「お願い――こんなことはもうやめてください」

 彼女の口には、べっとりと血糊がこびり付いていた。
 きっと、また<咬んで>来たのだろう。
 彼女はその恐ろしい性質に反して、大仰な戦闘能力を持たない。
 だから魔術師や、サーヴァントを連れたマスターを襲ったと考えるよりも――これは。

「…………」

 彼女は、ランサーの声など何処吹く風といった様子で――踵を返し、再び彷徨い始める。
 実際に、言葉は届いていないのだろう。あの様子の彼女に、言語能力が残されているとは思えない。
 ランサーは、砕けそうなほど強く自分の拳を握り締める。
 彼女は異端の槍使い。
 槍らしい槍など持たず、諦めずに振るい続けたこの拳をこそ、逆境を跳ね除ける槍とした<勇者>のサーヴァント。
 そんなランサーにも、この哀れなマスターを救うことはできない。
 声の届かない相手には、勇者の熱意は届かない。

「……ううん」

 それでも、ランサーは諦めない。
 言葉は通じない――自分の存在を理解されているかすら分からない。
 けれどきっと、彼女も正しい願いを持ってここにやって来たのだと信じて、ランサーは都市伝説の姿を追う。
 ランサーの考えは、実際に間違ってはいなかった。
 いわばそれは生前の記憶のようなもの。自我らしいものをすべて失いながら、それでも忘れなかった願いのかけらを、この鎌倉聖杯戦争を作り出した聖杯が価値あるものと選んだから、都市伝説――佐倉慈はここにいる。

「勇者部五箇条――ひとつ。なるべく、諦めない……だよね!」

 持ち前の前向きさで気持ちを立て直すランサーの姿は健気ですらあり。
 だからこそ、彼女は不憫だった。
 彼女とそのマスターの向かう方向性がどれだけ正しくとも、必ずその道は歪んでいくことを余儀なくされるのだから。

 都市伝説は拡大している。
 パンデミックのように、彷徨う屍食鬼は数を増やしつつあった。


【クラス】ランサー
【真名】結城 友奈
【出典】結城友奈は勇者である
【性別】女性
【属性】中立・善

【パラメーター】
筋力:C+ 耐久:B+ 敏捷:B 魔力:D+ 幸運:B 宝具:C

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
戦闘続行:A+
 往生際が悪い。
 霊核が破壊された後でも、最大5ターンは戦闘行為を可能とする。

勇者:A
 致命傷を負っていればいるほど、彼女の戦闘性能は向上していく。
 限度は存在するものの、それでもその有り方は紛れもなく逆境を跳ね除け悪を挫く<勇者>のもの。

神性:C
 神霊適性を持つかどうか。
 宝具の使用により獲得した。

【宝具】
『少女開花・神樹の誓い』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
 戦闘によって蓄積される力を開放し、「勇者」の先に到達する二段階目の変身を行う。
 その能力値は爆発的に向上、まさしく無双の働きをするに至る力を得る。
 だが、咲き誇った華はいずれ散華するのが定め。
 それは少女の開花であれども例外ではなく、この宝具が解除されると共に、ランサーは肉体の一部を失う。

【weapon】

 多くの敵を討ち、あらゆる逆境を跳ね除けてきた。

【人物背景】
 バーテックスと戦う勇者の一人。
 その大きな正義感と勇気は皆に勇気を与え、バーテックスの一時絶滅を成し遂げる。

【サーヴァントとしての願い】
 願いはない。マスターの為に戦う。


【マスター】
 佐倉慈@がっこうぐらし!

【マスターとしての願い】
 『がっこうぐらし』を続ける彼女たちに、あるべき日常を取り戻してあげる

【weapon】
 無し

【能力・技能】
 彼女はとある病原体に侵され、理性と自我を失っている。
 彼女に噛まれた相手はやがて同じ症状に侵される。

【人物背景】
 愛称は「めぐねえ」。
 教師として学園生活部を創立し、皆を導こうとするが、志半ばで堕つ。
 ――これは、彼女「だったもの」の聖杯戦争。


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