――ピピピピ、ピピピピ……

「…んが」

いつまでも聞き慣れない電子音で深い眠りから目を覚ます。
バン、とやや荒っぽく目覚まし時計のアラームを止め寝ぼけ眼をこすりながら起床した。
眠気を覚ますために両手でパンパンと頬を叩いて気合いを入れた。

「うっし、今日も一日頑張るぞ!」

着替えを済ませ与えられた寝室を出て階段を降り、この家の家主である老夫婦に挨拶をした。

「おはようございます!」
「おお、起きたのかねウェイブ君。ちょうど朝食の準備をしていたところだよ」
「じゃあ手伝いますよ。いつもただ飯食わせてもらってますから」
「すまないねえ」

青年、ウェイブは突然鎌倉という聞いたこともない都市に放り出され路頭に迷っていたところこの家の老夫婦の厚意で居候させてもらっていた。
彼らは身元も証明できないウェイブを何も聞かずに泊めてくれていた。
その恩に少しでも報いるために魚屋を営む夫婦を手伝うことにしていた。もっとも今日は定休日だが。
幸いウェイブは炊事や魚の扱いに長けていたので初日以外は足を引っ張ることもなかった。

「「「いただきます」」」

三人で魚料理を中心にした朝食を食べる。
いつもながら心を穏やかにしてくれる味だ、とウェイブは頬を緩ませる。
二人には息子がいるらしいが婿入りして以来すっかり家に顔を出さなくなってしまったらしい。
そのためかウェイブに対して息子のように接してくれている。

「ごちそうさまでした。…じゃあ俺そろそろ行ってきます」
「また出かけるのかい、ウェイブ君?最近は色々騒がしいから十分用心するんだよ」
「わかってますって」

だからこそ行かなくちゃならないんだ、とは口にしなかった。
帝具の発動に使う剣の入ったキャディーバッグを担いで街へと出かけた。




     ▼  ▲




ここは日本という国の鎌倉という都市らしい。
帝国とは政治形態が根本的に異なり市民から選挙という行事で選ばれた者が代表して政治を取り仕切るのだという。
気候は穏やかで治安も極めて良く、危険種といえるだけの危険な動植物も全くと言っていいほど存在しない。
ほぼ全ての人間が十分な期間勉学に励むことを許され誰もが食うに不自由することのない、楽園としか思えない理想郷だ。

「ラン、お前が作ろうとした国ってきっとこういうところなんだな」

ウェイブはここ数日図書館や本屋に通い異世界にあたる日本の様々な知識を吸収していた。
聖杯から与えられた知識を鵜呑みにするのは危険すぎたし、この目で確かめなければ信じられないものが多すぎた。

ただ街を歩くだけでも人々が心底からこの平和を享受しているのが見受けられた。
帝都や帝国の領土を出たからこそわかる。彼らが感じているほどの安息は帝国のどこにもない。
軍人である自分は本当に市民の安全と笑顔を守れていたのか?そもそも、守るべきものをどこかで間違えているのでは――――――

「って今考えるのはそこじゃねえだろ」

何か致命的なことに気づきそうになった自分の心に慌てて蓋をし、意識を切り替える。
今差し迫って重大なことは他にある。

「聖杯戦争、願いを叶えるためにマスターたちがサーヴァントを召喚してこの街で殺し合うゲーム、か……」

何て悪趣味な催し物だ、と心中でのみ吐き捨てる。
人間なら誰しもが大なり小なり叶わない願いというものを持って生きているものだ。
そういった願い、欲望を刺激し殺し合いを煽るなど悪質にも程がある。
しかし感情面を抜きにして考えると聖杯がなければ元の世界に帰れない可能性が高いのも間違いないだろう。
だからこそ大まかな行動方針こそ決まっているものの最終的に優勝を目指すか否か、まだ決めかねている。

「けど俺のサーヴァントっていつになったら現れるんだ?
大体一週間ぐらいこっちで過ごしてるけど影も形も見えやしねえ……」

右手に宿った令呪がはっきり色づいているので自分がマスターに選ばれていることは間違いない。
しかしどうすればサーヴァントを呼べるのか?全く見当もつかない。

「ま、サーヴァントがいようがいまいが俺がやるべきことは変わらないけどな」

キャディーバッグを握る手に力を込める。
武器の持ち歩きさえ法で規制されるほど平和なこの都市の民が聖杯戦争という殺し合いが生む災厄から身を守れるとは思えない。
ならば力を持つ軍人である自分がマスター以上に理不尽な状況に立たされている市民を守らなければならない。
帝国のためになる行いでないことは自覚しているが見て見ぬふりをすることはできない。



     ▼  ▲




午後四時を過ぎ、少しづつ陽も落ちてきた。
外で昼食を摂ってから人気の少ないエリアを巡回して回っているが今日も空振りに終わるだろうか。
家へ帰ろうと踵を返す直前、遠くから人の悲鳴らしき声が聞こえた。
それだけではない、離れていてもわかるほどの強い殺気を感じる。ただの人間に出せるレベルでは決してない。

「ようやく出てきたってわけか」

周りに人がいないことを確認しバッグから相棒たる剣を取り出した。
これこそは帝具。帝国の始皇帝が国の繁栄を願って作らせた千年の歴史ある至高の武具の一つ。
迷うことなく剣を地に突き立て裂帛の気合いを込めてその名を呼ぶ。

「グランシャリオオオオオオオオッ!!」

呼び声に呼応して地面から現れたのは黒い鎧。
鎧は意思を持つかのようにウェイブの全身を覆い彼の姿を変えていく。
修羅化身・グランシャリオ。超級危険種の素材と多数の鉱石から作られた鎧型の帝具。
纏った者に絶大な力と鉄壁の防御力を与えるこの帝具があればサーヴァントとも戦えるとウェイブは確信していた。
人間には到底不可能なほど高く跳躍し悲鳴のした場所へと急いだ。




     ▼  ▲




「ひっ、助けて…お願い!お願いだから!!」

セイバーは腰を抜かし命乞いをする女性に剣を突きつけながら自己嫌悪に襲われていた。
敵サーヴァントとの交戦の最中、あと一歩で勝利できるというところで一般人に目撃されてしまったのだ。
彼のマスターは結界の構築が甘かった自身の責任を棚に上げて目撃者を消すよう命じた。
無力な民草を見られたからという理由だけで手に掛ける。これで英霊とは笑い話もいいところだ。
だが結局のところマスターを止めなかった時点でセイバーもまた同類でしかない。
聖杯を得るためならば殺戮者の謗りを受けることさえ受け入れねばならない。

「許しは請わない。どうか来世で幸せになってくれ」
「あっ………」

そして剣は振り下ろされた。
剣の英霊に祀り上げられた者の一太刀なら苦しまずに逝かせることができるだろう。
セイバーにとってそれだけが女性にかけてやれる慈悲だった。



「させねえよ、糞野郎」



だが、剣は結果として女性を切り裂くことはなかった。
全身を黒い鎧で覆った男―――ウェイブが寸でのところでセイバーの剣を食い止めた。
セイバーは目を見張った。全力でこそなかったが自らの剣をこうも容易く受け止める技量と鎧の頑強さに。
両腕を交差して剣を止めた姿勢のままウェイブは背後にいる女性に叫んだ。

「おい、早く逃げろ!!こいつは俺が食い止める!」

女性は恐怖に駆られ混乱しながらも一目散にその場を走り去っていった。
良かった。腰を抜かしてその場に留まられることさえ有り得ただけに自力で逃げてくれただけでも御の字だ。

(―――こいつは、ヤバい)

何故なら自分ではこのサーヴァントに対抗するのは難しいことが一度武器をぶつけ合っただけで理解できたからだ。
そこらの帝具使いなど純粋な技量のみで斬り伏せられるであろうほどの実力者だ。
生存本能が警鐘を鳴らしている。受け身に回れば即座に殺される、活路を拓くには一気呵成に攻め立てる以外にはない――――――!



「うおおおおおおおおぉぉぉっ!!!」

グランシャリオを纏ったウェイブの猛攻は危険種でさえも瞬時に粉微塵に変貌させるほどに苛烈極まるものだった。
あるいは戦闘力に優れないサーヴァントならば鎧に付与された神秘性もあって討ち取ることすら可能であったかもしれない。
その意味でウェイブはこの上なく不運であった。
ここにいるのはサーヴァントの中でも最優の名を冠し且つ最も白兵戦に優れるセイバーだ。
ウェイブの繰り出す拳打や蹴撃を的確に手にした剣で弾き逸らし、反撃を叩きこんでいく。

(惜しいことだ)

セイバーからすればウェイブは一息で殺せるほどの弱敵ではないが油断せず堅実に戦う限り勝利以外の結末は有り得ない、そんな程度の難敵であった。
今でも常人を基準とすれば十分に完成された戦闘技術を持っているが「究極の一」と呼べるほど極められてはいない。
もし彼が生涯をかけて持てる力を磨き続ければセイバーの全力にも匹敵する使い手になれたに違いない。
若き才をここで摘み取らなければならないのは武人として些か心苦しくはある。
されどこの身はサーヴァント。主のためにも脅威の芽はここで断ち切るしかない。

(くそ、強え…これがサーヴァント、英霊とまで呼ばれる奴らの実力かよ…!)

一方でウェイブも自身とセイバーの間に横たわる実力差を肌で実感していた。
このまま攻め続けたところで勝ち目などないことが理解できる。
だが退くわけにはいかない。違う世界に飛ばされようとも自分は軍人であり市民を守る義務がある。

(それに、何だ?いつもより力の消耗が早い…!
ちくしょう、こんな時だってのに!)

さらに原因不明の不調が焦りを加速させ、焦りは動きをより単調なものにする。
ウェイブの欠点である精神面の未熟さをセイバーが突かない道理があろうはずもない。
あっさりとカウンターを取られ、そこから怒涛という形容さえ生ぬるいセイバーの猛攻を受ける羽目になった。
立て直しを図るウェイブを嘲笑うかのごとくセイバーの剣閃が十数発も命中し敢え無くウェイブは壁に叩きつけられ帝具の装着を解除された。

「うぐ、くそっ……」
「民を守ろうとするその意気や良し。しかし力が伴わぬ正義では何も為せない」

最早満足に動くこともままならず、しかしその眼はまだ死んでいないウェイブにゆっくりと歩み寄るセイバー。
即座にとどめを刺さないのはセイバーなりのウェイブへの敬意の表れだ。そこらの三下ならとうに斬り伏せている。
だがそれもあくまで一時の慈悲に過ぎない。マスターかマスター候補らしき男がサーヴァントを呼ぶ前に始末するべきだとセイバーはよく理解していた。

「さらばだ」



(ちくしょう、ここで終わりかよ……。
母ちゃん、一人にしてごめん…隊長、すいません……クロメ、ごめん、もう守ってやれねえ……)

セイバーの刃が振り下ろされる刹那、ウェイブの脳裏に走馬灯が過っていた。
イェーガーズに配属されてからの日々が瞬間的に思い出されていく。

―――そして、鮮血が舞った。




     ▼  ▲




実際のところ、男は事の始まりから既に召喚されていた。
最初は驚かせるついでに戦場の心構えを叩きこむつもりで気配を絶って近づき声を掛けるつもりでいた。
だがマスターとなった男の一言で方針を変えることを余儀なくされることになった。

「うおっ、何だここ!?エスデス隊長とクロメは!?
つーか街並みも空気も明らかに帝都じゃなさそうなんですけど!?一体どうなってんだ!?」
(おいおい、マジかよ……)

服装だけでは判断できなかったがよりにもよって帝国軍の人間、それもエスデスの部下に召喚されてしまうとは。
さしたる願いを持たずに召喚された身であるがさすがに腐敗した帝国軍人に使役されるのは真っ平御免である。
考えた結果、男はマスターの人間性を見極めるため敢えて姿を見せずに観察し続けることにした。
マスターの性根が腐っているようなら見殺しにすることもやむを得ない。
幸いにも魔術知識がないマスターは男を召喚していることに全く気付いていないため影から観察するのは容易だった。



「させねえよ、糞野郎」



そして、現在に至る。
マスターは聖杯戦争の犠牲になろうとしていた市民を身を挺して庇い、鎧の帝具を駆使してサーヴァントと戦っていた。
あのエスデスの部下ということもあり、色眼鏡で見てしまっていた己を恥じた。

(ああいう奴が、まだ帝国にもいたんだな)

その背中に既視感を覚える。
斬った人間の数だけ民の安寧と幸福を守れると信じて軍にいた頃の自分に。
どこまでも真っ直ぐ自分の信じた道を突き進む弟分に。

(……放っておけねえよな)

確信できた。あれは間違いなく今後の帝国に必要な人間だ。
何より立場上敵であっても自分に似た性分の男を見殺しにするのはどうにも寝覚めが悪い。
帝具を解除され、今にもとどめを刺されようとしている男をついにマスターとして認め助けに入った。




     ▼  ▲




その瞬間、セイバーは鋭い殺気を感じ取った。
ウェイブを斬るために剣を持った腕を振り切ったまさにその刹那に目には見えない何かがセイバーの命を刈り取らんと迫っている。

「くっ……!」

全神経を研ぎ澄まし、風切り音を頼りに迫る何か―――恐らくサーヴァントの攻撃―――を回避しようと試みる。
だが不可視の一撃とあってはセイバーでも完全な回避は叶わず胸を浅く斬られ鮮血が宙を舞った。
それでも相手の位置はおおよそ把握できた。次は確実に対処できる。
敵もまたそれを察したらしく不可視の状態を解き姿を現した。

「今ので仕留められねえか…。さすがに最優、そう簡単には殺らせてくれねえか」
「んなっ…!?イ、インクルシオだと!?」

現れた鎧の形状にウェイブは見覚えがありすぎるほどにあった。
悪鬼纏身・インクルシオ。反乱軍の暗殺部隊、ナイトレイドが保有するグランシャリオのプロトタイプにあたる帝具だ。

(けど、違う…。細かい形状もそうだし何よりこいつの方が明らかに体格がデカい。
ってことは前に俺が戦った奴とは違う誰かが装着してるってことだ。だとすれば百人斬りのブラートはどっちだ!?)

困惑を隠せないウェイブを余所に二人のサーヴァントは油断なく構えを取り相手を見据えていた。
いつ激突してもおかしくない空気を感じたウェイブが抱いたのは止めなければ、という思いだった。

「おい、何でナイトレイドが俺を助けたのかは知らないが、とにかくインクルシオでそいつとやり合うのは無茶だ!
インクルシオより基本性能の高いグランシャリオでも歯が立たなかったんだぞ!!見てわからなかったのかよ!?」
「なるほど、ナイトレイドにインクルシオか…。とすれば使い手は限られるな」

ウェイブは未だ気づいていないが彼の発言は完全に失言の類であった。
自らのサーヴァントの情報を敵の目の前でペラペラと話すなど自殺行為に他ならない。
だがインクルシオを纏う男はウェイブを責めはしなかった。
この事態を招いたのは今まで無知なマスターの前に姿を見せなかった自身のせいだと理解しているからだ。

「そこまでバレた以上隠しても意味はねえか。
察しの通りナイトレイドのブラートだ。ハンサムって呼んでいいぜ」
「ふっ、仮面で顔を隠していては面貌を推し量りようもないのだが?」
「おっと、そりゃそうか。こいつは一本取られたぜ」

軽口を叩きあいながらもセイバーとインクルシオを纏う男・ブラートは互いに臨戦態勢を崩さない。
そして一瞬の後、二人のサーヴァントは同時に地を蹴り激突した。
住宅街に不似合いな金属音が響き渡る。常人には視認すら不可能な両者の戦いを見守るウェイブは驚愕という感情に支配されていた。

「嘘、だろ……」

信じがたいことにブラートは怪物じみた強さを持つセイバーと対等の戦いを演じていた。
ウェイブには見切れなかったセイバーの剣戟に遅れを取ることなく手にした槍で見事捌ききっている。
鎧越しにもわかる屈強な肉体から繰り出される槍捌きは豪快かつ緻密。
本気を出したのかウェイブと戦った時以上に苛烈な攻めを見せるセイバーを相手に小揺るぎもしない。
武器があるとはいえインクルシオの性能はグランシャリオに劣るにも関わらず、だ。
以前に戦ったインクルシオとは強さのレベルが違いすぎる。
間違いない、以前ウェイブが遭遇したインクルシオは何らかの理由で帝具を引き継いだ何者かだったのだ。

(もしあの時戦ったのがあのブラートの方だったら…俺はどうなってたんだ?)

有り得たifを想像するだけで背筋が凍った。
ひょっとしたら自分は何かの間違いで生きてここにいるだけなのでは…そんな弱気に過ぎる思考さえ生まれてしまう。
ウェイブが暗然とした思いに駆られている時、セイバーが突如後方に飛び退いた。

「残念だが今宵はここまでのようだ。私のマスターから帰還命令が出ている」

それ以上の無駄口は必要ないとばかりに霊体化し、ほどなくしてセイバーの気配は完全に消え去った。
セイバーがいなくなったことを確認してブラートもインクルシオの装着を解除し生身を晒した。

「やれやれ、行ってくれたか」

肩をすくめてウェイブの方に振り返りゆっくりと近づいてきた。
ブラートがナイトレイドであることを思い出し一瞬後ずさってしまう。
ブラートはその様子を気にする風でもなく「立てるか?」と言いながら手を差し伸べた。

「姿を見せずにマスターをわざと危険に晒したのは悪かった。
ランサーのサーヴァント、ブラートだ。これからはサボった分お前の槍として全霊で働かせてもらうぜ」
「あ、ああ…。けど良いのか?そっちからすれば俺は敵のはずだろ?
黙って見てればそれだけで帝国の帝具使いが一人消えたんだぞ?」

イェーガーズに配属されたばかりの頃のウェイブならナイトレイドの一員というだけで警戒し反発していただろう。
しかしワイルドハントの蛮行や故人となった同僚たちを見てきた今の彼は帝国の掲げる正義や主張を無条件に鵜呑みにはしなくなっていた。
だからこそナイトレイドであってもこちらを助けた以上話ぐらいは聞くべきだ、と考えられるようにもなった。

「ま、そうなんだがよ。お前みたいなまっすぐな奴が帝国にもまだ残ってると思ったらどうにも放っておけなくてな。
お前のような兵士が後の時代にいないと革命が成功してもその後の混乱から民を守れない」
「…殺し屋が民のことを気にするのか?」
「ああ。これでも俺は民の味方のつもりだぜ?
といっても敵の言うことだ。別に信じなくてもいい」

何のてらいもなく、それでいて力強く言い切るブラート。
これが帝都で重罪人とされていたブラートなのかどうか、ウェイブは確信が持てない。
何せ上層部が腐敗しているのは既に明らか。真面目な軍人を罪人扱いする可能性がないとどうして言える?
しかし、もしこの男の言うことが本当なら間違いなくこの場での共闘は成立する。
もしもの時のためにサーヴァントへの命令権だという令呪を使えるようにしつつブラートへ問いを投げた。

「じゃあ、俺が聖杯戦争に乗らないって言っても従うのか?」
「ああ、ここ一週間お前がどういう人間かはよく見極めさせてもらったからな。
だから俺もこうしてお前をマスターと認めて姿を見せた。大方聖杯戦争に民を巻き込むのが許せないって言いたいんだろ?」

まさにウェイブが言わんとしていたことを先に言われ一瞬詰まってしまった。
とはいえ話が早く済むならそれに越したことはない、と考え直し一度咳払いをしてから再び切り出した。

「…まあそういう事だよ。実際おかしいだろ、こんな平和な街のど真ん中で戦争やろうなんて。
他のマスターも事情がわからないまま連れてこられたんだろうけど、俺含めてそういう奴らはサーヴァントがいるだけまだマシだ。
でもここに住んでる市民は?何も知らず抵抗する手段もなくただ殺し合いの犠牲になれっていうのか?
そりゃあ俺だってやり直したいこともあるし生き返らせてやりたい仲間もいる。
けどそのために軍人の本分を捨てて民を食い物にしたら本末転倒じゃねえか」

ボルス、セリュー、ラン。守れずに死んでいったイェーガーズの大切な仲間達。
もし聖杯で彼らを蘇らせることができたとしても、無辜の民の血の上に成り立つ蘇生を喜ぶはずがない。

「だから俺は何と言われようがこの街の人々を護る。それで街や人を傷つけるようなマスターやサーヴァントは狩る。
もちろん殺し合いをしないで他のマスターと協力して聖杯戦争自体を何とかできたら一番良いがそう上手くいくとも思えない。
もし乗り気なマスターばかりだっていうんなら全員を狩って優勝を目指すことだって考えなきゃならない。俺だって元の世界に帰らなくちゃならないからな」
「現時点じゃそれがベターだろうな。だがなマスター、その方針には一つ穴がある」
「何が問題なんだよ?」
「どういう基準でマスターが選ばれるかわかってないってことだ。
例えばお前は帝具使いだが、もしかしたら何かの間違いで何の力もない一般市民同然のマスターだって存在するかもしれねえ。
もしそんな無力で殺し合いを望むマスターがいて、それでいて最後の一人にならなければ元の世界に戻れないとしたらどうする?」


心臓に槍を突きたてられたような衝撃が走る。
ブラートの懸念はウェイブが考えようとさえしなかったことだ。
無力な民を護るために戦うと決めた。だがマスターの中にも同様の者がいたとしたら。
軍人として、個人として自分が優先するべきはどちらなのか?

「……今はわからねえ。ただ、先延ばしかもしれないが戦意がなくて無力なマスターがいるならそういう奴も保護したい。
優勝以外に帰る方法はないのかもしれないけど、それでもギリギリまで見捨てることはしたくない」

絞り出すように答えるのが精一杯だった。
だがブラートの表情はどこか安心したかのようであった。

「ま、合格点だな。試すような言い方をして悪かった。
現状じゃわかってないことが多すぎるし結論を急ぐ必要はねえだろうさ。
聖杯が俺達サーヴァントに不都合な情報を伏せている可能性だってあるんだからな」
「なら…共闘成立ってことでいいか?名乗るのが遅れたけど俺はウェイブだ」
「ああ、元の世界のことはどうあれここには帝国もナイトレイドもない。
ここは民を護るためにも共同戦線と行こうぜマスター、いや、ウェイブ」

とりあえずの友好の証として互いに固く握手を交わす。
それにしても鍛えられた肉体だ、とまじまじとブラートを見ると何故か頬を赤らめているように見えた。


――――――気のせいだと考えることにした。


【クラス】
ランサー

【真名】
ブラート@アカメが斬る!

【パラメータ】
筋力:C 耐久:C 敏捷:D 魔力:E 幸運:D 宝具:A

【属性】
中立・善

【クラススキル】
対魔力:D(B)
一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
ただし後述の宝具使用中はランクBにまで上昇し、三小節以下の魔術を全て無効化する。

【固有スキル】
気配遮断:B+
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば、探知能力に優れたサーヴァントでなければ発見することは難しい。
また後述の宝具の奥の手使用中はさらに1ランク効果が上昇する。
ただしいずれの場合も自らが攻撃態勢に移ると大幅にランクが落ちる。
ブラートはこのスキルを持つことからアサシンのクラス適性を有している。

勇猛:B
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

心眼・真:B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

【宝具】
『悪鬼纏身・インクルシオ』
ランク:A+ 種別:対人(自身)宝具 レンジ:0 最大補足:1人
凶暴な超級危険種タイラントを素材として作られた鎧の帝具で、素材となった竜の強靭な生命力により装着者に合わせて進化すると言われている。
身に纏う為には剣型の鍵が必要であり、これに魂を込めて名を叫ぶことで使い手の元に現れる。 また、この鍵も普段は普通の剣として使用可能である。
使用者の身体能力と対魔力を飛躍的に高め、この宝具を発動したブラートの能力値は以下の状態に変化する。

筋力:A 耐久:A 敏捷:B 魔力:D 幸運:D 宝具:A

非常に高い防御力を誇り、生半可な攻撃ではダメージを受けず、毒等の特殊な攻撃も無力化または大きく軽減できる。
副武装として「ノインテーター」と呼ばれる槍が備わっており、これを主な攻撃手段として用いる。
奥の手として透明化機能を備えており周りの風景に合わせて姿を消すことができる。
ブラート自身の気配遮断能力と生前この能力で潜入任務をこなした逸話から気配を絶って透明化能力を使用している間は宝具発動中にも関わらず最高ランクの気配遮断を発揮できる。
また使用者の成長に合わせてこの宝具そのものが進化するという特性を持っているが生前のブラートはインクルシオを進化させる域にまでは達しなかった。
強力な宝具だが使用者への負担が大きく、著しく生命力が低下すると強制的に変身が解除されてしまうという弱点がある。

【Weapon】
前述。

【人物背景】
帝都の腐敗を正すことを目的にする革命軍の暗殺部隊、ナイトレイドの一員。
元は帝国に属する有能な軍人であったが尊敬する上司、リヴァが謂れのない罪で更迭され自身も罪状を捏造されたことから軍を脱走し革命軍に下った。
主人公、タツミの兄貴分であり師匠でもある。彼に目をかけておりいずれ自分を超えるかもしれないと期待すると同時に殺し屋の非情な現実を突きつけることも多い。
豪放磊落な性格で面倒見も良いが暗殺者としてのシビアな感性も併せ持っている。
タツミとの会話で顔を赤らめることからホモ疑惑が浮上しているが、その性癖は謎に包まれている。
軍人時代は「100人斬りのブラート」として名が通っており、その戦闘力はナイトレイド随一。
帝具がなくても十分な強さを持ち、エスデス配下の三獣士のニャウからは「エスデスに次ぐ」とまで評されている。

【サーヴァントとしての願い】
ウェイブは死なせるには惜しい男なので生かして元の世界に帰す

【基本戦術、方針、運用法】
変身時の高い性能、隠密性、近接戦闘で発揮される高い技量と隙のないサーヴァント。
ただし攻撃用の真名解放宝具を持たないことからやや火力と決め手に欠ける。
またダメージが重なるとインクルシオの装着すらできなくなるため無駄な被弾は厳禁である。
同格以上のサーヴァントと交戦した場合はマスターのウェイブが如何に迅速にマスターを倒せるかに全てが懸かる。
マスターとサーヴァントの得意不得意な分野が被っているため対策を取られた途端格下相手でも劣勢を余儀なくされる可能性が高い。


【マスター】
ウェイブ@アカメが斬る!

【マスターとしての願い】
帝国軍人として聖杯戦争の災禍から鎌倉の人々を護る。
そのためならナイトレイドとも共闘する。

【帝具】
『修羅化身・グランシャリオ』
インクルシオをプロトタイプとして作られた鎧型の帝具。インクルシオと同じく剣型の鍵を地面に突き刺すことで鎧が現れる。
タイラントとは別の超級危険種と鉱石を素材としているため、インクルシオよりも安定した力を発揮でき、基本性能もこちらが上。
インクルシオに酷似した外見だがこちらは外装が黒く防御フィルターがつくなどより近代的になっている他、透明化機能が存在しない。
奥の手が存在するかは不明だがウェイブは「グランフォール」という蹴り技を必殺技として使用している。
宝具に換算してCランク相当の神秘性を持ち剣型の鍵とともにサーヴァントへもダメージを与えることができる。

【能力・技能】
上司であるエスデスから「既に完成されている」と太鼓判を押されるほどの高い格闘戦技術を持つがメンタル面にムラがある。
世界観の違いもあり現代日本人の常識からは考えられないほどの体力、生命力を持つためサーヴァントへの魔力供給にもある程度は耐えられる。
それでも魔力供給による負担でグランシャリオを装着できる時間が普段より短くなっている。

【人物背景】
元・帝都海軍所属で特殊警察イェーガーズに配属された帝国軍人の青年。地方から急に帝都に来たため、常識に疎い。
配属初日から個性的な同僚たちに戸惑い、セリューの言動などから帝都の異常さを感じているが、恩人に報いるために軍人としての役目を全うする決意を固めている。
それと共に、今の帝都の現状やワイルドハントの行いに直面したことで、自分の行いが本当に正しいのか苦悩している。
真っ直ぐな熱血漢で作中における帝国軍の数少ない良心の一人。
しかし上司であるエスデスの危険な本質には気づいておらず恐ろしくも頼れる上官として慕っている。

【方針】
聖杯戦争に乗り気な、鎌倉市民に被害を出すマスターは容赦なく狩る。
優勝を目指すかどうかは他のマスターと協力できるかどうか、脱出が可能かどうか等を勘案して決める予定。

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