それは、突然すぎる出来事だった。
「え」
呆けた声と共に、アーチャーのマスターの、その心臓から何かが生える。
刃だった。薙刀に似ていたが、刃の部分は薙刀ほどの反りがなく、出刃包丁を大きくしたような形だった。
柄の長さが一メートル、刃渡りが三十センチほど。如何せん奇妙な武器だったが、真に驚くべきはそこではない。

ここはホテルの地下駐車場。
魔術師が背にしていたのは、コンクリート製の柱だった。
分厚さも相当なものがある。どんな武器だろうと、これをその向こう側から貫通するなど不可能に違いなかった。
ではどうして、自分は今貫かれているのか。
致命傷であることは疑いようもなかったが、魔術師は自らのサーヴァントを呼ぼうとした。
けれどそれも無駄。令呪を用いた命令を発声する前に、罪人がそうされるように、彼女は首を後ろから切断されていた。

魔術師の視界に最後に写ったのは、超常の理念を扱う彼女にも理解しかねる光景だった。
コンクリートの柱から、まるで『潜って』でもいたかのように、武器を携えた水着姿の少女が顔を出していたのだ。
私は、いったい何に殺されたんだろう。まだやりたいことも、試したいこともいっぱいあったのに。
宙を待った首がゴトリと音を立てて地面へ落ちる頃には、若き天才魔術師はすっかり事切れていた。

それを待って、コンクリートに潜水した聖杯戦争の参加者『スイムスイム』は姿を現す。
現れるなりスイムスイムは、たった今殺した死体に駆け寄る。
刎ねた首から上に興味はない。彼女は胴から下へ目をつけると、まるで盗人のように漁り始める。
事実彼女が働いているのは盗みだった。
この鎌倉では、元の世界から資金や道具を持ってくることができない。
聖杯戦争中にずっと野宿を続けるわけにもいかないし、やはり先立つものがあるのとないとでは話が違ってくる。
「あった」
見つけ出した財布の中身から、躊躇いなく全額をくすねる。
死体の処理についてはどうでもよかった。
どうせ、今この町でこの程度の事件は珍しくもない。
第一、足がついたからと言って――それでどうにかなるわけでもないだろう。堂々と構えていればいい。

今晩の仕事も終わった。
こうなれば長居は無用である。
スイムスイムは今度は壁に潜り、早々に殺人現場を後にする。
彼女はアーチャーのマスターだった。そしてアーチャーは、単独行動という厄介なスキルを持っている。
マスターを殺されたことに気付いたサーヴァントは、直にこの場所へ戻ってくるだろう。
スイムスイムもサーヴァントを呼べば対抗できるだろうが、既に脱落した主従相手にそんな労力を使うのは馬鹿馬鹿しい。
壁を抜けて茂みに紛れ、魔法少女スイムスイムは見事離脱を果たした。
遠くから、男の絶叫が聞こえてきたような気がしたが、彼女にはもう関係のないことだった。

「キャスター」
スイムスイムは、自分の拠点を目指す。
マスター狙いの暗殺という方針上、あまり犯行を重ねすぎるといつか足が付きかねない。
あくまで自分は漁夫の利を狙っている。心配せずとも、聖杯戦争は進むのだから。
そんな時だった。彼女は道の陰からこちらを窺っていた一匹の黒猫をキャスターと呼ぶ。
「見てたの、知ってる」
それを聞くなり、黒猫はくすくすという笑い声をあげ――やがて、一人の少女に姿を変えた。

少女は虚ろな目の持ち主だった。
ニンゲンの形をしていながら、黒猫のしっぽを付けたロリータ服の少女。
青いというよりも蒼いと呼ぶのが相応しい長髪が夜風に靡くたび、紅茶のような香りがスイムスイムの鼻孔を擽る。
「相変わらず、言うことを聞かない」
「くすくす。仕方ないでしょう? あまりにも退屈すぎるんだもの」
退屈は魔女を殺すのよ。
そう言って嗤うキャスターに、スイムスイムはなにか続けることはなかった。

スイムスイムのサーヴァントは魔術師<キャスター>だ。
真名を奇跡の魔女、ベルンカステル。魔法少女よりもずっと高名で、絶大な存在らしい。
しかしスイムスイムには、彼女の言うことはよく分からなかった。
サーヴァントが筆舌に尽くし難い力を持った存在ということは知っていたし、改めて驚くこともなかった。
ただ一つだけ思ったのは、彼女は今まで見たことがないタイプだった。

『ピーキーエンジェルス』のように囀るわけでもない。
『たま』のように無邪気なわけでもない。
そして――『ルーラ』とも似つかない。
彼女はただ見守り、観測し、くすくすと笑っているだけだ。
聖杯戦争に参加して結構経つが、未だにスイムスイムはベルンカステルの戦う姿を見たことがなかった。

スイムスイムは馬鹿ではない。
命じて動かないなら、自ずから動く他ないとすぐに思い至り、行動した。
それに、元からサーヴァントの強さに胡座を掻いているつもりなどは毛頭なかったのだ。

「ねえ、スイムスイム? 貴女はこの聖杯戦争に、何を願うのかしら」
「――、」
ベルンカステルへ構うことなく進めていた足を、スイムスイムは一度だけ止めた。
そして振り返り、
「わからない」
そう答えた。

「わからないけど、ルーラならきっとこうするから」
スイムスイムに願いはない。
聖杯に託し、叶えたい願いはない。
では何故、彼女はこうして戦っているのか。
その理由はたった一つ。その理由こそが、スイムスイムの全て。
「へえ――」
それを聞いたベルンカステルは、静かに口元を吊り上げた。

キャスターのサーヴァント、ベルンカステルは知的強姦者だ。
知的優位に立つことにより快感を覚え、推理を何よりも重視し、それを穢されると強い怒りを覚える人種だ。
魔女である彼女に、『人種』などという言葉を使うのもおかしなものだったが。

更に言うなら、聖杯戦争自体はどうでもいいと考えているのは彼女も同じだった。
所詮は小さい視野でしか物事を捉えられないニンゲン風情がうつつを抜かす座興だと軽蔑さえしている。
だが、その趣向は面白い。数多のカケラを掘り返しても、これほどに残酷な仕組みのゲーム盤はそうない。
だから彼女は、スイムスイムのサーヴァントとしてここにいる。
『可能性がゼロでない限り、必ず成就させる』魔法を使い、聖杯に無理やり自分を選別させることで。
とはいえ。遊びとはいえ、みすみす殺されるのは気に食わない。
盤上の駒となったからには、それなりの働きはするつもりだった。
スイムスイムに聖杯をもたらすためのサーヴァントとして。

ベルンカステルは、『良い』サーヴァントではない。
何事をも傍観しているようで、その実嘲笑っている存在だ。
そんな彼女だからこそ、スイムスイムに望むところはひとつだった。

彼女が自分の『心酔』から選んだ道を完膚なきまでに破壊される、『その時』。
スイムスイムのみに限らず、すべてのマスターに対して、ベルンカステルはその願いが踏み躙られることを願っている。
穢れきった奇跡を背に、奇跡の魔女は再び黒猫に姿を変えた。

魔法少女と魔女が家に帰っていく。
ひとりは血だまりを作って、ひとりは心の血だまりを作る。
仕組まれた奇跡が、聖杯戦争のすべてを弄ぶべく、静かに動き始めていた。


【クラス】キャスター
【真名】ベルンカステル
【出典】うみねこのなく頃に
【性別】女性
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:A+ 幸運:D 宝具:EX

【クラススキル】
陣地作成:A+
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 神殿を上回る大神殿の形成すらも可能。

道具作成:A
 魔力を帯びた器具を作成できる。

【保有スキル】
使いの黒猫:A
 自らを一匹の黒猫へと変化させる。
 この状態のキャスターはサーヴァントとして認識されない。
 しかし攻撃態勢に移るには、一度本来の姿に戻る必要がある。

知的強姦者:A
 彼女の生業は精神の強姦。
 知的優位に立つことにより快感を覚え、推理を何よりも重視し、それを穢されると強い怒りを覚える。
 壮絶な過去を持てば持つほど、その相手にとってベルンカステルの言葉は心を深く抉る刃となっていく。

【宝具】
『奇跡の魔法』
ランク:EX 種別:対運命宝具 レンジ:- 最大補足:-
メモ用紙を百回畳めば月にも届く。そして彼女は百回畳んだ。
起こりうる事象の可能性がゼロでない限り、必ず成就させる力。
喩えるならば、双六で賽子の出目が6になるまで何度でも振り続けるようなもの。
これはベルンカステルが持つ魔法大系にして称号である。

『藍なる闇に囃し囃せ(カケラの魔法)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~20 最大補足:1人
この世界を始めとした次元を越えて存在するさまざまな世界いわばパラレルワールドの具現化とも言うべきもの。
作中では"カケラの海"と呼ばれる宇宙空間のような藍色の闇に浮かぶ無数の宝石の破片として表されている。
それぞれのカケラの住民はカケラの存在を知覚できず、その概念すら知らないままに一生を終えるが、複数のカケラに同一人物が存在する場合、ごくまれに片方のカケラの人間の記憶などがもう片方に伝達されることがある。
また、それぞれのカケラを外側から閲覧することができる存在や、カケラ間を移動できる存在、自ら新しいカケラを創造できる存在も居ることが示唆されており、本編中ではカケラ間を移動する者を"航海者"、カケラを創造する者を"創造主"と呼ぶことが明かされている。
過去未来関係なしに外部や内部の世界での出来事をカケラに映し出したり、対象者の精神や記憶をカケラに投影するなど、使用用途は多種多様である。
尚、黄金夢想曲†crossではカケラに籠められている力を解放する(投げる)ことで攻撃手段として活用を可能としていた。
聖杯戦争での用途はもっぱらこちらになるかと思われる。

『社に集いし黒猫の従者(フレデリカ・シャッテン)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大補足:1000人
見た目こそは普通の黒猫だが、その正体は魔女に使える残酷で無慈悲な従者。
禍々しい牙と爪を持っており、命令されれば忠実に目標へと襲い掛かる使い魔。
EP8終盤や黄金夢想曲†crossではカケラの海に散る魔王(元は別々の物語に存在する勇者や主人公達)となる存在も登場しており、口からレーザーを射出するなど攻撃面で黒猫の従者とは大きく異なる点を持つ。
又、同作で攻撃時にベルンカステルが纏っている闇から手や顔などの特定部位だけを出していることも確認できる他、EP8では群れを成して纏まることにより、青緑色(エメラルドグリーン)の巨大な鯨の姿であるリヴァイアサンとしてラムダデルタに立ちはだかっている。


【weapon】
 なし

【人物背景】
 千年を生きた「奇跡の魔女」。
 運命に弄ばれた少女はやがて、運命を弄ぶ強姦者になった。

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯戦争という儀式を見届ける。
 しかし殺されるつもりもないので、聖杯ももちろん手に入れる気でいる。

【基本戦術、方針、運用法】
 とにかく性格に問題のあるキャスターだが、性能自体は間違いなく最高級。
 ただ、マスターをすら駒と軽んじている節があるのが難点か。


【マスター】坂凪綾名/スイムスイム
【出典】魔法少女育成計画
【性別】女性
【令呪の位置】左手の甲

【マスターとしての願い】
 ルーラの教えに従い、聖杯戦争の頂点に立つ

【weapon】
『ルーラ』
頑強で薙刀のような魔法の武器。魔法の国では日常品らしい。
魔法の力を宿した武器で、単純な物理的負荷ではたとえサーヴァントだろうと破壊できない。

【能力・技能】
『どんなものにも水みたいに潜れるよ』
物質を透過し、潜航する魔法能力。
発動中は物質的な攻撃は全て透過する。ただし、衝撃波、光波、音波等の波の特性を持つものは透過できない。

【人物背景】
本名:坂凪綾名。魔法少女名はスイムスイム。
白いスクール水着を着た少女のアバターを持つ。
同胞の魔法少女、『ルーラ』に心酔している。

【方針】
聖杯狙い。基本は暗殺に徹しつつ、サーヴァントとの戦闘はキャスターに任せる。


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