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638 名前:coobard ◆69/69YEfXI [sage] 投稿日:2007/04/16(月) 02:16:25 ID:NNCccboz お味 さて、お初にお目に掛かります。coobardと申します。 皆さんのお書きになった《禁断少女》に触発されて書きました。 7レス+1レスです。ちょっと長いですが、宜しければお読み下さいませ。 639 名前:7/1[sage] 投稿日:2007/04/16(月) 02:19:11 ID:NNCccboz 《禁断少女-C》  俺は毎週木曜日にSSを自サイトにアップしている。  メインは純愛ものだ。だからといって、エロが嫌いなわけではない。  エロものはひと月に一回は書いているし、勢い余ってエロ小説の同人誌まで出したくらいだ。  そうやって、自分の好きなタイプの女性を執拗に妄想し、反応の細部まで描いているハズなのだが……。  俺は、俺自身が本当に萌える女性を書いてはいなかった。  正確には、どうしても書けなかったというべきだろう。  どういうわけか、あまりにもイメージがあやふやで形にならなかったのだ。  心理学で言うところの“アニマ”。  俺はその“アニマ”を文章として描き出そうと必死だった。  悶々とああでもないこうでもないと、なけなしの妄想力を駆使してその像を結ぼうと努力した。  だが、まるでスーラの点描画を近づいて見ているような輪郭のつかめない、朧気なものにしか成り得なかった。  そんなある日、知り合いとのチャットで《禁断少女》というものの存在を知った。  それはSS書きのところにだけ現れる変幻自在の“なにか”。  禁欲的な生活を送るSS書きの深層心理にある最高の萌えを夢として具現化し、その禁欲の褒美として精を抜いて行くという。  俺は面白いと思った。  つまり、そいつを呼べば俺が本当に心から萌える女性“アニマ”に会える。その姿を見れば当然、イメージも固まりSSにも書ける。しかも抜いてくれるなんて一石二鳥どころか三鳥だ。  そんなワケで俺は禁欲生活に入った。  おかげで朝の目覚めは良く、会社でも普段より仕事が出来た。  それから一ヶ月。  今週もSSをアップする日がやってきた。そう、今週はエロSSの日だ。  だが、エロのネタはない。敢えて作らなかったのだ。  いつもは帰りに電気街をぶらつきながらの思いつきや、通勤電車の中吊り広告から気になるフレーズをメモっては自分宛にメールしてストックしていたのだが、今週は一切やらなかった。  もちろん、オナニーもきっちり禁じている。  毎日毎日、惰性的でさえあった自慰行為。日によっては二回三回というときもあった。  それをここまで我慢したのだ。  まさしく背水の陣。 640 名前:7/2[sage] 投稿日:2007/04/16(月) 02:19:51 ID:NNCccboz  俺は仕事をキッチリ終え、会社から真っ直ぐ部屋に帰った。  時計を見ると午後六時。  パソコンの電源を入れる。 「さぁ来てくれ……禁断少女。俺に全てを与えてくれ!」  俺はエディタを開いて待った。  だが、いつまで経っても禁断少女が現れる気配はない。  やがて、時間は午前一時を回った。 「やっぱネット上だけのお伽噺なのか……」  俺は軽く、溜息を吐く。  家賃四万三千円で借りている1LDKは、その溜息でさえ大きな音に聞こえるほど、あまりにも静かだった。  毎日夜中にいびきのうるさい隣のおっさんも、今日は帰っていないかのようだ。  ふいに腹が鳴った。  その音は俺以外いない空虚な部屋に酷く木霊した。  今度は大きく、落胆の溜息を吐く。 「しかたない。コンビニでなんか買ってこよう」  俺はコンビニで弁当を手に取り、次に成人向けの雑誌に手を伸ばした。  もう良いだろう。オナ禁は。耐えに耐えた分、今日は思いっきり抜いてやる。 「あれっ! 貞生(さだお)ちゃん? 貞生ちゃんよね?」  ふいに俺の名前を呼ぶ女性の声があった。驚いて本を床に落としてしまう。 「わ、またこんなの見て。変わってないなぁ、もう」  彼女は近づいてきてそれを拾ってくれた。 「はい、どうぞ」  顔を上げて、にっこり微笑む丸い顔をした女性。  縁なしの楕円形をした眼鏡が光る。  短くふわっと無造作に仕上げられた髪から、優しいフローラルの良い香りがした。  この笑顔、この香り。そして標準体型より、どう見てもぽっちゃりとした肉体。ピンクのセーターとデニムのミニスカート。間違いない。 「智恵(ちえ)……さん?」  彼女は大きく頷く。 641 名前:7/3[sage] 投稿日:2007/04/16(月) 02:20:23 ID:NNCccboz 「ひさしぶりねぇ。覚えててくれたんだ」  花が咲くように笑う。 「貞生ちゃんは、なんでこんなとこにいるの」 「それは俺が聞きたいよ。地元で結婚したんじゃなかったのか」  彼女は明るく応えた。 「ま、色々あってさ!」  そう言いながら鼻の横を指で掻いた。彼女が本当に困っているときのクセだ。  そう、俺は彼女の事をとてもよく知っている。たぶん、誰よりも知っているはずだ。  なぜなら彼女は……六年前に別れた俺の元恋人だから。  俺たちはコンビニの中で話し続けるわけにもいかず、とりあえず外に出た。  店の前でしばらく昔話に花が咲く。  彼女は本当にあの頃と、何ひとつ変わっていなかった。変わらな過ぎるほどだ。  ニコニコと俺の話を聞いている。 「へー、今はけっこうちゃんとがんばってるんだー。えらいねぇ」  背が低いにも関わらず、俺の頭を撫でようと背伸びする。  俺はその手を掴んだ。 「もう、俺たちそんな関係じゃないだろ」  彼女は高校で一つ上の先輩だった。  あの頃、俺が何か良い事をするたびに、彼女が俺の頭を撫でてくれた。  そんな他愛ない、でも、とても大切だった儀式のようなもの。  それを俺は拒否してしまった。  彼女は寂しそうに微笑む。 「そうなんだけどさ……」  さっきまでの盛り上がりが嘘のように、気まずい雰囲気が流れる。  やがて、彼女はちょっと低いトーンで問いかけてきた。 「あたし、今夜泊まるトコないんだよね。泊まらせてって……言ったら怒るかな……」 「えっ……」  その言葉の真意がどこにあるのか解らず、彼女の顔を見つめてしまう。  彼女は目を伏せて、やや赤くなっていた。 642 名前:7/4[sage] 投稿日:2007/04/16(月) 02:21:33 ID:NNCccboz  その大きな胸を押しつぶすように腕を曲げ、指を口元に当てている。  これは……彼女がセックスを求めているときの仕草だ。 「やっぱダメ、かな」  その上目使いに俺の心が疼く。  別に嫌いになって別れたワケじゃない。ただ、彼女は地元に残ると決めて、俺は都会に出ると決めた。それだけだ。  俺は溜息を吐いて応えた。 「しゃぁねぇな……」  彼女の目が輝いた。 「やった! ありがと!」  彼女は手を俺の頬に持ってくる。  次の瞬間、お互いの唇が重なった。  だが、それはほんの一瞬だった。  智恵はすぐ離れると俺の目を覗き込んだ。 「んふふ」  くるりと踵を返す。  腕を空に突き上げ、はしゃぐように言った。 「じゃあ貞生ちゃんちに、ごおー!」  俺の部屋。  リビングの電灯を暗くして。  俺たちは裸で、ふとんの上に倒れ込んでいた。 「あ、このふとん、貞夫ちゃんの匂いだ……懐かしい……ん、んん」  激しいキスとお互いの体をまさぐり合う音が、同時に聞こえる。 「ん、んん。あはぁ……」  俺は顔を乳房の谷間に埋もれさせる。  初めて彼女を抱いた時と同じ、ミルクのような甘い香りがする。  至福を感じながら、顔で撫でるように動かした。 「ああ、もちもちだぁ」  彼女が俺の髪の中に指を絡ませる。 「バカ……」  彼女の声にちょっと笑いが混ざっている。 643 名前:7/5[sage] 投稿日:2007/04/16(月) 02:22:16 ID:NNCccboz  俺はいったん、彼女の腰の辺りに移動した。  彼女の膝を開く。 「智恵さん……キレイだ」  その付け根の中心に俺の先端を押しつける。 「入れるよ」  俺は肉壁の狭間に狙いを定めると、ゆっくり腰を突き出した。熱い。  彼女がぷるぷると震えた。 「うあぁ……入っちゃう入っちゃう、硬いの硬いの、あぉ!」  俺は彼女を激しく攻め立てた。 「はぁっ! きゅ、急にそんな、あ、あ、あっ! あぅあっ!」  俺の腰の動きに合わせて、彼女が喘ぐ。  曇った眼鏡が揺れる。 「うう! 智恵、さん、中、気持いいよ」  湿った肉のぶつかるパンパンという音が部屋に響く。 「もっと呼んで! 名前、呼んで! 呼び捨てで、いい、からあああっ」  俺は動きを変え、腰を回す。 「智恵! 智恵! ああ、智恵ぇ!」  彼女の指が俺の頭をぐしゃぐしゃと掻きむしる。 「貞生ぉ! あはぁんん!」  大きな吐息だけの会話。 「はぁっはぁっ! もぅらめ、なのひい、い、イグの! イグぅぉ!」  牝の嬌声が俺の人間の脳を溶かし去り、俺も只の牡と化した。  俺は視界が白くなってくる。  腹筋がブチ切れるほど、智恵の中を突きまくる。  彼女の腕が俺の首に巻き付く。 「きもちひぃお! イグッイグッイグぅううぅ!」 「うあああ智恵! 出る出る出るぅ!」 「ふぐぅっ! 出して! いっぱい出してぇぇぇぇッ!」  次の瞬間。  俺は彼女を離し、素早く中から抜き去ると、その顔に向けた。  少ししごくと、今までに感じた事がないほどの塊が放出された。 「おぅあ――ッ!」 「はぁぁぁぁあ――んんんッ!」 644 名前:7/6[sage] 投稿日:2007/04/16(月) 02:23:04 ID:NNCccboz  しばらく、俺の放精は続いた。  お互いがびく、びく、と痙攣する。 「あ……熱いの、貞生ちゃんの精子、あは、たくさん、出てる……」  彼女はゆっくりと起き上がった。  たっぷりの精液が彼女の胸の上を流れる。 「ごめんね、貞生ちゃん……」  彼女はそうつぶやくと、俺にキスをした。 「え……あ、謝るのは俺のほうだよ……その、顔に……」  彼女は微笑んで、首を横に振る。 「そうじゃないの。あたし……もうこの世にはいない人間なのよ」  いきなり何の事だ。話が解らない。  俺が戸惑っていると、彼女は続けた。 「貞生ちゃんさ、《禁断少女》を呼ぼうとしたでしょ?」 「えっ」 「あたし、それをあっちの世界で本当の《禁断少女》から聞いて……」 「な、なんで」 「貞生ちゃんが心の底で求めている女の子は、あたしだって、聞いたの」  彼女は顔を伏せた。声に涙が混じる。 「すごく嬉しかった。貞生ちゃんといつも一緒だったあの頃……最高だったよ」  涙がいったんレンズに溜まって、落ちた。 「それで……《禁断少女》は、それなら替わりにあたし自身が行くのが一番いいだろうって。だから来ちゃった」  智恵は顔を上げた。半分笑いながらも、涙でぐしゃぐしゃにしていた。  あの卒業の日と同じように。 「あたし、あの日、あなたについて行けば良かったね……ごめんね……」  彼女は儚げにつぶやいた。  すると彼女の身体全体が、月明かりを反射するように仄蒼く輝きだした。 「もう時間がない……あたし、いつまでも見守ってるから。愛してるから……」  俺は慌てた。 「待て! 待ってくれ! 智恵!」  もう一度、彼女を抱きしめようとした。だが、俺の腕は空を切った。  その勢いで、ふとんに倒れ込んでしまう。 645 名前:7/7[sage] 投稿日:2007/04/16(月) 02:24:04 ID:NNCccboz  もう彼女の姿はほとんど見えなかった。 「さよなら。あたしの分まで生きて。絶対。でないともう頭撫でてあげないから」  ふわりと、俺の頭に彼女の手の感触があった。 「智恵……」  俺は叫ぶ。 「智恵――ッ!」  光の粒が天井で線香花火のように散って、消えた。 「んがごーっ!」  いびきだ。いびきが聞こえる。  いつも聞こえる隣のおっさんのものだ。  気が付くと、俺は机の前で突っ伏していた。  モニタにある時計を見た。午前一時を少し回った所。  そして、開かれたエディタには今まで書いてきた話があった。 「智恵……」  彼女がなぜ、死んでしまったのか。もう、俺に知る術はない。  とにかく、俺は彼女を心の底から愛していたんだ。  そう、本当に萌えると言う事は、愛していると言う事なんだろう。  泣きそうになった。  そのとき突然、腹が鳴った。 「は、はは……生きろ、ってか……」  俺は汚れた下着をゴミ箱に脱ぎ捨てて、新しいものに換える。  どうせ百円ショップで買った物だ。惜しくはない。  財布と鍵を手に取り、コンビニに行くため、玄関を出る。  明るく丸い月が微笑んでいるように思えた。  智恵のように。 646 名前:coobard ◆69/69YEfXI [sage] 投稿日:2007/04/16(月) 02:26:13 ID:NNCccboz 以上です。 ありがとうございました。 それでは失礼いたします。
《禁断少女-C》  俺は毎週木曜日にSSを自サイトにアップしている。  メインは純愛ものだ。だからといって、エロが嫌いなわけではない。  エロものはひと月に一回は書いているし、勢い余ってエロ小説の同人誌まで出したくらいだ。  そうやって、自分の好きなタイプの女性を執拗に妄想し、反応の細部まで描いているハズなのだが……。  俺は、俺自身が本当に萌える女性を書いてはいなかった。  正確には、どうしても書けなかったというべきだろう。  どういうわけか、あまりにもイメージがあやふやで形にならなかったのだ。  心理学で言うところの“アニマ”。  俺はその“アニマ”を文章として描き出そうと必死だった。  悶々とああでもないこうでもないと、なけなしの妄想力を駆使してその像を結ぼうと努力した。  だが、まるでスーラの点描画を近づいて見ているような輪郭のつかめない、朧気なものにしか成り得なかった。  そんなある日、知り合いとのチャットで《禁断少女》というものの存在を知った。  それはSS書きのところにだけ現れる変幻自在の“なにか”。  禁欲的な生活を送るSS書きの深層心理にある最高の萌えを夢として具現化し、その禁欲の褒美として精を抜いて行くという。  俺は面白いと思った。  つまり、そいつを呼べば俺が本当に心から萌える女性“アニマ”に会える。その姿を見れば当然、イメージも固まりSSにも書ける。しかも抜いてくれるなんて一石二鳥どころか三鳥だ。  そんなワケで俺は禁欲生活に入った。  おかげで朝の目覚めは良く、会社でも普段より仕事が出来た。  それから一ヶ月。  今週もSSをアップする日がやってきた。そう、今週はエロSSの日だ。  だが、エロのネタはない。敢えて作らなかったのだ。  いつもは帰りに電気街をぶらつきながらの思いつきや、通勤電車の中吊り広告から気になるフレーズをメモっては自分宛にメールしてストックしていたのだが、今週は一切やらなかった。  もちろん、オナニーもきっちり禁じている。  毎日毎日、惰性的でさえあった自慰行為。日によっては二回三回というときもあった。  それをここまで我慢したのだ。  まさしく背水の陣。  俺は仕事をキッチリ終え、会社から真っ直ぐ部屋に帰った。  時計を見ると午後六時。  パソコンの電源を入れる。 「さぁ来てくれ……禁断少女。俺に全てを与えてくれ!」  俺はエディタを開いて待った。  だが、いつまで経っても禁断少女が現れる気配はない。  やがて、時間は午前一時を回った。 「やっぱネット上だけのお伽噺なのか……」  俺は軽く、溜息を吐く。  家賃四万三千円で借りている1LDKは、その溜息でさえ大きな音に聞こえるほど、あまりにも静かだった。  毎日夜中にいびきのうるさい隣のおっさんも、今日は帰っていないかのようだ。  ふいに腹が鳴った。  その音は俺以外いない空虚な部屋に酷く木霊した。  今度は大きく、落胆の溜息を吐く。 「しかたない。コンビニでなんか買ってこよう」  俺はコンビニで弁当を手に取り、次に成人向けの雑誌に手を伸ばした。  もう良いだろう。オナ禁は。耐えに耐えた分、今日は思いっきり抜いてやる。 「あれっ! 貞生(さだお)ちゃん? 貞生ちゃんよね?」  ふいに俺の名前を呼ぶ女性の声があった。驚いて本を床に落としてしまう。 「わ、またこんなの見て。変わってないなぁ、もう」  彼女は近づいてきてそれを拾ってくれた。 「はい、どうぞ」  顔を上げて、にっこり微笑む丸い顔をした女性。  縁なしの楕円形をした眼鏡が光る。  短くふわっと無造作に仕上げられた髪から、優しいフローラルの良い香りがした。  この笑顔、この香り。そして標準体型より、どう見てもぽっちゃりとした肉体。ピンクのセーターとデニムのミニスカート。間違いない。 「智恵(ちえ)……さん?」  彼女は大きく頷く。 「ひさしぶりねぇ。覚えててくれたんだ」  花が咲くように笑う。 「貞生ちゃんは、なんでこんなとこにいるの」 「それは俺が聞きたいよ。地元で結婚したんじゃなかったのか」  彼女は明るく応えた。 「ま、色々あってさ!」  そう言いながら鼻の横を指で掻いた。彼女が本当に困っているときのクセだ。  そう、俺は彼女の事をとてもよく知っている。たぶん、誰よりも知っているはずだ。  なぜなら彼女は……六年前に別れた俺の元恋人だから。  俺たちはコンビニの中で話し続けるわけにもいかず、とりあえず外に出た。  店の前でしばらく昔話に花が咲く。  彼女は本当にあの頃と、何ひとつ変わっていなかった。変わらな過ぎるほどだ。  ニコニコと俺の話を聞いている。 「へー、今はけっこうちゃんとがんばってるんだー。えらいねぇ」  背が低いにも関わらず、俺の頭を撫でようと背伸びする。  俺はその手を掴んだ。 「もう、俺たちそんな関係じゃないだろ」  彼女は高校で一つ上の先輩だった。  あの頃、俺が何か良い事をするたびに、彼女が俺の頭を撫でてくれた。  そんな他愛ない、でも、とても大切だった儀式のようなもの。  それを俺は拒否してしまった。  彼女は寂しそうに微笑む。 「そうなんだけどさ……」  さっきまでの盛り上がりが嘘のように、気まずい雰囲気が流れる。  やがて、彼女はちょっと低いトーンで問いかけてきた。 「あたし、今夜泊まるトコないんだよね。泊まらせてって……言ったら怒るかな……」 「えっ……」  その言葉の真意がどこにあるのか解らず、彼女の顔を見つめてしまう。  彼女は目を伏せて、やや赤くなっていた。  その大きな胸を押しつぶすように腕を曲げ、指を口元に当てている。  これは……彼女がセックスを求めているときの仕草だ。 「やっぱダメ、かな」  その上目使いに俺の心が疼く。  別に嫌いになって別れたワケじゃない。ただ、彼女は地元に残ると決めて、俺は都会に出ると決めた。それだけだ。  俺は溜息を吐いて応えた。 「しゃぁねぇな……」  彼女の目が輝いた。 「やった! ありがと!」  彼女は手を俺の頬に持ってくる。  次の瞬間、お互いの唇が重なった。  だが、それはほんの一瞬だった。  智恵はすぐ離れると俺の目を覗き込んだ。 「んふふ」  くるりと踵を返す。  腕を空に突き上げ、はしゃぐように言った。 「じゃあ貞生ちゃんちに、ごおー!」  俺の部屋。  リビングの電灯を暗くして。  俺たちは裸で、ふとんの上に倒れ込んでいた。 「あ、このふとん、貞夫ちゃんの匂いだ……懐かしい……ん、んん」  激しいキスとお互いの体をまさぐり合う音が、同時に聞こえる。 「ん、んん。あはぁ……」  俺は顔を乳房の谷間に埋もれさせる。  初めて彼女を抱いた時と同じ、ミルクのような甘い香りがする。  至福を感じながら、顔で撫でるように動かした。 「ああ、もちもちだぁ」  彼女が俺の髪の中に指を絡ませる。 「バカ……」  彼女の声にちょっと笑いが混ざっている。  俺はいったん、彼女の腰の辺りに移動した。  彼女の膝を開く。 「智恵さん……キレイだ」  その付け根の中心に俺の先端を押しつける。 「入れるよ」  俺は肉壁の狭間に狙いを定めると、ゆっくり腰を突き出した。熱い。  彼女がぷるぷると震えた。 「うあぁ……入っちゃう入っちゃう、硬いの硬いの、あぉ!」  俺は彼女を激しく攻め立てた。 「はぁっ! きゅ、急にそんな、あ、あ、あっ! あぅあっ!」  俺の腰の動きに合わせて、彼女が喘ぐ。  曇った眼鏡が揺れる。 「うう! 智恵、さん、中、気持いいよ」  湿った肉のぶつかるパンパンという音が部屋に響く。 「もっと呼んで! 名前、呼んで! 呼び捨てで、いい、からあああっ」  俺は動きを変え、腰を回す。 「智恵! 智恵! ああ、智恵ぇ!」  彼女の指が俺の頭をぐしゃぐしゃと掻きむしる。 「貞生ぉ! あはぁんん!」  大きな吐息だけの会話。 「はぁっはぁっ! もぅらめ、なのひい、い、イグの! イグぅぉ!」  牝の嬌声が俺の人間の脳を溶かし去り、俺も只の牡と化した。  俺は視界が白くなってくる。  腹筋がブチ切れるほど、智恵の中を突きまくる。  彼女の腕が俺の首に巻き付く。 「きもちひぃお! イグッイグッイグぅううぅ!」 「うあああ智恵! 出る出る出るぅ!」 「ふぐぅっ! 出して! いっぱい出してぇぇぇぇッ!」  次の瞬間。  俺は彼女を離し、素早く中から抜き去ると、その顔に向けた。  少ししごくと、今までに感じた事がないほどの塊が放出された。 「おぅあ――ッ!」 「はぁぁぁぁあ――んんんッ!」  しばらく、俺の放精は続いた。  お互いがびく、びく、と痙攣する。 「あ……熱いの、貞生ちゃんの精子、あは、たくさん、出てる……」  彼女はゆっくりと起き上がった。  たっぷりの精液が彼女の胸の上を流れる。 「ごめんね、貞生ちゃん……」  彼女はそうつぶやくと、俺にキスをした。 「え……あ、謝るのは俺のほうだよ……その、顔に……」  彼女は微笑んで、首を横に振る。 「そうじゃないの。あたし……もうこの世にはいない人間なのよ」  いきなり何の事だ。話が解らない。  俺が戸惑っていると、彼女は続けた。 「貞生ちゃんさ、《禁断少女》を呼ぼうとしたでしょ?」 「えっ」 「あたし、それをあっちの世界で本当の《禁断少女》から聞いて……」 「な、なんで」 「貞生ちゃんが心の底で求めている女の子は、あたしだって、聞いたの」  彼女は顔を伏せた。声に涙が混じる。 「すごく嬉しかった。貞生ちゃんといつも一緒だったあの頃……最高だったよ」  涙がいったんレンズに溜まって、落ちた。 「それで……《禁断少女》は、それなら替わりにあたし自身が行くのが一番いいだろうって。だから来ちゃった」  智恵は顔を上げた。半分笑いながらも、涙でぐしゃぐしゃにしていた。  あの卒業の日と同じように。 「あたし、あの日、あなたについて行けば良かったね……ごめんね……」  彼女は儚げにつぶやいた。  すると彼女の身体全体が、月明かりを反射するように仄蒼く輝きだした。 「もう時間がない……あたし、いつまでも見守ってるから。愛してるから……」  俺は慌てた。 「待て! 待ってくれ! 智恵!」  もう一度、彼女を抱きしめようとした。だが、俺の腕は空を切った。  その勢いで、ふとんに倒れ込んでしまう。  もう彼女の姿はほとんど見えなかった。 「さよなら。あたしの分まで生きて。絶対。でないともう頭撫でてあげないから」  ふわりと、俺の頭に彼女の手の感触があった。 「智恵……」  俺は叫ぶ。 「智恵――ッ!」  光の粒が天井で線香花火のように散って、消えた。 「んがごーっ!」  いびきだ。いびきが聞こえる。  いつも聞こえる隣のおっさんのものだ。  気が付くと、俺は机の前で突っ伏していた。  モニタにある時計を見た。午前一時を少し回った所。  そして、開かれたエディタには今まで書いてきた話があった。 「智恵……」  彼女がなぜ、死んでしまったのか。もう、俺に知る術はない。  とにかく、俺は彼女を心の底から愛していたんだ。  そう、本当に萌えると言う事は、愛していると言う事なんだろう。  泣きそうになった。  そのとき突然、腹が鳴った。 「は、はは……生きろ、ってか……」  俺は汚れた下着をゴミ箱に脱ぎ捨てて、新しいものに換える。  どうせ百円ショップで買った物だ。惜しくはない。  財布と鍵を手に取り、コンビニに行くため、玄関を出る。  明るく丸い月が微笑んでいるように思えた。  智恵のように。

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