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<div class="mes"> <p> </p> <p>「巴里国立図書館蔵本『今昔物語集』巻第四より翻刻せり。<br /> 巴里本は,次の一話の他はすべて国内で知られてゐる諸本と全く同一本文なる故に,本話のみをここに載す。<br /> 仏典その他の典籍に見えぬ独自説話なれども、今巷説に言ふ「禁断少女」と、其の精神性に於いて<br /> 少なからぬ関連を見るものなり。」<br /> (『未刊説話文学集(上)』より。大正二年九月刊、大正三年二月発禁)<br /><br /><br /> 波羅那国慧呂婆魯、被憑魔縁語(波羅那国の慧呂婆魯、魔縁に憑かるること)<br /><br />  今は昔、天竺波羅那国に男あり。名をば慧呂婆魯(えろばろ)と云ふ。幼き頃より淫欲強情たれば、<br /> 父母これを哀しみて「我が子、欲心が為に後生は悪趣に堕つること必定なるべし。さらぬ先に善根を積ませ<br /> 後世の助けともせばや」とて、ある聖に預けけり。<br />  此の聖、慧呂婆魯を弟子となすに、案に相違して優れたる沙門になりき。論議の巧なること<br /> 迦旃延に及ばむとし、説法は富楼那も斯くやと覚えけり。<br />  ある時、慧呂婆魯に向ひて曰く「汝は智慧行徳真に勝れたり。昔、汝が父母の我に曰く、『婆魯は<br /> 邪淫の心のみあながちに強ければ、定めて地獄・畜生なむど、悪しき処に生まれむずらん』と。<br /> 然に汝はいみじうも佛の心に添ひ奉りたり。是ぞ我が嬉しき事よ」と。此を聞くに、婆魯、はらはらと<br /> 涙を流しぬ。師、「いかにいかに」と問ひけれど、物もえ言はれで、しばしあつて、「さればとて<br /> 実の沙門にはあらず」とて、逃ぐるやうに坊へ籠もりたり。<br />  同門の僧これを怪しみて、婆魯が坊の中に隠れ居て、其の様をつぶさに見むとするに、婆魯独り<br /> 禅定してあり。夜に至り、やヽありて床に就ぬ。其の有様実に静にして、全く別事なし。此の上は<br /> 仔細あらじとて、忍びて坊より出むとするに、婆魯が方より誰人かの声あり。驚て物の隙より見るに、<br /> 知らざる女人一人あり。其の様、世の常に異にして、雪に似たる膚は春花色を恥じ、月にさしをく顔はせは、<br /> 金銀光を失へり。<br />  女、清しき声にて婆魯に曰く、「今宵は自らを慰めざるか。御坊は何故にか欲心を止めむとせむ」と。<br /> 婆魯応へず。重て曰く、「欲心を止むは大なる誤なり。欲心あらずして何ぞ生を楽しまむ。生死流転は<br /> 虚妄なり、罪業・善根なむど言ふも亦然り。唯此の生のみ実ぞかし。汝、幸に淫欲の心強し、<br /> 又甚だ強精なり。其を止めてあながちに苦を得むこと、汝が為にも心憂かるべし。心を解きて我に任せ、<br /> 其の精を放つべし」と。<br />  婆魯、苦しげなる有様にて是を否む。女、嘲りて、「汝は我を退けむとするも、今に至るまで<br /> 退けつることやある。疾く疾く其の穢き処を握て精を放つべし。見よや、汝が陽根は既に固くなりつるぞ。<br /> 何ぞ我の薦めを拒むべき」と。婆魯、絞出すやうにて、「我は汝には屈せず。我は沙門なり」と云へども<br /> 額の汗は黄なる脂の如く、息は熱に浮れたるが如し。<br />  女、艶にうち笑みて「沙門なればとて我を拒むべからず。其様にかたくなヽる上は、<br /> 我が汝の本意を解き放たむ」とて、白く美き足にて婆魯が股を撫づるに、婆魯え堪へずして呻く。<br /> 女、いよいよ楽しげなる様にて、勃ちたる処を足趾にて苛む。「先の詞は如何に。早や先走りつるか。<br /> 云ふかひなき男かな」<br />  汗水になりて拒まむとすれど、声喉につまりて、手足え働かず。やがて呻くと見えければ、<br /> 即ち白き精を放ちたり。僧、此を隠れ見て「あなあさまし」と思ゆるに、女忽然として失せにけり。<br /><br />  僧驚きて「此は如何に、汝は魔縁に憑れけるか」と問ふに、涙を流して曰く「我、年頃不邪淫の戒を<br /> 保たんとすれど、欲心強勢にして持しがたし。せむかたなく独り自らを慰むこと度々なり。<br /> これも悪しかりなむとて堪へむとすれば、先の如くに女人の現じて其れを妨ぐこと、既に度々なり」と。<br /> あまりに悪しうは思ひけむ、曉に至らぬ先に坊より失せ、行く方知らずなりにけり。<br /><br />  淫欲に身を滅ぼすこと今に始めたるにはあらねど、かやうに強き欲は天魔に憑かるる縁ともなるべし。<br /> 後には婆魯、生きながらに羅刹女に食われたるとなむ語り伝へたるとや。<br /><br /> ※原文は漢字カタカナ交じり。</p> </div>
<div class="mes"> <p> <strong>古典に於ける禁断少女</strong></p> <p>「巴里国立図書館蔵本『今昔物語集』巻第四より翻刻せり。<br /> 巴里本は,次の一話の他はすべて国内で知られてゐる諸本と全く同一本文なる故に,本話のみをここに載す。<br /> 仏典その他の典籍に見えぬ独自説話なれども、今巷説に言ふ「禁断少女」と、其の精神性に於いて<br /> 少なからぬ関連を見るものなり。」<br /> (『未刊説話文学集(上)』より。大正二年九月刊、大正三年二月発禁)<br /><br /><br /> 波羅那国慧呂婆魯、被憑魔縁語(波羅那国の慧呂婆魯、魔縁に憑かるること)<br /><br />  今は昔、天竺波羅那国に男あり。名をば慧呂婆魯(えろばろ)と云ふ。幼き頃より淫欲強情たれば、<br /> 父母これを哀しみて「我が子、欲心が為に後生は悪趣に堕つること必定なるべし。さらぬ先に善根を積ませ<br /> 後世の助けともせばや」とて、ある聖に預けけり。<br />  此の聖、慧呂婆魯を弟子となすに、案に相違して優れたる沙門になりき。論議の巧なること<br /> 迦旃延に及ばむとし、説法は富楼那も斯くやと覚えけり。<br />  ある時、慧呂婆魯に向ひて曰く「汝は智慧行徳真に勝れたり。昔、汝が父母の我に曰く、『婆魯は<br /> 邪淫の心のみあながちに強ければ、定めて地獄・畜生なむど、悪しき処に生まれむずらん』と。<br /> 然に汝はいみじうも佛の心に添ひ奉りたり。是ぞ我が嬉しき事よ」と。此を聞くに、婆魯、はらはらと<br /> 涙を流しぬ。師、「いかにいかに」と問ひけれど、物もえ言はれで、しばしあつて、「さればとて<br /> 実の沙門にはあらず」とて、逃ぐるやうに坊へ籠もりたり。<br />  同門の僧これを怪しみて、婆魯が坊の中に隠れ居て、其の様をつぶさに見むとするに、婆魯独り<br /> 禅定してあり。夜に至り、やヽありて床に就ぬ。其の有様実に静にして、全く別事なし。此の上は<br /> 仔細あらじとて、忍びて坊より出むとするに、婆魯が方より誰人かの声あり。驚て物の隙より見るに、<br /> 知らざる女人一人あり。其の様、世の常に異にして、雪に似たる膚は春花色を恥じ、月にさしをく顔はせは、<br /> 金銀光を失へり。<br />  女、清しき声にて婆魯に曰く、「今宵は自らを慰めざるか。御坊は何故にか欲心を止めむとせむ」と。<br /> 婆魯応へず。重て曰く、「欲心を止むは大なる誤なり。欲心あらずして何ぞ生を楽しまむ。生死流転は<br /> 虚妄なり、罪業・善根なむど言ふも亦然り。唯此の生のみ実ぞかし。汝、幸に淫欲の心強し、<br /> 又甚だ強精なり。其を止めてあながちに苦を得むこと、汝が為にも心憂かるべし。心を解きて我に任せ、<br /> 其の精を放つべし」と。<br />  婆魯、苦しげなる有様にて是を否む。女、嘲りて、「汝は我を退けむとするも、今に至るまで<br /> 退けつることやある。疾く疾く其の穢き処を握て精を放つべし。見よや、汝が陽根は既に固くなりつるぞ。<br /> 何ぞ我の薦めを拒むべき」と。婆魯、絞出すやうにて、「我は汝には屈せず。我は沙門なり」と云へども<br /> 額の汗は黄なる脂の如く、息は熱に浮れたるが如し。<br />  女、艶にうち笑みて「沙門なればとて我を拒むべからず。其様にかたくなヽる上は、<br /> 我が汝の本意を解き放たむ」とて、白く美き足にて婆魯が股を撫づるに、婆魯え堪へずして呻く。<br /> 女、いよいよ楽しげなる様にて、勃ちたる処を足趾にて苛む。「先の詞は如何に。早や先走りつるか。<br /> 云ふかひなき男かな」<br />  汗水になりて拒まむとすれど、声喉につまりて、手足え働かず。やがて呻くと見えければ、<br /> 即ち白き精を放ちたり。僧、此を隠れ見て「あなあさまし」と思ゆるに、女忽然として失せにけり。<br /><br />  僧驚きて「此は如何に、汝は魔縁に憑れけるか」と問ふに、涙を流して曰く「我、年頃不邪淫の戒を<br /> 保たんとすれど、欲心強勢にして持しがたし。せむかたなく独り自らを慰むこと度々なり。<br /> これも悪しかりなむとて堪へむとすれば、先の如くに女人の現じて其れを妨ぐこと、既に度々なり」と。<br /> あまりに悪しうは思ひけむ、曉に至らぬ先に坊より失せ、行く方知らずなりにけり。<br /><br />  淫欲に身を滅ぼすこと今に始めたるにはあらねど、かやうに強き欲は天魔に憑かるる縁ともなるべし。<br /> 後には婆魯、生きながらに羅刹女に食われたるとなむ語り伝へたるとや。<br /><br /> ※原文は漢字カタカナ交じり。</p> </div>

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