……その光景は、見る者が見れば奇妙なものだった。
濃淡それぞれ咲き誇る、紫薔薇の花びらが舞い散る寝室。漂う芳しい香りは、流血続くここ鎌倉の地では貴重なものだろう。
部屋の中心にある円形のベッド、純白のシーツにはシミ一つなく、身体を横たえればしっとりと包み込む柔らかさは天上のごとき心地よさ。
ベッドの上には男女が二人。主従が二人。生者と死者で、二人と数える。
うつ伏せに寝そべり、肌を晒す―――男女の女、主従の従。キャスターのサーヴァント・葉隠散(はらら)。
その背に指を当て、力を込める―――男女の男、主従の主。キャスターのマスター・伊良子清玄。
聖杯戦争の概要を知る者ならば、マスターがサーヴァントに献身的に尽くすその姿に違和感を覚えるだろう。
清玄は己の身に付けた骨子術をもって、自分が召喚したキャスターの霊質と肉質が混ざり合う身体を癒している。
散は満足げに片目を閉じ、体を伸ばして己がマスターからの奉仕を満喫していた。

「おまえの按摩は心地いい。経路から流れてくる魔力などよりも遥かに得難き努力の証だな、清玄」

「恐縮です、キャスター殿」

名前で呼べと言うに、と笑うキャスターの笑顔は清玄には届かない。
清玄の両目は一閃に切り裂かれている。妖しい双眸を隠し、美貌に愁いを重ねるように。
それに加え、清玄の纏う剣気……剣士ならば誰もが持つ戦いへの渇望は、かってないほどに澄み切っていた。

伊良子清玄は、生者であって死者である。
ここ鎌倉の地に招かれる直前、彼は自分の命の終わりを確かに感じていた。
共に虎眼流を学び、互いを憎み合った虎子、藤木源之助との駿河御前試合での決着。
最後の最後で、藤木は自分を理解した……清玄はそう思っている。
自分の命が尽きる瞬間に見た藤木の瞳には、憎しみはなくなっていた。
だからこそ思う。最初から何の呵責もなく、武を較べ、斬り結ぶことが出来たらどれほどいいかと。
伊良子清玄は武士だ。分かり合った者が同じく武士ならば、剣を交えることでこそ、その理解に意味があると信じたい。
その正々堂々たる決着を望む意思は、キャスター……人間を超えた悪鬼、反英霊の属性を持つ葉隠散にとっても、好ましいものだった。

かって人間を捨て、肉親と決別し、人界を滅ぼさんとしたキャスターもまた、己の弟と全てをぶつけ合う激闘を経験した。
その果てこそ、清玄の無念とは無縁の結果ではあったが。
満足し、納得し、絶対の命題をくつがえされた驚きと胸の高鳴りを、キャスターは己のマスターにも経験してほしいと思っていた。
だからこそ、この自尊心と美意識の高い英霊が、己を駒として扱う聖杯戦争への参加を了承したのだ。

寝室の扉に、臣下の分を弁えた控えめなノック音が響く。
キャスターの視線は不可思議な力を帯びて、ノックの主に入室の許可を伝えた。
扉を開いて入ってきたのは、異形の臣下。
キャスターが召喚された際、そのスキルによって同時召喚された二体の不退転戦鬼、知久と腑露舞。
怪老といった容姿を持つ知久は散の喉を潤す霊薬を持ち、脹れ濡った肉腫のような異形、腑露舞は散が鎌倉に放った戦術鬼の残骸を握っていた。
己の主君を召喚し、主従関係を結んだマスター・清玄は彼らにとっては盟主に当たると言えるのかも知れない。
しかし不退転戦鬼達は、主君・散に尽くす清玄に対し、決して好意的な反応を見せなかった。
大老は眉をひそめ、御殿医は怒りに体を震わせて跳ねる。

「やい清玄! お前のマスターとしての適正が低いせいで、大変な問題が起きているんだぞ!」ぶゆー

「畏れながら散さま。戦術鬼どもは偵察に向かぬ気性の上、清玄のもたらす魔力ではその粗暴も通せぬ有様。
 即座に他のマスターやサーヴァントに発見され、相手の情報すら掴めず破壊されてしまい、あまつさえ統制が利かず一般人に目撃されることも……」

「魔術に通じぬ我が身の不徳、常勝の王たるキャスター殿の英名を損ねることになり、真に申し訳なく思います」

「気に病むな、清玄。こちらの情報だけは気取られぬようにはしておる。知久と腑露舞は少々心配性過ぎるのだ」

清玄は剣士であって魔術師ではない。
召喚したサーヴァントが保有魔力に余裕のあるキャスターでなければ、魂食いなどの方法を取らなければいけなかっただろう。
清玄の心はかって武士社会の上下関係に躁鬱していたころの狭いそれとは違う。
自分を蔑如する言葉に怒ることなく、その内にあるキャスターへの忠誠心をこそ注視する余裕があった。

「清玄このやろう! 散さまの寝室に出入りを許されたからといって調子に乗るなよ! 我ら不退転戦鬼は散さまが誰かに仕えるなんて認めてないからな!」ぶゆゆー

「まったく、まだそんな事を言っているのか。フフ、清玄、目が見えたら腑露舞の怒髪天ぶりに大層驚くぞ。お前の認識では想像もつかぬファイヤーぶりよ」

「知久殿と腑露舞殿のお心は、この清玄と同じ。キャスター殿に注ぐ偽りなき信頼。盲いたこの目にこそ、お二方の曇りなき忠義がありありと映るのです」

野心の塊だった生前の清玄を知るものが見れば胡散臭く見える言葉にも、今は嘘はない。
その清玄の清涼な態度に毒を抜かれたように、腑露舞も罵声をやめ、飛び跳ねるだけとなった。
和解とまではいかぬも鎮火した場の空気を見て、キャスターが身を起こす。
同時に円形のベッドは変形し、仏陀が座する神台の様相を呈する。
脇に控えるマスターと不退転戦鬼たちの周囲の壁も、変容していく。
変貌した寝室の名は、神聖操縦室。外界を映すモニターを多数有するその部屋はG・ガランの中枢であり、G・ガランとはキャスターの持つ宝具。
その宝具は本来、高層ビルを遥かに超えるサイズを持つ、隠匿など不可能な巨神。
それがここ鎌倉で、キャスターたちの陣地として成立する理由は、陣地作成時に施したちょっとした仕掛け。
キャスターは、鎌倉に来てまず始めに大船観音寺に向かい、巨大白衣観音像内部に潜入した。
観音像を内部から改造することで、G・ガランに消費する魔力を節約すると共に、拠点として用いる奇策に出たのだ。

「足場は既に出来ている。気張らずに身命を賭すがいいぞ、清玄」

「はい、此度の戦はあくまで我が私闘。私のための聖杯戦争。キャスター殿の助力にのみ頼らず、マスターたる資格を示してみせまする」

清玄に慢心はない。
だが『獲得すること』への執着だけは、善悪を変えても強く残っていた。
その熱こそが快なり、とキャスターは笑った。

サーヴァントがかって得たものを、今得ようとするマスターを支援する。
その是非を知るものは、未だ誰もいなかった。


【クラス】
キャスター

【真名】
葉隠散@覚悟のススメ

【ステータス】
  • 通常時
筋力D 耐久D 敏捷C 魔力A 幸運A+ 宝具A

  • 着装時
筋力C 耐久C 敏捷B 魔力A 幸運A+ 宝具A

【属性】
混沌・中庸

【クラス別スキル】

陣地作成:A
魔術師として自らに有利な陣地な陣地「工房」を作成可能。
キャスターの場合は、宝具『G・ガラン(ジャイアント・ガラン)』を作り上げることが出来る。

道具作成:C
魔力を帯びた器具を作成可能。キャスターは、「戦術鬼」というクリーチャーを作り出す事ができる。

【保有スキル】

零式防衛術:A+++
キャスターにあるまじき、極めて高い白兵戦闘力を支えるスキル。
第二次世界大戦中に夥しい捕虜の屍骸を糧に生み出された最終格闘技。人類の潜在能力を極限まで引き出し、一触必殺を可能とする戦闘論理。
その本質は敵を破壊する力ではなく、己の認識(心の動きによる動揺)を完全に制御することにある。
A+++ランクともなれば過去未来通して唯一絶無、最強の使い手ともいえ、Aランクの心眼(真)・戦闘続行・無窮の武練・宗和の心得を内包する戦闘特化型複合スキルと化す。
キャスターは特に「螺旋」という大地の反発力(=大地力=星の抑止力)を掌打によって敵に叩き込む技を得意とする。「螺旋」は粛清防御値によってダメージが軽減される。

カリスマ:C+
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。
キャスターのカリスマは王として十二分に高い物ではあるが、人間を嫌っていた逸話からランクダウンし、その代償に人外に対して強力に作用する。

他者改造:B
燃える口づけを与えることにより、他者を自分に忠誠を誓う不退転戦鬼に変える事が可能。
抗う為には、同ランク以上の対魔力、または恋人の存在が必要。

現人鬼:A
人よりも気高く尊く咲いて散る魂。召還時に、独立して存在する不退転戦鬼が付属して召還される。
生前に血縁を超え、人間を超越した怪物という反英雄であると同時に、ガイアの抑止力の一つ(人の世を救う『救世主』ではない)。
キャスターとして限界した場合は、『知久』『腑露舞』が召還される。
戦闘においては「人間」の属性を持つサーヴァントに対しダメージ値が上昇する。

『知久』:大老。通常時は怪奇な老人の姿だが、真の姿は雄雄しき獅子の霊獣。キャスターのマスターの魔力量の問題で、本来400kg超級の巨獣だが60kg程に身をやつし、戦闘能力はない。
『腑露舞』:御殿医。蛸とも蛭とも見える怪物で、医療技術を持つ。キャスターのマスターの魔力量の問題で、高い戦闘能力を発揮する『ファイヤー形態』に変化できない。


【宝具】
「強化外骨格・霞(ソリッドボディ・メドゥーサ)」
ランク:B+ 種別:対人(自身)宝具 レンジ:1~6 最大捕捉:1

四つの目を持つ悪鬼のようなシルエットを持つ、生きた鎧(強化服)。
物理的な攻撃に対しては複合装甲展性チタン合金によりダメージ値を軽減し、魔術に対しても内部に封印された大滅霊・冥の魂の加護によりBランク程度の耐性を持つ。
化学兵器を調合する機構を持ち、凍結・灼熱・雷撃など、単純な打撃以外の攻撃方法も持つ。

「神我一体・救星の双掌(ジャイアント・ガラン)」
ランク:A 種別:結界宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:80

高層ビルを遥か見下ろす威容を持つ、超巨大移動菩薩。キャスターにとっての人類を裁く剣であり、王座にして神殿。キャスターの意思で自在に動かせる。
キャスターは魔力を節約するため、また聖杯戦争の性質を鑑みてゼロから作り上げることはせず、巨大白衣観音像に侵入して秘密裏に内部から改造して作成した。
外見は巨大白衣観音像のままで、魔術的な洞察を持ってしても人間のレベルでは看過することは不可能だが、芸術に理解を持つ英霊ならば低確率で正体に気付く事もある。
本来のサイズより著しく小型化している為、二つの真名開放奥義も弱体化していると言わざるを得ない。下記参照。
「神我一体・G螺旋」→G・ガランと認識を同調させたキャスターが放つ、必滅の王義にして究極の誅罰。本来のサイズで放たれれば、500%の命中率上昇補正に加え、
              筋力・耐久・敏捷のステータス平均がAランク以下、かつBランク以上のカリスマを持たないサーヴァントは問答無用で最微塵と化す。
              巨大白衣観音像の殻を被っている現状では、せいぜいA+++ランクの対城宝具程度の威力を持つ螺旋でしかない。
「神我一体・G・再見(さらば)」→Gガランと認識を同調させたキャスターが放つ、和解の証明にして友愛の究極。本来のサイズで放たれれば、どれだけ強力に敵対していた相手にも笑みをもたらす。
                     巨大白衣観音像の殻を被っている現状では、爽やかな別れの挨拶でしかない。

【Weapon】
「零式鉄球」
キャスターの体に埋め込まれた特殊金属による24の鉄球。
肉体と一体化しており、皮膚から金属部分を分泌させて自身の体を装甲と化すことが可能。
鉄球を体外に膜状に放出して熱攻撃から身を守る、直接手に取って投擲する等の使用法も存在する。

【人物背景】
厳格な父、朧と愚直な弟、覚悟と共に山中で零式防衛術を学びながら育ったキャスターは、当初人類を守るべき存在として定義していた。
しかし厳しい訓練の最後の日、強化外骨格・霞を着装する過程で霞に宿る怨霊から人類の醜さを教えられたキャスターは絶望と共に死に、現人鬼として生まれ変わる。
父を殺し、弟を一蹴して人類完殺の為に歩き出したキャスターは曽祖父である悪鬼・葉隠四郎の残した科学技術を得て化外の大軍勢を率いて大戦争で荒廃した人界を更に蹂躙する。
戦士として成長し立ちはだかる弟との激戦の中で、二度目の死を迎えたキャスターだが臣下の忠義により復活、全ての元凶であった四郎を粉砕。
「人類は悪」という命題を覆した弟に別れを告げ、放射能に侵された世界を救済する為旅立ち、人類を見守る存在となった。体重は54kg。

【サーヴァントとしての願い】
なし。

【方針】
人間の営みと滅びを見守りながら、強敵との戦いを楽しむ。


【マスター】
伊良子清玄@シグルイ

【マスターとしての願い】
虎の中の虎と、怨恨なき決着を。

【Weapon】
「日本刀 備前長船光忠 一(いちのじ)」
『一』を得て天は清く 『一』を得て地は安く 『一』を得て神は霊となり 『一』を得て王は万人の規範となる。
天下人の剣と称される名刀。

【能力・技能】
「虎眼流」
開祖・岩本虎眼が修行中に用いていた兵法を前身とした流派。
真剣はたやすく折れるという理由により「刀が折れないよう剣を極力打ち合わせない」、「無駄に斬り込まず、最小の斬撃で倒す」など実践的な剣法と、
当身技を多用する柔術など、独特な技法が含まれている。主要な技法には強力な握力や指の力を精密に操ることが求められる。
基本的には本差を用いる剣術であるが、場合によっては脇差や二刀流での戦闘も行う。
稽古では袋竹刀などではなく、木刀で直に打ち合うなど、非常に過酷ではあるが、総合的に見ると新たな技の開発や、個人の創意工夫が認められているなど、自由度が高い武術である。
「流れ」という、刀を振ると同時に手を刀の鍔元から柄尻まで横滑りさせることで相手に間合いを誤認させ、切先による最少の斬撃で相手を倒す技や、その発展系の奥義「流れ星」が特徴的。

「無明逆流れ」
伊良子が虎眼流を追放された後に、編み出した独自の必殺剣。
「盲人が杖を突いているかのような」剣を地面に突き立てた構えから、倒れこんで相手の攻撃をかわしつつ、相手の正中線を「流れ」で切り上げる技。
特に流れ星のように首をねらう横のなぎに対しては効果的。要点は星流れと似ているが、強固な地面に刀を突き立て溜めとし、全身のバネを用いて切り上げることで、その一刀は星流れ以上の斬撃に昇華している。
地面の状況に影響を受けやすいという弱みを抱えていたものの、跛足となってからは刀身を足の指で固定して力を溜めるという動作により、弱点は克服され、さらに「流れ星」に近い技に進化した。

「骨子術」
中国由来の医術に通じる経絡を利用した体術等の一種。
いわゆるツボを押す事で、相手の動きを封じることが出来る。

【人物背景】

盲目跛足の美剣士。周囲の人間を利用し、高い身分に昇り詰めようとする男。
天賦の才で虎眼流の秘技を軽々と身につけ、藤木源之助と並び跡目候補の1人と目されていたが、虎眼の愛妾いくとの密通が露見し、仕置きを受けて盲目となり、追放された。
その後は検校のもとに身を寄せ、虎眼流への復讐を行う。独自の剣術「無明逆流れ」を編み出し、虎眼流の高弟達を血祭りに上げていく。
母が夜鷹(下級の売春婦)という下層の生まれのため、己の出自に対するコンプレックスが強く、異常な出世欲の元となっている。
「伊良子清玄」は元々の名前ではなく、かつて江戸で弟子入りしていた医師から技術と共に盗んだものである。
士官のち仇討にて藤木に勝利、剣名を上げ出世街道を進むが、駿河城御前試合にて藤木と再戦。無明逆流れで藤木に挑むが、藤木の奇策で初太刀をかわされ敗れ、首を斬り落とされた。
その出自から身分差を見下す者、階級社会そのものに深い怒りを覚えており、それを否定する為に最下層の身分の自分でも成り上がれる事を証明しようとしていた。
死の前日、かって藤木にかけられた言葉(「藤木源之助は生まれついての士(さむらい)にござる」)の真意と、それを憎んでいた自分の間違いに気付いた清玄。
いかなる奇跡か、死の瞬間までの記憶を持ちながら鎌倉の聖杯戦争に呼ばれた清玄が望むのは、愛憎怨怒の中で斬り結んだ己の真の理解者との、純粋な立会いのみ。

【方針】
G・ガランに潜みながら、しばらくはキャスターの戦術鬼で偵察を行う。

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