バゼット・フラガ・マクレミッツが鎌倉を訪れた表向きの理由は"仕事"だった。
ある日彼女の家に届いた、どこから郵送されたのか追跡することすら出来ない一枚の手紙に記された情報提供。
『聖杯』という単語が目を引くその文面の趣旨をバゼットが飲み込み、己の所属する魔術協会に報告したのには理由がある。
その手紙の送り主の名に、心当たりがあったからだ。かって仕事の場を通じて出会い、語り合った熟練の代行者。
上層部からは揶揄されもしたが、半ば押し切る形で派遣を納得させた。
極東の一国で万能の願望器が顕現しかけたという記録は残っていたし、バゼットの知る代行者もそれと無関係ではなかったという。
おそらくあの男はその線で、此度の『鎌倉の聖杯戦争』に関する情報を得ることが出来たのだろう。
そして、かって失敗した聖杯の確保の一助として、あの代行者が組織の垣根を越えて自分に協力を要請している……そう思うだけで、バゼットの心は弾んだ。
身支度を整え、見送りも激励もなくいつもの様に任務に出る。
サーヴァントを召還する為に必要な聖遺物は、あの憧れのケルトの大英雄を呼ぶ為に実家に代々伝わるルーン石の耳飾りを持ち出した。
勝機は十分、戦意も十分。多少楽しみな要素があるだけの、日常の業務の一環でしかない。
即物的な願望に支配された素人や協会に属さず根源に至る等とのたまう木っ端魔術師など、バゼットの実力を持ってすれば粉砕できるだろう。
強敵であろう代を重ねた名門の魔術師が鎌倉にいるという情報も入っていない。油断も慢心もないが、必要以上に気負うこともない任務だ。

「やれやれ、名指しで呼ぶとは誤解を招く事をする。再会したら、まずは文句から言わせてもらいましょうか――――言峰綺礼」

バゼットは日本行きの飛行機に乗り、鎌倉へ向かい……その日より、消息を絶った。
協会への連絡が一切ないことに誰かが気付き、騒ぎ、協会は紛糾する。
しかし、鎌倉への増援を送ることはなかった。――――鎌倉で、聖杯戦争が行われている事実など、ないと分かったのだから。
事前に送り込み、詳細な情報を送ってきていた調査員たちはバゼットの来日に合わせるように帰還し、送ったはずの情報の内容がまるで違うと主張。
魔術闘争の気配の欠片もない、情報は誤りである。という事しか伝えていないはずだ、という要領を得ない報告を受け、協会はバゼットの追跡を断念した。
逃亡の疑いをかけることも、彼女の生家に圧力をかけることもせず。初めからバゼットなどいなかったかのように振舞った。
バゼットは替えの利かない種類の歯車ではあったが、協会にとって必須のパーツというわけではないのだ、当然だろう。
あるいは彼らは気付いていたのかもしれない。
これは、深入りすれば面倒な事態になりかねない、と。

439 :銃火の先の英雄 ◆2XEqsKa.CM:2015/07/26(日) 04:02:52 ID:Q9ot5zrQ0



「バゼット、食欲がないようだが」

「……」

「その照り焼き、食べないなら俺が食っちゃってもいいかな?」

返事を待たずに箸を伸ばし、口に食物を運ぶ男。
彼の名はアーチャーのサーヴァント、橘朔也。
一見普通の人間にしか見えない橘だが、バゼットとの間には確かに魔力のパスが通り、食事中の今でも繋がりが感じられる。

鎌倉に到着して程なくこのサーヴァントを召還したバゼットは、想定していた英霊と似ても似つかないその姿に驚愕した。
それ以前に、予習してきたサーヴァント召還の儀式すら行っていないのに突然目の前に現れたのだ。
鎌倉に持ち込んだ耳飾りは健在だが、アーチャーとの類似性はまるでない。これが召還に使われたとは考えられなかった。
思わぬアクシデントに意気消沈しながらも警戒は怠らず、まず公共施設の電話を借りて協会下部組織への報告を行おうとしたバゼットを、二度目の驚愕が襲う。
連絡が出来ない。回線が切られているわけでもないのに、外部への通信が通じないのだ。事前に派遣されている筈の人員も配置地点に来ていない。
街の人間を観察するが、特にパニックが起きている様子もない。魔術的な幻術を受けている感覚もない。
混乱するバゼットに、アーチャーは冷静に進言した。

『まずは、食事を取れて落ち着ける場所を探そう』

バゼットが用意してきた日本の通貨はそれほど多くはない。拠点とするはずだった建物も、まるで違う建物になっていた。
逡巡し、鎌倉の教会を訪れて言峰に話を聞こうとするも留守。
やむを得ず、バゼットは霊体化させたアーチャーを伴い近場の安宿に入った。
コンビニ弁当を持ち込んで腹ごしらえをするも、あまりの事態に食欲が沸かず、頭の中は何故こんなことに、という思いでいっぱいになっていた。

「……アーチャー、貴方は召還されたときに聖杯戦争に滞りなく参加する為の知識を得ているはず。その知識の中に、何か異常なものはありませんか?」

「何ともいえないな」

何ですかそのやる気のない返事は、とバゼットが顔をしかめる。
ともかく、事前に想定してきた戦術や戦略が通用するかどうか分からないのだ。
自分の足で鎌倉の街を歩き回り、情報を集めることが必要だろう……バゼットはそう結論し、街へ出た。
この期に及んで、言峰綺礼が自分を騙し罠にはめたという疑念は、バゼットの心中には微塵もなかった。



2日後。バゼットは現状に頭を抱えていた。
数多の任務をこなし鍛えられたバゼットのフィールドワーク能力はここ鎌倉においても遺憾なく発揮され、一般人では気付かぬ魔術の痕跡もいくつか見つけていた。
サーヴァント戦と断定できるレベルのものはまだ感知していないが、使い魔と思しき鴉や鼠を捕捉し破壊すること9回、強攻偵察を目的とする異形のゴーレムと交戦すること一度。
さらに役場に潜入し調べたところによれば、ここ一週間で行方不明、又は死に至った市民が急増している。
恐らくは鎌倉に到着した各マスター達が自分たちの足場を固める為、秘密裏に活動した結果だろうとバゼットは推測した。
通常の聖杯戦争ならば魂食いをおおっぴらにやるような浅薄なマスターがいれば、すぐに見つけ出され他のマスターに狩られるだろうがここでは話が違う。
本来はこの闘争に参加するサーヴァントとマスターは7組のはずだが、バゼットの調査結果は明らかにそれに数倍する主従が暗躍している痕跡を示している。
これだけの規模で行われる魔術闘争となれば、完全に隠蔽する為には街ごと消し飛ばすという必要すらあるかもしれない。最悪の事態に陥った場合の離脱経路も確保しておかなければ。
しかしバゼットの頭を悩ませているのは上記の出来事それ自体ではなく、自分のサーヴァントの問題であった。
これらの調査にアーチャーのサーヴァントは一切協力するそぶりを見せず、霊体化して我関せずを決め込んでいたのだ。

「俺はたとえどんな形であれ、姿の見えない何者かに強制された闘争には参加しない」

騙されているかもしれないからな、と語るアーチャーにバゼットが激憤したことは言うまでもないだろう。
サーヴァントとは聖杯戦争におけるマスターの武器であると同時に、聖杯が起こす奇跡を求め、現世に蘇ってまで満たしたいほどの渇望を持つ同志。
あるいは願いがなくとも戦いを求めて召還される者もいるだろう、マスターと相反する願いを秘め持ち、裏切りを画策する者もいるだろう。
だが、戦いを拒否するとは何事か。マスターの闘争を代行しないならば何故聖杯の導きに応じたのか。
主からの怒りの問いに、アーチャーは難しい顔をして黙り込む。その煮え切らない態度がさらにバゼットの不興を買った。

「確かに私には聖杯を求める者としてそこまで情熱がなく、マスターとして物足りないかもしれない。しかし貴方は英霊だろう!
 己の戦いに誇りを持ち、後世に認められたからこそ歴史に名を残せたはず。英雄が闘いを拒むことなど許されはしない!」

「俺は……英雄なんかじゃない……」

後ろ向きな返答を返された怒りのあまり、机を叩き割るバゼット。
もはやこのサーヴァントに頼る余地はない。足早にフロントでチェックアウトと弁済を済ませ、外に飛び出した。
調査の甲斐あって、彼女は主従の一組の居所を突き止めていた。
実体化した状態のサーヴァントを市民に目撃され、うかつにもその隠匿を怠り噂話として拡散されてしまったマスター。
噂の糸を手繰り、大元を見つけてさらにその先を追跡した結果、そのマスターが隠れ住むマンションを特定したのだ。
はっきり言ってしまえばサーヴァントをサーヴァントに任せられないのは、マスターにとって作戦の立てようがないほどの致命事だがバゼットは一流を超えた超一流の戦士。
一戦に限れば、サーヴァントの猛威を振り切ってマスターを殺害する事も可能だという自信はあった。
絶望的に不利な自分が勝利をもぎ取るところを見せれば、あの尻込みしていたサーヴァントも変心するかもしれない。
バゼットは意を決し、必勝の策を持ってマスターが外出するのを待つ。
果たして深夜にマンションから姿を現した獲物が、恐らくは索敵を目的とした行動を開始した。
息を殺し、バゼットがそれを尾行する。いくつか用意した罠のどれにかかるのか、油断なく観察しながら……。




……紆余曲折あって、バゼットはルーン魔術による二重三重の工作によってサーヴァントとマスターを分断することに成功した。
全身が緑色で頭部に触覚がある、という人間離れした容貌のサーヴァントは建物内部で瓦礫の山に埋もれている。
サラリーマン然とした姿を装っているマスターは庭先にいて、サーヴァントが突入した廃工場から響く轟音に驚愕の表情を浮かべている。
バゼットはその背後から、猛然と突撃。頭部と心臓に一撃ずつ必殺の拳を打ち込み、生命活動を停止させんと走る。
振り返った敵マスターだったが、もはや一息で届く位置。相手には令呪を使う暇もない。
万事が上手くいっていたはずだった。バゼットの拳が迫る中、男が呟くのはただの言葉。魔術詠唱でもなく令呪の行使でもない。

「なるほど、有効な戦術よ――――」

「ッ―――……!?」

当然最後まで聞かずに全霊の拳を見舞ったバゼットの表情が歪む。
拳に伝わったのは、肉を叩いた感触ではなかった。

             ...................
「――――切り離したのが、サーヴァントであったのならば、だがな」

男の顔が、否、全身が風船を割ったかのように破裂し、その実態を露わにする。
白髪。旧時代的な衣装に、特徴的な額当てと鋭い眼光。
指で印(サイン)を結んだかと思えば、足元からは滂沱のごとく水流が発生する。
咄嗟に飛び退いたバゼットを逃さず、水域は廃工場の敷地内全てを制圧するように広がっていく。

「水のない場所でこれほどの……まさか、お前は」

「業腹なことぞ。こんな罠に、ワシが気付かぬと見くびられるとは」

膝ほどまで水位を上げた男の秘術による水流は、見えない壁に遮られたかのように戦域の敷地ピッタリで止まっている。
このような神秘、そして何よりもバゼットの目に浮かぶ先程までは見えなかったステータスが物語っていた。
マスターだと思っていた男こそが、サーヴァントだったのだ、と。
気配遮断。アサシンのサーヴァントが持つ、サーヴァントとしての気配を消せるクラス別スキル。
それと何らかのスキルの複合により、自分を人間と偽っていたのか―――だが。
バゼットの疑問に応じたかのごとく、廃工場からサーヴァントと誤認していた緑色の怪物が飛び出してくる。
並び立つ両者はアサシン、そしてバーサーカーのクラスを持ち確かに実体化している。
狼狽の中、アサシンの言葉を思い出すバゼット。『切り離したのがサーヴァントならば有効だった』……つまり、あのバーサーカーはサーヴァントではなく……。

                          ..........
「サーヴァントが二体などありえ……っ!? まさか、それがマスターなのか!?」

「フン、『改竄』の効果が切れたようだな」

尾行中は確かに見えていた、怪物のステータスがバゼットの視界から消えていく。
瓦礫に引っ掛けて破けたらしき服の隙間から見えるのは、バゼットのそれとは紋様の異なる令呪だった。
真のマスターからは知性など微塵も感じ取れず、呻き声をひたすら上げ続けるだけ。

「ア……ィィアアァァ……ギッギギギギギギ……」

「馬鹿な……他者に偽のステータスを与えるようなスキルがあるとしても、感じる霊力は確かにサーヴァント級のそれだ!」

「まったく、この時代は我ら過去の存在の意表をついてくれるものよ。あのような狭い土地に大勢の家族……世帯を住まわせる建築物を考えるとは」

男……アサシンの益体も無い独り言に、バゼットの背筋が凍る。
人間の魂一個ではありえないことも……その十倍、百倍重なれば……。

「おかげでその道具を作るのも捗ったぞ、露見することなくな……」

「なんてことを……!」

「オカアア、ッギアィ、ゥゥゥウゥアアィアアアオネェアアアナアタタタアゥゥゥゥウェェホギャアアアママママママママニニニニニニアアアア」

バゼットの直感正しく、アサシンが行ったのは『道具作成』。
件のマンションに住む300近い世帯の一部から人間を一人ずつ攫い、暗示によりそれを隠匿する。
そして殺害した人間の魂を集積させ、己のマスターとその令呪を核として擬似サーヴァントを組み上げたのだ。
肉体は脆く、存在するだけで魂の重さに耐え切れず崩壊の一途を辿っていたが、しかし人智を超えた存在であることも事実。
だがその過程にマスターの意思が介在していたとは考えにくい。かってマスターだった怪物には、もはやパーソナリティは残っていないのだから。
バゼットは己の直感に看過しえぬ疑問を浮かべ、敵に対して問いかけめいた呟きを漏らす。

「『道具作成』はキャスターのクラス別スキルのはず……」

「オレはアサシンでもあり、キャスターでもある。それだけの話よ。そして……」

ライダーでもある、と語るアサシンの姿が消え、バゼットの目の前に出現する。
紫電のごとき機動力。そして何よりも、暗殺に特化した英霊にも智謀に優れた英霊にもない圧倒的な武の気配が、アサシンの言葉を真実と裏付ける。
アサシンは『三重召還(トリプルサモン)』のスキルにより三つのクラスの特性を同時に持つ、破格のサーヴァントだった。

「人間とはいえ、マスターならばオレの宝具とスキルにより転生改造され、強力な戦力になりうる。これを繰り返し続ければ、聖杯戦争に勝ち残るなど容易なことよ」

「くっ!」

バゼットが切り札として持つ『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』は敵が切り札で勝負を挑んできた時にのみ使えるもの。
アサシンは確たる切り札を持たない、バゼットにとっては最悪の敵であると同時に強力なサーヴァントでもあった。
加えて足元は膝ほどまで水が溜まり、バゼットの体力と速度を奪う。
アサシンがもはや言葉は不要とばかりに攻撃に移る。バゼットの思考の間を縫うような神速の一擲。
彼女は格闘戦に持ち込むことはおろか、ルーンでスーツの硬度を上げて防御することも出来ず、アサシンが放った苦無を眺めることしかできなかった。
死を覚悟した瞬間、空中で苦無が弾かれる。迎撃したのは炎を帯びた銃弾。

「アーチャー!?」

「木っ端英霊が、ようやく姿を現しおったか。勝てぬと分かりきった戦場に……」

「……」

苦悶の表情で、アーチャーが実体化する。
その顔を見ただけでも、未だ迷いが消えていない事は明白だった。
三騎士としては低い部類に入るステータスに加え、戦うこと自体に積極的でないサーヴァント。
アレはそんな者が対抗できる敵ではない。令呪全画を用いてでもこの場からの自分たちの離脱を命じようかとすら考えるバゼットに暇を与えず、アサシンがアーチャーに迫る。

「サーヴァントを傀儡にするのにはリスクが伴う……貴様は不要!死ねぃ!」

「……変身」

『Turn Up』

アーチャーが、装着したベルトに魔力を通す。同時にバックルが煌めき、光の門と形容できるものを前面に放出した。
ゲートにぶつかったアサシンが弾き飛ばされ、水飛沫を上げながら後退するのを尻目に光の門はアーチャーに向かい、彼の門出を祝う。
光に包まれたアーチャーの容姿が一変し、そのステータスが向上していく。燃え盛る炎の戦士、その名は仮面ライダーギャレン。

「あれがアーチャーの宝具……しかし……」

「珍しいタイプの虚仮威しだな。だがそれがどうした?」

「……」

無言で、ぎこちなく銃を構えんとするアーチャーの鎧に一瞬で数箇所の凹みが生じる。
またも瞬間移動に等しい速度で強襲したアサシンの拳打が、アーチャーを穿っていた。
向上したステータスもアサシンに遠く及ばず、精神が劇的に変化したわけでもない。
バゼットは不利を悟り、アーチャーに指示を出そうと声を張り上げた。

「アーチャー! なんとか撤退を……」

「できもしない事をのたまうのは止めろ。貴様らはもはや籠の中の鳥よ」

「く……戦るしかないのか」

アーチャーが銃……ギャレンラウザーを腰部に収納し、アサシンに殴りかかる。
大振りの拳を屈んで回避するアサシンの顎が跳ね上がる。アーチャーの膝が、同時に繰り出されていた。
あえて回避しやすい攻撃を放ち、動きを先読みしたアーチャーの追撃がアサシンを襲う。
防御しようと突き出した腕を取り、足払いで体勢を崩させて頭から投げ落とすアーチャー。
純粋に格闘の技術だけで語るのならば、アーチャーのそれはアサシンを凌駕していた。
だがサーヴァントの戦いは霊格の較べ合い。小手先の技術や能力など、神秘の差を縮める事はできない。
アサシンが高速で印を組み、足元の水を操って龍の形に変える。
怒涛のごとく押し寄せた水龍に押され、アーチャーが倒れ伏す。

「終わりだ」

「……!」

『ROCK』

苦無を逆手に持ち、アーチャーの頭部を刺し貫こうと振り下ろすアサシン。だがその腕は弾かれ、表情は凝固する。
アーチャーが持つ宝具の一部、ラウズカード。神代より種族の覇権を賭けて鎬を削る始祖生命体・アンデットを封印する13枚の切り札。
アーチャーはその一枚、◆7のカードをラウザーに通し、『トータスロック』を発動させていた。
強固な障壁がアーチャーの全身を包み、防御力を向上させてアサシンの攻撃を防いだのだ。


一瞬の隙を突き、アーチャーはさらにラウザーに2枚のカードをスラッシュさせる。
2枚以上のカードを組み合わせることで、他の英霊の宝具の『真名開放』に相当するギャレンの真価……必殺技が発動する。

『UPPER』

『FIRE』

「何……!?」

「ハァッ!」

アーチャーの拳に轟力と炎が宿り、強力なアッパーカットがアサシンを捉え―――緑色の怪物に、直撃した。
当事者であるアーチャーにも、離れて全体を見通していたバゼットにも理解できない現象。
アサシンの持つスキルを、アサシンの因子を与えてサーヴァント化させたマスターに同時に使用させることで成し得た緊急回避。
詳細を知らないバゼットたちにも、その悪辣さは伝わった。バゼットは困惑し、アーチャーは怒りをあらわにする。

(アサシンとマスターが瞬時に入れ替わった!? マスターを……身代わりにしたのか……)

「貴様……マスターを……守るべき者を犠牲にしたのか! それが英雄のすることか!」

「使うべき物を、使うべき時に使っただけの事よ……マスターなど令呪を持つ者が犇めくこの鎌倉ならば、いくらでも代わりは探せるわ」

悪びれることもなく、アサシンが淡々と語る。
致命傷を負い、消滅を待つだけの己のマスターを冷たく眺めながら。
見捨てられたマスターはアサシンの元へと這いずり、手を伸ばす。

「ァァァァ……」

「そも、我等英霊の本質は守ることではなく奪うことにある。敵より奪い、自分に与する者たちにその恩恵を分け与える。それが守るということだ。
 聖杯戦争とはつまるところ遠征、マスターも含め周囲は全て敵なのだぞ。そこで自らを犠牲にする行為など偽りに過ぎぬわ、木っ端めが……」


一瞬の躊躇もなく、己のマスターに苦無を投げ放つアサシン。
召還したサーヴァントに道具として利用され、己の意思を殺されたマスターは、今度こそ本当に殺された。
肉体が腐り、令呪が消えていく姿に目を背けるバゼット。その姿こそが、たった一人を除く全てのマスターの末路だと痛感する。
魔力を十二分に溜め込んでいたのか、スキルの恩恵か、平然と佇むアサシンに、アーチャーが搾り出すように言葉を繋ぐ。

「ふざけるな……! 俺の知る英雄は、たとえどんな時でも貴様のような外道には堕ちん!」

「他者を神格視することで己を正当化する……至弱の英雄を通り越してまるで凡百の愚民だな、アーチャー」

「戦いの意味などもうどうでもいい……貴様は俺が倒すべき敵だ!」

◆Qのラウズカードをスラッシュし、アーチャーが猛る。
相容れぬ反英雄への怒りが、彼の迷いをかき消した。
直前とまるで違う覇気を発するアーチャーに、バゼットが愕然とする。
アーチャーの能力は宝具を使用した時の様に、大幅に上昇していた。
アサシンもまた、アーチャーの変化に戦慄の表情を浮かべ、即応すべく印を組もうとする。

『ROCK』

「な……っ」

だがそれよりも早く、アーチャーが再びトータスロックを発動させる。
今度は自身ではなく、アサシンの足元を占める水を石化させる為に。
アサシン自身が高い対魔力を持っていても、体の触れている水の石化は止められない。
動きを止めたアサシンが対応する前に銃撃で動きを封じ、3枚のカードをラウザーに連続で通すアーチャー。

『DROP』

『FIRE』

『GEMINI』


『BURNING DIVIDE』

絵柄が上空に浮かび、仮面ライダーギャレンの身体にアンデッドの神秘の力が憑依する。
高く飛び上がり、自分と瓜二つの分身体を生成しつつ空中で宙返り。
炎を纏うオーバーヘッドキックが二発、アサシンに叩き込まれた。
肩口から打ち込まれたアーチャーの持つ最大の奥義は、アサシンの霊核を完全に破壊する。
一言もなく消滅していくアサシンを睨みながら、アーチャーは変身を解いた。
廃工場を埋め尽くしていた水がどこへともなく引いていくのを確認し、バゼットが膝を付く。
結果として助かったが、サーヴァントとの信頼関係を築くのを放棄して軽挙に走った事は自分のミスだ、と自分を戒める。
だがそれよりも、目の前で行われたサーヴァント戦への衝撃と感動がバゼットの心を占めていた。

「……アーチャー、貴方、強かったんですね」

「俺は強くなんかない……俺にはまだ、聖杯戦争で何の為に戦うのか、戦うべきなのかもわからないんだ」

戦いの気配が去り、静寂が支配する廃工場に、勝者となった二人の声だけが響く。
アーチャーが力なく肩を落として歩き出すのにつられ、バゼットもその後を追う。
立ち止まったアーチャーの足元には、アサシンのマスターだった異形の肉塊が転がっていた。
無言で腰を下ろし、肉塊に手を突き入れるアーチャー。困惑するバゼットに構わず、肉と服の繊維が混ざった物を掻き分ける。
やがて、アーチャーが手を引き抜く。取り出したものは、アサシンのマスターが人間だった時の名残……なんと言うこともない、ポケットから抜き忘れたコンビニのレシートだった。

「……それでも俺は、英雄として喚ばれた。ならば戦うだけじゃなく、俺が納得する、戦う理由を探したい。こんな風に人が死ぬこの戦争の裏に、何があるのかを見極めたい」

「橘さん……」

アーチャーには未だ確たる決意がない。バゼットには未だ求める願いがない。
だが、二人の聖杯戦争は確実に進行していた。


【クラス】
アーチャー

【真名】
橘朔也@仮面ライダー剣

【ステータス】
  • 通常時
筋力D 耐久C 敏捷E 魔力D 幸運E 宝具D

  • 変身時
筋力C 耐久B 敏捷C 魔力C 幸運E 宝具D

  • 強化変身時
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力C 幸運E 宝具D

【属性】
秩序・善

【クラス別スキル】
対魔力:D
魔術に対する抵抗力。
一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

【保有スキル】
融合係数:D
ラウズカードに封印された始祖生命体・アンデッドとの肉体・精神の適合度を示す。
プラスの感情によって上昇、マイナスの感情によって低下し、ラウズカードの効力・ライダーシステム着用時のステータスに密接に関係する。
低すぎれば変身すら出来なくなるが、高すぎても過剰にアンデッドとの繋がりが深まって精神に干渉されたり、最悪の場合は人間種を逸脱する道を歩む事となる。
アーチャーは決して高い融合係数は持たないが、それゆえに"実際の"悪影響は少ないともいえる。

迷い:A
拭いえぬ葛藤。アーチャーの起源でもあるこの感情は、過去への後悔、未来への恐怖として彼の心を縛る。
対人不信、暴走、逡巡による反応速度の低下、ファンブル率の上昇、甜言蜜語に騙されるなどのマイナス効果をもたらすが、慎重な戦略を立てる場合は時にプラスに働く。

騎乗:D
人類が作り上げた道具を乗りこなせる。

怒りの克服:A++
迷いを振り切る怒りや、たった一つ残されたものを守る願いにより発動するスキル。
激情により、『迷い』のマイナス効果を無効化する。
さらに幸運・宝具以外の全ステータスが1ランク、『融合係数』のスキルランクが2ランク上昇する。

【宝具】
「迷い燃える赤の金剛(ライダーシステムギャレン)」
ランク:D 種別:対人(自身)宝具 レンジ:1 最大捕捉:1

不死の始祖生命体・アンデッドの力を利用して戦う仮面の戦士への変身宝具。
変身ベルト・ギャレンバックルに◆Aのカードを装填する事でスタッグビートルアンデッドの外観をモチーフとした赤い鎧を纏い、遠近問わず流麗かつ颯爽と戦う。
ライダーシステムを持つ英霊に共通する要素として、4種のスートに別れたA~K 13枚のラウズカード(プライムベスタ)を戦闘に用いる。
これらのカードには神代より存在するアンデッドそのものが封印されており、システムの宝具ランクを遥かに上回る神秘性を秘め持つ。
覚醒機であるラウザーに設定されたAPを消費することによりプライムベスタの効果を発動するため、自身の魔力を温存することも可能。
ラウズカード3枚までを同時に使用することで、APを多大に消費する代わりに強力な効果を持つコンボが発動する。
また、左腕のラウズアブゾーバーに◆Qのラウズカードを挿入して◆Jをラウズすることにより強化変身体・ジャックフォームへの進化を果たす。
ジャックフォーム時には超高速での飛翔戦闘が行えるため、戦術の幅も大きく広がるだろう。


【Weapon】
「醒銃ギャレンラウザー」
ギャレン専用の銃型覚醒機。初期APは5500→ジャックフォーム時7900。
ラウズカードを使用する用途以外に、通常の銃器としてもサーヴァントにダメージを与えるほどの威力を持つ。
本来は変身しなければ使用できないが、この銃のみを招来させれば変身前でも銃撃が可能となる。

「ラウズカード◆」
13枚のプライムベスタ。A以外はラウザーにカードスキャンすることで下記の効果が体に宿り、数枚組み合わせることで技の発動が行われる。
◆A=ギャレンへの変身。◆2=射撃の威力を強化。◆3=腕力を強化。◆4=射撃の連射速度を強化。◆5=脚力を強化。
◆6=炎属性の魔力を生成する。◆7 =任意の対象を石化させる。◆8=索敵能力の強化。◆9=分身体の生成。
◆10=Eランク相当の『変化』スキルを取得。◆J=APを2400チャージする。◆Q=APを2000チャージする。◆K=APを4000チャージする。

「レッドランバス」
ギャレン専用のスーパーバイク。動力に超小型の原子力エンジンを採用したこの機体の最高速度は380km/h。
さらにマイクロスーパーコンピュータが搭載されており、ギャレンの意思で無人走行が可能。


【人物背景】
人類基盤史研究所BOARDに所属する、若き戦士。 真面目で寡黙、冷徹な印象を与える容貌だが、他人の言動に左右されやすく、思い込みが激しい一面がある。
そのためか恐怖心によりプラシーボ効果で体に不調が出る、敵であるピーコックアンデッドに騙されて利用されたあげく洗脳されて仲間に襲い掛かるなどの醜態を晒してしまう。
しかし、転落寸前まで苦境に追い詰められた時にはそれらを帳消しにする程の大活躍を見せ、名誉挽回を果たす(失ったものは戻らないため、またすぐに悩み始める)。
問題は多々あれど正義感・友情・義侠心が極めて強く、目の前で起こる理不尽を絶対に許せないがために迷いの中で戦い続けることしかできない、しかしそれゆえに強い人間といえるだろう。

【サーヴァントとしての願い】
戦う理由を見つけ、マスターを守る。

【方針】
専守防衛。

【マスター】
バゼット・フラガ・マクレミッツ@Fate/hollow ataraxia

【令呪の位置】
右腕

【マスターとしての願い】
聖杯を入手し、魔術協会に持ち帰る。

【Weapon】
『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』

フラガの家が現在まで伝えた神代の魔剣であり、数少ない「宝具の現物」。「後より出て先に断つ者(アンサラー)」、「逆光剣」という二つ名を持つ、カウンターに特化した迎撃宝具。
「対峙した敵が切り札を使う事」を条件に発動、自らの光弾による攻撃を「敵の切り札より先に成したもの」とする、『因果を歪ませて彼我の攻撃順序を入れ替える』付属効果による「時を逆光する一撃」を放つ。
未使用時は鉛色の球体水晶で、起動準備に入るとバゼットの背後に帯電しながら浮遊。「後より出て先に断つ者(アンサラー)」の詠唱と「対峙した敵が切り札を使う事」で球体から光の刀身が現れ、
フラガラックの真名とバゼットの拳の動きと共に刀身から光弾が高速でレーザーのごとく射出される。攻撃が完遂された場合は小石程度の大きさの傷しか作らないが、
急所を貫通させれば致命傷となる(相手を貫通してる最中にバゼットが攻撃を受けてフラガラック本体が跳ね上がった場合は、光弾の起動も変わりフラガラックの傷も大きくなる)。
射出後は球体からは鉛の色が失われ使えなくなる一発ごとの使い捨て。
その特性上先制は常に敵側で、この宝具が先に撃たれるという事はあり得ない。しかし、相手の発動より明らかに遅れて発動しながらも、絶対に相手の攻撃よりも先にヒットする。
ほんの僅かでも敵の攻撃より先に命中した瞬間に順序を入れ替え、敵を敵の切り札の発動前に倒したことにし「先に倒された者に、反撃の機会はない」という事実を誇張することで、
結果的に敵の攻撃は『起き得ない事』となり逆行するように消滅する。
相手の攻撃で自分も死ぬ相討ち前提の必殺を一方的な攻撃へと変える「時間を武器にした、相討無効の神のトリック」「両者相討つという運命をこそ両断する、必勝の魔剣」と称され、
切り札の打ち合いならば最強の一つ。天敵と言えるのは複数の命を持つモノや、自動的な蘇生などの“死してなお甦るモノ”(例:「十二の試練」)。
また、その特性上、相手の攻撃が「発動した時点で術者の生死に関係なく命中が確定している」タイプ(例:「刺し穿つ死棘の槍」)だった場合、相手の攻撃をキャンセルすることはできない。
宝具の打ち合いにおいては基本的に無敵だが、この宝具の使用者には相手が切り札を使わざるを得ない状況にまで独力で追い込むだけの技量が求められる。
切り札に反応して全自動で迎撃を行ってくれるわけでもないので、至近距離で使用された宝具を迎撃するための格闘技術なども状況や場合によっては必要となる。
また、この宝具の特性を知られた場合、そもそも相手が切り札を使わないという戦術を取る可能性もある。

【能力・技能】
戦闘特化の武闘派魔術師。ルーン魔術を修めており、細かい魔術は苦手だが、魔術師としての腕前はA+と評される。
素手での戦闘を好み、硬化のルーンを刻んだ手袋をはめ、時速80kmの拳を繰り出す(プロボクサーが時速40km)。
彼女にマウントポジションを取られて殴られた場合、大抵のマスターは死ぬだろう。

【人物背景】
アイルランドの寒村出身。「伝承保菌者(ゴッズホルダー)」という、神代からの魔術特性を現代まで伝えきったルーンの大家の末裔。
神々に仕え神代の秘技や宝を多く受け継いできた。ただし、家は歴史ある名門ではあっても、長らく他との接触を断ってきたため、権威はあっても権力はない。
15歳で家門を継いだ彼女の代で、親族の反対を押し切って初めて魔術協会の門を叩く。しかし、権威があるにも関わらず生真面目でどの派閥にも属さない彼女は
貴族達には非常に扱い難い存在であり、待っていたのは封印指定の執行者という、態のいい便利屋として利用される道だった。
そんな扱いにもめげず毎日頑張っていたが、ある日古馴染みの神父から聖杯の情報を提供され、協会に報告し派遣任務として鎌倉での聖杯戦争に挑む。
性格は融通の利かない堅物。クールを決めているものの、実は短気でちょっとした我慢ができない。
行動はアグレッシブで過激だが、内面はもの凄く後ろ向き。人生経験があまりに偏っていることから出会った男性に片っ端から惚れ込むほれっぽい一面も。
とはいえサーヴァントに衣食住を提供するのは主として当たり前、というような常識的な感性も持ってはいる。

【方針】
全てのマスターとサーヴァントを打倒し、聖杯を獲る。

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