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<p>43 名前:in to dream1/6 ◆DppZDahiPc [sage] 投稿日:2006/06/28(水) 23:35:14 ID:OeAJ8u45<br />  利き手を骨折した。<br />  理由は簡単明確。<br />  車に轢かれそうにな少女を助けるため、車の前へ飛び出し。なんとか、少女は<br /> 手首を捻挫したが、他には怪我もなく。少女はもとより、その両親、轢きかけた<br /> 運転手からも感謝された。<br />  その時は怪我したものの、人から感謝され、謝礼金までもらい。随分良い気に<br /> なっていた。少女の代わりに跳ねられてよかった、とすら考えていた。<br />  たまには良いこともするもんだ、とも。</p> <p>――しかし、一つ、重大な問題があった。</p> <p> 利き手が使えない。<br />  それはつまり様々な不便が強いられるのだが、その中でもオナニーできない事<br /> が一番辛い。<br />  禁オナニーが始まってから約一週間――既に限界近い。<br />  三日前より夢精が続き。ちょっとしたことで勃起する。<br />  左手で抜こうとしたが上手くいかず、我慢汁がダラダラ流れて畳を汚すだけ。<br /> 一週間前まで毎日していた反動か、女の味を知らない俺の息子は、オナニーしろ<br /> と分かりやすく俺に訴えかけてきている。<br />  それを聞いてやりたいのも山々で、今にも爆発しそうな股間の健康面を考えて<br /> やるなら。<br /> 「よし、ソープへ行こう」<br />  ジャケットを羽織って、財布を掴み――絶望した。<br />  溜まってた家賃光熱費払って、財布の中身は飛んでいっていたことを思いだし。<br /> 俺は絶望した。<br />  金が無いわけではない、ただ、使えば。あっさり餓死している未来の俺が見え<br /> る。<br /> 「ハハ……ハハハ」脚が崩れ、その場にしゃがみこむ。<br />  股間がきゅんきゅんと疼いていた。<br />  そんな時だ、ヤツが現れたのは。<br />  ドンドンドンッ、ドンッ。<br /> 「――おわぁっ!?」<br />  今時珍しい木製の扉が、破壊されそうなほど荒々しく叩かれ、<br /> 「ちわー、宅配でーす」暢気な声が怒鳴ってきた。<br />  チャイムあるんだから鳴らせよとは思いながら、立ち上がり、開けてやると。<br /> そこには街を歩けば一人は居そうな、Tシャツジーンズ姿の女が立っていた。―<br /> ―高校生くらいだろうか? それにしては顔つきは幼い。<br />  不思議と既視感を覚える顔だった。<br />  まあそんなことは良いとして、「宅配って?」聞くと。<br />  ヤツは躊躇いもなく<br /> 「あたし」<br />  なんて言ったので。俺は軽やかに笑い。<br /> 「間に合ってます」<br />  迷い無く扉を閉めた――閉めようとしたが、扉と枠の隙間に足を差し込みやが<br /> った。チッ、場慣れしてる。<br /> 「ちょ、ヒドくない? こんな仕打ちないって、ちょ、ちょお」</p> <p><br /> 44 名前:in to dream2/6 ◆DppZDahiPc [sage] 投稿日:2006/06/28(水) 23:36:36 ID:OeAJ8u45<br />  ただでさえ、こっちは利き手を使えないというのに。女と思いたくないほどの<br /> 力で、開けようとする。<br /> 「悪いけどデリヘルは頼んでない」<br /> 「ハァ? あたしが商売女に見えるっての?」<br />  俺は躊躇いなくうなづいた。<br /> 「多分、住所間違ったんだろ。な?」<br />  手の平に汗が滲んできた。<br /> 「間違いじゃないって、あたしは――」<br /> 「なら、なんなんだよ。宗教勧誘なら余所へ行け」<br /> 「――禁断少女」先ほどとは打って変わった、妙に落ち着いた声でヤツは言った。<br /> 「禁断症状?」俺はああと納得し、「悪いがクスリなんざ、俺はやってない。金<br /> ないんでね」<br />  その時、フッと扉の向こうから力が消え「あわわ」俺は勢いそのまま、扉の外<br /> へと投げ出された。<br />  そこには誰も立っていなかった。<br /> 「なんだよ」<br />  あの女は去ったらしい。<br />  憤慨するように舌打ちすると、部屋の中へ戻り鍵を閉めた。<br /> 「ったく、なんなんだよ」<br /> 「まったくね」<br /> 「ああ、ホントホント……で、どこから入った」<br />  ヤツはそこにいるのが当然のように、ウチの数少ない高級品であるテレビの上<br /> に腰掛け、ハーゲンダッツを食べながら。馬鹿にするように笑った。<br /> 「じゃあ、自己紹介からするね」駄目だヒトの話聴いてねぇ「あたしは禁断少女」<br /> 「……そうか」俺は頷き、ツカツカと近寄る。<br /> 「そう。八百万の神ってヤツよ。平伏なさい、この粗チン」<br /> 「ああ」女の手からハーゲンダッツとスプーンを奪うと、うず高く積まれた雑誌<br /> 類の上に置き。<br /> 「まあ神っていうより、守護霊みたいなもんだけど。同じ名前でも、様々、多様<br /> な姿を持ち。一つとして同じ性格のない。キミだけの禁断少女、それがあたし」<br /> 「なるほど、ちょっといいか」<br /> 「んー? なになに――キャッ」<br />  俺は頭のオカシイ女を抱えあげると、「お姫様だっこだぁ」と喜ぶ女を、部屋<br /> の外へ放り出し、再び鍵を閉め、チェーンをかける。<br /> 「よし」<br />  これでもう入ってこれないと安心して、振り返ると――居た。<br /> 「どこから……というより、どうやって入った」<br />  俺の疑問にも、頭のオカシイ女は電波な答えを突きつけてきた。<br /> 「キミの心から」――意味分からん。<br /> 「で、話の続きだけどね。あたしたち禁断少女の役目は一つ」女は形の良い小鼻<br /> をぷくっと膨らませ。「キミを堕とすこと」<br /> 「…………」どうやればコイツを追い払えるんだろう?<br /> 「あっ、わからないって顔してるねぇっ」</p> <p>45 名前:in to dream3/6 ◆DppZDahiPc [sage] 投稿日:2006/06/28(水) 23:37:59 ID:OeAJ8u45<br />  ああ、わからないね。<br /> 「でも安心して、チャチャッと済ませちゃうから」<br />  説明になっていないのは気のせいでないだろう。<br />  だが、一つわかった。<br /> 「つまり、その、なんだ。なにかしたら、帰るんだな?」<br /> 「イエッス!」<br /> 「で、なにしたら帰ってくれるんだよ。俺が手伝わなきゃいけないことか?」<br />  女は首を振り、「ベッドに座って」と指示してきた。どうやら傍観していてい<br /> いらしい。<br />  何が始まるのかと考えながら、ベッドに腰掛けると。<br />  直後。<br /> 「んっ……む……」<br />  口が塞がれていた。<br />  眼から部屋の風景が一切消え、女のこざっぱりとした顔しか見えなかった。<br />  唇を割り、熱い物が押し入ってくる。舌に舌が絡み、複雑なダンスを踊る。舌<br /> を伝ってヤツの涎が流れ込んできて、俺の涎と解け合っていく。<br />  わずか十秒に満たない間のキスで俺の身体は火照り、ヤツは唇を離した。<br />  俺はなにか言おうとして――なにも言えなかった。<br />  それをみてかヤツは笑う、この状況を心から楽しんでいるように。<br /> 「お前、なんなんだよ」絞り出した声、口端から涎がだらしなくこぼれた。女は<br /> それを舌ですくいあげ、細い喉で嚥下し。<br /> 「禁断少女」いった<br /> 「キミの欲望を解き放つ存在」ニヤリと猛禽類を思わせる笑みを浮かべ、女――<br /> 禁断少女は膝を付き、いつの間にズボンを降ろしていたのか。露出した俺の陰茎<br /> にキスをした。<br /> 「キスしただけでこんなにしちゃって、フフッ、中学生じゃあるまいし」<br />  笑うその声は、まるで獲物をみつけた肉食獣のようですらある。<br />  逃げるため後ずさりしようとしたが、女は先んじて肉棒を細い手で掴んだ。ど<br /> くんどくんっと肉棒が脈動した。<br />  次に女が何をするのか、分かった。<br /> 「あーん」<br />  かぷっ、と女は俺の肉棒を口に含んだ。亀頭が女の上顎に触れて、びくんっと<br /> 反応し。ざらついた表面の舌の上でみじろぎ、背中を泡立たせる。<br /> 「……くっ」<br />  女の目が笑っている。まるで、「もう出るの?」とでも言いたげに。ゆっくり<br /> と頭を動かし始めた。<br />  技巧も糞もない、そんなもの必要ないと分かっているかのように。薄いが弾力<br /> のある唇で、熱い舌で、口全体で奉仕してくる。<br />  突然始まった行為――そして、始まりと同じく唐突に止まった。<br />  口からこぼれる涎を舌先で拭いながら「……ねぇ」と女は話しかけてきた。柳<br /> 眉をハの字に曲げ、目を半眼にして。「ちゃんとお風呂はいってる?」</p> <p>46 名前:in to dream4/6 ◆DppZDahiPc [sage] 投稿日:2006/06/28(水) 23:39:13 ID:OeAJ8u45<br /> 「はいれるように見えるか?」湿布と包帯とでグルグルに巻かれた右腕を示す。<br /> 「そりゃそうか」女は納得したのかしていないのか、唇を尖らせ。「うーん」と<br /> 唸りはじめた。<br /> 「……なんだよ」<br /> 「いや、ね。あのさ。煮沸消毒していい? この汚いの」<br /> 「あ?」なにいいやがるこの女。「頼んでもないのに、オマエからしゃぶってき<br /> た癖に」<br /> 「だってこんなに臭いとは思わなかったんだもん」<br /> 「…………喧嘩売ってるってことでいいな?」<br /> 「ハァ? なにそれ、イミわかんない」いいながらも女は手でピストン運動を続<br /> け、俺の陰茎が萎えないようにしている。<br />  ぐるぐると部屋中を見渡して「あ、そうだ」と置かれっぱなしのハーゲンダッ<br /> ツのカップを手に取った。既に中はドロドロになっている、白色の元アイス。<br />  それを<br /> 「これで少しは臭い消えるかな」<br />  陰茎へと垂らしはじめた。<br /> 「――っ!?」<br />  小さなカップから落ちる糸のような細い線が、充血した陰茎の先端に触れから<br /> みついて、じっとりと肉棒の上を流れていく。<br />  熱をもったペニスを冷ますような溶けたアイスの冷たさが、背筋を震わせる。<br /> 「な、なにする」<br /> 「味付けよ、味付け」<br />  言うと、女は舌先を突き出し、流れるアイスを舐め始めた。<br />  こぼさないように舌が純白のラインをなぞりながらも、肉棒にバニラがなじむ<br /> ように擦りつけ。かと思えば、あむっと白液まみれの肉棒を弾力のある唇で挟み、<br /> ちゅるちゅると吸い裏筋を登っていく。濃厚なバニラを堪能する。<br />  楽しいのかなんだか知らないが、時折「ふふ」と笑い。相好は、おそらく年上<br /> の俺からみても蠱惑的に感じる笑みを、亀頭へ向けている。<br />  アイスで冷やされた肉棒を、熱い愛撫によってぬるぬると暖めていく。顎、頬<br /> にまでも白液を飛び散らしながらの口淫。小さそうに見える口にすっぽり肉棒を<br /> 丸飲み、ずりゅりゅりゅぅと意地汚い音をたててバニラをすすり。口唇で揉むよ<br /> うに亀頭に残るバニラを舐めとり、ごくんっと嚥下する。<br />  ぺろっと唇に残った濃厚なバニラを舐めとり、小悪魔的微笑を見せ、<br /> 「このアイス、ちょっとしょっぱいね」<br />  俺は顎に垂れるアイスを一滴指先で拭ってやると、その指先をくわえ。<br /> 「ああ、……そうだな」つぶやいた。<br />  欲望が訴えかけてくるような味だった。<br />  女――禁断少女は男の下心を煽る微笑を浮かべている。俺の陰茎に触れたまま。<br /> 「ね、しよっか?」</p> <p>47 名前:in to dream5/5 ◆DppZDahiPc [sage] 投稿日:2006/06/28(水) 23:42:16 ID:OeAJ8u45<br />  なにを、とは禁断少女は言わなかった。<br />  なにを、とは俺は訊かなかった<br />  俺は、ただ――</p> <p>ピンポ――ンッ。</p> <p> 先ほど存在を無視されたチャイムが、存在を強調するように鳴り。俺たちは同<br /> 時に玄関をみて、俺は無視することにした、どうせ勧誘の類だろ。今はそんなことより。<br /> 「出たら」<br /> 「……え? いや」<br />  禁断少女は掠れた笑みを見せた、そんな表情をする理由が俺には分からなかっ<br /> た。<br /> 「……いいから、ほらっ」<br />  手を引っ張られ立たされて、禁断少女が俺のパンツとズボンを上げ、もう一度<br /> 掠れた笑みを見せて。「またね」生地越しに俺の陰部へキスすると。<br />  俺の背中を玄関へと押した。<br />  おそらく禁断少女がやったのだろう、いつのまにか鍵の開けられていた、今更<br /> こんなことでは驚かないが――しかし。<br />  背中を押された勢いそのまま、俺は玄関から飛び出した。そこには、一人少女<br /> が立っていた。<br />  バニラ色した半袖のワンピースを着た少女が、立っていた。その手には俺でも<br /> 知ってる生チョコで有名な洋菓子店のロゴが入った紙袋。<br /> 「……君は」<br /> 「あの、私。その、助けてもらったお礼がしたくて。えと、だから、その……」<br />  不思議と既視感を――ああそうだ、助けた女の子。<br /> 「うン?」<br />  違う、いや、違わないけど。――けど、でもどこかで……<br />  俺がいくら待っても、二の句は来ず。どうしたのだろう? と少女の顔を覗く<br /> と。少女の視線が一点へと集中していた、俺の股間へと。<br /> 「え、えぇと」まさかこの子も……なわけはなく、少女の身体が俺の声に反応し<br /> びくりとする。<br />  湯沸かし機のごとく一気に顔を真っ赤にすると、少女は言った。<br /> 「あの、それ」<br /> 「あ、ああ、これ? これは、アイスこぼしちゃって」<br /> 「そうなんですか」<br />  少女はなにごとか思案し、躊躇いがちにいった。その瞳は雨に濡れた太陽のよ<br /> うに精一杯に輝いている。<br /> 「洗わせてください」<br /> 「……え?」<br /> 「洗わせてください」そういって少女は頭を下げた、白いうなじは、まだ少女の<br /> ソレだった。「お願いします」<br />  突然の事態に俺は困り。<br />  困り果てて、俺の心から来たとか抜かしたあの――を振り返った。<br /> 「……あれ」<br />  そこには、誰もいない。<br />  一人暮らしの部屋にはほかにだれもいなかった。<br />  頬をぽりぽり掻きながら顔を戻すと、対の太陽がのぞき込んでいた。</p> <p> その相好に、何故か既視感を覚えた。</p> <p>fin</p> <p>48 名前: ◆DppZDahiPc [sage] 投稿日:2006/06/28(水) 23:43:36 ID:OeAJ8u45<br /> 言い訳。</p> <p>勢いだけで書き上げた、だが私は謝らない。</p>
<p> 利き手を骨折した。<br />  理由は簡単明確。<br />  車に轢かれそうにな少女を助けるため、車の前へ飛び出し。なんとか、少女は<br /> 手首を捻挫したが、他には怪我もなく。少女はもとより、その両親、轢きかけた<br /> 運転手からも感謝された。<br />  その時は怪我したものの、人から感謝され、謝礼金までもらい。随分良い気に<br /> なっていた。少女の代わりに跳ねられてよかった、とすら考えていた。<br />  たまには良いこともするもんだ、とも。</p> <p>――しかし、一つ、重大な問題があった。</p> <p> 利き手が使えない。<br />  それはつまり様々な不便が強いられるのだが、その中でもオナニーできない事<br /> が一番辛い。<br />  禁オナニーが始まってから約一週間――既に限界近い。<br />  三日前より夢精が続き。ちょっとしたことで勃起する。<br />  左手で抜こうとしたが上手くいかず、我慢汁がダラダラ流れて畳を汚すだけ。<br /> 一週間前まで毎日していた反動か、女の味を知らない俺の息子は、オナニーしろ<br /> と分かりやすく俺に訴えかけてきている。<br />  それを聞いてやりたいのも山々で、今にも爆発しそうな股間の健康面を考えて<br /> やるなら。<br /> 「よし、ソープへ行こう」<br />  ジャケットを羽織って、財布を掴み――絶望した。<br />  溜まってた家賃光熱費払って、財布の中身は飛んでいっていたことを思いだし。<br /> 俺は絶望した。<br />  金が無いわけではない、ただ、使えば。あっさり餓死している未来の俺が見え<br /> る。<br /> 「ハハ……ハハハ」脚が崩れ、その場にしゃがみこむ。<br />  股間がきゅんきゅんと疼いていた。<br />  そんな時だ、ヤツが現れたのは。<br />  ドンドンドンッ、ドンッ。<br /> 「――おわぁっ!?」<br />  今時珍しい木製の扉が、破壊されそうなほど荒々しく叩かれ、<br /> 「ちわー、宅配でーす」暢気な声が怒鳴ってきた。<br />  チャイムあるんだから鳴らせよとは思いながら、立ち上がり、開けてやると。<br /> そこには街を歩けば一人は居そうな、Tシャツジーンズ姿の女が立っていた。―<br /> ―高校生くらいだろうか? それにしては顔つきは幼い。<br />  不思議と既視感を覚える顔だった。<br />  まあそんなことは良いとして、「宅配って?」聞くと。<br />  ヤツは躊躇いもなく<br /> 「あたし」<br />  なんて言ったので。俺は軽やかに笑い。<br /> 「間に合ってます」<br />  迷い無く扉を閉めた――閉めようとしたが、扉と枠の隙間に足を差し込みやが<br /> った。チッ、場慣れしてる。<br /> 「ちょ、ヒドくない? こんな仕打ちないって、ちょ、ちょお」</p> <p><br />  ただでさえ、こっちは利き手を使えないというのに。女と思いたくないほどの<br /> 力で、開けようとする。<br /> 「悪いけどデリヘルは頼んでない」<br /> 「ハァ? あたしが商売女に見えるっての?」<br />  俺は躊躇いなくうなづいた。<br /> 「多分、住所間違ったんだろ。な?」<br />  手の平に汗が滲んできた。<br /> 「間違いじゃないって、あたしは――」<br /> 「なら、なんなんだよ。宗教勧誘なら余所へ行け」<br /> 「――禁断少女」先ほどとは打って変わった、妙に落ち着いた声でヤツは言った。<br /> 「禁断症状?」俺はああと納得し、「悪いがクスリなんざ、俺はやってない。金<br /> ないんでね」<br />  その時、フッと扉の向こうから力が消え「あわわ」俺は勢いそのまま、扉の外<br /> へと投げ出された。<br />  そこには誰も立っていなかった。<br /> 「なんだよ」<br />  あの女は去ったらしい。<br />  憤慨するように舌打ちすると、部屋の中へ戻り鍵を閉めた。<br /> 「ったく、なんなんだよ」<br /> 「まったくね」<br /> 「ああ、ホントホント……で、どこから入った」<br />  ヤツはそこにいるのが当然のように、ウチの数少ない高級品であるテレビの上<br /> に腰掛け、ハーゲンダッツを食べながら。馬鹿にするように笑った。<br /> 「じゃあ、自己紹介からするね」駄目だヒトの話聴いてねぇ「あたしは禁断少女」<br /> 「……そうか」俺は頷き、ツカツカと近寄る。<br /> 「そう。八百万の神ってヤツよ。平伏なさい、この粗チン」<br /> 「ああ」女の手からハーゲンダッツとスプーンを奪うと、うず高く積まれた雑誌<br /> 類の上に置き。<br /> 「まあ神っていうより、守護霊みたいなもんだけど。同じ名前でも、様々、多様<br /> な姿を持ち。一つとして同じ性格のない。キミだけの禁断少女、それがあたし」<br /> 「なるほど、ちょっといいか」<br /> 「んー? なになに――キャッ」<br />  俺は頭のオカシイ女を抱えあげると、「お姫様だっこだぁ」と喜ぶ女を、部屋<br /> の外へ放り出し、再び鍵を閉め、チェーンをかける。<br /> 「よし」<br />  これでもう入ってこれないと安心して、振り返ると――居た。<br /> 「どこから……というより、どうやって入った」<br />  俺の疑問にも、頭のオカシイ女は電波な答えを突きつけてきた。<br /> 「キミの心から」――意味分からん。<br /> 「で、話の続きだけどね。あたしたち禁断少女の役目は一つ」女は形の良い小鼻<br /> をぷくっと膨らませ。「キミを堕とすこと」<br /> 「…………」どうやればコイツを追い払えるんだろう?<br /> 「あっ、わからないって顔してるねぇっ」</p> <p><br />  ああ、わからないね。<br /> 「でも安心して、チャチャッと済ませちゃうから」<br />  説明になっていないのは気のせいでないだろう。<br />  だが、一つわかった。<br /> 「つまり、その、なんだ。なにかしたら、帰るんだな?」<br /> 「イエッス!」<br /> 「で、なにしたら帰ってくれるんだよ。俺が手伝わなきゃいけないことか?」<br />  女は首を振り、「ベッドに座って」と指示してきた。どうやら傍観していてい<br /> いらしい。<br />  何が始まるのかと考えながら、ベッドに腰掛けると。<br />  直後。<br /> 「んっ……む……」<br />  口が塞がれていた。<br />  眼から部屋の風景が一切消え、女のこざっぱりとした顔しか見えなかった。<br />  唇を割り、熱い物が押し入ってくる。舌に舌が絡み、複雑なダンスを踊る。舌<br /> を伝ってヤツの涎が流れ込んできて、俺の涎と解け合っていく。<br />  わずか十秒に満たない間のキスで俺の身体は火照り、ヤツは唇を離した。<br />  俺はなにか言おうとして――なにも言えなかった。<br />  それをみてかヤツは笑う、この状況を心から楽しんでいるように。<br /> 「お前、なんなんだよ」絞り出した声、口端から涎がだらしなくこぼれた。女は<br /> それを舌ですくいあげ、細い喉で嚥下し。<br /> 「禁断少女」いった<br /> 「キミの欲望を解き放つ存在」ニヤリと猛禽類を思わせる笑みを浮かべ、女――<br /> 禁断少女は膝を付き、いつの間にズボンを降ろしていたのか。露出した俺の陰茎<br /> にキスをした。<br /> 「キスしただけでこんなにしちゃって、フフッ、中学生じゃあるまいし」<br />  笑うその声は、まるで獲物をみつけた肉食獣のようですらある。<br />  逃げるため後ずさりしようとしたが、女は先んじて肉棒を細い手で掴んだ。ど<br /> くんどくんっと肉棒が脈動した。<br />  次に女が何をするのか、分かった。<br /> 「あーん」<br />  かぷっ、と女は俺の肉棒を口に含んだ。亀頭が女の上顎に触れて、びくんっと<br /> 反応し。ざらついた表面の舌の上でみじろぎ、背中を泡立たせる。<br /> 「……くっ」<br />  女の目が笑っている。まるで、「もう出るの?」とでも言いたげに。ゆっくり<br /> と頭を動かし始めた。<br />  技巧も糞もない、そんなもの必要ないと分かっているかのように。薄いが弾力<br /> のある唇で、熱い舌で、口全体で奉仕してくる。<br />  突然始まった行為――そして、始まりと同じく唐突に止まった。<br />  口からこぼれる涎を舌先で拭いながら「……ねぇ」と女は話しかけてきた。柳<br /> 眉をハの字に曲げ、目を半眼にして。「ちゃんとお風呂はいってる?」</p> <p><br /> 「はいれるように見えるか?」湿布と包帯とでグルグルに巻かれた右腕を示す。<br /> 「そりゃそうか」女は納得したのかしていないのか、唇を尖らせ。「うーん」と<br /> 唸りはじめた。<br /> 「……なんだよ」<br /> 「いや、ね。あのさ。煮沸消毒していい? この汚いの」<br /> 「あ?」なにいいやがるこの女。「頼んでもないのに、オマエからしゃぶってき<br /> た癖に」<br /> 「だってこんなに臭いとは思わなかったんだもん」<br /> 「…………喧嘩売ってるってことでいいな?」<br /> 「ハァ? なにそれ、イミわかんない」いいながらも女は手でピストン運動を続<br /> け、俺の陰茎が萎えないようにしている。<br />  ぐるぐると部屋中を見渡して「あ、そうだ」と置かれっぱなしのハーゲンダッ<br /> ツのカップを手に取った。既に中はドロドロになっている、白色の元アイス。<br />  それを<br /> 「これで少しは臭い消えるかな」<br />  陰茎へと垂らしはじめた。<br /> 「――っ!?」<br />  小さなカップから落ちる糸のような細い線が、充血した陰茎の先端に触れから<br /> みついて、じっとりと肉棒の上を流れていく。<br />  熱をもったペニスを冷ますような溶けたアイスの冷たさが、背筋を震わせる。<br /> 「な、なにする」<br /> 「味付けよ、味付け」<br />  言うと、女は舌先を突き出し、流れるアイスを舐め始めた。<br />  こぼさないように舌が純白のラインをなぞりながらも、肉棒にバニラがなじむ<br /> ように擦りつけ。かと思えば、あむっと白液まみれの肉棒を弾力のある唇で挟み、<br /> ちゅるちゅると吸い裏筋を登っていく。濃厚なバニラを堪能する。<br />  楽しいのかなんだか知らないが、時折「ふふ」と笑い。相好は、おそらく年上<br /> の俺からみても蠱惑的に感じる笑みを、亀頭へ向けている。<br />  アイスで冷やされた肉棒を、熱い愛撫によってぬるぬると暖めていく。顎、頬<br /> にまでも白液を飛び散らしながらの口淫。小さそうに見える口にすっぽり肉棒を<br /> 丸飲み、ずりゅりゅりゅぅと意地汚い音をたててバニラをすすり。口唇で揉むよ<br /> うに亀頭に残るバニラを舐めとり、ごくんっと嚥下する。<br />  ぺろっと唇に残った濃厚なバニラを舐めとり、小悪魔的微笑を見せ、<br /> 「このアイス、ちょっとしょっぱいね」<br />  俺は顎に垂れるアイスを一滴指先で拭ってやると、その指先をくわえ。<br /> 「ああ、……そうだな」つぶやいた。<br />  欲望が訴えかけてくるような味だった。<br />  女――禁断少女は男の下心を煽る微笑を浮かべている。俺の陰茎に触れたまま。<br /> 「ね、しよっか?」</p> <p><br />  なにを、とは禁断少女は言わなかった。<br />  なにを、とは俺は訊かなかった<br />  俺は、ただ――</p> <p>ピンポ――ンッ。</p> <p> 先ほど存在を無視されたチャイムが、存在を強調するように鳴り。俺たちは同<br /> 時に玄関をみて、俺は無視することにした、どうせ勧誘の類だろ。今はそんなことより。<br /> 「出たら」<br /> 「……え? いや」<br />  禁断少女は掠れた笑みを見せた、そんな表情をする理由が俺には分からなかっ<br /> た。<br /> 「……いいから、ほらっ」<br />  手を引っ張られ立たされて、禁断少女が俺のパンツとズボンを上げ、もう一度<br /> 掠れた笑みを見せて。「またね」生地越しに俺の陰部へキスすると。<br />  俺の背中を玄関へと押した。<br />  おそらく禁断少女がやったのだろう、いつのまにか鍵の開けられていた、今更<br /> こんなことでは驚かないが――しかし。<br />  背中を押された勢いそのまま、俺は玄関から飛び出した。そこには、一人少女<br /> が立っていた。<br />  バニラ色した半袖のワンピースを着た少女が、立っていた。その手には俺でも<br /> 知ってる生チョコで有名な洋菓子店のロゴが入った紙袋。<br /> 「……君は」<br /> 「あの、私。その、助けてもらったお礼がしたくて。えと、だから、その……」<br />  不思議と既視感を――ああそうだ、助けた女の子。<br /> 「うン?」<br />  違う、いや、違わないけど。――けど、でもどこかで……<br />  俺がいくら待っても、二の句は来ず。どうしたのだろう? と少女の顔を覗く<br /> と。少女の視線が一点へと集中していた、俺の股間へと。<br /> 「え、えぇと」まさかこの子も……なわけはなく、少女の身体が俺の声に反応し<br /> びくりとする。<br />  湯沸かし機のごとく一気に顔を真っ赤にすると、少女は言った。<br /> 「あの、それ」<br /> 「あ、ああ、これ? これは、アイスこぼしちゃって」<br /> 「そうなんですか」<br />  少女はなにごとか思案し、躊躇いがちにいった。その瞳は雨に濡れた太陽のよ<br /> うに精一杯に輝いている。<br /> 「洗わせてください」<br /> 「……え?」<br /> 「洗わせてください」そういって少女は頭を下げた、白いうなじは、まだ少女の<br /> ソレだった。「お願いします」<br />  突然の事態に俺は困り。<br />  困り果てて、俺の心から来たとか抜かしたあの――を振り返った。<br /> 「……あれ」<br />  そこには、誰もいない。<br />  一人暮らしの部屋にはほかにだれもいなかった。<br />  頬をぽりぽり掻きながら顔を戻すと、対の太陽がのぞき込んでいた。</p> <p> その相好に、何故か既視感を覚えた。</p> <p>fin</p>

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