―――俺に、何が起こったんだ?





死んだはずだとホムンクルスは思う。
最後まで付き合ってくれた黒のライダーに申し訳なく感じながら、その短い生涯を終えたはず。
自分は生きている。
非常に戸惑ったが、生きている事に歓喜を抱いていた。

周囲を見渡すと、少なくともホムンクルスが死を遂げた場所とは異なる土地であることが明らかになる。
街灯が手で数えられる程度と想定できるほど薄暗い場所。
錆まみれの機械たちが無造作に放置され、塗りたくられたかのように埃をつけている。
長年使われていない工場跡だろうか。
だが、何よりもここはホムンクルスのいた国ですらない。

日本の鎌倉。

ライダーたちはどうなったのだろう。あの聖杯大戦は?
疑問が生じるともう一つ、手の甲に痛みを感じた。
浮かびあがる令呪。

俺が……マスターに……!? 一体――

ホムンクルスが驚愕を覚える暇もなく、攻撃が始まる。




「驚いたわね。私は運が良かったってこと?」

くすくすとキャスターが笑う。
彼女は逃げ惑うホムンクルスを玩ぶかのように追撃をしかけた。

比較的市街地に近い場所に使われていない廃工場があり、キャスターはそこで陣地作成をしていた。
こんな恰好な場所、もうすでに他のキャスターかサーヴァントが拠点にしているかと思ったが
誰もいないどころか、導かれたばかりのマスターが迷い込んで来たのだ。
キャスターからすれば幸運で
ホムンクルスからすれば不運だったことになる。

逃げるホムンクルスは、走りながらも様々な疑問が絶えなかった。


走れる……! 歩くのもやっとだったのに!!


基本的な事だが、走れるだけの体力がある。至って肉体は健康のようだ。
しかし、ホムンクルスはかつて健康ではなかった。
少なくとも死ぬ間際まで。
歩くのもやっと、生きても数年程度しか生きられない。そんなひ弱な存在でしかなかった。
それが全力疾走を続けても、倒れる事なく、苦しむ必要すらない。

やはり、おかしい。だが、俺は生きている!

些細な疑問を無視して言うならば、ホムンクルスは生を再び得ただけで幸運である。
それに感動していたホムンクルスは、警戒心を疎かにしていた。
キャスターにばかり注意を向け――罠に引き寄せられていた事に気づかない。

キャスターはここで陣地作成をしていたのだ。
すでにある程度の罠を仕掛けていても、何ら不思議ではない。
殺す為のものではなく、蜘蛛の巣のように拘束する類の罠。
罠のある領域へ踏み込んだ途端、ホムンクルスに目眩が襲いかかり、崩れるように倒れてしまった。
単純に魂食いする以外にも使える手はある。

「さて、どうしましょう? マスターに報告しておこうかしら」

『第8則 占いによる告げ口を禁ず』

「……は?」

次の瞬間、キャスターの体に楔が貫いた。何らかの攻撃ではない。目に見える攻撃ではない。
ただ、何かが貫いたことだけは理解したキャスターが見渡すと
剣を持った青コートの青年がいつの間にか存在している。
間違いなくサーヴァント……恐らく『セイバー』のサーヴァントと判断していい。
ホムンクルスが召喚したもので間違いはないだろう。

「セイバー……かしら? 普通だったら退くところだけど、生憎ここは私の領域よ」

「なら、手加減する必要はねェな」

会話から相手がキャスターと判断したセイバーは、再び宣言をする。

『第14則 空想科学による殺害を禁ず』

再び楔がキャスターを貫くものの、痛みは全く感じなかった。
キャスターは鼻で笑う。

「さっきから何言っているの? あなたの言う通りにでもなるって訳……えっ、ちょ、ちょっと!?」

「なんだ、普通の武器は持ってねェのか。キャスター」

「こ、このおおおおおおお!!!」

どういう訳か魔術が発動しなくなった。
そして、セイバーに挑発されたことにより冷静さを失ったのか、キャスターはさらなる手を繰り出す。
ぞろぞろと剣士の容姿をした使い魔たちがセイバーとホムンクルスを取り囲む。
数人程度ならまだしも、ここはキャスターの領域。
呆けている間にも使い魔たちは増殖を続けているのだ。

「マスターはまだしも、貴様は殺すわ! セイバー!!」

「剣か……第14則には反しねェな。だが」


『第12則 真犯人が複数であることを禁ず』


決して剣でなぎ払ったなんてものではない。それどころかセイバーは刃を動かしすらしていない。
一瞬にして使い魔たちは消えた。
キャスターには理解できなかった。
むしろ、キャスターだからこそ理解することはできなかった。
セイバーの正体を、セイバーの能力を。
何故なら彼女が魔術師・キャスターだから。
打つ手がなくなったキャスターは念話でマスターに語りかけようとした。

――マスター! 不味い事になったの!! 令呪で……

「令呪で……って、返事しなさい! 聞こえてるのに無視するんじゃないわよ! クソマスター!!!」

「『第8則 占いによる告げ口を禁ず』……と宣言したはずだ。さすがに相手が悪かった事は同情してやらァ」

魔術も何もできないキャスターは一体なんだというのだ。
全ての特権を剥奪された彼女は命乞いよりも憤慨を起こすばかり。

「一体なんなのよ……!」

「しいて言うなら、これが探偵の流儀だ」

「探、偵!? ふ、ふざけるなあああああああああああああああ!!!!!」

「幻より生まれた者は幻に帰る……お前の全てを幻に帰す」

魔術師狩りとしての宣告を告げたセイバーは、ついに剣を振るう。
それはキャスターとあるべき場所へ帰す為だけに………




ホムンクルスが再び意識を取り戻した時、そこは病院の個室の一つであった。
キャスターは市街地に陣地を置く事を有利と判断していたが、周辺の住民は戦闘音に疑念を抱き、警察へ通報をしたらしい。
そして、そこにはホムンクルスが倒れていたと言う。
簡易的な事情聴取を終えた後、ベッドで横になるホムンクルスのところへセイバーが出現した。

「全く……警戒するのは分かるが、名前ぐらい名乗りゃいいだろ」

「あなたは……」

「随分と遅ェ自己紹介になっちまった。お前のサーヴァント、セイバーだ」

改めて聖杯戦争を実感するホムンクルスは呪文のようにセイバーと呟く。
やれやれといった風にセイバーの方は溜息をついた。

「今は『探偵権限』で疑われずに済んでいる。安心しな」

「そうか……すまない、セイバー。俺には名乗れる名前がないんだ」

量産品に名前など不要なのだ。
ホムンクルスに生まれながら名前はない、名無しでただのホムンクルスという存在だけでしかない。
生まれながらの失敗作で、歩く必要もないから健康ではなく、生きる価値もないから死ぬ。
それでも自我が芽生えた彼は生きる事を望んだ。

そして―――

「セイバー……俺に、何が起こったんだ?」

「……」

自分の経緯を語り終えたホムンクルスは問う。

何故、生きているのか
何故、健康でいるのか
何故、聖杯に選ばれたのか

心臓を破壊されてからは記憶が曖昧だ。ホムンクルスには何が起こったのか分からない。
そして、彼はそれを知りたいと望んでいる。

「確かに……聖杯が与えた救済措置にしちゃ逸脱してらァ。そいつは俺への依頼ってことでいいか、マスター」

「まぁ、そういうことになる」

「マスターからの依頼でも、俺には俺のやり方がある」


『第1則 手掛り全ての揃わぬ事件を禁ず』


キャスターに行使した楔とは違い、戒律は宙に漂い。そして――溶けた。
セイバーは眉をひそめ、納得する。

「全て揃っている、か………その依頼は引き受けるぜ、マスター」

「……! ありがとう、セイバー」

「それともう一つ聞く。お前の聖杯に対する願いはなんだ?」

「聖杯が欲しいか、それは分からない。俺は――ただ、生きたい」


聖杯戦争を生き残りたい、ではない。
ただ、生きたい。
人生を自ら描くように、ただ生きる。
ホムンクルスの願いを、セイバーが否定することはなかった。


【クラス】セイバー
【真名】ウィラード・H・ライト@うみねこのなく頃に散
【属性】秩序・善

【ステータス】
筋力:B+ 耐久:A 敏捷:B 魔力:C 幸運:E 宝具:E-

【クラス別スキル】
対魔力:E
 無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

騎乗:E
 申し訳程度のクラス別補正である。

【保有スキル】
探偵権限:-(EX)
 事件に巻き込まれても犯人・犯罪者扱いされることはない探偵役。このスキルを持つ者は事件を起こすことができない。
 (事件とはNPCの殺害、窃盗等の犯罪。マスターとサーヴァントの戦闘・殺害、それに関する器物損壊は除外される)
 謎を解く手掛かりを引き寄せる幸運でもある。また、このスキルを他のマスターかサーヴァントに授けることも可能。
 現在はホムンクルスへ授けている。

戦闘続行:B
 決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
 奇跡の魔女と死闘を繰り広げたらしいが……?


【宝具】
『魔術師狩り二十の楔』(ウィザード・ハンティング・ライト)
ランク:E- 種別:対幻想 レンジ:- 最大補足:19人
探偵の流儀を以て幻想との対峙を可能にした対幻想宝具。
セイバーが宣言した戒律が楔となり、戒律を反した・反しようとする対象に打ち込まれる。
たとえ、対象がその場にいなくとも効力は発揮する。セイバーが解除しない限り、楔は打ち込まれたまま残る。
目に見え形ある楔ではない為、防具や対魔力によって防ぐことは不可能。効果を継続するには魔力が必要となる。
楔を解除をすれば魔力消費は免れるが、再び対象へ楔を打ち込み直さなくてはならない。
以下が使用可能な戒律となる。

第8則 占いによる告げ口を禁ず。
 心霊術、読心術などで事件の真相を告げてはならない。念話を封じる。

第11則 使用人が犯人であることを禁ず。
 通行人Aのような前ぶれもなく登場した人物(ここで言うNPC)を犯人にしてはならない。
 NPCを洗脳や操作し、殺害等をしかけるのを封じる。

第12則 真犯人が複数であることを禁ず。
 真犯人と称するべきはマスターかサーヴァントのみ。使い魔など何かを召喚することを封じる。

第14則 空想科学による殺害を禁ず。
 殺害は合理的かつ科学的でなければならない。
 毒殺する場合、舞台である「現実の鎌倉の世界」には存在しない、未知なる毒による殺害は認められない。
 殴ったり剣で斬ったり等、一般人にでも可能な普通の殺害方法ならばよい。

第16則 必要以上の描写を禁ず。
 舞台である「現実の鎌倉の世界」以外の描写は認められない。
 固有結界の使用、あるいは「現実の鎌倉の世界」に影響を与える類を封じる。

第19則 愛なき動機を禁ず。
 犯行へ至るまでには必ず動機が存在する。突拍子もなく他人を恨む訳がなく、恨む過程が必ず存在する。
 第11則と同じく洗脳や操作を封じるものだが、こちらはサーヴァントとマスターに関するもの。


『推理小説二十則』(ウィラード・ハンティントン・ライト)
ランク:E- 種別:対事件 レンジ:- 最大補足:-
ミステリー界における戒律の一つ。『魔術師狩り二十の楔』とは違い、魔力は必要としない。
セイバーが戒律を宣言し、戒律に接触する事件ならば事件として成立せず、巻き込まれるのを回避できる。
戒律に接触する事件である事実もまた一つの判断材料となりえるだろう。
以下が使用可能な戒律となる。

第1則 手掛り全ての揃わぬ事件を禁ず。
第4則 探偵や警察関係者が犯人であることを禁ず。
第7則 死体なき事件であることを禁ず。
第13則 非合法な組織の登場を禁ず。


【weapon】

【人物背景】
天界に拠点を置く赦執行機関“SSVD”所属の異端審問官。階級は一等大司教。
かつて冷酷無慈悲に職務を全うし、『二十の楔のライト』『魔術師狩りのライト』の称号を得た。
無限の魔女を埋葬し、奇跡の魔女と死闘を繰り広げた英霊。


……という、前述の幻想は理解しない方がいい。頭痛になる。


ミステリー界のルール『ヴァン・ダインの二十則』をモチーフにした概念的存在。
粗っぽい上に口が悪く、誰に対してもタメ口で礼儀を知らない。
軽々しい発言を口にする事が多いが人情を大切にする性格をしている。

【サーヴァントとしての願い】
ホムンクルスからの依頼を解決する。


【マスター】
ホムンクルス@Fate/Apocrypha

【マスターとしての願い】
生きる。そして、自分に何が起きたのか知りたい。

【能力・技能】
■■■■■■■■■■を持つホムンクルス
優れた魔術回路を持ち、手で触れた物質の破壊等できる魔術を使用する。
生まれながらの失敗作であったが、今は健康体で少し肉体が成長している。

【保有スキル】
探偵権限:EX
 セイバーから授けられたスキル。
 ホムンクルスから他のマスターやサーヴァントにこのスキルを授ける事はできない。

【人物背景】
ユグドミレニア一族により作られた量産品のホムンクルスの一人。
自我が目覚めたことにより黒のライダー(アストルフォ)の助力を得て逃亡を図る。
その最中、心臓を破壊されたはずだが………

【捕捉】
身元不明の少年として鎌倉市内にある病院で入院しています。
『探偵権限』により警察関係者から疑いはかけられておりません。

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